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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 92(1): 43-47 (2020)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2020.920043

特集Special Review

K33ユビキチン鎖の機能The role of K33-linked polyubiquitin

東京医科歯科大学医学部附属病院消化器内科Department of Gastroenterology and Hepatology Medical Hospital,Tokyo Medical and Dental University (TMDU) ◇ 〒113–8510 東京都文京区湯島1–5–45 ◇ 1–5–45 Yushima, Bunkyo-ku, Tokyo, 113–8510, Japan

発行日:2020年2月25日Published: February 25, 2020
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非定型ユビキチン鎖であるK33ユビキチン鎖は定常状態では絶対量が少ないといわれている.K33ユビキチン鎖の形成にはHECT型E3ユビキチンリガーゼAREL1が同定され,K29・K33ユビキチン鎖に対する特異的な脱ユビキチン化酵素としてovarian tumor(OTU)ファミリーのTRABID(ZRANB1)が同定されている.K33ユビキチン鎖の生理的機能の意義にはいまだ不明の点が多いが,近年ユビキチン鎖の網羅的な検討によりT細胞受容体シグナル,I型インターフェロンシグナル,DNA損傷応答への関与が示唆されている.我々はK33ユビキチン鎖の可視化からK33ユビキチン鎖のオートファジーとの関与を明らかにしたので概説する.

1. はじめに

ユビキチン修飾系はユビキチンを付加することでタンパク質の機能を制御する翻訳後修飾系である.均一なユビキチン結合様式によるポリユビキチン鎖だけでなく分岐鎖や混合鎖によっても機能が変化することが明らかとなり,ユビキチン修飾系の解析は新たな展開を迎えている.近年の技術進歩により細胞内におけるユビキチン結合様式の割合が測定され,非定型ユビキチン鎖であるK33ユビキチン鎖の絶対量は非常に少ないと報告されている1, 2).一方で,網羅的な研究からK33ユビキチン鎖に関係するシグナルが同定されるとともに,K33ユビキチン鎖のE3ユビキチンリガーゼや脱ユビキチン化酵素(DUB)も報告されている.本稿では非定型ユビキチン鎖の中でK33ユビキチン鎖に着目して概説する.

2. K33ユビキチン鎖の形成

ヒトHECT型E3ユビキチンリガーゼには28種類ある.自己ユビキチン化における鎖特異性スクリーニングにて,NEDD4Lが形成するユビキチン鎖の96%がK63ユビキチン鎖,UBE3Cでは63%がK48ユビキチン鎖であるところ,AREL1(apoptosis resistant E3 ubiquitin ligase 1, KIAA0317とも呼ばれる)では36%がK33ユビキチン鎖を形成することが判明した(図13, 4).さらに,in vitro反応においてAREL1はSMAC, HTRA2, ARTSを基質としてユビキチン化することができ,その形成されたユビキチン鎖の80%以上がK33ユビキチン鎖であった.K11ユビキチン鎖に対するCEZANNEなど鎖特異的脱ユビキチン化酵素を併用することで,フリーK33ユビキチン鎖を90%以上の純度で精製することにも成功している.このようにK33ユビキチン鎖の生化学的な詳細な検討までされているE3ユビキチンリガーゼはAREL1のみであるが,K33ユビキチン鎖形成に関与すると示唆されているE3ユビキチンリガーゼも報告されており,今後の検討が期待される.

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図1 K33ユビキチン鎖に関わる酵素

(A)HECT型E3ユビキチンリガーゼAREL1はK33ユビキチン鎖を形成する3, 4).AQUA MS/MS:タンデム質量分析計を用いた定量法,Ub:ユビキチン.(B)TRABIDはK29・K33ユビキチン鎖特異的脱ユビキチン化酵素である3, 7, 8).NZF1ドメインはK29とK33ユビキチン鎖を特異的に認識し,A20に類似したOTUドメインの433番システインに酵素活性がある.

3. K33ユビキチン鎖の脱ユビキチン化酵素(DUB)

16種類あるovarian tumor(OTU)ファミリーの脱ユビキチン化酵素(DUB)では,A20(TNFAIP3)がNF-κBや細胞死を介して炎症に関わることが知られていた5, 6).KomanderらのグループはこれらのOTUファミリー脱ユビキチン化酵素のユビキチン鎖特異性を検討し,TRABID(TRAF-binding domain-containing protein, ZRANB1とも呼ばれる)がK29およびK33ユビキチン鎖特異的な脱ユビキチン化酵素であることを見いだした3, 7, 8).TRABIDは,NZFドメイン,ankyrin repeat ubiquitin(Ub)binding domain(AnkUBD),(A20に類似した)OTUドメインを持つタンパク質で,酵素活性部位はOTUドメイン内の433番システインである(図1).TRABIDのC末側(AnkUBDからOTUドメイン)は,三つのユビキチンがK33で結合したK33ユビキチン鎖(tetraUb)を脱ユビキチン化することが示された.さらにN末端側のNZF1ドメインは,二つのユビキチンがK33で結合したK33ユビキチン鎖(diUb)を認識することが示された.TRABIDは三つのドメインを持つことでユビキチン鎖特異的な脱ユビキチン化酵素として機能している.さらにTRABID樹状細胞特異的ノックアウトマウスを用いて,TRABIDがサイトカイン産生を介して炎症惹起に関与していることが示されている9).TRABIDの解析からもK33ユビキチン鎖が生理的に機能している可能性が示唆され,今後の解析が期待される.

4. K33ユビキチン鎖の機能

K33ユビキチン鎖はユビキチン内33番目のリシンとユビキチンC末端とがイソペプチド結合することで形成される.K33ユビキチン鎖の長さによる機能変化や,K33ユビキチン鎖を含む分岐鎖・混合鎖による機能などはいまだ明らかとなっていない.最近の報告では,K33ユビキチン鎖は分解するだけではない機能を有していることが明らかとなりつつある(表1).

表1 K33ユビキチン鎖が関与するシグナル
シグナル系路基質文献
T細胞受容体ZAP70, TCRz10, 11, 12)
I型インターフェロンSTAT1, TBK113, 14)
DNA損傷応答不明15)
オートファジーp6220)

1)T細胞受容体(T cell receptor:TCR)シグナル

2010年Huangらは,E3であるCBL-BとITCHのT細胞における機能解析の際に,TCRζの54番目のリシンがK33ユビキチン化され,ZAP70結合に関与することを見いだした10).しかし,分子生物学的解析は細胞株の検討が中心であり,T細胞受容体刺激依存性などについて不明な点があった.2015年YangらはCD8細胞などを用いて,NRDP1(RNF41)がZAP70のK578におけるK33ユビキチン鎖に関与し活性化を制御すると報告した11).さらに,2019年Dybasらは,T細胞活性化におけるタンパク質分解に関与しないユビキチン化を網羅的に明らかにするためにCD4細胞を用いて検討を行った12).野生型マウスからCD4細胞を分取し,T細胞を活性化させ網羅的に質量分析を行った.1200を超えるタンパク質は非分解性のユビキチン化修飾を受けており,T細胞受容体刺激依存性にK63鎖だけでなく,K27・K29・K33ユビキチン鎖が増加することが報告された.この報告ではK33ユビキチン鎖の標的分子などの同定はされていないが,これらの研究からT細胞受容体シグナルにおいてK33ユビキチン鎖がタンパク質分解以外の機能を持つことが示唆されている.

2)I型インターフェロンシグナル

I型インターフェロンによるウイルス排除機構を解析するためのスクリーニング実験からK33ユビキチン鎖が同定されている.2016年Linらは,I型インターフェロンシグナルを制御する脱ユビキチン化酵素を同定する目的で81種の脱ユビキチン化酵素からスクリーニングを行い,USP38を同定した13).USP38はTBK1のK670におけるK33ユビキチン鎖の脱ユビキチン化に関与していることが報告された.さらに,2018年Liuらは,I型インターフェロンシグナルを制御するE3ユビキチンリガーゼを同定する目的で115種のE3ユビキチンリガーゼからスクリーニングを行い,RNF2を同定している14).RNF2はSTAT1のK379へのK33ユビキチン鎖の付加に関与しSTAT1のDNA結合を阻害することが明らかとなった.これらの研究ではUSP38とRNF2の欠損マウスや水疱性口内炎ウイルス(VSV)などのウイルス感染を用いた解析も行われ,USP38とRNF2の生理学的重要性は明らかとなっているものの,K33ユビキチン鎖の特異性・選択性については今後の検討が期待される.

3)その他のシグナル

2015年Eliaらは,DNA損傷応答(DDR)におけるタンパク質修飾を網羅的に検討した15).紫外線(UV)や電離放射線(IR)におけるユビキチン化を網羅的に解析し,33,500のユビキチン化をプロファイリングした.その結果,紫外線刺激に伴いK6およびK33ユビキチン鎖が著明に増加することが明らかとなった.現在までDNA損傷応答(DDR)にユビキチン化が関与していることは明らかにされていたが,K33ユビキチン鎖については初めてであり,今後の解明が期待される.さらにはK33ユビキチン鎖がAMPK kinaseシグナル16),post Golgi trafficking17),TGFβシグナルに関与することも示唆されている18)

5. K33ユビキチン鎖とオートファジー

1)K33ユビキチン鎖可視化

非定型ユビキチン鎖の解析にあたり,我々は生体においてK33ユビキチン鎖が変化している臓器や病態を先に同定することができれば効果的にK33ユビキチン鎖の生理的基質同定や機能を解明できるのではないかと考えた.そこで我々はK33ユビキチン鎖の可視化をin vivoで行うための基礎検討を行った.しかし,K33ユビキチン鎖特異的抗体は作製されておらず,蛍光タンパク質や蛍光色素と結合したユビキチンタンパク質を用いた解析(Ub-GFP発現ベクターなど)は鎖状になる前から蛍光標識されており,ユビキチン鎖を形成していないユビキチンとの判別は困難である.本稿では,蛍光タンパク質再構成法(bimolecular fluorescence complementation:BiFC)による分子間相互作用の検出原理を用いたPolyUb-FCを用いた検討をご紹介する19).本法ではあらかじめ二つに分割した蛍光タンパク質とユビキチンをそれぞれ融合し,ユビキチンが相互作用すると,分割した蛍光タンパク質の断片が近接により再構成され蛍光能を回復し,相互作用を蛍光シグナルとして検出することができる.通常GFP由来やmCherryなどの蛍光タンパク質が使われることが多い.我々は蛍光タンパク質としてmonomeric Kusabira-Green(mKG)を用いた.BiFCの蛍光タンパク質断片どうしの会合は一度形成されると離れない不可逆性であり,一過的な相互作用や結合の弱い相互作用には有効である反面,長時間経過すると非特異的な自己会合により偽陽性蛍光を生じる.そのため解析するタイミングが重要であり,この二つのベクターを一つのベクターで発現できるように組み込み,PolyUb-FCと命名した(図2).PolyUb-FCのユビキチン部位に変異を入れ,K33ユビキチン鎖のみ結合できるユビキチン変異体を作製し共焦点顕微鏡にて検討すると,明らかな斑点状が細胞質に検出された.特異性の検証も行い,K33ユビキチン鎖が可視化されたと考えられた.

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図2 PolyUb-FCシステム

PolyUb-FCは,ユビキチンN末端にmKGの二つの断片をそれぞれ融合させ,IRESにてmKG(N)-UbとmKG(C)-Ubを同時に発現させる.分割したmKGは近接により構成され,mKGの蛍光能が回復する.

2)K33ユビキチン鎖とp62

細胞内に侵入した病原体に対する選択的オートファジーはゼノファジー(xenophagy)といわれている.ゼノファジーに関係するE3ユビキチンリガーゼを同定する目的で,2016年Heathらは,サルモネラ感染時にLC3と病原体との共局在に関与するE3ユビキチンリガーゼを約600種類の中からスクリーニングした20).彼らはE3ユビキチンリガーゼとしてRNF166を同定し,p62のK91とK189がK33ユビキチン化されるのではないかと報告した.p62はユビキチン鎖を認識し,ポリユビキチン化されたタンパク質やオルガネラをオートファゴソームに誘導することが知られている.p62のポリユビキチン鎖認識は,K63ユビキチン鎖やK48ユビキチン鎖については示されており,実際PolyUb(WT)-FCはp62と恒常的に共局在することが確認された.K33ユビキチン鎖とp62の関与を可視化するため,PolyUb(K33)-FCを用いたところ,p62と共局在することが判明した(図3).この共局在が特異的であることを確認するため,ユビキチン結合ドメイン(UBAドメイン)を欠損させたp62を用いたところ,UBAドメイン欠損p62では共局在が消失した.このことからPolyUb(K33)-FCはUBAドメインを介してp62と共局在していると考えられ,p62自身のK33ユビキチン化とは別に,p62はK33ユビキチン化されたタンパク質やオルガネラを認識している可能性が考えられた.また,PolyUb(K33)-FCがLC3と共局在することも見いだし,p62 siRNAにてこの共局在が減弱することも見いだした(図4).さらに,K33ユビキチン鎖特異的な脱ユビキチン化酵素であるTRABIDの発現を低下させると,p62とK33ユビキチン鎖の結合が増強されることが判明した(図5).以上より,p62はK63鎖やK48鎖ユビキチン鎖だけでなくK33ユビキチン鎖にも役割を担いながらオートファジーに関与していることが考えられた.

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図3 K33ユビキチン鎖はUBAドメインを介してp62と共局在する

p62とPolyUb(K33)-FCは共局在を認め(上段),ユビキチン結合ドメイン(UBA)欠損p62とPolyUb(K33)-FCは共局在を認めない(下段).核染色:青色,p62:赤色,PolyUb:緑色,p62とPolyUbの共局在:黄色

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図4 K33ユビキチン鎖はp62を介してLC3と共局在する

PolyUb(K33)-FCがLC3と共局在し,p62 siRNAにてこの共局在が減弱する.核染色:青色,LC3:赤色,PolyUb:緑色,LC3とPolyUbの共局在:黄色

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図5 p62に関わるK33ユビキチン鎖はTRABIDにより制御される

siRNAを用いてTRABID発現を低下させるとp62に関わるK33ユビキチン鎖が増強される.

6. おわりに

技術革新によりユビキチン研究の進歩が著しく,非定型ユビキチン鎖の機能も判明しつつある.しかし,その中でもK33ユビキチン鎖の機能解析はいまだ十分なされていない.我々はPolyUb-FCのみならずユビキチンセンサー配列21)の技術も応用し,生体にてK33ユビキチン鎖が変化している臓器や病態を同定することで効果的にK33ユビキチン鎖の生理的基質同定や機能を解明したいと考えている.また,我々はTRABIDの酵素活性を欠損させたマウスを樹立済みであり,合わせてin vivoでの解析も行いK33ユビキチン鎖の生理機能を解明したいと考えている.

謝辞Acknowledgments

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科消化器病態学渡辺守教授研究室およびカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)Averil Ma教授研究室にて行った研究成果を含めた総説であり,両教授とともに共同研究者や大学院生に深く感謝申し上げます.

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著者紹介Author Profile

大島 茂(おおしま しげる)

東京医科歯科大学医学部附属病院消化器内科(講師).博士(医学).

略歴

1997年東京医科歯科大学医学部医学科卒業.2004年同大学院修了.06年University of California, San Francisco, Postdoctoral scholar. 09年同Assistant Adjunct Professor. 11年東京医科歯科大学消化器内科.18年より現職.

研究テーマと抱負

炎症性腸疾患.オートファジー・ユビキチンの観点から病態解明や治療法開発を目指す.

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