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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 92(1): 120-123 (2020)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2020.920120

みにれびゅうMini Review

ビタミンDとマクロファージによる骨髄線維症の病態制御Vitamin D and Macrophages regulate Myelofibrosis

神戸大学大学院医学研究科血液内科学Hematology, Kobe University Graduate School of Medicine, Kobe, Japan ◇ 〒650–0017 兵庫県神戸市中央区楠町7–5–1 ◇ 7–5–1 Kusunoki-cho, Chuo-ku, Kobe Hyogo 650–0017 Japan

発行日:2020年2月25日Published: February 25, 2020
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1. はじめに

骨髄線維症は骨髄腔に線維芽細胞が異常増殖し,骨髄腔が線維によって占拠されることにより,骨髄が造血を維持できなくなる疾患である.また,しばしば骨梁の増加(骨硬化)を合併することが知られているが,その病態生理は詳細には解明されていない.骨髄線維症はJAK2V617F変異に代表される骨髄増殖性腫瘍の経過に伴って徐々に進展し,長期間の無症候性の血球増多を経たのちに,脾腫や血球減少,白血病化といった転機を迎える.教科書的には増殖した巨核球が線維芽細胞を刺激することが線維化の原因としての通説であり,近年では巨核球の産生するtransforming growth factor(TGF)-βやplatelet derived growth factor(PDGF)といったサイトカインが重要であることが報告されている1–3).しかしこれらの研究は巨核球による線維化惹起という古い通説を基盤として研究が組み上げられており,また骨髄線維症のもう一つの臨床像である骨硬化を合併する理由も説明できるものではなかった.

哺乳類の成体における造血システムを担う造血幹細胞は骨髄に存在する特殊な環境(ニッチ)により制御され,巧緻にその恒常性が維持されている.これまで我々は造血幹細胞ニッチの一部を構成している骨芽細胞に注目して骨代謝と造血の関係について研究を進め,骨代謝システムを中心とする臓器連関といった概念を確立してきた4–8).また,骨代謝において重要な役割を果たすビタミンD受容体(VDR)が骨芽細胞ニッチを制御することを見いだした5).この研究過程において我々は骨髄移植後のVDR欠損(VDR−/−)マウスが骨硬化を伴う骨髄線維症に進展する疾患モデルマウスとなることを発見し,骨代謝と造血の「臓器連関のひずみ」という独自の視点からアプローチすることによって,骨髄線維症の新しい病態解明に成功した9)

2. VDR−/−レシピエントに発症する骨髄線維症

放射線照射したVDR−/−マウスに野生型骨髄を移植すると,いったんはドナー造血が生着して末梢血球が回復するものの造血幹細胞は早期に枯渇し,骨髄不全により死亡することをまず我々は見いだした.そこで移植後の大腿骨切片を解析したところ,VDR−/−レシピエントは骨硬化を伴う激烈な骨髄線維症に進展していることを発見した(図1).VDR−/−マウスは血中ビタミンD濃度が極度に高いことが報告されていたことから,VDR−/−ドナーの骨髄をVDR−/−レシピエントに移植したところ,正常に造血が再開され骨髄線維症に進展しなかった.このことはVDRを発現している野生型骨髄細胞が高ビタミンDにさらされることがVDR−/−レシピエントの骨髄線維症を誘導するトリガーとなっていることを示唆していた.

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図1 VDR−/−マウスをレシピエントとして野生型骨髄を移植すると骨髄線維症に進展する

野生型マウスの骨髄を移植をした野生型およびVDR−/−レシピエントの大腿骨骨髄像.野生型レシピエントの骨髄では正常造血が回復しているが,VDR−/−レシピエントの骨髄は紡錘形の線維芽細胞で占拠され,骨梁が増加している.

次に,ドナー骨髄は間葉系細胞および血液細胞で構成されているため,この線維組織がドナーの血液細胞により惹起されているのかどうかを調べるために,GFP陽性のVDR+/+マウスより汎白血球マーカーであるCD45,成熟血球マーカーであるlineage,造血幹/前駆細胞のマーカーであるc-kitを用いてCD45陽性lineage陰性c-kit陽性の造血幹/前駆細胞をソーティングし,放射線照射したVDR−/−レシピエントに移植した.この系においてもVDR−/−レシピエントは,骨硬化を伴う骨髄線維症へと進展したことから,VDRを持った血液細胞が高ビタミンDにさらされることがこの現象を引き起こしていることを突き止めた.また,ソーティングした未分化血液細胞および成熟血液細胞のVDR mRNAの発現を調べたところ,未分化な血液細胞選択的にVDRの発現がみられ,このことは造血幹/前駆細胞が特異的にビタミンDへの感受性が高い可能性を示していた.

そこでVDR−/−レシピエントにGFP陽性の野生型(VDR+/+)を移植して発症した骨髄線維症組織を解析したところ,一見すると形態的には単一の線維芽細胞で構成されているようにみえる細胞集団は,驚くべきことにF4/80陽性のマクロファージ(GFP陽性ドナー血液細胞由来)とosterix陽性の前骨芽細胞(GFP陰性レシピエント間葉系細胞由来)の明確に区別できる2種類の細胞で構成されていた.また,これらのGFP陰性前骨芽細胞は筋線維芽細胞のマーカーと一般的にはみなされているα smooth muscle actin(αSMA)やコラーゲン産生細胞のマーカーであるcollagen specific molecular chaperone HSP47が陽性であり,あたかも線維芽細胞のように振る舞う骨芽細胞がコラーゲンの主要な産生細胞であることを発見した.

線維組織のマクロファージはVDR+/+骨髄由来であることより,強いVDRシグナルにより分化をゆがめられたマクロファージが線維化を誘導している可能性が考えられた.そこで離乳後より低ビタミンD食で飼育し,血中ビタミンD濃度を低下させたVDR−/−レシピエントにVDR+/+骨髄を移植したところ,長期に造血能が維持され骨髄線維症を発症しなかった.これらの結果から,VDR−/−レシピエントに移植されたVDR+/+骨髄が高濃度のビタミンD刺激に曝露されることが骨髄線維症へのトリガーになることが示された.そこで,骨髄球系の造血前駆細胞株であるHL-60にビタミンDを添加,培養したところ,CD11b/CD14陽性α-ナフチルブチレート強陽性の単球・マクロファージへと分化誘導された.さらにマクロファージは骨芽細胞を強力にサポートすることが知られていることより10, 11),移植後早期よりクロドロネートリポソームを投与してマクロファージを除去すると,前骨芽細胞の増殖と骨髄線維症の発症を阻害することができた.以上の結果より移植されたVDR+/+の造血幹/前駆細胞が高ビタミンD刺激にさらされた結果,疾患原性マクロファージへと分化し,コラーゲン線維の主要な産生細胞としての骨芽細胞系列の異常増殖と活性化を惹起することによって,骨髄線維症および骨硬化症を発症させることが明らかとなった.

3. JAK2V617F変異により誘導される骨髄線維症

次に,骨髄増殖性腫瘍患者に酷似した病態を呈し,骨髄線維症および骨硬化を生じるJAK2V617Fトランスジェニック(JAKVF)マウス12)においてもマクロファージとビタミンDシグナルが線維化の形成に重要であるかを検討した.JAKVFマウスに発症した骨髄の線維組織はVDR−/−レシピエントのモデルと同様にマクロファージと前骨芽細胞によって構成されていた.そこでまずJAKVFマウスを低ビタミンD食で飼育したところ,線維化への進展を強く抑制できた.次に,JAKVFマウスの骨髄を野生型レシピエントに移植すると著明な脾腫および骨髄線維症へと進展することより,この系において血液細胞のVDRシグナルを遮断するためにVDR−/−/JAKVF多重遺伝子変異マウスの骨髄を野生型レシピエントに移植した.その結果VDR+/+/JAKVFマウスの骨髄を移植した場合と比較し,脾腫腫や骨髄線維症の発症を有意に阻害することができた.さらにマクロファージの役割を検証するため,誘導性にマクロファージを除去できるMaFIAトランスジェニックマウス13)JAKVFマウスと交配し,JAKVF/MaFIA多重遺伝子変異マウスを作製した.そしてこのマウスの骨髄を野生型レシピエントに移植し,移植後よりMaFIA起動薬剤を投与してマクロファージを除去すると骨髄線維症の進展が劇的に阻害された(図2).また,骨髄線維化の形成に重要な刺激因子とされるTFGβ1のmRNAを骨組織で定量したところ,VDR+/+/JAKVFあるいはVDR−/−/JAKVF多重変異骨髄を野生型レシピエントに移植したモデル間において差を認めなかった.しかし注意深く検討すると,VDR−/−/JAKVF多重変異骨髄を移植したレシピエント,つまり血球でVDRを欠損したモデルにのみTFGβ1 mRNAレベルが骨髄線維化の強さと強い相関を持っていた.このことはVDRシグナルがTGFβとは独立した線維化の制御因子であることを示唆している.さらに,マクロファージ除去は巨核球数を減少させなかったことより,マクロファージ自身が巨核球と同様ないしはそれ以上に線維化進展に重要であると考えられる.

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図2 マクロファージ除去はJAKVFマウスドナーの骨髄移植により発症する骨髄線維化を阻害する

JAKVFマウスドナーの骨髄をVDR+/+マウスに移植するとレシピエントマウスは著明な骨髄線維症に進展し,線維が渡銀染色で黒く染まっている(マクロファージ除去なし).デジタル化した写真では青い部分が線維化を示す.マクロファージを除去すると線維化の部分がほとんどみられない(文献9より改変).

以上の結果よりJAK2V617F変異により誘導される骨髄線維症においてもビタミンDの供給やVDRシグナルの遮断,またマクロファージの抑制によって,骨髄の線維化を非常に効果的に予防できることが明らかとなり,ビタミンDおよびマクロファージが線維化の進展に重要な役割を果たしていることが示された.

4. おわりに

現在,臨床現場における骨髄線維症の唯一の根治療法は骨髄移植であるが,非常に合併症リスクの高い治療法であるため,高齢者の多い本疾患では適応とならないことが多い.また,新規治療法として臨床応用されているJAK阻害薬は脾臓サイズを減少させるが,骨髄線維化の阻止には必ずしも十分な効果は報告されておらず14, 15),新規治療法の開発が喫緊の課題となっている.我々の研究ではビタミンD刺激を受けた造血幹細胞由来の疾患原性マクロファージ(血球系)と,マクロファージからの増殖刺激を受けた骨芽細胞(間葉系)が線維組織を構成しており,その結果,骨硬化を合併することを明らかにした.マクロファージを中心とした造血システムと骨代謝システムの「臓器連関のひずみ」が骨髄線維症の真の病態であることを示し,これまで着目されていなかったビタミンDとマクロファージという新たなプレーヤーを登場させることで,あえて腫瘍原因遺伝子を狙わない新たな治療戦略の可能性を見いだした(図3).Signaling lymphocytic activation molecule F7(SLAMF7)はJAK2V617F変異を有する骨髄線維症患者の単球に高発現していることが報告されており,抗SLAMF7抗体であるエロツズマブは治療選択肢となる可能性が示唆されている16).今後こういった新しい標的に対する薬剤開発が期待される.

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図3 造血システムと造骨システムの臓器連関に生じた進行性のひずみによって骨髄線維症を発症する

これまで線維化に重要な役割を果たすと考えられてきた巨核球に加え,ビタミンDシグナルによって操られたマクロファージが線維化を誘導する新しいキープレーヤーとして明らかとなった(文献9より改変).

謝辞Acknowledgments

本研究を進めるにあたり,共著者の先生方には多大なご協力をいただきました.この場を借りて厚く御礼申し上げます.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

若橋 香奈子(わかはし かなこ)

Centro Nacional de Investigaciones Cardiovasculares (CNIC) Carlos III Postdoctoral Fellow. 医学博士.

略歴

2005年宮崎大学医学部卒業.17年神戸大学大学院医学研究科血液内科学分野専攻博士課程修了.18年より現職.

片山 義雄(かたやま よしお)

神戸大学医学部附属病院血液内科講師.医学博士.

略歴

1992年岡山大学医学部医学科卒業.98年同大学院医学研究科修了.同年神戸市立西市民病院免疫血液内科勤務.2000年米国New York, Mount Sinai School of Medicine(Postdoctoral Fellowその後Instructor of Medicine),Paul S Frenette Lab. 04年岡山大学医学部・歯学部附属病院輸血部医員.06年神戸大学医学部附属病院血液・腫瘍内科特定助手.07年神戸大学医学部附属病院血液内科特定助教.08年より現職.12~16年科学技術振興機構(JST)さきがけ研究者兼任.

研究テーマ

多臓器間ネットワークに支えられる造血をはじめとした生体システムの解明.

抱負

臨床医にとって喉に刺さった小骨がとれる研究.

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