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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 92(2): 226-230 (2020)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2020.920226

みにれびゅうMini Review

分泌リソソームの細胞内輸送における液胞型ATPaseの役割Role of vacuolar-type ATPase (V-ATPase) in intracellular trafficking of secretory lysosomes

岩手医科大学薬学部Iwate Medical University, School of Pharmacy ◇ 〒028–3694 岩手県紫波郡矢巾町医大通1丁目1–1 ◇ 1–1–1 Idaidori, Yahaba, Shiwa, Iwate 028–3694, Japan

発行日:2020年4月25日Published: April 25, 2020
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1. はじめに

リソソームは,細胞内外の物質を分解するオルガネラである.多くの細胞において,リソソームは細胞質にとどまっているが,破骨細胞や細胞傷害性T細胞,マスト細胞などでは,順行性輸送されて形質膜と融合し,内包する酵素を細胞外に放出する.このようなリソソームは「分泌リソソーム」と呼ばれ,骨吸収,ウイルスに感染した細胞の除去,炎症反応の惹起など,細胞の高次機能に必須である1).しかし,分泌リソソームが細胞内を輸送されるメカニズムは十分に解明されていない.

プロトンポンプである液胞型ATPase(V-ATPase)のうち,リソソームに局在するタイプのV-ATPaseを欠損したマウスは,骨吸収できないため重篤な大理石病を発症し,生後約2週で死に至る.筆者らは,このマウスを用いた解析から,V-ATPaseが破骨細胞における分泌リソソームの輸送に不可欠であることを見いだし,その分子機構の一端を明らかにしたので,本稿で紹介する.

2. 骨吸収とV-ATPase

健康な骨を維持するためには,骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収のバランスが重要である.このバランスが崩れると,骨粗鬆症や大理石病といった骨代謝異常症を発症する2).破骨細胞は,単球・マクロファージ系の前駆細胞どうしが融合してできる多核細胞であり,骨に接着すると骨側の形質膜が波状縁と呼ばれるひだ状の形態を呈する(図1A2).多くの細胞と同様に,前駆細胞においてリソソームは細胞質に存在しているが,分化に伴い分泌リソソームとして輸送され,骨側の形質膜と融合し,リソソーム酵素を分泌する.この仕組みにより,リソソーム膜に局在していたV-ATPaseは形質膜に輸送され,骨と破骨細胞の間の空間(骨吸収窩)を酸性化し,骨のミネラル分を溶解する.リソソーム酵素は,V-ATPaseにより形成された酸性環境で活性化され,骨の有機質であるコラーゲンなどを分解する(図1A3)

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図1 骨吸収におけるV-ATPase

(A)破骨細胞における分泌リソソームの役割.破骨細胞は,骨側の形質膜が波状縁を形成した極性細胞である.分泌リソソームが骨吸収窩へ向かって輸送されて形質膜と融合することにより,骨吸収に不可欠なリソソーム酵素が分泌される.骨吸収窩の酸性化は,分泌リソソームにより形質膜に輸送されたV-ATPaseが行う.文献15より一部改変.(B)V-ATPaseの模式図.13種類のサブユニットのうち6種に,細胞やオルガネラに特異的なアイソフォームがある.

酵母から哺乳類まで保存されているV-ATPaseは,形質膜や細胞内膜系のオルガネラ膜に局在し,細胞外またはオルガネラ内を酸性化する.マウスのV-ATPaseは13種類のサブユニットで構成されており,そのうち6種のサブユニットに細胞またはオルガネラに特異的なアイソフォームが存在する(図1B4).aサブユニットのアイソフォームの一つであるa3は,破骨細胞への分化に伴い発現量が増加し,分泌リソソームに特異的に局在する5).分化によりd2アイソフォームも誘導されるため,他の細胞では同定されていないa3とd2を持つV-ATPaseが形成される6).また,a3遺伝子に変異が入ると,破骨細胞は骨吸収ができなくなり,大理石病を引き起こすことが知られている7, 8)

3. 分泌リソソームの輸送におけるa3アイソフォームの役割

1)a3は分泌リソソームの輸送に不可欠である

V-ATPaseがエンドサイトーシスなど小胞輸送に関与していることが示唆されていた9)ので,V-ATPaseが分泌リソソームの輸送にも関わっている可能性を考え,a3欠損マウスの破骨細胞におけるリソソームの局在を検討した.上腕骨の破骨細胞を免疫電子顕微鏡法により調べたところ,野生型ではリソソームのマーカータンパク質であるCD68が波状縁に局在したが,a3欠損マウスでは局在しなかった10)

さらに詳細な解析をするために,マウスの脾臓マクロファージから破骨細胞を誘導する系を構築した.一般的に,破骨細胞の前駆細胞として骨髄マクロファージを用いるが,a3欠損マウスでは骨吸収ができないために骨髄腔が形成されず,骨髄細胞を回収できない.そこで,脾臓からマクロファージを得て,RANKL(receptor activator of nuclear factor kappa B ligand)処理により分化を誘導した.これにより,野生型とa3欠損型の破骨細胞をin vitroで比較することが可能になった.以降の実験では,脾臓マクロファージから誘導した破骨細胞を使用している.誘導した破骨細胞について,リソソームの局在を検討したところ,野生型では形質膜近傍に集積したのに対し,a3欠損型では細胞質全体に散在していた(図2A).一方,ゴルジ装置と初期エンドソームの局在,エンドサイトーシスやサイトカインの分泌などの膜動態は野生型と変わらなかった10).さらに,a3欠損破骨細胞を用いた相補実験を行い,リソソームの形質膜近傍への集積が回復することを示した.つまり,a3がリソソームの形質膜への輸送に欠かせないことを明らかにした10)

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図2 a3欠損破骨細胞におけるリソソームとRab7の局在

(A)破骨細胞におけるリソソームの局在.野生型およびa3欠損マウスの脾臓マクロファージからin vitroで破骨細胞への分化を誘導した.a3アイソフォームを欠損した破骨細胞では,リソソームが形質膜近傍に局在しなくなった.グラフは,細胞を形質膜から2 µmごとに区分けした各区画に検出されるCD68のシグナル強度について,細胞全体で検出されるシグナル強度に対する相対値を示したものである.文献10より一部改変.(B)破骨細胞におけるRab7の局在.a3を欠損した脾臓マクロファージより誘導した破骨細胞では,Rab7がリソソームに局在しなかった.グラフには,Rab7およびRab11がリソソームマーカーであるCD68と共局在する割合を示した.免疫染色に用いた抗Rab11抗体はRab11AとRab11Bを認識することから,定量結果はRab11と表示した.文献10より一部改変.

ちなみに,約半数の大理石病患者から90種類以上のa3の変異が同定されている11)が,その変異が病因であるかは示されていない.筆者らが構築した相補実験系を用いて,同定されたa3の変異がリソソーム輸送や骨吸収に与える影響を検討することにより,大理石病の発症機構の解明につながると期待している.

2)a3は小胞輸送因子Rab7のリソソーム局在に必要である

a3による分泌リソソームの輸送機構を解明するために,リソソームにリクルートされる低分子量Gタンパク質であるRab7に注目した.リソソーム上のGTP型(活性型)のRab7は分子モーターなどの輸送装置と複合体を形成し,微小管に沿ってリソソームを輸送する.GDP型(不活性型)に固定されるドミナントネガティブ変異体のRab7を野生型破骨細胞に発現させてCD68の局在を免疫染色により調べたところ,シグナルは細胞中央に観察されたことから,リソソームが形質膜へ輸送されなくなったことがわかった.一方,リサイクリングエンドソームの輸送に関わるRab11Bと,メラノソームの分泌に関わるRab27Aについて同様の実験を行っても,リソソームの輸送に影響しなかった.これらの結果から,破骨細胞ではRab7が輸送に関与していることがわかった.驚いたことに,Rab7は野生型の破骨細胞ではリソソームに局在したのに対し,a3欠損型では細胞質全体に拡散していた(図2B).このことから,a3はRab7がリソソームへ局在するために必須であることがわかった10)

3)a3はGDP型Rab7と結合する

これまでに,Rab7を分泌リソソームへリクルートする機構は解明されていなかった.a3はリソソームに特異的に局在する膜タンパク質であることから,リクルート因子の候補であると考えた.そこでタンパク質の相互作用の検討に広く用いられているHEK293T細胞にa3とRab7を共発現させ,免疫沈降を行ったところ,a3がGDP型Rab7と結合することを見いだした(図3A).このとき,V-ATPaseの触媒サブユニットであるAサブユニットも共沈したことから,a3はV-ATPaseを形成していると考えらえる.しかし,Rab7との結合にa3以外のサブユニットが必須か否かは今後検討する必要がある.a3とRab7の結合には特異性があり,野生型およびGTP型のRab7,リソソーム輸送に関わらないRab11Bとは結合しなかった.また,a1, a2アイソフォームはRab7との結合が弱く,リソソームの輸送にa3が必要であることと一致した.以上の結果から,a3はGDP型Rab7と特異的に結合することによりRab7をリソソームへリクルートするという,分泌リソソームの輸送メカニズムの一端が明らかとなった(図3B10).これは,V-ATPaseがプロトンポンプとしてだけではなく,オルガネラの輸送にも働くという二重の役割を担っていることを示している.a3を欠損している破骨細胞は,骨吸収窩の酸性化ができなくなるだけではなく,そもそも分泌リソソームが輸送されていないという意外な発見であった.

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図3 a3とRab7の結合と分泌リソソームの輸送

(A)aアイソフォームとRab7の結合.免疫沈降法により,a3とGDP型Rab7が結合することを見いだした.文献10より一部改変.(B)分泌リソソームの輸送におけるV-ATPaseの役割.a3がGDP型Rab7と結合することでこれをリソソームへリクルートし,その後,Rab7がGTP型となって分泌リソソームの輸送を開始する.GTP型Rab7がリソソームへ局在するためには,V-ATPaseにより形成される酸性環境が重要だと考えられる.

4)V-ATPaseによる酸性化は,GTP型Rab7のリソソーム局在に重要である

多くの場合,活性型のGTP型Rabタンパク質は膜に局在することが知られている.そこで,a3欠損破骨細胞にGTP型Rab7を発現させ,その局在を調べた.GTP型Rab7は,野生型の破骨細胞ではリソソームに局在したが,a3欠損破骨細胞では局在しなかった.a3はGTP型Rab7と結合しないことから,この結果は結合の有無では説明できない.そこで,V-ATPaseによるリソソーム内部の酸性化が関わる可能性を考え,V-ATPaseの阻害剤であるバフィロマイシンA1を用いて野生型破骨細胞の酸性環境を消失させた.GTP型Rab7はリソソームに局在できなくなった一方,a3とGDP型Rab7の結合,およびRab7の活性化は,阻害剤の影響を受けなかった.Rab7の活性化は,GTP型Rab7と特異的に結合するRILP(Rab interacting lysosomal protein)を用いたプルダウンアッセイにより回収されるRab7の量で検討した.以上の結果から,GTP型Rab7が安定にリソソームへ局在するためには,V-ATPaseによるリソソーム内部の酸性化が必要であることが示唆された.オルガネラ内のpH変化がオルガネラ外の結合に影響するのは一見不可解であるが,リソソーム内腔のpHが上昇することでa3やV-ATPase全体の構造が変化し,Rab7と相互作用できなくなるなどの可能性が考えられる12)

5)a3はRab27Aのリソソームへの局在にも関与する

筆者らは,Rab7と同様にリソソーム関連オルガネラの輸送を担うRab27Aにも注目した.a3がGDP型Rab27Aと結合すること,a3欠損破骨細胞ではGTP型Rab27Aがリソソームに局在しないことから,Rab27Aがリソソームに局在するためにもa3が必須であることを明らかにした10).しかし,前述したように,破骨細胞にGDP型Rab27Aを発現させても,リソソームの形質膜への輸送には影響しなかった.Rab27Aは,どのように分泌リソソームの輸送に関わるのだろうか.細胞傷害性T細胞において,Rab27Aは分泌リソソームを形質膜に係留する可能性が報告されている13).このことから,破骨細胞において,Rab7が分泌リソソームを形質膜近くへ輸送し,その後Rab27Aが形質膜へ係留するという役割分担がなされていると考えている.ただし,Rab27Aを欠損しても効率は低下するものの骨吸収できる14)ことから,破骨細胞におけるRab27Aの機能は,他のRabタンパク質で代用できるのかもしれない.

4. 今後の展望

筆者らは,V-ATPaseが結合を介してGDP型Rab7をリソソームにリクルートすること,リソソーム内の酸性化により活性型であるGTP型Rab7を安定にリソソームへ局在させることを明らかにした(図3B10).この知見が,骨代謝異常症などの新たな治療法の開発に役立つことを期待している.たとえば,a3とRab7の相互作用を抑制する化合物やペプチドは,将来的に骨粗鬆症治療薬となる可能性がある.また,分泌リソソームは,細胞傷害性T細胞からのパーフォリン分泌による感染細胞の除去や,がん細胞のマトリックスプロテアーゼ分泌による転移能の亢進にも関わっていることから,a3は状況に合わせて分泌リソソームをコントロールするためのターゲットになりうる.今後は,細胞内にとどまるリソソームと分泌リソソームの違い,分泌されるタイミングや輸送方向の制御などの解明に取り組みたい.

筆者らは,Rab7とRab27Aのリソソーム局在におけるa3の重要性を示した.現在,a1, a2アイソフォームもRabファミリーのタンパク質と結合するという知見を得つつある.a1は被覆小胞,a2はゴルジ装置とエンドソームに局在していることから,オルガネラ特異的なRabタンパク質をリクルートしている可能性がある.また,尿細管細胞では,初期エンドソームに局在するa2が,小胞の出芽に働く低分子量Gタンパク質であるArfファミリーのArf6をリクルートすることが示唆されている9).局在の異なるaアイソフォームが特定の小胞輸送因子をリクルートすることで,さまざまなオルガネラの輸送を制御しているのかもしれない.筆者らが明らかにした分泌リソソームの輸送機構に関する知見をもとに,オルガネラ輸送の全貌解明を目指して研究を進めたい.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

松元 奈緒美(まつもと なおみ)

岩手医科大学薬学部機能生化学分野助教.博士(理学).

略歴

1997年九州大学薬学部卒.研究補助員,九州大学大学院博士後期課程を経て,2007年博士(理学)取得.07年より現職.

研究テーマと抱負

プロトンポンプV-ATPaseのオルガネラ輸送における機能.オルガネラのアイデンティティの形成と維持のメカニズム解明につなげたい.

ウェブサイト

https://www.imu-pharm.jp/division/biochemistry/

趣味

音楽鑑賞.

中西 真弓(なかにし-まつい まゆみ)

岩手医科大学薬学部機能生化学分野教授.博士(生命薬学).

略歴

1989年東京大学薬学部卒業.91年同大学院薬学系研究科修士課程,94年博士課程修了.癌研究所嘱託研究員.97年カリフォルニア大学サンフランシスコ校心血管研究部門研究員.2004年微生物化学研究センター二井特別研究室研究員.07年岩手医科大学薬学部准教授を経て14年より現職.

研究テーマと抱負

「オルガネラ輸送」と「病原細菌の耐酸性獲得」におけるプロトンポンプATPaseの役割の解明.がん細胞の転移やインスリン分泌など酸性環境が関与する様々な生命現象へとテーマを展開し,創薬につながる研究へと発展させたい.

ウェブサイト

https://www.imu-pharm.jp/division/biochemistry/

趣味

映画鑑賞,ドライブ,世界一周旅行の計画を練る.

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