Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 92(2): 240-243 (2020)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2020.920240

みにれびゅうMini Review

硫酸化糖鎖によるDystrophic endball形成機構Mechanisms of formation of dystrophic endballs by sulfated glycans

名古屋大学大学院医学系研究科生物化学講座分子生物学分野Department of Biochemistry, Nagoya University Graduate School of Medicine ◇ 〒466–8550 愛知県名古屋市昭和区鶴舞町65 ◇ 65 Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya, Aichi 466–8550, Japan

発行日:2020年4月25日Published: April 25, 2020
HTMLPDFEPUB3

1. はじめに

近年,未曽有の大型台風やゲリラ豪雨により,被災地での停電や断水が大きな問題となっている.我々ヒトの身体においては,これらはそれぞれ神経系と循環器系に相当するであろう.社会インフラがこのような物理的ストレスによって破綻するのと同じように,我々の神経系・循環器系も破綻することがある.とりわけ,送電システムにあたる神経系において,送電線に相当する神経軸索が外傷などにより断絶を受けることがある.この病態を軸索損傷と呼ぶ.末梢神経系の軸索損傷は,神経鞘の適切な縫合により伸長再生するものの,脳および脊髄などの中枢神経系の軸索損傷では,神経軸索の再生はほぼ絶望的である.中枢神経系の軸索損傷で最も端的な例は脊髄損傷である.わが国では,10万人を超える脊髄損傷患者がおり,毎年約5000人の新規受傷がある.高齢者に多いが,交通外傷・スポーツ外傷での受傷もきわめて多く,若年層・青年層の患者もきわめて多い.患者は神経回路の断絶により,運動・感覚麻痺,自律神経麻痺により,重大なQOL(quality of life)の損失を強いられる.職場や学校などへの社会復帰率はおよそ10%ときわめて予後が悪い疾患である.

中枢神経軸索の損傷後の反応を図1にまとめた.切断を受け,細胞体側から離断された軸索遠位端はワーラー変性と呼ばれる変性過程を経て,最終的にはミクログリアなどの貪食細胞により組織から除去される.ここで重要なのは,細胞体を含む近位側の細胞本体は,損傷の部位・程度にもよるが多くの場合,まだ「生きている」ことである.残存した神経細胞は,破壊された神経回路を再構築するために軸索を伸ばそうとするものの,損傷部においてDystrophic endballと呼ばれる腫大した異常構造へと変化する.Dystrophic endballは100年近く前に前に解剖学者Cajalによって見いだされており1),中枢神経軸索が再生しないことの責任構造であるとされてきたが,その形成機序は不明であった.近年,グリア性瘢痕において発現誘導される軸索再生阻害因子であるコンドロイチン硫酸(chondroitin sulfate:CS)によってDystrophic endballが誘導されることが明らかにされたものの,その詳細は不明であった2).筆者らは,最近そのメカニズムの詳細を明らかにしたので,本稿ではこれを概説したい3)

Journal of Japanese Biochemical Society 92(2): 240-243 (2020)

図1 中枢神経損傷後の軸索反応

軸索が切断されると遠位端はワーラー変性により変性する.軸索そのものには伸長能は残っているものの,グリア性瘢痕から産生されるコンドロイチン硫酸により先端部にDystrophic endballが形成され,再生が阻害される.

2. Dystrophic endballの形成機構

1)細胞表面のメカニズム

前述したように,Dystrophic endballはCSにより誘導されることがin vitroの実験で明らかになった.細胞培養ディッシュ上にグリア性瘢痕を模したCS濃度勾配を作製し,成体脊髄後根神経節細胞の軸索を低濃度側から侵入させると軸索先端部が腫大し,軸索はCS濃度勾配を越えて伸長することはない4).さらにCSの神経細胞受容体として,Type IIa受容体型チロシンホスファターゼ(RPTP)に属するPTPRσが同定された5).Type IIa RPTPはリガンドによる単量体化・多量体化で細胞内のチロシンホスファターゼ活性が制御され,単量体状態で活性化され,多量体状態で抑制される6).PTPRσはこれ以前からCSと同じ硫酸化糖鎖であるへパラン硫酸(heparan sulfate:HS)もリガンドとすることが知られており7),CSがDystrophic endballを誘導し軸索伸長を阻害する一方,HSは軸索伸長を促進する.その後の生化学的な解析により,PTPRσはCSにより単量体化され,HSにより多量体化されることが明らかとされたが8),なぜ同じ硫酸化糖鎖がPTPRσを正反対に制御するのかは不明であった.さらにCSにより活性化されたPTPRσが脱リン酸化する細胞内の基質も不明であった.

CS・HSとも50~100糖ほどの分岐を持たない糖鎖で,それぞれ特定のタンパク質(コアタンパク質)に共有結合し,プロテオグリカンと呼ばれる糖タンパク質を構成する9).CSはD-グルクロン酸とN-アセチル-D-ガラクトサミン,HSはD-グルクロン酸あるいはL-イズロン酸とD-グルコサミンの2糖繰り返し構造を基本とし,それぞれ特定部位が硫酸化されうる.この結果,1本の糖鎖の上においても,大きなHeterogeneityを持つ.我々は,糖鎖の上にPTPRσと特異的に結合する機能ドメインがあると考え,化学合成により鎖長と硫酸化パターンが均一化されたCS・HSライブラリーを用いて,それぞれの機能ドメインの同定を試みた.興味深いことに,両者とも最小4糖の鎖長でPTPRσと結合した.硫酸化パターンに着目すると,PTPRσと結合できるCSの硫酸化パターンは,N-アセチル-D-ガラクトサミンの4位と6位がともに硫酸化されたCS-Eのみであった.これは中枢神経損傷後のCSのわずか3%に相当する.これに対し,HSは無硫酸化のものを除くほぼすべての硫酸化パターンがPTPRσと結合した.これは中枢神経損傷後のHSの約50%に相当する.すなわち,これら硫酸化糖鎖の1本をリガンドとした場合,CSはごく少数,あるいはたかだか1分子のPTPRσとしか結合できないのに対し,HSはきわめて多数のPTPRσと同時に結合できる.この結果CSはPTPRσの単量体化リガンドであり,HSは多量体化リガンドであることが明らかとなった(図2).

Journal of Japanese Biochemical Society 92(2): 240-243 (2020)

図2 硫酸化糖鎖によるPTPRσの制御

HS鎖上には多くのPTPRσ結合ドメインがあり,PTPRσを多量体化させる.これは細胞内のホスファターゼドメインを抑制する.CS鎖上にはPTPRσ結合ドメインが疎であり,PTPRσを単量体化させホスファターゼドメインを活性化する.

2)細胞内のメカニズム

Dystrophic endballは二つの構造的特性を有する.軸索先端部の異常な腫大(swelling)と,空胞(vacuole)の出現である.これら異常構造の本体を明らかにするため,in vitroで脊髄後根神経節細胞にDystrophic endballを作製し,これを電子顕微鏡下で観察したところオートファゴソームが多数観察された.さらに,オートファゴソームマーカーLC3による免疫染色でも同様の結果が得られた.マウス脊髄損傷モデルにおいても,損傷した皮質脊髄路軸索の先端部にオートファゴソームの蓄積が認められた.オートファジーは隔離膜と呼ばれる構造が細胞内の複数の部位より出現し,異常タンパク質や損傷した細胞内小器官を包み込み(オートファゴソーム),リソソームと融合して(オートリソソーム)内容物を分解する細胞内の品質管理機構の一つである10).神経軸索においては,軸索先端部(成長円錐)で隔離膜が発生し,リソソームと融合しながら軸索シャフト内を細胞体方向へ逆行性に輸送されることが知られている11).おそらく,伸長する軸索先端部では細胞骨格や膜構造,ミトコンドリアなどのターンオーバーが速く,これらを処理するための必須の機構なのであろう.さらに解析を進めると,Dystrophic endballでのオートファゴソームの蓄積は,オートファジー活性の誘導ではなく,オートファジーフラックスの破綻,すなわち,オートファゴソームとリソソームの融合過程が阻害されている結果であることが明らかになった.一方,クロロキンやバフィロマイシンなどのリソソーム阻害剤を成長円錐に作用させ,オートファジーフラックスを人為的に破綻させると,きわめて短時間のうちにDystrophic endball様の構造が誘導された.Stntaxn17, VAMP8, SNAP29といったオートファゴソームとリソソームの融合に必要なSNAREタンパク質のノックダウンにおいても同様の結果が得られた.これらの結果から,軸索先端部でのオートファジーフラックスの破綻がDystrophic endballを誘導する細胞生物学的な基盤であることが明らかになった.

PTPRσとオートファジーとをつなぐ分子,言い換えればPTPRσの基質分子は何であろうか?Cortactinはアクチン結合タンパク質で,Src/Fynファミリーチロシンキナーゼにより,421番目と466番目のチロシン残基がリン酸化される.リン酸化Cortactinはリソソーム膜上に局在し,ここでアクチンの重合を促進・安定化してオートファゴソームとの融合を促進する12, 13).健常な成長円錐とDystrophic endballにおいてCortactinのリン酸化状態を比較したところ,Dystrophic endballにおいてはCortactinの脱リン酸化が観察された.さらにPTPRσの活性ドメインは精製リン酸化Cortactinを脱リン酸化した.細胞にPTPRσを発現させCS-Eを作用させると,やはりCortactinの脱リン酸化が増強された.興味深いことに,健常な成長円錐においてCortactinをノックダウンすると,上述したリソソーム阻害剤・SNAREノックダウンと同様にDystrophic endball様の異常構造が誘導できた.これらのことから,Dystrophic endballではCS-PTPRσ系によりCortactinが異常脱リン酸化され,オートファジーが破綻していることが明らかになった(図3).

Journal of Japanese Biochemical Society 92(2): 240-243 (2020)

図3 Cortactin脱リン酸化によるオートファジーの破綻

リン酸化Cortactinはリソソーム上に局在し,アクチンを安定化させてオートファゴソームとの融合を促進させる.PTPRσはCortactinを脱リン酸化させ,オートファジーの進行を破綻させる.

3. おわりに:今後の展望

筆者らの研究によって,これまで理解が十分でなかったDystrophic endballの形成機構の一端が明らかとなった.このようなDystrophic endall様の腫大構造はアルツハイマー病などの神経変性疾患でもみられることから,オートファジー破綻による軸索病態は物理的な軸索損傷に限らず,もっと普遍的な病理である可能性もある.さらにPTPRσなどのType IIa RPTPは成熟シナプスにおいてプレシナプスにおけるsynaptic organizerとして働いていることから,Type IIa RPTPのシグナル系がシナプスの健常性の維持や高次機能の発現など生理的に重要である可能性もある.またその異常がシナプス病の病態に関わっている可能性も容易に想像できる.

今回我々はCortactinがPTPRσの直接の基質の基質であることを明らかにしたが,これが細胞表面で起こるのか,あるいはエンドソーム-リソソーム系で起こるのか,その反応の場に関しては依然不明のままである.リガンドの種類やRPTPのクラスター化状態でそのエンドサイトーシスが制御されている可能性も十分にあり,今後の課題でもある.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した研究は,台湾Academia Sinica・Hung博士,鳥取大学・田村純一教授,神戸薬科大学・北川裕之教授らとの共同研究で行われました.この場を借りて深くお礼申し上げます.また,本研究は文部科学省科学研究費補助金・新学術領域「神経糖鎖生物学」の助成を受けて行われました.

引用文献References

1) Ramόn y Cajal, S. (1928) Degeneration and Regeneration of the Nervous System. Oxford Univ. Press.

2) Silver, J. & Miller, J.H. (2004) Regeneration beyond the glial scar. Nat. Rev. Neurosci., 5, 146–156.

3) Sakamoto, K., Ozaki, T., Ko, Y.C., Tsai, C.F., Gong, Y., Morozumi, M., Ishikawa, Y., Uchimura, K., Nadanaka, S., Kitagawa, H., et al. (2019) Glycan sulfation patterns define autophagy flux at axon tip via PTPRσ-cortactin axis. Nat. Chem. Biol., 15, 699–709.

4) Tom, V.J., Steinmetz, M.P., Miller, J.H., Doller, C.M., & Silver, J. (2004) Studies on the development and behavior of the dystrophic growth cone, the hallmark of regeneration failure, in an in vitro model of the glial scar and after spinal cord injury. J. Neurosci., 24, 6531–6539.

5) Shen, Y., Tenney, A.P., Busch, S.A., Horn, K.P., Cuascut, F.X., Liu, K., He, Z., Silver, J., & Flanagan, J.G. (2009) PTPsigma is a receptor for chondroitin sulfate proteoglycan, an inhibitor of neural regeneration. Science, 326, 592–596.

6) Tonks, N.K. (2006) Protein tyrosine phosphatases: from genes, to function, to disease. Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 7, 833–846.

7) Aricescu, A.R., McKinnell, I.W., Halfter, W., & Stoker, A.W. (2002) Heparan sulfate proteoglycans are ligands for receptor protein tyrosine phosphatase sigma. Mol. Cell. Biol., 22, 1881–1892.

8) Coles, C.H., Shen, Y., Tenney, A.P., Siebold, C., Sutton, G.C., Lu, W., Gallagher, J.T., Jones, E.Y., Flanagan, J.G., & Aricescu, A.R. (2011) Proteoglycan-specific molecular switch for RPTPσ clustering and neuronal extension. Science, 332, 484–488.

9) Sakamoto, K. & Kadomatsu, K. (2017) Mechanisms of axon regeneration: The significance of proteoglycans. Biochim. Biophys. Acta, Gen. Subj., 1861, 2435–2441.

10) Mizushima, N. & Komatsu, M. (2011) Autophagy: renovation of cells and tissues. Cell, 147, 728–741.

11) Maday, S., Wallace, K.E., & Holzbaur, E.L. (2012) Autophagosomes initiate distally and mature during transport toward the cell soma in primary neurons. J. Cell Biol., 196, 407–417.

12) Lee, J.Y., Koga, H., Kawaguchi, Y., Tang, W., Wong, E., Gao, Y.S., Pandey, U.B., Kaushik, S., Tresse, E., Lu, J., et al. (2010) HDAC6 controls autophagosome maturation essential for ubiquitin-selective quality-control autophagy. EMBO J., 29, 969–980.

13) Hasegawa, J., Iwamoto, R., Otomo, T., Nezu, A., Hamasaki, M., & Yoshimori, T. (2016) Autophagosome-lysosome fusion in neurons requires INPP5E, a protein associated with Joubert syndrome. EMBO J., 35, 1853–1867.

著者紹介Author Profile

坂元 一真(さかもと かずま)

名古屋大学大学院医学系研究科生物化学講座分子生物学分野准教授.博士(医学).

略歴

2007年名古屋大学医学部医学科卒.11年同大学院医学系研究科博士課程修了.博士(医学)取得.名古屋大学大学院医学系研究科研究員.名古屋大学高等研究院YLC特任助教.名古屋大学大学院医学系研究科助教を経て19年10月より現職.

研究テーマと抱負

神経軸索の病態とその分子基盤.特に損傷軸索における受容体型チロシンホスファターゼの役割について明らかにし,その制御に取り組んでいる.

ウェブサイト

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/

趣味

お酒.

This page was created on 2020-03-06T09:15:25.447+09:00
This page was last modified on 2020-03-30T11:47:39.000+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。