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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 92(2): 268-271 (2020)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2020.920268

みにれびゅうMini Review

敗血症性肺傷害時の肺に集積するヒスタミン産生能を持つ好中球の役割The role of histamine-producing neutrophils that accumulate in septic lung

東北医科薬科大学医学部医化学教室Division of Medical Biochemistry, Tohoku Medical and Pharmaceutical University ◇ 〒983–8536 仙台市宮城野区福室1–15–1 ◇ 1–15–1 Fukumuro, Miyagino-ku, Sendai 983–8536, Japan

受付日:2020年1月24日Received: January 24, 2020
発行日:2020年4月25日Published: April 25, 2020
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1. はじめに

即時型アレルギーの原因物質として知られるヒスタミンは,好塩基球や肥満細胞に蓄えられ,抗原刺激に応じて分泌されることによりその生理活性を発揮する.一方で,好塩基球や肥満細胞以外の細胞でも,細胞外からのさまざまな刺激に応じて,ヒスタミン産生が誘導されることが知られている.本稿では,敗血症などの炎症病態時にヒスタミンが担う役割と,その産生誘導のメカニズムに関しての最近の知見を概説する.

2. ヒスタミンの病態生理機能

ヒスタミンは,アレルギー反応,胃酸分泌,神経伝達などのさまざまな生理機能を持ち,ヒスチジン脱炭酸酵素(histidine decarboxylase:HDC)によりヒスチジンから合成される生理活性アミンである.好塩基球や肥満細胞の細胞表面に存在する高親和性IgE受容体(FcεRI)に,抗原-IgE複合体が結合することにより,細胞内顆粒に蓄えられたヒスタミンが細胞外に速やかに放出され,周辺組織において一過性に高い濃度に達する1, 2).放出されたヒスタミンはGタンパク質共役型受容体であるヒスタミン受容体を介して,さまざまな生理活性を発揮する.ヒスタミンH1受容体は平滑筋や血管内皮細胞に発現し,気管支平滑筋の収縮や血管系の弛緩,血管透過性の亢進,粘液分泌の亢進などを惹起し,喘息やアナフィラキシーなど即時型アレルギーの原因をもたらす3).胃のクロム親和性細胞様細胞(enterochromaffin-like cell:ECL細胞)で合成されたヒスタミンは,ガストリンやアセチルコリン刺激により分泌され,H2受容体を介して壁細胞からの胃酸分泌を促す4).また,ヒスタミンがH2受容体を介して免疫反応の抑制に関わることが報告されている3).これまでに,好塩基球や肥満細胞からの脱顆粒の抑制,リンパ球活性化の抑制,好中球遊走の抑制,マクロファージからのサイトカイン産生の抑制などが知られている.

3. HDC酵素誘導によるヒスタミン生合成と病態形成

ヒスタミンは好塩基球や肥満細胞などの主要なヒスタミン産生細胞以外の免疫担当細胞でも合成され,種々の役割を担う3, 5).これまでにTリンパ球,樹状細胞,マクロファージ,ケラチノサイト,好中球などを含む細胞種でヒスタミン産生誘導が報告されている.これら好塩基球や肥満細胞以外の細胞でのヒスタミン産生誘導の過程では,ヒスチジン脱炭酸酵素の遺伝子発現誘導が伴う.マクロファージ細胞株(RAW264)を用いた実験では,リポ多糖(lipopolysaccharide:LPS),小胞体ストレス誘導剤のタプシガルギン,ホルボールエステル類などの多彩な刺激によりHdc遺伝子の発現とヒスタミン産生が誘導される3).ヒスタミンを蓄える顆粒を持たない細胞では新規に合成されるヒスタミンは細胞内に蓄積されずに,細胞外へと持続的に分泌される.この場合,周辺組織でのヒスタミン濃度上昇は脱顆粒による放出よりも低く,比較的長い時間持続する.そのため即時型アレルギーの場合と異なり,ヒスタミン受容体を介した弱いシグナルが持続的に活性化されることにより,炎症免疫反応の制御や病態形成に関わることが示唆される.後述する敗血症の場合,ヒスタミンが間接的にTNFα, IL1β, IL6およびMCP1などのサイトカインやケモカインを誘導することにより,炎症を促進する可能性が示唆されている6)

4. Hdc遺伝子レポータートランスジェニックマウスによるヒスタミン産生細胞のマーキング

これまでのヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子の発現制御メカニズムの解析に関しては,培養細胞株を用いたレポーターアッセイによるプロモーター近傍配列の機能解析が行われている.これまでの報告では,Hdc遺伝子のプローモーター領域のDNAメチル化が発現抑制に関わること7)Hdc遺伝子のプロモーター配列に存在するSP1結合配列(GCボックス)がLPS刺激によるHdc遺伝子の発現誘導に関わっていることが示されている8).一方,Hdc遺伝子の組織・細胞特異的な遺伝子発現制御機構に関して,トランスジェニックマウス等を用いたin vivoでの解析は行われてこなかった.我々は,マウス個体内でのヒスタミン産生細胞の組織分布を明らかにするために,Hdc遺伝子の遺伝子発現制御領域を用いて,レポータートランスジェニックマウスラインを樹立し,ヒスタミン産生細胞の組織分布を明らかにすることを試みた9).最初に約1 kbのHdc遺伝子プロモーター領域を使ったGFPレポータートランスジェニックマウスの樹立解析を試みたが,内在性のHDC発現細胞の特異的な組織分布を再現できなかった.このことから,より長大な遺伝子発現制御領域が必要であると考えた.

ヒトおよびマウスHdc遺伝子はDNA配列の保存性も高く,ともに12個のエクソンが24 kbにわたる領域に分布する構造をとっている.マウス骨髄由来マクロファージを用いた公共データから,エンハンサー活性を示すヒストンH3の4番目のリシン残基のモノメチル化(H3K4me1)の高い結合ピークが,2番染色体上のHdc遺伝子座周辺に広く集積していることがわかった(図1).この結果から,組織特異的なHdc遺伝子の発現制御配列は遠位隣接領域やイントロンに広範に分布していると考えた.そこで,Hdc遺伝子の遺伝子座を含む293 kbの大腸菌人工染色体(bacterial artificial chromosome:BAC)クローンに緑色蛍光タンパク質(green fluorescence protein:GFP)を挿入したレポーター構築を用いてトランスジェニックマウスを作製し,in vivoでのヒスタミン産生細胞のモニターリングを試みた(図2A9)Hdc-BAC-GFPマウスでは,主要なヒスタミン産生細胞である腹腔内の肥満細胞や骨髄中の好塩基球に加えて,胃壁のクロム親和性細胞や,視床下部の結節乳頭核の神経細胞においてもGFP発現が観察された(図2B9).マウス作製時の偶発的な導入遺伝子切断により,5′上流10 kb以遠の遠位隣接領域を含むライン1と,この遠位隣接領域が含まれないライン2のHdc-BAC-GFPトランスジェニックマウスが樹立され,血液細胞でのGFPレポーター発現をそれぞれ別個に比較した.その結果,好塩基球や肥満細胞でのGFPレポーター発現はライン1とライン2のいずれにおいても観察されたが,マクロファージやその他の顆粒球系細胞でのGFPレポーター発現は,遠位隣接領域が含まれないライン2では失われることがわかった9).これらの結果は,好塩基球や肥満細胞でのHdc遺伝子発現に関わるエンハンサーはプロモーターの比較的近位に存在し,その他の骨髄球系細胞でのエンハンサー配列は,さらに遠位の隣接領域に存在することを示唆する.最近のマウス骨髄由来肥満細胞を用いたエピゲノム解析の結果から,Hdc遺伝子の上流−8.8 kbとプロモーター近傍の+0.3 kbの領域に,エンハンサー活性を示すヒストン修飾が集積していることが示された10).また−8.8 kbの領域には転写因子GAT A2により発現誘導される転写因子MITFが結合し骨髄由来肥満細胞でのHdc遺伝子の発現を正に制御することが示された.我々の作製した2ラインのHdc-BAC-GFPマウスにはいずれも,この−8.8 kb周辺領域が含まれると予想され,肥満細胞特異的な遺伝子発現制御が支持されていると推察している.

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図1 マウス2番染色体上のヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子座(Hdc)周辺でのヒストンH3の4番目のリシン残基のモノメチル化(H3K4me1)集積(骨髄由来マクロファージでのデータ)

Hdc遺伝子のプロモーター近傍(E1)のみならず,第3, 8, 10エクソン(E3, E8, E10)周辺や隣接領域にH3K4me1の高いピーク(*)がみられ,遺伝子制御領域が広範囲に分布していると考えられる.UCSC genome browser(http://genome.ucsc.edu)のデータより作図.

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図2 Hdc-BAC-GFPマウスによるヒスタミン産生細胞のモニターリング

(A)ヒスタミン合成律速酵素であるヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子座(Hdc)を含む293 kbのBACクローンにGFP遺伝子を挿入したレポーター構築を用いてHdc-BAC-GFPマウスを樹立した.(B)骨髄細胞でのヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)とGFPの二重免疫染色像.HDC陽性のヒスタミン産生細胞でGFPレポーターの発現を認める.(C)Hdc-BAC-GFPマウスの肺でのGFP発現をin vivoイメージングにより観察した.LPS投与によりGFP陽性ヒスタミン産生細胞が肺に集積する.文献9より改変.

5. 敗血症病態形成へのヒスタミンの関与

敗血症は,重症感染症に対して制御不能な炎症反応の結果,致死的な臓器障害に陥った状態であり,重症敗血症の死亡率は25~40%とされる11).敗血症治療の需要は高まっている一方で,急性肺障害を代表とする敗血症性臓器障害の病態メカニズムは不明な点が多い.敗血症時には,TNFαやIL6などの炎症性サイトカインが過剰産生され,これらのサイトカインと免疫担当細胞間の相互作用によるサイトカイン・ストームが病態形成に大きく関わると考えられている.一方で,敗血症患者では血中ヒスタミンレベルが有意に高値となることが示されており,ヒスタミンが敗血症の病態形成に関わることが示唆されてきた12).細菌内毒素のLPS投与や,盲腸結紮穿孔(cecal ligation puncture:CLP)による敗血症の動物モデルでは,肝,腎,肺など各臓器でのヒスチジン脱炭酸酵素の発現が誘導され,臓器中のヒスタミン量が上昇する6).しかし,これらのヒスタミン産生を担う臓器内の細胞種は必ずしも明らかではない.肝臓でのヒスタミン産生細胞は,顆粒球,単球,マクロファージ,肥満細胞,T細胞のいずれでもないとの報告もある8)

CLP誘発性敗血症において,ヒスタミン産生が失われたHDCノックアウトマウスでは,血中のTNFα, IL1β, IL6およびMCP1などのサイトカイン・ケモカインレベルが減少し,各臓器障害が軽減することが報告されている6).この結果は敗血症において,ヒスタミンが炎症性サイトカイン・ケモカインの発現誘導に関わり,病態形成の促進に関わることを示唆する.ヒスタミンがどのようなシグナル伝達を介して,サイトカイン・ケモカインレベルを増加させるのかについては明らかとなっていない.一方で,ヒスタミンはCLPモデルの腹腔で炎症抑制作用を発揮し,大腸菌の除去を抑制しているという報告もあり13),詳細な比較検討が必要である.

6. 敗血症時の肺内ヒスタミン産生細胞のモニターリング

我々がHdc-BAC-GFPマウスに対してLPSによる敗血症を誘導した際,in vivoイメージング解析により肺へのGFP陽性細胞の集積が観察され,個々の細胞でのGFP発現の増強が顕著に確認された(図2B9).これらの肺に集積する細胞に関して,フローサイトメトリーによる表面マーカー解析や細胞の形態観察を行った結果,その主要な画分が好中球であることがわかった.この結果から敗血症時に肺に集積する好中球がヒスタミン産生の主要な責任細胞であると考えられた.これまでの臨床研究では,重症喘息患者において気管支内への好中球浸潤が亢進し,ヒスタミンレベル上昇と症状の増悪に関与する可能性が示されている14).我々の結果は,好中球が産生するヒスタミンが敗血症時の肺傷害誘導に関わる可能性を示していると考えている.

7. おわりに

今回我々は,Hdc-BAC-GFPトランスジェニックマウスを活用し,敗血症時の肺に集積する好中球がヒスタミン産生細胞であることを明らかにした.今後,Hdc-BAC-GFPマウスを活用して好中球でのHdc遺伝子発現誘導のメカニズムを明らかにしていく必要がある.また,敗血症による肺水腫や重症気管支喘息などの病態を改善するために,好中球を標的とした治療法開発が重要となってくると考えている.

謝辞Acknowledgments

本研究の大部分は東北医科薬科大学医学部で行われた.ご指導いただきました東北大学工学研究科名誉教授大津浩先生,東北大学医学系研究科教授山本雅之先生をはじめ共同研究者の皆様に心から感謝いたします.

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著者紹介Author Profile

森口 尚(もりぐち たかし)

東北医科薬科大学医学部医化学教室教授.博士(医学).

略歴

1994年筑波大学医学専門学群卒業,筑波大学整形外科入局.2001年筑波大学大学院医学研究科修了.03年Univ of Michigan, Cell & Dev Biol, Research fellow. 07年東北大学大学院医学系研究科医化学分野.16年より現職.

研究テーマと抱負

炎症・アレルギー・感染症に関してGATA転写因子群に焦点をおいて治療標的としての可能性を探っています.

ウェブサイト

https://www.dmbc-tmpu.com

趣味

マラソン・トレイルランニング・ロードバイク.

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