キイロショウジョウバエを用いたトランスグルタミナーゼの生理機能と分泌機構の解析Functional analysis and a secretion mechanism of Drosophila Transglutaminase
九州大学大学院理学研究院生物科学部門生体高分子学研究室Department of Biology, Faculty of Science, Kyushu University ◇ 福岡市西区元岡744 ◇ 744 Motooka, Nishi-ku, Fukuoka
九州大学大学院理学研究院生物科学部門生体高分子学研究室Department of Biology, Faculty of Science, Kyushu University ◇ 福岡市西区元岡744 ◇ 744 Motooka, Nishi-ku, Fukuoka
トランスグルタミナーゼ(TG)は後生生物に高度に保存されているタンパク質間の架橋に関わる酵素であり,細胞内外で生存に必須の役割を果たしている.筆者らはキイロショウジョウバエを用いてTGの機能解析を推進してきた.本酵素はハエ生体内において,外骨格の形成に関与すること,腸管のムチン層に相当する囲食膜の安定化に寄与すること,腸内上皮細胞内では転写因子の不活性化を行うことで腸内細菌叢の恒常性に関与することが判明した.さらに,ハエTGの遺伝子は1種類しか存在しないが,選択的RNAスプライシングにより生じた2種類のバリアントのうちTG-Aは脂質修飾依存的にエクソソームとして分泌されることが判明した.本稿ではハエTGの生理機能と分泌の機構について概説する.
© 2020 公益社団法人日本生化学会© 2020 The Japanese Biochemical Society
トランスグルタミナーゼ(transglutaminase:TG)はリシン残基(または一級アミン)とグルタミン残基の側鎖間をε-(γ-グルタミル)リシン結合で架橋するCa2+依存性の酵素である1).哺乳類には遺伝子と組織局在の異なる8種類のTGアイソザイムが存在している2).たとえばTG1は,皮膚上皮において複数の構造タンパク質を架橋重合し,物理的・化学的に安定な皮膚の形成を担っている3).またTG2はアポトーシスや転写制御,血液凝固因子のXIIIa因子はフィブリンどうしの架橋による凝固塊の安定化や創傷治癒などに関与している4, 5).いずれのTGアイソザイムも変異や発現異常によって疾患を引き起こすことが知られている.一方で,キイロショウジョウバエ(ショウジョウバエ,Drosophila melanogaster,以下ハエと表記する)のTG遺伝子はゲノム中に1種類のみ存在し(CG7356),分子量約87,000のタンパク質をコードしている.哺乳類TGにはいずれも分泌に必要なN末端分泌シグナル配列は付加していないが,ハエTGにおいても同様にその一次配列からは見いだされない.またハエと哺乳類のTGのアミノ酸類似性はおよそ50%であり,酵素活性に必須の触媒3残基(システイン,ヒスチジン,アスパラギン酸)も保存されている.本稿では,RNA干渉(RNA interference:RNAi)を用いたTGのハエ生体内での機能解析と,分泌シグナル配列に依存しない非典型的な分泌機構について概説する.
ハエにおいては,GAL4/UASシステムにより遺伝子の過剰発現やRNAiを個体レベルで容易に行うことが可能である.国内のグループにより,ハエTGを過剰発現させると複眼の形成異常や翅脈の過形成が起こることが報告されている6, 7).一方で,筆者らはTGの全身性RNAiにより,約80%程度が蛹の段階で致死となること,また成虫の約90%が翅の水疱形成や腹部外骨格のメラニン化消失の形態異常を引き起こすことを見いだした8).昆虫の外骨格を形成するクチクラはキチンおよびキチン結合性のタンパク質から構成される.野生型成虫の翅の中に含まれるタンパク質群は通常,羽化後24時間で高度に架橋化され抽出ができなくなるが,TGをRNAiした個体の翅からは複数のタンパク質が抽出された.これらのタンパク質はTGの機能不全により架橋化が不十分となり遊離型となった基質群だと推定し,質量分析計による同定を行った.同定された12種類についてRNAiにより全身の発現を抑制したところ,larval serum protein 2(LSP2)およびキチン結合タンパク質であるCpr76Bdにおいて腹部のメラニン化消失が認められた.また,7種類は全身性RNAiで致死となったが,C型レクチン様タンパク質のClect27およびキチン結合タンパク質であるCpr97Ebにおいては翅原器特異的なRNAiにより翅脈の消失と翅の形態異常が観察された.またこれら4種類のタンパク質について,組換え体を用いたin vitroの再構成系でTGの基質となることが確認されたことから,TG依存的に強固な外骨格形成へ寄与しているものと考えられる(図1A)8).
血液凝固XIIIa因子はフィブリンを架橋することにより,安定な凝固塊形成に寄与している.一方でスウェーデンのグループにより,TGのタンパク質間架橋反応の競合的阻害剤であるモノダンシルカダベリン(一級アミンとしてタンパク質のグルタミン残基に取り込まれる)を用いた実験により,ハエTGは血リンパ凝固に関与していることが報告された9).質量分析やRNAiを用いた解析の結果,TGは血リンパ中のタンパク質Fondueを基質としていること9),さらに同じく血リンパタンパク質であるhemolectinもTG依存的な架橋反応の基質となり,安定な凝固塊形成や創傷治癒に関与することが判明した10).また,TG依存的な架橋反応はこのような凝固や創傷治癒に関与するだけでなく,侵入した異物の包囲化にも寄与している.TGの合成基質であるビオチン化ペンチルアミン(BPA)はアミノ基供与体となり,TG依存的にタンパク質中のグルタミン残基に取り込まれる(同時にモノダンシルカダベリンと同様に競合阻害剤としても働く).BPAを野生型ハエ体液および感染微生物と混合させたところ,感染微生物表層でのBPA集積が認められた.TG依存的にBPAが取り込まれたタンパク質をストレプトアビジン結合ビーズで回収し解析を行った結果,血リンパ中のLSP1およびLSP2が表層タンパク質とTG依存的に架橋されることが判明した.以上のことにより,感染微生物はその表層タンパク質を介しLSP1/2やFondue凝固塊に取り込まれ包囲化されることが示唆される(図1B)11).
我々ヒトを含む多細胞生物は,自身の体細胞よりも多くの常在細菌を保持している,いわば生命の共同体ということができる.腸内の共生細菌は,宿主の免疫反応から免れて増殖し,腸管の恒常性に寄与するとともに,ビタミンなどの必須栄養源の供給を行っている.このような腸内の共生細菌叢は,腸管の免疫系により管理されているが,共生細菌に対する宿主の免疫寛容の仕組み,つまり異物であるはずの細菌がなぜ宿主から排除されてしまわないのかという分子機構は,多くの部分が謎に包まれている.ハエにおいてはヒトと比べシンプルな腸内細菌を有している(およそ10~50種,計500万)こと,また無菌化が容易であることから,腸管免疫と腸内細菌叢の関係を研究する上でよい研究材料となっている.ハエ腸管では,細菌の刺激を受け取った上皮細胞の受容体が,immune deficiency(IMD)経路と呼ばれる自然免疫経路を介して細胞内に情報を伝達し,最終的にDiptericinやCecropinと呼ばれる抗菌ペプチドを腸管内腔へ分泌することにより腸内細菌への応答を行っている(図2A)12–15).IMD経路はグラム陰性細菌や一部のグラム陽性細菌由来のペプチドグリカンによってシグナルが開始し16),受容体であるPGRP-LC17, 18)やPGRP-LE19)によって認識される.最終的に,NF-κBファミリーの転写因子のRelishが限定分解を受け,C末端側のIκB様アンキリンリピートドメインが遊離することでN末端側のRelish-Nが核内へと移行する(図2A).本経路は経口感染細菌のみならず,腸管の常在細菌によっても活性化が引き起こされるため,過剰な腸管免疫が引き起こされないよう適切に制御する機構が複数備わっている20–25).筆者らはTGがIMD経路の一つの抑制因子であることを見いだした.
(A)IMD経路による抗菌ペプチド産生系とTGによるその抑制機構を示す.腸内細菌により本経路が活性化すると,カスパーゼであるDreddがRelishを限定分解する.切断によって生じたRelish-Nが核内に移行し抗菌ペプチドの転写を行うが,TGはRelish-Nの重合化やポリアミンの付加反応を触媒することで,過剰な免疫反応を抑制する.(B)メタゲノム解析の結果を示す.野生型ではAcetobacter属が占有しているが,TG-RNAi系統ではAcetobacter属に加えてProvidencia属も半数程度占めるようになる.
まずTGをRNAiした成虫の腸管では,IMD経路制御下にある抗菌ペプチドのmRNA発現量が亢進し,生存率は野生型と比較し有意に低下することを見いだした.一方でこのハエを無菌飼育下に置くと生存率は完全に回復した.この原因が腸内細菌にあるものと考え,TGをRNAiしたハエ腸管抽出液を無菌飼育した野生型ハエに経口投与するとその生存率が低下した.腸管のIMD経路におけるTGの基質タンパク質を同定する目的で,合成基質BPAをハエ成虫に経口投与し,細胞内タンパク質へ取り込まれたBPAを蛍光標識ストレプトアビジンにより検出した.その結果,TGはIMD経路の転写因子Relish-Nを標的にしていることが判明した15).Relishは活性化の際にカスパーゼによりN末端側のRelish-NとC末端側のRelish-Cに切断されるが,組換え体を用いた解析によりTGは活性化型のRelish-Nへ特異的に作用し高分子のポリマーを形成すること,Relishの全長やRelish-Cには作用しないことが判明した15).さらに,組換え体のRelish-NとTGを合成基質モノダンシルカダベリン存在下で作用させ,質量分析計を用いてモノダンシルカダベリンがRelish-Nのどのグルタミン残基に取り込まれるかを確認した.その結果,モノダンシルカダベリンは少なくとも六つのグルタミン残基にTG依存的に架橋され,そのすべてがRelish-Nの転写活性に必須なDNA結合領域に位置していた26).さらに,ポリアミンであるスペルミンやスペルミジンをTG存在下でRelish-Nに作用させたところ,これらポリアミンの取り込みやRelish-Nの転写活性能の低下が認められた.以上のことから,細胞内のTGはRelish-Nどうしの架橋反応による不活性化のみならず,Relish-Nとポリアミンの架橋形成により抗菌ペプチド産生の抑制に寄与していることが明らかとなった(図2A)26).一方で哺乳類においては,TG2がリポ多糖刺激により炎症を起こした細胞内において発現が上昇し,さらにはNF-κBの核移行を抑えているIκBを架橋化させることでNF-κBの核移行を促し炎症を増悪させること,また,アルコール処理した肝細胞においてはTG2が細胞核に移動し,転写因子Sp1を過度に架橋し不活性化させることにより肝細胞増殖因子受容体であるc-Metの遺伝子発現を低下させ,最終的にアポトーシスを誘発することなどが報告されている27, 28).TGを介した細胞内の情報伝達制御は種を超えて存在していることがうかがえる.
上述のようにハエTGはRelish-Nの不活性化を介したIMD経路の抑制により常在細菌の恒常性維持を行っており,TG遺伝子のRNAiにより成虫の短命が引き起こされる15).ハエ腸管のメタゲノム解析により,TG-RNAi系統は対照系統とは異なる細菌叢になっていること,すなわち,対照系統ではAcetobacter属の細菌が主体であるのに対し,RNAi系統ではAcetobacter属に加えてProvidencia属が占有していることが判明した(図2B)29).我々は,ハエの腸管から4種の細菌系統(Acetobacter persici SK1, Acetobacter indonesiensis SK2, Lactobaccilus pentosus SK3, Providencia rettgeri SK4)を単離した.なお,SK1およびSK3はTG-RNAi系統および対照群の両系統から得られ,SK2およびSK4はTG-RNAi系統のみから得られた.ハエにおいては,無菌化した個体に特定の細菌を経口投与することにより,その細菌単独の宿主への影響を調べることが可能である.ハエから単離した上記4系統について,TG-RNAi系統および対照系統に単独摂取させたところ,SK1およびSK4は両ハエ系統に同量程度定着すること,SK2およびSK3についてはTG-RNAi系統へは定着するが,対照系統には定着しないことが明らかとなった.このことより,ハエ腸管の抗菌ペプチドの量的環境により定着しやすい細菌種が異なることが示唆された29).抗菌ペプチドの産生量は腸内細菌叢に影響を与え,過度な産生はいわゆるdysbiosisと呼ばれる病的な症状を引き起こす.筆者らは,TG-RNAi系統の腸管で過剰に産生された抗菌ペプチドが腸内細菌種変動を誘発し,Acetobacter属が優勢な状態から,Acetobacter属とProvidencia属が優勢な状態に変化させると推定した.そこで,単離した4系統それぞれに対する抗菌ペプチドの影響をin vitroで解析した.まず,SK1はcecropin A1およびdiptericinに対し最も強い耐性を示した.予想に反し,IMD経路が過剰に活性化しているRNAi系統から単離されたSK4はcecropin A1に対する感受性が高かった.このことはハエ腸管内では,in vitroの実験系では説明のつかない腸内細菌に対する環境変化が起こっていることがうかがえる.近年,ハエ生体に存在する抗菌ペプチドの単独や複数種のノックアウト系統が樹立され,種々の病原細菌に対するそれぞれの抗菌ペプチドの効果が解明されつつある30).今回得られた腸内細菌についても,抗菌ペプチドノックアウト系統を用いた生体での解析が必要になると考えられる.一方で,野生型ハエの生存率に対する各種細菌の影響を調べたところ,SK1およびSK4を同時に投与すると腸管において著しいアポトーシスが誘発し,ハエの短命を引き起こした.興味深いことに,それぞれの株を単独で投与した場合には生存率の低下は引き起こされなかった29).このことは,細菌と宿主のみならず,細菌間の相互作用も宿主腸管へ影響していることを示唆している.
腸管の恒常性維持は常在細菌叢と腸管免疫のバランスによって成り立っている.昆虫においては上述のような抗菌ペプチド産生系に加えて,囲食膜(いしょくまく)と呼ばれるキチンおよびキチン結合性タンパク質から構成される防御壁が経口感染した病原性細菌からの生体防御の第一線を担っている31).ハエにおいては,ドロソクリスタリン(Dcy)が囲食膜構成タンパク質として同定され,Dcy変異体系統を用いた研究により高病原性細菌からの防御を担っていることが示された32).近年の筆者らの研究によりDcyは囲食膜構成成分のキチンに結合性を示すこと,カルシウムイオン依存的に自己重合し繊維状構造を構築することが判明した33).さらに囲食膜において,TGはDcyを高度に架橋化することが明らかとなった(図3).この架橋体は強固な囲食膜形成に必要不可欠であり,強毒性細菌であるPseudomonas entomophilaや緑膿菌からの感染抵抗性に寄与していることが明らかとなった.これら強毒性細菌の外分泌溶液を経口投与したTG-RNAi系統は囲食膜がもろくなり,著しく短命となった.組換え体や蛍光顕微鏡を用いた解析により,TG依存的に高度に架橋し安定化したDcyの繊維状構造は,細菌の分泌する毒素プロテアーゼ(AprA)から耐性を示すこと,膜障害性の毒素タンパク質(Monalysin)の吸着も行うことが明らかとなった(図3).さらに,腸管特異的にTGをRNAiした系統では,腸管のみならず全身性の過剰免疫応答も引き起こされるため(筆者ら未発表データ),TGによる囲食膜の安定化は感染細菌からの腸管上皮保護のみならず腸内細菌由来のペプチドグリカンの体液中への侵入阻止にも関与していることが推定される.
ハエのTGはゲノム中に1種類しか存在しないが,選択的RNAスプライシングにより2種類のバリアント,すなわちTG-A(FBpp0079155)およびTG-B(FBpp0079156)が産生される.両者はほぼ同一のアミノ酸配列を有するが,そのN末端のみTG-Aでは46, TG-Bでは38アミノ酸残基の違いが認められる.それぞれのmRNAの発現量はクロップと呼ばれる器官で最も高く,また3齢幼虫や蛹前期においてはTG-Bの発現量がTG-Aに比べ5倍から10倍程度高いこと,蛹後期で両発現量が最も高いことがわかっている34).これまでに,ハエTGは細胞内外で多機能性を発揮するマルチプレーヤーな酵素であることを述べてきたが,その分泌機構は不明のままであった.興味深いことに,分泌に必要なN末端の分泌シグナル配列はハエにも哺乳類に存在する8種類のTGいずれにも見いだされていない.一方で,筆者らはハエTG-AのN末端に代表的な脂質修飾であるN-ミリストイル化のコンセンサス配列(NH2-Met-Gly-Gln-Lys-Leu-Ser-Cys-Cys-)を見いだした(図4A).点変異体を用いた解析により,TG-AはN末端から2番目のGly残基にN-ミリストイル化,さらに7番目と8番目のCys残基にはS-パルミトイル化修飾を受けること,N-ミリストイル化がS-パルミトイル化の必要条件になっていることが明らかとなった(図4A)34).両修飾を受けたTG-Aは,未知の機構により多胞体エンドソーム(後期エンドソーム)と呼ばれるオルガネラに輸送され,この局在化はGlyやCys残基の変異や脂質修飾阻害剤により完全に抑制された.一方で脂質修飾を受けないTG-Bはサイトゾルにとどまる.N-ミリストイル化やS-パルミトイル化はタンパク質の疎水性の上昇を引き起こし,通常は形質膜へと輸送される.TG-Aは両修飾により多胞体エンドソームへ運ばれるまれなケースであるといえるが,その分子機構は現在も不明のままである.
(A)TG-AおよびTG-BのN末端の非共通配列を示す.TG-Aには赤線で示すN-ミリストイル化コンセンサス配列を有する.また,S-パルミトイル化を受けるシステイン残基を緑色で示す.(B)N-ミリストイル化およびS-パルミトイル化修飾を受けたTG-Aは未知の機構により多胞体エンドソーム(MVB)に輸送される.TG-Aは細菌などの外部刺激に応答し,Rab27依存的にエクソソームとして分泌される.分泌されたTG-Aは細菌の包囲化や他細胞による取り込みが行われると推定される.
このように多胞体エンドソームに局在化したTG-Aは,細菌感染を介したカルシウムシグナリングにより細胞外小胞(EVs,エクソソーム)として分泌されることがハエ血球や培養細胞を用いた実験から明らかとなった(図4B).典型的な小胞体/ゴルジ体を介した分泌経路阻害剤,たとえばBrefeldin A処理ではTG-Aの分泌は阻害されなかったが34),多胞体エンドソーム形成やエクソソーム分泌段階に必要な低分子量GTPaseのRab1135)やRab2736)のノックダウンによりTG-Aの分泌量が低下し,加えて,界面活性剤やプロテアーゼを用いた解析により,TG-Aはエクソソームに内包された状態で分泌されることも明らかとなった34).以上のことからTG-Aは脂質修飾を介し,非典型的な経路により分泌されることが示された.TG-Aは感染細菌依存的に分泌されるため殺菌や排除に関与していること,また,外骨格や囲食膜の形成の際には局所的な恒常的カルシウムシグナリングの活性化が起こり,分泌が促されていることが考えられる.一方で脂質修飾を受けない細胞内型のTG-BはRelish-Nの不活性化を介した腸内細菌叢の維持に関与しているものと推定される(図4B)34).
これまでに多種にわたるハエTGの生理機能とその脂質修飾依存的な分泌機構について概説してきた.タンパク質の脂質修飾は,シグナル伝達因子の形質膜への局在安定化や活性の調節など生体内で重要な役割を担っている.一方で,脂質修飾が引き起こすタンパク質の細胞外分泌に関する知見は哺乳類Wntなど数例が報告されているのみである37, 38).前述のようにTGは無脊椎動物から哺乳類に至るまで高度に保存されているが,いずれも分泌シグナル配列は有しておらず,分泌機構についてはほとんど不明である.このような通常の小胞体/ゴルジ装置を介した分泌経路を経由しない分泌タンパク質は,体系的に“Unconventional protein secretion pathway”として整理されつつあるが,いまだに分泌機構が判明していないタンパク質が多く残されている.また,周知のようにエクソソームは多種多様な細胞から分泌され,血流やリンパ液に乗り遠隔の器官に情報を届ける,いわば細胞間コミュニケーションツールとして機能している.エクソソームは生体恒常性維持やがんの転移など,さまざまな生理現象に関与しているため,現在は重要な創薬・診断ターゲットにもなっている.ハエ培養細胞を用いた系においても,TG-A内包エクソソームの多細胞取り込みが確認できている34).一方で,エクソソームへのタンパク質の特異的な輸送機構は日々知見が積み重なっているものの,その全貌は明らかにされていないままである.今後,脂質修飾を介したタンパク質の多胞体エンドソーム-エクソソーム輸送機構の解明が進むことにより,TG分泌機構のみならず該当分野がより発展することが期待される.
本総説は2019年度奨励賞を受賞した.
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