生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 92(3): 462-466 (2020)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2020.920462

みにれびゅうMini Review

植物におけるゲノム編集技術と応用の最新展開Perspectives on the application of plant genome editing

徳島大学大学院社会産業理工学研究部准教授Faculty of Bioscience and Bioindustry, Tokushima University ◇ 〒770–8513 徳島県徳島市南常三島町2–1 ◇ 2–1 Minami-josanjima, Tokushima-city, Tokushima 770–8513, Japan

発行日:2020年6月25日Published: June 25, 2020
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1. はじめに

近年,さまざまな植物種でのゲノム解読が加速し,遺伝子およびゲノムの機能解明に用いるだけでなく,ゲノム情報を利用した分子育種への活用が期待されている.植物におけるゲノム解析技術の利用については,モデル植物を用いた基礎研究での知見が蓄積する一方で,農業・資源作物における応用研究においては,さまざまな種や品種などが存在しており,その多様性に応じた技術の最適化が重要となってくる.農業分野ではゲノムの多様性を交配育種で活用し望む形質を持つ農業品種を得てきたが,その選抜や固定に長い期間や大きな労力がかかってきた.近年,任意の標的配列に対して特異的に変異導入するゲノム編集技術が開発された.この技術はさまざまな生物種において効率よく機能することから,医学,生物学,農学など広範な研究分野で活用されるようになった.ゲノム編集技術の特徴は,人工ヌクレアーゼによるDNA二重鎖切断(DNA double strand break:DSB)を標的特異的に引き起こすことであり,その修復エラーにより変異を導入することでゲノム上の任意の塩基配列を改変する技術である(図1).ゲノム編集による変異導入メカニズムは自然変異と同様の経路によることから,最終的に得られた変異体からゲノム編集に用いた人工ヌクレアーゼを除去できれば,交配育種における長い時間の短縮化や労力の軽減と,さまざまな形質付与による新品種開発の発展が期待されている.ゲノム編集技術を植物においてより効率よく利用するためには,個々の植物種・品種に応じた技術の最適化だけでなく,ゲノム編集ツールの植物細胞への導入方法や変異植物体の再生や単離など,周辺技術をいかに活用できるかが鍵となってきた.本稿では,植物ゲノム編集技術における最近の進歩として,以上のような周辺技術を含めた最新の知見について紹介する.

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図1 DNA二重鎖切断と修復経路

真核生物においてDNA二重鎖切断(DSB)はDNA修復経路によって元の配列に修復される.修復経路である非相同末端結合修復(NHEJ)においては,修復エラーによりDNAに変異が加えられる.

2. 植物ゲノム編集ツールの最適化—組織特異的プロモーターの利用

ゲノム編集には開発の順に三つの主要技術ZFN, TALEN, CRISPR/Cas9があり,いずれも標的部位にDSBを導入する人工ヌクレアーゼである.細菌の免疫機構であるCRISPR/Cas9は,標的認識に短鎖RNA分子(gRNA)を用いており,2012年にゲノム編集に利用できることが示されて以来,ベクター構築の容易さから急速にさまざまな分野において利用されている.医療や創薬分野におけるヒト細胞やマウスなどでの利用,農林水産業や他の産業分野における農作物および資源作物,魚や家畜,藻類などに活用され,植物では,イネの他,コムギ,トウモロコシなどの穀物,ジャガイモやトマト,果実や樹木など,さまざまな種や品種で利用できることが示されてきた1).広範な生物種を用いる必要のある植物ゲノム編集においては,ツールを植物種や品種によって最適化することが重要である.Cas9のコドンや発現プロモーターを改変し,それぞれの種・品種・細胞に適切なものを選ぶ必要がある.

シロイヌナズナのゲノム編集ツールを利用するには,一般的な形質転換法である土壌細菌アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens)を用いて細胞へツールの導入を行うが,このとき,組織培養は行わず花芽組織に直接アグロバクテリウムを感染させ導入する,いわゆるin planta法が用いられる.in planta法では,導入世代における生殖細胞や受粉後の受精卵や胚,さらに幼植物体における茎頂分裂組織(将来的に生殖細胞へと分化する組織)でのCas9の十分な発現が,効率的な変異導入に重要であることが示されてきた(図22).たとえば,ELONGATION FACTOR-1α(EF1α)プロモーターはシロイヌナズナの茎頂や生殖細胞で強い発現を示し,これを用いたCRISPR/Cas9により,形質転換世代の次世代で迅速に,両方の対立遺伝子に変異がそれぞれ導入されるbi-allelic(バイアレリック)変異体を得ることが可能である.我々は,このシステムにより,気孔における蒸散の制御に関わるプロトンポンプOST2/AHA1遺伝子の変異体3)や,乾燥ストレス応答のシグナル伝達経路を制御する新規ペプチドCLE25遺伝子の変異体の単離を行った4)図2).以上のようなCas9の組織特異的な発現が重要であることは,後述のコムギのin-planta法による直接導入iPB法5)でも示されている.

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図2 Cas9の組織特異的発現制御によるシロイヌナズナ高効率ゲノム編集技術

Cas9の受精卵,胚組織,生殖組織における発現が次世代での変異体単離の効率化に重要である.最近,Mikiらによって,受精卵および胚組織特異的発現がシロイヌナズナにおける相同組換え(HR)の効率化をもたらすと報告された6)

シロイヌナズナでの組織特異的プロモーターによるゲノム編集活性の向上は,相同組換え(homologous recombination:HR)経路による遺伝子ターゲッティング(GT)においても見いだされることが最近報告された6, 7).植物ではHRの効率は極端に低く,GTはこれまでイネ,トウモロコシなどの単子葉作物やタバコなどのモデル植物で限られた報告例があったが,それには技術の最適化や改良が必須であった1).たとえば,HRと拮抗的に機能すると考えられるDNA修復経路・非相同末端結合(non-homologous end joining:NHEJ)に対し,Ku70/80やLig4などのNHEJ経路の機能因子を抑制してGT効率を向上させる方法や8),選抜系の改良によりGTが起きた細胞の選抜を効率化する系(ポジティブ・ネガティブ選抜)がイネなどにおいて確立されてきた9).このような研究の現状の中,Mikiらは受精卵・胚特異的DD45/EC1.2プロモーターを用いてCas9を発現させることにより,シロイヌナズナにおいて高効率でGTを引き起こすことに成功した6).この研究では,通常のCRISPR/Cas9実験によるNHEJを介した変異体を作製する際,高効率にノックアウト作製を可能とするYAO55CLV3などの茎頂分裂組織特異的プロモーターも同様に用いて,DD45/EC1.2プロモーターとGTにおける効果を比較した.その結果,GTを高効率に引き起こすのはDD45/EC1.2プロモーターのみであった.このような組織特異的発現がなぜシロイヌナズナにおける高効率GTをもたらすかはまだ未解明である.HRを介したDNA修復経路は,成熟した雌性配偶子において雄性配偶子よりも高い頻度で引き起こされるかもしれないという推論も示されているが10),今後,植物の配偶子と発生過程のDNA修復経路とゲノム編集に与える影響の詳細解明が待たれる.

組織特異的プロモーターによって変異効率が向上することは,トマトにおいても見いだされている11).我々は,tRNAプロセシングを介した多重ゲノム編集において,トマトカルスにおけるCas9の発現プロモーターの違いが長鎖欠失の効率におよぼす影響を調べた結果,トマト由来のELONGATION FACTOR-1α(EF1α)プロモーターが最も効率が高く,かつモザイク性が抑制されることを示した.さまざまな植物種において遺伝子の構成的高発現に用いられるCaMV35SプロモーターをCas9の発現に使用した場合には,gRNA間の長鎖欠失の誘導効率は低い一方で,個々のgRNAの標的配列周辺には変異が生じていたがモザイク性が高いことがわかった.また,興味深いことに,EF1αプロモーターによる長鎖欠失は,Cas9による二重鎖切断がそのまま連結するように(あたかも制限酵素処理後のライゲーションにより連結されるように)修復されていることが明らかになった11)図3).CaMV35SEF1αプロモーターがトマトカルスにおいてそれぞれどのような発現様式を持つかを調べた結果,CaMV35Sプロモーターはカルス全体において発現する一方で,EF1αプロモーターはカルスから形成されつつあるシュート原基の茎頂でより強い発現がみられることが明らかになった11).このようにCas9の発現様式の違いにより変異配列やモザイク性の違いが生じたことが示唆された.

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図3 トマトEF1αプロモーターの制御下でCas9を発現させた多重ゲノム編集が切断修復の正確性と低モザイク性を示す高効率変異導入を誘導する.

文献11より引用改変.

以上の結果は,植物における組織特異的DNA修復経路の存在と,その利用によるゲノム編集の効率化の可能性を示しているが,今後詳細な研究により解明する必要がある.

3. 植物ゲノム編集ツール導入系の開発

前述したように,植物のゲノム編集ツールの導入には,CRISPR/Cas9ベクターを用いたアグロバクテリウムによる形質転換が主要な方法として使用されているが,これは,アグロバクテリウムにより植物ゲノムにベクター上の一部の領域(T-DNA領域)が組み込まれることによる.近年,ゲノムへの遺伝子挿入を伴わない方法,あるいはアグロバクテリウム法を用いるに困難な植物種におけるゲノム編集ツールの導入法の開発が進められ,ベクターや,Cas9タンパク質とgRNAの複合体(ribonucleoprotein:RNP)を直接的に導入する方法が試みられてきた.たとえば,植物の細胞壁を細胞壁分解酵素で処理したプロトプラストに導入する方法やジーンガンを用いる方法である.ジーンガンは単子葉植物の遺伝子導入で古くから用いられてきたが,近年,RNPを直接導入する方法に応用され,コムギの茎頂組織への導入に利用することで効率よいゲノム編集ツール導入法(iPB法)5)として報告されている.

プロトプラストを用いる方法は,硬い植物組織を細胞一つ一つばらばらに遊離させる.このため種々の組織由来の細胞の状態を保ったまま取り扱うことができ,1細胞レベルでの変異導入による影響などの解析や,1細胞由来の系統や個体の作出など,基礎と応用研究の両者にさまざまな成果が期待できると考えられる.しかし,一方でプロトプラスト法における最も大きな問題点は,細胞壁を取り除いた1細胞を組織培養により植物個体へと再生させることが必須となる点であり,多くの植物種ではこの過程を誘導することが大変難しいことが示されている.また,培養変異も生じやすくなるという欠点もある.ここでも植物体再生技術の進展がゲノム編集技術の発展とともに重要であることが示唆される.これまで,プロトプラストを用いた直接導入法として,モデル実験が容易な植物種であるレタス12)での報告例の他に,ダイズ13),リンゴ14),ブドウ14)など,一般的に形質転換や植物体再生が困難な植物種で示されてきた.我々は,最近,リンゴとブドウにおけるプロトプラストを用いたCRISPR/Cas9の直接導入法プロトコルを報告した14)図4).これらの植物種では一般的に形質転換が困難で,かつ再生のための組織培養に長期間を要するため,形質転換を経ずに培養期間をより短縮する技術が必要性である.前述したように,今後,プロトプラストからの培養も含め再生系の改良が望まれる.以上,まとめると,形質転換が難しい植物種の応用のためには,ゲノム編集技術の周辺技術としての導入技術や再生技術などのさらなる開発が今後も必須である.

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図4 植物プロトプラスト細胞へのCas9とgRNA複合体(RNP)を用いた直接導入法によるゲノム編集技術

4. おわりに

ゲノム編集技術を植物細胞で利用する場合,生物種として動物とは異なる特徴により,進展が遅れてきたノックイン技術や植物細胞への導入法および植物再生法など,今後も植物科学の基本的技術として開発されるべき点がある.その他にも,植物において不活性化型Cas9(dCas9)と種々のエフェクタードメインを連結したツール,Cas9のPAM認識を改変した新規Cas9ツール,またCas9以外の新規ゲノム編集ツールの利用も報告されてきているが,応用的な利用は少なく今後の発展が望まれる.多様な植物種においてゲノム編集に利用されるべき遺伝子・配列情報については,ゲノム科学的知見の蓄積とインフォマティクス技術の向上により,さらなる進展が期待されている.今後,さまざまな植物種や品種でゲノム編集をより有効に活用するためにはゲノム情報を高度に利用すること,従来の育種法やゲノム育種法などと組み合わせることが必要で,それにより新しい育種技術が期待できる.将来に向けて世界規模での持続的な社会の維持と発展が目指される中,食料増産がかなう農作物形質や,環境耐性能の増強など,人々と環境に重要な育種へゲノム編集技術を有効に活用することが目標である.

引用文献References

1) Osakabe, Y. & Osakabe, K. (2015) Genome editing with engineered nucleases in plants. Plant Cell Physiol., 56, 389–400.

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著者紹介Author Profile

刑部 祐里子(おさかべ ゆりこ)

徳島大学大学院社会産業理工学研究部准教授.博士(農学).

略歴

1967年富山県生れ.90年東京農工大学農学部林産学科卒業.92年東京大学大学院農学系研究科修士課程修了.96年東京農工大学大学院連合農学研究科博士課程修了.2006年東京大学大学院農学生命科学研究科講師を経て,15年より現職.

研究テーマと抱負

植物ゲノム編集技術の開発.植物環境応答メカニズムを解明し分子育種に生かすための基礎研究を進めています.

ウェブサイト

https://www.bb.tokushima-u.ac.jp/faculty-member/plantbio/

趣味

ピアノ.

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