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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 92(4): 563-566 (2020)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2020.920563

みにれびゅうMini Review

ガレクチン-2その活性制御と生体防御における働きGalectin-2its functional regulation and roles in host defense

1城西大学薬学部Faculty of Pharmacy and Pharmaceutical Sciences, Josai University ◇ 〒350–0295 埼玉県坂戸市けやき台1–1 ◇ 1–1 Keyakidai, Sakado, Saitama 350–0295, Japan

2帝京大学薬学部Teikyo University, Faculty of Pharma-Science ◇ 〒173–8605 東京都板橋区加賀2–11–1 ◇ 2–11–1 Kaga, Itabashi-ku, Tokyo 173–8605, Japan

3東海大学医学部Tokai University, School of Medicine ◇ 〒259–1193 神奈川県伊勢原市下糟屋143 ◇ 143 Shimokasuya, Isehara, Kanagawa 259–1193, Japan

発行日:2020年8月25日Published: August 25, 2020
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1. はじめに

ガレクチン(Galectin)は,多細胞生物において広く保存された糖結合タンパク質ファミリーであり,糖鎖との相互作用などを介して,発生,がん,生体防御など,さまざまな生命現象に関わる1).ガレクチンファミリータンパク質の共通の性質は,①β-ガラクトシドに親和性を持つこと,②進化的に保存された糖結合ドメインを持つことである.これまでに哺乳類ではガレクチン-1~15までの15種類のガレクチンタンパク質が発見されており,発見された順番に1から番号付けがされている(注:ガレクチン-10など,β-ガラクトシド結合性を持たないガレクチンもある).ガレクチンの糖結合ドメインには特によく保存された8個のアミノ酸残基が存在し,それらのアミノ酸残基を介してGalβ1-4Glc, Galβ1-4GlcNAcなどのβ-ガラクトシド構造を含む糖鎖に結合する.また,ガレクチンは,それら分子内の糖結合ドメインの構成から,一つの糖結合ドメインを持ち二量体を形成するプロト型,一つの糖結合ドメインと多量体形成配列を持つキメラ型,二つの糖結合ドメインを持つタンデムリピート型の三つのグループに分類される(図1A, B).本稿では,プロト型ガレクチンの一つであるガレクチン-2の構造や働きについて,著者らの研究成果に焦点を当てつつ紹介する.

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図1 ガレクチンの配列と構造

(A)ガレクチンの構造の模式図.ガレクチンはそれら分子内の糖結合ドメインの構成から,糖結合ドメインを一つ持ち二量体を形成するプロト型,糖結合ドメインと多量体形成ドメインを持ち多量体を形成するキメラ型,糖結合ドメインを二つ持つタンデムリピート型,の3グループに分類される.(B)ガレクチン-1,-2,-3のアライメント.ヒトガレクチン-1 (NP_002296.1),ヒトガレクチン-2 (NP_006489.1),ヒトガレクチン-3(NP_002297.2)の配列の一部を比較した.アライメントはClustal W(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/)で行った.*印は,ガレクチンファミリーで保存された,ラクトースなどの認識に関わる8個のアミノ酸残基.ガレクチン-2の配列のうち,酸化あるいはS-ニトロソ化修飾されうる57番目のシステイン残基および,無脊椎動物特有のGalFuc構造の認識に関わる52番目のグルタミン酸残基に下線を引いた.(C)ヒトガレクチン-2の構造.ヒトガレクチン-2二量体および単量体の構造(PDB ID:5DG2)を,Viewer Lite 4.2を用いて描画した.ガレクチン間で保存された8個のアミノ酸残基の側鎖を緑で,S-ニトロソ化される57番目および75番目のシステイン残基,さらに,Galβ1-4Fucとの結合に関わるグルタミン酸残基の側鎖をピンクで表示した.ガレクチン-2に結合したGalβ1-4Glc(ラクトース)も表示した.

2. ガレクチン-2

ガレクチンは一般的にβ-ガラクトシドに結合するが,その詳細な糖結合特性はそれぞれ異なり,局在についても違いがある.ガレクチン-2の場合は,ガラクトースの2位にフコースがα結合することで親和性が高まること2),また,主に消化管や胎盤に発現することが報告されている.ガレクチン-2については,ユビキタスに発現するガレクチン-1や-3に比べて,それほど研究が進んでいない状況にある.PubMed(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/)で“ガレクチン”を検索すると,約8000報の論文がヒットする(2020年3月末時点).“ガレクチン-1”の場合は約1800報,“ガレクチン-3”の場合は約4100報,一方で,“ガレクチン-2”の場合は,124報のみである.しかし,ガレクチン-2は生体内において,さまざまな重要な役割を担っていることが明らかにされてきている.

たとえば免疫系では,in vitroでガレクチン-2がT細胞にアポトーシスを誘導すること3)や,マウスの実験モデルで,リコンビナントガレクチン-2タンパク質の投与がT細胞へのアポトーシス誘導により大腸炎の症状を軽減すること4)などが報告されている.また,ガレクチン-2は冠動脈疾患の治療標的として有望であること5)や,結腸がんの治療標的の一つとなりうること6)も報告されている.さらに,近年,ガレクチン-2の活性が翻訳後修飾により制御されていることや,ガレクチン-2が粘膜のムチンとの相互作用や異物との直接の相互作用を介して,生体防御に働く可能性も明らかにされつつある.

3. ガレクチン-2のS-ニトロソ化と酸化による活性制御

S-ニトロソ化は,タンパク質のシステイン残基のチオール基に対する翻訳後修飾であり,近年タンパク質の機能制御の機序として注目されている.マウス胃におけるS-ニトロソ化タンパク質の網羅的な解析が行われ,主要な基質の一つとしてガレクチン-2が同定された7).ガレクチン-2はその分子内に二つのシステイン残基,Cys57およびCys75,を持つ.そこで,Cys57およびCys75の変異体を調製し,それらのS-ニトロソ化効率を比較した結果,いずれのシステイン残基もS-ニトロソ化の標的となりうることが明らかになった8)

ガレクチン-2は,糖鎖に結合し二量体を形成することで複合糖質間を架橋し,その活性を発揮すると考えられる.ガレクチン-2のCys57は糖鎖結合部位近傍に位置しており(図1C),Cys57S-ニトロソ化はその糖結合能に影響する可能性が考えられた.そこで,架橋試薬を用いた二量体形成能の評価,フロンタルアフィニティークロマトグラフィーおよび糖鎖アレイによる糖結合能の評価,血球凝集アッセイによる糖鎖への結合力と多量体形成能の評価を行ったが,いずれにおいてもS-ニトロソ化の有無による大きな差はみられなかった.しかし,血球凝集アッセイに用いたマイクロプレートを数日間静置していたところ,S-ニトロソ化されていないガレクチン-2では血球凝集能が失われたのに対し,S-ニトロソ化した場合は血球凝集能が保たれていた.そこで,「非修飾のガレクチン-2は酸化により失活するが,S-ニトロソ化修飾により保護される」との仮説を立てて検証した.その結果,ガレクチン-2は試験管内での過酸化水素処理による酸化により,その糖結合能が失われること,あらかじめS-ニトロソ化しておくことで酸化による失活から保護されることが明らかになった8).さらに,ガレクチン-2変異体を用いた実験により,Cys57S-ニトロソ化が酸化的失活からの保護に重要であることが明らかにされ9),NMRなどによる実験結果から,Cys57が疎水性ポケットに位置し,S-ニトロソ化されることでポケットに栓がされ,構造が安定化されることが示唆された10)

これらのことから,ガレクチン-2が主に発現している消化管などの酸化的環境において,S-ニトロソ化が酸化的失活からの保護に関わる可能性が明らかになった.ガレクチン-1は酸化により失活することが古くから知られていたが,他のガレクチンについては同様の報告がなされていなかった.今後,他のガレクチンにおける同様の制御の有無についても検証の必要があると考えられる.

4. ガレクチン-2と生体防御

ガレクチン-2はT細胞などの免疫系細胞の活性制御に関与する.一方で,自己の免疫細胞以外への作用を介して,生体防御に働くことも明らかになりつつある.

消化管などの細胞表面を覆うムチンは細胞外の高分子量の糖タンパク質で,感染制御や胃酸からの防御に働くことが知られている.ガレクチン-2が主に消化管に発現していることから,ガレクチン-2とムチンの相互作用について検証した.まず,ブタムチンをモデルとしてガレクチン-2との相互作用を調べたところ,ガレクチン-2がβ-ガラクトシド依存的にムチンに結合すること,不溶性の凝集体を形成することが明らかになった11).さらに,ガレクチン-2はマウス胃粘液中のムチンMUC5ACと相互作用することも示唆された12)ことから,ガレクチン-2がムチンとの相互作用を介して,胃などの消化管におけるバリア機能の強化や生体防御に関わる可能性が考えられる.

また,ガレクチン-2が異物の糖鎖を直接認識して生体防御に働く可能性も示唆されている.Galβ1-4Fucは自由生活性線虫Caenorhabditis elegansや寄生性線虫ブラジル鉤虫,パハン糸状虫などの無脊椎動物に特有の糖鎖エピトープで,線虫ガレクチンLEC-6などと相互作用する13).LEC-6とGalβ1-4Fucの結合に重要なアミノ酸残基を同定し,ガレクチン間のアミノ酸配列を比較した結果,ガレクチン-2もGalβ1-4Fucとの結合に重要と考えられるアミノ酸残基(Glu52)を持つことが明らかになった(図1B).そこで,ガレクチン-2とGalβ1-4Fucとの相互作用について調べた結果,ガレクチン-2が寄生性線虫などに存在するGalβ1-4Fucと特異的に相互作用すること,そのエピトープを含む糖タンパク質と相互作用すること,線虫の成長に対して抑制的に作用すること,などが明らかになった14).また,ガレクチン-3が胃がんの発症などに関わるピロリ菌に対して抑制的に作用すること,ガレクチン-2も胃に発現することから,ガレクチン-2がピロリ菌に与える影響を検討した結果,ガレクチン-2が糖鎖依存的にピロリ菌を凝集させ,殺菌的効果を発揮することが明らかにされている15).今後,ガレクチン-2と異物の糖鎖との相互作用およびそれらの生物学的意義について,さらなる検証が望まれる.

5. おわりに

ガレクチン-2は同時期に発見されたガレクチン-1やガレクチン-3に比べ,それほど注目を集めてこなかったが,その活性制御や広い意味での生体防御における役割が明らかにされつつある(図2).免疫においては,以前は主に血液中における免疫細胞の働きに焦点が当てられていたが,近年は粘膜や消化管における免疫システムの重要性が示され注目を集めている.今後,ガレクチン-2の消化管等での生体防御における役割やその制御機構について研究が進められることで,レクチンや糖鎖の生物的意義の理解が深められることを期待したい.

Journal of Japanese Biochemical Society 92(4): 563-566 (2020)

図2 ガレクチン-2の修飾と生体防御における役割(仮説)

細胞外に分泌されたガレクチン-2は粘膜上や粘液中において,ムチンと相互作用し,また,ピロリ菌や寄生虫感染に対し抑制的に働く可能性が考えられる.その際,S-ニトロソ化は,ガレクチン-2の酸化的失活を防ぐことで,酸化的な環境におけるガレクチン-2の機能の維持に貢献している可能性がある.

謝辞Acknowledgments

本校で紹介した研究は主に城西大学および帝京大学で行われた研究であり,共同研究者の皆様および本研究に関わったすべての方に心より御礼申し上げます.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

武内 智春(たけうち ともはる)

城西大学薬学部生化学研究室准教授.博士(薬学).

略歴

1979年愛媛県生まれ.2001年北海道大学薬学部卒業.06年同大学院薬学研究科博士課程修了.帝京大学薬学部を経て,18年より現職.

研究テーマと抱負

ガレクチンはどのように糖鎖と相互作用しているのか,その相互作用にどのような意義があるのか調べています.また,ガレクチンや糖鎖の応用展開にも興味を持っています.

趣味

読書.

田村 真由美(たむら まゆみ)

帝京大学薬学部衛生化学研究室助教.博士(薬学).

略歴

2005年帝京大学薬学部卒業.07年同大学院薬学研究科博士前期課程修了.城西大学薬学部助手を経て,18年より現職.

研究テーマと抱負

ガレクチンの生体内でのはたらきについて研究しています.特にガレクチンの翻訳後修飾や酸化が,その性質やはたらきに与える影響について興味をもっています.

趣味

読書,塗り絵.

荒田 洋一郎(あらた よういちろう)

帝京大学薬学部教授.博士(薬学).

略歴

1989年東京大学薬学部卒業.91年同大学院薬学系研究科修士課程修了.92年同研究科博士課程退学.同年帝京大学薬学部助手,2003年同講師,05年同助教授(この間00~02年米国Tufts大学博士研究員).07年城西大学薬学部教授.17年より現職.

研究テーマと抱負

研究テーマと抱負 ガレクチン-2の生理機能とそれに関わる分子基盤の解明.リガンドに対する認識が曖昧なところがあるガレクチンですが,このファジーさが魅力でもあります.ガレクチンの中では注目される機会の少ないガレクチン-2を表舞台に立たせることを目標にしています.

趣味

映画鑑賞,スポーツ観戦.

畑中 朋美(はたなか ともみ)

城西大学薬学部生化学講座教授.博士(薬学).

略歴

北海道生まれ.1987年富山医科薬科大学(現富山大学)大学院薬学研究科医療薬学専攻博士前期課程修了.城西大学薬学部,富山医科薬科大学薬学部,東海大学医学部を経て,2017年より現職.東海大学医学部客員教授兼任.

研究テーマと抱負

色素性乾皮症や円形脱毛症,シックハウス症候群といった皮膚に関連する疾患の新たな診断法や治療法の開発を目指し,皮膚に存在するガレクチンをはじめとする様々なタンパク質の生理機能の解明に取り組んでいます.

趣味

縄文考古学,読書,音楽鑑賞.

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