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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 92(4): 587-590 (2020)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2020.920587

みにれびゅうMini Review

転写因子GATA2とPU.1による高親和性IgE受容体の発現と転写制御Expression and transcriptional regulation of high-affinity IgE receptor by transcription factors GATA2 and PU.1

1高崎健康福祉大学薬学部Takasaki University of Health and Welfare ◇ 〒370–0033 群馬県高崎市中大類町60 ◇ 60, Nakaorui-machi Takasaki, 370–0033

2東北大学東北メディカル・メガバンク機構ゲノム予防医学分野Tohoku University Tohoku Medical Megabank Organization ◇ 〒980–8573 宮城県仙台市青葉区星陵町2–1 ◇ 2–1 Seiryo-machi, Aoba-ku, Sendai, 980–8573

受付日:2020年6月1日Received: June 1, 2020
発行日:2020年8月25日Published: August 25, 2020
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1. はじめに

IgEによるアレルギー性疾患はマスト細胞や好塩基球が責任細胞である.これらの細胞上に発現する高親和性IgE受容体(FcεRI)にIgEが結合すると,細胞内シグナルが活性化されて脱顆粒反応が起こり,ヒスタミンやロイコトリエンを含むケミカルメディエーターがアレルギー原因物質として放出される.マスト細胞や好塩基球に発現するFcεRIは,ヒト・マウスともにα鎖,β鎖,そしてγ鎖のホモ二量体により構成される複合体(四量体:αβγγ)として機能する(図1A).FcεRIを構成する各鎖のうち,α鎖はIgEとの結合に必要であり,γ鎖は脱顆粒反応におけるシグナル伝達に重要な役割を果たす.ヒトβ鎖はFcεRIの細胞表面発現と,γ鎖を介する細胞内シグナルの増強作用を持つことが報告されている1).マウスFcεRIのβ鎖はIgE依存性のマスト細胞活性化の調節機能を持つ2).気管支喘息や慢性蕁麻疹に対して用いられる抗ヒトIgEモノクローナル抗体製剤のオマリズマブは,血中の遊離IgEの減少とともにFcεRIを間接的に減少させることで効果を発揮する3).このようにFcεRIもアレルギー疾患治療での有力な分子標的候補の一つと考えられている.しかしFcεRIの発現レベルを直接制御する分子標的薬は開発されておらず,そのような候補化合物を見いだせば新たな作用機序によるアレルギー性疾患治療の可能性につながると考えられる.

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図1 骨髄由来マスト細胞でのGATA2およびPU.1によるMs4a2遺伝子の制御機構

(A)マスト細胞や好塩基球に発現する高親和性IgE受容体(FcεRI)は,α鎖,β鎖,そしてγ鎖のホモ二量体により構成される.(B)GATA2とPU.1は相互に発現抑制し,FcεRI(Ms4a2)の発現をそれぞれ異なるメカニズムで正(+)に制御する.

FcεRI構成因子の遺伝子発現制御には,これまでに転写因子であるGAT A1やGAT A2, PU.1などが関与することが報告されている4, 5).GAT A1, GAT A2,およびPU.1は,正常な血球分化過程においても必須の役割を果たす.GAT A1は赤血球分化のマスターレギュレーターとして知られており,GAT A2は造血幹細胞や造血前駆細胞の増殖と生存,またマスト細胞の機能発現および分化形質の維持に必須である6–8).PU.1(遺伝子名:Spi1)は,骨髄球およびB細胞の分化過程で重要な役割を果たしている9, 10).骨髄球系前駆細胞においてGAT A因子とPU.1は,それぞれの発現レベルやDNA結合活性を相互に抑制し,転写共役因子のリクルートを競合することで互いの活性を阻害する11, 12).一方,分化したマスト細胞ではGAT A因子とPU.1はともに発現しており,FcεRIβをコードするMs4a2遺伝子の発現を正に制御することが報告されているが4, 5, 8),その詳細な制御メカニズムについては不明な点が残されている.本稿では,マウスMs4a2遺伝子の発現活性化におけるGAT A因子とPU.1の役割について,最近の研究成果を中心に概説する13)

2. 骨髄由来マスト細胞でのGATA2およびPU.1によるMs4a2遺伝子の制御機構

FcεRIを発現しIgE抗体刺激による脱顆粒反応を示すマウス骨髄由来マスト細胞(BMMCs)の樹立を行った.Cre-LoxPシステムにより薬剤誘導的にGAT A2およびPU.1をノックアウトできるマウス(G2f/f::CreERT2およびPU.1f/f::CreERT2)から骨髄細胞を採取し,stem cell factor(SCF)とインターロイキン3(IL-3)存在下で培養しBMMCsを樹立した.4-hydroxy Tamoxifen(4-OHT)添加によりCre組換え酵素を誘導すると,GAT A2欠失BMMCsではPU.1の発現レベルは上昇し,PU.1欠失BMMCsではGAT A2の発現レベルが上昇した13).このことから,GAT A2とPU.1はBMMCsにおいて相互に発現レベルを抑制していることがわかった13).一方FcεRIβ(Ms4a2)mRNAの発現レベルは,GAT A2欠失およびPU.1欠失のいずれにおいても著しく低下したことから,GAT A2とPU.1はBMMCsにおいてMs4a2の発現を正に制御することがわかった.またこの解析で,GAT A2もしくはPU.1の欠損による影響は,他方の因子(PU.1もしくはGAT A2)の増加によっても代償されなかったことから,GAT A2とPU.1に機能的な冗長性はなく,それぞれが異なる機序によりMs4a2の発現を制御していることが示唆された(図1B).

3. Ms4a2遺伝子座でのGATA2とPU.1の役割

GAT A2とPU.1がMs4a2遺伝子の転写制御においてどのような役割を担っているのかを明らかにするために,公開されているクロマチン免疫沈降シーケンス(ChIP-Seq)データの情報を元に,BMMCsを用いたクロマチン免疫沈降定量PCR(q-ChIP)解析を行った.その結果,GAT A2はMs4a2遺伝子のプロモーター付近(−60 bp)と転写開始点から下流+10.4 kbpの領域に実際に結合することを確認した(図2上段).一方PU.1は,GAT A2が結合する+10.4 kbp領域と上流−12 kbpの2か所に結合が認められた(図2上段).興味深いことに,PU.1を欠失させると+10.4 kbp領域でのGAT A2結合は著しく減少し,−60 bpにおけるGAT A2結合も同時に減弱した(図2下段).この結果からPU.1がクロマチン高次構造を変換させることでGAT A2結合を促進している可能性を考えた.そこでPU.1やGAT A2と相互作用し,クロマチン構造変換に関わることが報告されているLDB1(LIM domain binding 1)をsiRNAによってノックダウンした.その結果,Ms4a2 mRNA発現は著しく減少した.このことから,LDB1がMs4a2の発現制御に関わっていることが示唆された13).次に,Ms4a2遺伝子座へのLDB1の結合について定量的ChIPアッセイによって解析した.その結果,LDB1はGAT A2と同様に+10.4 kbp領域と−60 bp領域に結合しており(図2上段),この結合はPU.1の欠失によってGAT A2とともに著しく減少した(図2下段).これらの結果はMs4a2遺伝子座において,PU.1に依存したLDB1のリクルートによりオープンなクロマチン構造が維持され,GAT A2結合が促進されてMs4a2発現が活性化されることを示唆している.

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図2 Ms4a2遺伝子座でのGATA1, PU.1, LDB1の役割

BMMCsのMs4a2遺伝子座において,GATA2とLDB1はプロモーター付近(−60 bp)と下流+10.4 kbpの領域に結合する.PU.1は,GATA2が結合する+10.4 kbp領域と上流−12 kbpの2か所に結合する(上段).PU.1欠失BMMCsでは,+10.4 kbp領域と−60 bp領域でのGATA2とLDB1の結合が大きく減少し,Ms4a2の発現レベルが低下する(下段).

4. Ms4a2遺伝子の新規制御領域の同定と機能解析

本解析で見いだしたGAT A2, PU.1, LDB1が結合する+10.4 kbp領域は,Ms4a2遺伝子の発現調節において必須な制御領域であると考え,ゲノム編集法により欠失させてMs4a2 mRNAの発現レベルを調べた.その結果,ヘテロ接合型の変異株(wt/Δ)ではMs4a2の発現が40%程度まで減少し,ホモ接合型の変異株(Δ/Δ)では完全に消失した(図3A).さらにΔ/Δでは,Ms4a2遺伝子のプロモーター付近(−60 bp領域)に対するGAT A2の結合が消失しており,PU.1の−12 kbp領域に対する結合も減少していた(図3B).この結果は,+10.4 kbp領域がGAT A2の−60 bp領域への集積やPU.1の−12 kbp領域への結合を制御し,Ms4a2の発現において中心的な役割を果たしていることを示している.また,本稿では割愛したが転写レベルでのFcεRIβの発現低下により,細胞膜上のFcεRIαタンパク質の発現も減少することがわかった13).この結果はFcεRIβの発現低下が細胞膜上のFcεRI複合体の総数を減少させることを示す.

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図3 Ms4a2+10.4 kbp領域の機能解析

(A) GATA2, PU.1, LDB1が結合するMs4a2 +10.4 kbp領域をゲノム編集法によって欠失させ,Ms4a2の発現量を定量RT-PCRで解析した(Polr2発現量により補正).wt/wt:野生型株.wt/Δ:ヘテロ接合型の変異株.Δ/Δ:ホモ接合型の変異株.左のwt/wtは,ゲノム編集を行っていない野生型を示す.Δ/ΔではMs4a2の発現が完全に消失した.(B)定量ChIP解析によるMs4a2遺伝子座でのGATA2とPU.1の結合の分布.Δ/Δでは,プロモーター(−60 bp)におけるGATA2の結合が大きく減少し,−12 kbpにおけるPU.1の結合も減弱した(インプットDNAにより補正).(C)GATA因子およびPU.1, LDB1によるMs4a2の発現制御機構モデル図.GATA2はプロモーター付近で基本転写調節に関与し,PU.1はLDB1とともにクロマチン高次構造の形成に関与していることが示唆された.またMs4a2 +10.4 kbp領域は,Ms4a2遺伝子座へのGATA2とPU.1のリクルートに必須であることが明らかとなった(文献13より改変).

5. おわりに

本研究の結果から,1)マスト細胞においてもGAT A因子とPU.1は互いに抑制関係にあり,Ms4a2遺伝子の発現を協調的に制御していること,2)クロマチンループ因子であるLDB1も正の制御因子として必要であること,3)GAT A2はプロモーター付近で基本転写調節に関与しており,PU.1はLDB1とともにクロマチン高次構造の形成に関与していること,4)Ms4a2 +10.4 kbp領域は,Ms4a2遺伝子座へのGAT A2とPU.1のリクルートに必須であることが明らかとなった(図3C13).今回の解析過程において,FcεRIβの転写レベルでの発現低下が,細胞膜上のFcεRIαタンパク質の発現量低下をもたらすことがわかった.このことはMs4a2遺伝子の発現のみを制御することでFcεRI複合体の量を制御できることを示している.本解析によってFc受容体の発現制御機構の一端が,転写とクロマチン構造レベルで明らかとなった.今後,この解析を進め,FcεRI複合体を分子標的とした新たなアレルギー治療薬の開発のための分子基盤を確立していきたいと考えている.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

大森 慎也(おおもり しんや)

高崎健康福祉大学薬学部講師.博士(医学).

略歴

2006年筑波大学大学院医科学研究科医科学専攻修了.東北大学大学院医学系研究科医化学分野技術員を経て,08年より現職.

研究テーマと抱負

GATA転写因子によるマスト細胞(肥満細胞)の分化や機能の制御機構解析.マスト細胞の活性化における遺伝子発現機構を明らかにし,創薬研究の発展に繋げていきたい.

ウェブサイト

https://www.takasaki-u.ac.jp/faculty/yakugaku

趣味

釣り,ゴルフ,野球観戦.

大根田 絹子(おおねだ きぬこ)

東北大学東北メディカル・メガバンク機構ゲノム予防医学分野教授.博士(医学).

略歴

東北大学医学部卒業(1987年),同大学院修了(医学博士).ノースカロライナ大学チャペルヒル校,カリフォルニア大学サンフランシスコ校博士研究員,熊本大学医学部博士研究員,筑波大学人間総合科学研究科講師,高崎健康福祉大学薬学部教授を経て,2019年9月から現職.

研究テーマと抱負

マスト細胞特異的な遺伝子発現制御機構の解明.細胞外環境を受容する多くのアンテナを持ち,多彩な生理活性物質を産生するマスト細胞において,未だBlack boxとなっている細胞系列特異的な遺伝子発現制御機構を解明したい.

ウェブサイト

https://www.megabank.tohoku.ac.jp/tommo/member/member07

趣味

猫好き.読書.

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