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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 92(5): 722-725 (2020)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2020.920722

みにれびゅうMini Review

核小体の活性と腫瘍形成を制御するGTP代謝リプログラミングGTP metabolic reprogramming to regulate nucleolar activity and tumorigenesis

東京医科歯科大学難治疾患研究所発生再生生物学分野Department of Developmental and Regenerative Biology, Medical Research Institute, Tokyo Medical and Dental University ◇ 〒113–8510 東京都文京区湯島1–5–45 東京医科歯科大学 M&Dタワー 21階 ◇ 1–5–45 Yushima, Bunkyo-ku, Tokyo 113–8510, Japan

発行日:2020年10月25日Published: October 25, 2020
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1. はじめに

がん細胞のような急速に増殖する細胞は,増大するエネルギーと物質の需要に応えるべく細胞内の代謝を大きく変化させている(代謝リプログラミング).細胞内の代謝経路自体は1950年代ごろまでにはおよそ明らかとなった.しかしながら,個々の代謝経路が持つ生物学的な意義については,今なお不明な点が多い.近年,質量分析器などの測定技術の飛躍的な進歩により,細胞内の代謝物を網羅的に測定すること(メタボローム解析)や安定同位体を用いた個々の栄養素の代謝経路の追跡(代謝フラックス解析)が可能となり,代謝経路のもつ生物学的意義の解明が進んでいる.我々は,代謝フラックス解析を通して脳腫瘍の一つであるグリオブラストーマにおけるグアニンヌクレオチド合成経路の変化を見いだした.本稿では,その変化のメカニズムと生物学的意義について最近の知見を踏まえて概説する.

2. 二つのグアニンヌクレオチド合成経路

初めにグアニンヌクレオチド合成経路について簡単に紹介する.細胞内でグアニンヌクレオチドは,サルベージ経路とde novo経路の二つの経路により合成される(図1).サルベージ経路はすでに存在するプリン塩基を再利用する,エネルギー的に効率のよい経路である.これに対して,de novo経路はグルコースからペントースリン酸経路を通ってプリン塩基を合成する経路であり,エネルギー的に効率が悪い.このようなエネルギー面での違いからも想像できるように,これら二つの合成経路は個々の臓器および細胞において必ずしも同等に使われているわけではない.たとえば,グアニンヌクレオチド合成において脳ではサルベージ経路が,一方,リンパ球ではde novo経路が主に使われている1, 2).このことは各合成経路にそれぞれ特異的な生物学的意義があることを示唆している.

Journal of Japanese Biochemical Society 92(5): 722-725 (2020)

図1 プリンヌクレオチド合成経路

プリンヌクレオチドはde novo経路とサルベージ経路の二つの経路を通して合成される.ATP合成とGTP合成のde novo経路は,5-ホスホリボシル-1-二リン酸(PRPP)からイノシン一リン酸(IMP)までの経路は共通である.IMPDH2はIMPからGTP合成経路へと向かう初めの反応を担う.

3. グリオブラストーマにおけるグアニンヌクレオチド合成のde novo経路の活性化

グアニンヌクレオチドはDNAやRNAの構成因子であるだけでなく,シグナル伝達やタンパク質合成にも関与する.そのため,増殖する細胞ではグアニンヌクレオチドの需要がとても高い.Thomas W. Trautは,正常細胞と比較した際,がん細胞内のATPレベルは20%弱の増加であったのに対し,GTPレベルは200%近くも高かった,と報告している3).それでは,がん細胞においてはグアニンヌクレオチド合成経路が変化しているのだろうか.我々は,がん細胞におけるGTPレベル上昇の原因と合成経路との関係を明らかにするべく,グリオブラストーマ細胞と正常グリア細胞において,六つの炭素をすべて12Cの安定同位体である13Cで置き換えた[U-13C]グルコースを用いた代謝フラックス解析を行った.興味深いことに,グリオブラストーマ細胞と正常グリア細胞のどちらにおいてもde novo経路を通したグルコースからのATP合成が検出されたことに対し,グルコースからのGTP合成はグリオブラストーマ細胞においてのみ確認された4).これは,グリオブラストーマ細胞においてGTP合成のde novo経路を活性化させる機構が存在することを示唆している.その機構を探るべく,10種類のマウス脳腫瘍モデルの遺伝子発現変化を解析した5).その結果,我々はGTP合成経路における律速酵素,イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ-2(IMP dehydrogenase-2:IMPDH2)を同定した(図1).

GTP合成のde novo経路活性化におけるIMPDH2の重要性は,その阻害剤と遺伝子欠損細胞を用いた実験から明らかとなった.IMPDH2の阻害剤であるミコフェノール酸(mycophenolic acid:MPA)は,わずか4時間でグリオブラストーマ細胞のGTP量を90%程度低下させたのに対し,正常グリア細胞のGTP量はほとんど変化させなかった.同様に,IMPDH2遺伝子欠損グリオブラストーマ細胞においても細胞内のGTP量の著しい低下が起こった.これらの結果は,グリオブラストーマ細胞では,IMPDH2が細胞内のGTP量の維持に必要であることを示す.さらに,MPA処理およびIMPDH2遺伝子欠損はグリオブラストーマ細胞の増殖能とマウスへの細胞移植時の腫瘍形成能を低下させた.一部のサルベージ経路はIMPDH2の活性を必要とする(図1).しかしながら,サルベージ経路に必須である酵素,hypoxanthine phosphoribosyltransferase 1(HPRT1),の遺伝子欠損は増殖に影響を与えない.以上のことから,グリオブラストーマ細胞においてはIMPDH2によるde novo経路の活性化が細胞増殖と腫瘍形成に重要であることが明らかとなった.

では,グリオブラストーマ細胞にとってde novo経路が重要な理由は何だろうか.de novo経路の阻害により細胞内GTP量が急速に減少することから,グリオブラストーマ細胞は何かにGTPを消費しているはずである.その消費先としてDNA合成,RNA合成,そして異化反応の可能性が考えられる.しかし,グリオブラストーマ細胞の通常の培養条件において,DNA合成を行うS期の細胞の割合は20%以下であり,また,プリンヌクレオチドの主要な異化反応先である尿酸の量も少ないことから,DNA合成と異化反応はGTPの消費先とは考えにくい.そこで,我々はde novo経路により合成されたGTPがRNA合成に使われているのではないかと考えた.

4. de novo経路で合成されたGTPの消費先

1976年にドイツの科学者であるIngrid GrummtとFriedrich Grummtは,細胞内のプリンヌクレオチド(ATPとGTP)量と核小体におけるリボソームRNA(rRNA)合成の関係を報告した6).これは,rRNA合成がタンパク質ではなく核酸によって制御されていることを示した最初の報告であった.この報告と一致するように,我々の研究においてもde novo経路阻害時の細胞内GTP量の減少は,rRNA合成の阻害により消失した.この結果が示唆することは,de novo経路を通して合成されたGTPがrRNA合成に使われているということである.

GTPによるrRNA合成制御機構に関して,アメリカの腫瘍学者Beverly S. Mitchellの研究グループから興味深い仮説が提唱された.rRNAを転写するRNAポリメラーゼIをそのプロモーターにリクルートする因子,transcription initiation factor IA(TIF-IA),がGTP結合タンパク質であり,GTPとの結合がその機能に必要であるというものである7).しかしながら,TIF-IAは通常GTP結合タンパク質が持つ五つのG-boxのうち一つしか持たず,IMPDH阻害による細胞内グアニンヌクレオチド量の低下はGDPでもみられることから,この説はrRNA合成によるGTP消費のメカニズムを十分に説明しているとはいいがたい.そこで,我々はそのメカニズムを明らかにすべく,de novo経路由来のGTPの消費先を安定同位体を用いて解析した.[U-13C]グルコースを含む培地で細胞を培養後,各RNA[rRNA,メッセンジャーRNA(mRNA),トランスファーRNA(tRNA)]を構成する13Cを含むヌクレオシドの割合を調べた.その結果,mRNAではなく,rRNAおよびtRNAにde novo合成経路で合成されたグアノシンが他の三つのヌクレオシドより多く含まれていることが明らかとなった.これは,de novo経路由来のGTPがrRNAとtRNAに取り込まれていることを直接示した初めての報告である.細胞内のRNA量の比率はrRNAが全体の約80%を占める.とすれば,de novo経路で作られたGTPは,その大部分がrRNAに取り込まれることにより消費されていると考えられる.

5. IMPDH2依存的de novo経路による核小体のサイズと活性の制御

それでは,IMPDH2によるde novo経路の活性化はどのような生物学的意義をもたらすのだろうか.この疑問に答えるべく,我々は,二つのトランスクリプトーム解析を組み合わせてIMPDH2依存的な転写ネットワークの解明を試みた.一つ目はIMPDH2の活性を阻害した際に発現が減少する遺伝子,そして二つ目はグリオーマ患者の遺伝子発現データベースを用いたIMPDH2の発現と相関する遺伝子である.これら二つの遺伝子群から重複する遺伝子を探索したところ,興味深いことに,IMPDH2の活性と核小体関連因子の発現に相関がみられた.この結果を裏づけるように,IMPDH2の活性阻害やIMPDH2遺伝子のノックアウトにより核小体のサイズの縮小が観察された.また,同時に,核小体局在タンパク質であるnucleosteminやnucleolinの核質への拡散とp53の安定化といった核小体の機能阻害時に起こる核小体ストレスが生じた.さらに,脳腫瘍患者のサンプルを用いた解析においては,IMPDH2の発現量が高いほど核小体のサイズが大きいことが見いだされた.これらの結果は,IMPDH2が核小体のサイズと活性を制御することを示している.以上のことより,IMPDH2によるde novo経路の活性化(GTP代謝リプログラミング)は,グリオブラストーマ細胞における核小体の肥大化および活性の上昇,さらには腫瘍形成の亢進をもたらす,ということが明らかとなった(図2).

Journal of Japanese Biochemical Society 92(5): 722-725 (2020)

図2 脳腫瘍におけるGTP合成のde novo経路の生物学的意義

本文参照.

6. おわりに

近年,IMPDH2は脳腫瘍以外に小細胞肺がん,前立腺がん,そして鼻咽頭がんなどさまざまながんにおいても注目されている8–10).がんにおけるIMPDH2の発現制御機構については,転写因子であるc-MYCの関与が示唆されている8).我々も,グリオブラストーマ細胞において,IMPDH2の発現がc-MYCの過剰発現で上昇し,逆にノックアウトで減少することを確認している.さらに,グリオーマ患者においては,IMPDH2の発現とc-MYCの発現が相関する.とすれば,c-MYCはIMPDH2の発現を制御する因子の一つであるといえよう.

核小体の肥大化は悪性度の高いがんの指標として知られてきた11).それゆえ,IMPDH2は核小体の肥大化を伴うがんの治療標的としてとても興味深い.すでに,IMPDHを治療の標的として見据えた研究も行われている.アメリカの腫瘍学者であるBrendan D. Manningのグループは,結節性硬化症におけるがん治療に対してIMPDH阻害剤の可能性を探っている12, 13).今後,どのようながんにおいてIMPDH阻害が治療として有効であるかを詳細に調べていくことで,現時点で効果的な治療法がないがんに対する新たな治療法の確立が期待される.

謝辞Acknowledgments

私の留学先であるシンシナティ大学(アメリカ)の佐々木敦朗准教授,そして佐々木研究室のメンバーには多大なるサポートを賜りましたことを厚くお礼申し上げます.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

小藤 智史(こふじ さとし)

東京医科歯科大学難治疾患研究所発生再生生物学分野講師.博士(薬学).

略歴

1979年香川県で生まれる.2008年東京大学大学院薬学系研究科博士課程単位取得退学後,学位取得.同年秋田大学医学部特任助教.14年アメリカオハイオ州シンシナティ大学博士研究員.17年広島大学薬学部助教を経て,19年より現職.

研究テーマと抱負

細胞内代謝の観点から恒常性維持について研究を進めている.様々な代謝のクロストークの意義を明らかにしていきたい.

ウェブサイト

http://www.tmd.ac.jp/mri/dbio/index.html

趣味

映画鑑賞.

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