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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 92(5): 744-747 (2020)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2020.920744

みにれびゅうMini Review

染色体DNAにおけるリボヌクレオチドの許容限界A threshold of ribonucleotide tolerance in chromosomal DNA

愛知県がんセンター研究所腫瘍制御学分野Division of Cancer Cell Regulation, Aichi Cancer Center Research Institute ◇ 愛知県名古屋市千種区鹿子殿1番1号 ◇ 1–1 Kanokoden, Chikusa-ku, Nagoya

発行日:2020年10月25日Published: October 25, 2020
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1. はじめに

我々の細胞は1個の受精卵からスタートして,成人するまでに数十兆個にまで増加する.細胞の持つ染色体DNAを伸ばすとその長さは約1.8 mといわれており,ヒトの全細胞のDNAをつなぎ合わせると地球と太陽の距離を200往復以上できる計算になる.このような膨大な長さのDNAの複製を正確に行うため,DNAポリメラーゼはヌクレオチドの塩基・糖部位に選択性を持つ.鋳型鎖と不対合のデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)は3′-5′エキソヌクレアーゼ活性により除去され,dNTPと類似した構造を持つリボヌクレオシド三リン酸(rNTP)はDNAポリメラーゼの活性部位入口にあるSteric gateによってブロックされる.Steric gateはrNTPの2′-OH基に対する構造障壁として働き,dNTPのみを通過させる門である.しかし,実際にはSteric gateの機能は完全ではなく,比較的高い頻度でrNTPはDNA鎖へと取り込まれ,リボヌクレオシド一リン酸(rNMP)として(少なくとも一時的に)染色体上に存在する.酵母の実験では,染色体DNAに取り込まれるrNMPの数は1細胞周期あたり10,000個を超えており1),Steric gateに変異を導入するとその数はさらに倍加する.このようなrNMPの取り込みは細胞内のrNTP濃度がdNTP濃度に対して数十倍~数百倍ほど高いことに起因する.取り込まれたrNMPはDNAの二本鎖構造を歪曲させ,ニックやギャップの形成,さらに変異を誘導してゲノムを著しく不安定化する.近年DNA中に残されたrNMPが自己免疫疾患やがんを引き起こすという証拠が次々と見つかり,その代謝機構に注目が集まっている.本稿ではrNMP除去酵素RNase H2に焦点を当て,その活性の変化に伴うrNMPの蓄積が生体に与える影響について解説する.

2. リボヌクレオチド除去修復

RNase H2はリボヌクレアーゼH(RNase H)ファミリーのType 2に分類される加水分解酵素で,すべての生物に存在する.真核生物のRNase H2は触媒部位を有するAサブユニットと二つの補助サブユニット(B, C)がヘテロ三量体を構成する.Bサブユニットには核局在シグナルとDNAクランプであるPCNA(proliferating cell nuclear antigen)との結合モチーフが存在する.補助サブユニットのいずれを欠損させてもRNase H2の活性は完全に失われ,三つのサブユニットはすべてRNase H2の酵素としての機能に必須である.RNase H2はRNA-DNAの「つなぎ目」を認識し,RNAの5′側のホスホジエステル結合を加水分解する.したがって,DNA鎖に取り込まれたrNMPの5′側で切断する活性を持つ.これに続いてDNAポリメラーゼが切断部位の3′末端側からDNA鎖を伸長し,rNMPを含むDNA鎖を押しのけるようにして合成を行う.孤立一本鎖となった部位をFEN1などのヌクレアーゼが除去し,DNAリガーゼがDNA鎖を連結することで修復が完了する(図1).この一連の機構はリボヌクレオチド除去修復(ribonucleotide excision repair: RER)と呼ばれる2).RERに関与する酵素はPCNAとの結合部位を持つが,RNase H2のrNMP切断はPCNAとの結合の影響を受けない3).RERがRNase H2による切断から開始することを考えると,他の修復酵素をrNMP切断部位に集合させるためにPCNAとの結合が重要なのではないかと予測される.RNase H2の他にはトポイソメラーゼI(TOP1)がrNMPの3′側で切断する活性を持つ.しかし,この修復の過程では2′-3′環状リン酸やDNAギャップが形成され高い頻度で変異や配列の欠損が起こる.そのためrNMPの除去においてはRERが主要な経路であり,TOP1のrNMP切断活性は補助的な機構であると推察される.酵母やヒトの細胞ではRNase H2のみを欠損した場合とRNase H2とTOP1両方を欠損した場合では後者のDNAの方がむしろ損傷は少なく4, 5),TOP1による過剰なrNMP切断はゲノム不安定性の原因となると考えられる.

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図1 リボヌクレオチド除去修復の作用モデル

①RNase H2が二本鎖DNAに取り込まれたrNMPを5′側で切断する,②PCNAが切断部位にDNAポリメラーゼ(Polδ)をリクルートする,③DNAポリメラーゼが切断部位の3′側からDNA鎖を伸長し,rNMPを含む孤立一本鎖部位がFEN1により切除される,④DNAリガーゼ(LIG1)がDNA鎖を連結する.

3. rNMPの蓄積によるゲノム不安定性

DNAポリメラーゼによって取り込まれたrNMPは通常RERにより速やかに除去され,染色体に蓄積しない.裏を返せば,RERの欠陥はrNMP蓄積に直結する.先天性神経変性疾患Aicardi-Goutières症候群(AGS)の患者の半数以上はRNase H2の三つのサブユニットのいずれかに両アレル変異を持つ6).AGS患者の脳髄液にはインターフェロンαが蓄積しており,核酸を自己抗原とした炎症が起こることが示唆される.我々はAGS患者にみられる変異のうち,RNase H2の触媒サブユニットに存在するG37Sに着目し,同じ変異を持つマウス(G37Sマウス)を作製した.Gly37はRNase H2の活性中心近傍に位置する基質との結合に重要なアミノ酸で,大腸菌で発現させたG37S変異を持つRNase H2(G37S-RNase H2)は野生型の約17%のrNMP切断活性しか持たない7).G37S変異を持つマウスのホモ接合体(Rnaseh2aG37S/G37S)は出産後まもなく死亡し(周産期致死性),胎仔の線維芽細胞ではインターフェロン刺激性遺伝子(ISG)の発現が上昇していた.DNAウイルスセンサー(cGAS)とそのアダプター(STING)遺伝子をノックアウトするとISGの発現は抑制され,G37Sマウスは細胞質内のDNAを抗原として自己免疫応答が惹起されることがわかった7, 8).2017年にはMackenzieらがマウスのノックアウト細胞を用いて同様の実験を行い,rNMPを蓄積した染色体は有糸分裂の際に微小核を形成し,続く核膜構造の破綻によって微小核内部のDNAがcGASに認識されることを報告している9)

AGS患者ではRNase H2のNull変異は存在しない.RNase H2のAサブユニットのノックアウトマウスのホモ接合体(Rnaseh2a−/−)は胎生10日前後で死亡し,別グループによる報告ではBおよびCサブユニットのノックアウトマウスも同様の表現型を示す10, 11).したがって,RNase H2によるrNMPの除去は生命維持に必須の機能である.Rnaseh2a−/−のマウス胎仔からDNAを抽出してアルカリ条件下でアガロースゲル電気泳動を行うと,取り込まれたrNMPの加水分解による染色体DNAの断片化が観察され,その数は約1,000,000個と見積もられた.マウスのゲノムサイズから概算するとおおよそ6000~7000塩基に1回の頻度でrNMPが取り込まれる計算となり,酵母の結果1)とほぼ一致する.このrNMPの取り込み頻度(1/7000)は他のDNA損傷の頻度よりも相当に高く,近年ではrNMPはDNAポリメラーゼが犯す「過ち」ではなく,RERによる除去を前提として複製において何らかのポジティブな役割があるのではないかと考えられるようになってきた12).たとえば,RNase H2によるrNMPの切断は伸長中のDNA鎖にニックを生じ,スーパーコイル構造から生じる張力の解消に役立つ.またrNMPは伸長中のDNA鎖にのみ存在するため,鋳型鎖と伸長鎖を区別するマーカーとしてミスマッチ修復において変異を防ぐ役割があると考えられる13).このようにDNAにとっては危険分子であるrNMPをあえて取り込み利用する機構が生物間で広く保存されているという仮説は非常に興味深い.

4. rNMP許容の限界点

前節で述べたようにRNase H2の活性が失われrNMP蓄積が最大値(~1,000,000個)に達すると,マウスは生存能力を失う.rNMPの蓄積量が生体へ及ぼす影響をさらに詳しく調査するため,我々はRNase H2のRED(ribonucleotide excision defect)変異体(RED-RNase H2)を設計した.RNase H2はrNMPに加えて,RNA鎖が二本鎖DNAに侵入することで形成する三本鎖構造(R-loop)を分解する別の活性を持っている.R-loopもまた蓄積することで二本鎖DNA切断や相同性組換えを誘導するゲノム不安定化因子であり,rNMPとR-loopが生体に及ぼす影響を両者が蓄積するノックアウトマウスで区別することは困難である.我々はThermotoga maritima由来RNase H2の基質–酵素複合体の立体構造情報(PDB:3O3G)を基に,rNMPとの相互作用部位を欠損し,かつR-loopへの活性を維持するRED-RNase H2を構築した7, 14).RED-RNase H2を発現するマウス(REDマウス)のホモ接合体(Rnaseh2aRED/RED)はノックアウトと同様に胎生10日前後で死亡し,その染色体DNAにはノックアウトに匹敵する数(~800,000個)のrNMPが蓄積していた.Rnaseh2aRED/REDではp21やCyclin G1などのDNA損傷応答遺伝子の発現が上昇しており,p53遺伝子を欠損させると生育異常が回復した.このことから取り込まれたrNMPがp53を介したアポトーシスを誘導して胚性致死を起こすと結論づけた.次にわずかながらrNMP活性を持つG37SとREDの複合ヘテロ接合体(Rnaseh2aRED/G37S)のマウス胚を観察すると,胎生12日前後まで生存していた.Rnaseh2aRED/G37Sの染色体DNAは~320,000個のrNMPを残しており,依然p53の活性化がみられた.一方で,G37Sとノックアウトの複合ヘテロ接合体(Rnaseh2a/G37S)は出産まで生存し,周産期致死性であった.Rnaseh2a/G37SRnaseh2aRED/G37Sの細胞からは同程度のrNMP切断活性が検出されたが,Rnaseh2a/G37SのrNMP量は~260,000個まで減少していた7).このことから,RED-RNase H2はG37S-RNase H2をRER経路上で競合的に阻害することが示唆される.AGS患者のほとんどが異なる変異を対立遺伝子に持つ複合ヘテロ接合体であること6)を考慮すると,2種類のHypomorphicな変異体が競合することでRERの機能低下が起こり,AGS発症につながるのかもしれない.

これらの研究から,胎生致死のマウスと周産期まで生存するマウスの間には染色体に含まれるrNMP量に明確な差があることがわかった(図2).マウスが生存するためには許容できるrNMP量に限界があり,限界量を超過するとp53の活性化を伴うDNA損傷応答によるアポトーシスが誘導される.一方で,それより少ないrNMP量ではDNAを抗原とした自己免疫応答が惹起され,マウスでは周産期致死性,ヒトではAGSへとつながると考えられる.細菌や酵母のRNase H2欠損株は通常の生育が可能であるため,DNA中に許容できるrNMP量は生物の種類によって異なるのではないかと推察される.

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図2 マウスの胚発生におけるrNMPの許容限界量

5. 今後の展望

RNase H2の遺伝子はすべての生物に存在しており,複製におけるrNMPの取り込みとRERによる除去はきわめて普遍的な現象であることがうかがえる.しかし,ゲノムを不安定化させるリスクを背負ってまでrNMPを取り込む機構がなぜ生物間で広く保存されてるのかについてはいまだ不明な点が多い.また,ミトコンドリアDNAにおいてもrNMPの取り込みが起こることが最近報告された15).ミトコンドリアにはRNase H2が存在せず,rNMPがミトコンドリアの機能に与える影響やその除去機構は非常に興味深い.生物が自身を脅かすrNMPをどのように処理し,ときには許容してゲノム安定性を保っているのかについては今後のさらなる研究の進展が期待される.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した研究はすべてアメリカ国立衛生研究所で行ったものであり,ご指導いただきましたRobert J Crouch博士に心より感謝いたします.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

上原 了(うえはら りょう)

愛知県がんセンター研究員.博士(工学).

略歴

1986年京都府に生る.2008年大阪大学工学部卒業.13年同大学院工学研究科博士後期課程修了.13~18年NIH客員研究員.19年立命館大学R-GIRO助教.20年より現職.

研究テーマと抱負

RNA/DNAハイブリッドとゲノム不安定性.転写や複製といった細胞にとって普遍的な現象の裏に隠された分子機構を明らかにしていきたいと考えています.

ウェブサイト

https://www.pref.aichi.jp/cancer-center/ri/01bumon/06shuyo_uirusu/index.html(研究室ホームページ)

趣味

犬の散歩,ジョギング.

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