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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 93(1): 93-99 (2021)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2021.930093

特集Special Review

食品由来ファイトケミカルのセンシング機構Cellular sensing systems for food-derived phytochemicals

九州大学大学院農学研究院生命機能科学部門Division of Applied Biological Chemistry, Faculty of Agriculture, Kyushu University ◇ 〒819–0395 福岡市西区元岡744 ◇ 744 Motooka, Nishi-ku, Fukuoka 819–0395, Japan

発行日:2021年2月25日Published: February 25, 2021
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食品の生体調節作用を生かした機能性食品の開発が盛んである.植物由来成分ファイトケミカルは,そうした食品の機能性を担う因子として重要な働きをしている.最近,ファイトケミカルを生体がどのようにして感知し,その機能性を発現するのかという視点での解析が進みつつある.筆者らは緑茶の生体調節作用を担う主要なポリフェノールの一種,(−)-エピガロカテキンガレート(epigallocatechin gallate:EGCG)のがん細胞増殖抑制作用を仲介する「細胞膜センサー」としてラミニン受容体の一種である67-kDaラミニン受容体(67-kDa laminin receptor:67LR)を同定した.これまでに,EGCGの抗アレルギー作用,抗炎症作用,動脈硬化予防作用,がん細胞致死作用などに67LRが関与することが報告されている.本稿では,EGCGを含む代表的なファイトケミカルの生体内における分子標的とその機能性発現との関係について紹介する.

1. はじめに

急増する生活習慣病などの疾病予防・改善に食品の生体調節機能の活用が期待されている.食品の生体調節機能には食品由来のファイトケミカルが関与している場合が少なくない.生体はさまざまな外部刺激を感知しながら,それらの刺激に適切に応答することで恒常性を保持している.たとえば,病原細菌やウイルスの侵入はパターン認識受容体であるToll様受容体等によって感知され,生体を防御するために必要なサイトカインの産生を誘導する.食品成分も生体内において分子認識されることで生体に影響を及ぼすシグナル発動因子としての理解が進みつつある.筆者らはこうした考えに基づき,ファイトケミカルの感知機構(ファイトケミカルセンシング)からその生理作用が発現する仕組みの解明に取り組んでいる.ここでは,代表的な機能性ファイトケミカルの分子認識機構について述べる.

2. イソフラボン類の標的分子と機能性発現

大豆に含まれるフラボノイドの一種であるイソフラボン(図1)は,構造の類似性からエストロゲン様の作用(活性としては1000分の1以下)を有することがその大きな特徴の一つで,がんや心疾患の予防,脂質代謝改善,骨代謝などの効果が報告されている1).一般に,女性ホルモンのエストロゲン(17β-estradiol:17β-E2)の作用は,細胞の核内に分布するエストロゲン受容体(estrogen receptor α:ERαおよびERβ)に結合し,その複合体が標的遺伝子のプロモーター領域に結合してその遺伝子の発現調節を行う.しかしながら,核内以外に細胞膜にもその受容体が存在し,17β-E2の即時的応答(数秒から数分)に対応した,従来とは異なる経路の存在が明らかにされている2).その細胞膜受容体として,ERαやERβの他に,別の細胞膜エストロゲン受容体が存在することが示唆されている.植物性エストロゲンとして知られているレスベラトロールの,カテコールアミン(catecholamine:CA)生合成・分泌に対する効果にも細胞膜エストロゲン受容体が関与することが示されている3, 4).ダイゼイン,17β-E2はそれぞれ副腎髄質細胞においてチロシンからのCA生合成を促進するが,これらの作用は核内エストロゲン受容体阻害剤によって抑制されなかった.一方,高濃度のダイゼインはアセチルコリンによるCA分泌や生合成促進作用を抑制した.副腎髄質より分離した細胞膜には17β-E2に対して少なくとも二つの結合部位(高親和性と低親和性)が存在することが示され,高親和性の17β-E2結合はダイゼインにより抑制された5).以上の結果から,ダイゼインは細胞膜エストロゲン受容体を介してCA生合成を促進し,高濃度では逆にアセチルコリン刺激によるCA分泌や生合成を抑制することが明らかとなった.

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図1 主な大豆イソフラボンとダイゼイン代謝産物エクオールの構造

大豆イソフラボンの生体調節作用に,ダイゼインの腸内細菌代謝物であるエクオール(図1)が関与していることが知られている.マウスやラットではほとんどの個体でエクオールは産生されるが,ヒトにおいては日本人の50%程度,欧米人では20%程度しか産生できず,エクオール産生者は非産生者との比較において,前立腺がんや乳がんの罹患率が低いこと6)や骨量減少抑制作用が強いことが報告されている7).エクオールはダイゼインよりもエストロゲン活性が強く,その生理作用の発現機序はダイゼインと同様にエストロゲン受容体に対するアゴニストやアンタゴニストとしての作用と考えられている.

一方,ダイゼインの好塩基球における高親和性IgE受容体発現低下作用8)や胸腺萎縮作用9)においては,エストロゲン受容体を介さない作用経路の存在が示されている.

3. カプサイシンの標的分子と機能性発現

唐辛子の主要な辛味成分であるカプサイシン(図2)の生理作用は多彩であり,神経系に対する各種作用をはじめとして,胃粘膜保護作用,体熱産生や熱放散,発汗作用,抗炎症作用,抗肥満作用,抗がん作用などが明らかとなっている.カプサイシンは辛味とともに痛みを引き起こし,感覚神経を特異的に脱分極させて細胞内Ca2+濃度の増大をもたらす.カプサイシン投与による細胞内Ca2+濃度上昇を指標とした発現クローニング法を用いてカプサイシン受容体が単離された10).カプサイシンはその構造にバニリル基を有することからその類縁体とともにバニロイドと総称されており,クローニングされた遺伝子がコードする分子は当初,バニロイド受容体(VR1)と命名されていたが,本受容体が細胞膜のカルシウムとナトリウムを通す非選択的カチオンチャネルであるtransient receptor potential(TRP)サブファミリーを構成するものであることがわかり,transient receptor potential vanilloid receptor subtype 1(TRPV1)と呼ばれている.また,本受容体はカプサイシンの他に生体において痛みを惹起する酸(プロトン),熱(43°C以上)によっても活性化される複数の有効刺激を持つ多刺激痛み受容体として機能する11).一方,25°C以下の低温を感受するTRPM8が知られており,これはミントの主成分であるメントールにも反応する12).また,17°C以下を感受する受容体にTRPA1があり,ワサビの辛味の主成分であるアリルイソチオシアネートによって活性化されることが示されている13)

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図2 カプサイシンの構造

4. 緑茶ポリフェノールの標的分子と機能性発現

緑茶(Camellia sinensis)は紀元前の中国で発見されたとされ,唐時代には薬として利用されていたとする文献が存在する.鎌倉時代の栄西禅師は「喫茶養生記」において,“茶は養生の仙薬なり.延齢の妙術なり”,と記している.このように茶は古くから薬として活用されていたが,現代では,体脂肪低減作用,コレステロール低下作用,血圧降下作用,脳卒中予防作用,抗アレルギー作用などの生理作用が緑茶にあることが明らかにされた.また,こうした緑茶の生体調節作用を担う成分を詳らかにするための研究が盛んに行われ,緑茶の主要な成分である緑茶ポリフェノールが注目されることとなった.

EGCG, (−)-エピカテキンガレート,(−)-エピガロカテキン,(−)-エピカテキンなどのカテキン類が主要な緑茶ポリフェノールである.特にEGCGは乾燥茶葉重量の5~15%を占め,緑茶に特有な成分であるのに加え,前立腺がんの予防作用14)やメチル化EGCGを多く含む緑茶の抗アレルギー作用15)が明らかとなるなど,緑茶の生理作用にEGCGが深く関係していると考えられている.ストリクチニンは乾燥茶葉に0.2~0.7%程度含まれるポリフェノールであるが,IL-4Rα鎖に結合してIL-4の作用を阻害することでIgE産生を阻害する16)

1)EGCGセンサーとしての67-kDaラミニン受容体

EGCGの機能性発現メカニズムを理解する上で,EGCGが生体内で直接相互作用(結合)する分子を知ることはきわめて重要である.(−)-エピカテキンおよび(−)-エピガロカテキンは血中では主に包合体化されているが,EGCGは70%以上が遊離体の形で存在する.EGCG摂取後の血中濃度は1.5~2.5時間後にピークに達し,その後24時間後には消失するが,血中濃度の最大は1 μM程度である.これまでEGCGの生体内における標的分子として,多数の細胞内タンパク質が報告されているが17),多くの場合,血中最大濃度から大きくかけ離れた量(10~100 μM)のEGCGを使用して得られた結果であった.筆者らはこうした点をふまえ,生理的濃度のEGCGの活性発現に関与する標的分子を探索した結果,EGCGのがん細胞増殖抑制作用を仲介する細胞膜受容体として67-kDaラミニン受容体(67LR)を見いだした18).これまでに,EGCGの抗アレルギー作用19, 20),抗炎症作用21–24),動脈硬化予防作用25),抗がん作用26–31)などに67LRが関与していることが報告されている.67LRは基底膜の主要な構成成分であるラミニンに結合する細胞膜タンパク質として同定されていた分子であり,悪性度の高いがん細胞に高発現し,その増殖,浸潤,転移などに関与することが知られている.その他にも病原性プリオンタンパク質の受容体としての機能や,シンドビスウイルス,デングウイルスといったウイルスの受容体として機能することが報告されている32).アシル化された37 kDaの前駆体が67 kDaの二量体を形成し,67LR分子として細胞膜上の脂質ラフトに局在している33).血管内皮細胞,T細胞,マクロファージなどさまざまな細胞において発現しているが,その機能についてはいまだ不明な点が多い.

緑茶にはカテキン以外にもカフェインなどの生理活性物質が含まれているが,67LRはEGCG以外の緑茶成分[(−)-エピカテキン,(−)-エピガロカテキン,カフェイン,ケルセチン]とは結合せず,それらの機能性にも関与していない18).筆者らは,細胞表面に発現する67LR分子上におけるEGCGの集合体形成がEGCGの機能性発現に重要なファーストステップであることを見いだした(図334).EGCGが67LRに結合した後の細胞内に生じるイベントは以下に述べるように細胞ごとに異なる.

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図3 EGCGの67LR依存的な分子集合体の形成

2)EGCGの67LR依存的な抗がん作用

EGCGを主成分とするカテキン製剤ポリフェノンEのヒト前立腺がん予防作用が報告されるなど14),EGCGの抗がん予防作用は特に注目されている.メラノーマを移植したマウスにおけるEGCGの腫瘍成長抑制作用が67LRの発現を抑制した腫瘍では観察されないなど,67LRは生体内におけるEGCGの抗がん作用を仲介するセンサーとして機能する27).ポリフェノンEの作用に67LRを介した免疫増強作用が関与35)することや,がん細胞表面に高発現する67LRにEGCGが特異的に結合する性質を利用することでがん細胞にEGCG–抗がん剤複合体を集積させて殺傷するドラッグデリバリーシステムも考案されている36)

EGCGはメラノーマ細胞に対して67LR/アデニル酸シクラーゼ(adenylate cyclase:AC)/cAMP/プロテインキナーゼA(protein kinase A:PKA)/プロテインホスファターゼ2A(protein phosphatase 2A:PP2A)/C-kinase potentiated protein phosphatase-1 inhibitor protein of 17 kDa(CPI17)経路を介してミオシンホスファターゼを活性化することで増殖を抑制する29).活性化されたミオシンホスファターゼは,がん抑制因子として知られるMerlinを活性化する(図4).メラノーマ細胞ではPP2Aの阻害因子であるSu(var)3–9 enhancer-of-zeste trithorax(SET)が高発現しており,SETの発現抑制はEGCGの抗メラノーマ作用を増強する30).また,EGCGによって誘導されるPP2A/Merlin活性化経路はp70S6Kを阻害し,BRAF阻害剤との併用はBRAF耐性メラノーマに対して顕著な腫瘍抑制作用を示す29)

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図4 EGCGの67LR/cAMP依存的な生理活性発現(がん細胞増殖抑制作用)

多発性骨髄腫細胞には67LRが正常リンパ球と比較して高発現しており,EGCGは多発性骨髄腫細胞選択的にアポトーシスを誘導する26, 28).この多発性骨髄腫に対するEGCGのアポトーシス誘導作用において,67LR/Akt/内皮型一酸化窒素合成酵素(endothelial nitric oxide synthase:eNOS)/NO産生/可溶性グアニル酸シクラーゼ(soluble guanylate cyclase:sGC)/cGMP/ホスホリパーゼC(phospholipase C:PLC)/プロテインキナーゼCδ(protein kinase Cδ:PKCδ)/酸性スフィンゴミエリナーゼ(acidic sphingomyelinase:ASM)経路の活性化が重要な役割を果たしている(図528–31, 37).EGCGによる本経路の活性化後の細胞内イベントとして注目すべき点は,細胞膜におけるセラミド量の増加と脂質ラフトの撹乱である30).ASMによって産生されるセラミド量を下方制御するスフィンゴシンキナーゼ(sphingosine kinase 1:SphK1)が多発性骨髄腫や慢性リンパ性白血病において高発現しており,SphK1の阻害はこれらのがん細胞に対するEGCGの致死作用を増強する30).一方,多くのがん細胞においてcGMP分解酵素の一種であるホスホジエステラーゼ5(phosphodiesterase 5:PDE5)が高発現しており,PDE5阻害薬剤はEGCGのがん細胞致死活性を顕著に増強する28).また,cGMP分解酵素の一種であるPDE3の阻害剤とEGCGの併用は,膵臓がん幹細胞形質の発現を強力に阻害するとともに,その肝転移を抑制する31)

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図5 EGCGの67LR/cGMP依存的な生理活性発現(がん細胞致死作用)

3)EGCGの67LR依存的な抗アレルギー作用

EGCGのメチル化体であるEGCG3″Meを含有するべにふうき緑茶の花粉症患者に対する介入試験では,やぶきた緑茶(メチル化カテキンを含まない)をコントロールとして飲用している群に比べ症状スコアの改善が認められている15).こうした結果をふまえ,メチル化カテキンを機能性関与成分としたべにふうき緑茶飲料やリーフティーが免疫機能調節作用を訴求した機能性表示食品として上市されている.EGCGやメチル化カテキンは,好塩基球の細胞表面に存在する67LRへの結合を介してアレルギー発症因子であるヒスタミンの放出阻害作用19)を示すとともに高親和性IgE受容体FcεRIの発現を低下させる20)

4)EGCGの67LR依存的な抗炎症作用

EGCGはマクロファージのリポポリサッカライドやペプチドグリカンに対する炎症反応を抑制する.この抑制作用にはTLR2やTLR4に依存した炎症応答を阻害するTollip21–23)ならびにTLR4を標的とするユビキチンリガーゼRNF216の発現誘導作用24)が関与している.EGCGによるこれら遺伝子の発現誘導も67LR依存的な作用である(図6).こうした抗炎症作用はEGCGの脂質代謝異常抑制作用に寄与していることが示唆されている24).脂肪組織における慢性炎症が関与する肥満の抑制作用はEGCGの注目されている機能性の一つである.筆者らは最近,マクロファージを含む骨髄細胞特異的67LRノックアウトマウスを作製し,EGCGの抗肥満作用における67LRの関与を検討した.その結果,高脂肪高ショ糖食によって誘導される肥満やマクロファージの脂肪組織への浸潤に対するEGCGの抑制作用が67LR依存的であることを明らかにした.動脈硬化発症要因の一つである血管内皮における炎症の抑制作用にも67LRの関与が示唆されている25)

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図6 EGCGの67LR依存的な炎症応答抑制メカニズム

5)EGCGの67LR依存的なマイクロRNA発現調節作用

マイクロRNAは標的遺伝子の発現を制御することで多岐にわたる生命現象に関与している.EGCGはメラノーマ細胞において67LR依存的に多くのマイクロRNAの発現量を調節している38).EGCGによって発現量が増加するマイクロRNAの一つであるlet-7bは,メラノーマにおいて発現が異常に低下していることや,強制発現させるとメラノーマ細胞の転移が抑制されることが報告されている.メラノーマを肺転移させたマウスにEGCGを投与すると転移腫瘍におけるlet-7bの発現量が増加した38).let-7bはがん遺伝子として知られているHMGA2の発現を低下させるが,EGCGを作用させたメラノーマ細胞ではHMGA2のタンパク質発現量が減少し,let-7b阻害剤はこうした発現低下作用を消失させた.Let-7bはHMGA2の他にもMycやRasなどがん細胞の細胞増殖に関わる遺伝子を標的としているため,EGCGはlet-7bの発現調節を介してがん細胞の増殖シグナル経路に影響を与えることが考えられる.前述したように,EGCGはメラノーマに対して67LRを介してPKAを活性化させ,その下流のPP2Aを活性化させるが,EGCGのlet-7b発現増加作用にも67LR/PKA/PP2A経路が関与している(図438)

5. プロシアニジンのセンサー分子と機能性発現

エピカテキンやカテキンが重合したプロシアニジンはリンゴ,ブドウ種子,カカオ,柿,黒大豆などに豊富に含まれるポリフェノールであり,抗がん作用,血流促進作用,血糖調節作用などの生体調節作用を示す.プロシアニジンはカテキン類の重合度の違いや立体異性体の存在から多彩な化学構造が生じ,構造に違いによってその生理活性と作用機序が異なることが知られている.筆者らはカテキン類の二量体であるプロシアニジンB1,プロシアニジンB2ならびに三量体のプロシアニジンC1の抗メラノーマ作用とその作用機構に関する研究から,これら3種類のプロシアニジンはいずれもメラノーマの細胞増殖抑制作用を示すもののその作用機序は大きく異なることを明らかにした.プロシアニジンC1はプロシアニジンB1やB2と異なり,メラノーマ細胞表面に発現している67LRを介して細胞に結合し,67LR依存的にAC/PKA/PP2A/CPI17経路を活性化することでミオシン軽鎖の脱リン酸化を誘導し,細胞増殖を抑制することを見いだした39).これに対して,プロシアニジンB1ならびにB2は67LRへの結合性およびミオシン軽鎖の脱リン酸化誘導能はなく,プロシアニジンC1とは異なるメカニズムで抗メラノーマ作用を発揮することが示された.また,メラノーマ細胞にプロシアニジンC1を直接作用させたことで誘導された一連の細胞内イベントは,プロシアニジンC1を経口投与したマウスのメラノーマ腫瘍組織においても観察された.以上の結果から,67LRがプロシアニジンC1の細胞膜上のセンサーとして機能することが示された(図7).

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図7 プロシアニジンC1の67LR依存的な生理活性発現(がん細胞増殖抑制作用)

6. おわりに

緑茶カテキンEGCGを中心としたファイトケミカルの生理活性発現に関わるセンシング機構について紹介した.EGCGのアポトーシス誘導作用,がん幹細胞形質抑制作用,炎症抑制作用には67LRを基軸としたcGMP産生を特徴とするシグナル伝達経路が,がん細胞増殖阻害作用には67LRを基軸としたcAMP産生を特徴とするシグナル伝達経路が関与している.しかしながら,これらの経路はEGCGの単独作用では十分には活性化できず,シグナル伝達分子に作用する食品因子(ビタミンA40),柑橘ポリフェノール41),含硫化合物42))を組み合わせることで顕著に活性化され,EGCGの抗がん作用,脂質代謝改善作用,抗アレルギー作用が増強されることが明らかになってきた.漢方薬は複数の生薬を組み合わせることによりその薬理作用が発揮されると考えられている.ファイトケミカルとそのファイトケミカルセンシングを増強する食品・食品因子を組み合わせた食品は科学的根拠に基づいて処方された現代の漢方薬となるかもしれない.

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著者紹介Author Profile

立花 宏文(たちばな ひろふみ)

九州大学大学院農学研究院生命機能科学部門主幹教授.博士(農学).

略歴

1964年生まれ.87年九州大学農学部卒業,91年同大学院農学研究科博士課程退学,同年九州大学大学院農学研究科助手,94年同講師,96年同助教授,2012年同教授,同年より現職.

研究テーマと抱負

フードケミカルバイオロジー,食品成分の機能性に関する分子的基盤の確立と食による疾病予防への応用展開.

ウェブサイト

http://www.agr.kyushu-u.ac.jp/lab/syokuryo/

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