生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
〒113-0033 東京都文京区本郷5-25-16 石川ビル3階 Ishikawa Building 3F, 5-25-26 Hongo, Bunkyo-ku Tokyo 113-0033, Japan
Journal of Japanese Biochemical Society 93(2): 187 (2021)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2021.930187

アトモスフィアAtmosphere

急がば回れ

北海道大学名誉教授,産業技術総合研究所名誉フェロー

発行日:2021年4月25日Published: April 25, 2021
HTMLPDFEPUB3

基礎的な研究がなければ発展的な成果も得られないことは,大きな業績を上げた方々も事あるごとに発言されているのに,我が国の基礎研究へのサポート体制はあまり変わらない.大学などへの社会からの期待が少ないから多額の税金を使うわけにはいかないという意見がある.ならば社会全体の科学研究に対する理解度を上げることが有効で,それには,科学研究をもっと義務教育で教える以外に方法はないのではないかと思う.以前の文部省では義務教育が最重要課題であった.昨今は高等教育の重要性が認識されるようになってきたが,先端的な基礎研究がなければ日本の将来がないことは自明である.いずれにせよ,私は教育ほど大事なものはないと思うので,義務・高等教育のどちらにも関心が注がれなければと思う.教育の質を上げるには優秀な教員を育てることから始めないと成果は期待できない.時間がかかるかもしれないが,急がば回れの譬えのように意欲と知識を持った優秀な教師の育成が必要である.

ところで,奨学金の返還猶予の制度は廃止されているが,義務教育と高等教育を担う優秀な教員を育てる方法として奨学金制度を変えることはできないであろうか.最近,奨学金制度の問題点が議論されている.奨学金が増額されてもほとんどはローンによる返還が必要である.種々の返還不要の奨学金も増えつつあるが,大学院博士課程学生に対するサポート体制と共に奨学金の返還についてもっと議論が必要であると思う.大学等のアカデミア環境での研究人口を増やして研究者の裾野を広げないと研究分野の発展は期待できない.研究者となることに魅力があっても経済的環境が許さないということがあれば,進学が難しい.さらに言えば,博士号取得後,働き場所を得ることが年々難しくなっていることがもっと問題である.各大学でそれぞれ特徴のある分野を決めて,教授の数を減らして若手のポジションを作ることは限られた研究者ポストの使い方として必要ではないかと思う.若手研究者のポジションがなければ,大学院博士課程進学への動機も失われる.研究室の中での若手研究者の活躍は後に続く学生の教育にも不可欠であるように思う.

大学が法人化されてから,申請業務と報告業務が増えて教員の研究に費やす時間が減少しているということが問題になっている.何もかも申請ベースにするということはいかがであろうか.選択と集中をし過ぎると余裕がなくなり,何か予期せぬことが起こった時に対応することができなくなるのではないだろうか.

基礎研究には科学研究費補助金の申請は特に重要で,自分の研究を客観的に見直し,説得力のある説明で研究者自身から情報を発信するトレーニングになる.これは研究者が全員行うべきである.できればもっと世の中に研究内容を知らせることができれば,社会から支持を受けられるようになるかもしれない.申請書の審査は研究者にとって大きな負担になることも事実で,さらなる工夫が必要である.評価の仕方を簡単にすれば労力の節約になるのではないかと思う.

一般的な評価では非常に良いものと非常に悪いもの,例えば上10%と下10%を評価してあとは中間にするという,評価の方法があるらしい.このような評価法を研究費の審査に導入できれば,大学などでの研究者の業務の軽減につながり,研究を中心とした本来の時間の使い方ができるようになれば良いと思う.ひとつ評価について注文をつけると,大学の評価として大学院博士課程学生の充足率を評価の対象とはして欲しくない.この評価による弊害が大きいことが明らかになっている.

北海道大学の新渡戸カレッジは新渡戸稲造のような人を育てたいという教育プログラムである.卒業生がボランティアとして参加する科目の一つに対話プログラムがある.ソクラテスの産婆法とまではいかなくても,先輩としての経験を学生の成長に役立てようというものである.研究室の中で,年齢の近い若手教員が学生に与える影響の大きさを実感してきたことを思い出して,年齢が大きく離れてしまった先輩として現在の自分が学生に何を伝えられるか模索しながら,対話プログラムに参加している.今年度は対面活動ができないことが残念であるが,若い学生はたまには回り道をして,年配者の声に耳を傾けるのも良いのではないだろうか?

This page was created on 2021-02-25T15:06:34.642+09:00
This page was last modified on 2021-04-13T14:17:57.000+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。