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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 93(2): 230-233 (2021)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2021.930230

みにれびゅうMini Review

細胞外シャペロンClusterinによる細胞外タンパク質の分解機構The extracellular chaperone Clusterin-mediated extracellular protein degradation system

1千葉大学理学部生物学科Department of Biology, Faculty of Science, Chiba University ◇ 〒263–8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町1–33 ◇ 1–33 Yayoi, Inage-ku, Chiba 263–8522, Japan

2千葉大学大学院理学研究院生物学研究部門Chiba, Department of Biology, Graduate School of Science, Chiba University ◇ 〒263–8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町1–33 ◇ 1–33 Yayoi, Inage-ku, Chiba 263–8522, Japan

発行日:2021年4月25日Published: April 25, 2021
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1. はじめに

タンパク質は水に次ぐ生体の主要構成要素であり,体のあらゆる構造をなし,さまざまな機能を持つ.タンパク質が正常に機能するには,正しく折りたたまれている必要がある.ところが,合成過程において折りたたみに誤りが生じる場合や,ストレスを受け変性する場合がある.また,構造上凝集しやすいタンパク質もある.変性した異常タンパク質は機能しないどころか,その蓄積は神経疾患などを引き起こす要因となりうる.たとえば,異常型プリオンタンパク質や,シヌクレイン,異常伸長ポリグルタミン配列を持つタンパク質は細胞内に蓄積し,それぞれプリオン病,パーキンソン病,ポリグルタミン病の原因となる.また,細胞外に蓄積するアミロイドβはアルツハイマー病の原因となることがよく知られている.生物には,異常タンパク質を認識して除去する機構が備わっており,その機構を利用した疾患関連異常タンパク質を除去する方法の開発は疾患治療につながる.なかでも細胞内における異常タンパク質の分解経路については研究が進展しており,ユビキチン-プロテアソーム系,オートファジー・リソソーム系があげられる1, 2)

細胞内のタンパク質の分解は理解が進んだが,哺乳類ではタンパク質は細胞内だけにとどまらず,細胞外,つまり血液や体液にも潤沢に存在し機能する.細胞外の環境は,細胞内と同様,熱ストレスや酸化ストレス,病理状態の影響を受けることに加え,せん断応力ストレス,細胞外pHの変化によるダメージも受けるため,タンパク質がより変性しやすい過酷な環境といえる.しかしながら,細胞外におけるタンパク質品質管理システムの研究やタンパク質分解経路の理解は乏しいのが現状である.細胞外タンパク質の品質管理については,細胞外シャペロンと呼ばれる数種類のタンパク質が関わっていることが幾ばくかの研究から報告されている.細胞外シャペロンの一つであるClusterinはストレスを受けたタンパク質に結合する3).しかし一般に細胞外ではATP濃度が低く,細胞外シャペロン自体がATP分解活性を持たないため,変性タンパク質は再折りたたみされない4).ゆえに,Clusterinは変性タンパク質に結合することで安定化させ,凝集体化を防いでいると考えられてきた4).最近,我々は細胞内の分解システムからの知見を発展させ,細胞外シャペロンと結合した基質が細胞表面受容体を介して細胞内に選択的に取り込まれ,エンドサイトーシスによって分解される,細胞外タンパク質分解経路を新たに発見した5).本稿では,その機構について概説する.

2. Clusterinが細胞外の異常タンパク質を捕まえて分解経路へ導く

我々は細胞外シャペロンとしてClusterinに着目し,まずClusterin–基質複合体がエンドサイトーシスを介してリソソーム分解されるかを調べるために,Clusterinに蛍光タンパク質のRFP(赤)とGFP(緑)をタンデムに結合させた融合タンパク質(Clusterin-RG)を作製した.GFPはリソソーム内で分解されその蛍光を失うが,RFPはプロテアーゼ耐性能が高いためリソソーム内においても赤色の蛍光を保つ.そのため,Clusterin-RGが細胞に取り込まれ,リソソームまで輸送されると,赤色の蛍光のみが細胞内に残る(図1A).

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図1 Clusterin取り込みアッセイの概要

(A)Clusterinは,熱感受性モデル変性タンパク質であるルシフェラーゼに変性依存的に結合する.GFPとRFPを融合したClusterin-RGと変性タンパク質複合体は細胞内に取り込まれると,ClusterinとGFPとルシフェラーゼはリソソームで分解されるが,プロテアーゼ耐性能が高いRFPはリソソームに蓄積する.(B)培養細胞から分泌されたClusterin-RGタンパク質とルシフェラーゼタンパク質をin vitroで混合し,目的細胞へ取り込みアッセイを行う.(C)Clusterin-RG単独よりも,Clusterin-RGとルシフェラーゼを加えた細胞は赤色蛍光を蓄積する.

Clusterin-RGを発現する哺乳類培養細胞を作製し,その培養上清から分泌されたClusterin-RGタンパク質を精製した.Clusterinが結合する基質となりうる変性タンパク質のモデルとして,ホタルルシフェラーゼを用いた.ルシフェラーゼは42°Cの熱ストレス下では構造的に不安定となり容易に変性するからである6).免疫沈降によってClusterinとルシフェラーゼの熱ストレス依存的結合が確認できた.これら精製タンパク質を哺乳類培養細胞の培養培地に加え,一定期間細胞培養した後,細胞内の蛍光値をフローサイトメーターで測定した(図1B).その結果,Clusterin-RGとルシフェラーゼの混合液を加熱後に加えると,細胞あたりのRFP蛍光値が顕著に増加した(図1C).次に,バフィロマイシンA1の存在下で同実験を行った.バフィロマイシンA1は,リソソーム阻害剤であり,エンドサイトーシス経路も阻害することが知られている.すると,Clusterin-RGの細胞内RFP蛍光値が大きく減少したのに対して,GFP蛍光値が増加した.すなわち,リソソームによるClusterin–基質(変性タンパク質)複合体の取り込み分解が確認できた.細胞を蛍光顕微鏡で観察してみると細胞表面にGFPが蓄積していたことから,Clusterin-RGは未知の細胞膜上受容体を介したエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれていることが示唆された.

以上のことから,変性タンパク質にClusterinが結合すると,その複合体が選択的にエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれ,リソソームの分解を受けることがわかった.また,このClusterin–基質複合体の分解は,腎臓,子宮,肺,骨,肝臓,腸などの組織由来の培養細胞で確認できたことから,普遍的な分解経路であると考えられる.

3. ヘパラン硫酸受容体がClusterin複合体と結合して細胞内へ取り込む

Clusterin–基質複合体の細胞内への取り込みを担う受容体を同定するために,Clusterin取り込みアッセイがセルソーティング可能なメリットを活かし,genome-wide CRISPRスクリーニングを行った.ヒト全遺伝子を網羅する約6万種のgRNA発現ライブラリーベクターを細胞へ導入し,1細胞あたり単一の遺伝子をノックアウトした細胞を用いて先述のClusterin-RG取り込み実験を行った.Clusterin-RGの取り込み量が抑制された細胞のみを選別し,そのgRNAの標的遺伝子を調べた.スクリーニング結果は,ヘパラン硫酸の合成酵素群(EXT1, EXTL, NDST1, B4GALT7, B3GNT6, XYLT2)が多く含まれ上位を占めていた.ヘパラン硫酸とは,細胞表面の糖鎖修飾の一種であり,さまざまな成長因子やウイルスの受容体として機能することが報告されている(図27–9).そのため,ヘパラン硫酸がClusterinの特異的な受容体であると考えた.それを検証するために,ヘパラン硫酸を結合させたセファロースビーズにClusterinを加えたプルダウン実験を行ったところ,両者の直接結合が確認できた.また,この結合は遊離ヘパラン硫酸を加えることによって競合的に阻害された.さらに,細胞においてヘパラン硫酸の合成酵素をノックアウトさせてもエンドサイトーシス自体は阻害されないことから,ヘパラン硫酸はClusterin特異的な受容体であることが示唆された.

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図2 ヘパラン硫酸の構造

ヘパラン硫酸は主にグルクロン酸とアセチルグルコサミンで構成される二糖単位が数十回繰り返した構造をとる直鎖状の多糖類であり,ヘパラン硫酸基を持つタンパク質をプロテオグリカンと呼ぶ.細胞表面に局在し,成長因子やウイルスの受容体などさまざまな役割を持つ.

ヘパラン硫酸は負電荷を持つ硫酸基を多数持ち,成長因子やウイルスと静電相互作用により結合することが知られている.そこでClusterinの正電荷アミノ酸がへパラン硫酸との結合に関与すると考え,正電荷アミノ酸を非電荷アミノ酸に置換したClusterin変異体を作製し,取り込み実験を行ったところ,変異体の細胞内取り込み量が減少した.よって,Clusterinとヘパラン硫酸は静電相互作用を介して直接結合すると考えられた.

4. Clusterinの基質特異性

では,Clusterinはどのような種類のタンパク質を基質として分解へ導くのだろうか.冒頭で述べたような疾患の原因となるタンパク質を分解できれば,疾患治療への応用も期待できる.実際にClusterinはアミロイドβに結合することが知られていることから10),アミロイドβもClusterinによる分解ができるとかどうか調べた.Clusterinとアミロイドβを培地に加えたClusterin-RG取り込み実験においても取り込み分解が確認できた.Clusterinの基質として用いたルシフェラーゼは,構造内部に高疎水性領域を持つが,変性すると外側に露出することが知られている.また,アミロイドβも短い高疎水性領域を持つ.このことから,Clusterinは疎水性領域を主に認識し結合しているのではないかと考えている.

5. おわりに

まとめると,細胞外に異常タンパク質が生じると,Clusterinが結合し,その複合体は細胞表面受容体としてヘパラン硫酸と静電相互作用によって結合して,細胞内にエンドサイトーシスされリソソーム分解されることがわかった(図35).我々はこの経路をchaperone- and receptor-mediated extracellular protein degradation(CRED)と命名した.しかしながらCREDシステムについては,疑問が多く残されている.Clusterin–基質複合体は細胞内に取り込まれるが,基質と結合していないClusterinは取り込まれない.先に述べたように,Clusterinとヘパラン硫酸の結合は両者の電荷によるものであり,Clusterin–基質の結合に依存していなかった.そのため,細胞内取り込みの選択性に寄与する因子が他にあると考えられる.また他の細胞外シャペロンの関与や,基質選択性,それらの生理的役割など今後解決されるべき課題である.

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図3 chaperone and receptor-mediated extracellular protein degradation(CRED)経路

細胞外で生じた異常タンパク質にClusterin[シャペロン(chaperone)]が結合する.Clusterin+異常タンパク質複合体は細胞表面のヘパラン硫酸[受容体(receptor)]を介して細胞内にエンドサイトーシスされ,リソソームにおいて分解されることで,細胞外の異常タンパク質が分解に導かれると考えられる.

近年,線虫において細胞外のタンパク質凝集体化を制御する細胞外調節因子群が発見された11).細胞外調節因子群は凝集体の増加に伴って発現し,凝集体に結合しその抑制を行う.興味深いことに,細胞外の異常タンパク質の増加がMAPKシグナル伝達経路を介してそれら因子の発現増加を施すことから—小胞体内異常タンパク質を感知してシャペロンなどを発現誘導するunfold protein responseのように12)—,細胞外空間の異常タンパク質を感知して転写を誘導する機構があるのではないかと示唆された.

冒頭で述べたように,細胞外はストレス要因の多い過酷な環境であり,タンパク質の品質管理は非常に重要である.残された課題を解決してCREDシステムの研究を発展させ,最近の知見と合わせて考察することで細胞外のタンパク質の蓄積によって引き起こされる疾患の治療につながるだろう.

引用文献References

1) Kwon, Y.T. & Ciechanover, A. (2017) The ubiquitin code in the ubiquitin-proteasome system and autophagy. Trends Biochem. Sci., 42, 873–886.

2) Mizushima, N. & Levine, B. (2020) Autophagy in human diseases. N. Engl. J. Med., 383, 1564–1576.

3) Poon, S., Easterbrook-Smith, S.B., Rybchyn, M.S., Carver, J.A., & Wilson, M.R. (2000) Clusterin is an ATP-independent chaperone with very broad substrate specificity that stabilizes stressed proteins in a folding-competent state. Biochemistry, 39, 15953–15960.

4) Wyatt, A.R., Yerbury, J.J., Ecroyd, H., & Wilson, M.R. (2013) Extracellular chaperones and proteostasis. Annu. Rev. Biochem., 82, 295–322.

5) Itakura, E., Chiba, M., Murata, T., & Matsuura, A. (2020) Heparan sulfate is a clearance receptor for aberrant extracellular proteins. J. Cell Biol., 219, e201911126.

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11) Gallotta, I., Sandhu, A., Peters, M., Haslbeck, M., Jung, R., Agilkaya, S., Blersch, J.L., Rödelsperger, C., Röseler, W., Huang, C., et al. (2020) Extracellular proteostasis prevents aggregation during pathogenic attack. Nature, 584, 410–414.

12) Walter, P. & Ron, D. (2011) The unfolded protein response: from stress pathway to homeostatic regulation. Science, 334, 1081–1086.

著者紹介Author Profile

千葉 桃果(ちば ももか)

千葉大学理学部生物学科4年.

略歴

1998年宮城県に生まれる.2017年千葉大学理学部生物学科入学.

研究テーマと抱負

生体内恒常性維持機構の研究.貪欲に研究にとり組んでいきたい.

趣味

おいしいものをたくさん食べること.

板倉 英祐(いたくら えいすけ)

千葉大学大学院理学研究院生物学研究部門助教.博士(理学).

略歴

2009年埼玉大学大学院理工学研究科博士課程修了,同年東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科研究員,12年英国MRC Laboratory of Molecular Biology研究員を経て,15年より千葉大学大学院助教.

研究テーマと抱負

生体内タンパク質品質管理システムの研究.初心忘れず真新しい研究に常々自由に挑戦していきたい.

ウェブサイト

https://chibau-cellbiology.jimdofree.com/

趣味

読書.亀.

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