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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 93(2): 239-242 (2021)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2021.930239

みにれびゅうMini Review

みなしごタンパク質の品質管理機構A quality control factor for orphan proteins

九州大学生体防御医学研究所,MRC分子生物学研究所Medical Institute of Bioregulation, Kyushu University/MRC Laboratory of Molecular Biology ◇ 〒812–8582 福岡県福岡市東区馬出3–1–1 ◇ 3–1–1 Maidashi, Higashi-ku, Fukuoka 812–8582, Japan

発行日:2021年4月25日Published: April 25, 2021
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1. はじめに

ヒト細胞のサイトゾルでは,50%近くのタンパク質が,複数のサブユニットからなる複合体として存在する1).ほとんどのタンパク質複合体は,それぞれのサブユニットの量比が定まっているので,必然的に,複合体に入れない,みなしごサブユニットが生じることとなる.みなしごサブユニットは,一見,細胞にとって害があるのかどうかは明白ではないが,最近報告された,新規合成タンパク質の分解速度をプロテオームレベルで調べた研究によると,みなしごサブユニットは速やかに分解される傾向があった2).このような傾向は,過剰に産生されたリボソームタンパク質やミトコンドリア呼吸鎖複合体のサブユニットについても報告されており,それらはやはり,速やかに分解される3, 4).これらの報告は,細胞にとってみなしごサブユニットの蓄積は有害であり,細胞はその蓄積を防ぐ仕組みを持っていることを示唆していが,その実態はほとんどわかっていない.我々は,サイトゾルにおけるタンパク質品質管理因子をスクリーニングする過程で,みなしごサブユニットに対する品質管理因子の一つである,UBE2Oを見いだした.本稿では,この研究の経緯を紹介し,その展望について議論したい.

2. TAタンパク質に対する品質管理

tail-anchored(TA)タンパク質は,カルボキシ末端側に膜貫通領域を有するタンパク質で,サイトゾルで合成された後,小胞体膜やミトコンドリア膜などの生体膜に挿入される.ただし,膜への挿入が滞った場合には,Bag6がサイトゾルでTAタンパク質の膜貫通領域を認識して結合する5).このBag6に捕らえられたTAタンパク質は,RNF126によってユビキチン化され,プロテアソームによって分解される6).Hegdeらのグループは,Bag6とTAタンパク質(主にSec61βを使用)の膜貫通領域を認識すること,膜貫通領域に陽電荷を有するアルギニン3残基を挿入すると,Bag6はその変異体(β3R)を認識できなくなることを報告した5).しかし,興味深いことに,β3RはBag6に認識されないにもかかわらず,ユビキチン化されていた.これは,β3Rは人工的なタンパク質ではあるが,何らかのタンパク質品質管理システムに認識されたことを示唆していた.

3. 人工的なタンパク質β3Rに対するユビキチン化因子の探索

我々は,サイトゾルにおけるタンパク質品質管理因子の探索を目指していた.戦略としては,いたってシンプルで,ウサギ網状赤血球抽出液をもとにしたin vitro翻訳系(rabbit reticulocyte lysate:RRL)で,ユビキチン化されるタンパク質を見いだし,そのユビキチン化を担う因子を同定するというものである.我々は,複数のユビキチン化基質をスクリーニングしたが,その中で,β3Rは非常によい特性を有していた.そこで,β3Rの相互作用因子を調べると,その中にUBE2Oが見いだされた7).UBE2Oは,E2に分類されるタンパク質ではあるが,ユビキチンを基質に直接結合させるE3活性も有することが知られていた8).また,UBE2Oはサイトゾルに構造異常タンパク質が蓄積した場合に,転写誘導されることが報告されている9).UBE2Oとβ3Rユビキチン化の因果関係を調べるために,in vitro翻訳系でβ3Rを合成し,スクロース密度勾配遠心法で分画し,各画分のβ3Rを免疫沈降した.その沈降物にユビキチン,E1, E2を加え,ユビキチン化の程度を調べたところ,UBE2Oが分布する画分にユビキチン化活性が濃縮されていた.また,in vitro翻訳系において,UBE2Oはβ3Rには強く結合するが,Sec61βにはほとんど結合しなかった.これらの結果から,UBE2Oはβ3Rのユビキチン化因子であることが強く示唆された.なお,β3Rのアルギニンクラスターを負電荷のアスパラギン酸クラスターに置換した場合,UBE2Oとの親和性は大きく低下したことから,UBE2Oは疎水性アミノ酸と陽電荷アミノ酸を豊富に含む配列に強い親和性があるようであった.

4. UBE2Oによるβ3Rのユビキチン化反応の再構成

UBE2Oが直接的にβ3Rをユビキチン化するかどうかは,このユビキチン化反応を精製タンパク質で再構成してテストする必要がある.そこで,我々はUBE2Oを精製し,市販のE1(UBE1),E2(UBCH5),ユビキチンとともに,β3Rのユビキチン化の再現を試みた.β3Rは大腸菌無細胞タンパク質合成系であるPURE systemで合成したが10),不溶性の凝集体となってしまい,その調製は困難であった.しかし,分子シャペロンのスクリーニングの結果,Calmodulin(CaM)をPURE systemに加えることで,β3Rを可溶化できることを見いだした.CaMを基質の可溶化に使えることは,その基質のユビキチン化反応の再構成にとって非常に都合がよい.なぜなら,CaMの基質への結合はカルシウムイオンに依存するので,EGTAでカルシウムイオンをキレートした場合,基質はCaMから解放され,ユビキチン化因子の作用が受けられるようになるからである11).そこで,このCaMによる基質のキャッチ&リリース法を活用して,UBE2Oによるβ3Rのユビキチン化の可能性を検証したところ,UBE2Oは,ユビキチンとE1の存在下で,β3Rをユビキチン化できることが明らかになった(図1A).この結果は,UBE2OはE2に分類される酵素であるにもかかわらず,E3活性を持ち,さらに,自身で基質の認識ができることを示している.なお,この再構成実験系で,陽電荷クラスターを含まない疎水性領域を有するタンパク質(Sec61βやppCec)も,UBE2Oはユビキチン化できることが明らかになった.この結果は,一見,UBE2OがRRL中ではSec61βと相互作用しない結果と相容れないが,RRL中では,Sec61βにはBag6が優先的に結合するので,UBE2OとSec61βの相互作用が検出されないのであろうと,我々は考えている.

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図1 UBE2Oによる,みなしごタンパク質の品質管理機構

(A) Calmodulin(CaM)キャッチ&リリース法を用いたβ3Rユビキチン化再構成実験.β3Rを,CaMに抱合させた状態で合成する.その後,EGTAによって,CaMからβ3Rを解放し,UBE2Oによるユビキチン化をテストする.(B) UBE2Oの内在性基質を見つける方法.β3Rの相互作用因子の中に,内在性の結合相手が既知であるタンパク質があった場合,その内在性因子をUBE2Oの基質候補として考え,テストする.実際の例としては,β3RにIPO7が強く結合していたので,その内在性基質である,みなしごリボソームタンパク質をテストしたところ,期待どおり,UBE2Oの基質であった.(C)リボソームタンパク質はサイトゾルで合成され,IPO7などによって核に移行した後に,リボソームRNAに組み込まれる.組み上がったリボソームサブユニット(40S, 60S)は,核外に排出される.サイトゾルで,リボソームに組み込まれる前のみなしごリボソームタンパク質が蓄積した場合,UBE2Oに認識され,ユビキチン化を介して,分解される.

5. UBE2Oの内在性基質

ここまでの研究で,UBE2OはSec61β変異体である,β3Rのユビキチン化因子であることが,明らかになった.β3Rは天然には存在しないタンパク質ではあるが,UBE2Oの内在性基質の何らかの特徴を有しているのではないかと,我々は考えた.そこで,UBE2Oの内在性ユビキチン化基質の探索に取り掛かった(図1B).我々は,まず,β3Rに結合するタンパク質に着目した.β3R結合因子として,UBE2Oを同定した際に行った質量分析解析の結果を再度分析してみたところ,Importin 7(IPO7)が,UBE2Oと同程度の強さで,β3Rと結合していた.IPO7はインポーチンβファミリーのタンパク質で,主にリボソームタンパク質を核内に移行させることが報告されていた12).リボソームはリボソームRNAとリボソームタンパク質の複合体で,それぞれの成分は,異なる場所で合成される.リボソームタンパク質はサイトゾルで合成されるが,その後,IPO7などの核内移行因子によって,核小体まで連れてこられる.核小体では,リボソームRNAが転写されており,リボソームタンパク質がその中へ組み込まれると,リボソームが機能的な形に組み立てられる.このリボソーム合成の過程を考えると,サイトゾルで合成されて,核に移行する以前のリボソームタンパク質は,みなしごサブユニットとして存在することになる(図1C).リボソームタンパク質は,負電荷のリン酸基を豊富に含むリボソームRNAと結合するために,陽電荷のアミノ酸を多く含んでおり,また,RNAの塩基と相互作用するための疎水性残基も有している.これらの特徴的なアミノ酸残基は,リボソームに組み込まれた際には,その内部に埋め込まれるが,みなしごサブユニットの状態では,表面にさらされていると考えられる.ちなみに,このリボソームタンパク質の特徴は,疎水性残基に囲まれたアルギニンクラスターを持つ,β3Rと類似している.そこで,我々は,UBE2Oはリボソームタンパク質をユビキチン化基質にするのではないかと考え,その検証を行ったところ,相互作用,ユビキチン化再構成実験ともに,みなしごリボソームサブユニットはUBE2Oのユビキチン化基質になる傾向があることが明らかになった.UBE2Oの内在性基質としては,我々は,みなしごαグロビンも見いだしているが,こちらの詳細については,論文原本を参照されたい7)

6. UBE2Oが基質を認識する方法

ユビキチン化再構成実験の結果から,UBE2Oは自身で基質を認識できることが示されている.つまり,分子内に基質を認識する領域が存在すると考えられる.UBE2Oには,進化的に保存されたドメインが四つ[conserved region 1(CR1),conserved region 2(CR2),coiled-coil(CC),UBC]あるが,我々は,これらの中に,基質認識領域があるのではないかと考えた.そこで,それらの領域をGSTタグと融合したタンパク質を作製し,β3Rとの親和性を検証すると,CR2と強く結合し,CR1とは弱いながらも結合することが明らかになった.UBE2Oによるユビキチン化の再構成実験において,UBE2Oのそれぞれの領域を欠失させた変異体を用いてβ3R,または,RPL8のユビキチン化を検証したところ,CR2を欠失させた場合に,ユビキチン化能が大幅に減少することから,CR2が主要な基質結合領域であることが明らかになった7).一方,Finleyらのグループは,CR1が塩基性タンパク質(リボソームタンパク質もこのカテゴリーに分類される)の主な結合ドメインであると結論づけており13),統一した解釈には至っていないが,CR1とCR2が主な基質結合領域であることは間違いなさそうである.

7. 細胞内での検証

次に我々は,細胞内において,UBE2Oがみなしごリボソームタンパク質をユビキチン化しうるかどうかを検証した.リボソームタンパク質としてはRPL24を用い,みなしごの状態を実現させるために,RPL24のN末端側に,GFPタグを付加した(リボソームのX線結晶構造を元に,N末端にGFPが融合されると,リボソームへは取り込まれえないサブユニットを選定した).このGFP-RPL24はプロテアソーム阻害剤で安定化されたので,やはり,何らかの品質管理機構に認識され,分解されているものと推測された.そこで,UBE2Oをノックダウンしたところ,用いた3種類すべてのUBE2O siRNAでGFP-RPL24の安定性は高まったので,細胞内においても,UBE2Oはみなしごリボソームタンパク質を認識しうることが明らかになった.上述のように,リボソームタンパク質はサイトゾルで合成された後に核に運ばれて,リボソームに組み込まれる.興味深いことに,GFP-RPL24の核内移行をIPO7のノックダウンで減弱させると,その分解は早くなった.さらに,UBE2Oも加えてノックダウンすると,GFP-RPL24の安定性は回復した.UBE2Oがサイトゾルに分布することを考慮すると,UBE2Oはサイトゾルにとどまったみなしごサブユニットを基質とすることを示している.

8. UBE2Oの生理的役割

Finleyらのグループは,UBE2O遺伝子に変異が生じると,マウスにおいて赤血球成熟の不全を原因とする貧血を引き起こすことを報告している13).また,International Mouse Phenotyping Consortium(IMPC)では,UBE2Oの欠失によって,離乳前の死亡率が増加することが記載されている.みなしごタンパク質の品質管理だけが,UBE2Oの機能ではないであろうが,この結果は,みなしごタンパク質の処理が不十分である場合,個体の発育に重大な問題を引き起こす可能性を示唆している.

9. まとめ

細胞の中には,数多くの複合体が存在する.理論的には,その複合体の数だけ,みなしごタンパク質ができうるので,さまざまな特徴を持ったみなしごタンパク質が存在すると考えられる.みなしごサブユニットの性質に一貫した共通点があるわけではないので,それぞれサブユニット,または,共通した特徴を持ったグループに対する品質管理因子が存在するように思われる.我々はみなしごリボソームタンパク質に対するユビキチン化因子として,UBE2Oを同定したが,他の複合体のみなしごサブユニットに対する品質管理因子は,ほとんどが未同定であると考えられる.McShaneらの論文では,安定性の低い約350種類のみなしごサブユニットが,プロテオームレベルで報告されている2).これらに対する品質管理因子が今後,同定されることで,この研究領域は,拡大していくものと思われる.

引用文献References

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8) Berleth, E.-S. & Pickart, C.-M. (1996) A novel, arsenite-sensitive E2 of the ubiquitin pathway: Purification and properties. Biochemistry, 35, 1664–1671.

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10) Shimizu, Y. & Ueda, T. (2010) The PURE system for protein production. Methods Mol. Biol., 607, 11–21.

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12) Jäkel, S. & Görlich, D. (1998) Importin beta, transportin, RanBP5 and RanBP7 mediate nuclear import of ribosomal proteins in mammalian cells. EMBO J., 17, 4491–4502.

13) Nguyen, A.-T., Prado, M.-A., Schmidt, P.-J., Sendamarai, A.-K., Wilson-Grady, J.-T., Min, M., Campagna, D.-R., Tian, G., Shi, Y., Dederer, V., et al. (2017) UBE2O remodels the proteome during terminal erythroid differentiation. Science, 357, eaan0218.

著者紹介Author Profile

柳谷 耕太(やなぎたに こうた)

九州大学生体防御医学研究所准教授.博士(バイオサイエンス).

略歴

2003年静岡大学理学部卒業.09年博士取得(バイオサイエンス・奈良先端科学技術大学院大学).13年海外特別研究員(学振・MRC-LMB).16年ERATO GL. 19年より現職.

研究テーマと抱負

ポスドクまでは,異常タンパク質の蓄積に細胞が応答する仕組みを研究していたが,現在は,オルガネラ量の恒常性を維持するシステムの解明を目指している.

ウェブサイト

https://ikedalab.bioreg.kyushu-u.ac.jp/

趣味

先輩研究者の方に,過去の研究よもやま話を聞くこと.

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