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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 93(4): 512-516 (2021)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2021.930512

みにれびゅうMini Review

ミトコンドリアAAA-ATPアーゼMsp1による誤配送タンパク質の配送校正機構Proofreading of protein mislocalization mediated by a mitochondrial AAA-ATPase Msp1

1九州大学大学院農学研究院Graduate School of Bioresource and Bioenvironmental Sciences, Kyushu University ◇ 〒819–0395 福岡市西区元岡744 ◇ Motooka 744, Nishi-ku, Fukuoka 819–0395, Japan

2京都産業大学生命科学部・タンパク質動態研究所Faculty of Life Sciences and Institute of Protein Dynamics, Kyoto Sangyo University ◇ 〒603–8555 京都市北区上賀茂本山 ◇ Kamigamo-motoyama, Kita-ku, Kyoto 603–8555, Japan

発行日:2021年8月25日Published: August 25, 2021
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1. はじめに

真核生物の細胞内で作られるタンパク質は,サイトゾル,ミトコンドリア,核,小胞体(ER),細胞膜等,働くべき場所が決まっている.これらの場所に各タンパク質が正しく運ばれることが,細胞の正常な機能に必須である1).タンパク質の細胞内局在に間違いが起こると,誤配送されたタンパク質は機能できないだけでなく,毒にもなりうるので,速やかに分解除去されるものと考えられてきた.2014年に,ミトコンドリア外膜に存在するAAA-ATPアーゼ(ATPases associated with diverse cellular activities)であるMsp1(mitochondrial sorting of proteins 1)が,ミトコンドリア外膜に誤配送されたテイルアンカー型(tail-anchored:TA)タンパク質の除去に関わることが報告された.この報告を受けてMsp1は一躍注目を集める分子となり,筆者らの成果を含めて新しい発見が相次いでいる.本稿では,「Msp1によるタンパク質の配送校正」について筆者らの研究成果を交えながら概説する.

2. TAタンパク質の配送経路と誤配送

C末端に膜貫通配列を一つ持つTAタンパク質は真核生物の全膜タンパク質の3~5%を占め,リボソーム上での翻訳が完了した後,ER,ミトコンドリア,ペルオキシソーム等のオルガネラに配送され,そこで膜への組込みが行われる.ERへ配送されるTAタンパク質は,出芽酵母ではGET(guided entry of tail-anchored)経路,哺乳動物ではTRC40(transmembrane domain recognition complex 40)経路と呼ばれる進化的に保存された経路を介して,ERに配送,膜組込みが行われる2)図1).これに対して,ミトコンドリア外膜に局在するTAタンパク質の配送の仕組みや関与する因子については,まだ十分にはわかっていない.GET経路を欠損した酵母細胞では,本来ERに配送されるはずのTAタンパク質のいくつかがミトコンドリアに誤配送されることが報告されている3, 4)図1).またペルオキシソームのTAタンパク質Pex15のC末端30残基(膜貫通配列よりC末端側)を除去した変異体Pex15Δ30も,ミトコンドリア外膜に誤配送される5)

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図1 ERに局在するTAタンパク質の標的化経路と誤配送

(上)Msp1の配列の模式図.(下)ERに局在するTAタンパク質は,翻訳が完了した後,GET経路を介してATP依存的にER膜に挿入される.GET経路が欠損すると,TAタンパク質はミトコンドリア外膜に誤配送される.こうした誤配送TAタンパク質はミトコンドリア外膜のAAA-ATPアーゼMsp1によって,外膜から除去される.TM:膜貫通配列.

3. ミトコンドリア外膜に局在するAAA-ATPアーゼMsp1

酵母MSP1は,出芽酵母のミトコンドリア内のタンパク質の仕分けに関わる因子の遺伝学的検索によって,中井らが1993年に発見した遺伝子である6).ミトコンドリア外膜に局在するAAA-ATPアーゼをコードすることからその機能に興味が持たれたが,MSP1遺伝子の欠失株は目立った表現型を示さず,機能は長く不明のままであった6).2014年にRutterとWalterらのグループは独立に,GET経路の構成タンパク質の遺伝子とMSP1の二重遺伝子欠損酵母株が強い生育阻害を示すことを見いだした5, 7).GET経路が欠損すると,ペルオキシソーム局在のTAタンパク質Pex15やER経由でゴルジ体に輸送されるv-SNARE Gos1がミトコンドリア外膜に誤配送され,ミトコンドリアの機能異常が引き起こされる.Msp1はこうしたミトコンドリア外膜に誤配送されたTAタンパク質を除去する働きがあることが示された5, 7)

Msp1はN末端に膜貫通配列を一つ持ち,C末端側ドメインをサイトゾルに露出する膜トポロジーを持つAAA-ATPアーゼファミリータンパク質(AAAタンパク質)で,酵母からヒトまで広く保存されている(ヒトではATAD1)(図1).一般にAAAタンパク質は,AAAドメインがホモ六量体を形成したリング状の構造をとる.そしてATPの加水分解に伴うエネルギーを使って,基質タンパク質をリング中央の孔を通すことでタンパク質のアンフォールディングや膜からの引き抜き,タンパク質複合体の解離,タンパク質凝集体の脱凝集を行うことが知られている8).実際,精製した全長Msp1(膜貫通配列を含む)は,リン脂質リポソームに再構成したモデルTAタンパク質を,ATP依存的に引き抜く活性を持つことが報告された9).最近のX線回折やクライオ電子顕微鏡(EM)を用いたMsp1(可溶性ドメイン)の構造解析からも,Msp1がらせん階段状に集合し,基質がその真ん中の孔に通るモデルが示唆されている9, 10)

Msp1は,ミトコンドリア外膜だけでなく一部はペルオキシソーム膜にも局在する5, 7).GET経路の欠損によってミトコンドリア外膜に誤配送されたPex15は,ミトコンドリアに局在するMsp1の引き抜きの基質となるが,本来の局在場所であるペルオキシソーム膜上のPex15は,パートナータンパク質のPex3と結合することによりMsp1の認識を免れるらしい11).ペルオキシソーム膜上でも,Pex15がPex3よりも過剰に存在する,あるいはPex3が存在しない状況では,Pex15の少なくとも一部は複合体を作れない「オーファン」状態となり,Msp1依存的にペルオキシソーム膜から除去される11).Msp1はパートナータンパク質との相互作用界面を認識することで,誤配送タンパク質を見分けることが考えられる.

4. ミトコンドリアに誤配送されたタンパク質はERの品質管理システムを介して分解される

このように2014年以降,Msp1に関する研究は急速に進展したが,誤配送されたTAタンパク質がどのようにして分解除去されるのかは,不明のままであった.上述のように,野生型酵母内でPex15Δ30を発現させると,Pex15Δ30はミトコンドリアに誤配送されて速やかに分解されるが,MSP1遺伝子欠損株では分解されずに安定化する.筆者らはこの系を用いて,Pex15Δ30のMsp1依存の分解がサイトゾルの主要な分解系であるプロテアソーム経路とオートファジー経路のどちらで起こるのかを検討した12).プロテアソーム阻害剤MG132の添加によりPex15Δ30の分解は阻害されたが,オートファジー経路の遺伝子欠損株ではPex15Δ30の分解は野生型酵母株と変わらず,Pex15Δ30はプロテアソーム経路で分解されることがわかった.次に,Pex15Δ30のユビキチン化に関わる遺伝子を,ユビキチン-プロテアソーム関連の非必須遺伝子欠損酵母株ライブラリー(110種類)を用いて検索した12).その結果,Pex15Δ30はdoa10Δ株において,安定化することがわかった.Doa10はER膜に局在し,サイトゾルに露出するN末端RINGドメインと推定14回の膜貫通領域を持つユビキチンリガーゼ(E3)である.Doa10は二つのユビキチン連結酵素(E2)Ubc6とUbc7を使い分け,効率的なユビキチン化反応を触媒するが,実際Pex15Δ30の分解はdoa10Δ株,ubc6Δ株,ubc7Δ株のいずれにおいても強く阻害され,Doa10がPex15Δ30をユビキチン化する因子であることが明らかになった.

プロテアソーム依存的分解経路には,サイトゾルのAAA-ATPアーゼCdc48(哺乳類ではp97/VCP)が関与する.Cdc48は,補因子であるUfd1, Npl4と複合体を形成し,ユビキチン化されたタンパク質のアンフォールディングやER膜からサイトゾルへの引き抜きを行うことが知られている.Cdc48はER膜上でDoa10複合体とUbx2を介して複合体を形成し,ユビキチン化された基質のプロテアソームへの受け渡しの効率をあげる.そこでCdc48の温度感受性株(cdc48-3)を用いてPex15Δ30の分解にCdc48が関与する可能性について調べたところ,Cdc48もPex15Δ30の分解に必要であることがわかった12).さらに,Cdc48の補因子Ufd1, Npl4, Ubx2もPex15Δ30の分解に必要であることを確認できた.

5. Msp1はミトコンドリアに誤配送されたタンパク質を外膜から引き抜き,ER膜に移行する機会を与える

ミトコンドリアに誤配送されたPex15Δ30の分解は,ミトコンドリア外膜のMsp1, ER膜上のDoa10複合体,サイトゾルのCdc48とプロテアソームと,さまざまな区画の複数の因子が関与する複雑なプロセスであることが明らかになった.それでは,これらの因子はどのような順番でどのように基質の分解に関わるのだろうか.たとえば,Msp1とCdc48はどちらもAAA-ATPアーゼとして基質の膜からの引き抜きを行うことが考えられるので,機能的に重複する可能性も考えられた.そこで,cdc48-3msp1Δの二重変異株を作製し,Pex15Δ30の分解を調べた12)msp1Δ株とcdc48-3 msp1Δ変異株におけるPex15Δ30の安定性には大きな差が観察されず,Msp1とCdc48は同一経路上で機能することが示唆された.次に膜を可溶化した後,共免疫沈降実験によって,Pex15Δ30とMsp1およびCdc48との結合を調べたところ,Msp1はユビキチン化されてないPex15Δ30と結合し,Cdc48はポリユビキチン化されたPex15Δ30とよく結合することがわかった12).これらの結果から,Msp1はPex15Δ30がユビキチンされる前で,Cdc48はPex15Δ30がユビキチンされた後で機能することが示唆された.

Pex15Δ30の分解にはDoa10によるユビキチン化が必要なので,doa10Δ株やubc7Δ株を使ってユビキチン化を阻害すると,分解される前のPex15Δ30の細胞内局在を蛍光顕微鏡で観察することができる.興味深いことに,分解される前のPex15Δ30は主にミトコンドリアに局在するが,一部はERにも局在していた12).さらに,ubc7Δ細胞内でMsp1を過剰発現すると,ミトコンドリア局在のPex15Δ30は観察されなくなり,Pex15Δ30は主としてER局在を示した.一方,msp1Δubc7Δの二重欠損株では,Pex15Δ30はミトコンドリア局在を示した.以上の結果から,(1)Pex15Δ30はMsp1によってミトコンドリア外膜から引き抜かれ,ER膜に移動する,(2)ER膜に移動したPex15Δ30をDoa10がユビキチン化する,(3)Cdc48がポリユビキチン化されたPex15Δ30をER膜からサイトゾルに引き出してプロテアソームによる分解へと回す,というPex15Δ30分解の全体像が明らかになった(図2).

Journal of Japanese Biochemical Society 93(4): 512-516 (2021)

図2 誤配送TAタンパク質の分解経路と再配送経路

モデル誤配送TAタンパク質Pex15Δ30は,Msp1によって外膜から引き抜かれた後,ERに移行し,Doa10によるユビキチン化を受ける.ユビキチン化されたPex15Δ30は,Cdc48複合体によってER膜から引き抜かれ,プロテアソームにより分解される.一方Gos1は,Msp1によって外膜から引き抜かれた後,ERに移行し,分泌経路を介して本来の局在場所であるゴルジ体に移行する.

6. Msp1によってERに移行したタンパク質は,異常でなければ,本来の目的地に移行できる

Msp1によってミトコンドリア外膜から引き抜かれた誤配送TAタンパク質,Pex15Δ30はERに移行するが,ERでもパートナータンパク質と複合体を作れないために,ERの品質管理機システムで異常タンパク質と認識され,Cdc48-プロテアソーム系の分解経路に回されると考えられる.それではERの品質管理システムで異常と判断されない場合はあるだろうか.ゴルジ体のTAタンパク質Gos1は,本来GET経路でER膜にアンカーされ,その後小胞輸送によりゴルジ体に局在する.そこでGET経路を阻害して,Gos1をミトコンドリア外膜に誤配送させ,Msp1とDoa10に依存した分解を受けるのかを調べた12).興味深いことに,ミトコンドリアに誤配送されたGos1は,Msp1に依存してミトコンドリアを離れるが,Doa10によるユビキチン化を受けず,そのままゴルジ体まで移行した.この結果は,ミトコンドリアに誤配送されてMsp1による引き抜きを受けても,Gos1はERの品質管理システムによって異常とは認識されず,ゴルジ体まで正しく運ばれる(図2),すなわち異常タンパク質のMsp1による認識とERにおける認識は異なることを示唆する.そして,Msp1はミトコンドリア外膜に誤配送されたタンパク質を分解する経路の構成因子であるというよりは,誤配送されたタンパク質に「配送のやり直し」を行う機会を与えるタンパク質と考えることができる.その後,分解に回されるか,再度本来の目的地に向かうかは,ERのような移行先のオルガネラの品質管理システムの判断に委ねられることになる.

7. おわりに

筆者らは,ミトコンドリア外膜のAAA-ATPアーゼであるMsp1がミトコンドリア外膜に誤配送されたタンパク質を引き抜くことで,分解だけでなく配送やり直しの機会を与えることを見いだした.細胞内でのタンパク質配送には間違いが起こりうること,間違いが起こってもそれをやり直すことで,タンパク質の正しい配送や,誤配送タンパク質の除去を行い,細胞機能の障害の発生を防いでいることになる.DNAの複製や翻訳にみられる「校正(proofreading)」という機構が,タンパク質輸送,特にオルガネラへの標的化においても存在することを示すということもできる.ちなみに分泌経路においては,たとえばERにとどまるべきタンパク質は,誤って下流のオルガネラに漏れ出ても再びERに戻されることが知られており13),これもタンパク質の細胞内局在における校正プロセスということができる.ミトコンドリアやER以外にも同様の配送やり直しのシステムが存在するのか,配送やり直しに伴う,異種オルガネラ間のタンパク質移動には,シャペロンやオルガネラ間コンタクトが関与するのか,TAタンパク質以外の膜タンパク質についても配送のやり直しは起こるのか,など多くの問題が謎として残されている.これらの問題の解明は,今後の課題である.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

松本 俊介(まつもと しゅんすけ)

九州大学大学院農学研究院テニュアトラック助教.博士(システム生命科学).

略歴

2007年九州大学農学部卒業.12年九州大学大学院システム生命科学府博士後期課程修了.14年京都産業大学遠藤研究室博士研究員.20年より現職.

研究テーマと抱負

Msp1を介したタンパク質品質管理機構の解析と新規CRISPR/Cas関連タンパク質の構造機能解析.

ウェブサイト

http://www.agr.kyushu-u.ac.jp/lab/seibutsukagaku/

趣味

スポーツ観戦,ハイキング.

遠藤 斗志也(えんどう としや)

京都産業大学生命科学部教授.理学博士.

略歴

1977年東京大学理学部卒業.82年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了.89年名古屋大学理学部化学科助教授,91年同教授.2014年より現職.

研究テーマと抱負

ミトコンドリア生合成の分子機構.

ウェブサイト

http://endolab.jp/wp/

https://www.facebook.com/endo.lab

https://twitter.com/endolabksu

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