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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 93(4): 541-545 (2021)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2021.930541

みにれびゅうMini Review

自然免疫応答を超えて進化的に保存されたRNAヘリカーゼとTRIMユビキチンリガーゼの相互作用様式Structural analysis of RIG-I-like receptors reveals ancient rules of engagement between diverse RNA helicases and TRIM ubiquitin ligases

東京大学先端科学技術研究センター構造生命科学分野Structural Biology Division, Research Center for Advanced Science and Technology, The University of Tokyo ◇ 〒153–8904 東京都目黒区駒場4–6–1 東京大学先端科学技術研究センター 4号館320室 ◇ 4–6–1 Komaba, Meguro-ku, Tokyo 153–8904, Japan

発行日:2021年8月25日Published: August 25, 2021
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1. はじめに

ウイルスや細菌が体内に侵入した際,これら病原体に対する一次的な防御反応は自然免疫系によって行われる.病原体に由来する分子は宿主の持つさまざまな受容体センサーによって認識され,炎症性サイトカインやインターフェロンの産生,細胞死を引き起こすことで,病原体は速やかに排除される.ウイルス由来のRNAは細胞質に存在する受容体センサーであるRIG-IやMDA5によって認識される.RIG-I/MDA5はC末端のRNAヘリカーゼドメイン,および,N末端の二つのCARDドメインから構成される(図1a).ウイルス非感染の定常状態においてRIG-I/MDA5は不活性型の単量体として存在するが,RNAヘリカーゼドメインを介してウイルス由来のRNAを認識するとRNAに沿ってフィラメント様の多量体構造を形成する(図1b).するとRIG-I/MDA5のCARDドメインが自己集合して四量体構造を形成して,この四量体構造を核としてミトコンドリアに局在するアダプター分子MAVSの多量体化が誘導される.MAVSはTBK1のリン酸化による活性化を促し,転写因子IRF3の核移行を介してI型インターフェロンの産生を促進,宿主は抗ウイルス状態を獲得する.抗ウイルス応答はウイルス感染時においてのみ惹起される必要があり,ウイルス非感染状態の定常状態においては厳密に制御されなくてはならない.そのためRIG-I, MDA5は細胞質に存在する宿主由来のmRNAの中から,ウイルスRNAのみを特異的に見分けて活性化する.RIG-Iはある種のウイルス由来RNAに特徴的な5′末端の三リン酸構造,ならびに,短い二本鎖RNA構造を特異的に認識する.一方でMDA5は長い二本鎖RNAを特異的に認識する.このようなRIG-I/MDA5によるウイルスRNA特異的な認識機構に加えて,近年RIG-I,および,MDA5に対して特異的に働くE3ユビキチンリガーゼ(RIPLET,および,TRIM65)が同定され,抗ウイルス応答におけるユビキチン化の重要性が示唆されてきた1–5)

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図1 RIG-I様ヘリカーゼによる抗ウイルス応答

(a)RIG-I様ヘリカーゼおよびTRIMタンパク質のドメイン図.CTD:C末端ドメイン,BB:B-boxドメイン,CC:コイルドコイルドメイン.(b)RIG-I/MDA5による抗ウイルス応答.(c)RIPLET/TRIM65によるRIG-I/MDA5のユビキチン化.RIPLET/TRIM65は単量体のRIG-I/MDA5には結合せず,ウイルスRNAに結合して多量体化したRIG-I/MDA5に結合し選択的にユビキチン化する.ユビキチンはCARDドメインに結合してその四量体構造を安定化して,下流に免疫応答のシグナルを伝達する.

2. TRIMファミリー依存的なRIG-I/MDA5の活性化機構

RIPLET,および,TRIM65はTRIMファミリーに属するE3ユビキチンリガーゼである.TRIMファミリーはRING型E3リガーゼで,ユビキチン化反応を触媒するRINGドメイン,B-boxドメイン,および,コイルドコイルドメインから構成される(図1a).さらにいくつかのTRIMファミリーのC末端には基質認識ドメインが存在し,RIPLETやTRIM65においてはPSpryドメインがRIG-I/MDA5を認識する.RIPLET/TRIM65は不活性型の単量体RIG-I/MDA5には結合せず,RNAに結合したフィラメント様のRIG-I/MDA5に選択的に結合し,ユビキチン化を行う(図1c).RIPLET/TRIM65はK63結合型のポリユビキチン化を触媒し,K63型ポリユビキチンは前述のCARDドメインの四量体構造を安定化し,I型インターフェロンの産生を促進する.すなわちRIPLET/TRIM65はウイルス感染状態においてのみRIG-I/MDA5を特異的に認識することによって免疫応答を促進し,この機構によりウイルス非感染の定常状態において免疫応答が起こらないよう厳密に制御している.さらに詳細な生化学的解析によって,RIPLET/TRIM65はコイルドコイルドメインを介して二量体構造をとり,二価結合によってRNA結合型RIG-I/MDA5を特異的に認識していることが明らかとなった(図1c図3bルール1)6)

3. RIPLET:RIG-I-二本鎖RNA複合体,および,TRIM65:MDA5-二本鎖RNA複合体の立体構造

TRIMファミリーによるRIG-I/MDA5の認識機構を詳細に明らかにするために,我々はクライオ電子顕微鏡を用いた構造解析,および,X線結晶構造解析によって,RIPLET:RIG-I:RNA,および,TRIM65:MDA5-RNA三者複合体の立体構造を決定した(図2).以前の報告にあったように7, 8),RIG-I/MDA5はRNAに沿って規則的なフィラメント構造を形成していた(図2).RIPLET/TRIM65のPSpryドメインは個々のMDA5/RIG-I分子を認識し,RIG-I/MDA5-RNAフィラメントに巻きつくように結合していた.RIG-I/MDA5のRNAヘリカーゼドメインはさらに細かく複数のサブドメイン(Hel1, Hel2, Hel2i,および,C末端ドメイン)に分けられるが,RIPLET/TRIM65はともにRIG-I/MDA5のHel2ドメインに位置する二つのヘリックス構造を認識していた(図3ルール2).MDA5とRIG-Iのアミノ酸配列の比較から,これら二つのヘリックスは異なるアミノ酸配列を持つことが明らかになった.これらのことからRIPLET/TRIM65はRIG-I/MDA5の同じHel2ドメインに結合するが,Hel2ドメインのアミノ酸配列の違いを区別することで,各々のRNAヘリカーゼを特異的にユビキチン化することが明らかとなった.興味深いことに,RIG-I-RIPLET,および,MDA5-TRIM65の相互作用に重要なアミノ酸のいくつかはヒトからマウスの異なる種間において保存されておらず,これらの相互作用は種間で特異的であることが明らかとなった.たとえば,マウス由来RIG-Iはマウス由来RIPLETによって特異的に認識され,ヒト由来RIPLETのマウス由来RIG-Iに対する結合は弱かった.これらのことからRIPLET-RIG-I,および,TRIM65-MDA5の相互作用は分子進化の過程で共進化してきたことが示唆された.

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図2 RIG-I様ヘリカーゼとE3ユビキチンリガーゼの複合体構造

(a)TRIM65:MDA5:二本鎖RNA複合体のクライオ電子顕微鏡構造.(b)RIPLET:RIG-I:二本鎖RNA複合体のクライオ電子顕微鏡構造.

4. RNAヘリカーゼに結合する新規TRIMファミリータンパク質の同定

以上の知見から,仮にRIPLET-RIG-I,および,TRIM65-MDA5の相互作用が分子進化の過程でその相互作用を保存するように共進化してきたのならば,そのようなTRIMファミリーとRNAヘリカーゼの相互作用は他にも存在するのではないかと考えた.そこで我々はLGP2に着目した.LGP2はRIG-IやMDA5と同じRIG-I様ヘリカーゼファミリーに属し,RNAヘリカーゼドメインを持つがシグナル伝達に必要なCARDドメインを持たない(図1a).ウイルス感染に対するLGP2の生理的役割について統一的な見解は得られていないが,LGP2はMDA5による免疫応答を正に,RIG-Iによる免疫応答を負に制御することが報告されている9).我々はRNAヘリカーゼのHel2ドメイン,および,TRIMタンパク質のPSpryドメインに対して進化的系統樹を作成し,実際にLGP2はMDA5やRIG-Iと進化的に近いことを確認した.さらにRIPLETとTRIM65と進化的に近いTRIMタンパク質を複数精製し,LGP2との直接的な結合をスクリーニングしたところ,TRIM14がLGP2に直接結合することが明らかとなった(図3a).さらにRIG-I-RIPLET, MDA5-TRIM65の相互作用と同じように,TRIM14は二価結合を介してRNA結合型のLGP2を特異的に認識していること(ルール1),さらにLGP2のHel2ドメインに結合すること(ルール2)が明らかとなった.

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図3 RNAヘリカーゼとTRIMファミリータンパク質の進化的に保存された相互作用

(a)RNAヘリカーゼの進化的系統樹とそれらに結合するTRIMタンパク質.(b)TRIMタンパク質とRNAヘリカーゼの相互作用における進化的に保存された二つのルール.

次に我々は,これら二つのルール(二価結合性とHel2認識)が他のRNAヘリカーゼとTRIMタンパク質間の相互作用においても保存されているかもしれないと考え,DicerとDDX41に着目した.DicerはRNAサイレンシングの過程で二本鎖RNAを切断するRNA分解酵素である.DicerはC末端のRNaseドメインに加えて,N末端にHel1, Hel2, Hel2iから構成されるRIG-IやMDA5に類似したヘリカーゼドメインを持つ.一方でDDX41は進化的系統樹においてRIG-I, MDA5, LGP2やDicerよりも進化的に遠く離れており,主にHel1, Hel2ドメインのみから構成される.DicerのHel2-Hel2iドメイン,および,DDX41のHel1-Hel2ドメインをGST-融合タンパク質としてそれぞれ精製し,それらを用いてHEK293細胞由来の細胞破砕液と混合したのちにGSTプルダウンを行い,質量分析法によって新規のTRIMタンパク質の同定を試みた.その結果,DicerはTRIM25と結合し,DDX41には二つのTRIMタンパク質TRIM26とTRIM41が結合することが明らかとなった(図3a).これらの相互作用について,二つのルール(二価結合性とHel2に対する結合)が保存されているか,精製タンパク質を用いて確かめた.その結果,TRIM25はDicerに対して二価で結合すること(ルール1),そしてTRIM25もやはりDicerのHel2ドメインを認識して結合すること(ルール2)が明らかとなった.一方で,DDX41においては,TRIM26およびTRIM41は二価結合によってDDX41に結合するものの,Hel2ドメインではなくHel2ドメインに構造的に類似したHel1ドメインを認識してDDX41に結合することが明らかとなった.

5. おわりに

今回筆者らはRNAヘリカーゼとTRIMタンパク質の相互作用を規定する二つの普遍的なルールを発見した.一つ目のルールにおいて,TRIMタンパク質は二価結合依存的にRNAヘリカーゼを認識する(図3b).RIPLET/TRIM65は単量体のRIG-I/MDA5は認識せず,ウイルスRNAに結合して多量体化したRIG-I/MDA5を選択的に認識し,免疫シグナルを誘導する.これによって,ウイルス感染時のみにおけるRIG-I/MDA5依存的な免疫応答が達成されていると考えられる.LGP2もウイルスのRNAに結合して多量体化することが報告されており,TRIM14もLGP2の量体数を見分けて何らかの生理機能に関与しているかもしれない.DicerやDDX41もまたRNAに結合して多量体化し,TRIMタンパク質によって多量体型選択的に認識される可能性もある.二つ目のルールにおいて,TRIMタンパク質は構造的に類似したドメイン(Hel1,あるいは,Hel2)を認識してRNAヘリカーゼに結合する(図3b).今回新規のTRIM-RNAヘリカーゼ相互作用を複数同定したが,その生理的な意義は不明であり,今後の詳細な解析を待ちたい.

引用文献References

1) Lang, X., Tang, T., Jin, T., Ding, C., Zhou, R., & Jiang, W. (2017) TRIM65-catalized ubiquitination is essential for MDA5-mediated antiviral innate immunity. J. Exp. Med., 214, 459–473.

2) Oshiumi, H., Miyashita, M., Inoue, N., Okabe, M., Matsumoto, M., & Seya, T. (2010) The ubiquitin ligase Riplet is essential for RIG-I-dependent innate immune responses to RNA virus infection. Cell Host Microbe, 8, 496–509.

3) Peisley, A., Wu, B., Xu, H., Chen, Z.J., & Hur, S. (2014) Structural basis for ubiquitin-mediated antiviral signal activation by RIG-I. Nature, 509, 110–114.

4) Cadena, C., Ahmad, S., Xavier, A., Willemsen, J., Park, S., Park, J.W., Oh, S.W., Fujita, T., Hou, F., Binder, M., et al. (2019) Ubiquitin-dependent and -independent roles of E3 ligase RIPLET in innate immunity. Cell, 177, 1187–1200.e16.

5) Jiang, X., Kinch, L.N., Brautigam, C.A., Chen, X., Du, F., Grishin, N.V., & Chen, Z.J. (2012) Ubiquitin-induced oligomerization of the RNA sensors RIG-I and MDA5 activates antiviral innate immune response. Immunity, 36, 959–973.

6) Kato, K., Ahmad, S., Zhu, Z., Young, J.M., Mu, X., Park, S., Malik, H.S., & Hur, S. (2021) Structural analysis of RIG-I-like receptors reveals ancient rules of engagement between diverse RNA helicases and TRIM ubiquitin ligases. Mol. Cell, 81, 599–613.e8.

7) Peisley, A., Wu, B., Yao, H., Walz, T., & Hur, S. (2013) RIG-I forms signaling-competent filaments in an ATP-dependent, ubiquitin-independent manner. Mol. Cell, 51, 573–583.

8) Yu, Q., Qu, K., & Modis, Y. (2018) Cryo-EM structures of MDA5-dsRNA filaments at different stages of ATP hydrolysis. Mol. Cell, 72, 999–1012.e1016.

9) Bruns, A.M., Leser, G.P., Lamb, R.A., & Horvath, C.M. (2014) The innate immune sensor LGP2 activates antiviral signaling by regulating MDA5-RNA interaction and filament assembly. Mol. Cell, 55, 771–781.

著者紹介Author Profile

加藤 一希(かとう かずき)

東京大学先端科学技術研究センター 特任助教.Ph.D.

略歴

1987年東京都に生る.2010年東京工業大学生命理工学部卒業.15年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻理学博士取得(「ヌクレオチド代謝酵素の立体構造からみる基質特異性,および,分子進化の構造基盤」,指導教員:濡木理).15~18年中外製薬株式会社バイオ医薬研究部にて抗体医薬の研究開発に関わる.18~20年Boston Children’s Hospital/Harvard Medical School Research Fellow.自然免疫,特にRNAウイルスに対する免疫応答のメカニズムを研究.21年より東京大学先端科学技術研究センター特任助教.

研究テーマと抱負

あらゆる実験技術を駆使して自然免疫・獲得免疫のメカニズムを理解する.自分にしかできないサイエンスを追求したい.

ウェブサイト

https://www.childrenshospital.org/research/labs/hur-laboratory

http://hurlab.tch.harvard.edu

趣味

色々な温泉を巡ること,ウィスキー.

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