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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 93(4): 562-565 (2021)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2021.930562

みにれびゅうMini Review

マクロファージにおけるLC3-associated phagocytosisを介した肺炎連鎖球菌に対する免疫防御機構老化との関連Macrophage LC3-associated phagocytosis acts as an immune defense mechanism against Streptococcus pneumoniaeits relationship to aging

明海大学歯学部口腔生物再生医工学講座微生物学分野Division of Microbiology and Immunology, Department of Oral Biology and Tissue Engineering, Meikai University, School of Dentistry ◇ 〒350–0283 埼玉県坂戸市けやき台1–1 ◇ 1–1 Keyakidai, Sakado, Saitama 350–0283, Japan

受付日:2021年5月12日Received: May 12, 2021
発行日:2021年8月25日Published: August 25, 2021
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1. はじめに

肺炎連鎖球菌(肺炎球菌)Streptococcus pneumoniae(pneumococcus)は無症状で鼻咽頭にコロニーを形成するが,下気道に感染して肺炎を引き起こし,血流に広がると敗血症や髄膜炎などの侵襲性感染症を起こす1).肺炎球菌に対する感受性は65歳以上の高齢者で著しく高くなり,高齢者人口の急増する日本や米国では肺炎球菌感染症による死亡が増加し問題となっている1, 2)

肺炎球菌性肺炎の病巣には,急速で活発なマクロファージの浸潤がみられる.マクロファージは肺炎球菌を直接分解・排除するだけでなく,腫瘍壊死因子-α(TNF-α),インターロイキン-1β(IL-1β)およびインターロイキン-6(IL-6)などの炎症性サイトカインを分泌し肺炎の病態を制御する3, 4).実際,マウスおよびヒトにおいて,マクロファージの数または機能の欠陥は肺炎の病態を進展させることが明らかにされている.

高齢者では炎症が起きやすくなっており(inflammaging),肺炎球菌感染症を含む加齢関連疾患の発症や進展に寄与すると考えられている5).たとえば,高齢者では若年者と比較して肺炎球菌に対して過剰な炎症応答(炎症性サイトカインの増加,抗炎症性サイトカインの低下)が誘導される6).この現象は老年マウスおよび若年マウス間でもみられ,老年マウス由来のマクロファージでは若年マウス由来のマクロファージに比べて肺炎球菌に対して高レベルなTNF-αの発現が誘導される7).この応答がマクロファージを介した肺炎球菌の分解・排除を弱めるとともに,NLRP3を介したインフラマソームの活性化を減弱させ肺炎の病態を進展させる7).しかしながら,マクロファージの肺炎球菌に対する免疫防御機構の詳細や老化に伴う変化については十分に理解されていない.

マクロファージの病原体排除の機構の一つとして,細胞外の病原体を貪食し分解するLC3-associated phagocytosis(LAP)があげられる8–10).LAPは2007年にマクロファージでオートファジー関連因子であるlight chain 3(LC3)を用いる特殊なファゴサイトーシスとして発見された8–10).オートファジーでは二重膜のLC3陽性オートファゴソームで対象物を包んだ後リソソームと融合し分解するが,LAPでは一重膜のLC3陽性ファゴソーム(LAPosome)で包み分解する8–10).LAPosomeの形成にはLC3の他にもオートファゴソームの形成に関連する因子が必要であるが,オートファゴソームの形成に関連しない因子も必要であることが明らかにされている8–10).興味深いことに,LAPは病原体排除だけでなく炎症性サイトカイン産生の抑制など免疫調節にも関与することが報告されている11)

現在までに,肺炎球菌は上皮細胞や線維芽細胞において膜孔形成毒素であるニューモリシン(PLY)を介してオートファジーを誘導し分解されることが明らかにされている12).しかしながら,マクロファージにおいて肺炎球菌はオートファジーまたはLAPを誘導するのかどうか,またその誘導能が老化とともに変化するのかについては明らかにされていない.我々は,肺炎球菌がマクロファージにおいてPLY依存的にLAPを誘導すること,同菌はLAPを介してリソソームで分解・排除されること,さらに肺炎球菌の誘導するLAPは老化とともに破綻するため同菌のマクロファージでの生存率が増加し炎症性サイトカインの発現誘導が亢進されることを明らかにしたため,紹介したい13)

2. マクロファージにおいて肺炎球菌はPLY依存的にLAPを誘導する

筆者らは,マクロファージにおいて肺炎球菌はオートファジーまたはLAPを誘導するかどうかを調べるために,若年マウス(2か月齢)由来骨髄マクロファージに肺炎球菌を感染させた.肺炎球菌はLC3-IIの発現(LC3-Iの膜結合型であり,LC3-IIの発現増加はLC3陽性オートファゴソームならびにLAPosome形成の指標となる)を時間経過的に誘導した(図1A).PLYの関与を調べたところ,PLY欠損株はLC3-IIを誘導しなかった.緑色蛍光タンパク質(GFP)タグつきLC3(GFP-LC3)を発現させたマクロファージでは,肺炎球菌の約35%が30分以内にLC3と共局在し,その共局在は90分後には減少した.オートファゴソームならびにLAPosomeの形成に関与するAtg5またはAtg7を欠損させたマウス由来マクロファージではLC3と共局在する肺炎球菌の割合が減少した.したがって,マクロファージにおいて肺炎球菌はPLY依存的にAtg5およびAtg7を必要とするLC3陽性オートファゴソームまたは/ならびにLAPosomeの形成を誘導すると考えられた.

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図1 マクロファージにおいて肺炎球菌はLC3-IIの発現を誘導し一重膜に包まれる(LAPを誘導する)が,その誘導能は老化とともに減少する

(A)若年マウス(2か月齢)由来マクロファージでは肺炎球菌の感染によってLC3-IIが誘導される.老年(22~26か月齢)マクロファージでは応答がみられない.* P<0.05で有意差あり.n.s.:not significant. (B)若年マクロファージにおいて肺炎球菌は一重膜(▲)に包まれる.ザイモサンは一重膜に包まれ,ラパマイシンは二重膜(矢印)を誘導する.スケールバーは500 nmを示す.図はInomata et al.(2020)PNASより一部改変して使用.

オートファジーは数時間で誘導されるのに対し,LAPは数分で誘導されることが明らかにされている8–10).肺炎球菌とLC3の共局在は感染後30分以内に生じたことより,LAPが肺炎球菌へのLC3の動員に関与していると推測した.LAPの誘導にはオートファジーの誘導には関与しないNADPHオキシダーゼを介した活性酸素種(ROS)の産生が必要とされる8–10).そこでまず,肺炎球菌がROSの産生を誘導するかどうかを調べた.肺炎球菌はNADPHオキシダーゼの細胞膜成分gp91phox(NOX2)ならびに細胞質成分(p40phox)と共局在するとともに強力にROSの産生を誘導した.続いて,LAPの誘導に必須の因子であるRubiconの関与を調べた.Rubicon欠損マウス由来のマクロファージではLC3と共局在する肺炎球菌の割合が減少した.一方で,オートファジーの誘導に必須の因子でありLAPの誘導には関与しないAtg14欠損マウスのマクロファージでは影響がみられなかった.またオートファジーの誘導にはmTOR経路の不活性化が必要であり,mTOR基質であるp70S6Kの脱リン酸化が生じるが,肺炎球菌を感染させたマクロファージではp70S6Kの脱リン酸化を認めなかった.最後に,オートファジーでは対象物が二重膜のオートファゴソームに包まれ分解されるが,LAPでは一重膜のLAPsomeに包まれる8–10)ことから,肺炎球菌が二重膜あるいは一重膜のどちらに包まれるのかを調べた.オートファジーの誘導因子であるラパマイシンで処理されたマクロファージでは二重膜構造が認められた(図1B).LAPを誘導することが報告されているザイモサン(酵母の細胞壁の多糖質)は一重膜に包まれていた(図1B).肺炎球菌はザイモサンと同様に一重膜に包まれていた(図1B).これらの結果から,肺炎球菌はオートファジーではなくAtg5, Atg7, RubiconならびにNADPHオキシダーゼを介したROS産生依存的にLC3陽性一重膜のLAPosomeの形成,すなわちLAPを誘導すると考えられた(図2).

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図2 マクロファージLC3-associated phagocytosis(LAP)の肺炎球菌に対する免疫防御機構–老化との関連

若年マウス(2か月齢)のマクロファージでは,肺炎球菌はPLY依存的にLAPの誘導に必須の因子Rubicon等を介してLC3陽性の一重膜のLAPsomeを誘導しリソソームで分解される.一方で,老年マウス(22~26か月齢)のマクロファージでは,LAPの誘導ならびにLAPによる細菌の分解が減弱し,高レベルの炎症性サイトカインが誘導される.

3. LAPは肺炎球菌を分解する

LAPは貪食した病原体をLAPosomeに包み最終的にリソソームで分解する.ほとんどのLC3陽性肺炎球菌はリソソーム関連膜タンパク質(LAMP-2)と共局在した.そこで実際にLAPは肺炎球菌の分解・排除に関与するのかどうかを調べた.コントロールマウス由来マクロファージでは肺炎球菌の生存率が減少した.一方で,Rubicon欠損マウス由来マクロファージではコントロールマウス由来マクロファージに比べて生存率が増加した.同様に,Atg7またはNOX2が欠損したマウス由来マクロファージではコントロールマウスに比べて生存率が増加した.しかしながら,Atg14欠損マウス由来のマクロファージではコントロールマウスと同程度に肺炎球菌の生存率が減少した.これらの結果からマクロファージにおいてLAPは肺炎球菌の殺傷に関与すると考えられた.

4. LAPによる肺炎球菌分解機構は老化により減弱し,肺炎球菌に対する炎症性サイトカインの誘導が亢進する

オートファジーは老化とともに減弱することが明らかにされている14).また,高齢者では肺炎球菌感染症の感受性が亢進する1, 2).これらのことより,肺炎球菌のLAP誘導能が老化とともに変化するのかどうかを調べるため,若年マウスおよび老年マウス(22~26か月齢)由来のマクロファージに肺炎球菌を感染させLC3-II量を比較した.若年マウス由来マクロファージではLC3-IIの発現の誘導がみられた(前述)が,老年マクロファージではLC3-IIの誘導がみられなかった(図1A).また肺炎球菌とLC3の共局在は老年マウス由来マクロファージで明らかに減少した.これらの結果から,肺炎球菌の誘導するLAPは老化により減弱すると示唆された.

老化に伴うLAPの低下が,肺炎球菌殺傷能に及ぼす影響を調べた.老年マウス由来マクロファージでは若年マクロファージと比較して肺炎球菌の生存率が増加した.また,Rubiconのサイレンシングは若年マクロファージにおける肺炎球菌の生存率を増加させた(前述)が,老年マクロファージには影響を及ぼさなかったことから,LAPによる肺炎球菌分解機構は老化により破綻すると考えられた.

LAPは炎症性サイトカイン産生の抑制など免疫調節能にも関与することが明らかにされている11).LAPがマクロファージの肺炎球菌に対する炎症応答に影響を及ぼすのかどうかを調べた.老年マウス由来マクロファージでは若年マクロファージに比べて肺炎球菌に対して高レベルのTNF-α, IL-6,およびIL-1βの発現が誘導された.Rubiconのサイレンシングは若年マクロファージにおいてこれらのサイトカインの発現をさらに誘導したが,老年マクロファージには影響を及ぼさなかった.これらの結果から,老化に伴うLAPの誘導の減弱は肺炎球菌生存率を増加させ,その結果,同菌に対する炎症性サイトカインを増加させると考えられた.

5. おわりに

本研究においてマクロファージにおける肺炎球菌とオートファジー/LAPの関連性について調べたところ,肺炎球菌はPLY依存的にLAPを誘導すること,肺炎球菌はLAPを介してリソソームで分解・排除されること,さらに肺炎球菌の誘導するLAPを介した同菌の分解機構は老化とともに破綻し,その結果,炎症性サイトカインの発現誘導を亢進させることが明らかになった(図2).マクロファージLAPの肺炎球菌に対する免疫防御機構とその老化との関連は,高齢者における肺炎病態の進展メカニズムに関与すると考えられる.今後の研究では,なぜ老化に伴い肺炎球菌の誘導するLAPが減弱するのかを肺炎モデルマウスを使いながら調べることで,超高齢社会の日本における健康寿命の延伸に向けた取り組みに貢献できたらと考える.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した筆者らの研究は,著者の前所属である朝日大学歯学部の御支援の下に留学したタフツ大学医学部分子生物学微生物学分野において共同研究者の方々とともに行われたものです.この場を借りて深く感謝申し上げます.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

猪俣 恵(いのまた めぐみ)

明海大学歯学部口腔生物再生医工学講座微生物学分野准教授.博士(歯学).

略歴

2005年愛知学院大学大学歯学部卒業.09年同大学院歯学研究科歯周病学専攻博士課程修了.同年朝日大学歯学部口腔微生物学分野助教.16年同大学講師.同年米国タフツ大学医学部visiting scholar. 19年朝日大学准教授.21年より現職.

研究テーマと抱負

肺炎や歯周病といった感染症がなぜ加齢によって発症・進行するのかを明らかにしたいと考えています.

ウェブサイト

https://www.meikai.ac.jp/dent/microbiology.html

趣味

読書,ヨガ.

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