Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 93(6): 810-814 (2021)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2021.930810

みにれびゅうMini Review

メディエーター複合体のコンポーネントMED26による新たな転写制御機構Novel mechanism of transcription regulation by human Mediator subunit MED26

横浜市立大学大学院医学研究科分子生物学分野Department of Molecular Biology, Yokohama City University Graduate School of Medical Science ◇ 〒236–0004 横浜市金沢区福浦3–9 ◇ 3–9 Fukuura, Kanazawa-ku, Yokohama, Kanagawa 236–0004, Japan

発行日:2021年12月25日Published: December 25, 2021
HTMLPDFEPUB3

1. はじめに

RNAポリメラーゼII(Pol II)による遺伝子発現制御は生命機能において非常に重要な役割を果たす.細胞は増殖因子やサイトカイン,ストレスなどのさまざまな刺激を受けると,それらの刺激はさまざまなシグナル伝達経路を介して転写因子に伝達される.活性化した転写因子はエンハンサーに結合するとエンハンサーRNA(eRNA)の産生などを促し,エンハンサー–プロモーター間結合が形成される.すると,プロモーター領域にクロマチンリモデリング因子やヒストン修飾因子などのさまざまな因子がリクルートされ,クロマチン構造が解かれる.こうしてアクセス可能となったプロモーター領域に,メディエーター複合体(メディエーター)の補助によって基本転写因子群やPol IIがリクルートされ(転写開始前複合体の形成),転写が開始される1).このように,転写開始までのプロセスで,プロモーターにリクルートされるPol IIの量が決定されるため,転写開始までが遺伝子発現量を決定する上で最も重要であると考えられてきた.ところが,近年の研究により,非常に多くの遺伝子の発現が,転写開始後の転写伸長や転写終結によっても制御されていることが明らかとなり,転写開始後の制御機構が注目されている.

また最近,巨大なサイズのエンハンサーであるスーパーエンハンサー(10 kb以上)が液–液相分離による液滴によって形成されることが明らかとなった2, 3).スーパーエンハンサーには多くの転写因子が結合し,複数の遺伝子の発現を同時に活性化することが示されている.スーパーエンハンサーの機能に液滴が関与していることから,他の転写プロセスも液滴によって制御されている可能性が考えられ,液–液相分離による転写制御機構の解明は国際的な潮流となっている.

2. Pol IIのプロモーター近傍の一時停止による転写調節

Pol IIは,誤った塩基の取り込みや転写伸長を抑制する因子(DSIF/NELF),ヌクレオソームによる転写障害などのさまざまな要因によって一時停止する.このPol IIの一時停止の解除には,ELL/EAFやTFIIS, Elongin A, P-TEFb(CDK9/CycT),FACTといった転写伸長因子の働きが必要である.特に,Pol IIは転写開始直後の転写開始点から30~50塩基下流の位置で一時停止することが以前より知られており,これはPol IIのプロモーター近傍での一時停止(promoter-proximal pausing:PPP)と呼ばれている.PPPはDSIF/NELFがPol IIに結合することによって引き起こされ,活性化のシグナルに応答して解除されることから,調節的なPol IIの一時停止であると考えられている4).PPPは,当初,ヒートショック遺伝子Hsp70やがん原遺伝子c-Mycc-Fosにおいて発見された.ところが,近年のゲノムワイドなGRO-seq(Global run-on sequencing)やPRO-seq(Precision nuclear run-on sequencing)などの新技術により,発生制御遺伝子や血清応答性遺伝子などの非常に多くのヒト遺伝子(約30%と示唆されている)において,Pol IIがプロモーター近傍で一時停止していることがわかってきた5, 6).このことは,発現の迅速な誘導が必要なヒートショック遺伝子や血清応答性遺伝子,細胞集団において遺伝子の発現が迅速かつ同期して調節されるような発生制御遺伝子においては,遺伝子発現が転写開始までのプロセスをスキップして,転写伸長→終結のみによって転写が完結する可能性を示唆している7).PPPを解除し転写伸長を再開させるためには,転写伸長因子が時期特異的に特定の遺伝子領域にリクルートされることが必要である(図1参照).我々はこれまでに,メディエーターが,転写伸長因子を時期特異的に特定の遺伝子領域にリクルートする機構について解明してきた.

Journal of Japanese Biochemical Society 93(6): 810-814 (2021)

図1 Pol IIのプロモーター近傍の一時停止

3. メディエーターについて

メディエーターは酵母からヒトまで保存された複合体で,出芽酵母では約20個,多細胞生物では約30個のサブユニットから構成される.メディエーターは転写因子だけではなく,基本転写因子やPol IIとも結合し,転写因子の活性化のシグナルを基本転写因子やPol IIに仲介(mediate)する役割を果たす.メディエーターは転写活性化時に転写因子によってプロモーターへリクルートされると,そこでさらに基本転写因子やPol IIとも結合し,それらをプロモーターへリクルートすることで,転写開始前複合体の形成を促進する.出芽酵母と多細胞生物に共通のメディエーターのサブユニットは,基本転写因子やPol IIとの結合などメディエーターの基本的な機能において必須の役割を果たしている.一方で,多細胞生物にのみ存在するサブユニットは,多細胞生物に特有の細胞増殖やホルモン応答,発生制御など多細胞生物の生命機能に必要な遺伝子発現制御において重要な役割を担っていると考えられる8)

メディエーターにはサブユニット構成の異なる複数の種類のフォームが存在することが示唆されており,特に多細胞生物に特有のサブユニットのMED26を含むメディエーターは,細胞内で多くのPol IIと結合し,転写の活性化において重要な役割を果たすことが予想されていた.また興味深いことに,MED26は,そのN末端ドメイン(NTD)が,転写伸長因子のTFIISやElongin AのNTDと相同性を有する.質量分析計を用いて,MED26に結合するタンパク質群の探索を行ったところ,MED26のNTDには転写伸長因子ELL/EAFを共通のコンポーネントとして含む2種類の複合体super elongation complex(SEC)とlittle elongation complex(LEC)が結合することがわかった9).SECは転写伸長因子のELL/EAF, P-TEFbに加え,mixed lineage leukemia(MLL)融合パートナー因子と呼ばれるAF4, AFF4, AF9やENLをサブユニットとして有する10).一方で,LECはELL/EAFに加えてICE1, ICE2をコンポーネントとして有する9).興味深いことに,SECのサブユニットのAF4, ENL, AF9, AFF4やELLの遺伝子はMLL遺伝子との染色体転座によって混合型急性白血病を引き起こすことが知られている.

4. MED26はSECやLECをそれぞれ異なる遺伝子領域へとリクルートする

MED26によってSECやLECがどのような遺伝子領域にリクルートされるのかを明らかにするために,MED26をノックダウンした細胞を用いて,SECやLECのコンポーネントでのChIP-seq解析を行った.すると,MED26はSECをc-MycHsp70遺伝子などのPPPがみられる遺伝子領域にリクルートし,Pol IIの転写伸長を促進することが明らかとなった9).一方で,MED26はLECをsmall nuclear RNA(snRNA)や複製依存性ヒストン遺伝子などの遺伝子領域にリクルートし,それらの遺伝子の転写伸長を促進することも明らかとなった11)

Pol IIによって合成されるほとんどのmRNAはSEC標的遺伝子も含めて,その末端に“ポリA鎖”(ポリアデニル酸鎖)が付加され,mRNAは分解から保護されることが知られている.ポリA化は遺伝子の転写終結点直前に存在するポリA付加シグナルによって指令され,ポリA付加シグナルから20~50塩基下流の位置より付加される.興味深いことに,snRNAや複製依存性ヒストン遺伝子のmRNAはポリA付加シグナル前に転写が終結することでポリA化されない.ところが,MED26やLECのコンポーネントをノックダウンしたところ,ポリA化された異常なsnRNAやヒストンmRNAが産生されることがわかった.LECをリクルートしないMED26の変異型細胞株を用いてPRO-seq解析を行ったところ,MED26変異型細胞ではsnRNAやヒストン遺伝子領域でPol IIがポリA付加シグナルを読み過ごしてしまい,mRNAがポリA化されることが明らかとなった.このことから,MED26はLECと共役し,ポリA付加シグナル前に転写を終結させることで,mRNAにポリA鎖が付加されないように制御することがわかった12).このように,MED26はSECとLECを使い分けることで,それぞれポリA鎖のあるmRNAとポリA鎖のないmRNAの合成を促進することが明らかとなった(図2参照).

Journal of Japanese Biochemical Society 93(6): 810-814 (2021)

図2 メディエーターによるSECとLECの使い分け

MED26はSECとLECを異なる遺伝子領域にリクルートし,それぞれポリA鎖のあるmRNAとポリA鎖のないmRNAの合成を促進する.

さらに,LECの細胞内局在を調べたところ,LECはMED26とともに核内凝集体Cajal body(CB)に局在することがわかった.CBはsnRNAの転写制御やsmall nuclear ribonucleoprotein(snRNP)の成熟化に機能することが知られている.また,ヒストン遺伝子の転写の場として知られる核内凝集体histone locus body(HLB)もCBと共局在化することから,LECはMED26とともにCBにおいてsnRNAや複製依存性ヒストン遺伝子の転写終結を制御することがわかった12)

5. MED26とLECによる非ポリA型遺伝子の転写終結制御

LECによる転写終結制御機構を解明するために,LECのコンポーネントICE1をbaitにLEC結合因子のプロテオミクス解析を行った.すると,LECはDSIF/NELF, cap-binding複合体(CBC),Integrator複合体,heat labile factor(HLF)複合体と相互作用することがわかった.詳細な解析を行ったところ,LECは,非ポリA型遺伝子であるsnRNA遺伝子や複製依存性ヒストン遺伝子の転写終結領域において(i)DSIF/NELF/CBC複合体と結合し,Pol IIのポリA付加シグナルの読み過ごしを抑制すること,次に(ii)Integrator複合体やHLF複合体をリクルートし,複製依存性ヒストン遺伝子やsnRNAの転写産物の3′末端部分を切断することがわかった(図3参照)12).このようにして,MED26とLECはポリA鎖のないmRNAの産生を促進することが明らかとなった.

Journal of Japanese Biochemical Society 93(6): 810-814 (2021)

図3 MED26とLECによるポリA鎖のない遺伝子の転写終結制御(文献12より引用)

6. おわりに

メディエーターの他のサブユニットのMED23やMED12の遺伝子の変異が,ヒトの知能障害や子宮筋腫の原因となっていることが報告され,メディエーターのヒト疾患への関わりが注目されている13, 14).これまでの研究から,MED26はSECをc-Mycなどの細胞増殖関連遺伝子領域にリクルートすることで細胞周期G1期の進行を促進し,さらにLECを複製依存性ヒストン遺伝子などの領域にリクルートすることでS期の進行を促進し,細胞増殖に機能すると考えられる.メディエーターが核内で液滴を形成する例も報告されており2, 3),メディエーターによるこうした転写制御には,液–液相分離を介した機構が関与している可能性がある.さらに,MED26による転写制御機構はがんや白血病などの腫瘍性疾患の発症に関わっている可能性が考えられ,今後の研究が期待される.

謝辞Acknowledgments

本研究は北海道大学大学院医学研究院・医化学教室の畠山鎮次教授,米国カンザス州ストワーズ医学研究所のJoan W. Conaway教授のご協力のもとに行われました.心より感謝致します.

引用文献References

1) Li, W., Notani, D., & Rosenfeld, M.G. (2016) Enhancers as non-coding RNA transcription units: Recent insights and future perspectives. Nat. Rev. Genet., 17, 207–223.

2) Boija A., Klein I.A., Sabari B.R., Dall’Agnese A., Coffey E.L., Zamudio A.V., Li C.H., Shrinivas K., Manteiga J.C., Hannett N.M., Abraham B.J., Afeyan L.K., Guo Y.E., Rimel J.K., Fant C.B., Schuijers J., Lee T.I., Taatjes D.J., & Young R.A. (2018) Transcription factors activate genes through the phase-separation capacity of their activation domains Cell. 175, 1842–1855.

3) Sabari, B.R., Dall’Agnese, A., Boija, A., Klein, I.A., Coffey, E.L., Shrinivas, K., Abraham, B.J., Hannett, N.M., Zamudio, A.V., Manteiga, J.C., et al. (2018) Coactivator condensation at super-enhancers links phase separation and gene control. Science, 361, eaar3958.

4) Core, L. & Adelman, K. (2019) Promoter-proximal pausing of RNA polymerase II: A nexus of gene regulation. Genes Dev., 33, 960–982.

5) Core, L.J., Waterfall, J.J., & Lis, J.T. (2008) Nascent RNA sequencing reveals widespread pausing and divergent initiation at human promoters. Science, 322, 1845–1848.

6) Kwak, H., Fuda, N.J., Core, L.J., & Lis, J.T. (2013) Precise maps of RNA polymerase reveal how promoters direct initiation and pausing. Science, 339, 950–953.

7) Lagha, M., Bothma, J.P., Esposito, E., Ng, S., Stefanik, L., Tsui, C., Johnston, J., Chen, K., Gilmour, D.S., Zeitlinger, J., et al. (2013) Paused Pol II coordinates tissue morphogenesis in the Drosophila embryo. Cell, 153, 976–987.

8) Soutourina, J. (2018) Transcription regulation by the Mediator complex. Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 19, 262–274.

9) Takahashi, H., Parmely, T.J., Sato, S., Tomomori-Sato, C., Banks, C.A., Kong, S.E., Szutorisz, H., Swanson, S.K., Martin-Brown, S., Washburn, M.P., et al. (2011) Human mediator subunit MED26 functions as a docking site for transcription elongation factors. Cell, 146, 92–104.

10) Lin, C., Smith, E.R., Takahashi, H., Lai, K.C., Martin-Brown, S., Florens, L., Washburn, M.P., Conaway, J.W., Conaway, R.C., & Shilatifard, A. (2010) AFF4, a component of the ELL/P-TEFb elongation complex and a shared subunit of MLL chimeras, can link transcription elongation to leukemia. Mol. Cell, 37, 429–437.

11) Takahashi, H., Takigawa, I., Watanabe, M., Anwar, D., Shibata, M., Tomomori-Sato, C., Sato, S., Ranjan, A., Seidel, C.W., Tsukiyama, T., et al. (2015) MED26 regulates the transcription of snRNA genes through the recruitment of little elongation complex. Nat. Commun., 6, 5941.

12) Takahashi, H., Ranjan, A., Chen, S., Suzuki, H., Shibata, M., Hirose, T., Hirose, H., Sasaki, K., Abe, R., Chen, K., et al. (2020) The role of Mediator and Little Elongation Complex in transcription termination. Nat. Commun., 11, 1063.

13) Hashimoto, S., Boissel, S., Zarhrate, M., Rio, M., Munnich, A., Egly, J.M., & Colleaux, L. (2011) MED23 mutation links intellectual disability to dysregulation of immediate early gene expression. Science, 333, 1161–1163.

14) Mäkinen, N., Mehine, M., Tolvanen, J., Kaasinen, E., Li, Y., Lehtonen, H.J., Gentile, M., Yan, J., Enge, M., Taipale, M., et al. (2011) MED12, the mediator complex subunit 12 gene, is mutated at high frequency in uterine leiomyomas. Science, 334, 252–255.

著者紹介Author Profile

鈴木 秀文(すずき ひでふみ)

横浜市立大学大学院医学研究科分子生物学分野助教.博士(理学).

略歴

2011年千葉大学理学部卒業.15年に同大学院理学研究科(田村隆明教授)にて学位取得.16年より東京工業大学(山口雄輝教授)にてポスドク研究員.18年国立がん研究センター常勤研究員を経て,19年より現職.

研究テーマと抱負

近年の解析技術の目覚ましい発達に伴い,遺伝子発現制御の実態が少しずつわかりはじめてきました.液–液相分離による転写制御も非常に興味深い現象です.遺伝子発現がどのように制御されているのか,MED26に着目しながら,その分子機構を手にとるように理解したいと考えています.

ウェブサイト

https://ycu-molecularbiology.jp/

趣味

テニス.

高橋 秀尚(たかはし ひでひさ)

横浜市立大学大学院医学研究科分子生物学分野教授.博士(医学).

略歴

2001年九州大学医学部卒業.05年九州大学生体防御医学研究所(中山敬一教授)にて学位取得.06年ストワーズ医学研究所(Conaway研究室)にてポスドク.11年北海道大学大学院医学研究院(畠山鎮次教授)にて助教~講師.17年より現職.

研究テーマと抱負

MED26はSECとLECを巧みに使い分けることで遺伝子発現を制御することがわかってきました.このようなMED26による新規の遺伝子発現制御機構とその生理的役割を解明し,将来的にはその破綻による疾患発症メカニズムを明らかにしたいと考えています.

ウェブサイト

https://ycu-molecularbiology.jp/

趣味

ドラム演奏.

This page was created on 2021-11-02T13:52:52.067+09:00
This page was last modified on 2021-12-06T10:46:22.000+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。