ADPリボシル化酵素がタンパク質やDNAを特異的に修飾する仕組み
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ADPリボシル化酵素はほとんどすべての生物が産生する酵素であり,多様な役割を担っている.たとえば,多くの病原性細菌はADPリボシル化酵素を産生し,標的細胞内で基質にADPリボースを1分子付加することで基質の機能に影響を及ぼし,最終的に細胞毒性をもたらす.また,真核生物が保有するポリADPリボシル化酵素[poly(ADP-ribose)polymerase:PARP]は,基質にADPリボースを複数分子付加することで,損傷したDNA修復を含むさまざまな細胞内イベントに関与する.さらに,病原性細菌だけでなく非病原性細菌も保有するADPリボシル化酵素は,抗生物質にADPリボースを1分子付加することで,抗生物質耐性を獲得する.他にも,トキシン-アンチトキシンシステムとして制御に関わるADPリボシル化酵素も知られている.
ADPリボシル化酵素の役割が多岐にわたっている理由として,基質および標的分子の多様性がある(表1).ADPリボシル化酵素の基質はタンパク質だけでなく,DNAやRNA,抗生物質まで幅広い.ここで基質とはタンパク質やDNA, RNAなどを表す.また標的分子とは,ADPリボースが付加される分子を示し,基質がタンパク質の場合はアミノ酸残基を,DNAでは塩基などを示す.さらに細かく紹介すると,標的分子は,アルギニン,アスパラギン,グルタミン(ADPリボースが付加されるのは側鎖の窒素原子),トレオニン,セリン(側鎖の酸素原子),システイン(側鎖の硫黄原子),グアニン(窒素原子),二本鎖DNAの5′末端のリン酸基(酸素原子),抗生物質のヒドロキシ基(酸素原子)等と多様である.
ADPリボシル化酵素の基質および標的分子が多様な一方で,その立体構造はよく似ている.しかし,さまざまなADPリボシル化酵素がどのように基質および標的分子を識別しているのかについては近年までほとんどわかっていなかった.本稿では,我々がこれまで明らかにしてきた3種類のADPリボシル化酵素と基質の複合体構造を元に,ADPリボシル化酵素の基質および標的分子の認識機構を紹介する.
ADPリボシル化酵素は,NAD+をニコチンアミドとADPリボースに開裂し,ADPリボースを基質に付加する.そして反応の際は,基質だけでなく,標的分子も厳密に識別する.これは,ADPリボシル化酵素が,一般的な「鍵と鍵穴」の仕組みで基質を認識し,さらにまた別の仕組みで標的分子を認識している可能性を示唆している(図1A).
(A) ADPリボシル化酵素–基質–NAD+の3者複合体の模式図.(B)ARTT-loopの6番目のアミノ酸(グルタミン酸あるいはグルタミン)による標的分子(アルギニンあるいはアスパラギン)の認識機構の仮説.
ところで,ADPリボシル化酵素はよく似た立体構造を示すが,活性部位に保存された三つのアミノ酸残基を元に,R-S-Eクラス,H-Y-Eクラス,その他,という三つのクラスに分類することができる.ここで,アルギニンあるいはヒスチジンはNADの結合に重要であり,グルタミン酸は反応に必須である.また,R-S-EクラスのADPリボシル化酵素はARTT-loopと呼ばれる8アミノ酸からなるループ領域を持ち,その配列はX-X-ϕ-X-X-E/Q-X-Eで表される.ここでϕは芳香族アミノ酸を,8番目のグルタミン酸はR-S-EおよびH-Y-Eという名前に表される反応に必須のグルタミン酸を,それぞれ示している.
Hanらは1999年にADPリボシル化酵素で初めてR-S-Eクラスに属するVIP2の構造解析を行い,2001年にARTT-loopの6番目のアミノ酸(グルタミン酸あるいはグルタミン)が標的分子の認識に関与しているという仮説を提案した1, 2)
.この仮説は,よく研究されていたR-S-Eクラスに属する2種類のADPリボシル化酵素(イオタ毒素IaとC3毒素)のアミノ酸認識機構をよく説明する.イオタ毒素IaはARTT-loopの6番目のアミノ酸としてグルタミン酸を持ち,基質タンパク質であるアクチンの177番目のアルギニンをADPリボシル化する.その一方で,C3毒素はARTT-loopの6番目のアミノ酸としてグルタミンを持ち,基質タンパク質であるRhoAの41番目のアスパラギンをADPリボシル化する.これらの事実から,イオタ毒素IaとC3毒素のADPリボシル化の標的分子特異性を以下のように説明した——「標的分子であるアルギニンあるいはアスパラギンは,ARTT-loopの6番目のアミノ酸であるグルタミン酸あるいはグルタミンとの間に形成される2本の水素結合によってそれぞれ認識される」(図1B).しかし,ADPリボシル化酵素と基質の複合体の構造が得られていないため,この仮説は近年まで立証されてこなかった.
Clostridium botulinum由来C3毒素(C3bot)は,アクチン細胞骨格の主要制御因子である低分子量Gタンパク質RhoAの41番目のアスパラギンをADPリボシル化する3).ADPリボシル化されたRhoAはguanine nucleotide dissociation inhibitor(GDI)と強く結合するため活性化されず,結果としてアクチン繊維の破壊に至る.
多くのC3ホモログが発見されてきたが,我々はBacillus cereus由来C3毒素(C3cer)を用いることで,基質タンパク質RhoAおよびNADHとの3者複合体の結晶構造解析に成功した(図2)4).NAD+ではなくNADHを使用したのは,結晶化の際に反応が進行しないようにするためである.C3cerのARTT-loopの配列は178-TAYPGQYE-185であり,ϕの位置にTyr180を持つ.Tyr180はRhoAの疎水的なポケットに埋まっており,基質RhoAとの結合に重要な役割を果たしていた.また,ARTT-loopの6番目のアミノ酸はGln183であり,仮説が正しい場合,Gln183はRhoAのAsn41と2本の水素結合を形成しているはずである.実際,結晶構造において,仮説どおりの相互作用が形成されていた.そのためこの結晶構造は,ARTT-loopが基質および標的分子の認識に重要であることを立証する初の報告となった.ところで,ADPリボシル化反応が進行するためには,標的分子であるAsn41がNADのNC1原子を求核攻撃しなければならない.結晶構造においてAsn41とNC1原子の距離は2.9 Åであり,求核攻撃に適した距離となっていた.このことからARTT-loopのGln183は,基質RhoAのAsn41を水素結合によって捕まえ,さらに,反応に適した位置に配置するという二つの役割を果たしていると考えられる.
Clostridium perfringens由来イオタ毒素Iaは,アクチンの177番目のアルギニンをADPリボシル化する5).ADPリボシル化はアクチンの立体構造にはほとんど影響を及ぼさないが,ADPリボースの立体障害によりアクチンは重合することが不可能となる.そのため,イオタ毒素はアクチンの脱重合をもたらし,結果として細胞の円形化を引き起こす.
我々は,Ia,アクチン,NAD+の3者複合体の結晶を得て,その複合体構造を明らかにした(図2)6, 7)
.NAD+を用いた場合反応が進行してしまうが,抗凍結剤のエチレングリコールが反応を阻害したため,NAD+とエチレングリコールを含む溶液に結晶をソーキングすることで,反応前の複合体の構造を明らかにすることができた.IaのARTT-loopの配列は373-PGYAGEYE-380であり,ϕの位置にTyr375を持つ.C3-RhoA複合体構造と同様に,Tyr375はアクチンの疎水的なポケットに埋まることで,基質アクチンとの結合に重要な役割を果たしていた.また,ARTT-loopの6番目のアミノ酸はGlu378であり,仮説が正しい場合,Glu378はアクチンのArg177と2本の水素結合を形成しているはずである.しかし複合体構造において,Glu378とArg177の間の距離は6.2 Åであり,水素結合を形成していなかった.また,ADPリボシル化反応が進行するためにはArg177がNADのNC1原子を求核攻撃しなければならないが,結晶構造においてArg177とNC1原子は8.4 Å離れており,求核攻撃が可能な位置関係ではなかった.これは,反応が進行するためには,結晶構造で観測された構造から,求核攻撃が可能な構造に変化しなければならないことを意味している.構造が変化した際,Glu378とArg177は相互作用を形成可能な距離に近づくのかもしれない.
1996年から2001年にかけて若林,杉村らは,モンシロチョウの蛹の体液に含まれるADPリボシル化酵素が二本鎖DNAのグアニンをADPリボシル化し,アポトーシスを引き起こすことを発見した8).このADPリボシル化酵素は,モンシロチョウの学名Pieris rapaeにちなんでピエリシン(pierisin)と命名された.ピエリシンは基質としてDNAを用いることが明らかとなった初のADPリボシル化酵素であり,C3毒素やイオタ毒素Iaと同様にR-S-Eクラスに属する.DNAを標的とするR-S-EクラスのADPリボシル化酵素はどのように標的分子を認識しているのだろうか.我々はこの問いに答えるため,Streptomyces coelicolor由来ScARPに注目した.ScARPはピエリシンと似たアミノ酸配列を示すが,二本鎖DNAではなく,グアノシンやGTPのグアニン塩基のN2アミノ基をADPリボシル化する9).
我々は,ScARP, GDP, NADHの3者複合体の結晶構造解析に成功した(図2)10).結晶化の際に反応が進行しないよう,NAD+ではなくNADHを使用した.ScARPのARTT-loopの配列は157-HKWADQVE-164であり,ϕの位置にTrp159を持つ.C3およびイオタ毒素と同様に,Trp159はGDPのグアニンとπ-π相互作用を形成することで,基質GDPとの結合に重要な役割を果たしていた.また,ARTT-loopの6番目のアミノ酸Gln162は,GDPのグアニンと2本の水素結合を形成していた.しかも,標的分子であるGDPのグアニンのN2アミノ基とNADのNC1原子の距離は4.0 Åであった.我々も予想していなかったが,ScARPのGln162とグアニンの相互作用,また,その相互作用の結果もたらされるGln162,グアニン,NADの位置関係は,C3-RhoA-NAD複合体で観察されたGln183, Asn41, NADの位置関係とまったく同じであった.これは,基質がタンパク質かDNAかにかかわらず,R-S-EクラスのADPリボシル化酵素は,ARTT-loopを用いた共通の仕組みによってアミノ酸および塩基を認識していることを示す.つまりADPリボシル化酵素は,基質の認識および,ARTT-loopを用いた標的分子の認識という2種類の認識機構を有している.
C3毒素およびScARPを用いた複合体の結晶構造解析により,R-S-EクラスのADPリボシル化酵素がARTT-loopを用いて標的分子(アミノ酸あるいは塩基)を認識する仕組みを明らかにした11).しかし,この認識機構は,ARTT-loopと標的分子の間に形成される2本の水素結合に基づいているため,2本の水素結合を形成することができないアミノ酸(たとえば,トレオニンやシステイン)を標的とするものや,そもそもARTT-loopを持たないH-Y-Eクラスには適用できない.本原稿を執筆中,R-S-EクラスにもH-Y-Eクラスにも属さないADPリボシル化酵素DarTについて,基質である一本鎖DNAとの複合体構造が報告され,特徴的な基質認識機構が明らかになった12).その一方で,PARPについては,ポリADPリボースの存在が1966年から1967年にかけてChambon,早石,杉村の三つのグループによって報告されて以来13–15)
,いまだ基質との複合体は明らかになっていない.今後,PARPについて基質との複合体の構造が明らかにされることで,幅広いADPリボシル化酵素の特定のアミノ酸残基修飾の仕組みの詳細がみえてくると考えている.また,他の翻訳後修飾酵素が標的アミノ酸残基をどのように認識しているのかも興味深い.翻訳後修飾酵素と基質タンパク質の全体の複合体の構造が解明された例は少なく,今後,さまざまな翻訳後修飾酵素について基質との複合体の構造が明らかにされることで,標的分子を特異的に修飾する仕組みの詳細が明らかとなると期待される.
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