Phos-tagを用いた不安定なヒスチジンやアスパラギン酸のリン酸化タンパク質の解析
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筆者らは,リン酸基を捕捉する機能性分子Phos-tag(フォスタグ)1)を用いたオリジナルでユニークな原理に基づくリン酸化タンパク質解析技術を創出している.それらの技術のうち,本稿ではリン酸基親和性電気泳動法とリン酸化タンパク質ゲル染色法について紹介する.また,中性の水溶液中でタンパク質のリン酸基を捕捉するPhos-tagの性質を活かした,化学的に不安定で酸性,アルカリ性において加水分解されやすいヒスチジン(His)やアスパラギン酸(Asp)がリン酸化されたタンパク質の解析法について述べる.
細菌や植物細胞では,HisやAspのリン酸化を介した細胞内情報伝達システムが存在する2).これは2成分伝達系といわれ,細胞膜上のヒスチジンキナーゼ(HK)が外界からの刺激に応答して自身のHisをリン酸化し,そのリン酸基を応答分子のレスポンスレギュレーター(RR)に転移する.その後,リン酸化したRRは,関連する遺伝子の発現を制御する(図1).この情報伝達システムは,環境に順応するための普遍的な役割を担うもので,HKの特徴的な領域の配列は広く保存されている2).ところが,病原菌においては,2成分伝達系が普遍的な役割だけでなく細菌の病原性や薬剤耐性に関与する遺伝子発現の制御に関わっていることが報告されている3).そのため,HKは次世代型の抗生物質の標的分子として注目され,その阻害薬の開発が世界中で精力的に進められている4, 5)
.
HisやAspに結合したリン酸基は,化学的に不安定で,特に酸性やアルカリ性条件下で加水分解されやすく,中性の水溶液中においても半減期は数時間から数日である6).そのため,2成分伝達系におけるリン酸化シグナルカスケードの解析法は真核細胞のそれに比べて限られていた.質量分析は,サンプルを酸性の試薬で処理する過程があるため,リン酸化されたHisやAspを含むペプチドを検出することは難しいと考えられている.また,それらの化学的不安定さにより抗体を作製することも難しいと考えられていたが,リン酸化ヒスチジン構造類似体が開発されたことで,2015年にようやく抗リン酸化His抗体が実用化された7).一方,Phos-tagを基盤とする分析法は,中性pH条件下,簡便な実験操作,短時間で行えるため,不安定なリン酸化Hisやリン酸化Aspのリン酸化解析に適用可能である.以下の項目では,Phos-tag技術を利用した細菌の2成分伝達機構に関わる不安定なリン酸化タンパク質の解析について述べる.
Phos-tagを基盤とした技術の中でも,2006年に発表したリン酸基親和性電気泳動法のPhos-tag SDS-PAGEは,多くの研究者に利用されている8–13)
.ゲルの作製は,一般的なSDS-PAGEの分離ゲル作製時にアクリルアミド化Phos-tag(図2A)を共重合(固定)させるだけである.このゲルではリン酸化タンパク質がPhos-tagに捕捉されながらゆっくり泳動するため,同じタンパク質のリン酸化型と非リン酸化型を移動度の差として分離できる(図2B).ちなみに,リン酸基の数に応じて分離されるのではなく,同じ数のリン酸を含む同種のタンパク質の場合でも,リン酸化部位が異なればPhos-tagとの親和性に差異が生じて,移動度の異なるバンドとして分離される.また,一つのタンパク質分子内に複数のリン酸化部位が存在するためにさまざまなリン酸化状態が混在する場合には,そのリン酸化状態の違いが泳動度の異なる複数のバンドとして検出される.
大腸菌には29種類の2成分伝達系が存在する.その中でHis→Asp→His→Aspと分子内で多段階のリン酸基リレーを行うHKのEvgSと,それに対応するRRのEvgAについて,in vitroにおけるリン酸化リレー反応をPhos-tag SDS-PAGEで解析した13).二量体として機能するEvgSは,外界からの刺激に応じてHKドメインのH721が自己リン酸化する(図3A)13, 14)
.そのリン酸基は分子内のレシーバードメインのD1009, HptドメインのH1137へと転移され,続いてEvgAのD52に転移される.EvgS単独のin vitro自己リン酸化反応をPhos-tag SDS-PAGEで解析した結果を図3Bに示す.H721, D1009, H1137の3か所のリン酸化に対応する三つのリン酸化型EvgSが検出された.リン酸化されるアミノ酸のアラニン置換体の分離パターンを調べることによって,この3本のバンドは図3B右に示した各リン酸化部位に対応することを確認した.EvgSとEvgAが共存するリレー反応の場合は,EvgAのD52にリン酸基が転移されるため,EvgAが共存しない場合に比べて顕著にEvgSの三つのリン酸化型のバンドは薄くなっている.また,EvgAに転移されたリン酸基は速やかに加水分解されるため,EvgAのリン酸化型バンドは非常に薄い.EvgS/EvgAの他にも,超好熱性細菌のThkA15),根粒細菌のFixL/FixJ16),大腸菌のBarA/UvrY14, 17)
,ArcB/ArcA14, 17)
,PhoR/PhoB5),EnvZ/OmpR17, 18)
のリン酸化反応のダイナミクスを解析した例を報告しているのでご参照いただければ幸いである.
Phos-tagに蛍光分子を導入した蛍光性Phos-tagは,特にSDS-PAGEのゲル内のリン酸化タンパク質の染色試薬である18, 19)
.励起/蛍光波長の違いにより,4種類のラインナップがある(図4A).一般的なCBB染色や蛍光ゲル染色法では,酢酸とメタノールを含む酸性溶液中でタンパク質をゲルに固定する.一方,Phos-tag蛍光ゲル染色では,中性溶液をすべての染色ステップで使用する.Phos-tag試薬を用いた蛍光染色では,リン酸化にかかわらず非特異的に検出されるタンパク質もあるが,ゲル染色操作の簡便さから,タンパク質によっては非常に利用価値のある方法である.筆者らは,本試薬が大腸菌のHKであるEnvZ, ArcB, EvgSのHisリン酸化型を選択的に染色することを確認した.そして,これらのHKとHK阻害活性が見いだされている抗生物質のwaldiomycinを使用して,本蛍光染色試薬がHK阻害剤のスクリーニングに適用できるかどうかを検討した.waldiomycinは,薬剤耐性菌にも有効な新規で特異的作用点を持つ抗菌薬のリード化合物として注目されている20, 21)
.その作用機序は,HKの二量体化に必要な高度に保存されたH Boxという領域に特異的に結合してHKを阻害するというものである.
(A)蛍光Phos-tagの構造.蛍光分子の種類により,励起/蛍光波長が異なる4種類がある.Ex=励起波長,Em=蛍光波長(nm).(B)waldiomycin存在下における3種のヒスチジンキナーゼ(EnvZ, ArcB, EvgS)の自己リン酸化反応を行い,反応液をSDS-PAGEで分離した.そのゲルをPhos-tag Cyanで染色した.(C)(B)において検出されたバンドの濃度をデンシトメトリー解析し,それぞれのHKのキナーゼアッセイにおけるwaldiomycinの阻害プロファイルとIC50値を示した(B, Cは文献18より転載).
EnvZ, ArcB, EvgSのin vitro自己リン酸化反応に対し0~1000 µMのwaldiomycinを添加し,その反応液をSDS-PAGEで分離後,Phos-tag Cyan蛍光染色を行った(図4B)18).リン酸化されたHKのバンドの蛍光量はwaldiomycinの濃度依存的に少なくなった.デンシトメトリー解析の結果,IC50は20~30 µMと決定された(図4C).本法は電気泳動法を基盤としているため,ハイスループットスクリーニングには適さないが,非常に簡便なスクリーニング法として利用できることが示された.
最後に,前述の電気泳動に続くゲル染色法よりもスループット性の高いドットブロット法と抗N3リン酸化His抗体を組み合わせたHK阻害剤スクリーニング法について述べる.まず,2015年に初めて発売された抗N3リン酸化His抗体について,HKのリン酸化が特異的に検出できることを確認した.4種類のHK(EnvZ, WalK, ArcB, EvgS)の自己リン酸化反応液[ATP(+),ATP(−)]をPhos-tag SDS-PAGEで分離し,抗N3リン酸化His抗体によるウェスタン解析を行ったところ,ATP(+)のレーンにみられるシフトアップしたリン酸化型のバンドが特異的に検出された(図5A).これらの反応液を電気泳動で分離せずに,ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜にドットブロットし,抗N3リン酸化His抗体で検出した場合,WalK, ArcB, EvgSについてはATP(−)サンプルでも弱いシグナルが検出されたが,EnvZについてはATP(+)のサンプルのシグナルのみが検出された(図5B).次に,EnvZをサンプルとして,自己リン酸化反応に対するwaldiomycinの阻害効果を,ドットブロットと抗N3リン酸化His抗体を用いて調べた(図5C).バンドの蛍光強度はwaldiomycinの濃度依存的に弱くなり,デンシトメトリー解析によりIC50が15 µMと決定された.大量サンプルを扱えるドットブロッターや自動分注機などを利用することにより,ドットブロット法は,96や384フォーマットに拡大できるため,ハイスループットスクリーニングへの応用も可能である.
(A) 4種のヒスチジンキナーゼ(EnvZ, WalK, ArcB, EvgS)の自己リン酸化反応をATP(+)あるいはATP(-)で行い,その反応液をPhos-tag SDS-PAGEで分離した.リン酸化型ヒスチジンキナーゼはCBB染色においてシフトアップバンド(矢印)として分離され,それらは抗リン酸化His抗体によって検出された.(B)4種のヒスチジンキナーゼ(EnvZ, WalK, ArcB, EvgS)の自己リン酸化反応をATP(+)あるいはATP(-)で行い,その反応液をPVDF膜にドットブロットした.そのブロットを抗リン酸化His抗体で解析した.(C)waldiomycin存在下におけるEnvZの自己リン酸化反応を行い,その反応液をPVDF膜にドットブロットした.そのブロットを抗リン酸化His抗体で解析した.検出されたドットの濃度をデンシトメトリー解析し,waldiomycinの阻害プロファイルとIC50値を示した.
Phos-tag技術を用いた細菌のHisやAspのリン酸化解析について,いくつかの例を紹介した.Phos-tag技術には,本稿で紹介した以外にもリン酸化タンパク質のウェスタン解析法(ビオチン化Phos-tag)8),リン酸化タンパク質やリン酸化ペプチドの精製に利用可能なクロマトグラフィ担体(Phos-tag agarose)23–25)
,質量分析におけるリン酸化ペプチドの検出増感剤26)がある.それらPhos-tag試薬が,リン酸化プロテオミクスの発展に寄与できることを願っている.
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