キノン補酵素形成に関わる新奇フラビン酵素の構造と機能
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2 大阪大学産業科学研究所生体分子反応科学研究分野 ◇ 〒567–0047 大阪府茨木市美穂ケ丘8–1
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タンパク質は,自身を構成するアミノ酸残基のみでは発揮できない機能を獲得するために,各種の金属イオンや低分子有機化合物を補因子として取り込んでいる.このような機能拡張の手段の一つとして,タンパク質の翻訳後修飾がある.とりわけ,アミノ酸残基から,酵素の反応部位となる補酵素を作り出す翻訳後修飾は重要である1, 2)
.本稿では,細菌のキノヘムプロテイン・アミン脱水素酵素(quinohemoprotein amine dehydrogenase:QHNDH)(図1A)に存在する酸化還元補酵素システイントリプトフィルキノン(cysteine tryptophylquinone:CTQ)の生合成機構に着目する3).CTQは,Trp残基がチオエーテル結合によってCys残基と架橋され,さらにその側鎖インドール環がオルトキノン化されている(図1B).私どもの最新の研究成果として,その翻訳後修飾に関与する新しくて奇異なフラビン酵素の構造と反応の一端が判明したので,関連の研究と合わせて紹介したい4).
QHNDHは数多くのグラム陰性細菌のペリプラズムに生成する誘導酵素であり,αβγの三つの異なるサブユニットから構成される5, 6)
.本酵素は,一級アミン類のアルデヒドへの酸化反応を触媒することでエネルギー源として資化する役割を有している.X線結晶構造によると5, 6)
,最小のγサブユニットには二つの特殊な翻訳後修飾構造が含まれている.その一つは3か所のチオエーテル分子内架橋であり(図1B),Cys残基側鎖とAsp/Glu残基側鎖の間に形成されている.もう一つが補酵素CTQであり,Pseudomonas putida QHNDHではCys37とTrp43とで構築されている.複雑な架橋構造は,多段階の翻訳後修飾機構の存在を示すものであった.
一般的に,酵素機能に関連した遺伝子はオペロンを形成し,構造遺伝子に加え,翻訳後修飾酵素遺伝子もその中に存在することが多い.ゲノム解析の結果,QHNDHをコードするqhpオペロン(qhpABCDEFGR)が同定され,共通した修飾酵素遺伝子が構造遺伝子と共在することが判明した3).このうちαβγサブユニットをコードする構造遺伝子はそれぞれqhpA, qhpB,およびqhpCであり,qhpRはオペロンの転写調節因子であった.これまでに,QhpC(γサブユニット)は,成熟型酵素には存在しないN末端側28残基のリーダー配列が付加された状態で翻訳された後に,ラジカルS-アデノシルメチオニン(S-adenosylmethionine:SAM)酵素QhpDがQhpC内の3か所のCys-Asp/Glu間チオエーテル架橋形成を行うことが判明している7).さらに,セリンプロテアーゼQhpEが,この架橋済みQhpC(以下,架橋QhpCと略称)からリーダーペプチドを切断除去した後,QhpCはABCトランスポーターQhpFによって細胞質からペリプラズムへ輸送されると考えられた3).QhpGはフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)依存性モノオキシゲナーゼと配列相同性を示し,その遺伝子破壊株ではキノンのない不活性型QHNDHが形成された3).CTQ形成に関与することが予測されたが,QhpGの機能は長らく不明であった3).
まず,qhpG欠損株から得られた不活性型QHNDHに含まれるγサブユニットを単離・解析した.その結果,γサブユニットには,三つのCys-Asp/Glu間の架橋が形成されていたものの,CTQ前駆体であるCys残基とTrp残基には何も修飾がないことがわかった4).すなわち架橋QhpCがQhpGの直接の基質であることを示唆した.一方,P. putidaに由来するQhpGを,大腸菌発現系を用い酸化型FADが結合した状態で調製することができたので,基質となる架橋QhpCを準備して,その機能を調べることにした4).共発現系を用いてQhpC・QhpD複合体を調製し,他のラジカルSAM酵素の反応と同様に,嫌気条件下でQhpC内に3か所のCys-Asp/Glu間架橋を形成させた4, 8)
.このとき,等モルのQhpGを共存させると,三つの架橋形成反応が完結するが,QhpGが存在しないと,その反応は一部しか進行しないことが判明した.この結果は,QhpC・QhpD複合体とQhpGとが3者複合体を形成しており,QhpGがタンパク質間相互作用を介してQhpDの架橋形成反応を促進していることを示すものと考えられた.
多くのFAD依存性モノオキシゲナーゼの触媒反応では,まずFADがNADPHによって還元され,さらに酸素分子と反応し,基質と直接反応するC4a-hydroperoxy中間体が形成される9).しかしながら,QhpGに結合したFADはNAD(P)Hなどの生理的還元物質によって還元されず,qhpオペロン内にもFAD還元酵素は含まれていない.唯一,人為的な還元剤(亜ジチオン酸ナトリウム)による還元のみが可能であった4).そこで,架橋QhpC・QhpD・QhpGの3者複合体において,嫌気条件下でFADを還元した後,過剰量の酸素と反応させた.反応物をAsp-Nプロテアーゼで消化して,質量分析した.その結果,未反応と比較して,CTQ前駆体Trp43残基を含むペプチドの質量が約32(酸素2原子相当)増加することが見いだされた.さらに,単離した架橋QhpCとQhpGを反応させても,架橋QhpCはQhpGと強く結合するものの,32の質量増加はまったくみられなかった.この結果は,Cys-Asp/Glu間架橋形成反応と同様に,QhpG反応においても3者複合体の形成が重要であることを示している.質量増加がみられたペプチドの解析を進めた結果,Trp43に2個の酸素原子が導入されていることが明らかになった(図2A).QhpGの反応によって最終的なCTQは形成されておらず,QhpGは架橋QhpCのTrp43に二つの水酸基を同時に導入するユニークな活性を持つと結論できた4).
さらに詳細なQhpGの機能解明のために,X線結晶構造解析を行った.得られた構造は,N末端側の大きな触媒ドメインとC末端側の小さなwinged-helix(WH)ドメインで構成されていた(図3A)4).FADは触媒ドメイン内部に結合していた.触媒ドメインとWHドメインに囲まれた大きな空間があり,その空間に面した触媒ドメイン表面からFADイソアロキサジン環のre面へ伸びる深くて狭いチャンネルが存在していた.このre面チャンネルが基質結合部であると推定して,架橋QhpCとの複合体モデルを構築した.架橋QhpCのCys37とTrp43の間にはチオエーテル結合がないので(図2A),Asp39–Met51ループは可動性が高く,この部分に大きな構造変化を導入することがモデル構築には必要であった(図3B)4).モデルは,触媒ドメインとWHドメインに囲まれた領域が大きなポケットとして架橋QhpC全体と相互作用し,re面チャンネルの底部でQhpCのTrp43とFADイソアロキサジン環とが近接しうることを示した.re面チャンネルの入り口付近に保存性の高い塩基性残基が複数存在するのに対し,γサブユニットの底面には酸性残基が存在しており,モデルではちょうどこれらが静電的な相互作用をしていた.
得られた複合体モデルを元にすると,QhpGの触媒反応は,基本的にFADイソアロキサジン環とそれに近接するTrp43インドール環との間で直接的に起きていると考えられた4, 10)
.前述したように,FADモノオキシゲナーゼに共通する反応中間体としてC4a-hydroperoxyが生成した後,イソアロキサジン環に近接するTrp43インドール環との間に直接的な求電子置換反応が起こり,7位が水酸化される10).次に,3者複合体は維持されたままTrp43インドール環の位置がずれ,隣接の6位が水酸化されることにより,6,7-OH-Trp43が形成される(図2A).なお,QhpGはグラム陰性細菌の細胞質内に存在し,QhpGによる修飾反応だけではCTQは完成しない.現時点の仮説として,修飾されたQhpCはある程度の立体構造を維持しつつABCトランスポーターのQhpFによりペリプラズムに輸送された後,ペリプラズム中でQHNDHのαサブユニットと結合し,そのヘム分子を介した酸化反応によりCys37-修飾Trp43間のチオエーテル結合とインドール環オルトキノンが最終的に生成されると考えている(図2A)3).
QhpC・QhpD・QhpGの3者複合体形成の意義を考察するため,結晶構造が決定されていないQhpDのホモロジーモデルを作成し複合体モデルを構築した(図3C).QhpDは全体としてボウル型の構造を有しており,そのくぼみに架橋QhpCが結合し,その反対側でQhpGが相互作用できることが予測された4, 8)
.二つの酵素が,QhpCに対して,Cys-Asp/Glu間架橋形成反応とTrpの二水酸化反応を連続的かつ効率的に進行させることができる合理的な配置であった4).おそらくは架橋形成される前のランダムコイルに近いQhpCの構造安定化をQhpGが担っているものと考えられる.架橋形成後には,QhpCのリーダーペプチドとQhpDとの相互作用によって,架橋QhpCは保持され,QhpGとの反応が可能になると考えられる.細胞内でのQhpGのFADの還元機構は不明であるが,一つの可能性として,QhpDの[4Fe4S]クラスターを介した電子移動が必要であるのかもしれない.
長年CTQはQHNDHにのみ見いだされていた.しかし数年前,まったく異なる酵素のL-Lys-ε-オキシダーゼ(LodA)11)やグリシンオキシダーゼ(GoxA)12)などのアミノ酸オキシダーゼ中にもCTQが存在することが明らかになった.これらの酵素は,QHNDHと配列相同性もなく,また,立体構造もまったく異なる.その一方で,それぞれに近接した遺伝子として,QhpGとも相同性を示すFAD依存性モノオキシゲーゼLodB13),GoxB14)がコードされており,CTQ形成に必須の役割を果たすことが報告された.しかし,LodBやGoxBの機能はQhpGと異なり,7-OH Trp残基を基質としてCTQ形成の完結までを触媒すると考えられている(図2A).基質となる7-OH Trpの生成は,銅イオンが関与する自発的な反応によると推測されている(図2A).これはQhpGが未修飾Trp残基を基質として二水酸化反応を連続して触媒するのと対照的である.さらに,GoxAのCTQは分子内部に埋もれた状態にあるので,GoxBの反応では,QhpGで推定された近接FADとの間の直接的な水酸化反応は起こりえず,GoxBのFADはGoxAの7-OH Trpとの直接的な相互作用のない反応機構に従っていると考えられている14).
一方,CTQに類似するTrp残基由来キノンを含む補酵素として,メチルアミン脱水素酵素(methylamine dehydrogenase:MADH)などに含まれるトリプトファントリプトフィルキノン(tryptophan tryptophylquinone:TTQ)がある(図2B)1).TTQは二つのTrp残基(MADHではβサブユニットのβTrp57, βTrp108)が架橋を形成し,前者がオルトキノン化されており,CTQと共通した構造を持つ(図2B).興味深いことに,MADHのTTQ前駆体βTrp108をCysに部位特異的に変異させると,わずかながらCTQが形成されることが報告されている15).このことは,TTQ形成が少なくとも部分的にはCTQ形成と共通する化学反応に従っていることを示唆している.これまでに,2ヘムタンパク質のMauGとTTQ前駆体を含むMADHとの複合体の結晶構造とTTQ形成の最終段階の詳細な反応機構が解明されている1).それによると,MauGは,MADH分子内部の7-OH-Trp残基を,直接的な相互作用なしに遠隔電子移動によってTTQへと完全に変換する(図2B).7-OH-Trp残基が基質となることは,LodAやGoxAと共通であるが,MauGは同じく2ヘムタンパク質でありCTQ形成を完結させると推定されるQHNDHのαサブユニットとも類似している.このように,Trp残基由来のキノン補酵素の生成機構は,個々の酵素ファミリーで“似て非なる”ものが並行的に存在していることになる.すなわち,(補)酵素の分子進化における収斂進化(convergent evolution)をきわめて明確に示しているといえる.
タンパク質中に含まれるアミノ酸残基からキノン補酵素を作り出すために,このような複雑なシステムを構築することは生物にとって非常に手間やコストがかかる作業と考えられる.しかし,別な観点からみると,キノン補酵素形成にはコストに見合う重要性があるとも想像できる.Trp残基由来キノン補酵素形成の収斂進化も,キノン補酵素の機能的な重要性の証であるのかもしれない.
本稿で紹介いたしました研究は,大阪大学産業科学研究所生体反応科学研究分野において実施されました.主要なデータは,大関俊範博士によって得られています.大阪大学産業科学研究所谷澤克行名誉教授には,本稿について貴重なアドバイスを頂戴いたしました.両先生を含む多数の共同研究者の方々に心より感謝申し上げます.
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