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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 94(3): 348-359 (2022)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2022.940348

総説Review

シアノバクテリオクロムの結合色素多様性Diversity of binding chromophore species of the cyanobacteriochrome photoreceptors

1東京都立大学大学院理学研究科生命科学専攻Graduate School of Biological Sciences, Faculty of Science, Tokyo Metropolitan University ◇ 〒192–0397 東京都八王子市南大沢1–1 ◇ 1–1 Minami-Ohsawa, Hachioji, Tokyo 192–0397, Japan

2静岡大学大学院自然科学教育部バイオサイエンス専攻Graduate School of Science and Technology, Shizuoka University ◇ 〒422–8529 静岡県静岡市駿河区大谷836 ◇ 836 Ohya, Suruga, Shizuoka 422–8529, Japan

発行日:2022年6月25日Published: June 25, 2022
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光は生物にとって,最も重要な環境シグナルの一つである.中でも,光合成生物にとって光はエネルギーであるがゆえに,光シグナルを感知する高度な機構を備えている.光合成生物の光受容体の中でも,開環テトラピロール(ビリン)を結合する光受容体の研究がよく進んでいる.植物では,フィトクロムという赤色光と遠赤色光を可逆的に感知する光受容体が存在するが,シアノバクテリアはフィトクロムに加えて,フィトクロムと近縁であるが,紫外光から遠赤色光までカバーし,より多様な光質を感知するシアノバクテリオクロムが豊富に存在している.本稿では,シアノバクテリオクロムの多様性について,特に結合する色素に着眼して概説していく.

1. フィトクロム

シアノバクテリオクロムは,フィトクロムと近縁であり,シアノバクテリア特異的に検出される光受容体の総称である.そこで,シアノバクテリオクロムの話に入る前に,フィトクロムについて簡単に紹介したい.フィトクロムは1950年代に発見された光受容体で,避陰応答,発芽,花成などのさまざまな光応答現象を制御している1–4).開環テトラピロールであるフィトクロモビリン(PΦB)を結合し,赤色光照射と遠赤色光照射で可逆的に吸収する光質を変化させる光受容体である.このように可逆的に吸収波長を変化させる挙動を光変換と呼んでいる.赤色光吸収型(Pr)に赤色光を照射すると,遠赤色光吸収型(Pfr)に変換し,逆に遠赤色光を照射するとPr型に変換する(図1A).この光変換は可逆的であり,このような性質によって,フィトクロムは赤色光と遠赤色光の比率を感知することができる.フィトクロムのN末端側にはPAS, GAF, PHYドメインという三つのドメインが並んでおり,これら三つのドメインが色素結合領域を構成し,PΦBを結合する(図1B).C末端側にはシグナルアウトプット領域が存在し,細菌の二成分制御系で知られるヒスチジンキナーゼ領域を持つが,実際にはヒスチジンキナーゼとしての活性は示さず,セリン・トレオニンキナーゼの活性を持つことが報告されている5).光変換過程では,PΦBのC環とD環の間のC15=C16二重結合が回転するZ/E異性化が起こる(図1C).今後,色素の炭素番号を記載する場面が多いが,この図1Cの番号を参照されたい.Pr型がZ型,Pfr型がE型となっている.1950年代に発見されて以降,フィトクロムは植物特異的に存在すると考えられていたが,1996年にシアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803のゲノムが決定され,フィトクロムのホモログが発見された6).このホモログの生化学・分光学的な解析がドイツとアメリカのグループによって行われ,シアノバクテリアにもフィトクロムが存在することが明らかとなった7, 8).さらにゲノム解析が進むと,光合成を行わない細菌や真菌においても,フィトクロムが存在し,実際に機能することが示された9, 10).このように,フィトクロムは植物や光合成生物に限定されず,多様な生物に分布することがわかっている.一方,動物においてはいまだフィトクロムの存在は確認されていない.また,植物のフィトクロムはPΦBを結合するが,シアノバクテリアや真核藻類由来のフィトクロムはフィコシアノビリン(PCB)という色素を結合し,細菌や真菌由来のフィトクロムはビリベルジンIVα(BV)を結合する.これらは全て開環テトラピロールであるが,二重結合の数や場所がそれぞれで異なっている.今後,シアノバクテリオクロムの多様性について記載する際にもさまざまな開環テトラピロール色素が登場するため,次節にて開環テトラピロールについて説明していく.

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図1 フィトクロム

(A)植物のフィトクロムPhyBの光変換.赤色光を吸収するPr型と遠赤色光を吸収するPfr型の間を可逆的に光変換する.(B)フィトクロムのドメイン構成.PAS:Per/Arnt/Simドメイン,GAF:cGMP-phosphodiesterase/adenylate cyclase/FhlAドメイン,PHY:Phytochrome-specificドメイン,Output:光照射依存的に活性が変化するさまざまなドメイン.(C)植物のフィトクロムが結合するフィトクロモビリンの構造.光変換過程で,C環とD環の間のZ/E異性化が生じる.

2. 開環テトラピロール

開環テトラピロールとは,その名のとおり,四つのピロール環が炭素を介して直鎖状につながった色素のことである.対となる化学物質として閉環テトラピロールがあり,こちらはピロール環が環状につながっており,ヘムやクロロフィルが代表的な色素となる.開環テトラピロールは動物の胆汁(bile,バイル)から見つかった色素ということで,ビリンとも呼ばれている.開環テトラピロールは,ヘムがヘムオキシゲナーゼという酵素によって開裂してできるビリベルジンIVα(BV)を起点として,還元や異性化を経ることで合成されるさまざまな色素種の総称となる(図2).二重結合と単結合が交互に並ぶことで構築される共役系が長いほど長波長の光質を吸収し,短くなるにつれて,短波長の光質を吸収するように推移していく.天然の開環テトラピロールの中では,BVが最も共役系が長く,長波長の光質を吸収する.他の色素は,還元や異性化を経ることで,二重結合の数や場所が変化し,共役系の長さが短くなり,その長さに応じた光質を吸収する.

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図2 さまざまな開環テトラピロールの生合成

ヘムが開裂したビリベルジンIVα(BV)を起点として,還元や異性化を経てさまざまな色素が合成される.“Cys”と表記しているのは,タンパク質由来のシステイン残基であり,システイン残基と色素の間で共有結合が形成されて,色素タンパク質として機能する.Cysが色素に結合した後に,タンパク質自身の異性化活性によって色素が変換される例がある.

開環テトラピロールは,フィトクロムやシアノバクテリアなどの光受容体に結合する色素としてだけでなく,シアノバクテリアや一部の藻類の光捕集タンパク質複合体フィコビリソームに結合する色素としても知られている.フィコビリソームは,藻類(phyco)のビリン(bilin)であるphycobilinが集まったものとして,袋,体を現す接尾辞の-someがつき,phycobilisome(フィコビリソーム)という言葉になったものである.フィコビリソームは,チラコイド膜の表面に存在し,主に光化学系IIにエネルギーを伝達する半円状の巨大複合体である11).フィコビリソームに結合する主な色素としては,PCBが知られているが,それ以外にもフィコエリスロビリン(PEB),フィコビオロビリン(PVB),フィコウロビリン(PUB)などが知られている.フィコビリソームはシアノバクテリアだけでなく,灰色藻や紅藻にも存在する光捕集装置であるが,緑藻や陸上植物では,フィコビリソームは存在せず,クロロフィルを結合した光捕集装置であるLHC(light-harvesting complex)が存在している.フィコビリソームは光エネルギーを捕集して,そのエネルギーをクロロフィルを結合した光化学系に伝えるため,光吸収依存的なC15=C16位のZ/E異性化を示さない.そのため,この二重結合が還元されたPEBやPUBも発色団として利用されるが,フィトクロムや後述するシアノバクテリオクロムでは,光を感知する上で,Z/E異性化が必須であると考えられているため,PEBやPUBが結合して機能する光受容体の報告例は存在しない.

前節で記載したように,植物のフィトクロムはPΦBを,シアノバクテリアのフィトクロムはPCBを,細菌や真菌のフィトクロムはBVを結合する.これらの色素の共役系の長さは,BV>PΦB>PCBの順番になっているので,それぞれのPr型とPfr型についても,この共役系の長さに対応して,長波長から短波長へと推移することになる.シアノバクテリアはフィコビリソームを有し,その主要結合色素であるPCBの合成系を持っているため,フィトクロムの結合色素としてもPCBが採用されているのかもしれない.一方,陸上植物においては,フィコビリソームは存在しないため,PCBの合成系も存在せず,独自にフィトクロム結合色素であるPΦBを合成する系が構築されたと解釈できる.PCBとPΦBはよく似た構造をしているが,PCBはPΦBに比べて,C181とC182の結合が単結合になっている.一方,細菌や真菌においてもフィコビリソームは存在せず,ヘムオキシゲナーゼという一つの酵素によって産生されるBVを結合する様式となっている.より単純な合成系で産生される色素を利用することで,非光合成生物にも広く分布するようになったのかもしれない.

3. シアノバクテリオクロム発見の経緯

1990年代後半から2000年代前半にかけて,さまざまなシアノバクテリアのゲノム解析が進められるとともに,順遺伝学・逆遺伝学的な手法での研究が進められて,走光性や補色順化などに関わる光受容体様遺伝子群が同定された12–14).さらに,後の解析によって,光依存的な細胞凝集を制御している分子群も同定されている15, 16).これらのタンパク質の中に,フィトクロムのGAFドメインと相同性のあるGAFドメインが存在することから,これらのタンパク質もフィトクロムと同様に開環テトラピロールを結合し光を感知するであろうことが予想された.そのような状況下で,日本の池内らのグループが,世界で初めて走光性に関わる光受容体様タンパク質の分光学的解析に成功した.その光受容体様タンパク質は青色光と緑色光で可逆的な光変換を示し,赤色光と遠赤色光で可逆的に光変換するフィトクロムとはまったく異なる光質を感知することが解明された17).フィトクロムと同様に,光変換過程では,C15=C16のZ/E変換を生じる(図1C).また,フィトクロムのようにPAS, GAF, PHYドメインが連なっている必要はなく,GAFドメイン単独で光を感知できることがわかった.さらに,さまざまなタンパク質において,相同なGAFドメインが存在することも見いだされた(図3A).シアノバクテリオクロムの場合,GAFドメインがタンデムに並ぶことが多く,またアウトプットとしても,細菌の二成分制御系のヒスチジンキナーゼ(HK)ドメインに加えて,走化性の制御を担うMAドメインやc-di-GMPの合成・分解を担うGGDEFドメインやEALドメインなども検出される.このように,フィトクロムとは異なった性質を有することから,これらの光受容体タンパク質はシアノバクテリオクロムと名づけられた17).その後,さまざまな分子についての生化学・分光学・生物物理学的な解析が進められ,紫外光から遠赤色光までカバーする多様な光質を感知する光受容体が続々と同定された18).シアノバクテリオクロムはフィトクロム同様,二つの光吸収型の間で可逆的な光変換を示すため,両者の差スペクトルを算出してグラフに表すことで,一つのスペクトルで可逆的な光質センサーとしての性質を表すことができる.実際に多様なシアノバクテリオクロムの差スペクトルの一覧を図3Bに示すが,紫外光から遠赤色光まで多様な領域をカバーしていることがここからよくわかる.以降,これらの多様な光受容体について,特に結合色素に着眼して概説していくが,多様な色素種を結合する分子群について解説する前に,シアノバクテリオクロム型GAFドメインに保存された重要なシステイン残基について,次節で説明したい.

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図3 シアノバクテリオクロム

(A)主なシアノバクテリオクロムのドメイン構成.AnPixJには四つのGAFドメインがあるが,2~4番目のGAFドメインがシアノバクテリオクロム型GAFドメインであり,PCBを結合する.Tlr1999は一つのシアノバクテリオクロム型GAFドメインを持ち,PVBを結合する.AM1_6305は二つのGAFドメインを持ち,1番目のGAFドメインはPCBを結合するのに対し,1番目のGAFドメインはBV, 181, 182-DHBV, PCBを結合しうる.GAF:cGMP-phosphodiesterase/adenylate cyclase/FhlAドメイン,HAMP:histidine kinases, adenylate cyclases, methyl accepting proteins, phosphatasesに存在するドメイン,MA:methyl-acceptingドメイン,GGDEF:GGDEFモチーフを持つドメイン,EAL:EALモチーフを持つドメイン,HK:histidine kinaseドメイン,REC:receiverドメイン(B)さまざまなシアノバクテリオクロム型GAFドメインの光変換差スペクトル.

4. 保存されたシステイン残基の役割

フィトクロムもシアノバクテリオクロムも,システイン残基を介した共有結合によって,開環テトラピロールと結合している4).植物やシアノバクテリア由来のフィトクロムはGAFドメイン内部に保存されたシステイン残基(第一のシステイン残基)が,開環テトラピロールのA環のC31の炭素と共有結合を形成するのに対して,細菌や真菌由来のフィトクロムは,第一のシステイン残基を保持しておらず,PASドメインのN末端側のループ領域に存在するシステイン残基(N末端システイン残基)が,開環テトラピロールのA環のC32の炭素と共有結合を形成する(図1A19–22).シアノバクテリオクロムの場合,GAFドメインのみが色素の結合を担うため,N末端システイン残基は存在せず,GAFドメイン内部の第一のシステイン残基が色素との共有結合を担うことになる(図3A図4A図523–27).そのため,この第一のシステイン残基はシアノバクテリオクロムGAFドメインで高度に保存されている.一方,第一のシステイン残基に加えて,第二のシステイン残基を持つシアノバクテリオクロムGAFドメインがこれまでに知られている(図4A17, 26, 28–34).第二のシステイン残基は,さまざまなサブファミリーで見いだされ,かつ,一次配列上で,システイン残基の存在する位置も多様化している.しかしながら,第二のシステイン残基に共通した機能があり,それが色素のB環とC環の間の炭素C10との結合である.多くの場合,C10への結合は可逆的で,片方の光吸収型で第二のシステイン残基はC10と結合し,もう片方の光吸収型でC10との結合は解離する.第二のシステイン残基がC10に結合すると,共役系がB環とC環の間で切れてしまうため,結合している色素種にかかわらず,紫外光から青色光領域を吸収するようになる.また,多くの場合はC10との結合は可逆的であるが,どちらの光吸収型でも第二のシステイン残基がC10との結合を保っている場合も知られている.この場合,どちらの光吸収型も短波長の紫外光から青色光を吸収することになる.また,第二のシステイン残基がC10との結合以外に,もう一つの色調節機能に関与している場合があり,それについては後述する.

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図4 四つの異なる色素を結合するシアノバクテリオクロム

(A)代表的なシアノバクテリオクロムGAFドメインの第一のシステイン残基・第二のシステイン残基周辺のアライメント.(B)PCBを結合するAnPixJg2の二つの光吸収型のスペクトル.(C)AnPixJg2の酸性変性条件でのスペクトル.点線は変性後に白色光を照射し測定したスペクトル.(D)BVを結合するAM1_1557g2の二つの光吸収型のスペクトル.(E)AM1_1557g2の酸性変性条件でのスペクトル.点線は変性後に白色光を照射し測定したスペクトル.(F)PVBを結合するTePixJgの二つの光吸収型のスペクトル.(G)TePixJg2の酸性変性条件でのスペクトル.点線は変性後に白色光を照射し測定したスペクトル.(H)未知色素1を結合するcce_4193g1の二つの光吸収型のスペクトル.(I)cce_4193g1の酸性変性条件でのスペクトル.点線は変性後に白色光を照射し測定したスペクトル.

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図5 光変換過程の色素の構造変化

(A) XRG型分子群の光変換過程での色素の構造変化.(B)DXCF型分子群の光変化過程での色素の構造変化.

5. フィコシアノビリン(PCB)

シアノバクテリアのフィトクロムの結合色素がPCBであるように,シアノバクテリオクロムの主要結合色素はPCBである.まずは,結合色素の同定手法について簡単に説明する.開環テトラピロールを結合したタンパク質を酸性条件で変性し,そのスペクトルを測定することで,結合している色素の種類と異性化状態についての情報を得ることができる27, 35).PCBを結合するAnPixJg2というシアノバクテリオクロムGAFドメインを例として説明する.AnPixJg2は,650 nm付近の赤色光を吸収するPr型と540 nm付近の緑色光を吸収するPg型の間で可逆的な光変換を示す(図4B).AnPixJg2をPr型に固定した状態で酸性条件下で変性すると,660 nmをピークとしたスペクトルが得られる(図4C).一方,Pg型に固定した状態では,600 nmをピークとしたスペクトルが得られる.また,変性後のこれらのサンプルに白色光を照射すると,Pr型を変性したサンプルについてはスペクトル変化は観察されないのに対して,Pg型を変性したサンプルについては660 nmをピークとするスペクトルが得られ,これはPr型を変性したサンプルのスペクトルと同一となる.まずは,それぞれのピーク波長から,AnPixJg2に結合している色素は,タンパク質に共有結合したPCBであることがわかる.さらに,酸性状態で変性した状態では,開環テトラピロール色素は,光照射によってE型からZ型への不可逆的な変換を示すことが知られているため,Pr型がZ型の色素を結合しているのに対し,Pg型がE型の色素を結合していることもわかる.また,このスペクトルの関係から,本来色素が吸収する波長と,タンパク質と結合した状態で吸収する波長は異なっていることもわかる.タンパク質との相互作用によって,色素の構造などが変化し,結果的に吸収する波長が変化すると考えられる.AnPixJg2はXRGというサブファミリーに属するが,これらの分子群の多くはPr型とPg型の間で光変換を示す.PCB自身が赤色光を吸収するため,Pr型は色素の吸収を反映しているといえるが,Pg型の短波長吸収に関する色調節機構については,長らく不明であった.近年,二つの光吸収型での構造決定に成功し,Pg型においては,A環とD環がBC環平面に対して高度にねじれることで,A・D環が脱共役に近い状態になり,短波長の緑色光を吸収すると考えられた(図5A36, 37)

シアノバクテリオクロムが天然で結合する色素を厳密に同定するためには,実際の生体内からシアノバクテリオクロムを単離する必要があるが,内在性の光受容体をシアノバクテリアから単離することはいまだに誰も成功していない.その代わりに,シアノバクテリア内で,対象とするシアノバクテリオクロムGAFドメインをHisタグ融合タンパク質として発現し,シアノバクテリアから精製して分析する手法が採用され,それによる結合色素の同定は行われている16, 17, 26, 27, 32, 38, 39).AnPixJg2も含めたいくつかの分子に関しては,そのような手法によって結合色素の種類が確認されているが,多くのシアノバクテリオクロムGAFドメインについては,大腸菌における再構成実験と試験管内での再構成実験によって40–42),結合色素の同定が行われている25, 27, 30, 31).大腸菌内での再構成としては,ヘムを開裂するヘムオキシゲナーゼとBVからPCBを産生するPcyAという酵素を,目的のシアノバクテリオクロムGAFドメインと共発現し,そこから単離した分子を解析することで,結合色素種を同定している.PCBを合成する系から単離しているのだから,PCBが結合する以外にないと思うかもしれないが,状況はそこまで単純ではない.後述するように,一部のシアノバクテリオクロムは,結合したPCBを自身の異性化活性によって,他の色素種に変換する分子が知られている35, 43).そのため,PCB産生大腸菌から精製しても,他の色素が結合しているという状況が生じるのである.一方,試験管内での再構成実験では,色素合成系とは共発現せずに,タンパク質単体を精製し,そこに各種の色素を添加し,再構成するという実験系となる29, 44, 45).このように,さまざまな手法を用いた実験が行われることで,シアノバクテリオクロムに結合する色素の種類が同定されてきた.

PCBを結合するシアノバクテリオクロムの代表例として,AnPixJg2を挙げたが,それ以外にもさまざまな分子が知られる.同じように赤色光と緑色光で可逆的な光変換を示すが,Pg型がZ型で,Pr型がE型となっている分子群も存在する38, 46).配列としても,AnPixJg2が属するXRGサブファミリーとはまったく異なるサブファミリーに分類される.これらについては,光変換過程でプロトンが脱着することが知られている46, 47).Pg型では色素からプロトンが脱離し,Pr型では色素にプロトンが付加される.それ以外にも,AnPixJg2とよく似ているが,第二のシステイン残基を獲得することで,Pr型と青色光を吸収するPb型の間で可逆的に光変換する分子も知られている32).次節にて,PCBから異性化によって産生されるPVBを結合する分子群を紹介するが,これらの分子群の中で,PVBへの異性化活性を欠いた分子も知られ,それらもPCBを結合して働く光受容体となる29, 30, 48, 49).それ以外にもPCBを結合した多様な光変換分子が同定されているが,紙面の都合上,ここでは割愛したい.

6. フィコビオロビリン(PVB)

上述したように,いくつかのシアノバクテリオクロムにおいては,結合したPCBを別の色素であるPVBに異性化することが知られている29, 35).ここで「異性化」という言葉を使用したが,光変換過程で示すZ/E異性化とはまったく異なることに注意されたい.光変換過程のZ/E異性化は,立体異性体間の変換であるのに対して,PCBからPVBへの異性化は,二重結合の位置が変わる構造異性体への変換である.このようなPCBからPVBへの異性化を示す分子群は,高度に保存されたDXCFモチーフという領域に第二のシステイン残基を持つことを特徴としている(図4A).つまり,このDXCFモチーフ内部の第二のシステイン残基は,光変換過程でC10に脱着するだけでなく,PVBへの異性化にも重要なアミノ酸ということになる.実際に,PVB結合型の分子でこの第二のシステイン残基に変異を導入すると,多くの場合,PVBへの異性化が検出されなくなる29, 44).PVBはPCBに比べて,C4=C5の二重結合が単結合になり,A環が共役系から外れているため(図5B),C10に第二のシステイン残基が結合していない状態では,橙色や赤色光のような長波長を吸収することはできず,青緑色光から黄色光領域を主に吸収する.そのため,酸性条件下での変性スペクトルを測定すると,Z型もE型もともにPCBのそれらに比べて,70 nmほど短波長シフトしている(図4G).シアノバクテリオクロムとして最初に分光学的に解析されたSyPixJg1やTePixJgなどは,このカテゴリーに属し,DXCFの第二のシステイン残基を持つことで,青色光と緑色光で可逆的な光変換を示す(図4F).青色光を吸収するPb型がZ型であり,緑色光を吸収するPg型がE型である.つまり,Z型において第二のシステイン残基がC10に結合し,E型においてその結合が解離される(図5B).

最初にPVBへの異性化が確認されたのは,上述したTePixJgを用いた解析によるものであった35).この分子をシアノバクテリアで発現し精製したときの酸性変性スペクトルと,PCB産生大腸菌の中で発現し精製したときの酸性変性スペクトルが一致し,これらがPCBではなく,フィコビリソームでの先行研究で報告されていたPVB結合分子のスペクトル特性と一致したことから,結合色素がPVBであると結論づけることができた.また,PCB産生大腸菌からPVB結合分子が単離されたことから,PCBからPVBへの異性化反応が,TePixJg自身の触媒活性によるものであると考えられた.さらに,色素を結合していないアポTePixJgに対して試験管内でPCBを添加する実験も行われ,PCBがTePixJgに結合した後に,PVBが産生されることも示された44).これら一連の研究によって,PVBへの異性化がシアノバクテリオクロムGAFドメイン自身の触媒活性によって生じることが明らかとなり,また,上述したように第二のシステイン残基が触媒活性に重要な役割を果たしている.

ここまでの結果から,DXCFモチーフ内の第二のシステイン残基は,PVBへの異性化とC10への脱着という二つの機能に関わっていることがわかった.その上で,シアノバクテリオクロム分子の進化過程で,この第二のシステイン残基を保ちながら,どちらか一方の機能が欠落した分子も発見されている29, 30, 48).C10への脱着機能が欠落すると,両光吸収型において,C・D環から続く共役系がB環までつながっているため,大幅な波長シフトは観察されず,黄緑色光から青緑色光領域での光変換を示すことになる.一方,PVBへの異性化活性が欠落すると,A環まで共役系がつながっているため,第二のシステインがC10に結合していない光吸収型では,長波長の橙色光領域を吸収するようになるため,青色光を吸収するPb型と橙色光吸収型のPo型の間の光変換を示す.さらには,進化過程で,第二のシステイン残基そのものを欠落したAM1_1499g1という分子も発見され,この分子はPCBを結合し,橙色光と緑色光の間の可逆的な光変換を示した49).この分子と同じサブファミリーに属する分子には,第二のシステイン残基を持ち,二つの機能を維持しているものや,C10への脱着機能のみを欠落した分子も存在しており,これらの分子との配列比較を行った上で,AM1_1499g1に段階的に変異を導入することで,異性化活性,C10への脱着機能,それ以外の色調節機能の付与を経て,異なる光質を感知できる七つの改変分子を開発することに成功した(図649)

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図6 一つの野生型光受容体分子を基に改変した光受容分子群

右端が野生型の分子で,それ以外の七つは改変分子.それぞれが異なる光質を感知している.

7. 未知色素1

これまで,シアノバクテリオクロムの主要な結合色素はPCBであり,いくつかの分子では,結合したPCBをPVBへ異性化するということを説明してきた.このPVBへの異性化活性を示す分子群は,シアノバクテリオクロムで高度に保存されている第一のシステイン残基に加えて,第二のシステイン残基をDXCFモチーフに持っているわけだが,ゲノム情報が増えてきた状況で,第一のシステイン残基を欠きながら,DXCFモチーフと似て非なるDXCIPモチーフに第二のシステイン残基を保持しているサブファミリーが検出された(図4A).これまで,開環テトラピロール結合分子としては,第一のシステイン残基を欠く分子は,細菌や真菌由来のフィトクロムだけであり,これらにおいては,N末端システインが色素と共有結合していることは最初に述べたが(図1C),これ以外としては,初の事例である.そこで,これらのDXCIP型の分子群が光受容体として機能するかどうかを,PCB産生大腸菌で共発現することで解析した.その結果,これらの分子群は,PCBでもPVBでもない未知色素を共有結合し,緑色光の強度を感知する光受容体として機能していた(図4H, I43).暗状態で安定な緑色光吸収型に対して,緑色光を照射すると,少しだけ吸収が減少しつつ,10 nmほど短波長シフトする(図4H).その上で,緑色光を消すと速やかに元の暗状態に戻るという性質を示した.これまでに述べてきたシアノバクテリオクロムの多くは,二つの光吸収型の間で可逆的に光変換し,両光吸収型も暗状態で安定であったため,二つの光質の量比を感知できるわけだが,これらの分子群では,二つの吸収型の吸収ピークはほとんど変わらず,片方からもう一方へ速やかに暗状態で戻ってしまう.このような分子は,弱い緑色光の下では暗状態の比率が多くなるため,緑色光の強度を感知する性質を持つことになる.この分子を,緑色光を照射した状態と暗状態とで酸性条件で変性し,スペクトルを測定したところ,上述したPCBともPVBとも合致しないスペクトルが得られた(図4I).緑色光を照射した状態のスペクトルは暗状態のスペクトルよりも短波長に吸収ピークが存在し,変性後に白色光を照射すると長波長シフトし,緑色光を照射した状態のスペクトルと合致したことから,PCBやPVBと同様に,開環テトラピロールが結合し,光変換過程でZ/E異性化が起きていることが示唆された.変性状態のスペクトルは,PCBとPVBの間にあるため,これらの中間的な共役系の長さの色素に異性化されたと考えられるが,色素の同定には至っていない.また,DXCIPモチーフ内の第二のシステイン残基に変異を導入すると,色素はまったく結合できないことから,第二のシステイン残基が安定的に色素と共有結合を形成していると考えられる.現在,この分子について結晶構造解析を進めており,未知色素の実体と色素との結合様式の詳細が解明されることが期待される.

8. ビリベルジン(BV)と181, 182-ジヒドロビリベルジン(181, 182-DHBV)

これまで,PCB結合型と,結合したPCBが異性化してできた色素を結合する分子群について,解説してきた.これらは,最初にPCBが色素に結合するという点では一緒である.そして,PCB結合型とPVB結合型については,結晶構造が決定されており,それらの構造から,PCBとPVBのA環のC31に第一のシステイン残基が共有結合していることがわかっている(図7A).この結合様式は,植物やシアノバクテリアのフィトクロムと同一である.つまり,植物やシアノバクテリアのフィトクロムにおいても,GAFドメイン内部の第一のシステイン残基が,PΦBやPCBのC31に共有結合している.一方,細菌や真菌由来のフィトクロムは,GAFドメイン内部の第一のシステイン残基を持たず,N末端側のシステイン残基が,BVのC31の炭素と共有結合している.PCBやPΦBは,C3とC31の間に二重結合があるのに対して,BVはC31とC32の間に二重結合が存在する.そのため,PCBはPΦBのC32には第一のシステイン残基は共有結合を形成できないことになる.このような関係性から,フィトクロムにおいては,第一のシステイン残基を介してBVと結合することはできないと考えられた.シアノバクテリオクロムにおいても,同様に第一のシステイン残基が色素と共有結合を形成するため,BVを結合する分子は存在しないと考えられていた.少なくとも著者らはそのように考えて研究を進めていた.しかしながら,詳細は省くが,著者らが主な解析対象としてきたAnPixJg2がBVをわずかながら結合し,結合した成分は遠赤色光と橙色光の間で光変換することを偶然にも発見した.とはいえ,BVとの結合効率は非常に低く,この結合自体は天然には起こっておらず,BV産生大腸菌内でみられるアーティファクトであると考えた.

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図7 第一のシステイン残基の結合様式

(A) AnPixJg2における第一のシステイン残基とPCBのC31との結合.(B)AnPixJg2_BV4における第一のシステイン残基とBVのC32との結合.

この発見自体はアーティファクト由来であるものの,これまで「シアノバクテリオクロムにはBVは結合しない」と思い込んでいた著者らにとっては,「シアノバクテリオクロムはBVを結合しうる」という発想を持つことができ,BVを天然で結合するシアノバクテリオクロムが存在してもよいのではないか,という考えを持つに至るよいきっかけとなった.それでは,BVを結合するシアノバクテリオクロムが存在するとしたら,それを持っているのはどのようなシアノバクテリアであろうか? この問いに対しての答えとして,著者らが着目したのが,Acaryochloris marinaというシアノバクテリアであった.多くのシアノバクテリアは陸上植物と同様に,光合成の反応中心色素としてクロロフィルaを用いているが,A. marinaは例外的にクロロフィルaを5%ほどしか持たず,クロロフィルdを主要な光合成色素として持つという特徴を備えている.クロロフィルdはクロロフィルaが吸収する赤色光よりも長波長の遠赤色光を吸収する.つまり,A. marinaは他のシアノバクテリアに比べて,より長波長の光質を光エネルギーとして利用していることから,情報として感知する光質も長波長シフトしているのではないか,と考えたのである.そして,光エネルギーの捕捉という点では,長波長の光質を吸収できる色素が利用されたことから,光情報の感知という点でも,同様に長波長の光質を吸収できる色素が利用されているかもしれないと着想した.つまり,開環テトラピロールの場合,PCBの前駆体であるBVの方が共役系が長いため,BVを効率よく結合するシアノバクテリオクロムがA. marinaに存在すれば,長波長の光質の感知にふさわしいと期待された.

上記の仮説を検証するために,PCBを結合し,赤色光と緑色光の間で可逆的に光変換するシアノバクテリオクロムのホモログをA. marinaのゲノム中から探索し,それらの分子群をPCB産生大腸菌とBV産生大腸菌でそれぞれ発現させて,分光学的な性質を解析した.その結果,PCBを結合することもできるが,BVも同様に効率よく結合し,BV結合型は遠赤色光と橙色光の間での可逆的な光変換を示した(図4D50, 51).遠赤色光を吸収するPfr型の吸収ピークは700 nm付近で,これはA. marinaの細胞吸収スペクトルのピーク波長と近接しており,A. marinaがクロロフィルdの吸収に相当する長波長の遠赤色光を感知する機構が存在している可能性が示唆された.変性スペクトルを測定すると,Pfr型がZ型のBV, Po型がE型のBVに相当し,ともにPCBと比べて30 nmほど長波長シフトしていることがわかる(図4E).その後,他のシアノバクテリア由来のホモログ分子についても,BV産生大腸菌での発現を試みたが,やはりBVを効率よく結合はしないため,A. marinaにおいて特異的にBVへの結合特性を獲得したと考えられる.

さらに,BV結合分子の構造解析の結果,シアノバクテリオクロムの第一のシステイン残基はBVのC32の炭素と共有結合を形成していた(図7B52).これは,PCBやPVBを結合するシアノバクテリオクロムやPCBを結合するフィトクロムとは明確に異なっている.これらの分子では,PCBやPVBのC31の炭素と第一のシステイン残基が結合している(図7A).むしろ結合する炭素の位置としては,細菌由来のフィトクロムと同一である.しかしながら,細菌由来のフィトクロムでは,第一のシステイン残基ではなく,N末端システイン残基がC32の炭素と共有結合を形成しており,この点においては,シアノバクテリオクロムとBVとの結合とは異なっている.著者らは,フィトクロムでの先行研究の経緯から,第一のシステイン残基はC32の炭素とは共有結合を形成できず,そのため,C32とC31の間の結合が単結合となっているPCBやPΦBと特異的に共有結合を形成すると思い込んでいたが,BVを結合するシアノバクテリオクロムの発見と構造決定により,その思い込みは完全に否定されたわけである.

さらに,A. marinaのゲノムを探索したところ,BVを基質としてPCBを合成するPcyAという酵素をコードする遺伝子が例外的に二つ存在することを見いだした45).PcyAはBVを基質として,二段階の還元反応を触媒する.一段階目でD環領域,二段階目でA環領域を還元することで,中間体として181,182-ジヒドロビリベルジン(181,182-DHBV)という色素を一過的に蓄積し,最終的にPCBを産生する.これら二つのPcyAの酵素活性を詳細に解析した結果,片方の酵素では181,182-DHBVを非常に短い期間,一過的に蓄積した後に,速やかにPCBに代謝されるのに対して,もう片方の酵素では,長期間,181,182-DHBVが高蓄積されることが示された45).このことは,A. marinaにおいては,BVだけでなく181,182-DHBVもシアノバクテリオクロムに供給されている可能性を示唆した.実際に,181,182-DHBVを高蓄積するPcyAとA. marina由来のシアノバクテリオクロムを共発現させると,遠赤色光と橙色光で可逆的に光変換する成分が検出された.さらに,この成分の酸性変性差スペクトルはBVの酸性変性差スペクトルとは異なり,確かに181,182-DHBVを結合した成分であることが確認された(図8).

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図8 八つの異なる色素の変性差スペクトル

本稿で紹介した8種類の色素の変性差スペクトル.

9. フィトクロモビリン(PΦB)とそこから派生する色素

前節までで,PCB, PVB,未知色素1, BV, 181,182-DHBVの5種類の色素がシアノバクテリオクロムに結合することが示された.このうちのPVBと未知色素1は,PCBからの異性化によって産生された色素である.A. marina由来のシアノバクテリオクロムが,A. marinaの生体内で本当にBVや181,182-DHBVを結合して働いているかどうかについては,議論の余地があるものの,基本的にこれら五つの色素はシアノバクテリオクロムの発色団として,天然の生体内で機能しうるものであると考えられる.一方,この先に登場するPΦBやそれを基盤とした色素群との結合は,大腸菌での異種発現で実現されるアーティファクトの一種であり,シアノバクテリアの天然での発色団の挙動ではないと考えられる.つまり,これまでわかっているシアノバクテリアのゲノム情報からは,PCBを合成する酵素であるPcyAのホモログは検出されるものの,PΦBを合成する酵素であるHY2のホモログは存在しないからである.PCBとPΦBは同じBVを基質として合成されるが,PcyAはD環とA環の2か所を還元するが,HY2はA環のみを還元する(図2).A環の還元は両者で共通しているが,PcyAは前述したように,D環を先に還元し,その後,A環を還元する.そのため,PcyAの酵素反応中間体としてPΦBが蓄積されることもなく,シアノバクテリア内でPΦBが供給されるような状況は生じないと考えられる.

しかしながら,タンパク質との結合領域であるA環の領域はPCBとPΦBでは同一であり,D環の末端のC181とC182の間の結合が単結合か二重結合かの違いしかないため,フィトクロムにおける先行研究では,PCBを結合する分子はPΦBも結合でき,逆にPΦBを結合できる分子はPCBも結合できるという結果が示されていた8, 42, 53).そこで,シアノバクテリオクロムでも同様のことが可能であると考えられた.実際に,PCB, PVB,未知色素1を結合するシアノバクテリオクロムをPcyAではなくHY2と共発現することで,PΦBとそれに由来する異性化色素群との結合を調べると,それぞれ効率的な色素の結合や異性化が確認された(図2のPΦB, ΦVB,未知色素2).これらの変性差スペクトルを上述した五つの色素群を結合した分子の変性差スペクトルと重ね合わせると,それぞれが異なるスペクトルになることがわかる(図8).

10. おわりに

シアノバクテリオクロムは,2004年に東京大学の池内らによって分光学的に初めて解析されて以降,日本,アメリカ,ドイツ,韓国,中国などで精力的に研究され,その多様性が詳細に解明されつつある.この現状を総括すると,人工的な系も含めて,8種類もの色素を結合した分子群が同定されたことになる(図8).さらに,これらの分子を基盤として,オプトジェネティクスや蛍光イメージングに資する分子ツールの開発も進んできた49, 52, 54, 55).近年では,ゲノム・メタゲノムデータがますます増えてきて,かつ,遺伝子合成技術も進んできたことから,未知のシアノバクテリオクロム配列の解析がさらに進展することが期待される.

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著者紹介Author Profile

成川 礼(なりかわ れい)

東京都立大学大学院理学研究科生命科学専攻准教授.博士(学術).

略歴

1979年神奈川県に生る.2001年東京大学教養学部卒業.06年同大学院総合文化研究科博士課程修了.同年学振特別研究員PD. 07年東京大学大学院総合文化研究科助教.14年静岡大学理学部講師.21年より現職.

研究テーマと抱負

光合成微生物の光利用戦略の解明とその応用利用.仮説駆動型研究を志向しているが,多くの仮説は棄却される.自らの仮説が棄却される自然の奥深さを今後も追求し,仮説検証の過程で予期せぬ発見に気づけるセレンディピティを養いたい.

ウェブサイト

https://narikawa-lab.wixsite.com/narikawa-laboratory

趣味

飲麦酒,読漫画,邦画鑑賞.

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