Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 94(3): 415-418 (2022)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2022.940415

みにれびゅうMini Review

がん幹細胞マーカーCD133によるオートファジー制御と非対称分裂機構Regulation of autophagy and asymmetric cell division by the stem cell marker CD133

1佐賀県医療センター好生館総合臨床研究所Medical Research Institute, Saga Medical Center KOSEIKAN ◇ 〒840–8571 佐賀市嘉瀬町中原400 ◇ 400 Nakabaru, Kase, Saga 840–8571, Japan

2埼玉県立がんセンター臨床腫瘍研究所Saitama Prefectural Cancer Center ◇ 〒362–0806 埼玉県北足立郡伊奈町大字小室780 ◇ 780 Oaza Komuro, Ina-machi, Kitaadachi-gun, Saitama 362–0806, Japan

3サガハイマットSaga HIMAT ◇ 〒841–0071 佐賀県鳥栖市原古賀町3049 ◇ 3049 Harakoga-machi, Tosu-shi, Saga 841–0071, Japan

受付日:2022年3月8日Received: March 8, 2022
発行日:2022年6月25日Published: June 25, 2022
HTMLPDFEPUB3

1. はじめに

がん細胞は,不均一な細胞集団が遺伝子変異を蓄積し,より悪性度の高い細胞集団をもたらすと考えられている.しかし,がん細胞集団の中から特に悪性度の高いがん幹細胞が同定され,がん幹細胞が腫瘍細胞の不均一性と薬物および放射線に対する耐性を生み出すカギになることが示唆されている1).がん幹細胞は特定の細胞表面マーカーを発現することが示されているが,腫瘍細胞集団におけるがん幹細胞の割合が非常に低いため,これらのマーカーの機能解析は遅れている1)

CD133は,主に正常幹細胞やがん幹細胞の細胞膜に局在する膜貫通タンパク質であり,がん幹細胞マーカーとしても広く知られている.2019年に我々は,CD133が細胞内にエンドサイトーシスにより取り込まれ,中心体に輸送され,オートファジーを阻害することにより,がん細胞を未分化状態に維持することを発見した2).そして最近,我々は,中心体に局在するCD133エンドソームの分布が,細胞によって非常に不均一であり,さまざまなオートファジー活性を持つ細胞が,非対称分裂により生み出されていることを発見した3).またその際に,ベータ・カテニンがCD133エンドソーム分布の高い細胞において,核局在するようになり,CD133の働きに加担して,細胞の悪性化に関与していることがわかった3)

ここでは,CD133エンドソームによるオートファジー制御機構と非対称分裂の関連について紹介したい.

2. がん幹細胞マーカーCD133

がん幹細胞マーカーCD133は,プロミニン-1とも呼ばれ,当初はヒト造血幹細胞およびマウス神経上皮細胞の細胞表面マーカーとして同定された4–6).その後,脳腫瘍,結腸がん,肝細胞がん,神経芽細胞腫などの固形腫瘍のがん幹細胞のマーカーとして機能することが報告された7).CD133陽性細胞集団は,CD133陰性細胞集団よりも優れた自己複製能力と化学療法抵抗性の特性を持っており,CD133の発現は,多くの腫瘍の悪性度および予後不良と相関している7)

CD133は,Srcファミリーのチロシンキナーゼによって細胞内C末端ドメインをリン酸化され8),その結果,ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI-3K)のp85サブユニットと結合して活性化し,次に活性化されたPI-3Kは,Aktなどの下流の標的にシグナルを送ってがん幹細胞の増殖を促進する9)図1A).

Journal of Japanese Biochemical Society 94(3): 415-418 (2022)

図1 CD133分子のシグナル伝達

(A) CD133は,Srcファミリーのチロシンキナーゼによって細胞内C末端ドメインをリン酸化され,その結果,ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI-3K)のp85サブユニットと結合して活性化する.次に活性化されたPI-3Kは,Aktなどの下流の標的にシグナルを送って細胞増殖を促進する.またCD133は,ヒストンデアセチラーゼ6(HDAC6)と結合することで安定化され,ベータ・カテニンの転写活性を高め,細胞増殖を促進し,細胞分化を抑制する.(B) Srcファミリーキナーゼが不活性化されている条件下では,リン酸化されていないCD133がエンドサイトーシスを介して細胞膜から細胞内領域に輸送される.エンドサイトーシス後のCD133エンドソームは,HDAC6およびダイニンモーターにアシストされて微小管に沿って中心体へ輸送される.中心体に局在するエンドソームCD133は,GABARAPを捕捉して,GABARAP-ULK1相互作用を阻害し,オートファジーの開始を抑制する.

またCD133は,ヒストンデアセチラーゼ6(HDAC6)と結合することで安定化され,ベータ・カテニンの転写活性を高め,細胞増殖を促進し,細胞分化を抑制する10)図1A).

3. CD133は,中心体に局在し,オートファジーの活性化を抑制する

我々は,CD133の新しいメカニズムを解明するために,高レベルでCD133を発現するがん細胞株を探索し,肝細胞がんの細胞株であるHuh-7と神経芽細胞腫SK-N-DZをモデルに解析を行い,CD133がHuh-7およびSK-N-DZ細胞において,細胞膜ではなく中心体に主に局在することを示した2).その後の解析により,Srcファミリーキナーゼ活性が低い場合,CD133はSrcによってリン酸化されず,その結果,リン酸化されていないCD133が細胞内にエンドサイトーシスによってダウンレギュレーションされ,HDAC6と優先的に相互作用し,CD133エンドソームが細胞内輸送によって,ダイニンモーターを介して中心体に輸送されることを明らかにした2)図1B).中心体は,動物細胞の主要な微小管形成中心(MTOC)であり,細胞の極性と運動性,紡錘体形成,染色体分離,細胞質分裂の調節に重要な役割を果たす11).また最近では,中心体もオートファジーの調節に関与していることが報告され始めている12)

次に,中心体に局在するCD133の生化学的機能を調べたところ,中心体に局在するCD133がオートファジー開始の重要な調節因子であるGABARAP(GABA receptor-associated protein)を捕獲(トラップ)し,GABARAPを介したULK1の活性化とそれに引き続くオートファジーの開始を阻害することを明らかにした(図1B2).興味深いことに,Srcキナーゼによるリン酸化部位(Y828)を含むCD133のアミノ酸配列[828~831 aa(YDDV)]は,GABARAPと相互作用するモチーフでもあるLC3B相互作用領域[LC3-interacting region(LIR):Y/FXXV]13)として保存されており,Srcキナーゼによるリン酸化により,CD133のGABARAPへの結合能が低下する2).したがってCD133は,この潜在的なLIRを介してGABARAPを捕獲(トラップ)している可能性が高い.

また,中心体に局在するCD133の生理的機能を調べたところ,オートファジー活性を抑制して,一次繊毛の形成や神経突起伸長などの細胞分化を抑制した2).神経幹細胞や胚性幹細胞などの幹細胞の細胞分化において,オートファジー活性が必須であることから14),中心体に局在するCD133が,オートファジーを阻害することによってがん細胞を未分化状態に維持することが示唆された2)

4. CD133は,中心体に不均一に局在し,非対称分裂により,さまざまなオートファジー活性を持つ娘細胞を生み出す

我々は,さらに上述のSK-N-DZ細胞を用いて詳細にCD133の細胞内局在を調べたところ,細胞によってCD133の中心体への局在分布が不均一であることを発見した3).上述のCD133の中心体局在は,オートファジーを抑えるという我々の研究成果を踏まえると,CD133の不均一分布は,さまざまなオートファジー活性を持っている細胞が分布していることを示している.実際,中心体局在のCD133を持つ細胞のCD133をノックダウンするとオートファジーフラックスは高まり,一方,CD133の強制発現は,CD133の中心体分布を引き起こし,オートファジーフラックスを低下させる3).その後の解析により,CD133の分布は,選択的オートファジーの受容体であるp62(SQSTM1)の分布と逆相関し,CD133は,p62に結合して選択的オートファジーによって分解されることがわかった3)

次に,CD133の分布の不均一性が細胞周期のいつ引き起こされるのかを調べたところ,細胞分裂期に入る際に,CD133の中心体局在がいったんなくなり,分裂の終わる細胞質分裂のときに,再び中心体に局在するようになるが,その際に非対称に分布する場合があり,CD133の不均一性が生み出されることを発見した(図23).興味深いことに,この非対称分裂の際に,ベータ・カテニンが,CD133の中心体分布の高い娘細胞において核局在するようになり,一方,CD133の中心体分布の低い娘細胞では,ベータ・カテニンは,細胞膜に止どまることがわかった(図23).さらに,核局在のベータ・カテニンの転写ターゲットであるサイクリンD1の発現を調べたところ,ベータ・カテニンと同様に非対称性を示した3).ベータ・カテニンは,TCF4を介してp62の遺伝子発現を抑制する活性がある一方,LC3複合体の形成を介して選択的にオートファジー分解されることが報告されており15),これらの結果は,CD133とベータ・カテニンが協調して,オートファジーに関連するp62の働きを阻害して細胞の非対称性を生み出していることを示している(図2).

Journal of Japanese Biochemical Society 94(3): 415-418 (2022)

図2 CD133陽性ヒト神経芽細胞腫細胞における細胞質分裂時にみられるオートファジー活性の対称性の破れ

細胞質分裂時に,CD133エンドソームは,非対称的に中心体に局在し,オートファジーを抑制する.オートファジーを抑制された娘細胞では,ベータ・カテニンの核への局在化が促進され,p62/SQSTM1遺伝子の発現を抑制する.一方,CD133エンドソームが中心体に局在しない娘細胞においては,オートファジーが活性化され,ベータ・カテニンは,核移行を阻害されて細胞膜局在に止どまり,p62/SQSTM1遺伝子の発現が促進される.文献3の図7より改変して引用.

5. おわりに

本稿では,我々の研究を中心にCD133の新たな機能について概説した.中心体に局在するCD133については,実際の臨床検体でも多数観察されることから,その機能の重要性が示唆されている2).細胞膜に局在するCD133は,主に細胞増殖のシグナルに関連しているのに対して,中心体に局在するCD133はオートファジー活性を抑制して,がん細胞の未分化能を高めることから,CD133は,細胞内局在に応じてその機能を発揮するマルチファンクショナルなタンパク質であることが示唆される.

さらに最近,我々は,中心体局在のCD133が非対称分裂を誘導して,オートファジーに基づく腫瘍細胞の不均一性を明らかにした.オートファジー活性の違う娘細胞を産生することの生物学的重要性は何であろうか? 我々の予備研究では,オートファジー活性の低い,中心体局在のCD133陽性細胞は抗腫瘍薬であるドキソルビシンに耐性があるのに対し,オートファジー活性の高いCD133陰性細胞は,この薬剤に対する感受性が有意に高いこと,さらにCD133陽性細胞をたたくには,ドキソルビシンに加えて,オートファジー誘導活性のあるラパマインシン処理が有効なことを示した(泉ら,未発表).このことは,CD133エンドソームを介して引き起こされるオートファジーに基づく非対称分裂が,腫瘍細胞の不均一性に重要な役割を果たしていることを示唆しており,オートファジー活性が異なる細胞が産生されることにより,さまざまな細胞外環境に適応性のあるがん細胞が常に生み出されているシナリオが想像される.

CD133は,もともと細胞膜タンパク質であり,何らかのリガンドに対する受容体である可能性があるが,まだまだ機能について不明なことが多い.今後,CD133の機能解析が進むにつれて思いがけない機能が明らかにされる可能性もあり,今後の研究の進展に期待したい.

追記

本稿の著者の一人である金子安比古先生が,2022年3月5日に永眠されました.この場を借りて,ご冥福をお祈り申し上げます.

引用文献References

1) Clevers, H. (2011) The cancer stem cell: Premises, promises and challenges. Nat. Med., 17, 313–319.

2) Izumi, H., Li, Y., Shibaki, M., Mori, D., Yasunami, M., Sato, S., Matsunaga, H., Mae, T., Kodama, K., Kamijo, T., et al. (2019) Recycling endosomal CD133 functions as an inhibitor of autophagy at the pericentrosomal region. Sci. Rep., 9, 2236.

3) Izumi, H., Li, Y., Yasunami, M., Sato, S., Mae, T., Kaneko, Y., & Nakagawara, A. (2022) Asymmetric pericentrosomal CD133 endosomes induce the unequal autophagic activity during cytokinesis in CD133-positive human neuroblastoma cells. Stem Cells, 40, 371–384.

4) Miraglia, S., Godfrey, W., Yin, A.H., Atkins, K., Warnke, R., Holden, J.T., Bray, R.A., Waller, E.K., & Buck, D.W. (1997) A novel five-transmembrane hematopoietic stem cell antigen: isolation, characterization, and molecular cloning. Blood, 90, 5013–5021.

5) Weigmann, A., Corbeil, D., Hellwig, A., & Huttner, W.B. (1997) Prominin, a novel microvilli-specific polytopic membrane protein of the apical surface of epithelial cells, is targeted to plasmalemmal protrusions of non-epithelial cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 12425–12430.

6) Yin, A.H., Miraglia, S., Zanjani, E.D., Almeida-Porada, G., Ogawa, M., Leary, A.G., Olweus, J., Kearney, J., & Buck, D.W. (1997) AC133, a novel marker for human hematopoietic stem and progenitor cells. Blood, 90, 5002–5012.

7) Li, Z. (2013) CD133: A stem cell biomarker and beyond. Exp. Hematol. Oncol., 2, 17.

8) Boivin, D., Labbe, D., Fontaine, N., Lamy, S., Beaulieu, E., Gingras, D., & Béliveau, R. (2009) The stem cell marker CD133 (prominin-1) is phosphorylated on cytoplasmic tyrosine-828 and tyrosine-852 by Src and Fyn tyrosine kinases. Biochemistry, 48, 3998–4007.

9) Wei, Y., Jiang, Y., Zou, F., Liu, Y., Wang, S., Xu, N., Xu, W., Cui, C., Xing, Y., Liu, Y., et al. (2013) Activation of PI3K/Akt pathway by CD133-p85 interaction promotes tumorigenic capacity of glioma stem cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 6829–6834.

10) Mak, A.B., Nixon, A.M., Kittanakom, S., Stewart, J.M., Chen, G.I., Curak, J., Gingras, A.C., Mazitschek, R., Neel, B.G., Stagljar, I., et al. (2012) Regulation of CD133 by HDAC6 promotes beta-catenin signaling to suppress cancer cell differentiation. Cell Rep., 2, 951–963.

11) Nigg, E.A. & Holland, A.J. (2018) Once and only once: Mechanisms of centriole duplication and their deregulation in disease. Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 19, 297–312.

12) Joachim, J., Jefferies, H.B., Razi, M., Frith, D., Snijders, A.P., Chakravarty, P., Judith, D., & Tooze, S.A. (2015) Activation of ULK kinase and autophagy by gabarap trafficking from the centrosome is regulated by WAC and GM130. Mol. Cell, 60, 899–913.

13) Rogov, V., Dotsch, V., Johansen, T., & Kirkin, V. (2014) Interactions between autophagy receptors and ubiquitin-like proteins form the molecular basis for selective autophagy. Mol. Cell, 53, 167–178.

14) Mizushima, N. & Levine, B. (2010) Autophagy in mammalian development and differentiation. Nat. Cell Biol., 12, 823–830.

15) Petherick, K.J., Williams, A.C., Lane, J.D., Ordonez-Moran, P., Huelsken, J., Collard, T.J., Smartt, H.J., Batson, J., Malik, K., Paraskeva, C., et al. (2013) Autolysosomal beta-catenin degradation regulates Wnt-autophagy-p62 crosstalk. EMBO J., 32, 1903–1916.

著者紹介Author Profile

泉 秀樹(いずみ ひでき)

佐賀県医療センター好生館総合臨床研究所疾患病態研究部部長.医学博士(京都大学).

略歴

1966年東京都に生まれる.92年九州大学理学部生物学科卒業.94年大阪大学大学院を経て98年京都大学大学院医学研究科博士課程単位取得.2001年University of Cincinnati College of Medicine, 04年広島大学,11年埼玉県立がんセンターを経て,15年より現職.

研究テーマと抱負

がん幹細胞の非対称分裂のメカニズムと中心体継承の基本原理および中心体の未知の機能の解明に向けて研究を進めており,その成果が,がん解明に役立つことを願っている.

ウェブサイト

http://www.koseikan.jp/medical_care/life_science_lab/molecular_medicine/

趣味

日向敏文の初期のピアノ曲を聴くこと・弾くこと.

This page was created on 2022-05-16T15:38:58.641+09:00
This page was last modified on 2022-06-20T08:31:44.000+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。