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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 94(3): 419-422 (2022)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2022.940419

みにれびゅうMini Review

中心体タンパク質による分裂期PLK1制御を介した適切な細胞分裂保証メカニズムCEP76 regulates mitotic PLK1 and ensures proper mitotic progression

東京大学大学院薬学系研究科生理化学教室Laboratory of Physiological Chemistry, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, The University of Tokyo ◇ 〒113–0033 東京都文京区本郷7–3–1 ◇ 7–3–1 Hongo, Bunkyo, Tokyo 113–0033, Japan

発行日:2022年6月25日Published: June 25, 2022
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1. はじめに

我々ヒトを含む多くの多細胞生物は,一つの受精卵が細胞分裂を繰り返して発生する.そして,発生後も体を構成する一部の細胞が絶えず分裂を繰り返すことによって生体の恒常性が保たれている.また,現代医療が抱える課題の一つである「がん」は,無秩序な分裂により引き起こされる.よって,適切な細胞分裂を保証することは,生物の発生や恒常性維持,そしてがん化の抑制において重要である.

細胞分裂の過程で最も重要なことは,姉妹染色体を二つの娘細胞に均等に分配することである.遺伝情報を担う染色体の分配異常は,娘細胞の機能に深刻な影響を及ぼし,がんをはじめとするさまざまな疾患の原因となりうる.そのため,分裂期を通じて精密な制御機構が機能し,正確な染色体の分配を保証している.分裂期が開始すると,核膜の崩壊に伴って凝縮した染色体は,細胞質中に放出される.分裂中期には,紡錘体極の中間に存在する赤道面に染色体が整列し,紡錘体の両極から伸びた微小管が動原体を介して接続する.分裂終期には,紡錘体によってそれぞれの娘細胞に染色体が均等に分配される.この複雑な過程のすべてが正常な細胞分裂の進行に必要不可欠である.

正常な細胞分裂の進行に必要な酵素の一つとしてポロ様キナーゼ1(Polo-like kinase1:PLK1)がある.分裂期の進行に伴って,PLK1は非常に動的な局在変動をし,その各所でさまざまな機能を担う(図11).分裂前期には,中心体上で微小管形成能の成熟を促す.分裂中期には,中心体に加えて動原体上にも集積して,紡錘体の形成や配向維持に寄与する.分裂終期には,くびれ部分にあたる中央体上で細胞質分裂の実行を保証する.以上のように,分裂期におけるPLK1の局在や機能の変遷は明らかにされているが,これらを制御する詳細な分子メカニズムに関しては,不明な点が多いのが現状である.最近,筆者らの研究グループは,分裂期において中心体タンパク質のCEP76が細胞質中のPLK1局在やその活性を制御する可能性を見いだした2).本稿ではその知見を概説する.

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図1 体細胞分裂を通したPLK1の局在変動

2. 中心体は分裂期PLK1の適切な制御を行う

分裂期PLK1の直接的な制御が行われる場の候補として,分裂前期にPLK1が強く集積する中心体に着目した.中心体は,9回対称の三連微小管構造を核とする筒状構造体(中心小体)とそれを囲む高密度のタンパク質複合体(pericentriolar material:PCM)から構成される,膜を持たない細胞小器官である3).動物細胞において,中心体は主に微小管形成中心として機能し,分裂期には紡錘体の両極に位置する.PLK1のキナーゼ活性は,PCM構成因子の集積を促し,それにより中心体の微小管形成能の向上に寄与する4).その一方で,中心体という場が,そこに集積する分裂期PLK1に対して及ぼす影響についてはよくわかっていなかった.

分裂期PLK1の制御における中心体の重要性を検証するために,ヒト細胞から中心体を欠失させた際の分裂期PLK1の局在と活性の変動を解析した.中心体の自己複製に必要な酵素,ポロ様キナーゼ4(Polo-like kinase 4:PLK4)の選択的阻害薬セントリノンを長期的に処理すると,中心体が欠失した細胞を観察することが可能である5).ヒト由来培養細胞に対してこの処理を3日間行い,中心体が欠失した細胞に限定して分裂期PLK1の解析を行った.その結果,中心体欠失細胞では,分裂期において,①細胞質中に異所性のPLK1凝集体が多く形成され,②細胞全体の活性化PLK1量が有意に増加した.いずれも,PLK1自体の物性的な変化を示唆する傾向である.なお,中心体の自己複製に必要な別のタンパク質STIL6)の発現抑制によって作製した中心体欠失細胞においても,同様の傾向が確認された.

以上の実験結果より,中心体の存在は細胞全体の分裂期PLK1の適切な制御に重要であることが示唆された.

3. 中心体タンパク質CEP76は分裂期PLK1の細胞質中の凝集と過剰な活性化を抑制する

続いて,中心体による分裂期PLK1の制御について,より詳細なメカニズムを明らかにすることを試みた.中心体上には数百のタンパク質が局在している2).そこで,中心体上に局在する特異的なタンパク質が分裂期PLK1の適切な制御に重要なのではないか,と考えた.この仮説に従うと,中心体欠失時にみられた分裂期PLK1の制御異常は,この特異的なタンパク質がPLK1に対して作用する場を失ったため生じた,と考えられる.この仮説の下,中心体上で分裂期PLK1を制御する因子を同定するために,小規模のスクリーニングを実施した.具体的には,中心体の構造的要素として重要な計11の中心体構成タンパク質をRNA干渉法によって発現抑制して分裂期PLK1の局在を観察した.その結果,CEP76の発現抑制時に,中心体欠失時と同様に,分裂期における①細胞質中のPLK1凝集が観察された(図2).さらに,CEP76発現抑制細胞では,②細胞全体の活性化PLK1量の増加も確認された.

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図2 小規模スクリーニングによるCEP76の同定

続いて,CEP76とPLK1の間の相互作用の有無を,共免疫沈降法と酵母ツーハイブリッド法を用いて検証したところ,いずれの実験においても両者の相互作用を示す結果が得られた.

以上の実験結果より,CEP76とPLK1の直接的な分子間相互作用を介して,中心体は細胞全体の分裂期PLK1を制御していることが示唆された.間期においては,CEP76がPLK1活性を抑制し,再複製による中心小体の増加を防ぐことが報告されている7)が,本研究によって,分裂期においてもPLK1の適切な制御に寄与することが初めて明らかになった.

4. 細胞質でのPLK1凝集にはPLK1自体の活性が必要である

これまで,中心体欠失細胞とCEP76発現抑制細胞で共通して,分裂期における①細胞質でのPLK1凝集と②細胞内PLK1の過剰な活性化という二つの制御異常が確認された.そこで,この二つの表現型の間の関係性を検証した.

①細胞質でのPLK1凝集が,②PLK1自体の過剰な活性化によって引き起こされている,という仮説の下,CEP76発現抑制細胞に対してPLK1選択的阻害薬BI 25368)を処理し,PLK1活性を抑制する実験を行った.その結果,阻害薬でPLK1活性を低下させたCEP76発現抑制細胞では,細胞質中でのPLK1凝集が強く抑制された.

以上の実験結果より,①細胞質でのPLK1凝集は,②細胞内PLK1の過剰な活性化が原因となって生じることが示唆された.つまり,両者の間には因果関係があり,CEP76の本質的な作用点は,細胞内の分裂期PLK1の活性制御である可能性が高い.

5. CEP76による分裂期PLK1の活性制御を介して,紡錘体の配向は適切に維持されている

続いて,CEP76発現抑制時に生じる分裂期PLK1の活性制御異常が細胞分裂に与える影響について検討した.PLK1活性が過度に上昇した際に生じる細胞分裂への影響についてはこれまであまり報告がない.一方,PLK1に対する選択的阻害薬の処理や発現抑制によって,分裂期に観察される表現型は複数報告されている.そこで,それらの情報を参考にして,CEP76発現抑制細胞の表現型解析を行った.

分裂期PLK1のキナーゼ活性は紡錘体の二極性派生に重要なので,強い活性阻害下では二極の紡錘体を形成できず単極状態で停止した分裂期の細胞が多く見られる9).このような紡錘体の二極性派生不全は,分裂期進行の遅延や染色体の分配異常につながる10).また,PLK1活性はすでに形成された紡錘体の配向を維持するためにも重要なので,弱い活性阻害下では,二極の紡錘体は形成できるが,接着面を基準として紡錘体の傾きが大きく増加する11).紡錘体の配向異常は適切な細胞分裂の方向性に悪影響を及ぼし,生体においては非対称分裂の進行に支障が出ることが知られている12).以上の知見より,CEP76発現抑制細胞の分裂期紡錘体に着目して,その二極性派生と配向を解析した.

その結果,解析を行ったCEP76発現抑制細胞のすべてが正常細胞と同様に二極の紡錘体を形成していたが,その傾きは有意に増加しており,紡錘体の配向異常が認められた.また,この紡錘体の配向異常は,細胞質中のPLK1凝集と同様にPLK1選択的阻害薬BI 2536によって抑制された.

以上の実験結果より,CEP76による分裂期PLK1の適切な制御が,紡錘体の配向維持を介して,正常な細胞分裂の進行を保証していることが示唆された(図3).紡錘体は星状体微小管によって細胞皮質に係留されており,細胞皮質上に配置されたダイニン複合体から生じる引力で配向が制御されている.ダイニン複合体の細胞皮質への局在は,NuMAがPLK1によってリン酸化されることで負の制御を受けており,PLK1活性阻害時の紡錘体の配向異常は,細胞皮質への過剰なダイニン複合体の局在により引力のバランスが崩れることが一因である11).今回,CEP76発現抑制によるPLK1活性亢進下でも紡錘体の配向に異常が生じたのは,NuMAの過剰なリン酸化によってダイニン複合体の細胞皮質への局在が減少し,引力のバランスが崩れたためだと考えられる.

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図3 中心体上でのCEP76によるPLK1制御の概略図

6. おわりに

本研究は,中心体という場がCEP76とPLK1の直接的な分子間相互作用を介して,細胞全体における分裂期PLK1の適切な制御を担っている可能性を提示した.さらに,この制御機構が正常に働くことによって,分裂期紡錘体の配向が適切に維持されていることを明らかにした.

PLK1は上述のとおり,細胞分裂の全過程を通して多岐に渡る機能を担う重要なキナーゼであり,先行研究において細胞がん化との関連が強く示唆されている.たとえば,乳がんや膀胱がんをはじめとするさまざまながん細胞でPLK1の発現が亢進していることが報告されている13).また,PLK1の過剰発現を人為的に誘導すると細胞がん化や腫瘍形成が促進されることも示されている14).さらに,PLK1阻害薬は,新たな細胞分裂阻害薬として抗がん効果が期待され,ボラセルチブなど実際に臨床試験にかけられているものもある15).しかしながら,現状,その結果は予想に反してあまり芳しくない.効果的なPLK1阻害薬の開発のためには,PLK1自体の分子機能をより高解像度で理解する必要がある.本研究が初めて明らかにしたCEP76による分裂期PLK1の制御メカニズムは,新たな創薬標的としての可能性を秘めている.今後,より詳細な分子メカニズムへのアプローチやin vivoでの表現型解析によって,理解が深まることが期待される.

引用文献References

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15) Liu, Z., Sun, Q., & Wang, X. (2017) PLK1, A Potential Target for Cancer Therapy. Transl. Oncol., 10, 22–32.

著者紹介Author Profile

竹田 穣(たけだ ゆたか)

東京大学大学院薬学系研究科生理化学教室博士後期課程2年.薬学修士(博士後期課程在学中).

略歴

1996年カリフォルニアに生る.2019年東京大学薬学部卒業.21年同大学院薬学系研究科修士課程修了.現在,同研究科の博士後期課程に在籍中.

研究テーマと抱負

細胞内の中心体数を維持する機構とその意義の理解.中心体というミクロな構造体への独自のアプローチによって,後世に残る重要な研究を成し遂げる.

趣味

ラジオや音楽を聴くこと.ランニング.

知念 拓実(ちねん たくみ)

東京大学大学院薬学系研究科生理化学教室助教.博士(農学).

略歴

1987年長野県に生る.2010年筑波大学生物学類卒業.14年同大学院生命環境科学研究科修了.ハイデルベルグ大学,理化学研究所,国立遺伝学研究所,東京大学ポスドクを経て,19年より現職.

研究テーマと抱負

分裂期紡錘体の形成メカニズムやその制御破綻により生じるストレス応答の解明を行っています.また,その知見を基にした創薬シーズの開発を目指しています.

ウェブサイト

https://seirikagaku.f.u-tokyo.ac.jp/

趣味

飲酒,談笑.

北川 大樹(きたがわ だいじゅ)

東京大学大学院薬学系研究科生理化学教室教授.薬学博士.

略歴

1978年横浜に生る.2000年東京大学薬学部卒業.05年同大学院薬学系研究科修了.薬学博士取得.06年から5年間スイス実験がん研究所にてポスドク.11年国立遺伝学研究所にて独立(特任准教授).15年同研究所教授.18年より現職.

研究テーマと抱負

中心体生物学.分子夾雑の細胞内で,複雑な構造体が構築され,機能するロジックを明らかにする.

ウェブサイト

https://seirikagaku.f.u-tokyo.ac.jp

趣味

サッカー.ヨーロッパの史跡巡り.ソロキャンプ.

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