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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 94(4): 590-593 (2022)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2022.940590

みにれびゅうMini Review

一次繊毛を介し組織発生を制御するCMGCキナーゼCMGC kinase regulates tissue development via primary cilia

東京慈恵会医科大学生化学講座Department of Biochemistry, The Jikei University School of Medicine, Tokyo, Japan ◇ 〒105–8461 東京都港区西新橋3–25–8 ◇ 3–25–8 Nishi-shimbashi, Minato-ku, Tokyo 105–8461, Japan

発行日:2022年8月25日Published: August 25, 2022
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1. はじめに

組織発生はシグナル分子の時間的・空間的発現パターンにより,厳密に制御されている.近年,この組織発生において,血球を除くほとんどの細胞に存在する細胞小器官「一次繊毛」の重要性が明らかになってきた.一次繊毛は細胞膜が突出した器官であり,一つの細胞に1本だけ形成される(図1).一次繊毛上には,Hedgehog, FGF, Wntなど,組織発生に関与する多くのGタンパク質共役型受容体(GPCR)や成長因子受容体・イオンチャネルが集積する1).そのため,一次繊毛は液性さらに力学的な刺激を受容する「細胞のアンテナ」として機能する.

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図1 細胞に1本だけ存在する細胞小器官「一次繊毛」の構造とIFT装置

一次繊毛では,モータータンパク質であるキネシン2・ダイニン2, IFT複合体,BBSome複合体が微小管上をシャトル運動し,GPCRなどを輸送する.

細胞質と一次繊毛の間には,ダイナミックな分子輸送システム「繊毛内タンパク質輸送(intraflagellar transport:IFT)」が存在する.多数のタンパク質で構成されるIFT複合体がモータータンパク質であるキネシン2とダイニン2を駆動し,微小管上を細胞質から繊毛先端(順行輸送)ならびに繊毛先端から細胞質(逆行輸送)へと移動する(図12).このIFT複合体,ならびにアダプターとして機能するBBSome複合体を介して,GPCRや一次繊毛を構成する材料が繊毛内を移動する.そのため,IFT複合体やBBSome複合体の異常は,一次繊毛の形態異常,さらにはHedgehogシグナルなどGPCRを介したシグナリングの異常を引き起こす.

2000年以降,骨格異常,多指・欠指,多発性嚢胞腎,網膜色素変性,内蔵逆位,小脳虫部形成不全,精神遅滞,不妊,病的肥満など,既知のさまざまな疾患が一次繊毛の異常に起因することが明らかとなり,繊毛病(ciliopathies)と総称されるようになってきた.繊毛病はきわめて多様な病態を示す.こうした多様な病態を裏づけるように,187種の一次繊毛構成分子が繊毛病の原因遺伝子として同定されており,候補原因遺伝子として241種があげられている3).さらに近年では,一次繊毛のプロテオミクス解析から約1000種に上る繊毛構成タンパク質が同定されている4).一方で,上述のような,複雑な一次繊毛の機能を可能にするには,一次繊毛の構成分子だけでなく,その機能を調整する制御因子,すなわち翻訳後修飾分子が重要な機能を担うと推測される.実際に,一次繊毛の形態・機能を制御する翻訳後修飾分子が,哺乳類の個体レベルで明らかになってきている.本稿では,特にCMGCグループに属するキナーゼに注目し,一次繊毛の形成・機能制御における知見を概説するとともに,最近我々が新たに同定した一次繊毛制御キナーゼであるDYRK2に関して紹介する.

2. 一次繊毛の制御キナーゼ

ヒト疾患における原因遺伝子,さらに,モデル生物を用いたさまざまなアプローチから,一次繊毛の異常を引き起こす分子が探索されてきた.一次繊毛の形態的な異常は,IFT装置をはじめとした一次繊毛輸送システムの機能異常に起因する例が多い.繊毛研究のモデル生物である,単細胞緑藻Chlamydomonasの遺伝学的スクリーニング解析から,一次繊毛の長さに異常が生じる原因遺伝子が報告されている.その中で,変異により繊毛長が長くなる,すなわち一次繊毛の抑制遺伝子としてlong flagella(LF)1~LF5が同定されている5, 6).このうち,LF2/LF4/LF5はキナーゼであり,それぞれ哺乳類のCCRK(LF2),MAK/ICK/MOK(LF4),CDKL5(LF5)がホモログである.また,GSK3に関しても,一次繊毛長を負に制御していることが知られている.興味深いことに,これらキナーゼはいずれもCMGC[cyclin-dependent kinases(CDKs),mitogen-activated protein kinases(MAPKs),glycogen synthase kinases(GSKs),and CDK-like kinases(CLKs)]グループに属するキナーゼである(図2).CMGCは進化的に保存されており,ヒトでは61種類の分子が属する.

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図2 ヒトにおけるkinomeならびにCMGCグループの系統樹

( )内の数字は,各グループに属する因子の数を示す.

これらキナーゼに関し,遺伝子欠損マウスを用いた個体レベルでの表現型解析が進んでいる.欠損遺伝子により表現型は異なり,Ccrk欠損マウスは最も重篤な表現型を呈し,胎生致死に至る7).一方で,Ick欠損マウスは,骨格,肺,脳,網膜の形成異常を呈し,出生時に致死に至る8, 9).また,Mak欠損マウスは特に網膜10)Cdkl5欠損マウスは神経発達の異常を示す11).各キナーゼの標的基質に関しても同定が進んでおり,ICKはキネシン2のサブユニットであるKIF3Aの674番目のThrをリン酸化する9).また,CCRKはICKならびMAKをリン酸化し,その活性を誘導する12).重要なことに,これら分子の変異はヒト繊毛病でも同定されており13),リン酸化基質のさらなる解明は,病態発症の分子機序の理解につながることが期待される.

3. CMGCグループに属する新規な一次繊毛制御因子DYRK2

最近,我々はCMGCグループに属するdual-specificity tyrosine-regulated kinase 2(DYRK2)が新規の一次繊毛制御キナーゼであることを見いだした14).DYRK2は,DYRK1A/DYRK1B/DYRK2/DYRK3/DYRK4の5分子から構成されるDYRKファミリーに属するSer/Thrキナーゼである(図2).DYRKファミリー分子は,Tyrキナーゼ活性とSer/Thrキナーゼ活性の両方を有するという特徴があり,分子内のTyrが自己リン酸化されることで,Ser/Thrキナーゼ活性が獲得される.組織発生に関しては,ダウン症候補領域(Down syndrome critical region:DSCR)である21q22.2染色体に位置するDYRK1Aの神経発生における機能が精力的に研究されている.一方で,哺乳類の発生におけるDYRK2の関与は,これまで報告がなかった.

4. DYRK2欠損マウスにおける一次繊毛と組織発生の異常

我々が作出したDyrk2欠損マウス(Dyrk2−/−)の解析から,Dyrk2欠損マウスは広域な組織形成不全を呈し,出生時に致死に至ることが明らかになった14).特に骨格系の異常が顕著であり,四肢の短縮(図3A)や口蓋裂,頭蓋底骨の形成不全などが観察された.Dyrk2欠損マウスにおける骨格形成異常は,Hedgehogシグナルの異常に類似している.そこで,Hedgehogシグナルの活性指標であるGli1の発現を解析した結果,Dyrk2欠損個体において,Gli1の発現が低下していることが確認された(図3B).また,Dyrk2欠損マウス由来の胎仔線維芽細胞(MEF)を用いた解析から,Dyrk2欠損細胞では,野生型細胞で観察されるHedgehogリガンドへの応答性が消失することが確認された(図3C).さらに,Hedgehogリガンド応答性は,野生型DYRK2の遺伝子導入によりレスキューされる一方で,DYRK2のリン酸化活性を欠損させた1アミノ酸変異コンストラクト(K251R)の導入では確認されなかった.以上のことから,DYRK2は,そのリン酸化活性依存的にHedgehogシグナル応答を正に制御する分子であると考えられる.

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図3 新規な一次繊毛制御因子Dyrk2欠損マウスの解析

(A)胎齢18.5日における野生型ならびにDyrk2欠損マウスの骨格標本.硬骨を紫色(アリザリンレッドS染色),軟骨を水色(アルシアンブルー染色)で示す.(B)野生型ならびにDyrk2欠損マウス(E14.5)における,Hedgehog活性指標Gli1in situ hybridization解析.(C)野生型ならびにDyrk2欠損マウス由来の胎仔線維芽細胞(MEF)におけるHedgehogリガンド(本解析ではSmoothenedアゴニストを使用)への応答性解析.Hedgehogシグナルの活性指標であるGli1の遺伝子発現量をHprt遺伝子に対する相対値で示す.Means±S.E.M.,n=3, (**)P<0.01 (One-way ANOVA). (D)野生型ならびにDyrk2欠損マウス胎仔(E10.5)を用いた,頭鼻隆起における一次繊毛の走査型電子顕微鏡観察像.(E)野生型ならびにDyrk2欠損細胞におけるGLI2/GLI3の繊毛内局在解析の結果を模式的に示す.Dyrk2欠損細胞では,一次繊毛の先端に,GLI2ならびにGLI3が異常蓄積する(文献14の図を一部改変).

前述のように哺乳類のHedgehogシグナルは,一次繊毛に強く依存したシグナル系である.Dyrk2欠損細胞ならびに胎仔の解析から,一次繊毛の長化,さらに先端の膨張や,ねじれなどの形態異常が確認された(図3D).こうした一次繊毛の異常は,マウス線維芽細胞だけでなく,繊毛研究のモデルであるヒト網膜色素上皮由来hTERT-RPE1細胞においてDYRK2をノックダウンすることでも再現でき,DYRK2はヒトを含む哺乳類において,一次繊毛を制御することが確認された.興味深いことに,DYRK2と一次繊毛の関係性は,Chlamydomonasなど繊毛研究のモデル生物においても報告がなく,新規な一次繊毛の制御分子であると考えられる.

最後に,Dyrk2欠損細胞における,一次繊毛異常とHedgehogシグナル異常の関連性を解析した.Hedgehogシグナルの活性化には,転写因子GLI2とGLI3が,繊毛内輸送系により,細胞質から繊毛の先端へ輸送され,リン酸化修飾を受ける必要がある(図3E15)Dyrk2欠損細胞では,一次繊毛の先端に,GLI2ならびにGLI3の異常蓄積が認められ(図3E),GLI2/GLI3の繊毛内輸送に異常が生じていることが示唆された.これらの結果は,Dyrk2が一次繊毛の形態・機能を制御し,Hedgehogシグナルを介した組織発生に関与することを示唆している.

5. おわりに

本稿では,一次繊毛の機能を制御する翻訳後修飾分子に関し,CMGCキナーゼを中心に概説した.細胞レベルでの解析では,これらキナーゼは一次繊毛の長さを抑制的に制御するという共通点がある.一方で,各欠損マウスの個体レベルにおける表現型は異なっている.このことは,各因子の時間的・空間的な発現パターンを反映するとともに,リン酸化基質の違いに起因すると考えられる.したがって,一次繊毛の形態・機能制御におけるリン酸化基質の解析,さらには,ヒト繊毛病患者でみられる変異部位を導入したモデル細胞による,病態の分子メカニズム解明が必要である.また,新規の一次繊毛制御因子として機能同定されたDyrk2の欠損個体は,明確に繊毛病の特徴を示している.ヒト繊毛病患者の原因としてDYRK2遺伝子変異が存在するか,さらなる研究が必要である.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

吉田 彩舟(よしだ さいしゅう)

東京慈恵会医科大学生化学講座講師.博士(農学).

略歴

1986年東京都生まれ.2008年明治大学農学部生命科学科卒業.15年同大学院(学振特別研究員DC1)にて博士号(農学)取得.同年から学振特別研究員PD.17年東京慈恵会医科大学生化学講座助教を経て,20年より現職.

研究テーマと抱負

哺乳類の発生・恒常性維持・発がん機構の解明.幹細胞がもつ細胞外感知機構・細胞間コミュニケーションに注目し,未解明な生命現象に迫りたい.

趣味

スノーボード・スキー,スケート,ジグソーパズル.

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