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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 94(5): 690-695 (2022)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2022.940690

みにれびゅうMini Review

細胞外mRNAの核内への輸送と機能Biological function of extracellular mRNA

1信州大学医学部分子医化学Institute for Biomedical Sciences, Interdisciplinary Cluster for Cutting Edge Research, Shinshu University, School of Medicine ◇ 〒390–8621 長野県松本市旭3–1–1 ◇ 3–1–1 Asahi, Matsumoto, Nagano 390–8621, Japan

2信州大学先鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所Department of Biochemistry and Molecular Biology, Shinshu University, School of Medicine ◇ 〒390–8621 長野県松本市旭3–1–1 ◇ 3–1–1 Asahi, Matsumoto, Nagano 390–8621, Japan

発行日:2022年10月25日Published: October 25, 2022
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1. はじめに

細胞外RNAといえば一般に,細胞膜を持った小胞中のRNAのことを意味する.小胞の一つであるエクソソームに含まれるRNAの研究は盛んに行われており,次世代シークエンス(NGS)による網羅的解析を駆使した研究手法の導入により,疾患特異的なRNAが同定されるに至っている.今日においては,エクソソーム含有RNAの生理的重要性は揺るぎのないものとなっている.一方,エクソソームに含まれていない細胞外RNAについては,エクソソーム内のRNAに比べて存在量が少なく,かつ生体内ではRNAが分解されやすいという性質も持っているために,短鎖(二本鎖)のものを除くと,研究対象として関心も持たれなかった面がある.そのためエクソソーム外のRNAに関する研究は進んでおらず,その生理機能についても評価が定まっていない.ここではエクソソームに含まれない細胞外RNAと,その取り込みに焦点を当てた議論を行う.図1にこれまでの知見から得られた,細胞外RNAの取り込み様式の概略を,エクソソーム含有RNAと,エクソソーム非含有RNAに分けて示している1–3)

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図1 エクソソーム含有RNAと非含有RNAの細胞内への取り込み

哺乳類細胞では,エクソソーム非含有RNAの取り込みの様式は,線虫とは異なっていると考えられてきた.

2. 細胞外RNAとは

生細胞から細胞外へと分泌されるRNAの他,細胞死に伴って細胞外へ放出されるRNAが想定される.市販の試薬を用いて,常法に従い細胞培養上清からRNAの抽出を行うと,RNAを精製することができる.このときのRNAの収量は,細胞培養上清からまずエクソソームを単離し,その後エクソソーム画分からRNAを抽出したときに得られる収量とほぼ一致する.つまり,細胞培養上清から得られるRNAは,ほとんどがエクソソーム由来なのである.したがって,本稿で議論する細胞外RNAを得るには,はじめにエクソソームを除去した状態で抽出を開始する必要がある.これまでに,エクソソームを精製するための試薬が開発されており,それらの試薬を使用すれば,エクソソームを高純度かつ再現性よく抽出することが可能である.そこで,筆者らは細胞培養上清からエクソソーム抽出試薬を用いて溶解度の差を利用してエクソソームを分別し,その後残った上清から一本鎖RNAを抽出する手法を試みた.しかし,その結果は断片化したRNAがわずかに得られるだけであり,その内容をNGSなどの手法で解析するには質・量ともに不十分であった.これらの結果から,エクソソーム精製試薬を用いる方法はエクソソーム内のRNAを精製するのには適しているが,比較的安定性の低いエクソソーム外の一本鎖RNA精製には適していないと結論づけられた.

そこで別の手法による抽出法が検討された.筆者らが文献検索を行ったところ,ろ過フィルターによる分離が比較的よい方法であると考えられた4).細胞培養上清をポアサイズの異なるろ過フィルターに連続的に通すことにより,粒子を大きさで分画する手法であり,細胞外RNAはすべてのフィルターを通過する画分に含まれるものであることが論文中では示されている(図2A).このようにして得られた細胞外RNAをNGSにより解析したところ,細胞外RNAは細胞内やマイクロベシクル・エクソソームとはRNAの種類に関する分布が異なっており,tRNAやYRNAなどの短鎖のものの割合が多いことが示されている.しかしながら,割合は低いもののmRNAも細胞外RNAの画分に含まれていることも同時に示されている.細胞外にはRNAを分解するRNaseが存在することから,細胞外RNAは断片化が進んでいるが,RNA結合タンパク質と結合したものは比較的安定であり,少数のものは分解されずに存在していると考えられる.

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図2 細胞外RNA分離のフローチャート(A)とZC3H12ファミリーの構造(B)

(A)脳腫瘍細胞を培養後,がん細胞から分泌される小胞および小胞に包まれていないRNAをフィルターにより,サイズに分けて収集した.MV:microvesicles, RNP:non-vesicular ribonucleoprotein complexes. (B) RNA結合認識はPINドメインで行われている.ZF(亜鉛フィンガー)ドメインも,標的RNAへの結合に関与する.

3. 細胞外RNAの取り込み

細胞外RNAを取り込む機構としてはウイルス由来のRNAを認識する分子機構が古くから知られている.それらのウイルス由来のRNAを認識する分子としてTLR3とTLR7が存在する.このうちTLR7/TLR8は一本鎖RNAを,TLR3は二本鎖RNAを認識し,自然免疫反応を惹起させる.これらの受容体はエンドソーム内に存在しており,細胞表面には存在しないとされているが,TLR7は細胞表面にも存在するという報告がある5)

がん細胞などから放出される細胞外RNAは細胞表面上の受容体タンパク質によって認識され,細胞内に取り込まれる.筆者らの研究により,亜鉛フィンガー(ZF)タンパク質であるZC3H12Dによって特定の細胞外RNAが細胞内部へと取り込まれていることが判明した6).ZC3H12Dタンパク質はその大部分が細胞質内に存在するが,フローサイトメトリーの解析により,一部のZC3H12D分子が細胞表面へと移動していることが明らかとなった.細胞表面のZC3H12Dはがん細胞培養上清に含まれる細胞外RNAと結合すると細胞内へと移動する.マウス培養細胞(RAW264.7)にZC3H12Dを過剰発現させた細胞株を用いた細胞生物学的解析,および293T細胞の発現系から精製したZC3H12Dを用いた生化学的な解析から,ZC3H12DはIL1βの3′ UTR領域に存在するAU-rich element(ARE)と結合することが明らかとなった.

ZC3H12DはRegnase-1として知られるZC3H12Aと同じスーパーファミリーに属する分子であり,そのドメイン構造は基本的に同一である(図2B7).ZC3H12A~Dの各ドメインにおけるアミノ酸配列は保存されていることから,これらのファミリー分子の基本構造と生化学的機能はきわめて類似したものであると考えている.ZC3H12Aの立体構造解析はなされていて,そのRNA結合様式は明らかにされており,ZC3H12AのPINドメインと呼ばれるドメインがIL6の3′ UTR領域に存在するステム・ループ構造を認識することが示されている.ZC3H12Bの構造解析でも同様にPINドメインにRNAが結合した構造が明らかにされている8).PINドメインはRNA結合ドメインであるとは認識されていなかったが,ZC3H12ファミリー分子の構造研究により,その機能が明らかとなった.PINドメインに属する四つのアスパラギン酸残基によって保持されたMgイオンが水分子を介してステム・ループ構造のループ部位RNAと相互作用している.一方,ZC3H12Cの立体構造解析研究からはZFドメインに結合するRNAの構造が得られている9).この構造解析に用いられたRNAはAU-richな配列である(UUAUUAU)一本鎖RNAであり,筆者らが実験的に求めたRNAの配列に近い性質のものである.

ZC3H12Aはステム・ループ構造のRNAと結合するだけでなく,結合したRNAを切断するRNase活性を持つことが知られている.ZC3H12DもZC3H12Aと同様のRNase活性を持っていると考えられているが,筆者らが精製ZC3H12Dを用いて行った実験では,ZC3H12Dによる結合RNAの分解はわずかしか見られなかった.この結果から,ZC3H12DはRNase活性がZC3H12Aほど強くはないため,結合したRNAを分解することなく輸送することが可能であると考えている.細胞外RNAを取り込んだZC3H12Dは細胞内でRNAとは解離しているので,ZC3H12Dはステム・ループ部位にも,AREにも結合する能力を備えているが,それらの結合能の強弱は環境的要因によって影響されていると想定される.

4. 細胞外RNAの生理機能

筆者らの研究から,肝臓のナチュラルキラー(NK)細胞の一部(B220CD11cNK1.1細胞)は細胞外RNAの受け手であることが判明している.この細胞はZC3H12D依存的にRNAを取り込むことにより,肺へ移動するとともに肺においてがん転移を抑制することがマウスを用いたがん転移実験により明らかとなった(図3).しかし,その詳細な分子機構はよくわかっていない.

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図3 細胞外RNAの生理機能

Nex-mRNA(小胞に包まれていない細胞外mRNA, たとえばIL1β-mRNA)は,細胞膜に発現するZC3H12Dに結合し,核まで移行する.細胞は活性化状態となり,がん免疫などに寄与する.右上の写真は,蛍光色素で標識したmRNAを取り込んだ細胞.核をDAPIで染色している.

ZC3H12Dによって取り込まれたRNAはどこに行くのだろうか.普通ウイルス感染やトランスフェクションなどでRNAが細胞内に取り込まれた場合にはRNAは細胞質内で機能する.エクソソーム内のmRNAが取り込まれた場合にも同様のこと,すなわちmRNAタンパク質生合成のテンプレートとして働くことが期待される.これはその細胞で生合成されたmRNAと同様の生理機能を持つと解釈される.miRNAやsiRNAといった短鎖(二本鎖)RNAであっても,受け手の細胞では細胞質内で機能することが考えられており,タンパク質の翻訳阻害やmRNAの安定性の制御などがあげられている.筆者らの研究結果によれば,ZC3H12D依存的に取り込まれたRNAは核に輸送されることが明らかとなっている.蛍光ラベルした核酸が核に到達していることが,蛍光顕微鏡の観測によって明らかとなった.このRNAの取り込み実験からは,取り込まれたRNAは核スペックルのマーカーであるSC35と重なる部分が大きかった.このときRNA由来のシグナルは,ZC3H12Dの蛍光染色像と重ならないため,核内ではZC3H12Dとは結合していないと考えられる.核スペックルの生理機能の詳細は完全にはわかっていないが,細胞全体に関わる重要な機能を担っていることが想定されている.

しかしながら,核において取り込まれたRNAがどのような機能を発揮しているかはまったく不明である.また核に輸送されたRNAがどのような状態で存在するかについてもよくわかっていない.蛍光ラベルした核酸を用いた実験からは,RNAが分解されているかどうかは不明である.そこで,人工的な配列を組み込んだRNAを核抽出RNAからの定量PCRにより検出する実験を行った.この実験からは,RNAの長さに関する情報を得ることができる.核からRNAを抽出し,異なる遺伝子特異的プライマーを用いて逆転写を行った後に定量PCRにより標的RNAの量を測定したところ,PCRプローブの位置に近いほどコピー数が多かった.このことから,取り込まれたRNAはある程度分解されているものの,分解されていないものも含まれていることが判明した.

そのようにして核内に取り込まれたRNAにはどのような機能が期待されるのだろうか.これまでに知られているRNAの核内における機能を参考にすると以下のような可能性が考えられる.p53のようなDNA結合タンパク質に結合してそのタンパク質の機能を変化させる,アンチセンスRNAとして転写を抑制する,NEAT1のように核内構造物の構造を保持する役割を担う,クロマチン構造を制御する,転写制御複合体の形成(例:7SK RNA),他の核内RNAのような機能[snRNA(RNAのスプライシングに関与),snoRNA(RNAの修飾に関与),YRNA(DNA複製に関与)]に関係する,などがあげられる.細胞外RNAが翻訳されずに他の細胞で機能することから,細胞外RNAには細胞間情報伝達物質としての意味合いがあるかもしれない.mRNAがこの役割を果たしているとすれば,ゲノムDNA→mRNA→タンパク質という遺伝情報の流れを示す,古典的セントラルドグマから外れた別の生理機能がmRNAに備わっていることとなる.エクソソームに含まれるmRNAは取り込まれた細胞内で,他のmRNAと同様にタンパク質合成の鋳型として働くと解釈されている.ZC3H12D依存的に取り込まれたRNAはその細胞において翻訳されないことから,この点においてエクソソーム由来のmRNAとは決定的に異なっている.mRNAがタンパク質合成以外の生理機能を持つ例が最近報告されている.ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の焦点接着(FA)において,mRNAがRNA結合タンパク質G3BP1とともに細胞骨格タンパク質と結合することにより,細胞骨格の構造を補強していることが報告されている10).この接着点近傍のmRNA-G3BP1複合体に含まれるmRNAは翻訳には用いられない.これは,mRNAがnon-cording RNA的な生理機能を持っていると解釈されている.この論理を応用すると,核内に輸送されたRNAが,核内におけるncRNAの機能を代行する可能性も十分に考えられる.

5. まとめと今後の展開

細胞外RNAの研究は,始まったばかりであり,その生理機能に対する評価は確定していない.筆者らの行ったがん転移アッセイにより,その効果を現象論的に示すことはできてはいるが,細胞外RNAを細胞が取り込んだことによって引き起こされる,細胞内の反応を体系的に示すことはできていない.しかしながら,微量ではあるものの細胞外RNAというものが一定量存在することは間違いない事実であり,配列特異的な生理機能があることは十分に予想されることである.さらなる研究の進歩が期待される.

引用文献References

1) McEwan, D.L., Weisman, A.S., & Hunter, C.P. (2012) Uptake of extracellular double-stranded RNA by SID-2. Mol. Cell, 47, 746–754.

2) Nguyen, T.A., Smith, B.R.C., Tate, M.D., Belz, G.T., Barrios, M.H., Elgass, K.D., Weisman, A.S., Baker, P.J., Preston, S.P., Whitehead, L., et al. (2017) SIDT2 transports extracellular dsrna into the cytoplasm for innate immune recognition. Immunity, 47, 498–509.e6.

3) McKelvey, K.J., Powell, K.L., Ashton, A.W., Morris, J.M., & McCracken, S.A. (2015) Exosomes: Mechanisms of uptake. J. Circ. Biomark., 17, 7.

4) Wei, Z., Batagov, A.O., Schinelli, S., Wang, J., Wang, Y., El Fatimy, R., Rabinovsky, R., Balaj, L., Chen, C.C., Hochberg, F., et al. (2017) Coding and noncoding landscape of extracellular RNA released by human glioma stem cells. Nat. Commun., 8, 1145.

5) Kanno, A., Tanimura, N., Ishizaki, M., Ohko, K., Motoi, Y., Onji, M., Fukui, R., Shimozato, T., Yamamoto, K., Shibata, T., et al. (2015) Targeting cell surface TLR7 for therapeutic intervention in autoimmune diseases. Nat. Commun., 6, 6119.

6) Tomita, T., Kato, M., Mishima, T., Matsunaga, Y., Sanjo, H., Ito, K.I., Minagawa, K., Matsui, T., Oikawa, H., Takahashi, S., et al. (2021) Extracellular mRNA transported to the nucleus exerts translation-independent function. Nat. Commun., 12, 3655.

7) Yokogawa, M., Tsushima, T., Noda, N.N., Kumeta, H., Enokizono, Y., Yamashita, K., Standley, D.M., Takeuchi, O., Akira, S., & Inagaki, F. (2016) Structural basis for the regulation of enzymatic activity of Regnase-1 by domain–domain interactions. Sci. Rep., 6, 22324.

8) Jolma, A., Zhang, J., Mondragón, E., Morgunova, E., Kivioja, T., Laverty, K.U., Yin, Y., Zhu, F., Bourenkov, G., Morris, Q., et al. (2020) Binding specificities of human RNA-binding proteins toward structured and linear RNA sequences. Genome Res., 30, 962–973.

9) Garg, A., Roske, Y., Yamada, S., Uehata, T., Takeuchi, O., & Heinemann, U. (2021) PIN and CCCH Zn-finger domains coordinate RNA targeting in ZC3H12 family endoribonucleases. Nucleic Acids Res., 49, 5369–5381.

10) Boraas, L., Hu, M., Thornton, L., Vejnar, C.E., Zhen, G., Giraldez, A.J., Mayr, C., Wang, S., & Nicoli, S. (2021) Non-coding function for mRNAs in focal adhesion architecture and mechanotransduction. bioRxiv 2021.10.04.463097

著者紹介Author Profile

富田 毅(とみた たけし)

信州大学医学部分子医化学教室准教授.博士(理学).

略歴

1993年京都大学工学部卒業.その後京都大学大学院理学研究科修士課程を修了し,さらに総合研究大学院大学大学院博士課程修了.東北大学多元物質科学研究所,Brigham & Women’s Hospital, NIH/NCI, 東京女子医科大学を経て2018年より現職.

研究テーマと抱負

細胞内情報伝達のメカニズムを分子レベルで解明することを目指している.情報伝達に関係するタンパク質・RNAの立体構造変化が,どのように細胞の挙動をコントロールしているかということに興味がある.

ウェブサイト

https://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/medicine/chair/i-seika/index_j.htm

平塚 佐千枝(ひらつか さちえ)

信州大学医学部分子医化学教室教授.東京大学(博士).

略歴

1991年島根大学医学部卒業.98年東京大学大学院医学研究科博士課程修了.東京大学医科学研究所助教,東京女子医科大学准教授を経て,2018年より現職.

研究テーマと抱負

“原発腫瘍が転移前に将来の転移予定地である肺に、転移に有利な土壌を形成する”という概念を提唱.この転移前土壌において抗転移免疫細胞を発見し,最新の研究でこの細胞は,核酸刺激で活性化することを明らかにした.転移を抑制し,最終的な癌の治癒を目指している.

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