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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 94(5): 711-714 (2022)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2022.940711

みにれびゅうMini Review

脂肪体における“変態ホルモン誘導性オートファジー”The molting hormone-induced autophagy in Drosophila fat body

東京工業大学科学技術創成研究院細胞制御工学研究センターCell Biology Center, Institute of Innovative Research, Tokyo Institute of Technology ◇ 〒226–8503 横浜市緑区長津田町4259 S2–11 ◇ S2–11 4259 Nagatsutacho Midori-ku, Yokohama 226–8503, Japan

発行日:2022年10月25日Published: October 25, 2022
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1. オートファジー

オートファジーは細胞質成分の大規模な分解システムであり,飢餓時の栄養源の確保や細胞質成分の新陳代謝のみならず,凝集性タンパク質や細胞内に侵入した細菌の分解などにも働くことが知られている.オートファジーが誘導されると,扁平な膜構造体が湾曲しながら伸張し,細胞質成分を包み込む.これにより形成される閉じた二重膜構造体はオートファゴソームと呼ばれる.その後,オートファゴソームはリソソームと融合し,ハイブリッドオルガネラであるオートリソソームとなり,オートファゴソームの内容物は内膜もろともリソソーム由来の酸性加水分解酵素により分解される1)

オートファゴソームの形成に働く一群の遺伝子は,オートファジー関連遺伝子(ATG遺伝子)と呼ばれる.マウスでATG遺伝子を欠損させると,胚性期もしくは新生仔期に致死となる一方で,ショウジョウバエのATG変異体の一部は,成虫にまで生育する1, 2)ATGの欠損によりさまざまな組織に異常がみられるものの生存に必須ではないことから,ショウジョウバエはオートファジーの生理機能の解析に適したモデル生物の一つであるといえる.これまでのショウジョウバエを用いたオートファジー研究から,発生,細胞死,細胞・組織のリモデリング,寿命延長等のさまざまな現象に,オートファジーが機能することが明らかにされている2, 3)

2. 脂肪体における飢餓および変態ホルモン誘導性オートファジー

ショウジョウバエを含む多くの昆虫は,哺乳動物の肝臓と脂肪組織の機能を併せ持つ脂肪体と呼ばれる器官を持つ.脂肪体は,エネルギー代謝において中心的な働きを担っており,グリコーゲンや脂肪滴を豊富に蓄えている.ショウジョウバエ幼虫を飢餓条件下におくと,mechanistic target of rapamycin(mTOR)の不活性化が引き金となり,脂肪体においてもオートファジーが強く誘導される4).この際に形成されるオートファゴソームの直径は,0.5~1 µmである(図1).ショウジョウバエの脂肪体におけるオートファジーのアッセイ法として,LysoTrackerによる酸性オルガネラの染色が広く用いられている5).飢餓処理によりオートファジーを誘導すると,酸性オルガネラ内のLysoTrackerのシグナル強度が有意に上昇する.これと一致して,オートファジー依存的に,リソソームプロテアーゼの活性も上昇する.オートファゴソームの形成もしくはオートファゴソームとリソソームの融合を阻害すると,リソソームの酸性化と酸性プロテアーゼの活性化は抑えられることから,ショウジョウバエの脂肪体では,オートファジーに依存したリソソームの活性化メカニズムがあると考えられる.しかしながら,オートファジー依存的にリソソームの機能が亢進するメカニズムは,まだ明らかにされていない.

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図1 ショウジョウバエ脂肪体にみられるオートファジー関連構造体

3齢幼虫期の個体を飢餓状態におくと,ドットで示す比較的小さなオートファジー関連構造体が脂肪体細胞にみられる.一方,前蛹期の脂肪体には,肥大したオートリソソームが蓄積する.

ショウジョウバエの幼虫の最終期および前蛹期には,栄養条件下でも脂肪体内に肥大したオートリソソームが蓄積する4)図1).脂肪体を構成する細胞のおよそ半数は,変態期に細胞死により失われ,残りの半分は羽化直後にカスパーゼ依存的に細胞死を起こすと報告されている.オートリソソームの蓄積と細胞死のタイミングが近いことから,オートリソソームの蓄積はオートファジー性細胞死の兆候だと長らく考えられてきたが,脂肪体でみられる細胞死にオートファジーは必須ではないことが示されている.オートリソソームの大きさは3齢幼虫終期から次第に大きくなり,前蛹期の脂肪体では,その大きさが5 µmにもなる.このオートリソソームの肥大化は,変態ホルモンであるエクジソンの作用により過剰に誘導されるオートファジーが原因であると考えられてきた.そのメカニズムとして,Rustenらは,クラスI phosphatidylinositol 3-kinase(PI3K)の抑制を介してオートファジーが誘導されるモデルを報告した4).一方,Banretiらは,Hox遺伝子群の発現低下によりAtg1Atg7を含むATG遺伝子の発現が上昇し,オートファジーが誘導されるモデルを提案している6)

3. Frankenbodyを用いたタンパク質の機能解析システム

ショウジョウバエなどのモデル生物を利用して,タンパク質の機能を解析するには,一連の組換え体を作製する必要がある.たとえば,ライブイメージングにはGFPやRFPなどの蛍光タンパク質,免疫沈降にはエピトープタグ,近接依存性標識法にはビオチンリガーゼをつないだコンストラクトなどが必要である.また,オートファジーによるタンパク質分解をモニターするには,GFPとRFPをタンデムにつないだコンストラクトがよく利用される7).GFPに比べてRFPは低いpKa値を持つことから,GFPはリソソーム内の酸性条件下で消光するが,RFPはリソソーム内でも発光する.このような蛍光タンパク質の特性を利用することにより,目的タンパク質のオートファジー分解を評価可能である.組換え体の作製技術は日々進歩しており,以前ほどに大変な作業ではなくなっているが,多くの組換え体を作製するには,どうしても時間と労力を要する.このような課題を克服するために,我々は,抗HA抗体プローブを利用した新たなタンパク質の機能解析システムの構築を試みた.先に,東京工業大学の木村教授らのグループと,コロラド州立大学のStasevich准教授らのグループは,HAエピトープタグに対するモノクローナル抗体の抗原認識部位を別の短鎖可変領域フラグメントの骨格につなぐことにより,遺伝子コード型の抗体プローブ「Frankenbody」を開発した8).また,ショウジョウバエには各遺伝子にHAエピトープを付加したゲノムワイドなUAS-ORFの組換え体ライブラリーが整備されつつある9).そこで,両者を組み合わせることにより,生体内で任意のタンパク質に目的のタグを結合させるシステムを構築した.図2Aに示すように,組織特異的な遺伝子発現系であるGAL4/UASシステムを利用して,GFPを付加したFrankenbody(Frankenbody-GFP)とHAタグつきの目的タンパク質を共発現させることにより,新たに組換え体を作成することなく,目的タンパク質の局在を目的の組織で生細胞観察することが可能になった10).我々は,GFPバージョンのみでなく,オートファジーによる分解をモニター可能なGFPとmCherry(mCh)をタンデムにつないだFrankenbody(Frankenbody-GFP-mCh)の組換え体も作製した.Frankenbody-GFP-mChとHAタグつきのタンパク質を共発現させると,発現させるHAタグつきのタンパク質の違いにより分解されやすさに差がみられた.さらに,その分解はATG遺伝子の欠損により抑えられたことから,Frankenbody-GFP-mChを用いることにより,任意のタンパク質の分解をショウジョウバエの生体内でモニター可能であることがわかった10)図2B).

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図2 遺伝子コード型抗HA抗体プローブであるFrankenbodyを利用した解析システム

(A) GAL4/UASシステムを利用して,GFPを付加したFrankenbodyとHAタグつきの目的タンパク質を共発現させることにより,目的の組織における目的タンパク質の局在を生細胞において観察可能となる.(B) Frankenbodyに緑色蛍光タンパク質(GFP)と赤色蛍光タンパク質(mCh)を並列に付加することにより,目的タンパク質のオートファジーによる分解をモニター可能である.mChはリソソーム内でも発光する一方,GFPは酸性条件下,つまり通常のリソソーム内の環境では発光しない.したがって,mChと比較してGFPの蛍光強度が低下した場合は,目的タンパク質がオートファジーによりリソソームに運ばれて分解されたと判断できる(文献10より改変して転載).

4. 変態ホルモン誘導性オートファジーの解析

上述のように,エクジソンにより引き起こされる変態ホルモン誘導性オートファジーに関しては,議論の余地がある.これまでは過剰に誘導されたオートファジーがその原因だと考えられてきたが,オートファジーフラックスやATG遺伝子に対する依存性も十分に検討されていなかった.そこで我々は,Frankenbody-GFP-mChを利用して,幼虫最終期にみられる“変態ホルモン誘導性のオートファジー”の解析に取り組んだ.これまでの報告と一致して,前蛹期の脂肪体には肥大したオートリソソームが蓄積した.ただし,それらはmChのみではなくGFP陽性であったことから,GFPが消光するほどには酸性化されておらず,分解能が低下していると考えられた.実際に,前蛹期のリソソーム/オートリソソームではpHが上昇しており,リソソーム酵素活性の低下が確認された.また,オートファゴソームの形成に働くATG5FIP200を欠損させた個体でも,前蛹期の脂肪体においてリソソームの肥大がみられたことから,リソソームの肥大化にはオートファジーが必須でないことが明らかになった.一方,エンドサイトーシス経路の主要な調節因子の一つであるRab5 GTPaseの機能を抑制すると,リソソームの肥大化は強く抑えられることから,オートリソソームの肥大化は,エンドサイトーシス経路に依存していることが判明した.これらの結果より,“変態ホルモン誘導性のオートファジー”はオートファジーの亢進によるものではなく,リソソーム活性の低下に起因しているものと考えられる10)

脂肪体に蓄積したオートリソソームは,蛹期に消失することが知られている11, 12).蛹期には外部からの栄養供給が絶たれ疑似的な飢餓状態になることから,脂肪体に蓄積されたオートリソソームは,アミノ酸等の貯蔵庫として蛹期に利用されている可能性がある(図3).それに加えて,蛹期に向けて体液中に蓄えられたタンパク質プールを分解しないように,リソソーム活性が抑えられているのかもしれない.

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図3 蛹期に備えた脂肪体リソソーム活性の抑制

幼虫最終期の脂肪体では,リソソーム機能が抑制され,オートリソソームが蓄積する.この時期の脂肪体は体液中にタンパク質を大量に分泌することが知られている.脂肪体のリソソーム活性が低下することにより,脂肪体にオートリソソームとして栄養を貯蔵すると同時に,体液タンパク質の分解を抑えているのかもしれない.ショウジョウバエは,これらを利用して,蛹期の飢餓を乗り越えていると考えられる.

5. おわりに

幼虫最終期の脂肪体でみられる“変態ホルモン誘導性のオートファジー”は,オートファジーの過度な亢進によりオートリソソームが肥大する現象ではなく,リソソーム活性の低下により,肥大したオートリソソームが蓄積する現象であると考えられる.リソソームの肥大化がエンドサイトーシス経路に依存していることは示されたものの,そのメカニズムは十分に明らかにされていない.我々は,変態ホルモンの作用によるリソソーム機能の低下は,リソソーム関連遺伝子の発現を制御する中心的な転写因子であるTFEB/MITFに依存していないことをすでに見いだしている.リソソーム活性の低下はエンドサイトーシス能に依存していることから,体液中から取り込んだ何かしらのメタボライトがリソソーム活性低下の引き金になっているのかもしれない.今後は,変態ホルモンの作用により,脂肪体のリソソーム機能が抑制されるメカニズムを明らかにし,“変態ホルモン誘導性オートファジー”の生理機能に迫りたい.今回は,脂肪体に焦点を当て概説したが,変態ホルモンにより誘導されるオートファジーは,ショウジョウバエの中腸などでもみられている.これらの器官と脂肪体でみられる変態ホルモン誘導性オートファジーの類似点や相違点についても,さらに注意深く解析する必要があるだろう.

引用文献References

1) Morishita, H. & Mizushima, N. (2019) Diverse cellular roles of autophagy. Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 35, 453–475.

2) Maruzs, T., Simon-Vecsei, Z., Kiss, V., Csizmadia, T., & Juhász, G. (2019) On the fly: Recent progress on autophagy and aging in Drosophila. Front. Cell Dev. Biol., 7, 1–15.

3) Fujita, N., Huang, W., Lin, T.H., Groulx, J.F., Jean, S., Nguyen, J., Kuchitsu, Y., Koyama-Honda, I., Mizushima, N., Fukuda, M., et al. (2017) Genetic screen in drosophila muscle identifies autophagy-mediated T-tubule remodeling and a Rab2 role in autophagy. eLife, 6, 1–30.

4) Rusten, T.E., Lindmo, K., Juhász, G., Sass, M., Seglen, P.O., Brech, A., & Stenmark, H. (2004) Programmed autophagy in the Drosophila fat body is induced by ecdysone through regulation of the PI3K Pathway. Dev. Cell, 7, 179–192.

5) Mauvezin, C., Ayala, C., Braden, C.R., Kim, J., & Neufeld, T.P. (2014) Assays to monitor autophagy in Drosophila. Methods, 68, 134–139.

6) Banreti, A., Hudry, B., Sass, M., Saurin, A.J., & Graba, Y. (2014) Hox Proteins Mediate Developmental and Environmental Control of Autophagy. Dev. Cell, 28, 56–69.

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8) Zhao, N., Kamijo, K., Fox, P.D., Oda, H., Morisaki, T., Sato, Y., Kimura, H., & Stasevich, T.J. (2019) A genetically encoded probe for imaging nascent and mature HA-tagged proteins in vivo. Nat. Commun., 10, 2947.

9) Bischof, J., Björklund, M., Furger, E., Schertel, C., Taipale, J., & Basler, K. (2012) A versatile platform for creating a comprehensive UAS-ORFeome library in Drosophila. Development, 140, 2434–2442.

10) Murakawa, T., Nakamura, T., Kawaguchi, K., Murayama, F., Zhao, N., Stasevich, T.J., Kimura, H., & Fujita, N. (2022) A Drosophila toolkit for HA-tagged proteins unveils a block in autophagy flux in the last instar larval fat body. Development, 149, dev200243.

11) Butterworth, F.M., Emerson, L., & Rasch, E.M. (1988) Maturation and degeneration of the fat body in the Drosophila larva and pupa as revealed by morphometric analysis. Tissue Cell, 20, 255–268.

12) Butterworth, F.M. & Forrest, E.C. (1984) Ultrastructure of the preparative phase of cell death in the larval fat body of Drosophila melanogaster. Tissue Cell, 16, 237–250.

著者紹介Author Profile

藤田 尚信(ふじた なおのぶ)

東京工業大学科学技術創成研究院細胞制御工学研究センター准教授.博士(理学).

略歴

2008年博士号取得(総研大).大阪大学微生物病研究所(ポスドク),大阪大学大学院生命機能研究科(助教),UCSD(ポスドク),東北大学大学院生命科学研究科(助教)を経て,19年3月より現所属.

研究テーマと抱負

細胞生物学的な視点から,臓器や個体の成り立ちを理解したい.

ウェブサイト

https://www.nafujita-lab.com

趣味

魚釣り.

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