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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 94(5): 715-719 (2022)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2022.940715

みにれびゅうMini Review

タイトジャンクションの形成を誘導する新規生理活性ペプチドJIPの発見Discovery of physiologically active peptides JIP that induce tight junction formation

京都大学iPS細胞研究所Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University ◇ 〒606–8507 京都市左京区聖護院川原町53 ◇ 53 Kawahara-cho, Shogoin, Sakyo-ku, Kyoto 606–8507, Japan

発行日:2022年10月25日Published: October 25, 2022
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1. はじめに

上皮組織は体表面や管腔などの表面を覆う細胞シートであり,体内と外界,あるいは体内の内部環境を隔てるバリアとして機能している.そのバリア機能を担うのが細胞間接着装置であるタイトジャンクション(TJ)である1)図1A).TJは主にclaudin遺伝子ファミリーにより構成され,claudinのノックアウトマウスは,致死あるいはさまざまな臓器で炎症などを起こすことから,TJバリアは多細胞生物の生命維持に重要な役割を果たしているといえる2).上皮バリアの恒常性を保つことは個体の生命維持にとって必須であるが,このバリア機能は,損傷や感染などによって乱れやすい状況にある.実際,細菌やウイルスの感染,損傷によりTJバリア機能が損なわれることが報告されている3).炎症の進行・組織損傷を抑えるためにはTJの速やかな再編成が必要であるが,TJがどのようにして形成されるかについてはほとんど不明であった.最近著者らは,マウス組織由来の分泌液中にTJの形成を誘導する液性因子が存在することを見いだした.さらに,この因子は新規生理活性ペプチドであることを突き止め,その配列の同定に成功した4).本稿では,これまでの細胞間接着の誘導制御に関する知見とともに,このペプチドの発見の経緯,および機能とメカニズム,生体内における役割を中心に紹介する.

Journal of Japanese Biochemical Society 94(5): 715-719 (2022)

図1 TJ形成を誘導するペプチドJIPの同定(文献4より改変)

(A)上皮細胞間の接着を担うタイトジャンクション(TJ).(B) JIPのアミノ酸配列.下線はJIP配列中の疎水性アミノ酸クラスターを示す.(C) A431細胞へのJIP処理によるTJ様構造の形成誘導.(D) matrix metalloproteinaseによるα1-antitrypsinの切断.(E) in vitro G13活性化アッセイにより,JIPはG13を直接活性化することが示された.*** p<0.001.

2. 細胞間接着ペプチドJIPの発見

TJ形成を生体内で制御することが可能になれば,バリア破綻が原因となるさまざまな病態の治療につながることが期待されている.しかしながら,TJ形成機構は不明な点が多く,また形成を引き起こす因子についても不明な点が多かった.

TJ形成促進因子については,動物の尿抽出物に含まれるEGFがTJを形成誘導することが報告されている5).一方で,約半世紀前にいくつかのグループから,トリプシンなどのプロテアーゼを培養細胞に添加するとTJが誘導されることが報告されている6, 7).また近年,膜貫通型プロテアーゼのノックアウトマウスではTJが形成されないことが報告された8, 9).これらの報告は,プロテアーゼを含んだシグナル経路がTJ形成を誘導することを示唆する.しかしながら,TJ誘導に関わる基質や分解産物等は長らく不明のままであった.

細胞の外からの処理によってTJが形成されるというこれらの報告から,著者はTJ形成を誘導する外因性因子が生体内に存在するのではないかと着想し,マウス組織の分泌液中にTJ形成を誘導する液性因子が存在することを見いだした.

まず著者らは,このTJ形成誘導因子の探索を行った.ドナー組織としてマウス腹膜を用い,腹膜の分泌液に熱処理を行ったところ,熱処理後もTJ形成誘導活性は保持されていた.また,さまざまなポアサイズの透析膜を用いた実験結果より,目的因子は1~3.5 kDa程度であることがわかった.これらの結果より,腹膜培養上清中に存在するTJ形成誘導因子としてペプチドを予想した.そこで,陰イオン交換カラム,アフィニティカラム,C18カラムを用いてマウス腹膜の培養上清の精製を行ったのち,質量分析を行った.得られた候補ペプチドの絞り込み解析を行った結果,抗炎症タンパク質α1-antitrypsin(A1AT)のC末端由来の35~42残基からなるペプチドを同定し,JIP(tight junction-inducing peptide)と名づけた(図1B).マウスA1AT由来の35残基からなるペプチドが最も多く同定され,これをJIPm35と呼ぶことにした.

3. JIPの培養上皮細胞に対する効果

JIPm35ペプチドを合成し,ヒト皮膚がん由来A431細胞に処理すると,細胞境界部にclaudin-1が集まり,TJ様の構造を形成することを見いだした(図1C).また,同細胞にてFITC-dextranを用いた傍細胞透過性を測定したところ,JIP処理により透過性が下がり,機能的なバリアが形成されたと考えられた.しかしながら,同細胞で経上皮電気抵抗(transepithelial resistance:TER)を測定したところ,JIPm35処理によってTER値は変化がみられなかった.したがって,JIPm35によってA431細胞に誘導されるTJは未熟なTJであることがわかった.しかしながら,乳がん由来MCF7細胞,大腸がん由来HT29細胞にJIPm35処理を行うとTER値が上昇したことから,これらの細胞には完全なTJが形成されたと考えられた.これらの結果より,JIPm35によって誘導されるTJは,細胞によってその成熟度が異なることが示唆された.

4. JIPの作用メカニズム

続いて,JIPの産生メカニズムについて調べた.ヒトA1ATはmatrix metalloproteinase(MMP)によって切断されることが報告されている.実際,著者らの実験において,全長ヒトA1ATリコンビナントタンパク質をMMP-1, MMP-8,またはMMP-9で処理したところ,A1AT C末端由来の約5 kDa弱のペプチド断片が生成された(図1D).この断片について質量分析解析を行ったところ,37アミノ酸からなるペプチドを同定し,A431細胞においてTJ様構造を形成誘導することを見いだした.よってJIPはMMPによってA1ATから切断されて産生されることが明らかになった.

次に,JIPがTJ形成を誘導する機構を調べた.JIPm35はA431細胞の細胞間境界に局在していることから,JIPは細胞膜上で機能することが示唆された.興味深いことに,JIPm35は3つの疎水性アミノ酸クラスターを有しており(図1B下線部),疎水性アミノ酸クラスターは細胞膜に結合・挿入できることから,JIPは細胞膜に結合・挿入しているのではないかと仮定した.これを検証するために,in vitroリポソーム結合実験を行ったところ,JIPm35はリポソームと直接結合することが明らかになった.したがって,JIPは細胞膜の脂質二重層に直接結合・挿入可能であると考えられた.さらに,細胞内に導入した抗JIP抗体は,JIPm35処理によってその局在を細胞質から細胞間境界へと変化させたことから,抗体のエピトープが細胞内に存在すること,すなわち,JIPは細胞膜を貫通して局在していることがわかった.これらの結果より,JIPは細胞膜に刺さり細胞質へ配列の一部を露出して機能すると考えられた.

これらの結果を受けて,JIPに細胞質のターゲットがあると予想し,さらに解析を進めた.三量体Gタンパク質共役型受容体はTJを誘導することが知られている10, 11).JIPm35は細胞膜を貫通して局在しているため,JIPによるGタンパク質の直接活性化の可能性を検討した.A431細胞においてG12/13のノックダウンを行うと,JIPm35によるTJ様構造の形成誘導が抑制されたことから,JIPの下流でG12/13が機能していると考えられた.また,活性型G13(Q226L)をA431細胞に過剰発現すると,TJ構成因子であるoccludinが細胞境界に濃縮して集まったことから,G13の活性化がTJ様構造の形成誘導に十分であることが示された.

さらに,in vitro G13活性化アッセイを実施したところ,JIPm35によりG13の直接の活性化が認められた(図1E).一方で,JIP変異体ではG13は活性化せず,またGs, Gi, Gqなど他のGαタンパク質ではJIPにより活性の変化がみられなかったので,JIPのG13に対する活性化作用は特異的であると考えられた.これらの結果は,JIPが細胞膜に挿入され,G13を直接活性化することによってTJの形成を誘導することを示すものである.

5. 炎症モデルマウスに対するJIPの効果と役割

続いてJIPが生体内で効果があるかを,炎症モデルマウスを用いて解析を行った.マウスにDSS(デキストラン硫酸ナトリウム)を飲水させた腸炎モデルを用い,JIPが腸管上皮のTJ形成を回復させるかどうかを検討した.DSS誘導性腸炎モデルマウスにJIPm35を隔日で10日間投与すると,腸管クリプト構造とTJバリア機能が維持された(図2A, B).免疫染色により投与したJIPm35の局在を調べると,腸管上皮細胞の細胞境界部に検出されたことから,JIPm35が生体内で上皮細胞に作用してTJを維持・回復させたと考えられた.

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図2 DSS誘導性腸炎モデルに対するJIPの効果(文献4より改変)

(A)実験の模式図.(B) 10日目の腸切片のHE染色.(C)便の写真.(D)観察25日間の生存率.

次に,JIPがDSS投与マウスの症状を緩和するかどうかを調べたところ,クリプト構造の再構築や血性の下痢(図2C)は,JIPm35の投与により改善されたが,JIP変異ペプチドでは改善しなかった.さらに,マウスが血便症状を呈したDSS投与4日後からJIPm35を連続投与すると,DSSによる体重減少が緩和され,4週間以上生存が維持された(図2D).これらの結果により,JIPはマウス腸管上皮傷害モデルにおいて,上皮のTJを維持・回復させ症状の発現を抑えることができることが示された.

さらに,DSS誘導性腸炎モデルマウスを用い,DSS濃度を調整することで回復傾向にさせ,そのときにJIPm35の中和抗体を投与したところ,TJバリアの再構築が遅れることがわかった.したがって,JIPは上皮組織修復に重要な役割を果たすことがわかった(図3).

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図3 JIPによるTJ形成と炎症上皮組織の修復モデル(文献4より改変)

炎症時にJIPが発現上昇し,JIPは細胞膜に刺さりG13を活性化することで細胞間接着部位のF-actinを再編成し,TJを形成誘導する.

ヒトでは,A1ATのC末端に相当する36~44アミノ酸のポリペプチドが,敗血症患者の血液,乳がん患者の乳汁,腎炎患者の尿中に存在する12–14).そこで,ヒトA1AT C末端由来の42アミノ酸残基からなるペプチド(CAAP48として知られる,我々はJIPh42と名付けた)のTJ形成活性を評価したところ,マウス由来JIPと同様にA431細胞でTJ様構造を誘導した.DSS腸炎モデルマウスにおいても,JIPh42/CAAP48の投与によって下痢症状の改善とTJの維持・回復が認められたため,マウス由来JIPと同様に上皮組織修復活性を持つことが示唆された.

6. おわりに

A1ATは血清中に豊富に存在するセリンプロテアーゼ阻害剤であり,エラスターゼなどのセリンプロテアーゼを阻害することで組織の損傷抑制に重要な役割を担っている.著者らの研究では,A1ATのC末端ペプチド(JIP)はセリンプロテアーゼ阻害活性を持たず,TJ誘導活性を持つことが明らかになった.すなわち上皮組織が損傷を受けたとき,A1ATは2つの機序で抗炎症作用を発揮すると考えられる.

また,TJのリモデリングは,炎症修復時だけでなく個体の一生におけるさまざまな場面で起こると想定され,それぞれの制御機構については今後の解析が待たれる.

今回同定したJIP配列であるA1ATのC末端領域の疎水性クラスターは脊椎動物で進化的に保存されていることから15),JIPを介したTJ形成はバリア機能不全に対する共通の抗炎症反応であることが示唆される.JIPは,バリア破綻が原因となる炎症性疾患に対する新しい治療戦略となりうるかもしれない.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した内容は,主に京都大学医生物学研究所 組織恒常性分野(豊島文子教授)において多くの共同研究者の方々とともに行われました.共同研究者の方,ご指導ご助言をいただいた先生方に深く感謝申し上げます.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

小田 裕香子(おだ ゆかこ)

京都大学iPS細胞研究所主任研究者(准教授).博士(理学).

略歴

2001年京都大学農学部卒業.06年京都大学大学院理学研究科博士課程修了.神戸大学医学部助教,京都大学医生物学研究所助教を経て22年5月より現職.

研究テーマと抱負

上皮の細胞間接着の誘導制御を切り口に個体の恒常性維持機構を明らかにしたいと考えています.

ウェブサイト

https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/research/oda_summary.html

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