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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 94(5): 770-774 (2022)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2022.940770

テクニカルノートTechnical Note

シグナル残存型マイトファジープローブmito-SRAIMitophagy probemito-SRAI

理化学研究所脳神経科学研究センター細胞機能探索技術研究チームLaboratory for Cell Function Dynamics;RIKEN Center for Brain Science (CBS) ◇ 〒351–0198 埼玉県和光市広沢2–1 ◇ RIKEN Center for Brain Science, 2–1 Hirosawa Wako, Saitama 351–0198, Japan

発行日:2022年10月25日Published: October 25, 2022
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1. はじめに

元来,オートファジーは非選択的な分解システムと考えられていたが,損傷したリソソーム1),ER2)などのオルガネラ,侵入してきた細菌3),細胞内凝集体4)などを選択的に分解し,細胞の恒常性の維持に関与していることが明らかになってきた.マイトファジーはこうした選択的オートファジーの一つである5).障害のあるミトコンドリアは活性酸素種や,シトクロムcなどのアポトーシス誘導分子を放出し,細胞にとって有害である.マイトファジーは障害ミトコンドリアを選択的に分解除去し,ミトコンドリアの品質管理に寄与していると考えられている.

マイトファジーが誘導されると,障害ミトコンドリアはオートファゴソームと呼ばれる二重膜構造体に取り込まれる.その後オートファゴソームはリソソームと融合し,内部のミトコンドリアは加水分解酵素で分解される.

我々が開発したmito-SRAIは,リソソームに運ばれたミトコンドリアを,蛍光特性変化により検出するマイトファジープローブである.本稿ではこのプローブの解説と,使用の際に注意すべき点について概説する.

2. オートファジープローブSRAIの作製

LC3(MAP1LC3:microtubule-associated protein light chain 3)6)はオートファジーの検出に最も広く使用されているマーカーである.特にGFPを連結したGFP-LC3は,オートファジーの活性化に伴い細胞質での輝点を呈し,この現象の可視化を可能にしている.しかしこの分子はオートファジーがどれだけ起こったかを検出するマーカーであり,マイトファジーなどの選択的オートファジーによって,目的の基質がどれだけ分解されたかの観察には適していない.

我々が以前発表したKeimaは,この目的に合致する選択的オートファジープローブであり,任意の基質をラベルすることで,その選択的オートファジーを観察することができる7).このKeimaをミトコンドリアに局在させたプローブがmt-mKeimaで,培養細胞でのマイトファジーを簡便に可視化検出することができた.しかしKeimaのオートファジーシグナルは可逆的であり,固定などの処理で死んだ細胞では失われてしまうため,免疫染色との共観察や,マウスなどの動物個体からの標本作製は困難であった.

SRAI(Signal Retaining Autophagy Indicator)はKeimaのこの欠点を改善したオートファジープローブである8).このプローブは以下のような作動原理により非可逆的なオートファジーシグナルを達成している.

特異的,非特異的を問わず,細胞内成分を取り囲んだオートファゴソームは,最終的には酸性のリソソームと融合し,その内容物はリソソーム内の加水分解酵素によって分解される.ほとんどのタンパク質もリソソーム内の酸性環境で変性して分解されるが,一部のサンゴ由来の蛍光タンパク質はこのようなリソソーム環境に抵抗性を有し,蛍光を保持し続ける9).我々はこのようなリソソーム環境耐性蛍光タンパク質と,リソソーム環境感受性蛍光タンパク質の二つの蛍光タンパク質を組み合わせることで非可逆的なオートファジープローブを作製した.

さらに,FRETを利用してオートファジー前後のシグナル変化率を高める狙いから,リソソーム環境耐性のTOLLESとリソソーム環境感受性のYPetの蛍光タンパク質ペアを採用した(図1A).TOLLESの蛍光スペクトルとYPetの吸収スペクトルには十分な重なりがあり(図1B),定常状態ではTOLLESからYPetへのFRETによってTOLLESの蛍光は低く抑えられ,YPet優位の蛍光を呈している(図2A).

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図1 SRAIに使用したTOLLES, YPetの励起,蛍光,吸収スペクトル

(A) SRAIを構成するTOLLES, YPetの励起・蛍光スペクトル.励起スペクトルを点線で,蛍光スペクトルを実線で示している.(B) FRET効率に重要なdonor(TOLLES)の蛍光スペクトルとacceptor(YPet)の吸収スペクトルの重なり部分を斜線で示す.

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図2 オートファジープローブSRAIのモデル図

(A) SRAIはTOLLES(T)からYPet(Y)へのFRETが起こっており,中性の細胞質やミトコンドリアではYPetの蛍光が優勢となる.(B)オートファジーによりSRAIがリソソームに移行すると,YPetは酸性環境下で消光,分解される.これに対し,TOLLESは酸性環境下でも安定で,消光も分解もされない.この結果FRETが解消されてTOLLESの蛍光強度が増すため,オートファジー前後のレシオ変化量をさらに増大させる.(C) YPetは分解されているため,固定などでリソソーム内が酸性でなくなっても蛍光変化はそのまま維持され,オートファジーシグナルが残存する.

オートファジーによりプローブがリソソーム内腔に運ばれると,YPetは酸性環境下で消光,分解されて,FRETの解消が起こり,抑制されていたTOLLESの蛍光は元に戻ってTOLLES優位の蛍光に変化する(図2B).SRAIのこのシグナルは固定してリソソーム内腔が中性になっても消えることはなく(図2C),免疫細胞染色や免疫組織染色に利用可能である.

実際に培養細胞を用いてSRAIの性能を検討してみたところ,栄養飢餓によるオートファジーによりオートリソソーム由来のシグナルが出現した.このシグナルは固定後も消失せず,SRAIが非可逆的なオートファジープローブとして機能することが示された(図3).

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図3 SRAIを用いた哺乳類細胞でのオートファジーの可視化検出

SRAIを細胞質に発現したMEF細胞を用いてオートファジーの可視化検出を行った.下段のオートファジーシグナルはTOLLES/YPetのレシオ画像から算出した高レシオ領域を示す.HBSSによる栄養飢餓によりオートファジーを誘導した細胞では,リソソームに運ばれて蛍光特性が変化したSRAIによるオートファジーシグナルが観察される.このシグナルは4%パラホルムアルデヒド固定後でも残存する(バー: 20 µm).

3. シグナル蓄積型マイトファジープローブmito-SRAIの作製

このSRAIをミトコンドリアに局在させればマイトファジープローブとして機能する.プローブの局在場所については,ダメージを受けたミトコンドリアの外膜タンパク質がユビキチン–プロテアソーム系で分解されているという報告があり10),正確なマイトファジーの定量のためには,プローブを外膜に発現させるのは好ましくないと考えられるため,ミトコンドリアマトリクスへの局在を試みた.しかし蛍光タンパク質二つからなるSRAIはかさ高く,局在性能が高いcoxVIIIシグナル配列を2回繰り返した局在化タグ11)でも,ミトコンドリアマトリクスへの完全な局在は達成できなかった(図4A).

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図4 マイトファジープローブmito-SRAI

mt-SRAI, mito-SRAIのドメイン構造(上),局在の模式図(中),これらのプローブを発現した細胞の画像(下)(バー: 20 µm).(A) 2回繰り返したcoxVIIIシグナル配列を,SRAIのN末端側に付加したプローブ(mt-SRAI)の局在.ミトコンドリアマトリクスに局在できなかったプローブが,細胞質にいくらか漏れている.(B) mt-SRAIのC末端側にCL1, PEST配列を付加したプローブ(mito-SRAI)の局在.細胞質の漏れたプローブはプロテアソームにより分解され,きわめて厳密なミトコンドリア局在が達成される.ミトコンドリアマトリクスに正しく局在したプローブはプロテアソームの影響を受けないので,蛍光強度低下はほとんどなく,強い蛍光が保たれる(バー: 20 µm).

細胞質でのプローブの残留は,オートファジーをマイトファジーと誤認する偽陽性の原因となるため,可能な限り排除することが望ましい.そこで我々はデグロン配列を利用してこれを改善した(図4B).細胞質に存在するデグロン配列つきのプローブは,プロテアソームにより特異的に分解されるが,ミトコンドリアマトリクス内にはプロテアソームは存在しないため,正常に局在したプローブは分解されない.これにより,細胞質に残存する画分の除去とミトコンドリアでの蛍光強度維持の両立が可能となる.ミトコンドリア移行前のプローブの,過剰な分解は蛍光強度低下を招くため,ちょうどよい塩梅の分解を誘導するデグロン配列の組合わせを検討し,最終的に,プローブのC末端側に,大腸菌由来のCL1配列とマウスオルニチンデカルボキシラーゼのPEST配列を連結し,これをmito-SRAIとした.このmito-SRAIは,きわめて良好なミトコンドリア局在と強い蛍光強度を示し,培養細胞を用いてマイトファジーを誘導したところ,オートリソソーム由来のマイトファジーシグナルが検出された.このシグナルは固定後も消失せず,mito-SRAIが非可逆的なオートファジープローブとして機能することが示された(図5).

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図5 mito-SRAIを用いた哺乳類細胞でのマイトファジーの可視化検出

mito-SRAIとParkinを発現したMEF細胞を用いてマイトファジーの可視化検出を行った.下段のマイトファジーシグナルはTOLLES/YPetのレシオ画像から算出した高レシオ領域を示す.CCCPによりマイトファジーを誘導した細胞では,蛍光特性が変化したプローブによるマイトファジーシグナルが観察される.また,このシグナルは4%パラホルムアルデヒド固定後も消えることはない(バー: 20 µm).

4. mito-SRAI使用時の注意点

mito-SRAIのシグナルは分解されず蓄積されていくため,高感度で定量性を有しているが,それに伴う注意点が存在する.このプローブは発現している間,基底レベルの,あるいは分化やストレスによるマイトファジーのシグナルを蓄積し続け,目的の実験を妨げる量のバックグランドシグナルを貯め込んでしまう危険性をはらんでいる.

我々は,こうした偽陽性を可能な限り避けるために,細胞系ではTet発現システムなどの誘導発現系を用いて必要なときにだけプローブを発現して,望まぬシグナルの混入を排除しており,今回紹介したデータもそのような配慮のもとに得られたものである.

また,mito-SRAIのこの特性は,発現期間の長いトランスジェニックマウスでより深刻な問題となる.実際,恒常的mito-SRAI発現マウスではさまざまな臓器でシグナルの過剰蓄積が観察され,観察の妨げとなっている(データ未発表).このようなバックグラウンドを排除するために,Tet発現システムやCre-ERT2などの誘導系を利用して目的の期間のみプローブを発現するマウスをデザインすべきである.

5. おわりに

本稿では,マイトファジープローブmito-SRAIのデザインと作動原理,および使用時に注意すべき点について解説した.

マイトファジーが報告されてから10年以上が経過し,そのメカニズムに関する知見は蓄積されつつある.しかし生体内でマイトファジーがいつ,どれだけ誘導され,それが個体の恒常性,および疾患の発症にどのように関与しているのかについては,いまだ不明な点が多い.

mito-SRAIは比較的簡単に,マイトファジーを検出できるプローブであり,個体でのマイトファジー観察にも使用できる.このプローブを発現する細胞や動物を使用して,マイトファジーに関する知見やこの現象が関与する疾患の発症メカニズム,マイトファジーを促進して障害ミトコンドリアを除去する治療薬の研究開発が発展することを期待してやまない.

引用文献References

1) Maejima, I., Takahashi, A., Omori, H., Kimura, T., Takabatake, Y., Saitoh, T., Yamamoto, A., Hamasaki, M., Noda, T., Isaka, Y., et al. (2013) Autophagy sequesters damaged lysosomes to control lysosomal biogenesis and kidney injury. EMBO J., 32, 2336–2347.

2) Hamasaki, M., Noda, T., Baba, M., & Ohsumi, Y. (2005) Starvation triggers the delivery of the endoplasmic reticulum to the vacuole via autophagy in yeast. Traffic, 6, 56–65.

3) Nakagawa, I., Amano, A., Mizushima, N., Yamamoto, A., Yamaguchi, H., Kamimoto, T., Nara, A., Funao, J., Nakata, M., Tsuda, K., et al. (2004) Autophagy defends cells against invading group A Streptococcus. Science, 306, 1037–1040.

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10) Yoshii, S.R., Kishi, C., Ishihara, N., & Mizushima, N. (2011) Parkin mediates proteasome-dependent protein degradation and rupture of the outer mitochondrial membrane. J. Biol. Chem., 286, 19630–19640.

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著者紹介Author Profile

片山 博幸(かたやま ひろゆき)

理化学研究所脳神経科学研究センター細胞機能探索技術研究チーム研究員.薬学博士.

略歴

2004年北海道大学大学院薬学研究科博士課程修了.09~12年,ERATO宮脇生命時空間情報プロジェクト研究員を経て,12年より現所属.

研究テーマと抱負

新しいプローブや観察手法を開発することで,オートファジーなどの生物現象や,パーキンソン病,アルツハイマー病などの疾患の発症メカニズムを可視化,解明することを目指しています.

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