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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 95(1): 77-82 (2023)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2023.950077

みにれびゅうMini Review

B型肝炎ウイルスの感染受容体NTCPの構造Structure of the hepatitis B virus entry receptor NTCP

東京大学大学院薬学系研究科Graduate School of Pharmaceutical Sciences, The University of Tokyo ◇ 〒113–0033 東京都文京区本郷7–3–1 ◇ 7–3–1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113–0033, Japan

発行日:2023年2月25日Published: February 25, 2023
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1. はじめに

B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)は世界中で約3億人が感染しており,その持続感染は慢性肝炎,肝硬変や肝がんなどの疾患を引き起こし,毎年82万人がHBV感染に起因して死亡している1).日本では約110万~140万人(人口の約1%)がHBVに感染していると推定されている2).現在,HBV感染の治療法としてインターフェロン療法と核酸アナログ製剤が用いられている3).ただし,いずれの治療法もウイルスを体内から完全排除することは難しいとされている.HBVはヘパドナウイルス科に属し3.2 kbのゲノムDNAを持つ4).HBVのエンベロープにはHBs抗原として,Large HBsタンパク質(LHBs),Middle Sタンパク質(MHBs),およびSmall Sタンパク質(SHBs)の3種類が存在する.これらはいずれも4回膜貫通タンパク質を構成するS領域を共通に持ち,SHBsはS領域のみから,MHBsはpreS2+S領域から,LHBsはpreS1+preS2+S領域で構成される(図1a).HBVの宿主細胞への接着にはLHBsのpreS1領域が重要である5, 6).また,preS1領域のN末端のミリストイル化がHBV感染に必須である.しかし,HBVの宿主細胞への接着,侵入を介在する宿主側の受容体は長年不明であった.2012年,LHBsのperS1領域と特異的に相互作用する宿主側の受容体として肝細胞に発現するナトリウム依存性胆汁酸トランスポーターNTCP(Na-taurocholate co-transporting polypeptide;別名SLC10A1)が同定された7).NTCPは9回膜貫通タンパク質で,生理的には細胞内外のナトリウムイオンの濃度勾配と共役して血液中から肝細胞に胆汁酸を取り込むことで,胆汁酸の腸肝循環を維持するトランスポーターとして機能する8)図1a).HBV感染はきわめて高い種指向性を示し,ヒトとチンパンジーだけに感染性を示す9).この種指向性にLHBsとNTCPの間の相互作用が関係している可能性がある.NTCPを介したHBVの宿主への接着過程はHBV感染阻害剤の魅力的なターゲットであり,NTCPの構造情報およびNTCPとLHBsの相互作用情報は,HBV阻害剤の開発に大きく寄与するため,その構造情報の解明が待望されていた.

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図1 NTCPの立体構造

(a)HBVのHBs抗原とNTCPの模式図.(b)NTCPの立体構造(PDB 7WSI).(上段および左下)NTCPの構造をリボン図で示す.N末端からC末端にかけて青から赤に変化させて表示する.TMヘリックスの番号を数字で示す.(右下)TM3とTM8のクロスオーバー構造.2か所のナトリウムイオン結合部位を点線で示す.ナトリウムイオンの配位に関与する残基をスティックモデルで表示した.

2. NTCPの立体構造

ごく最近,筆者らのグループを含め,計四つのグループからほぼ同時期に哺乳動物由来NTCPのクライオ電子顕微鏡構造が報告された10–13).いずれもNTCPを特異的に認識する抗体のFabフラグメントまたはナノボディとの複合体として構造解析されている.ここでは主に筆者らの結果を,適宜他のグループの結果も参照しつつ紹介したい.

NTCPの全体構造は,すでに構造が報告されていたNTCPと同じファミリーに属するASBT(SLC10A2)の微生物ホモログの構造に比較的よく一致していた(図1b図2).ただし,微生物由来ASBTは10本の膜貫通(TM)ヘリックスで構成されていたのに対して,NTCPはN末端側のヘリックスが1本少ない,計9本のTMヘリックスで構成されていた.NTCPはTM1, TM5およびTM6の3本のTMヘリックスで構成されるパネルドメインと,TM2~TM4およびTM7~TM9の6本のTMヘリックスで構成されるコアドメインから構成されていた.NTCPはパネルドメインとコアドメイン間の相対配置が変化することで,細胞外側から基質結合部位へのアクセスが可能な外開き(outward-facing)状態および細胞質側から基質結合部位へのアクセスが可能な内開き(inward-facing)状態を交互にとることで基質を輸送すると考えられている[交互アクセス機構(alternating access mechanism)].コアドメインのTM2~TM4とTM7~TM9は互いに偽2回対称で関係づけられており,TM3とTM8は途中でヘリックスがほどけて,そのほどけた部分で互いに交差していた(クロスオーバー構造)(図1b).クロスオーバー構造は他のナトリウムイオン依存性のトランスポーターでも観察されている.ナトリウムイオンの結合部位は他の類縁のトランスポーターとの間で保存されており,クロスオーバー構造付近に2か所存在していた.

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図2 NTCPの外向き状態と内向き状態の構造

(a)NTCPの外開き構造(PDB 7WSI).パネルドメインとコアドメインをそれぞれ緑とシアンで示す.二つの方向から見た図をそれぞれリボン図と表面図を並べて示す.脂質様の密度をマゼンタで示す.(b)NTCPの内開き構造(PDB 7PQG).(c)微生物由来ASBTの外開き構造(PDB 4N7X).(d)微生物由来ASBTの内開き構造(PDB 3ZUX).タウロコール酸分子を空間充填モデルで示す.

今回筆者らが解析したNTCPの構造は外開き状態であり,微生物由来ASBTの外開き状態の構造に比較的よく対応していた(図2).しかし,NTCPはN末端側のTMヘリックスが1本少なく,パネルドメインとコアドメインの間に側面から細胞質側にかけて大きく開いた構造となっていた[微生物由来ASBTの場合は追加のTMヘリックス(図2におけるTM0に相当)がパネルドメインとコアドメインの間の空隙を閉じている].パネルドメイン(TM1とTM6)とコアドメイン(TM3b, TM8bとTM9)の間に膜領域を貫通するトンネルが形成されており,細胞外側のTM1, TM5, TM8bの間にトンネルへの開口が存在していた.また,トンネルの中央部分でクロスオーバー構造と接していた.

興味深いことに,このトンネル内には二つの脂質様の密度が存在しており,これらはコレステロール分子または精製の際に一緒に精製されてきた内在性の脂質であると推測された(図2a).同様の密度は,他の3グループの外開き状態の構造中にも見いだされており10–12),実際にLiuらの研究では,基質(グリコケノデオキシコール酸)存在下で構造解析を行っており,この密度に対して基質のモデルを組み込んでいる11).さらに,微生物由来ABSTの内開き構造の対応する位置にも基質であるタウロコール酸が結合することが報告されている(図2d).これらのことから,外開き状態のNTCPにみられたトンネルが基質の通過路である可能性が高い.

今回4グループが共通して外開き状態のNTCPの構造を報告しているが10–13),それに加えてGoutamらはナノボディ結合により安定化された内開き状態のNTCPの構造も報告している12)図2b).内開き状態では,コアドメインに対してパネルドメインが細胞外側にせり上がるように移動して両者の相対配置が変化し,結果として外開き状態でみられた細胞外側のTM1, TM5, TM8bの間の開口が閉じられていた.細胞内側においては,外開き状態と同様にパネルドメインとコアドメインの間の側面から細胞内側にかけて大きく開いたキャビティーを形成し,このキャビティーは膜の中央部分においてクロスオーバー構造付近で閉じられていた.

3. NTCPとLHB preS1の相互作用

NTCPとLHB preS1領域の相互作用に関して,これまでに,NTCP(残基番号84~87)(パッチ1)およびNTCP(残基番号157~165)(パッチ2)部分が結合に重要であると報告されている7, 14)図3a).NTCPの構造中で,パッチ1はコアドメインのTM2とTM3の間のループ領域,パッチ2はパネルドメインのTM5の細胞外側部分に位置する.NTCPによる基質輸送とpreS1結合は互いに排他的であることが報告されていることから,preS1の結合部位と基質輸送路は一部共通している可能性が示唆されている.そこで,筆者らは,パッチ1およびパッチ2に加えて,NTCPのトンネルの細胞外側部分がpreS1結合に用いられるのではないかと仮説を立てNTCP変異体を用いてこれを検証した.その結果,パッチ1およびパッチ2変異体に加えて,トンネルの開口部およびトンネル内部の変異体においてNTCPとpreS1の結合が減弱した(図3a).このことから,これらの領域がNTCPとpreS1との相互作用部位であることが強く示唆された.

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図3 NTCPによるpreS1の認識機構

(a)preS1の結合部位.二つの方向からNTCPのトンネルを見た図.横から見た図(上段).細胞外側から見た図(下段).それぞれリボン図と表面図を並べて示す.preS1の結合に関与すると考えられるパッチ1,パッチ2およびトンネル領域の残基をスティックモデルで表示した.(b)preS1存在下での構造解析においてNTCPのトンネル領域に追加で観測された密度マップ.(c)NTCPの胆汁酸輸送モデル(左)とpreS1認識モデル(右).

筆者らは,さらにNTCPとFabにpreS1を加えてクライオ電子顕微鏡解析を行った.その結果,NTCPの全体構造には変化がなかったが,NTCPのトンネル領域の細胞外側部分にpreS1と考えられる追加の密度が観察された(図3b).ただし,マップの質はpreS1のモデルを構築するのに十分なものではなかった.追加の密度はNTCPのG158やS267の付近に存在しており,これらの残基にかさ高い側鎖を導入した変異体G158A/S162AやS267FにおいてpreS1との結合が減弱したこととよく対応した.今回のpreS1と思われる密度は,パッチ1を覆うFab存在下で観察されたものであり,NTCPとpreS1結合の一部分だけが可視化されたものと考えられる.

筆者らの結果を支持するように,Parkらは外開き状態のNTCPのトンネル内部の疎水性の残基がpreS1との結合およびHBV感染に重要であることを細胞実験により示している10)図3a).また,Goutamらは外開き状態と内開き状態をそれぞれ安定化するナノボディを用いることで,外開き状態のNTCPにのみpreS1が結合することを示している12)図3c).

今回の結果をもとにNTCPへのpreS1の結合モデルが提案されている13)図3c).preS1はNTCPのパッチ1,パッチ2,トンネル領域を用いて外開き状態のNTCPに結合すると考えられる.その際に,preS1のN末端のミリストイル基はNTCPのトンネル領域または近傍の膜に結合するものと考えられる.

4. HBV感染の種指向性

筆者らはヒトNTCPに加えて,ウシNTCPおよびラットNTCPの構造解析も行ったが,これらの間で大きな構造の違いは認められなかった.このことは,アミノ酸の側鎖レベルの局所的な構造の違いにより微妙な結合の違いが生じている可能性を示唆している.たとえば,オナガザル科(Old World monkeys)に属するサルはHBVに感染しないことが知られている.ヒトNTCPのG158(パッチ2)はpreS1との結合に重要であることが,これまでの研究や今回の研究で示されているが,オナガザル科に属するサルはこの部位にArgを持っている.かさ高いアルギニン側鎖がポケット内に突き出すことでpreS1結合を阻害しているものと考えられる.また,マウスNTCPはpreS1と結合するがHBV感染性をもたらさない14).一方で,マウスNTCPのTM2–TM3ループ(パッチ1)の配列を対応するヒトNTCPの配列に入れ替えるとHBV感染性をもたらすことが報告されている14).このことは,NTCPとpreS1の結合だけでHBV感染性が決定されるのではない可能性を示唆する.または,パッチ1での結合により追加的な親和性が生じ,これが感染性に寄与する可能性もある.現時点では,HBV感染の種指向性に関して明確な説明は困難であるが,今後の研究によりNTCP–preS1複合体を詳細に可視化することでその手がかりが得られるだろう.

5. おわりに

NTCPの構造解析を通して,NTCPの外開き状態のトンネル領域がHBVのLHBs preS1領域の結合に重要であることが明らかになった(図3c).NTCPは外開き状態と内開き状態を交互にとることで基質を輸送すると考えられ,トンネル領域は基質輸送路であると考えられる.preS1は結合部位を基質と競合することに加え,NTCPを外開き状態に固定することで基質輸送を阻害するものと考えられる.これは,NTCPのトンネル領域をターゲットにしたHBV感染阻害剤はNTCPの本来のトランスポーター機能を阻害するという問題点を提起する.NTCPを介したHBV感染に関して,NTCPの多量体化やEGFRなど他の因子の関与も報告されている.これらの関与についても,NTCPとpreS1の相互作用のより詳細な可視化とともに今後明らかにする必要がある.

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著者紹介Author Profile

大戸 梅治(おおと うめはる)

東京大学大学院薬学系研究科准教授.博士(薬学).

略歴

2002年東京大学薬学部卒業.07年同大学院薬学系研究科博士課程修了.同年東京大学大学院薬学系研究科助教,13年より講師を経て,16年より現職.

研究テーマと抱負

研究を楽しむ.

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