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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 95(1): 83-86 (2023)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2023.950083

みにれびゅうMini Review

核内構造タンパク質を介した神経幹細胞維持機構とその老化Nuclear structural proteins underlying the long-term maintenance and aging of neural stem cells

1エアランゲン大学医学部医学物理学研究所Institute of Medical Physics and Micro-tissue Engineering, Faculty of Medicine, Friedrich-Alexander-Universität Erlangen-Nürnberg ◇ Fahrstrasse 17, 91054 Erlangen, Germany ◇ Fahrstrasse 17, 91054 Erlangen, Germany

2ドイツ神経変性疾患研究センター (DZNE)Laboratory for Nuclear Architecture in Neural Plasticity and Aging, German Center for Neurodegenerative Diseases (DZNE) ◇ Tatzberg 41, 01307 Dresden, Germany ◇ Tatzberg 41, 01307 Dresden, Germany

発行日:2023年2月25日Published: February 25, 2023
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1. はじめに

哺乳類の脳のほとんどの神経系細胞は発生期に産生される.発生初期に神経上皮が形成され,そこから神経前駆細胞が産生され,増殖・分化の過程を経て数千種類以上の多様な神経系細胞種を生み出す.この多様性が高次脳機能の基盤となっていると考えられており,多様性を生み出すさまざまな分子メカニズムが報告されてきた.一方,長らくの間,発生・発達期以降は新たな神経新生は哺乳類脳では起こらないと考えられてきたが,1960年代にAltmanらによって,齧歯類の成体脳においても海馬などの限られた脳領域において神経新生が起こる可能性が示唆された1, 2).しばらくの間この発見がかえりみられることはなかったが,新しい技術の発展とともに,齧歯類に加えて人間を含む霊長類でも成体新生が観察されたことから3, 4),成体脳における脳可塑性をつかさどる過程として脚光を浴びてきた.その後の研究から,海馬における成体神経新生は,空間記憶やパターン分別課題などの認知機能,さらには気分制御にも重要な役割を果たすことが明らかになってきた5, 6).また,成体神経幹細胞および成体神経新生は脳の老化やストレスなどさまざまな要因により著しく低下し,脳機能低下の要因となることも示唆されてきた7).それゆえに,成体神経幹細胞の長期的維持メカニズムを理解することは,脳可塑性の維持メカニズムの理解に加えて,成体神経新生の低下を介した脳可塑性・気分制御の病態理解およびその治療戦略のターゲットとして重要と考えられてきた.

2. 成体神経幹細胞の長期維持に関与するエピゲノム制御因子の探索

筆者らのグループは,成体神経幹細胞を長期的に維持するメカニズムとして,幹細胞維持に必要な遺伝子プログラムの安定化に関わるエピゲノム制御因子に着目した.数多く存在するエピゲノム制御因子の中でも,近年の研究で半減期が非常に長いことが判明した核内ラミナを構成するラミンや一部の核膜孔複合体に注目している8).中間径フィラメントであるラミンは,核膜裏打ちタンパク質として核膜の構造的基盤として働き,核膜孔複合体は核内外への輸送に必須の構造体である.これらの核内構造タンパク質は,核内ラミナ・核構築の維持に加えて,クロマチンと直接相互作用し,細胞種特異的な遺伝子発現プログラムの維持に重要であることがわかってきており9, 10),半減期が長いことからも,成体神経幹細胞を維持する上で重要な遺伝子発現プログラムの安定性に関与している可能性が考えられた.トランスクリプトーム解析,および候補因子の組織染色から成体神経幹細胞もしくは新生幼若ニューロンに高く発現する核内構造タンパク質を探索し,その中からlamin B1が成体神経幹/前駆細胞に高発現していることを見いだした.Lamin B1は核膜の構造的維持,DNA複製・DNA損傷に加えて,クロマチンと相互作用することで主に遺伝子発現を抑制するヘテロクロマチンの維持に関わることが知られている.マウス成体脳での観察の結果,lamin B1はSox2陽性の成体神経幹・前駆細胞および未成熟なDCX成体新生神経細胞に高発現している一方で,成熟した海馬顆粒神経細胞では発現が著しく低かった(図1).一般にlamin B1はユビキタスな因子と考えられていることから,神経系細胞種により発現量が大きく異なることは筆者らには驚きであった.また細胞老化過程にlamin B1が関与することも報告されているが,脳の老化における生理的機能は未知であった.面白いことに,マウス海馬の成体神経幹・前駆細胞におけるlamin B1の発現量は成体と考えられる生後2~3か月齢では高い一方で,生後6か月齢ですでに著しく低下し,この時期は海馬成体新生の低下時期とよく一致していた(図111, 12).このlamin B1の成体神経幹・前駆細胞における年齢依存的な発現低下と成体神経新生低下時期の相関から,lamin B1の低下が成体神経幹・前駆細胞老化の要因となる可能性を考え,検討した.

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図1 成体神経幹細胞におけるlamin B1発現の老化に伴う発現低下

(A)マウス海馬歯状回の成体神経幹/前駆細胞におけるlamin B1, Sox2(成体神経幹細胞マーカー)の組織抗体染色.2か月齢から6か月齢にかけてのlamin B1の顕著な低下が観察される.(B) Lamin B1発現量の異なる細胞種における定量.Sox2陽性の成体神経幹/前駆細胞,PSA-NCAM陽性の成体新生神経細胞,および,成熟歯状回顆粒神経細胞におけるlamin B1発現量の変化を定量.** P<0.01, N.S:not significant. (C)仮説の模式図:若い成体神経幹/前駆細胞ではlamin B1発現が高く,幹細胞能が維持されるが,老化とともにlamin B1の発現が低下し,幹細胞能が低下する可能性(EMBO J., 2021, 40, e105819より改変).

3. Lamin B1の成体神経幹細胞維持および脳老化における機能

Lamin B1のノックアウト(KO)マウスでは脳発生異常が生じるため,成体での機能解析は難しい.そこで,成体神経幹細胞においてlamin B1をコードするlmnb1遺伝子を選択的に取り除くため,成体神経幹細胞特異的lmnb1コンディショナルノックアウトマウス(B1-cKO)を作製し,まず海馬成体新生における影響を検討した.タモキシフェン投与により成体2か月齢でKOを誘発すると,KO誘導3週間後では成体新生が一過的に上昇する一方で,KO誘導2か月後では成体新生が著しく低下した12).神経分化ステージ特異的なマーカーを使った検討から,lamin B1の人為的な発現低下により,成体神経前駆細胞からの神経分化が一時的に亢進されるが,その後,成体神経前駆細胞数が低下し成体神経新生が低下することが示され,成体神経幹/前駆細胞の維持に重要なことが示唆された(図2A).また,lamin B1を成体神経前駆細胞にウイルスベクターを用いて外来的に発現させると,神経分化が抑制された.以上の結果から,lamin B1は成体神経前駆細胞の維持および成体神経新生の維持に重要であり,lamin B1の発現低下が老化に伴う成体神経新生の低下につながる可能性が示唆された.続いて,B1-cKO神経前駆細胞のトランスクリプトーム解析から,lamin B1の低下により,神経前駆細胞維持・増殖に関わる遺伝子群の発現低下および,神経分化に関与する遺伝子群の発現上昇が見いだされた.さらに,クロマチンとlamin B1の相互作用領域lamina-associated domain(LAD)と発現変化遺伝子との空間的相関から,B1-cKOで発現が上昇した遺伝子群の一部は,lamin B1による発現抑制が外れた結果,遺伝子発現に変化が生じた可能性が示唆された.すなわち,lamin B1の発現低下は,特定遺伝子の発現増加を誘導し,その結果,神経分化の促進・神経前駆細胞の早期枯渇を引き起こすことが示唆された.

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図2 B1-cKOの解析

(A)薬剤によりLmnB1ノックアウトを誘導後,サンプル回収前にBrdUをマウスに投与し,海馬歯状回における分裂細胞数を検討.ノックアウト誘導3週後はBrdU数が上昇するが,2か月後にはBrdU数が低下した.(B)オープンフィールドテストにおけるマウスの探索領域の例.若いコントロールと比較して,老齢のコントロールおよび若齢のB1-cKOでは端や角での探索時間が増えている.マウスは,部屋の中心に行くことを基本的には躊躇するため,端や角での探索時間の増加は不安の増加を示唆すると考えられている.他の不安様行動試験においてもB1-cKOは同様の不安増加を示した.(C)まとめ図.cKOでは一過的に成体新生が亢進するが,その後成体新生が著しく低下し,同時に不安様行動も増加する(EMBO J., 2021, 40, e105819より改変).

Lamin B1が成体神経新生の維持に重要であることが,分子・細胞レベルでの検討で明らかになったことから,続いて,脳の機能的変化を検討すべく,B1-cKOマウスの行動変化を解析した.KO誘導2.5か月後のB1-cKOマウス,同齢のコントロール,および老齢のコントロールの3グループの行動を比較した結果,オープンフィールドテストおよび新奇環境摂食抑制テストで一致して,B1-cKOマウスでは老齢マウスと同様に不安様行動が増加していることが明らかになった(図2B).このことから,lamin B1の低下は老化に伴う気分障害の一端を担う可能性が示唆された.B1-cKOマウスではlamin B1発現が低下しているのは成体神経幹細胞およびその子孫細胞のみである.面白いことに,行動変化を検討したタイミングでは,B1-cKOマウスにおいては成体神経新生の低下が始まるタイミングであり,完全に成体神経新生が抑制されているタイミングではなかった.それゆえに,脳老化に伴う気分障害に成体神経新生の量的変化に加えて,成体神経新生細胞におけるlamin B1の低下を介した成体新生神経細胞の質的変化が関与している可能性が示唆され,今後の検討が望まれる.

4. おわりに

核内ラミナの細胞老化における研究は主にlamin Aを中心に進んできた.これは,lamin Aをコードするlmna遺伝子の変異が早老症(Hutchinson-Gilford syndrome/progeria syndrome)の原因となるためであり,核内ラミナ構築の崩壊に起因する細胞老化の研究がさまざまな角度から進んできた.一方で,lamin Aは中枢神経系細胞にはほとんど発現しておらず13),早老症患者においても著しい脳老化の表現型が観察されないことから,核内ラミナの中枢神経系の老化における役割は,末梢組織における役割の研究ほどは注目されてこなかった.しかしながら,本研究によりlamin B1の発現レベルは神経細胞種ごとに違うこと,老化によるlamin B1発現レベルの影響が神経細胞種ごとに異なること,さらには成体神経幹/前駆細胞の維持・老化のキー因子として働くことが見いだされた.Lamin B1低下の影響として,我々の研究では神経前駆細胞において幹細胞維持の遺伝子プログラムが正常に維持できない可能性が示唆された.一方,我々と同時期にチューリッヒ大学のJessbergerのグループからもlamin B1の成体神経幹細胞老化における役割が報告された.彼らのグループは細胞分裂時の細胞内因子の非対称分配におけるlamin B1の役割が老化に関与している可能性を見いだしている14).これらの結果から,lamin B1はさまざまなレベルで成体神経幹細胞の老化を抑制していることが考えられる.近年の研究では,アルツハイマー病等の神経変性疾患でlamin B1の発現低下および核膜ラミナ構造の崩壊が報告されている.ラミンタンパク質は半減期が長いため,頑強なエピジェネティック制御の基盤として機能し,神経系細胞の長期機能維持に貢献する可能性が考えられる.一方で,ターンオーバーに時間がかかるためにタンパク質に酸化などのダメージが蓄積しても新規タンパク質と入れ替えられず,老化のターゲットとして注目を浴びている.それゆえに,ラミンタンパク質などの核内構造タンパク質の生理および病態における機能を理解することが,脳の老化・神経変性疾患における病態生理の一端の解明につながるのではないかと考えて,研究を進めている.

引用文献References

1) Altman, J. & Das, G.D. (1965) Autoradiographic and histological evidence of postnatal hippocampal neurogenesis in rats. J. Comp. Neurol., 124, 319–335.

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著者紹介Author Profile

戸田 智久(とだ ともひさ)

Friedrich-Alexander-Universität Erlangen-Nürnberg(FAU)Professor, German Center for Neurodegenerative Diseases(DZNE)グループリーダー.医学博士(東京大学医学系研究科).

略歴

1982年徳島県に生る.2005年名古屋大学理学部卒業.11年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了.11~14年東京大学医学部附属病院博士研究員.14~19年ソーク研究所リサーチアソシエイト,19年よりDZNEグループリーダー,22年より現職.

研究テーマと抱負

脳の発生発達から維持・老化に至る時間的制御メカニズムの解明を目指し,エピゲノムに着目した研究を進めています.三つ子の魂百までの分子メカニズムを理解したいと思っています.我こそはという方の研究チームへの参加を楽しみにしています.

ウェブサイト

https://todalab.com

趣味

読書,旅行,ラグビー観戦,飲み会.

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