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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 95(1): 104-112 (2023)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2023.950104

テクニカルノートTechnical Note

CD44細胞外ドメインの切断を検出する生物発光センサーの開発と乳がん細胞への応用Development of CD44 bioluminescent sensors to detect the ectodomain cleavage and their application to breast cancer cells

国立大学法人東京大学大学院理学系研究科化学専攻分析化学研究室Department of Chemistry, Graduate School of Science, The University of Tokyo ◇ 〒113–0033 東京都文京区本郷7–3–1 ◇ 7–3–1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113–0033, Japan

発行日:2023年2月25日Published: February 25, 2023
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1. はじめに

生物発光(bioluminescence)とは,生物による冷光の放出(luminescence)を意味し,1916年にHarveyが初めて使用した用語と考えられている1).生物発光は,発光基質であるルシフェリンの酸化を発光酵素ルシフェラーゼが触媒する酵素反応(ルシフェリン–ルシフェラーゼ反応:L–L反応)によって生じる.ホタル等のD-ルシフェリンを基質とするL–L反応は,アデノシン5′-三リン酸(adenosine 5′-triphosphate:ATP)やMg2+を必要とする.L–L反応を用いた生物学的技術の一つに,スプリットルシフェラーゼアッセイがある.スプリットルシフェラーゼアッセイは,ルシフェラーゼを特定の位置で二分割して生細胞内に発現させることで,その酵素を不活性とした上で,それら2断片の相補により酵素活性を回復させてL–L反応を検出する方法である2)図1).この方法により,生細胞内での異なる標的タンパク質間の相互作用やリン酸化状態の検出3),また標的タンパク質の細胞内での局在変化をモニタリングする4)ことが可能である.

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図1 D-ルシフェリンを基質としたルシフェラーゼによるスプリットルシフェラーゼアッセイの発光原理

細胞内で発現されたスプリットルシフェラーゼ断片(LucNおよびLucC)の距離が近接すると,相補ルシフェラーゼとなり酵素活性を回復し,L–L反応が可能となる.

我々はスプリットルシフェラーゼアッセイの技術を応用して,1回膜貫通タンパク質であり,細胞表面接着分子であるcluster of differentiation 44(CD44)に着目した生物発光センサーを開発した5).CD44はその細胞外ドメインの切断によりがん細胞の遊走に関与する6)ことが知られていることから,この切断のモニタリングや切断阻害剤の開発はがんの治療に貢献できる可能性がある.開発したCD44発光センサーは,CD44の細胞外ドメインが切断されると発光強度が減少するように設計した.また,細胞膜表面で生じるL–L反応に対する抑制的な影響をできるだけ除くために,その反応にATPやMg2+を必要としない深海エビ由来のルシフェラーゼ(NanoLuc:Nluc)7)を使用した.以下にCD44発光センサーの発光原理,およびCD44発光センサーの乳がん細胞株(MCF-7およびMDA-MB-231)への応用について概説する.

2. CD44発光センサーのデザインおよび発光原理

CD44細胞外ドメインの切断を検出するセンサーとして,Nlucを用いたスプリットルシフェラーゼ8)の2断片を,CD44スタンダードアイソフォーム(CD44s)と融合して発現するベクターを考案した(図2).CD44sはすべてのバリアントエクソンがスプライシングで除去されたアイソフォームである.スプリットルシフェラーゼの2断片を接近可能な距離に配置するために,1回膜貫通タンパク質であるCD44sの細胞内ドメインのC末端に膜貫通ドメインを付加して二つの膜貫通ドメインを有する設計とし,細胞外での相補ルシフェラーゼを実現した.このうち一つは細胞膜の外側にN末端とC末端が存在するU字型とし,タンパク質フォールディングによって2断片のルシフェラーゼが接近して発光することを想定した.もう一つはU字型の両末端にシアノバクテリアDnaEのスプリットインテインNおよびC9–11)をそれぞれ付加し,タンパク質トランススプライシングによって環化するように設計した.以後,設計したセンサーの名称は,環化するセンサーをCecto-C(a circular sensor for CD44 ectodomain cleavage detection),環化しないU字型センサーをCecto-L(a linear sensor of Cecto)と示す.さらに,Cecto-Cの環化を確認するために,Cecto-Cに二つのHAタグを付加し,環化反応時に二つのHAが脱落するCecto-HAを作製した.

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図2 CD44細胞外ドメインの切断を検出するCD44発光センサーCecto-C, Cecto-L, Cecto-HAの設計および発光原理

Cecto-CはスプリットDnaEインテイン(DnaEnおよびDnaEc)のタンパク質トランススプライシングにより環化し,その結果,スプリットNlucの2断片が接近して相補し,酵素活性を回復する.MT1-MMP等のメタロプロテイナーゼがCecto-C内のCD44細胞外ドメインを切断すると,発光強度が減少する.Cecto-Lはタンパク質フォールディングによりスプリットNlucの2断片が接近して相補し,酵素活性を回復すると想定される.Cecto-Lの細胞外ドメインが切断されると発光量が減少する.Cecto-HAは環化の確認のために作製.文献5より改変.

3. Cecto-C, Cecto-Lの細胞膜局在と環化・非環化および糖鎖修飾の評価

Cecto-C, Cecto-Lの細胞膜局在とその方向を確認するために,乳がん細胞株にこれらを一過的に発現させ,界面活性剤による細胞膜透過処理を行わずに免疫蛍光染色を行った(図3A).V5およびMycのエピトープタグに対する抗体は細胞膜を透過できないため,二つのエピトープタグが細胞膜外に存在しなければ検出不可能である.結果,V5とMycタグいずれも各々の抗体により細胞膜表面で検出された.さらに,細胞膜透過処理済みの細胞を用いた免疫蛍光染色を行った(図3B).Cecto-C, Cecto-Lともに細胞膜に局在したが,一部は小胞体にも検出された.これは発現ベクターのサイトメガロウイルスプロモーターにより,Cecto-CおよびCecto-Lが大量に発現した結果,細胞膜だけではなく小胞体に蓄積したことを示唆している.

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図3 Cecto-C, Cecto-Lの細胞膜局在と環化・非環化および糖鎖修飾の評価

(A, B)乳がん細胞株にCecto-CまたはCecto-Lをリポフェクションにより24時間遺伝子導入後,培地交換を行い24時間培養し,細胞を固定した.細胞膜透過未処理(A)と処理済み(B)の細胞による免疫蛍光染色像と対比染色像を示す.細胞膜標識および小胞体標識には,蛍光標識されたレクチン(コムギ胚芽凝集素およびコンカナバリンA)を用いた.スケールバーは10 µm.(C)乳がん細胞株にCecto-C, Cecto-LまたはCecto-HAをそれぞれ24時間遺伝子導入し,24時間培養した細胞のウエスタンブロッティングによるCecto-Cの環化評価.Cecto-Lは非環化モノマーを検出するためのコントロール.青色の矢頭は非環化モノマーを,緑色の矢頭は非環化オリゴマーを示す.橙色の矢印は環化モノマーまたは環化オリゴマーを示す.「—」は遺伝子導入されていないコントロールの細胞.(D)Cecto-C内CD44sのN結合型糖鎖修飾部位のアスパラギンをイソロイシンに置換したベクター図[Cecto-C-(NI-6)].(E)Cecto-CとCecto-C-(NI-6)の分子量の比較.実験条件は(C)と同様.青色の矢頭は非環化モノマーを示す.黒矢印は環化モノマーを,マゼンタの矢印は環化オリゴマーを示す.アスタリスクはN結合型糖鎖修飾を含まない非環化モノマーを示す.文献5より改変.

次に,Cecto-Cの環化を評価するために,Cecto-C, Cecto-L, Cecto-HAをそれぞれ乳がん細胞株に一過的に遺伝子導入し,ウエスタンブロッティングを行った(図3C).Cecto-Lで検出された2本のバンドは非環化モノマーを示し,Cecto-HAにおいて抗HAタグ抗体で検出されたバンドは非環化モノマーまたは非環化オリゴマーを示す.それ以外の非環化モノマーより高分子量として検出されたバンドを環化モノマーまたは環化オリゴマーと想定した.さらに,Cecto-C内のCD44sが内在性のCD44s同様にN結合型糖鎖修飾を受けているかどうかを確認するために,Cecto-CのCD44s内に存在する6か所すべてのアスパラギンをイソロイシンに置換したCecto-C-(NI-6)を作製した(図3D).Cecto-CおよびCecto-C-(NI-6)をそれぞれ乳がん細胞株に一過的に遺伝子導入しウエスタンブロッティングを行ったところ,Cecto-C-(NI-6)の非環化モノマーはバンドが1本消失し,1本となった(図3E).このバンドの分子量は,Cecto-CのN結合型糖鎖修飾を含まない分子量(約87 kDa)と一致した.この結果から,Cecto-Cにおける2本の非環化モノマーの分子量の違いは,N結合型糖鎖修飾の違いを示唆している.一方,環化モノマーおよび環化オリゴマーと想定された2本のバンドは,それぞれ分子量が下方シフトして検出された(図3E).この結果から,環化モノマーおよび環化オリゴマーであることが想定されていた2本のバンドの分子量の違いは,同一分子のN結合型糖鎖修飾の違いによるものではないことが明らかとなった.以上より,Cecto-CおよびCecto-Lは細胞膜に局在し,Cecto-Cは環化されるが,一部は非環化モノマーおよびオリゴマーとして存在すること,そしてCecto-CはN結合型糖鎖修飾を受けることが示唆された.

4. Cecto-CおよびCecto-Lの細胞外ドメイン切断の評価

Cecto-CおよびCecto-Lに存在するCD44sの細胞外ドメインが膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ1(membrane-type 1 matrix metalloproteinase:MT1-MMP)によって切断されるかどうかを確認するために,MT1-MMPおよびその酵素活性を不活化した変異体の強制発現ベクター[MT1-MMP(Mut)]を構築し(図4A),MT1-MMPの活性による違いを比較した.乳がん細胞株にCecto-CまたはCecto-LおよびMock(空ベクター),MT1-MMP(Mut)またはMT1-MMPを同時に遺伝子導入し,24時間後と48時間後に発光強度を測定した(図4B, C).いずれの乳がん細胞株においても,Mockと比較して,MT1-MMPと同時に遺伝子導入したCecto-CおよびCecto-Lの発光強度は24時間後,48時間後共に有意に減少した.MCF-7乳がん細胞株において,MT1-MMPによる発光強度の減少はCecto-LよりCecto-Cでわずかに大きかった(図4B).MDA-MB-231乳がん細胞株では,MT1-MMP強制発現下でのCecto-CおよびCecto-Lの発光強度における変化の差は認められなかった(図4C).両細胞株において,Cecto-CとMT1-MMP(Mut)を同時に遺伝子導入した細胞の発光強度は,24時間後,48時間後ともにMT1-MMPを強制発現した発光強度より有意に高い値を示した(図4B, C).一方,Cecto-LでのMT1-MMP(Mut)およびMT1-MMP強制発現下での発光強度の比較は,MDA-MB-231細胞株の24時間後において発光強度に差が認められなかった点を除き,MT1-MMP(Mut)強制発現下で高い発光強度を示した(図4B, C).これらの結果から,Cecto-CおよびCecto-LはいずれもMT1-MMPによるCD44s細胞外ドメインの切断が生じて発光強度が減少したことが示唆された.

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図4 Cecto-CおよびCecto-Lの細胞外ドメイン切断の評価

(A) MT1-MMPとその酵素活性を不活性化した変異体の強制発現ベクター[MT1-MMP(Mut)].(B, C)乳がん細胞株にCecto-CまたはCecto-LとMT1-MMP, MT1-MMP(Mut)またはMock(空ベクター)を同時に遺伝子導入し,24時間後と48時間後にマイクロプレートルミノメーターで発光強度を測定した.データは1回の実験につき各条件で4~5ウェルを測定した平均値をn=1とした相対値を示す(平均値±標準誤差)(Cecto-C, n=7;Cecto-L, n=6).*P<0.05, **P<0.01対それぞれMock. P<0.05, ++P<0.01対それぞれMT1-MMP(Mut).(D)乳がん細胞株にCecto-CまたはCecto-LおよびMockまたはMT1-MMPを同時に24時間遺伝子導入し,培地交換後,24時間培養した細胞をウエスタンブロッティングにより評価した.橙色の矢印は環化モノマーまたは環化オリゴマーを示す.アスタリスクはMT1-MMPの強制発現によって消失した非環化モノマーを示す.「—」は遺伝子導入されていないコントロールの細胞.MT1はMT1-MMPの強制発現を示す.文献5より改変.

次に,Cecto-CとCecto-LのMT1-MMP強制発現下での発光強度の減少が,センサー内CD44s細胞外ドメインの切断に起因することをさらに検証するために,発光測定時と同様の条件下でウエスタンブロッティングを行った(図4D).MT1-MMP強制発現下では,両細胞株においてCecto-C, Cecto-Lともに非環化モノマー2本のうち1本のバンドが消失し,検出された1本のバンドもMockコントロール細胞のバンドと比較してその強度が減少した.環化したCecto-Cにおいても,MT1-MMP強制発現下でMockコントロールよりバンド強度の減少がみられた.これらの結果から,Cecto-CおよびCecto-Lは強制発現したMT1-MMPにより切断され,発光強度が減少することが示唆された.以上より,Cecto-CおよびCecto-Lは,いずれもCD44sの細胞外ドメイン切断を検出する発光センサーとして機能することが確認された.Cecto-CとCecto-Lを比較した場合,Cecto-CでわずかにMT1-MMPによる発光強度の減少が大きかったことから,以後の実験はCecto-Cで行うこととした.

5. カスタノスペルミン(CS)によるCecto-C, Cecto-Lの細胞外ドメイン切断抑制および乳がん細胞の浸潤阻害

CD44の細胞外ドメイン切断阻害剤を探索するために,糖鎖修飾阻害剤を評価した.N結合型糖鎖修飾阻害剤であるツニカマイシンは,神経膠芽腫の細胞株U251MGでCD44sの細胞外ドメインの切断を阻害することが報告されている12).この知見をもとに,異なる糖鎖修飾阻害剤に着目し開発したセンサーの細胞外ドメインの切断抑制が起こるかどうかを評価した.その結果,α-グルコシダーゼ阻害剤であるカスタノスペルミン(CS)は,Cecto-Cを一過的に遺伝子導入したMDA-MB-231乳がん細胞株に対して,40 μM CSで24時間処理すると,溶媒処理したコントロール群より発光強度が増加した(図5A).Cecto-Cは細胞外ドメインの切断によって発光強度が減少することから,CS処理によって内在性のメタロプロテイナーゼによるその切断が阻害されたことを示唆している.CSによるこの阻害効果が乳がん細胞株の浸潤性に与える影響を評価するために,浸潤性の高いMDA-MB-231 C1クローンを使用した.まず,このC1クローンにCecto-CまたはCecto-LおよびMockまたはMT1-MMPを同時に遺伝子導入し,強制発現されたMT1-MMPによるCD44の細胞外ドメイン切断の有無を評価した(図5B).遺伝子導入から24時間後の発光強度測定では,Cecto-C, Cecto-LともにMT1-MMPとの共発現によって有意な発光強度の減少を認めた.それぞれMockコントロールと比較して,Cecto-LではCecto-Cよりわずかだが発光強度の減少が大きかったため,C1クローンではCecto-Lを以降の実験に用いることとした.C1クローンにCecto-Lを24時間遺伝子導入した後,CSで24時間処理し,発光強度を測定した(図5C).20 μMおよび40 μMのCSで処理した細胞群では,溶媒で処理したコントロール群と比較して有意な発光強度の上昇が認められた.この結果から,浸潤性の高い乳がん細胞株においても,CSがCD44sの細胞外ドメインの切断を抑制する可能性が示唆された.

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図5 カスタノスペルミン(CS)によるCecto-C, Cecto-Lの細胞外ドメイン切断抑制および乳がん細胞の浸潤阻害

(A) MDA-MB-231乳がん細胞株にCecto-Cを24時間遺伝子導入した後,CSで24時間処理した細胞の発光強度.データは1回の実験につき各条件4ウェルで測定した平均値をn=1とした相対値(n=5)(平均値±標準誤差).ドットはそれぞれ1回の実験の平均値.*P<0.05対溶媒.(B)MDA-MB-231 C1クローンにCecto-CまたはCecto-LとMockまたはMT1-MMPを同時に遺伝子導入した24時間後の発光強度.データは1回の実験につき各条件4ウェルで測定した平均値をn=1とした相対値(n=5)(平均値±標準誤差).**P<0.01対Mock. (C)MDA-MB-231 C1クローンにCecto-Lを24時間遺伝子導入した後,CSで24時間処理した細胞の発光強度.データは1回の実験につき各条件4ウェルで測定した平均値をn=1とした相対値(平均値±標準誤差).*P<0.05, **P<0.01対溶媒.(D)MDA-MB-231 C1クローンを蛍光ゼラチン上でCSまたは溶媒含有培地にて24時間培養した.細胞固定後,免疫蛍光染色および蛍光ファロイジンと4′,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(4′,6-diamidino-2-phenylindole:DAPI)を用いてF-アクチンとDNAを標識し,共焦点レーザー走査型顕微鏡により撮影した.スケールバーは20 µm. (E)(D)のゼラチン分解領域のImageJ Fijiによる測定値.ドットは1回の実験で測定した平均値をn=1としたn=3のデータを示す(平均値±標準誤差)(測定した全細胞数;溶媒:334, 10 μM CS:369, 20 μM CS:408, 40 μM CS:381).*P<0.05対溶媒.(F)MDA-MB-231 C1クローンを24時間培養し,CS含有培地に置換した.24時間後,細胞をスクラッチしリンスした後,再度CS含有培地に置換し,24時間培養した.時間はスクラッチ直後を0時間として示す.スケールバーは0.5 mm. 拡大像は四角で囲まれた領域を示す.(G)(F)の細胞が存在しない領域の定量による細胞遊走の割合を示す.データは1回の実験につき各条件3ウェルで測定した平均値をn=1とした相対値(n=4)(平均値±標準誤差).*P<0.05, **P<0.01. 文献5より改変.

次に,CSがC1クローンの浸潤能に影響するかどうかを評価するために,ゼラチン分解アッセイを行った.蛍光ゼラチン上のC1クローンをCS含有培地にて24時間培養し,細胞固定した後に免疫蛍光染色および対比染色を行った(図5D).蛍光ゼラチンの分解領域を測定して細胞数で割り,1細胞あたりの平均分解面積で比較したところ,20 μMおよび40 μMのCS処理群は,溶媒で処理したコントロール群と比較して有意な分解面積の減少を示した(図5E).さらに,CSが細胞遊走に与える影響をC1クローンにて評価するために,スクラッチアッセイを行った(図5F).C1クローンをCS含有培地で24時間培養した後,細胞を引っかき,培地でリンスして浮遊した細胞を除去した.再度CS含有培地に交換して細胞を24時間培養し,細胞遊走を評価した.40 μMのCS処理群はその他の実験群およびコントロール群と比較して,有意な細胞遊走の減少を示したが,数値としての減少はわずかであった(図5G).これらの結果から,CSは内在性のメタロプロテイナーゼによるCD44の細胞外ドメインの切断を抑制することで,乳がん細胞株の浸潤を抑制し,わずかではあるが細胞遊走を抑制する可能性が示唆された.以上の結果から,Cecto-CおよびCecto-LはCD44細胞外ドメインの切断を阻害する薬剤評価のツールとして有用なツールとなることが示された.

6. おわりに

スプリットルシフェラーゼによる検出系は発光強度の測定が容易であり,定量的な解析が可能である.また,相補ルシフェラーゼの可逆性やL–L反応に励起光が不要な点は,長時間に及ぶ生細胞のモニタリングに適している.一方で基質の投与が必要であり,細胞内局在における詳細な解析では,その輝度の強さから蛍光タンパク質が優れている.発光生物は生物種の違いにより,発光スペクトルや発光基質の性質の違いがさまざまであるが,研究用途に基づき鑑みることで,いずれも有用なツールとなりうる.今後も研究への広範な応用が期待される.

謝辞Acknowledgments

浸潤性の高い乳がん細胞株での薬剤評価を実施するにあたり,MDA-MB-231 C1クローンを分与していただきました,北里大学理学部生物科学科の太田安隆教授,斉藤康二先生に深謝いたします.

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著者紹介Author Profile

野田 なつみ(のだ なつみ)

東京大学大学院理学系研究科化学専攻 特任研究員.博士(医学).

略歴

2006–07年旭川医科大学病院看護師.11年北海道大学大学院医学研究科博士課程修了.北海道大学大学院理学研究院,鳥取大学(鳥取県産業振興機構より出向)を経て,13年北海道大学大学院保健科学研究院助教.15年より現職.

研究テーマと抱負

乳がん細胞の浸潤メカニズムと浸潤阻害剤について探究し,特に難治性乳がんの治療法開発に貢献したい.

小澤 岳昌(おざわ たけあき)

東京大学大学院理学系研究科化学専攻 教授.博士(理学).

略歴

1969年東京都生まれ.93年東京大学理学部化学科卒業.98年同大学院理学系研究科化学専攻博士課程修了.同専攻で助教,講師を務めた後,2005年分子科学研究所准教授,07年より現職.

研究テーマと抱負

蛍光や発光タンパク質を利用したイメージング技術や細胞内シグナルを光操作するオプトジェネティクスの技術を開拓している.また独自の技術を展開して,薬物のスクリーニングや小動物の非侵襲的分子イメージングなど,共同研究を通じて創薬や医学の実学研究に展開を図っている.

ウェブサイト

https://analyt.chem.s.u-tokyo.ac.jp

趣味

読書.

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