Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 95(2): 144-150 (2023)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2023.950144

特集Special Review

神経変性の原因となるタンパク質微粒子の形成と伝播機構Molecular mechanisms of formation of pathological protein aggregates and propagation in neurodegenerative diseases

東京都医学総合研究所脳・神経科学研究分野Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science ◇ 〒156–8506 東京都世田谷区上北沢2–1–6 ◇ 2–1–6 Kamikitazawa, Setagaya-ku, Tokyo 156–8506, Japan

発行日:2023年4月25日Published: April 25, 2023
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アルツハイマー病,パーキンソン病,筋萎縮性側索硬化症などの主要な神経変性疾患の原因タンパク質の構造がクライオ電子顕微鏡解析により次々と明らかになってきた.疾患ごとにタンパク質の折りたたみ構造は異なり,構造の違いに基づいた疾患分類が提唱されている.また折りたたまれたタンパク質はプリオン病における異常型PrPのように,鋳型となって自身と同じタンパク質を異常型に変えながら線維化していく性質を持つ.タウ,αシヌクレイン,TDP-43について,さまざまな疾患における多様な病態とその構造について概説する.異常タンパク質の構造解明は神経変性疾患の発症,進行メカニズム,病気の診断・治療薬開発に役立つことが期待される.

1. はじめに

神経変性疾患には,その疾患を定義つける特徴的なタンパク質の異常蓄積病変が細胞内に認められ,その脳内分布や広がりが病態進行と密接に関係する.病変は電子顕微鏡(電顕)で観察すると線維化したタンパク質微粒子である.病変の広がりについてはあまり議論されてこなかったが,これらのタンパク質微粒子が感染因子「プリオン」と同じような性質を獲得し,正常型タンパク質を異常型に変換して増殖する機序が提唱され,この10年ほどで多数の実験的証拠が示されている.また個々の疾患の病理を形成する異常型タンパク質の折りたたみ構造もクライオ電顕解析で次々を明らかになり,それぞれのタンパク質の構造が疾患の病理,病態を決定することも提唱されている.

2. 主要な神経変性疾患と特徴病理

アルツハイマー病(Alzheimer disease:AD),パーキンソン病(Parkinson disease:PD),筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)などの神経変性疾患は,原因が不明であり,いまだ有効な根本的治療法がない難治性疾患である.これらの疾患の脳細胞内には異常タンパク質の蓄積病変が認められ,病態の進行に伴って広がることが知られている.ADでは細胞内の神経原線維変化と細胞外の老人斑が認められ,タウとアミロイドβがそれぞれを構成する主要なタンパク質と同定された.タウの病変分布は臨床症状と密接に関係し,その広がりは神経変性や病気の進行と深く関係するのに対し,アミロイドβは細胞外の蓄積であり,その量や広がりは病態進行と相関しない1).PDや関連疾患のレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)には,その特徴的病理構造物であるレビー小体,レビー突起が認められる.家族性PDの遺伝子解析から,発症と連鎖する複数のαシヌクレイン遺伝子(SNCA)のミスセンス変異が同定された2)ことをきっかけに,レビー小体の構成タンパク質としてαシヌクレインが同定された3).ALSは上位および下位の運動ニューロンが変性することにより,全身の筋肉が萎縮する難病中の難病といわれる神経疾患である.その神経細胞死の原因は長らく不明で,手がかりを残さない完全犯罪とまでたとえられていたが,ユビキチン染色によって変性する脊髄の運動神経にスケイン様封入体や球状封入体が明らかとなった.その後,詳細な生化学,免疫化学解析の結果,核タンパク質の一種であるTDP-43が構成成分であることが判明した4, 5).このように剖検脳からの凝集体の調製と生化学解析,タンパク質化学解析,および抗体を用いた免疫化学解析により,タウ,αシヌクレイン,TDP-43が神経変性疾患の異常病変を構成するタンパク質として同定され,その発症や神経変性の原因であることが明らかになってきた(図1).

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図1 神経変性疾患に認められる細胞内異常タンパク質の蓄積病変

3. タウ病理を伴う変性疾患

1)タウとアルツハイマー病

タウは微小管結合タンパク質の一種であり,神経細胞に多く発現し,微小管の重合促進,安定化に働くタンパク質である.mRNAのスプライシングにより一つの遺伝子から複数のアイソフォームを発現し,大人のヒトの脳では6種類が発現する.微小管との結合に関わる機能ドメインの繰り返し配列が三つの3リピート(3R)タウと四つの4リピート(4R)タウに大別され,その発現量比はおよそ1 : 1である6)図2).ADでは,ヒトの脳に発現するこの6種類すべてのタウが特異な線維構造をとって蓄積する7).患者脳に蓄積しているタウを質量分析などで詳細に解析した結果,約20か所ものSer/Theのリン酸化や,一部のリシン残基のユビキチン化が明らかとなった8, 9).そこで異常リン酸化がタウの凝集の原因と考えられ,さまざまな検討がなされたが,凝集を促進するような結果は得られなかった.一方,タウは死後変化で速やかに脱リン酸化されるが,線維化しているタウは脱リン酸化を受けにくいことが示された.また1996年には,リン酸化に関係なく,タウはヘパリン存在下で線維を形成することが報告された10).タウ蓄積と毒性の関係に関しては,長い間議論があったが,1998年に家族性認知症の家系に次々とタウの遺伝子変異が発見され,タウの異常が原因で認知症が引き起こされることが遺伝学的に証明された11).病的変異を有するすべての患者にタウの蓄積病変がみられることから凝集したタウが神経変性を引き起こすと考えられている.

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図2 変性疾患の特徴病理を構成する主要なタンパク質(タウ,αシヌクレイン,TDP-43)の模式図

2)タウオパチー

タウの蓄積病変はADだけでなく,他のさまざまな神経変性疾患でもみられ,それらはタウオパチーと総称される.ピック病(Pick disease:Pick),進行性核上性麻痺(supranuclear palsy:PSP),大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration:CBD),嗜銀顆粒性認知症(argyrophilic grain disease:AGD),慢性外傷性脳症(chronic traumatic encephalopathy:CTE),球状グリア性タウオパチー(globular glial tauopathy:GGT)などである.これらの疾患は,主に患者脳に認められるタウの蓄積病変の形態的特徴や出現分布の違いによって分類されてきたものであるが,生化学的にもそれらは区別されうる特徴を持つ.ADでは6種類すべてのタウアイソフォームが蓄積するのに対し,Pickでは3Rタウアイソフォームが,PSP, CBDでは4Rタウアイソフォームが蓄積する.また同じ4Rタウが蓄積するPSPとCBDでもタウのC末端断片のパターンが異なっている.蓄積タウの超微細形態も電子顕微鏡で明らかにされており,それぞれ特徴的な線維構造をとっている12).これらの線維はプロテアーゼによって分解を受けるファジーコートの部分と耐性を示す線維中心からなるが,我々は各疾患のタウ線維の中心を構成するトリプシン耐性のタウ領域を質量分析などで決定し,疾患ごとに異なる微小管結合領域を含む特徴的な配列がタウの線維中心を構成していることを明らかにした12)

3)異常型タウのプリオン様伝播

これらの患者脳から調製したタウ線維,あるいはそれを含む抽出物をマウスの脳に接種すると数か月から1年後にそれぞれの疾患に特徴的なタウの病理を誘導することが示された.AD患者脳の抽出物やタウを接種すると神経原線維変化に類似したタウ病変が形成され,CBDやPSP患者脳由来のタウを接種した場合には神経細胞だけでなく,グリア細胞内に疾患特徴的な病変が観察された13, 14).プリオン病研究の感染実験と同じであり,患者由来の異常型タウ(タウ線維)が正常型タウ(内在性の可溶性タウ)を変換し,疾患特徴的な異常型に変換したことを示す.このことはタウの異常構造が鋳型となってプリオン様性質を獲得し,正常型タウを異常型に変換,細胞間を伝わって広がることを強く示唆した.

4. αシヌクレイン病理を伴う変性疾患

1)αシヌクレインとパーキンソン病

αシヌクレインは140アミノ酸からなる一本鎖ポリペプチドで,シナプス前末端に局在し,シナプス機能制御や神経可塑性に働くことが示唆されている(図2).アミノ末端側にKTKEGVの不完全な繰り返し配列(図2の赤いボックス)が存在し,中央部は比較的疎水性のアミノ酸,カルボキシ末端は親水性の高い酸性アミノ酸が多い.天然変性タンパク質(natively unfolded protein)の一種とされ,生理的な条件下では明瞭な構造をとっていない.1997年,優性遺伝形式をとる家族性PDの家系に発症と連鎖するαシヌクレイン遺伝子(SNCA)の変異(A53T)が発見され,直後に特異抗体による免疫染色によってレビー小体の構成成分であることが判明し,一躍注目を集めるタンパク質となった.その後,A30P, E46K, H50Q, G51D, A53Eなどの変異に加え,αシヌクレイン遺伝子の重複によってもPDが発症することが報告されている.また多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)の特徴的病理構造物のグリア細胞封入体もαシヌクインが構成成分であることが判明し15, 16),PD, DLB, MSAはαシヌクレイノパチーと総称されている.患者脳内に蓄積するαシヌクレインは,電子顕微鏡観察で,直径10 nm程度の線維を形成して蓄積していることが示されている17).また患者脳に蓄積しているαシヌクレインの生化学,タンパク質化学解析から,129番目のSerが異常にリン酸化され,また一部のαシヌクレインはユビキチン化されている18, 19)ことが判明している.アミノ酸配列が78%相同のβシヌクレインはレビー小体の構成要素でないことも示されている.

2)異常型αシヌクレインのプリオン様伝播

大腸菌にαシヌクレインを発現し,熱安定性などを利用し,リコンビナントタンパク質を大量に精製することが可能である.精製したαシヌクレインは一定の条件下(ex. 1 mg/mL, 200 rpm)に置くと線維化し,患者脳にみられるものと同じような形態の構造をとる(図3).この線維化したαシヌクレインを可溶性のαシヌクレインに少量加えると,線維化が急速に進む.これは線維形成の過程が核形成と線維伸長の二つの過程からなり,律速過程である核形成過程をスキップして線維化が進むからである.この過程は,異常型であるαシヌクレイン線維を正常型である可溶性αシヌクレインと混合すると,正常型が異常型に変換されるプリオン様の現象である20).同じことが培養細胞でも観察される.αシヌクレインを培養細胞に過剰発現させても凝集体は形成されないが,その細胞にαシヌクレイン線維をリポフェクションで導入すると,数日中にレビー小体に似た凝集体が形成される21).凝集したαシヌクレインは異常なリン酸化を受け,ユビキチン化も受けていることが観察される.またマウスなどの動物への接種実験でもプリオン様伝播が実証されている.線維化したαシヌクレインを野生型マウスの脳に接種すると,数か月から半年で患者脳に似たαシヌレクインの蓄積病変が観察される22).詳しい生化学解析から,接種したαシヌレクイン線維は1週間程度で分解され,後に内在性のマウスαシヌレクインが蓄積することが示されている.さらに小型霊長類のマーモセットやマカクにおいても同様に,αシヌクレイン線維の接種により病変の形成と伝播が確認されている23)図3).DLB患者のαシヌクレイン線維を接種したマウスにおいても病変形成と伝播は誘導されるが,MSA患者由来のαシヌレクイン線維の方がそのプリオン様活性は強く,同じタンパク質でも性質が異なる「strain」,「株」が存在し,異なる疾患を引き起こすことが示唆されている.しかし,MSA患者ではαシヌクレインはオリゴデンドロサイトに主に蓄積するが,不思議なことにMSA患者由来のαシヌクレイン線維を接種したマウスの脳では神経細胞内に凝集体形成がみられ,MSA患者の病理は再現されない.マウス脳のオリゴデンドロサイトではαシヌクレインの発現がないので当然かもしれないが,MSAでオリゴデンドロサイトにαシヌクレインが蓄積する機序は不明である.

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図3 αシヌクレイン線維のプリオン様性質

5. TDP-43病理を伴う変性疾患

1)TDP-43とALS/FTLD

TDP-43は414個のアミノ酸からなる不均一核内リボ核酸タンパク質(heterogeneous nuclear ribonucleoprotein:hnRNP)の一種である.核移行配列(NLS),二つのRNA認識モチーフ(RRM),C末端側にグリシン,グルタミン,アスパラギンに富む低複雑性プリオン様ドメイン(low complexity prion like domain)が存在する(図2).全身の臓器に広汎に発現し,主に核に局在し,pre-mRNAのスプライシングをはじめとするプロセッシング機構の調節やmRNAの核から細胞質への輸送などに関与する.2006年に筋萎縮性側索硬化症(ALS)の運動ニューロンに出現するユビキチン陽性構造物(スケイン様封入体など)と,前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration:FTLD)のユビキチン陽性封入体の主要構成成分であることが判明した4, 5).その後,家族性および孤発性ALS患者にTDP-43遺伝子の変異が相次いで報告されたことから,TDP-43はALSの発症,病態進行に関わる最も重要な分子となった.TDP-43の異常病変がみられる疾患はTDP-43プロテイノパチーと総称され,ALSやFTLDなどが含まれる.神経細胞あるいはグリア細胞の細胞質,突起内,あるいは核内に認められ,疾患や病型によりその形態的特徴と病変分布が異なり,少なくともType A~Dの4タイプの異なる病型が報告されている(典型的なALSはType Bに分類).TDP-43の蓄積形態は,電子顕微鏡観察でやはり線維状の構造が確認されている.生化学的には,全長および断片化したTDP-43がリン酸化やユビキチン化を受けて蓄積している24).その検出には,正常型TDP-43とは反応せず,凝集したTDP-43とのみ反応するC末端近傍のリン酸化部位特異抗体(pS409/410など)が有用である.タウと同様,その線維中心はプロテアーゼ耐性を示し,タイプごとにバンドパターンが微妙に異なる25).リン酸化や断片化は,凝集,蓄積の原因となる可能性も考えられたが,タウの場合と同じように,実験結果などから構造変化や蓄積が起こった後に細胞がそれを処理しようとした試みと考えられる.変性の原因は,異常構造をとったTDP-43自体が細胞毒性や変性に関わるとする仮説や,凝集すると核内の正常型TDP-43の局在が変化することからその機能喪失で変性するとする仮説,またその両方が関係するとする仮説がある.

2)異常型TDP-43のプリオン様伝播

患者脳に蓄積する異常型TDP-43がプリオン様性質を示すことも実験的に証明されている.TDP-43を培養細胞に過剰発現させても,核に局在するのみで,凝集は誘導されないが,ここに患者脳の不溶性TDP-43線維を導入すると,細胞質にTDP-43の凝集体が観察される.それは線維化し,異常にリン酸化されている26).また凝集体が観察された細胞では,正常型TDP-43の核内局在も消失する.TDP-43のG274-F313とG314-N353の合成ペプチドはin vitroで線維を形成し,これらの線維は培養細胞に発現した野生型TDP-43やNLS欠損TDP-43を凝集させる播種活性を持っており,TDP-43の線維形成に274-353残基が重要であることが示唆される27).またNLSを欠いたTDP-43を過剰発現するトランスジェニックマウスに患者由来のTDP-43を脳内接種するとリン酸化TDP-43陽性の細胞内封入体を形成することが報告されている28).TDP-43はαシヌクレインやタウと違い,大腸菌に発現すると凝集体を形成し,リコンビナントタンパク質の調製ができないことから,合成TDP-43線維を用いた検討ができていない.この理由から,αシヌクレインやタウほどプリオン様伝播実験も十分に進んでいない.

6. クライオ電顕解析による病原タンパク質線維の構造

近年,低温電子顕微鏡(クライオ電顕)及びその解析手法の著しい進歩により,上記のさまざまな神経変性疾患の病理を構成する異常タンパク質の構造が次々に明らかにされている.

1)タウ線維の構造

タウオパチー患者の脳から抽出したサルコシル不溶性画分に回収されるタウ線維の解析により,各疾患を特徴づけるタウ線維の中心構造が明らかにされた(図4).AD患者の脳では,3RタウのG273-E380と4RタウのG304-E380からなるC型のコア構造が同定された29).Paired helical filament(PHF)とstraight filament(SF)のプロトフィラメントは共通の構造を持つが,プロトフィラメントの界面は異なっていた.CTE症例では,3RタウのK274-R379と4RタウのS305-R379からなる中心構造が確認され,それはADの構造と少し異なっていた30).Pickの症例から抽出されたタウ線維はJ型に折りたたまれた中心構造であり,3RタウのK254-F378がその形成に関わっていた.ほとんどの線維がシングルプロトフィラメント型であるが,2本のプロトフィラメントからなるツイスト線維も確認された31).CBD症例から抽出されたタウ線維は,4RタウのK274-E380からなる新規の折りたたみ構造であり,その中に非タンパク質コファクターを持つことが明らかとなった32).PSPのタウの折りたたみはCBDのそれとは異なり,4RタウのG272-N381からなっていた.また,定型・非定型のPSP症例間で同一であった33).GGT症例では,PSPのタウの折りたたみに類似した4RタウのG272-R379からなる中心構造が確認された33).AGD, FTDP-17T(イントロン10変異+3, +16)の症例からは,4RタウのG273-D387またはN279-N381からなるCBDのタウの折りたたみに似た中心構造が確認された33).興味深いことに,上記のタウオパチーにおける疾患特異的なリン酸化は,これらの線維の中心構造の周辺に検出される34).AD症例におけるS356の非リン酸化とPick症例におけるS262での非リン酸化は,これらの残基が外側からアクセスできない位置に存在することで説明でき,これらの残基の翻訳後修飾が線維形成後に起こることを示唆している34, 35)

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図4 さまざまな神経変性疾患の特徴病変,病理を構成するタンパク質線維,折りたたみ構造

2)αシヌクレイン線維の構造

PD/DLB例から抽出されたαシヌクレイン線維は直線的であるが,MSA例から抽出された線維は80~100 nmの周期でねじれた状態で観察される36)図4).クライオ電顕解析の結果,MSAの患者脳から調製したαシヌクレイン線維には,タイプIとタイプIIの2種類が存在することが確認された.タイプIはG14-F94からなるPF-IAとK21-Q99からなるPF-IBの二つのプロトフィラメントからなり,タイプIIはG14-F94からなるPF-IIAとG36-Q99からなるPF-IIBの二つのプロトフィラメントからなっていた.さらに,タイプIとタイプIIの両方にコファクターの存在が観察された.これらの非タンパク質コファクターの詳細は不明であるが,2本のプロトフィラメントの集合に関与していることが示唆される.DLB症例から抽出したαシヌクレイン線維は,MSA症例から抽出した線維とは異なり,ねじれがなくその構造解明が困難とされていたが,少数(25%)の線維はねじれており,ヘリカル再構成による構造決定がなされた37).PD, PDD, DLB患者脳のαシヌクレイン線維の構造は,いずれもMSAとは異なり,G31からL100がLewy-foldと名づけられた折りたたみ構造をとり,単一のプロトフィラメントを形成していることが判明した37).野生型や家族性PDの原因を引き起こす点変異を導入した合成αシヌクレイン線維のコア構造も報告されているが,合成タウ線維の場合と同様に,合成αシヌクレイン線維の構造はどれもMSA症例から同定されたI型およびII型フィラメントの構造とは異なっていた.

3)TDP-43線維の構造

ALSの患者脳に蓄積するTDP-43線維についても,クライオ電顕解析によりその構造が明らかとなった.ALS認知症と診断された2例のALS患者から抽出したTDP-43線維のクライオ電顕解析では,G282-Q360からなる二重らせん状の折りたたみが確認され,合成TDP-43線維の中心構造とは異なることがわかった(図438).FTLD-TDPの他のサブタイプの患者の脳から抽出したTDP-43線維の構造もクライオ電顕解析により今後明らかになると考えられる.

7. おわりに

原因不明で謎の病気とされていた神経変性疾患であるが,神経病理,生化学解析から原因タンパク質が特定され,それらはプリオン様性質をもつことがin vitroおよびin vivoモデルで示されてきた.そして実際の患者脳に蓄積する異常タンパク質の構造がクライオ電顕解析で次々と明らかにされている.得られた構造から,タンパク質の凝集体は規則正しい折りたたみ構造をとってそれが積み重なるように線維を形成し,プリオン様に自己複製するメカニズムが説明できる.疾患,病型によって線維を形成しているタンパク質の原子構造は異なり,凝集体の形態だけでなく,伝播する細胞や脳領域を規定し,病態自体を決定していると考えられる.今後,明らかとなった原子構造を基にして特異的に結合する低分子化合物が開発され,診断,治療薬に応用されることが期待される.

謝辞Acknowledgments

本研究はCREST細胞外微粒子の支援を受けている.

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著者紹介Author Profile

長谷川 成人(はせがわ まさと)

東京都医学総合研究所脳・神経科学研究分野 分野長.認知症プロジェクトリーダー.博士(医学).

略歴

1961年新潟県に生る.86年筑波大学大学院修了.93年東京大学医学部脳研究施設助手.95年MRC分子生物学研究所研究員.99年東京大学院薬学系研究科講師.2001年東京都精神医学総合研究所部門長.20年より現職.

研究テーマと抱負

神経変性疾患の発症,進行機構.患者剖検脳に蓄積する異常タンパク質の解析を通して,ALSなどの神経難病,変性性認知症の病態進行機構を解明し,根本的な治療法の開発につなげたい.

ウェブサイト

https://www.igakuken.or.jp/project/to-tomin/to-pro07.html

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