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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 95(4): 428-435 (2023)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2023.950428

特集Special Review

腸内細菌が産生する脂質代謝物の構造と機能Structure and function of lipid metabolites produced by intestinal microbiota

1慶應義塾大学大学院薬学研究科代謝生理化学講座Division of Physiological Chemistry and Metabolism, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Keio University ◇ 〒105–8512 東京都港区芝公園1–5–30 ◇ 1–5–30 Shibakoen, Minato-ku, Tokyo 105–8512, Japan

2慶應義塾大学WPI-Bio2QHuman Biology-Microbiome-Quantum Research Center (WPI-Bio2Q), Keio University ◇ 〒160–8582 東京都新宿区信濃町35 ◇ 35 Shinanomachi, Shinjuku-ku, Tokyo 160–8582, Japan

3理化学研究所生命医科学研究センターメタボローム研究チームLaboratory for Metabolomics, RIKEN Center for Integrative Medical Sciences ◇ 〒230–0045 神奈川県横浜市鶴見区末広町1–7–22 ◇ 1–7–22 Suehiro-cho, Tsurumi-ku, Yokohama, Kanagawa 230–0045, Japan

4大阪大学大学院情報科学研究科バイオ情報計測学講座Department of Bioinformatic Engineering, Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University ◇ 〒565–0871 大阪府吹田市山田丘1–5 ◇ 1–5 Yamadaoka, Suita, Osaka 565–0871, Japan

5横浜市立大学大学院生命医科学研究科代謝エピゲノム科学研究室Cellular and Molecular Epigenetics Laboratory, Graduate School of Medical Life Science, Yokohama-City University ◇ 〒230–0045 神奈川県横浜市鶴見区末広町1–7–29 ◇ 1–7–29 Suehiro-cho, Tsurumi-ku, Yokohama, Kanagawa 230–0045, Japan

発行日:2023年8月25日Published: August 25, 2023
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腸内細菌叢は複雑な代謝ネットワークを構築し,健康維持や疾患の発症・進展に寄与している.このメカニズムの一端には,腸内細菌に由来する代謝物が宿主の受容体に作用する機構があげられる.腸内細菌由来の脂質には,アシル基の分岐やヒドロキシ基修飾,極性基の構造などが宿主由来のものとは異なるという特徴がある.そしてこれら脂質の微細な構造の違いは,宿主受容体に対する反応性に大きく影響することがある.本稿では,これまでに明らかにされている腸内細菌由来の機能性脂質代謝物について,産生に関わる細菌種,作用する宿主受容体,およびその構造活性相関などについて概説する.

1. はじめに

腸内細菌叢は,宿主組織や免疫細胞と相互作用することで複雑な「腸エコシステム」を形成し,宿主の生体恒常性に影響を与える.炎症性腸疾患,大腸がん,糖尿病,関節リウマチなどさまざまな疾患で,病原性細菌の増加や微生物多様性の減少といった腸内細菌叢バランスの乱れ(dysbiosis)が高頻度に観察されている1).消化管疾患のみならず,全身性疾患で広くdysbiosisが認められることから,腸内細菌に由来する何らかの制御因子の血流による宿主遠隔組織への移行や,神経系への作用を介して,全身性の表現型に関与する可能性が考えられている2, 3)

宿主–細菌間の相互作用を媒介する因子の一つに,細菌の脂質がある.脂質には,アシル鎖の鎖長や分岐,極性頭部の修飾,立体化学など構造的違いに起因する膨大な分子多様性がある.細菌は宿主とは異なるユニークな構造の脂質を産生し,それらがパターン認識受容体(pattern recognition receptor:PRR),Gタンパク質共役型受容体(G-protein-coupled receptor:GPCR),核内受容体,イオンチャネルなどに作用して,宿主の表現型に影響を与えることが示されている4)

本稿では,これまでに明らかにされている腸内細菌由来の機能性脂質代謝物が作用する宿主受容体や生理活性をレビューする.

2. 腸内細菌の産生する脂質とその標的受容体

脂質は,骨格構造に基づいて体系的に分類されており,LIPID MAPSデータベースによるとこれまでにのべ45,000種以上の多様な分子種が存在することが推定されている5).まず,基本骨格の違いに基づいて脂肪族アシル,グリセロ脂質,スフィンゴ脂質,糖脂質,ステロール脂質などのカテゴリに分類され(図1),それぞれの脂質カテゴリの中に極性頭部の構造が異なる脂質クラスが存在し,それらに結合するアシル鎖の構造の違いや組合わせの数によって脂質分子種の膨大な多様性が生み出される.本稿では,各カテゴリの代表的な細菌由来脂質の構造と,作用する宿主受容体について紹介する.

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図1 腸内細菌の産生する脂質の構造多様性

腸内細菌は,複雑な脂質代謝ネットワークを形成し,宿主に作用していると考えられている.腸内細菌が主に産生する脂質は,分岐やシクロプロパン環,β位のヒドロキシ基を含むアシル鎖を持ち,これらは宿主由来の脂質と構造的に異なる.さらに腸内細菌は,外来脂質の変換反応(例:LAや胆汁酸)を行うことで,微細構造の異なる脂質を産生する.

1)脂肪族アシル(fatty acyls)

脂肪族アシルは,カルボキシ基を持つ炭化水素鎖で定義される.アシル鎖の炭素鎖長,不飽和度に加えて,分岐位置,ヒドロキシ基やケト基の有無など構造多様性がある.

a.分岐脂肪酸,シクロプロパン脂肪酸

哺乳類には直鎖状かつ偶数炭素鎖の脂肪族アシルが多いのに対し,細菌には,炭素数が奇数でiso型やanteiso型などの分岐,シクロプロパン環を持つ脂肪族アシルが多く,その構造的差異が宿主受容体に対する親和性に影響することが報告されている.たとえば,Bacteroides vulgatus由来のanteiso型脂肪酸12-methyltetradecanoic acidは1型ニューロメジンU受容体(NMU1R)とウロテンシンII受容体(UTR2)を活性化するが,iso型の構造異性体13-methyltetradecanoic acidは,これらの受容体のリガンド活性がほとんどないことが報告されている6)図2).大腸菌LF82株由来のシクロプロパン型脂肪酸である9,10-methylenehexadecanoic acidは,brain-specific angiogenesis inhibitor 1(BAI1)に作用する一方で,直鎖型の飽和脂肪酸のリガンド活性は低いことも示されている6)図2).

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図2 腸内細菌由来脂肪酸の構造および受容体選択性

Bacteroides vulgatusの産生するanteiso型脂肪酸は,宿主GPCRの一種であるNMU1RおよびUTR2を活性化するが,iso型脂肪酸においてこの活性は非常に弱い.また,大腸菌(Escherichia coli)由来のシクロプロパン(cyclopropan)環含有脂肪酸は,直鎖型の飽和脂肪酸にないBAI1へのリガンド活性を有する.

b.水和化脂肪酸

腸内細菌は,宿主や食事などに由来するリノール酸(LA),α-/γ-リノレン酸,アラキドン酸などの多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid:PUFA)を水和化することが知られている7)Lactobacillus plantarum AKU 1009aは,LAを基質として共役LAを合成する過程の中間体としてさまざまな機能を持つヒドロキシ脂肪酸やオキソ脂肪酸を産生する8)図3).中でも,10-hydroxy-cis-12-octadecenoic acid(HYA)はLAよりも低濃度で長鎖脂肪酸(LCFA)受容体GPR40およびGPR120に作用する9, 10).HYAはGPR40に作用することで腸管バリア能を改善することがCaco-2細胞を用いた系で示されており,マウスへの経口投与によるデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性大腸炎の改善効果が報告されている9).また,HYAの投与はGPR40, GPR120を介してグルカゴン様ペプチド-1(glucagon-like peptide 1:GLP-1)の放出を促進し,LA投与群と比較して大きく血中グルコース濃度を低下させることが示されている10)図3).

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図3 乳酸菌によるLA変換およびその生理活性

乳酸菌類は,LAを水和化することでHYAやKetoAを産生する.これらの脂肪酸はGPR40, GPR120への作用を介して,耐糖能改善作用,腸管バリア能向上作用を発揮する.また,KetoAはイオンチャネルであるTRPV1チャネルに作用することで,エネルギー消費を高め,肥満抵抗性を付与する.

一部の水和化脂肪酸中間体はイオンチャネルにも作用する.10-oxo-cis-12-octadecenoic acid(KetoA)は,transient receptor potential vanilloid 1(TRPV1)チャネルを介してミトコンドリア脱共役タンパク質(uncoupling protein 1:UCP1)の発現上昇など褐色脂肪細胞の機能を活性化することにより高脂肪食誘発体重増加を抑制する11).このように腸内細菌はメチル基やヒドロキシ基の位置が異なる多様なLCFAを産生し,それらの構造の差異が受容体に対する親和性やアゴニスト活性の違いにつながる(図3).

c.脂肪酸アミド

脂肪酸アミドは,脂肪酸とアミンがアミド結合した構造を持ち,宿主と細菌の両方によって生合成される.細菌の産生する脂肪酸アミドは,アシル鎖の構造や結合しているアミノ酸が宿主とは異なる.GPR119は,宿主内因性リガンドN-oleoyl ethanolamineによって活性化し,腸管L細胞におけるGLP-1放出を促進する12).一方,細菌が産生するGPR119リガンドとして見いだされたN-oleoyl serinolは,宿主内因性リガンドN-oleoyl ethanolamineと比べて同等の半数効果濃度(EC50)で最大活性が約2倍であることが報告されている.実際,無菌マウスにN-oleoyl serinol産生酵素を発現させた大腸菌を定着させると,産生酵素を発現させていない大腸菌定着群と比較してGLP-1の増加や耐糖能の向上が確認されている13).脂肪酸アミドは主にBacteroidota門およびPseudomonadota門の腸内細菌において産生が報告されていた.近年,Bacillota門に属するEubacterium ractaleの産生するN-lauroyl tryptamineが,オキシステロール受容体であるEpstein–Barr virus-induced gene 2(EBI2)のアンタゴニストとして働くことが報告された14).このように,腸内細菌が産生する特徴的な構造の脂肪酸アミドが,宿主GPCRを介して宿主の恒常性維持に影響する(図4).

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図4 宿主および腸内細菌脂質の構造およびリガンド活性の違い

GPR119の宿主内因性リガンドの一つはN-oleoyl ethanolamineであるが,微生物由来のN-oleoyl serinolも作用する.一方で宿主オキシステロール受容体であるEBI2に対しては,構造が大きく異なる微生物由来のN-lauroyl tryptamineがアンタゴニストとして作用する.また,宿主に広く分布する直鎖脂肪酸含有ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamine:PE)にPRRへのリガンド活性はないが,微生物由来のanteiso型およびiso型脂肪酸をそれぞれ含有したPEにはTLR2のリガンド活性が存在する.

2)グリセロリン脂質(glycerophospholipids)

グリセロリン脂質は,グリセロール骨格に二つのアシル鎖とリン酸を含む極性頭部を持つ.真核生物同様,原核生物も細胞膜構成脂質としてリン脂質を利用し,ホスファチジルエタノールアミン(PE)が主要な膜リン脂質であることが,大腸菌を用いた研究で明らかとなっている15).しかし現在に至るまで,細菌の持つリン脂質の標的受容体はほとんどが不明である.Baeらは,菌抽出脂質画分をマウス骨髄由来樹状細胞(mBMDC)に添加し,産生されるTNFαの量を調べることで,宿主免疫応答に深く関与していると考えられているAkkermansia muciniphilaの脂質抗原を探索した16).その結果,異なる分岐位置の脂肪酸を持つPE(anteiso C15:0-iso C15:0 PE)がToll-like receptor 2(TLR2)を強力に活性化することが報告された.興味深いことに,TLR2の活性化はanteiso型およびiso型の両方を持つPEのみで引き起こされ,同一の分岐位置脂肪酸(iso-isoもしくはanteiso-anteiso)および直鎖型の脂肪酸を持つPEはTLR2を活性化できないことが示されており16),宿主PRRは微生物由来脂質の構造を厳密に認識する(図4).

3)スフィンゴ脂質(sphingolipids)

スフィンゴ脂質は,スフィンゴイド塩基を基本骨格とする脂質分子であり,結合するアシル鎖や極性頭部の構造によって多様性がある.真核生物はスフィンゴ脂質の産生能を広く有しているが,原核生物では限定的であり,腸内細菌叢中ではBacteroidota, Alpha-ProteobacteriaおよびDelta-Proteobacteriaなどがスフィンゴ脂質を産生する17).真核生物と原核生物の産生するスフィンゴ脂質の構造は異なることが多い.一般に,細菌の産生するスフィンゴ脂質は,スフィンゴイド塩基に不飽和結合を持たず,しばしば末端が分岐している18).一方で,ヒトのスフィンゴ脂質はスフィンゴイド塩基の4位にトランス型不飽和結合を持つ直鎖構造をとる17)

スフィンゴ糖脂質は,スフィンゴ脂質の極性頭部に糖が結合した分子である.スフィンゴ糖脂質の機能のうち最もよく研究されているのが,Bacteroides fragilisの産生するα-ガラクトシルセラミド(aGC)によるinvariant natural killer T(iNKT)細胞の制御である18–20).一般的にaGCに代表される糖脂質は,樹状細胞等に発現しているCD1dに結合し,NKT細胞のT細胞受容体に認識されることでNKT細胞を活性化させる.スフィンゴ脂質生合成初発酵素serine palmitoyl-CoA transferaseを欠損したB. fragilis株を定着させたマウスから生まれた仔は,野生型菌を定着させた群の仔よりも大腸のiNKT細胞数が増加した20)ことから,幼少期の腸内細菌叢由来のスフィンゴ脂質への曝露が宿主iNKT細胞の恒常性に大きな影響を与えることが示された.さらに同グループは,B. fragilis aGCの粗画分をCD1dリガンドであるKRN7000と共投与すると,KRN7000単独と比較してiNKT細胞によるIL-2産生量が有意に抑制されることを見いだした20).一方,Brownらは,B. fragilis aGCの粗画分が濃度依存的にiNKT細胞の活性化を部分的に誘導したが,iNKT細胞におけるIL-2産生量はKRN7000よりも低いことを報告している19).最近の研究では,さまざまな構造のアシル鎖とスフィンゴイド塩基を持つ合成aGCのiNKT細胞活性化能が検討され,スフィンゴイド塩基の末端が分岐したaGC(SB2217)は,直鎖状のaGC(SB2219)よりもiNKT細胞をより強く活性化させることが報告された18).これらの研究は,細菌のスフィンゴ糖脂質の末端構造が宿主の免疫機能調節と密接に関係していることを示している(図5a).

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図5 腸内細菌の産生するスフィンゴ脂質および糖脂質の構造差異

(a)海綿から見いだされたKRN7000はCD1dに結合し,iNKT細胞を強力に活性化する.一方でBacteroides fragilis由来のaGCはOH基の位置,アシル鎖の長さおよび分岐の有無がKRN7000と異なる.分岐を含まないaGC(SB2219)に対して,分岐を含むaGC(SB2217)の方がiNKT細胞活性化能が高いことが示されている.(b)Escherichia coli由来のLipid Aはアシル鎖数が6かつリン酸基数が2であり,TLR4のアゴニストとして作用する.一方でBacteroides dorei由来のLipid Aはアシル鎖数およびリン酸基数が異なり,TLR4のアンタゴニストとなる.

4)糖脂質(saccharolipids)

グラム陰性菌の持つ代表的な脂質として,リポ多糖(LPS)の疎水性アンカーを形成するLipid Aがあげられる.Lipid Aは一般的に,一つまたは複数のリン酸基を持つジグルコサミン骨格とβ-ヒドロキシ脂肪酸から構成される.最もよく研究されている大腸菌の持つLipid Aは二つのリン酸基および六つのアシル鎖を持ち,宿主PRRの一種であるToll-like receptor 4(TLR4)に対してアゴニスト活性を示す.一方で,腸内に豊富に存在する細菌の一種であるBacteroidota由来のLipid Aは,一つのリン酸基および五つのアシル鎖から構成され,TLR4アンタゴニスト活性を有する21)図5b).幼児期におけるBacteroidotaの相対量が多いフィンランド人やエストニア人は,Bacteroidota型のLipid Aによって大腸菌型Lipid AのTLR4シグナルが阻害されることから,免疫寛容形成が不十分となり,自己免疫疾患を罹患しやすい傾向にあると考えられている21).近年の研究では,BacteroidotaのLipid Aは鎖長が異なる混合物であることや,菌種によってその存在比も異なることが報告されている22).そのため,菌株ごとに腸内細菌由来Lipid Aの詳細な構造を明らかにする必要がある.

5)ステロール脂質(sterol lipids)

腸内細菌は,コレステロールから宿主によって合成される胆汁酸類を異性化することで宿主恒常性維持に寄与する.胆汁酸は,5β-コラン酸骨格を基とする両親媒性のステロール脂質である.胆汁酸は宿主由来の一次胆汁酸と,それが細菌によって変換された二次胆汁酸に分類される.宿主肝臓でコレステロールから生合成されグリシン,タウリンなどで抱合された一次胆汁酸は,十二指腸に放出され,腸内細菌による脱抱合を経て二次胆汁酸に変換される.ヒドロキシ基の数やステロール環の立体構造が変化した二次胆汁酸は,核内受容体やGPCRに作用することで,免疫細胞の誘導等に影響する.

胆汁酸は核内受容体の一種であるファルネソイドX受容体(farnesoid X receptor:FXR)に作用することが知られている.一次胆汁酸の一種であるケノデオキシコール酸(CDCA)は,二次胆汁酸であるリトコール酸(LCA)やデオキシコール酸(DCA)よりもFXRを低濃度で活性化させる23).また,Clostridium bolteaeはチロシンもしくはフェニルアラニンで抱合されたコール酸(CA)を産生し,これらはCDCAよりも低濃度でFXRを活性化させることが報告されている24)

胆汁酸は宿主免疫細胞の分化誘導にも関与する.DCAの3位が細菌によってβ結合ヒドロキシ基に変換されたイソデオキシコール酸(isoDCA)は,樹状細胞のFXRに拮抗することにより,ナイーブCD4 T細胞からTreg細胞への分化を促進する25)図6).この効果はFoxp3の発現を亢進させるconserved non-coding sequence 1(CNS1)依存的であることが示されている.ヒドロキシ基と環の立体構造が異なるLCAの構造異性体イソアロリトコール酸(isoalloLCA)は,Treg細胞の分化を促進する26)図6).提案されているメカニズムは,Foxp3プロモーター領域のH3K27アセチル化レベルの増加,およびナイーブCD4 T細胞におけるミトコンドリア活性酸素種の産生の増強である26).さらに同グループは,isoalloLCAのTreg細胞誘導活性が,ナイーブCD4 T細胞における核内ホルモン受容体(NR4A1)の欠損で著しく減少することから,NR4A1によるTreg細胞誘導メカニズムを提唱している27).また,isoalloLCAは百寿者の便中に多く存在し,グラム陽性の多剤耐性病原菌に対する抗菌活性を持つことが報告されている28)

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図6 二次胆汁酸分子種の構造差異に基づく生理活性の違い

腸内細菌は,宿主によって産生された一次胆汁酸を二次胆汁酸へと変換する.その中でも,A環ヒドロキシ基がβ位であるisoLCA, 3-oxoLCAにはTh17細胞分化抑制作用があり,α位であるLCAにこの作用はない.さらに,環の立体がisoLCAと異なる,isoalloLCAにはTreg細胞分化促進作用が報告されている.A環ヒドロキシ基がβ位であるisoDCAは樹状細胞に存在するFXRを阻害することで,Treg細胞への分化を促進する生理活性が存在する.

二次胆汁酸はTh17細胞の分化抑制にも関与する.LCA生合成の中間体である3-オキソリトコール酸(3-oxoLCA)は,レチノイン酸関連オーファン受容体γt(retinoic acid-related orphan receptor γt:RORγt)に直接結合し,ナイーブCD4 T細胞からのTh17細胞分化を抑制する26).さらに近年,同様の活性がイソリトコール酸(isoLCA)にも報告された29)図6).Th17阻害活性がないLCAにおいてはステロールA環の3位ヒドロキシ基がα位であるが,阻害活性を有するisoLCAはこれがβ位であり,ヒドロキシ基の立体配置がRORγt結合に重要である.

GPCRの一種であるTGR5(GPBAR1)は胆汁酸によって活性化し,二次胆汁酸のLCAとDCAがその主要なリガンドである30).また,LCAはNLRP3インフラマソーム活性化を阻害し,そのメカニズムとしてTGR5活性化に伴うprotein kinase Aの活性化を介してNLRP3インフラマソームのリン酸化およびユビキチン化を促進する経路が示されている31).このことから,胆汁酸-TGR5軸は抗炎症作用に寄与する.

3. おわりに

腸内細菌の産生する脂質は,宿主の産生する脂質と比較して,アシル鎖の長さ,分岐やヒドロキシ基の有無,極性基の構造が大きく異なる.その構造の違いが,宿主受容体への選択性を決定する要因であり,腸内細菌による宿主恒常性維持機構に大きく関与する.細菌種ごとに特徴的な脂質代謝物を明らかにすることは,さまざまな疾患で増減する腸内細菌種の意義を読み解き,生体恒常性維持や疾患増悪に関与する真の実行因子を特定することにつながる.今後,最先端の質量分析技術およびインフォマティクスを駆使した研究の進展によって,腸内細菌の構築する複雑な脂質代謝ネットワークをひも解き,腸内細菌–宿主のクロストークの全貌が明らかになることが期待される.

謝辞Acknowledgments

本稿の作成にあたり,JSPS新学術領域研究「リポクオリティ」およびJST-ERATOリピドームアトラスプロジェクトの支援を受けた.

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22) Okahashi, N., Ueda, M., Matsuda, F., & Arita, M. (2021) Analyses of lipid a diversity in gram-negative intestinal bacteria using liquid chromatography-quadrupole time-of-flight mass spectrometry. Metabolites, 11, 197. doi: 10.3390/metabo11040197

23) Makishima, M., Okamoto, A.Y., Repa, J.J., Tu, H., Learned, R.M., Luk, A., Hull, M.V., Lustig, K.D., Mangelsdorf, D.J., & Shan, B. (1999) Identification of a nuclear receptor for bile acids. Science, 284, 1362–1365.

24) Quinn, R.A., Melnik, A.V., Vrbanac, A., Fu, T., Patras, K.A., Christy, M.P., Bodai, Z., Belda-Ferre, P., Tripathi, A., Chung, L.K., et al. (2020) Global chemical effects of the microbiome include new bile-acid conjugations. Nature, 579, 123–129.

25) Campbell, C., McKenney, P.T., Konstantinovsky, D., Isaeva, O.I., Schizas, M., Verter, J., Mai, C., Jin, W.-B., Guo, C.-J., Violante, S., et al. (2020) Bacterial metabolism of bile acids promotes generation of peripheral regulatory T cells. Nature, 581, 475–479.

26) Hang, S., Paik, D., Yao, L., Kim, E., Trinath, J., Lu, J., Ha, S., Nelson, B.N., Kelly, S.P., Wu, L., et al. (2019) Bile acid metabolites control TH17 and Treg cell differentiation. Nature, 576, 143–148.

27) Li, W., Hang, S., Fang, Y., Bae, S., Zhang, Y., Zhang, M., Wang, G., McCurry, M.D., Bae, M., Paik, D., et al. (2021) A bacterial bile acid metabolite modulates Treg activity through the nuclear hormone receptor NR4A1. Cell Host Microbe, 29, 1366–1377.e9.

28) Sato, Y., Atarashi, K., Plichta, D.R., Arai, Y., Sasajima, S., Kearney, S.M., Suda, W., Takeshita, K., Sasaki, T., Okamoto, S., et al. (2021) Novel bile acid biosynthetic pathways are enriched in the microbiome of centenarians. Nature, 599, 458–464.

29) Paik, D., Yao, L., Zhang, Y., Bae, S., D’Agostino, G.D., Zhang, M., Kim, E., Franzosa, E.A., Avila-Pacheco, J., Bisanz, J.E., et al. (2022) Human gut bacteria produce TH17-modulating bile acid metabolites. Nature, 603, 907–912.

30) Kawamata, Y., Fujii, R., Hosoya, M., Harada, M., Yoshida, H., Miwa, M., Fukusumi, S., Habata, Y., Itoh, T., Shintani, Y., et al. (2003) A G protein-coupled receptor responsive to bile acids. J. Biol. Chem., 278, 9435–9440.

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著者紹介Author Profile

両角 諭(もろずみ さとし)

慶應義塾大学薬学研究科博士課程3年,理化学研究所生命医科学研究センター 大学院生リサーチ・アソシエイト.学士(薬学).

略歴

1996年千葉県に生る.2021年慶應義塾大学薬学部卒業,現在に至る.

研究テーマと抱負

多くが謎に包まれている「腸内細菌由来脂質代謝物」の構造,空間局在,産生経路,産生菌,標的受容体や機能を明らかにし,共生細菌による宿主恒常性維持機構を解明したい.

趣味

卓球,マジック,旅行.

岡橋 伸幸(おかはし のぶゆき)

大阪大学大学院情報科学研究科バイオ情報工学専攻 准教授.博士(情報科学).

略歴

2012年大阪大学工学部卒業.17年同大学院情報科学研究科修了(清水浩研究室).理化学研究所統合生命医科学研究センター(有田誠研究室)でのポスドクを経て,18年より同客員研究員(継続中)および現所属にて助教.19年より現職.

研究テーマと抱負

代謝計測技術の開発.質量分析法と情報解析技術を組み合わせて,微生物の作る未知分子の構造や機能を解き明かしていきたい.

ウェブサイト

https://researchmap.jp/okahashinobuyuki

趣味

グルメ,音楽.

有田 誠(ありた まこと)

慶應義塾大学薬学部代謝生理化学講座 教授,理化学研究所生命医科学研究センターメタボローム研究チーム チームリーダー,横浜市立大学大学院生命医科学研究科代謝エピゲノム科学研究室 大学院客員教授.

その他については本誌94巻1号(2022)p. 13をご参照ください.

ウェブサイト

http://keio-pha-pcm.jp

https://www.ims.riken.jp/labo/53/index_j.html

http://www-mls.tsurumi.yokohama-cu.ac.jp/lab/cme.html

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