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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 95(4): 527-530 (2023)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2023.950527

みにれびゅうMini Review

グルコース代謝経路である「ポリオール経路」による進化的に保存されたグルコース感知機構Evolutionarily conserved role of the polyol pathway in sensing glucose uptake

久留米大学分子生命科学研究所Institute of Life Science, Kurume University ◇ 福岡県久留米市旭町67番地 ◇ 67 Asahi-machi, Kurume, Fukuoka 830–0011, Japan

発行日:2023年8月25日Published: August 25, 2023
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1. はじめに

動物の栄養摂取には変動があるため,細胞は常に栄養摂取状態を読み取り,代謝調節系に伝達することにより代謝恒常性を保っている.動物の主要なエネルギー源であるグルコースはいくつかのメカニズムで感知されるが,Mondo/Carbohydrate response element-binding protein(ChREBP)転写因子による細胞内グルコース感知は,進化的に保存されたメカニズムの一つである.Mondo/ChREBPはグルコース存在下で活性化され,多くの代謝関連遺伝子の発現を制御することにより,グルコースからのエネルギー産生と貯蔵のバランスがとれた適切な代謝状態を作り出す1).Mondo/ChREBPを欠損したショウジョウバエやマウスが通常レベルの糖質の摂取により致死となることは,このシステムの重要性を示している2, 3).しかし,細胞外からのグルコース取り込みがどのようにMondo/ChREBPに伝達されるのかについては未解明な部分が多く残されている.本稿ではこれまで生理機能がほとんど不明であったポリオール経路と呼ばれる代謝経路の役割を中心に,筆者らが近年取り組んできたグルコース感知機構について解説する.

2. グルコース応答性転写因子Mondo/ChREBPの活性化機構

Mondo/ChREBPはMax-like protein X(Mlx)と呼ばれるコファクターと結合し,グルコース存在下で,糖代謝や脂質代謝をはじめとした多数の代謝制御遺伝子の発現を活性化する.Mondo/ChREBPの活性化は細胞内局在と転写活性化の二つの仕組みで制御される1).Mondo/ChREBPのN末端にはglucose-sensing module(GSM)と呼ばれる領域があり,核移行シグナルが含まれている.グルコース存在下ではGSMを介してMondo/ChREBPが核へ移行する.転写活性化に必要な領域もGSMに存在する.転写抑制に必要なlow-glucose inhibitory domain(LID)が転写活性化に必要なglucose-response activation conserved element(GRACE)に隣接して存在し,低グルコース条件ではLIDがGRACEを抑制するが,高グルコース条件ではLIDによる抑制が解除されて転写活性化が起こる.グルコースによるMondo/ChREBPの核局在や転写活性化は培養細胞でも起こることから,Mondo/ChREBPの活性化はインスリン等の内分泌制御を介さず,細胞内に取り込まれたグルコース代謝物により制御されると考えられてきた.これまでに,培養細胞を用いてMondo/ChREBPの活性化に必要なグルコース代謝物の探索が行われ,解糖系で生成されるグルコース-6-リン酸およびフルクトース2,6-ビスリン酸,解糖系から分岐したペントースリン酸経路で生成されるキシルロース-5-リン酸などがMondo/ChREBPを活性化することが報告された1).これらの結果から,グルコース取り込みは解糖系およびペントースリン酸経路を介してMondo/ChREBPに伝達されるという考えが主流であった.しかし,解糖系およびペントースリン酸経路は,エネルギー産生および核酸,NADPH合成の起点として生命維持に直結するため,貯蔵糖による緩衝作用が備わっており,グルコース変動の影響を軽減している(図1).また,解糖系は細胞内のエネルギー需要に合わせたフィードバック制御を受ける.これらのことから,解糖系代謝産物量は細胞外からのグルコース取り込みを忠実に反映しない可能性が高く,細胞外からのグルコース取り込みをMondo/ChREBPに伝達するグルコース感知には適していないと考えられる.そこで筆者らは,ショウジョウバエを用いてグルコース感知を担う代謝経路を探索した.

Journal of Japanese Biochemical Society 95(4): 527-530 (2023)

図1 Mondo/ChREBPを活性化するグルコース代謝経路

通常の栄養状態では,ポリオール経路がグルコース摂取をMondo/ChREBPに伝達するが,飢餓状態ではポリオール経路はMondo/ChREBPの活性化に関与しない.おそらく,飢餓状態にけるグルコース感知は,解糖系やペントースリン酸経路によって補償されていると考えられる.

3. グルコース感知におけるポリオール経路の役割

筆者らは以前,グルコース摂取に応じて合成されるCCHamide-2(CCHa2)というペプチドホルモンを同定した4).グルコースによるCCHa2の発現誘導は,ショウジョウバエのMondo/ChREBPホモログであるMondoに依存することが明らかになった.そこでCCHa2の発現を指標としてMondoの活性化に必要な糖を探索し,Mondoの活性化に必要な代謝経路を同定しようと考えた.ショウジョウバエ幼虫にさまざまな糖を摂取させ,CCHa2の発現誘導を調べた結果,グルコースやフルクトースに加え,ソルビトールでも発現誘導が起こることが明らかになった.ソルビトールはポリオール経路と呼ばれるグルコース代謝経路でのみ代謝されることから5–7),Mondoの活性化にはポリオール経路が関与することが示唆された.

ポリオール経路はグルコースをソルビトールに変換し,ソルビトールをフルクトースに変換する代謝経路である.第一段階はアルドース還元酵素(aldose reductase)により制御され,第二段階はソルビトール脱水素酵素(sorbitol dehydrogenase)により制御される.第一段階を制御するアルドース還元酵素はグルコースとの親和性が低いため,ヒトにおいては,ポリオール経路は通常の生理状態ではほとんど機能せず,高血糖状態で機能して網膜血管障害などの糖尿病合併症を引き起こすと考えられてきた.しかし,ショウジョウバエに安定同位体標識されたグルコースを摂取させたところ,グルコース由来のソルビトールやフルクトースが合成されていることが確認された.また,ポリオール経路を阻害した変異体では,成長阻害やインスリン抵抗性がみられたことから,ポリオール経路は通常の生理状態でも機能することが明らかになった8).次に,ポリオール経路がMondoを活性化できるかどうかを検討した.脂肪体と呼ばれる幼虫の栄養感知器官の培養系にポリオール経路の基質または代謝産物であるグルコース,ソルビトール,フルクトースを添加したところ,いずれもMondoの核局在を促進した.アルドース還元酵素やソルビトール脱水素酵素の変異体ではグルコースによるMondoの核局在は阻害され,Mondoの核局在は下流代謝産物の添加により回復したことから,ポリオール経路はMondoの核局在に必要であることが明らかになった.さらに,ポリオール経路の変異体ではMondoの標的遺伝子であるCCHa2の発現が顕著に低下していた.これらの結果から,ポリオール経路は通常の生理状態においてグルコース摂取の感知に重要であることが明らかになった(図1).

4. 栄養状態により異なるグルコース感知システムが使われる

一方,飢餓状態においては,ポリオール経路はグルコース感知に関与しないことが明らかになった.飢餓状態においた幼虫にグルコースを摂取させ,脂肪体におけるMondoの細胞内局在を調べると,アルドース還元酵素変異体やソルビトール脱水素酵素変異体由来の脂肪体においても,Mondoは核に局在した.遺伝子発現も解析したところ,飢餓状態のソルビトール脱水素酵素変異体幼虫にグルコースを摂取させると,CCHa2の発現が正常に誘導された.同じ実験系でRNAseqを用いてMondo標的遺伝子を網羅的に解析したところ,Mondo標的遺伝子の大部分がグルコースによって正常に発現誘導された.以上の結果は,ポリオール経路は通常の栄養状態におけるグルコース感知に必須であるが,飢餓状態では別のシステムにより補償されることを示唆している.それはおそらく,解糖系やペントースリン酸経路ではないかと考えられる(図1).解糖系には貯蔵糖による緩衝作用が備わっていると前に述べたが,飢餓状態では貯蔵糖は枯渇して緩衝作用が働かなくなると考えられる.そのような状態では,グルコース取り込みは,解糖系および解糖系から分岐するペントースリン酸経路代謝産物量にも反映され,それゆえ解糖系やペントースリン酸経路もグルコース感知に関与するのではないかと予想される.培養細胞を用いた解析において解糖系やペントースリン酸経路由来の糖がMondoを活性化することが報告されているのは,用いられた実験系の栄養条件の違いを反映しているのかもしれない.

5. ポリオール経路はマウスにおいてもグルコース感知に関与する

では,グルコース感知におけるポリオール経路の機能は哺乳類でも保存されているのだろうか? 哺乳類では肝臓が糖代謝の中核を担う.食物由来の糖は小腸で吸収され,門脈を通って肝臓に運ばれる.肝臓に流入した糖のうち余剰分は脂肪やグリコーゲンとして貯蔵され,残りは血液を介して全身に循環する.グルコースから脂肪やグリコーゲンへの変換はMondoの哺乳類ホモログであるChREBPが担っている.この過程において,ポリオール経路がグルコース摂取をChREBPに伝達しているのではないかと考えた.そこで,ソルビトール脱水素酵素をコードするSord遺伝子をノックアウトすることにより,ポリオール経路を完全に遮断したマウスを作製した.Sordノックアウトマウスにグルコースを経口投与し,肝臓におけるChREBPの核局在を調べたところ,グルコース投与によるChREBPの核局在はほとんど検出されなかった.Sordノックアウトマウスにフルクトースを投与すると核局在がみられることから,マウス肝臓におけるグルコース依存的なChREBPの核局在はポリオール経路によって制御されていることが明らかになった.

これらの結果から,SordノックアウトマウスはChREBPノックアウトマウスと同様な表現型を示すことが期待される.ChREBPノックアウトマウスは,グルコース投与後の血糖値の正常化が遅れる耐糖能障害を示すことが報告されていた2).筆者らの解析により,Sordノックアウトマウスにおいても耐糖能障害が起こっていることが明らかになった.耐糖能の低下はインスリンの分泌阻害に起因することが多いが,Sordノックアウトマウスではインスリン分泌は正常であった.Sordノックアウトマウスで耐糖能が低下する原因は不明であるが,ChREBPノックアウトマウスやポリオール経路を阻害したショウジョウバエにおいてインスリン抵抗性がみられることから2, 4),Sordノックアウトマウスにおいてもインスリン抵抗性が生じている可能性があり,今後検証したいと考えている.以上の結果から,ポリオール経路はショウジョウバエとマウスにおいて保存されたグルコース感知システムであり,グルコース摂取状況をMondo/ChREBPに伝達することにより,代謝をグルコース摂取状況に合わせて調節することが明らかになった(図2).

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図2 ポリオール経路によるグルコース感知と代謝調節

ポリオール経路はグルコース取り込みをMondo/ChREBPに伝達し,それに応じてMondo/ChREBPは多くの代謝酵素の発現を調節する.ポリオール経路とMondo/ChREBPの連携により,グルコース摂取レベルに応じた代謝調節が行われ,代謝恒常性が保たれる.

6. ポリオール経路は全身性のグルコース感知システムとして機能する

ここまでの結果は,ポリオール経路が細胞自律的なグルコース感知システムとして機能することを示している.このような細胞自律的な制御に加え,ポリオール経路は栄養状態を他の組織に伝達する全身性のグルコース感知システムとしても機能することが最近の研究により明らかにされた.

ショウジョウバエ卵巣にある生殖幹細胞の増殖は交尾によって促進されるが9),交尾による生殖幹細胞の増殖には雌がグルコースを摂取しているときにのみ起こる.そのため,グルコース摂取状況は何らかの方法により生殖幹細胞ニッチに伝達されているはずである.この過程にポリオール経路が関与することが明らかになった10).ポリオール経路は体内のどの組織で機能するかは不明であるが,食物由来のグルコースはポリオール経路の働きによりフルクトースに変換されて体液中に放出される.体液中のフルクトースは腸管内分泌細胞で感知され,これが刺激となって腸管内分泌細胞からneuropeptide F(NPF)というホルモンが分泌される.NPFは生殖幹細胞ニッチで受容されて生殖幹細胞の増殖を促進する11).これらの結果から,ポリオール経路は,フルクトースをメッセンジャーとして,個体の栄養状態を体内の組織に伝達する全身性のグルコース感知システムとして機能することが明らかになった.血中フルクトースは血中グルコースに比べて濃度が低いため12),ポリオール経路によりグルコースをフルクトースに変換することは,グルコース摂取状況の鋭敏な感知を可能にしていると考えられる.

7. おわりに

本稿では,グルコース感知機構について,筆者らの見いだしたポリオール経路の役割について解説した.これらの発見は,ポリオール経路がなぜグルコース感知に適しているのか,栄養状態によって異なるグルコース感知システムを利用するのはなぜか,という新しい問いを生み出した.今後は,これらの課題に取り組んでいきたい.また,ポリオール経路最終産物であるフルクトースは,肥満や脂肪肝,がんのリスクを上昇させることが知られており,代謝の亢進が主なメカニズムとして提唱されてきた.これに対し,筆者らの研究結果は,フルクトースの過剰摂取は,グルコース感知の撹乱を引き起こすことにより生体に有害な作用をもたらすことを示唆している.このような視点から,発生や病態を捉え直してみたいと考えている.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

佐野 浩子(さの ひろこ)

久留米大学分子生命科学研究所 講師.博士(理学).

略歴

1997年筑波大学第二学群生物学類卒業.2002年同大学院博士課程生物科学研究科にて博士号取得.02年から08年までNew York University, Skirball Instituteにおいて博士研究員,08年から12年までお茶の水女子大学においてテニュアトラック特任助教を務める.12年より現職.

研究テーマと抱負

動物が環境に適応して柔軟に生きる仕組みを,栄養と代謝の視点から明らかにしていきたい.

ウェブサイト

https://researchmap.jp/sapphire

https://lifescience.kurume-u.ac.jp/genetic-information/

趣味

旅行,猫,ピアノ.

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