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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 95(4): 541-545 (2023)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2023.950541

みにれびゅうMini Review

非中心体性微小管形成の分子機構The molecular mechanism of non-centrosomal microtubule nucleation

神戸大学大学院医学研究科 生理学細胞生物学講座 生体構造解剖学分野Division of Structural Medicine and Anatomy, Department of Physiology and Cell Biology, Kobe University Graduate School of Medicine ◇ 〒650–0017兵庫県神戸市中央区楠町7–5–1 ◇ 7–5–1 Kusunoki-cho, Chuo-ku, Kobe, Hyogo 650–0017, Japan

発行日:2023年8月25日Published: August 25, 2023
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1. はじめに

微小管は,細胞分裂,細胞運動,細胞内輸送に必須な繊維状タンパク質であり,微小管形成中心で作られる.微小管は中心体から形成される中心体性微小管と,中心体によらない非中心体性微小管が知られており,非中心体性微小管は神経細胞軸索や上皮細胞の頂端側に局在し細胞の極性形成に重要である.

微小管はαβ-チューブリンヘテロ二量体(チューブリン)が縦方向に連なりプロトフィラメントと呼ばれる繊維を作り,それが11~16本ほど横に連なった中空管構造をしている(図1A).α-チューブリン側をマイナス端,β-チューブリン側をプラス端と呼ぶ極性を持ち,マイナス端側が安定化され,プラス端方向に重合することで微小管ネットワークが形成される.細胞内でのチューブリン濃度は自発的重合が起こる濃度より低くなっている1).そのため微小管ネットワークは細胞内のどこでも起こるというわけではなく,微小管重合場所の既定,微小管伸長の核形成,そして微小管の安定化といった各段階で制御・形成されている.

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図1 微小管とγ-TuRC

(A)微小管の模式図.α-チューブリン(緑)とβ-チューブリン(青)が縦に連なりプロトフィラメント(オレンジ)を作り,それが11~16本横に並んで中空管構造をとる.β-チューブリン側をプラス端,α-チューブリン側をマイナス端と呼ぶ極性を持つ.(B)γ-チューブリンリング複合体(γ-TuRC)の模式図.微小管マイナス端をキャップするように結合,安定化する.

チューブリンが微小管に重合する際の最初のステップである微小管核形成が起こるには,チューブリン-微小管中間状態を安定化する因子と,微小管形成後にマイナス端を安定化する因子が必要である.この代表的な因子であるγ-チューブリンリング複合体(γ-TuRC)と呼ばれるタンパク質複合体は,微小管中空管のマイナス端をキャップするような構造をしている超分子複合体である(図1B).細胞内の微小管核形成の主要な微小管重合核として働き,重合後もマイナス端を保護する.一方すべての微小管核形成がγ-TuRCに依存しているのではなく,γ-TuRCに依存しない微小管核形成も存在することが報告されている2, 3).しかし,γ-TuRCが必須遺伝子を含んでおり非存在下条件での実験が難しいことや,微小管核形成は複数の経路が重複する場合も多いことから,その実態は不明であった.最近の進展により,いくつかの微小管結合タンパク質が,相分離を含むさまざまな方法で分子中間体や微小管になった後の構造を安定化し,γ-TuRCに依存しない微小管核形成を促進することがわかってきた4–7).本稿では微小管ネットワーク形成の分子機構についての最近の研究を紹介する.

2. γ-TuRCに依存しない微小管核形成

γ-TuRCを構成するサブユニットのうち,核形成に重要なサブユニットであるγ-チューブリンはヒトでは二つのサブタイプを持ち,あらゆる細胞種で有糸分裂に必須である.そのためこの遺伝子を欠失させた安定細胞株の樹立は困難であり,γ-TuRCがない状態の微小管ネットワーク形成を調べることは非常に難しかった.最近Tsuchiyaらはヒト結腸がん細胞HCT116の持つ二つのγ-チューブリン遺伝子のうちの一つを欠失させ,さらにもう一つにmAIDデグロンというタグづけしたタンパク質の分解を化合物で制御できるシステムを挿入,さらにタンパク質分解をモニターするため蛍光タンパク質を付与し,γ-TuRCが機能しない状態での微小管ネットワーク形成をモニターすることに成功した5).これによりγ-チューブリン非存在下の細胞でも微小管核形成は起こること,微小管伸長作用を持つch-TOG(XMAP215)6),ゴルジ体での非中心体性微小管形成に必須の因子であるCLASP18),微小管分岐に関わるTPX29),微小管マイナス端を安定化するCAMSAPファミリー10)がγ-TuRC非依存的に微小管核形成することを報告した.これらのタンパク質群はγ-TuRC非依存的に微小管核形成をできる一方,γ-TuRCの役割との重複や協調,他の因子の関与等その制御は複雑である.また微小管制御因子の発現は細胞特異的な場合も多いため,他の細胞でも共通な制御が存在するか興味深い.これらの点についての今後のさらなる研究が期待される.

3. 相分離による微小管形成

タンパク質の相分離が注目されて久しいが,最近,上述した微小管核形成に関わる因子であるTPX2とCAMSAPファミリーのうちCAMSAP2(次の節でふれる)も相分離することが報告された4, 7).TPX2は微小管分岐の最初のステップに必須な因子で,微小管分岐に必要な因子の一つであるAugminを呼び込み,これを介してγ-TuRCを核とした微小管形成を行うタンパク質である9).KingとPetryは,TPX2が相分離するタンパク質の特徴である構造をとらない長い天然変性領域を持つことに注目し,このタンパク質も相分離を起こすのではないかと考え研究を行った7).精製タンパク質の実験からTPX2は単独で相分離を起こすこと,その液滴中にチューブリンを選択的に取り込むことを明らかにした.次にアフリカツメガエル卵抽出液からTPX2のみを抗体を用いて除去した状態に精製TPX2を注入した.これによって,細胞内と同等かつ相分離を起こすことができる濃度のTPX2が微小管分岐活性を持つことを示した.さらに天然変性領域を欠失させたTPX2変異体の実験より,この領域が相分離に重要であること,微小管分岐点での核形成を促進すること,TPX2は微小管上で相分離しやすいことを報告した.これらのことより,微小管分岐点からの微小管形成と伸長には微小管上でTPX2が相分離し,チューブリンもしくは他の相互作用因子を呼び込むことが非常に重要であることが示された.TPX2が,微小管分岐に必要なAugminやγ-TuRCを呼び込む際に相分離が必要かどうかはわかっておらず,今後の研究の進展が待たれる.

4. CAMSAP2は相分離によりチューブリンを呼び込み微小管核形成を行う

細胞内の微小管では,プラス端は重合脱重合を繰り返すダイナミックな場となっている一方,マイナス端はマイナス端結合タンパク質により安定化されており重合開始核となる場である.ヒトのマイナス端結合タンパク質は,微小管重合開始に重要なγ-TuRCの他に,非中心体性微小管形成に必須なCAMSAPファミリーのみが知られている11).我々は,CAMSAPファミリータンパク質がγ-TuRCと同様に,微小管形成にも何らかの関わりがあるのではないかと考え,非中心体性微小管形成や神経軸索の極性形成に関わるCAMSAP2に注目し研究を行った4)

試験管内での微小管重合は,精製されたチューブリンのみでも自発的に起こりうるが,非常に効率が低く適切な濃度と温度が必要である.はじめに我々は,試験管内重合の効率がCAMSAP2存在下で変わるかどうかを調べた.CAMSAP2非存在下では約20 µMのチューブリン濃度が必要であったのと比較して,存在下では1~2 µMで微小管形成がみられるようになり,CAMSAP2が試験管内では強力な微小管核形成活性を持つことが明らかとなった.

CAMSAP2はその構造中にTPX2にもみられた長い天然変性領域を持つ(図2A).そこで我々はCAMSAP2が相分離する可能性があると考えた.精製したCAMSAP2を観察したところ,生理条件に近いバッファーで相分離を起こすこと,生じたCAMSAP2液滴にはTPX2と同様にチューブリンが選択的に取り込まれることを明らかにした(図2B).この様子を電子顕微鏡で観察したところ,CAMSAP2液滴に選択的に取り込まれたチューブリンから微小管が放射状に伸長する星状体様の微小管重合が起こることがわかり,我々はこれをCam2-asterと命名した(図2C).次に天然変性領域がCam2-aster形成に必要かどうかを,CAMSAP2の天然変性領域欠失変異体を作りチューブリンと重合させることにより確かめた.その結果,天然変性領域を短くするほどCam2-aster形成が起きにくくなることから,この領域が必要であることがわかった.

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図2 CAMSAP2による微小管重合

(A)CAMSAP2のドメインマップと天然変性領域予測のスコア.(B)チューブリンとCAMSAP2の相分離.チューブリン,CAMSAP2,重ね合わせを示す.(C)ネガティブ染色による電子顕微鏡観察.CAMSAP2液滴(左)とチューブリン-CAMSAP2を37°C,10分静置後に観察した写真を示す.(D)クライオ電子顕微鏡によるチューブリン-CAMSAP2重合過程の観察.中間体をオレンジ矢印で示す.

5. CAMSAP2は液滴内でチューブリン-微小管中間体を形成し重合を促進する

我々は,CAMSAP2液滴内での微小管核形成や重合の分子機構を調べるため,重合前の氷上の状態,37°Cで1分,3分,そして10分間,重合した状態で試料を調製しそれぞれ急速凍結し,クライオ電子顕微鏡で観察した.非常に興味深いことに,CAMSAP2とチューブリンを混合して氷上に置いていた試料でも,すでにチューブリンがいくつか連なったプロトフィラメント状の構造が観察された(図2D).重合開始から1分後にはCAMSAP2液滴と思われる密度の濃い部分が現れ,その中に氷上の試料でみられたプロトフィラメントがリング状となった中間体や,プロトフィラメントがいくつか横に連なりシートとなった中間体が観察された.重合開始3分後ではCAMSAP2液滴内の中間体が微小管になったものがみられ,さらにCam2-aster構造となり始めている様子が観察された(図2D).10分後にはCam2-asterが成熟し,Cam2-asterどうしが微小管でつながれているような構造と微小管ネットワーク形成が観察された.これらのことからCAMSAP2はin vitroで液滴を形成し,そのなかにチューブリンを選択的に取り込み,濃縮し重合,Cam2-asterを形成し微小管ネットワーク形成を行うことを明らかとした.細胞内で同様の現象が起こっているのか,さらに他のCAMSAPファミリーも同様の活性を持つのか,今後の研究の進展が待たれる.

6. CAMSAPファミリーによる非中心体性微小管形成

CAMSAPファミリーはCAMSAP1~3までが知られているが,これらによる非中心体性微小管形成は細胞の極性形成に重要な役割を果たす.CAMSAP1やCAMSAP2を欠失したマウス海馬の初代培養神経細胞は,軸索形成を開始できないために神経細胞の極性形成障害が起きることが報告されている12, 13)図3A).CAMSAP3は上皮細胞の頂端側に局在し,微小管を頂端側から基底側に配向させる役割を果たす14)図3B).最近の研究よりCAMSAP3と微小管切断タンパク質であるKatanin,そしてWdr47が協調し繊毛の中心微小管を作ることが示された15)図3C).Kataninが繊毛内の軸糸周辺の微小管を切断することで,微小管が新たな微小管核を作りそれをCAMSAP3が安定化,さらにWdr47が微小管重合場所を既定しCAMSAP3を介して微小管核を形成することで繊毛の中心微小管を作る機構が明らかとなった.このように非中心体性微小管形成においてCAMSAPファミリータンパク質が極性形成を制御している例が数多く報告されており,今後も新たな発見があることが期待される.

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図3 非中心体性微小管による細胞極性形成

(A)神経細胞における微小管.軸索では非中心体性微小管形成中心にマイナス端を向けた微小管が配向する.(B)上皮細胞の頂端側に非中心体性微小管形成中心があり,そこから微小管が配向する.(C)繊毛軸糸の模式図.軸糸中央に二つの対になった中心微小管が位置する.

7. おわりに

非中心体性微小管ネットワーク形成は細胞極性形成に重要であり,それには微小管重合場所の規定,微小管伸長の核形成,そして微小管の安定化がそれぞれ必要となる.本稿では微小管核形成と微小管の安定化の部分にフォーカスして最近の研究を紹介した.今回は紹介しきれなかったが,微小管重合場所を既定する因子についてもまだまだわかっていないことが多く,微小管核形成因子との細胞種特異的な相互作用も多くあると予想される.これらが今後研究され,微小管ネットワーク形成の仕組みが解明されることで細胞の極性形成の仕組みが明らかになることが期待される.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

今崎 剛(いまさき つよし)

神戸大学大学院医学研究科生理学細胞生物学講座生体構造解剖学分野 助教.博士(理学).

略歴

2007年横浜市立大学総合理学研究科,博士後期課程修了.同年よりインディアナ大学医学部ポストドクトラルフェロー.08年同所属でHFSP長期フェロー.15年JSTさきがけ専任研究員(理化学研究所CLST客員研究員).18年神戸大学大学院医学研究科 特命助教.22年より現職.創発研究者.

研究テーマと抱負

タンパク質や細胞を構造生物学的アプローチで研究しています.巨大な分子が細胞内で機能する様子を分子レベルで理解する,構造細胞生物学に取り組んでいます.

ウェブサイト

http://structure.med.kobe-u.ac.jp

趣味

ボルダリング.

仁田 亮(にった りょう)

神戸大学大学院医学研究科生理学細胞生物学講座生体構造解剖学分野 教授.博士(医学).

略歴

1997年横浜市立大学医学部医学科卒業.同年東京女子医科大学病院循環器内科医員.2001年東京大学医学部助手.07年東京大学医学部助教.12年東京大学医学部特任講師.14年理化学研究所上級研究員.17年より現職.神戸大学大学院医学研究科 教授.

研究テーマと抱負

クライオ電子顕微鏡を主なツールとして用い,分子・細胞レベルの構造科学と医学を融合して,構造医科学(Structural Medicine)を創造していきたいと思います.

ウェブサイト

http://structure.med.kobe-u.ac.jp

趣味

スキー,ピアノ.

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