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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 95(5): 571-578 (2023)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2023.950571

総説Review

最新技術で明らかになったエンドセリン受容体の構造と機能Structure and function of endothelin receptors revealed by state-of-the-art technology

東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻Department of Biological Sciences, Graduate School of Science, The University of Tokyo ◇ 〒113–0033 東京都文京区本郷7–3–1 東京大学理学部1号館東棟583 ◇ East Wing 583, Building 1, Faculty of Science, The University of Tokyo, 7–3–1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113–0033, Japan

発行日:2023年10月25日Published: October 25, 2023
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エンドセリンとその受容体であるETAおよびETBは,複数のGタンパク質を介して,成長,生存,浸潤,血管新生などの体内の恒常性をつかさどる.本稿では,X線結晶構造解析とクライオ電子顕微鏡法によるこれらの受容体の構造決定と,エンドセリンによる受容体活性化機構に焦点を当てる.我々の一連の研究で,エンドセリンの結合に伴う受容体の大きな構造変化や,それがどのように細胞内側に伝わるか,そしてエンドセリン受容体独自のGタンパク質結合様式が明らかになっている.本稿ではさらに,臨床的な拮抗薬と逆作動薬の結合様式についても詳細に解説する.こうした知見は,Gタンパク質活性化のメカニズムの理解に大きく貢献し,さらにエンドセリン受容体を標的とした血管拡張作用のある拮抗薬や作動薬の開発につながる.

1. 背景

エンドセリンは,21アミノ酸からなるペプチドホルモンであり,血管の恒常性維持に重要な役割を果たしている.3種類あるエンドセリンの中で,強力な血管収縮物質であるエンドセリン-1(ET-1)が最初に発見された.ET-1によるシグナルの伝達は,Gタンパク質共役型受容体(GPCR)である二つのエンドセリン受容体ETAとETBによって行われる1).ETAおよびETBは,複数種類のGタンパク質を活性化するGPCRであり,血圧調整や細胞の成長,生存,浸潤,血管新生などの体内の恒常性をつかさどる.血管系では,どちらの受容体もGqシグナルを活性化し,相反する機能を持つ.ETAは主に血管収縮を媒介し,ET-1と不可逆的に結合すると持続した強い血管収縮作用を持つ.反対に,ETBは一酸化窒素を介した経路で血管弛緩を誘導する.ETBは,内在化に伴うリソソーム分解を介して,ET-1を除去するクリアランス受容体としても機能する.アストロサイトでは,ETBはGiシグナル伝達経路を介して,ギャップ結合による細胞間情報伝達を阻害する.さらに,アストロサイトにおけるRhoシグナル伝達経路の活性化は,細胞骨格の再編成を促し,接着依存性細胞の増殖を促進する.このプロセスはその後,反応性アストロサイトの誘導につながり,最終的に神経保護を促進する.

エンドセリン受容体に対する創薬研究は,主に血管拡張薬に焦点が当てられている1).代表的なものがETA/ETB両方に拮抗作用を持つボセンタンであり,肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療薬になっている.ボセンタンをもとに開発されたETA選択的拮抗薬は,より副作用の少ない薬として使用されている.また,ET-1は主にETAを介して腫瘍性増殖に関与していることから,アトラセンタンやジボテンタンなどのETA選択的拮抗薬は,前臨床試験で抗がん作用が確認されている.さらに,血管拡張や神経保護などの治療効果をもたらすETB作動薬の開発も進められている.最も分子量の小さいETB選択的作動薬は,ET-1の一部領域を欠損したIRL1620である.IRL1620は腫瘍細胞の血流を選択的かつ一過性に増加させる作用があり,抗腫瘍薬の送達を助けるがん補助療法や急性虚血性脳卒中の治療薬として研究が進められている.しかし,IRL1620はN末端とC末端が露出した直鎖状ペプチドであり,薬物動態や薬物送達の点で課題がある.

我々は,これまでのX線結晶構造解析によってさまざまな薬剤が結合したETB構造を報告し,ペプチド作動薬や低分子拮抗薬との構造活性相関を明らかにしてきた2–6).さらに最近,クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)を用いた単粒子構造解析によって,ETBおよびETAのGタンパク質との複合体構造が報告された7, 8).本稿では,エンドセリンが受容体を介してシグナルを伝達し,拮抗薬がこれらのシグナルを競合的に阻害するメカニズムについて解説する9)

2. エンドセリン受容体の構造研究の歴史

エンドセリン受容体の構造研究は,我々のETBのX線結晶構造解析から始まった.GPCRの結晶化は非常に難易度が高かったが,2000年代後半に構造安定タンパク質の挿入や熱安定化変異といった革新的な結晶化技術が確立された.この手法にならい,奥田らは,五つの変異を含むETBの耐熱化変異体を樹立した10).耐熱化変異体は無細胞系で機能的に発現できるほど安定なものであり11),これを用いて我々はETBとさまざまな化合物との複合体の結晶構造を報告してきた2–6)図1および表1).2023年に,我々および中国のグループから,cryo-EMを用いて野生型のETAおよびETBとGタンパク質(GiまたはGq)との複合体構造が報告された7, 8).現在までに,12種類のエンドセリン受容体の構造が報告されており(図1および表1),不活性状態から完全活性状態までの一連の構造変化が明らかにされている.

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図1 現在までに決定されたエンドセリン受容体の構造

受容体,Gタンパク質,作動薬ペプチドをリボンで示す.化合物はスティックモデルで示す(文献9より引用).

表1 これまでに決定されたエンドセリン受容体構造の一覧
受容体薬剤手法配列Gタンパク質PDB ID分解能(Å)論文
ETB作動薬ET-1X-rayETB-Y5-T4L5GLH2.8Shihoya et al., 2016
Cryo-EMETB-WTGi8I2Z2.8Sano et al., 2023
ETB-WTminiGsq8HCX3.5Ji et al., 2023
ET-3X-rayETB-Y5-T4L6IGK2Shihoya et al., 2018
サラフォトキシンS6bETB-Y5-T4L6LRY3Izume et al., 2020
部分作動薬IRL1620ETB-Y5-T4L6IGL2.7Shihoya et al., 2018
Cryo-EMETB-WTGi8HBD3Ji et al., 2023
アポ状態X-rayETB-Y5-mT4L5GLI2.5Shihoya et al., 2016
拮抗薬ボセンタンETB-Y4-mT4L5XPR3.6Shihoya et al., 2017
逆作動薬K-8794ETB-Y5-mT4L5X932.2
IRL2500ETB-Y4-mT4L6K1Q2.7Nagiri et al., 2019
ETA作動薬ET-1ryo-EMETA-WTminiGsq8HCQ3Ji et al., 2023
X-ray:X線結晶構造解析,Cryo-EM:クライオ電子顕微鏡法.

3. エンドセリンの結合様式

ETBは,七つの膜貫通ヘリックス(TM)と細胞内のヘリックス8(H8)からなる典型的なGPCR構造をとっている.細胞外ループ(ECL)2は,ペプチド受容体の共通の特徴であるβシートを形成している(図2A).クラスA GPCR間で高度に保存されているTM3-ECL2ジスルフィド結合に加え,ETBはC90N-terとC3587.25(上付き文字はBallesteros-Weinstein番号)の間にさらにジスルフィド結合を持ち(図2B),受容体のN末端とTM7の細胞外末端をつないでいる.受容体の細胞外部分はET-1結合に広く関与しており,N末端部分,三つの細胞外ループ(ECL1~ECL3),および六つの膜貫通ヘリックス(TM2~6)がリガンド結合ポケットを構成している.さらに,N末端部分とECL2のβシートは,ポケットを覆う蓋のような構造を形成しており(図2B),ET-1の不可逆的な結合に寄与している.

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図2 エンドセリン関連ペプチドの結合様式

(A)ET-1–ETB複合体を膜平面内から見た全体構造.ETBはリボンで描かれ,ECL2のβシートは濃い色で強調されている.ETBのN末端とECL2のジスルフィド結合はスティックモデルで表示している.(B)細胞外側から見たET-1結合ETB受容体の分子表面.(C)エンドセリン関連ペプチドのアミノ酸配列の比較.(D)ET-1の構造.N末端領域,αヘリカル領域,C末端領域はそれぞれ青,オレンジ,ピンクに着色されている.(E~G)C末端領域(E),αヘリカル領域(F),N末端領域(G)におけるET-1とETB間の詳細な相互作用.破線は水素結合を示す.(H)細胞外側から見た作動薬結合型エンドセリン受容体構造の重ね合わせ.(I)ET-1結合ETAとIRL1620結合ETBの細胞外領域の表面電荷の比較.ET-1–ETA複合体構造のET-1は省いている(文献9より引用).

ET-1は二つの分子内ジスルフィド結合を持ち,N末端領域,αヘリカル領域,C末端領域の三つに分けられる2)図2C, D).C末端領域では,D18からW21が伸長した状態でポケットに深く入り込んでいる(図2E).注目すべきは,ET-1のC末端のカルボキシ基とD18が,受容体の荷電性残基(K1823.33, K2735.38, R3436.55, D3687.35)と静電相互作用ネットワークを形成している点である.さらにC末端のW21は,πカチオン相互作用を介してK1823.33と相互作用するだけでなく,クラスA GPCRのシグナル伝達機能に必須のモチーフであるC6.47W6.48xP6.50モチーフのW3366.48と直接相互作用する.αヘリカル領域(D8~L17)は主に疎水性残基からなり,ECL2とTM6-7に挟まれ(図2F),受容体と広範な分子間相互作用を形成している.αヘリカル領域の両端はかさ高い残基(K1612.64, Y247ECL2, Y350ECL3, R3577.24, Y3697.36)と水素結合を形成する.対照的に,N末端領域(C1~M7)は溶媒に面しており,他の領域と比較して受容体との相互作用が乏しい(図2G).

αヘリカル領域とC末端領域は,エンドセリンとその関連ペプチドの間で高度に保存されており(図2C),これは受容体との主要な相互作用を形成している領域である.一方,N末端領域のアミノ酸配列は多様で,受容体との相互作用も少ない.ET-1,エンドセリン-3(ET-3),サラフォトキシンS6bと結合したETB構造を比較すると4, 6),作動薬ペプチドは非常によく重なる.さらに,ETAとETBの構造はよく重なっており(図2H),エンドセリンの結合様式が両サブタイプで高度に保存されているだろう.ETB選択的作動薬IRL1620はN末端領域を欠失しているものの,αヘリカル領域とC末端領域は保持している.IRL1620のN末端は,N-スクシニル化とE9に由来して負電荷が多く,正電荷を帯びたETBの細胞外領域によく適合しており(図2I),その結果,ETB選択的に結合すると考えられている.

4. 受容体の活性化機構

リガンドがない場合(アポ状態)の構造では,ポケット奥側まで続く大きな空洞ができている2)図3A).ET-1が結合すると,TM2, TM6, TM7はそれぞれ2.6 Å, 4.1 Å, 4.9 Å内側に動き(図3A),TM1はET-1とは直接相互作用がないにもかかわらず,約4.4 Å外側に動く.これらの動きはリガンド結合ポケット全体を収縮させ,よりコンパクトな形でET-1と密な相互作用を形成できるようになる.膜内領域では,D1472.50が約3 Å下方に動き,N3827.49と水素結合を形成し(図3B),膜貫通領域の中央部が閉まる動きがある.ET-1のW21はW3366.48側鎖の2.5 Åの下側への回転を誘導し(図3B),その窒素原子はN3877.45と水素結合を形成する.W3366.48とN3877.45の下向きの動きによって,P5.50I/V3.40F6.44モチーフのF3326.44が外側に押し出され(図3C, D),その結果TM6の細胞内部分が6.8 Å外側に開く(図4A, B).このTM6の開き具合は,他のGi共役型受容体[μオピオイド受容体(μOR):10 Å]で観察される開口度よりも小さく,ETB独自の構造的特徴である7)

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図3 エンドセリン結合に伴う受容体の構造変化

(A)ETB受容体のET-1結合構造とリガンド非結合構造を細胞外側から見た重ね合わせ.ET-1によるリガンド結合ポケットを構成するTMヘリックスの動きを示している.矢印は動きを示し,TM両端の残基の距離を示す.(B)リガンド結合ポケットから伝播する構造の違いを示すために,ET-1結合型とアポ型の構造を重ね合わせた.(C)不活性状態を安定化するパッキング相互作用がP2855.50, V1893.40, F3326.44, N3787.45間で観察される.(D)作動薬結合に伴うW3366.48を含むTM6の内向きの動きは,V1893.40, P2855.50, F3326.44のパッキングを不安定化し,その結果,F3326.44が下向きに回転する.これらの変化は,TM6の細胞内部分の回転と外側への移動,およびTM7の内側への移動に寄与している(文献9より引用).

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図4 エンドセリン受容体のGタンパク質カップリング

(A, B)それぞれ灰色および黄緑色に着色したアポおよびGi複合体のETBの,膜面(A)および細胞内側(B)から見た構造比較.(C)Gi結合に伴う細胞内側の立体構造変化.D3.49R3.50Y3.51およびN7.49P7.50xxY7.53モチーフに対応する残基を棒で示す.破線は水素結合を表す.(D)GPCR-Gタンパク質複合体におけるGαの位置の比較.NTS1 C状態の受容体構造と重ね合わせた.(E)エンドセリン受容体-Gタンパク質複合体におけるGαの位置の比較(文献9より引用).

ほとんどのクラスA GPCRでは,細胞内側に高度に保存されたD3.49R3.50Y3.51とN7.49P7.50xxY7.53モチーフがGタンパク質の活性化に重要であることが知られている.ETBが活性化されると,D1983.49とR1993.50の間のイオニックロックが解除され,R1993.50は細胞内腔を向くようになる(図4C).しかしETBでは,N7.49P7.50xxY7.53モチーフはN7.49P7.50xxL7.53Y7.54に変化しており,Y7.53はL3867.53に置き変わっている.クラスA GPCRが活性化されると,Y7.53は内側に移動し,高度に保存されたY5.58と水を介した水素結合を形成する.対照的に,L3867.53は疎水性残基であり,極性相互作用を形成することはできないため,TM7の細胞内部分が内向きではなく下向きに2.8 Å動く(図4C).

こうしたTM7の非典型的な構造変化によって,Giとの相互作用も他のGPCRと変わってくる.L3867.53はG352G.H5.24と疎水性接触を形成し[上付き文字は共通Gα番号(CGN)システムを示す],TM7とH8はGiのC末端のα5ヘリックスと広範に相互作用する.これらの相互作用の違いの結果,ETBの細胞内側ポケットに対するα5ヘリックスの相対位置は主要なGPCR-Gi複合体の中で最も浅く,それほど強い相互作用を形成していないと考えられる(図4D).α5ヘリックスの相対位置は他のエンドセリン受容体とGタンパク質複合体でも同じである(図4E).したがって,エンドセリン受容体ではGタンパク質のα5ヘリックスのアミノ酸認識がそれほど厳密ではないことがわかる.こうした独自のGタンパク質認識機構は,ETBのもつ「異なる複数のGタンパク質と結合可能である」という特性を説明していると考えられる.こうしたGPCRをプロミスキャス(promiscuous)GPCRと一般的に呼称するが,エンドセリン受容体以外にもいくつか存在するプロミスキャスGPCRは,N7.49P7.50xxY7.53モチーフを保持しているので,このGタンパク質プロミスキューティーのメカニズムはエンドセリン受容体だけのものかもしれない.

5. 拮抗薬の結合様式と受容体阻害機構

我々は,拮抗薬ボセンタン,K-8794およびIRL2500が結合したETBの結晶構造を報告した3, 5)図5A~D).拮抗薬と結合した構造はアポ状態と非常によく重なっており,不活性な状態を反映している(図5A).ボセンタンとその類似体,およびK-8794は,2-ピリミジル基,4-スルホンアミド基,5-フェノール基,および6-ヒドロキシル基を含む四つの置換基を持つ化合物であり,芳香族が多いという特徴を持つ.ボセンタンのスルホンアミドは正電荷を持つ残基によって特異的に認識され(図5B),他の部分はTM2–7で囲まれた結合ポケット内の空間を埋めている.ボセンタンはK-8794とよく重なり(図5A),その結合様式は本質的に同じである(図5C).K-8794の中心ピリミジンの6位に大きな置換基があると,受容体との相互作用が強くなり,ボセンタンよりも約1000倍高い親和性を示すと考えられる.

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図5 拮抗薬の結合様式と受容体不活性化の構造基盤

(A)ET-1, ボセンタン,K-8794と結合したETB構造を細胞外側から見た重ね合わせ.(B~D)細胞外から見たボセンタン(B),K-8794(C), IRL2500(D)と受容体の詳細な相互作用.破線は水素結合を示す.(E)化合物結合に伴う構造変化をTM6を中心に示す.矢印は,ET-1結合に伴うTM6, TM7, W3366.48の内方への動きを示す(文献9より引用).

予想外なことに,ボセンタンはスクリーニングから選抜された化合物であり,エンドセリンを模倣せずに開発されたにもかかわらず,受容体との相互作用はエンドセリンのC末端3残基と酷似している(図5A).これは,拮抗薬と作動薬の両方の結合において,結合ポケット底部でのイオン性相互作用と疎水性相互作用が重要であることを示している.しかし,ET-1結合に伴う大きな構造変化(図5E)とは対照的に,ボセンタンはTM6のわずかな内側への動きのみを誘導し,TM7はまったく変化しない.そして,ボセンタンの2-メトキシフェノキシ基は,受容体の活性化に重要なW3366.48の内向きの動きを立体的に阻害するため,ボセンタンは拮抗薬として機能できることがわかった.

IRL2500はトリプトファン,ビフェニル基,3,5-ジメチルベンゾイル基からなる5).ビフェニル基はトリプトファンとペプチド結合を形成し,ジメチルベンゾイル基とはペプトイド結合を形成する.IRL2500のトリプトファン部分のカルボキシ基はR3436.55と塩橋を形成し,他の芳香族部分は膜貫通結合ポケット内の空間を占めている(図5D).このようにIRL2500の結合様式はボセンタンと類似しているものの,IRL2500のビフェニル基はD1472.50の近位で受容体コアに深く突き刺さっている.したがって,IRL2500のジメチルベンゾイル基とビフェニル基はW3366.48を挟み込み,その動きを強固に阻害している(図5E).これらの考察から,IRL2500はボセンタンに比べて活性状態への移行を強固に阻害することが示唆された.この結果に基づいて,構成性ETB変異体を用いた薬理学的研究の結果5),IRL2500は受容体の構成的活性を低下させる逆作動薬として機能することが明らかになっている.

現在の構造において,スルホンアミドに配位する正電荷残基を含む,拮抗薬結合部位を構成するアミノ酸残基は,ETAとETBの間で高度に保存されており,ボセンタンとその類似体が両方の受容体に対して基本的には共通した結合様式であることが示唆される.さらに,ETA選択的拮抗薬であるアンブリセンタンやアントラセンタンなど,ボセンタンとは異なる他のエンドセリン受容体拮抗薬も,スルホンアミドやカルボン酸のような負電荷を帯びた基が存在し,その周りを2~3個の疎水性(芳香族またはアシル)基で囲んでいる.すべてのエンドセリン受容体拮抗薬は,その負に帯電した基が膜貫通ポケットの中心を占め,受容体の正帯電残基とのイオン性相互作用を起点に,他の疎水性基がポケット内部を埋めるような共通した様式である可能性が高い.

6. 今後の展望

過去10年の間に,エンドセリン受容体の構造研究は大きく進展し,多様な薬剤結合様式や,受容体活性化機構が解明されてきた(図6).この構造情報は,いくつかのエンドセリン受容体標的薬の開発につながっている12, 13).しかし,エンドセリン受容体を標的とした創薬には,現状二つの大きな課題が残されている.第一の課題は,サブタイプ選択的なエンドセリン受容体拮抗薬の合理的な設計である.ETAの選択性は,肺動脈性肺高血圧症やがんに対する有効性にとってきわめて重要であるといわれている.しかしながら,ETBとETAの両方において結合ポケットを構成する残基の保存性が高いため,ETA選択性のメカニズムは謎のままである.2023年,初めて作動薬結合型のETA構造が報告された.今後,拮抗薬が結合した不活性型ETAの構造が決定されることで,拮抗薬のETA選択性の理解が大きく進展するであろう.第二の課題は,エンドセリン受容体に対する低分子作動薬の創出である.ETAの活性化は強力な血管収縮作用があるため,ETBの選択的活性化が血管拡張薬としての可能性を秘めている.直鎖ペプチドIRL1620はETB選択的作動薬であるが,低分子作動薬は発見されていない.エンドセリン関連ペプチドによるETB活性化は,細胞外側のTM6と7の大きな構造変化を伴う.低分子薬剤がこのような大きな構造変化を正確に模倣することは困難であろう.我々の構造研究によって,W3366.48とR3436.55とET-1のC末端領域との結合に伴う構造変化が,受容体の活性化にとって最も重要であることを明らかになっている.よって,このC末端領域を模倣する薬剤は,低分子エンドセリン受容体作動薬としての可能性が期待される.

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図6 エンドセリン受容体活性化の模式図

TM6, TM7, H8はハイライトされている.シグナル伝達に関与する残基(N1.50, D2.50, F6.44, W6.48, N7.45)は棒で示されている.破線は水素結合を示す.黒い矢印は受容体の構造変化を示し,二重矢印は構造平衡を示す.破線の二重矢印は構造転移が少ないことを意味し,その結果,構成的活性または部分的な作動薬活性を示す(文献9より引用).

謝辞Acknowledgments

今回の受賞に関しては多くの方々にご協力いただき,誠に感謝を申し上げます.本研究は大変な困難を伴いながらも,欧米が先行していたGPCR構造研究において存在感を示せたと思います.エンドセリン研究を続けて,4年生の半年の間でしたが指導していただいた故奥田明子博士には大変感謝しております.1994年から研究を続けていた土井知子先生や藤吉先生には研究者としての生き方を教わりました.また,ET-1結合型の結晶化を行っていただいた共同研究者である西澤知宏博士や,博士途中からの研究留学を受け入れてくださった濡木先生の懐の深さに心より感謝いたします.最後に,忙しい私をいつも支えてくれている妻や子供に感謝いたします.

本総説は2022年度奨励賞を受賞した.

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著者紹介Author Profile

志甫谷 渉(しほや わたる)

東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 助教.博士(創薬科学)(名古屋大学大学院創薬科学研究科基盤創薬学専攻).

略歴

1989年札幌生まれ.2012年京都大学理学部卒業.17年名古屋大学大学院創薬科学研究科修了.同年日本学術振興会特別研究員PD.20年東京大学大学院理学研究科生物科学専攻特任助教.同年東京大学大学院理学研究科生物科学専攻助教.

研究テーマと抱負

細胞膜に存在する情報伝達分子の構造と機能に興味をもち,ヒトではGPCR,微生物ではロドプシンを標的として研究を進めている.将来的にはシグナル伝達の操作ツールの開発に挑みたい.

ウェブサイト

https://researchmap.jp/wtrshh9

趣味

サウナ,アニメ,辛い物.

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