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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 95(5): 579-593 (2023)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2023.950579

総説Review

ERKシグナル伝達ネットワークと疾患ERK signaling pathway and human diseases

東京大学医科学研究所分子シグナル制御分野Division of Cell Signaling and Molecular Medicine, Institute of Medical Science, The University of Tokyo ◇ 〒108–8639 東京都港区白金台4–6–1 ◇ 4–6–1 Shirokanedai, Minato-ku, Tokyo 108-8639, Japan

発行日:2023年10月25日Published: October 25, 2023
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ERKを中心とする生体内情報伝達ネットワークは,さまざまな遺伝子の発現を正・負に調節することで,細胞運命決定や免疫応答の制御に本質的な役割を果たしている.また,その破綻ががんや感染症などの病因・病態にも深く関与する.近年,ERK経路の新たな制御メカニズムとして,多彩な翻訳後修飾や遺伝子発現を介したネガティブ・フィードバック機構などの存在が見いだされるとともに,これらを介したERKシグナルの強度と活性持続時間の厳密な調節が,生体の恒常性維持に重要であることが明らかにされてきた.さらに最近,がんのみならず発生異常を特徴とする遺伝性疾患RASopathyにおいても本経路構成因子の遺伝子変異が多数同定され注目を集めている.本稿ではERK経路の制御機構と生理機能,およびその破綻がもたらす疾患に関する最新の知見を概説する.

1. はじめに

Mitogen-activated protein kinase(MAPK)経路のうち古典的経路として知られるextracellular signal-regulated kinase(ERK)経路は,増殖因子刺激などの外部刺激に応答して活性化するシグナル伝達システムであり,三つのプロテインキナーゼ(Raf−MEK−ERK)から構成されている1)図1).活性化したERKはその一部が細胞質から核へと移行し,転写因子をはじめとする基質分子をリン酸化して,最終的にさまざまな遺伝子の発現を制御することで,増殖,生存,分化,個体発生など,多彩な生命現象を調節している.近年,ERKシグナルの制御に,リン酸化のみならずSUMO(small ubiquitin-like modifier)化,ユビキチン化,アセチル化など,多彩な翻訳後修飾が関与することや,遺伝子発現を介したネガティブ・フィードバック機構が寄与することなどが見いだされ,その多様な制御システムの全体像が明らかになりつつある.また,ERK経路の上流に位置する分子の多くはがん遺伝子(EGFR, Ras, Rafなど)であり,本経路を異常に活性化して発がんを導くことから2),これらのがん遺伝子産物をターゲットとした分子標的抗がん剤が開発され,臨床の現場で広く活用されている.しかしながら,薬剤耐性の出現が大きな問題となっており,その分子機構の理解と克服ががん治療における喫緊の課題となっている.さらに最近,発生異常を特徴とする常染色体優性遺伝性疾患である先天性Ras/MAPK症候群(RASopathy)においても,ERK経路構成因子の遺伝子変異が多数見いだされ,注目を集めている.本稿では生体内の主要なシグナル伝達システムであるERK経路の制御機構と生理機能,およびその破綻がもたらすがんや感染症などの疾患に関する最新の知見を概説する.

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図1 ERK–MAPキナーゼカスケード

ERK経路は主に増殖因子刺激によって活性化されるシグナル伝達システムであり,Raf–MEK–ERKの順に上流のキナーゼが下流のキナーゼをリン酸化することでシグナルを伝播する.活性化したERKは細胞質や核に局在するさまざまなタンパク質をリン酸化し,細胞増殖や生存,分化などの細胞機能を制御する.

2. ERK経路の活性制御機構

翻訳後修飾は,タンパク質の細胞内局在や安定性,酵素活性などを変化させて,その機能を制御する機構であり,これまでに200種類以上が同定されている3).このうち,リン酸化がERK経路の活性制御に重要な役割を果たすことはよく知られているが,近年,リン酸化以外の翻訳後修飾による調節機構も多数見いだされている.さらにERK経路の下流で発現誘導される分子を介したフィードバック制御などの存在も明らかにされており,その多彩な制御システムの全体像が明らかにされつつある(図2).

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図2 ERK経路のネガティブ・フィードバック制御

活性化したERKは,自身の上流に位置する制御分子を直接リン酸化して,その機能を抑制する.また,一部のMKP分子はERKシグナルの下流で発現誘導され,ERKを脱リン酸化して不活性化する.またSprouty, Spred, MIG-6もERK活性依存的に発現し,ERK経路構成分子と相互作用してその機能を阻害する.

1)リン酸化・脱リン酸化によるERK活性の制御

リン酸化は生物における普遍的な翻訳後修飾の一つであり,リン酸化酵素(キナーゼ)と脱リン酸化酵素(ホスファターゼ)のバランスによって調節されている.増殖因子受容体からERKの活性化に至る機構に関しては,すでに多くの優れた成書が存在することから本稿ではふれないが,ERKカスケード(Raf–MEK–ERK)においては,各キナーゼ分子間の連続したリン酸化反応によってシグナルが伝播されている.特にERKは,酵素ドメインの活性化ループ内に存在するトレオニンおよびチロシン残基が,MEKによってリン酸化されて活性化することから,ホスファターゼによる同残基の脱リン酸化はERK活性を阻害することになる.これまでにERKを選択的に脱リン酸化するMAPK phosphatase(MKP)として,6種類の分子[PAC1(DUSP2),MKP2(DUSP4),hVH3(DUSP5),MKP3(DUSP6),MKPX(DUSP7),MKP4(DUSP9)]が同定されている4, 5)図2).各MKP分子は,それぞれ異なる細胞内局在,活性制御機構,および組織特異性を示すことが知られており,MKP3, MKPX, MKP4が主として細胞質に局在するのに対し,PAC1, MKP2, hVH3は核内に優位に局在することが明らかにされている.これらの分子のうち,MKP2, MKP3, PAC1, hVH3はERKの活性化に応答して転写誘導される分子であり,ERKを脱リン酸化して抑制することで,その活性持続時間を制限するネガティブ・フィードバックループを形成している6).これらERK誘導型MKPの転写制御機構に関しては,最近,ERKの下流で活性化するribosomal S6 kinase(RSK)が,転写抑制因子capicua transcriptional repressor(CIC)のS173/S301残基をリン酸化することで14-3-3との結合を促し,CICの核外排出を導くこと,またその結果,CICによるMKPの転写抑制が解除されその発現が増強することが示されている7).さらに,タンパク質レベルでの発現調節機構も報告されており,K48結合型ポリユビキチン化(MKP2, MKP3, hVH3, MKPX)や,ERK依存的リン酸化(MKP3, MKP2)によってMKPタンパク質の分解が促進されることも見いだされている8).また,DUSP8/hVH5はこれまでp38とJNKに選択的なMKPと考えられてきたが,近年,ERKの制御因子としても機能することが示されている9).DUSP8は脳,心臓,筋肉などで強く発現しているが,実際にDUSP8遺伝子欠損マウスでは,脳,心臓におけるERK活性の増強と心筋肥大が観察される10).心臓特異的にERKを活性化させたトランスジェニックマウスでも,同様の心筋肥大が認められることから11),少なくとも心臓においては,DUSP8が過剰なERK活性を抑制することで,正常な臓器発生に寄与していると考えられる.

ERKシグナルを負に制御する機構としては,上述のMKPによる脱リン酸化のみならず,ERKが自身の上流に位置する分子を直接リン酸化してその機能を阻害するという,ネガティブ・フィードバック機構の存在も明らかにされている12, 13)図2).たとえば,活性化したERKは,SOS114)や,BRaf, CRaf15, 16),MEK117, 18)などをリン酸化し,各分子の機能を抑制する.またEGFRやERBB2, ERBB4などの受容体型チロシンキナーゼもERKによってリン酸化されるとキナーゼ活性が低下する19, 20).このようなERKによる上流因子のフィードバック・リン酸化は,ERKシグナルの活性持続時間と強度を規定し,後に続くさまざまな生命現象(増殖や分化など)の厳密な制御に重要な役割を果たしている.さらに,ERK以外のキナーゼによる制御も報告されており,protein kinase C(PKC)やcGMP-dependent protein kinase G(PKG)が,KRas(S181)をリン酸化して膜局在を阻害し,ERK経路を抑制することが示されている21, 22).また反対に,細胞が細胞外マトリックスへ接着した際に活性化するp21-activated kinase 1(PAK1)は,MEK1(S298)をリン酸化することで,MEK1とERK間の結合親和性を高め,足場依存性増殖を促すことが明らかにされている23)

2)リン酸化以外の翻訳後修飾による活性制御機構

近年,ERK経路構成因子の機能制御に,リン酸化以外にも多彩な翻訳後修飾が関与することが明らかにされている(表1).Rasは翻訳後,直ちにC末端がファルネシル化されて脂質二重膜と結合できるようになり,これにより生理的な活性化の場である細胞膜に局在する.この他にも,ADP-リボシル化,ニトロシル化,アセチル化,ユビキチン化などの翻訳後修飾がRasの活性を正・負に制御することが報告されている24).またRafも複数の修飾を介してその発現量や酵素活性が調節されている.たとえば,BRafとCRafはK48結合型ポリユビキチン化によりプロテアソーム依存的に分解されることが示されており,このユビキチン化を担うE3リガーゼとして,BRafではRNF149, FBXW7, APCFZR1が,一方,CRafでは,CHIP, HUWE1, HERC1, CTLHが同定されている25–29).また,反対にRafを脱ユビキチン化し,安定化する酵素としてUSP10, USP13, USP15が同定されている30–32).さらに最近,分解系のユビキチン修飾のみならず,HECTタイプのE3であるITCHがBRafにK27結合型ポリユビキチン鎖を付加することも報告された33).K27結合型ポリユビキチン鎖は,PP2A型ホスファターゼが結合する足場となって,BRafの抑制的リン酸化サイトであるS365の脱リン酸化を促すことでBRaf活性を遷延化させることが示されている.また最近,ヒストンアセチル化酵素p300が,BRaf(K601)をアセチル化して,BRaf分子どうしのホモ二量体化や,BRafとCRafもしくは足場タンパク質KSR1とのヘテロ二量体化を促進し,ERKシグナルを増強することも報告されている34)

表1 リン酸化以外の翻訳後修飾によるERKシグナル構成因子の活性制御
標的タンパク質修飾機能修飾酵素
受容体EGFRmono-/poly-Ub (K48/K63)エンドサイトーシス/分解c-Cbl, Cbl-b, CGRRF1, ZNRF1, HUWE1, RNF126, SMURF2
PDGFRmono-/poly-Ubエンドサイトーシス/分解c-Cbl, Cbl-b, TRIM21
TGFβR (TβRI)SUMO1Smad3結合・リン酸化促進unknown
アダプター分子Grb2SUMO1SOSとの結合増強unknown
RasHRas, NRasmono-/di-UbエンドサイトーシスRabGEF1
KRas, HRas, NRasmono-/di-UbGTP結合型維持unknown
poly-Ubタンパク質分解β-TrCP
ニトロシル化GDP/GTP交換促進eNOS, iNOS, nNOS
KRasSUMO3Raf結合亢進PIASγ
アセチル化GDP/GTP交換阻害p300
MAPKKKBRafpoly-Ubタンパク質分解RNF149, FBXW7, APCFZR1
poly-Ub (K27)キナーゼ活性亢進ITCH
アセチル化キナーゼ活性亢進p300
CRafpoly-Ubタンパク質分解CHIP, HUWE1, HERC1, CTLH
MAPKKMEK1SUMO1キナーゼ活性阻害MEKK1 (SUMO-E3)
アセチル化キナーゼ活性阻害p300
切断キナーゼ活性阻害Caspase-3
MEK2SUMO1キナーゼ活性阻害MEKK1
MAPKERK1/2poly-Ubタンパク質分解MEKK1
ISG15unknownunknown
ERK1cmono-Ubゴルジ体断片化unknown

Rafと同様,MEKもさまざまな翻訳後修飾を介してその活性が厳密に制御されている.筆者らは,MEKがsmall ubiquitin-like modifier 1(SUMO1)化されること,またその結果,基質であるERKとの結合が阻害されて,ERK活性が負に制御されていることを報告した35)図3a, b).実際にSUMO化不能型のMEK1(K104R)変異体を発現する細胞では,増殖因子刺激によるERK経路の活性化が増強して増殖能が有意に亢進したことから,MEKのSUMO化は,ERKの過剰な活性化を防ぎ,増殖シグナルを適切なレベルに制御する上で重要な役割を果たしていると考えられる.さらに我々は,がん遺伝子である活性型Rasが,MEKのSUMO化を阻害する作用を持つことを発見し,実際にRasに変異を有するさまざまなヒトがん細胞においてMEKのSUMO化が消失していることを確認した.また反対に,MEKのSUMO化を強制的に亢進させると,活性型Rasによる細胞の悪性形質転換が有意に抑制されることも確認した.すなわち,がん遺伝子Rasは,Rafを活性化すると同時に,MEKのSUMO化修飾による不活性化を阻止する,という二重の機構によってERK経路を強くそして効率よく活性化し,発がんを導いていることを示した(図3b).

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図3 MEK1のSUMO化または切断によるキナーゼ活性阻害

(a) MEK1の立体構造(PDB:3W8Q).SUMO1修飾部位(K104)とカスパーゼ3による切断部位(D282, Pro-rich loop)を示した(赤矢印).(b) SUMO化およびカスパーゼ3依存的切断によるMEK1の不活性化.がん遺伝子RasはRafを活性化すると同時に,MEK1のSUMO化を阻害してERKを強く活性化する.また,アポトーシス誘導刺激によりカスパーゼ3が活性化するとMEK1が切断されて不活性化し,ERKシグナルが遮断される.(c) SUMO化を担うE1 (SAE1/2), E2 (Ubc9), およびE3(MEKK1)は相互に結合と解離のサイクルを繰り返すことで,MEK1を構成的にSUMO化する.活性型RasはUbc9とMEKK1との結合を増強して両者の解離を阻害することでSUMO化のサイクルを停止させ,MEK1のSUMO修飾を抑制する.(d)ストレス環境下で活性化したカスパーゼ3はMEK1のD282を切断して不活性化し,アポトーシスを促進する.一方,MEK1(Y130C)変異を持つRASopathy患者では,カスパーゼ3依存的なMEK1の切断が回避されてERK活性が維持され,アポトーシス抑制と発生異常が導かれる.

次に我々は,活性型RasによるMEK-SUMO化の阻害機構を解明するため,MEKのSUMO化を制御する分子の同定を試みた.その結果,MAPKKKの一種であるMEKK1が,MEKのSUMO化を担うE3リガーゼとしても機能していることを見いだした(図3c).さらに,MEKK1とRasとの相互作用を解析したところ,がん遺伝子RasがMEKK1と直接結合して,MEKK1(E3)とUbc9(E2)の結合を著しく増強させることを突き止めた.E1, E2,およびE3分子は,相互に結合と解離のサイクルを繰り返すことで,標的タンパク質を構成的にSUMO化することが知られている.活性型Rasは,MEKK1とUbc9の結合を増強し,解離を阻害することで,このSUMO化のサイクルを停止させ,MEKのSUMO化を抑制していると考えられる.以上の結果から,がん遺伝子Rasは,MEKK1のSUMO-E3リガーゼ活性を阻害し,MEKのSUMO化を阻止するというユニークな機能を持つことが明らかとなった.

SUMO化によるERK経路の制御としては,近年,我々の知見以外にもいくつかの例が報告されている.たとえばKRasは,E3リガーゼであるPIASγを介してSUMO3化されると,Rafへの結合能が増強する36, 37).実際にSUMO化不能型KRas(K42R)変異体を発現する細胞では,遊走能や浸潤能が低下することから,SUMO3修飾はKRas活性を補強する機構であると考えられる.またGrb2(K56)のSUMO1修飾は,SOSへの結合親和性を増大させてRasの活性化を促進する38).さらに,細胞内タンパク質のグローバルなSUMO化レベルの亢進が,がんの進行や予後と相関することも示されており,実際に膵・肺・大腸がんなど,多くのがん組織でSUMO化関連酵素(E1:SAE1-SAE2, E2:Ubc9)の過剰発現や,脱SUMO化酵素(SENP)の減少が認められる39).現在,これらSUMO化修飾酵素を標的とした抗がん剤の開発も進められており,特にE1阻害剤TAK-981はリンパ腫および転移性固形腫瘍を対象とした臨床試験が進行中である40)

また我々は最近,アポトーシスの実行酵素であるカスパーゼ3が,MEK1の酵素ドメイン内に存在するVEGD282配列を直接切断してキナーゼ活性を不可逆的に阻害し,ERK経路を遮断することを見いだした41)図3a, b, d).ERKはさまざまなアポトーシス促進分子(FOXO3a, Bim,カスパーゼ8/9など)をリン酸化してその機能を阻害し,細胞死を抑制することが知られている.したがって,カスパーゼ3によるMEK1の切断は,生存シグナルであるERK経路を不活性化して,アポトーシスをさらに亢進させる機構であると考えられる.実際に,切断不能型MEK1(D282N)変異体を発現する細胞では,DNA損傷や高浸透圧などのストレス環境下でもERK活性が高いまま維持され,これらのストレスによるアポトーシス誘導が有意に抑制された.また興味深いことに我々は,後述する先天性RASopathy患者で高頻度に認められるMEK1(Y130C)変異によって,カスパーゼ依存的なMEK1の切断が完全に消失することも発見した(図3d).これらの結果から,カスパーゼ3依存的なMEK1の切断によるERK経路の制御は,人体の正常な発生に寄与しており,その破綻がRASopathyの病態形成にも寄与していると考えられる41)

3)ERKシグナル誘導遺伝子による活性制御

ERK経路の活性化に伴って発現誘導され,同経路を負に制御する遺伝子として,上述したMKP以外にも複数の分子が同定されている.Sprouty(SPRY)およびSpredは,ショウジョウバエから哺乳類に至る広汎な真核生物において保存された分子であり,ともにERK経路依存的に転写誘導される.ERKの活性化に伴って発現したSPRYはGrb2と結合して,Grb2-SOS複合体の形成を競合的に阻害し,Rasの活性化を抑制する.またSPRYはRafとも結合して,そのキナーゼ活性を抑制することが報告されている42)図2).SpredはRas-GAP(GTPase-activating protein)であるNF1と結合して細胞膜へリクルートすることでRasの活性化を阻害する.SPRYやSpredの発現は,大腸・肝・乳がんなど,さまざまながんで低下していることから,がん抑制遺伝子として機能すると考えられる43).また,MIG-6(mitogen-inducible gene-6)もERK経路依存的に発現誘導され,EGFRと相互作用してその自己リン酸化を阻止することで不活化する44).このようにERKは,自身の上流に位置する分子(SOS, Raf, MEKなど)を直接リン酸化してその機能を抑制する機構と,負の制御因子(MKP, SPRY, Spread, MIG-6など)の発現誘導を介して間接的に活性阻害を導く機構という,2種類のネガティブ・フィードバック機構を使い分け,活性持続時間と強度を厳密に制御している.

3. ERKの基質

ERKはプロリン指向性キナーゼであり,基質分子内に存在するS/T-P配列内のセリンまたはトレオニン残基をリン酸化する.ERKの基質特異性は,このリン酸化サイトの配列選択性に加えて,ERK-基質分子間のタンパク質間相互作用(docking interaction)によっても規定されている.基質分子や,MEK, MKPなど,ERKと選択的に相互作用する分子は,その内部にDサイトと呼ばれる特徴的なアミノ酸配列が存在することが知られており,このDサイトを介してERKのC末端に存在するCDサイト(common docking site)と結合する.すなわち,ERKのCDサイトが基質分子内に存在するDサイトを選択的に認識して結合することで,ERKの基質特異性が担保されている45).また,一部の基質分子は,DEFサイト(docking site for ERK FXF)と呼ばれるドッキングサイトを有しており,このDEFサイトを介してERKと結合し,選択的にリン酸化されることも明らかにされている46)

ERKの基質としては,これまでに転写因子やキナーゼ,細胞骨格系分子など100種類以上が同定されている2, 47).たとえば,活性化したERKはその一部が核内へ移行し,Elk1やSP1など複数の転写因子をリン酸化する.ERKによるリン酸化はこれらの転写因子の転写活性を亢進させ,細胞増殖に必要な初期応答遺伝子(immediate early gene:IEG)の転写を導く48).またERKは,キナーゼ(RSK, MNK)やアポトーシス関連タンパク質(Bim,カスパーゼ8/9など)などもリン酸化してこれらの分子の機能を正負に制御し,タンパク質合成促進や生存に寄与することも報告されている49, 50).しかしながら,いまだ同定されていない基質分子も数多く存在すると考えられており,その解明は生命現象や発がん機構を理解する上でも重要であると思われる.筆者らは最近,ERKの未知基質分子を同定する新たな実験法(酵母3-hybrid法)を開発して,ヒトcDNA発現ライブラリーのスクリーニングを行い,新規分子を複数同定することに成功している.以下,ERK基質分子に関する我々の知見を概説する.

1)MAPK-regulated co-repressor interacting protein 1(MCRIP1)

MCRIP1は,上述のスクリーニングによって単離された約11 kDaの新規ERK基質分子であり,これまでに一切報告がなかったことから我々が命名した遺伝子である51).MCRIP1分子内に,既知の機能ドメインは存在しなかったが,唯一,転写抑制共役因子CtBPと相互作用する特徴的アミノ酸配列(PxDLSモチーフ)が認められ,この配列を介してCtBPと特異的に結合することがわかった(図4a, b).さらにその生理機能について詳細な解析を進めた結果,MCRIP1がCtBPと結合することで,CtBPとZEB1(転写抑制因子)間の結合が競合的に阻害され,CtBP-ZEB1複合体による転写抑制が解除されていることを見いだした.また,興味深いことに,増殖因子やTGFβ刺激などで活性化したERKがMCRIP1をリン酸化すると,MCRIP1がCtBPから解離すること,またその結果,自由となったCtBPはZEB1と結合できるようになって,標的遺伝子(E-カドヘリンなど)のプロモーター上にリクルートされ,最終的にE-カドヘリンの転写抑制および上皮間葉転換(EMT)が導かれることを明らかにした(図4b).さらに我々は,ヒトがんにおけるMCRIP1のリン酸化状態についても解析を行い,各種がん遺伝子の作用によりERK経路が恒常的に活性化している多くのがん細胞で,MCRIP1が異常にリン酸化されていること,またその結果,MCRIP1がCtBPと結合する能力を失ってEMTが起こりやすい状態,すなわち,がん細胞の浸潤・転移が起きやすい状態になっていることを明らかにした.

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図4 ERK基質分子MCRIP1によるE-カドヘリンのエピゲノム抑制

(a) MCRIP1は分子内にCtBP(転写抑制共役因子)結合モチーフと2か所のERKリン酸化サイトを有する.(b) MCRIP1によるE-カドヘリン遺伝子のエピゲノム抑制と上皮間葉転換の制御.(左)無刺激状態でERK活性が低い場合,MCRIP1がCtBPと結合することで,CtBP–ZEB分子間の会合を競合的に阻害し,CtBPがプロモーター上にリクルートされるのを防いでいる.この結果,E-カドヘリンの発現が保持され,上皮細胞としての性質が保たれる.(右)一方,増殖因子やがん遺伝子によってERKが活性化されると,MCRIP1がリン酸化されてCtBPから解離する.その結果,フリーとなったCtBPはZEBと結合して,ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)やメチル化酵素(HMT)とともにプロモーター上にリクルートされ,ヒストン修飾を変化させてE-カドヘリンの発現を抑制し,EMTを誘導する.

2)negative elongation factor-A(NELF-A)

我々は最近,転写伸長反応制御複合体(NELF)の構成因子であるNELF-AがERKの生理的な基質であることを見いだした52)図5a, b).ヒトを含む高等生物においては,ゲノムDNA上でRNAポリメラーゼII(Pol II)によるmRNAの転写がスタートすると,直ちにNELF複合体がPol IIと結合して,転写開始点近傍でPol IIを一時停止させ,転写伸張反応を休止させることが知られている.この現象はpromoter-proximal pausing(PPP)と呼ばれているが,無刺激状態の細胞ではPol IIは停止したままとなってmRNAの転写が完結せず,遺伝子発現が低く保たれている.しかしながら,細胞に増殖因子などの外部刺激が加わると,NELF複合体は速やかにPol IIから解離して転写伸長反応が再開し,完全長mRNAが合成されて遺伝子発現が誘導される.このようなNELF複合体を介した転写伸長反応の一時停止とその解除による遺伝子発現制御は,程度の違いはあるもののヒト遺伝子の約60%に認められることが報告されており,特に増殖因子刺激後,迅速かつ同期的に転写誘導される初期応答遺伝子(IEG:JUN, FOS, EGRなど)の発現制御にきわめて重要であることが示されている.しかしながら,増殖因子がどのようにしてNELFをPol IIから解離させ,IEGの転写伸長反応を再開させているのか,そのメカニズムはこれまでほとんど明らかにされていなかった.これに対して我々は,増殖因子によって活性化したERKが,NELF-A分子内の4か所のセリン/トレオニン残基(S363/S393/T396/T399)を直接リン酸化することで,NELF複合体をPol IIから解離させること,またその結果,転写の一時停止が速やかに解除されてIEGの迅速な発現と細胞増殖が導かれていることを明らかにした.加えて,脱リン酸化酵素PP2AがNELF-Aを効率よく脱リン酸化して,IEGの発現を負に制御する分子であることを発見するとともに,ヒトがんではPP2A阻害分子(SETやCIP2A)の異常な高発現によってPP2A活性が低下しており,NELF-Aのリン酸化が亢進してIEGの恒常的な発現とがんの増殖・進展が導かれていることを見いだした(図5b).

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図5 ERKによるNELF-Aのリン酸化と初期応答遺伝子(IEG)転写伸長反応の制御

(a)増殖因子によって活性化したERKは,NELF-A分子内に高度に保存された4か所のSP/TPサイトをリン酸化する.(b) ERKおよびPP2AによるNELF-Aのリン酸化とIEG転写伸長反応の制御.(左)正常細胞では,増殖因子刺激により活性化したERKがNELF-Aをリン酸化して,Pol IIの一時停止を解除する.その結果,転写伸長反応が再開し,IEG(FOSJUNなど)の迅速な発現と細胞増殖が導かれる.NELF-Aのリン酸化はERKとPP2Aのバランスにより厳密に制御されている.(右)がん遺伝子によりERKが恒常的かつ中程度に活性化しても,PP2AがNELF-Aを効率よく脱リン酸化するため,それだけでは転写の一時停止は解除されず,IEGの発現は低く保たれている.しかし,多くのがんではPP2A阻害分子(SET, CIP2A)の異常な高発現によってPP2Aの活性が低下しており,NELF-Aのリン酸化が亢進してIEGの発現およびがんの進展を導く.

4. ERK経路と疾患

1)病原ウイルス・細菌によるERK経路の脱制御

新型コロナウイルスSARS-CoV-2の累計感染者は世界で7億人(2023年3月時点)を超え,現在も増加の一途をたどっているが,その感染過程や病態形成にもERK経路が関与する.これまでにSARS-CoV-2のスパイクタンパク質がPKCを介してERK経路を活性化し,プロスタグランジン合成酵素COX-2の転写を誘導して炎症を悪化させることが報告されている53).また,抗インフルエンザ薬として開発されたMEK阻害剤ATR-002は,少なくともin vitroの細胞培養系において,SARS-CoV-2ウイルスの複製や増殖を阻止するだけでなく,感染細胞から産生されるさまざまな炎症性サイトカイン(IL-6, CXCL8, CCL2など)の発現を抑制することが示されており,COVID-19治療薬としての臨床試験が進められている54).またSARS-CoV-2に限らず,インフルエンザ,エボラ,ヒト免疫不全ウイルスなど,多くの病原ウイルスが,宿主細胞内のERKシグナルを活性化して感染の成立および自身の複製に有利な状況を創り出すことが示されている.特に最近,単純ヘルペスウイルス1型のエンベロープタンパク質gEが,宿主細胞の膜タンパク質prohibitin-1と相互作用してERK経路を活性化すること,またこれによりウイルス粒子の細胞内輸送が亢進して,細胞間のウイルス伝播(cell-to-cell感染)に寄与することが見いだされた55)

ウイルスのみならず病原性細菌も,さまざまなエフェクター分子を産生して宿主細胞に取り込ませ,感染に有利な状況を作り出すが,特に一部の細菌由来分子は,真核生物には存在しない特殊な翻訳後修飾を導く酵素であり,宿主細胞のERK経路を阻害して免疫応答を抑制する機能を持つことが示されている56)表2).緑膿菌が分泌するExoSは,HRasのR41およびR128をADP-リボシル化して,Rasの活性化に必要なGDP-GTP交換反応を阻害する57).一方,Clostridium sordelliiが分泌するlethal toxinは,HRasのT35をモノグルコシル化し,Ras–Raf間相互作用を破壊してERK経路を抑制する58).サルモネラ菌が分泌するSptPは,チロシンホスファターゼ活性とRasに対するGAP活性を併せ持つ酵素であり,Rafの活性化を阻害する59).また,ペスト菌由来のYopJは,MEKの活性化に必要な2か所のリン酸化サイト(S218/S222)を選択的にアセチル化する機能を有しており,MEKのリン酸化を阻止してそのキナーゼ活性を喪失させる60, 61).炭疽菌が産生するlethal factorは亜鉛結合型メタロプロテアーゼであり,MEKのN末端に存在するERK結合配列(Dサイト)を切断してMEK–ERK間の相互作用を破壊し,シグナル伝達を遮断する62).さらに赤痢菌とサルモネラ菌は,それぞれOspF, SpvCと呼ばれる特殊な酵素(phospho-threonine lyase)を産生して,ERK活性化ループ内のリン酸化トレオニン残基からプロトンを除去するβ脱離反応を引き起こし,デヒドロブチリンへと不可逆的に変換することでERKを不活化する63, 64).このような病原細菌が産生する酵素は,多くの場合ERK経路のみならず,p38/JNK経路やNF-κB経路の構成分子に対しても同様の作用を及ぼし56),宿主細胞の増殖,生存,炎症,免疫応答などを同時に撹乱することで病原性を高めている.COVID-19に対する治療薬としてMEK阻害剤の臨床試験が進められている例が示すように,今後,感染症に対する新たな治療戦略としてシグナル伝達制御薬の活用が期待される.

表2 細菌由来分子によるERKシグナル構成因子の翻訳後修飾
病原菌エフェクター分子宿主内標的タンパク質標的分子への影響
P. aeruginosaExoSHRasADP-リボシル化修飾(R41/R128):GDP/GTP交換阻害
C. sordelliilethal toxinHRasモノグルコシル化(T35):Ras-Raf相互作用阻害
S typhimuriumSptPCRaf活性化阻害(機序不明)
Y. pestisYopJMEK1/2アセチル化(MEK1:S218/S222, MEK2:S222/S226):キナーゼ活性阻害
B. anthracislethal factorMEK1/2N末端切断(MEK1:P8-I9間,MEK2:P10-A11間):キナーゼ活性阻害
S. flexneriOspFERK1/2リン酸基脱離化(ERK1:T202, ERK2:T185):キナーゼ活性阻害
S. entericaSpvCERK1/2

2)がんとRASopathy

ERK経路の上流に位置する分子(EGFR, Ras, Rafなど)は,膵・大腸・肺・甲状腺がん,悪性黒色腫などのさまざまな固形がんや,多発性骨髄腫,白血病を含む各種血液悪性腫瘍において高頻度に遺伝子変異が認められるがん遺伝子であり(表3),ERK経路を恒常的に活性化して発がんを導く65).特に,膵がんにおけるKRas変異(90%以上)や悪性黒色種におけるBRaf変異(50~60%)などのように,がん種特異的に高い変異率を示すがん遺伝子も同定されている66, 67).また近年の大規模がんゲノム解析から,MEK遺伝子の活性型変異が,低頻度ではあるものの肺・大腸・卵巣がん,悪性黒色腫など,さまざまながんで検出され68),MEKもがん遺伝子として機能することが明らかにされている.さらに,子宮頚がんや頭頚部がんではERK2の点変異も見いだされており69, 70),ホットスポット変異であるE322KはERK2のキナーゼ活性を亢進させることが証明されている71)

表3 ERKシグナル構成因子の各種がん組織における変異率
遺伝子頻度組織
RasKRas90%膵がん
50%大腸がん
30%肺がん
5%急性骨髄球性白血病
NRas17%悪性黒色腫
14%急性骨髄球性白血病
6%甲状腺がん
HRas7%膀胱がん
5%頭頚部扁平上皮がん
2%甲状腺がん
MAPKKKBRaf60%甲状腺がん
50%悪性黒色腫
10%大腸がん
6%肺がん
MAPKKMEK7%悪性黒色腫
3%胆管がん
2%大腸がん
1%肺がん
MAPKERK8%子宮頚がん
6%頭頚部扁平上皮がん

加えてERK経路構成因子の遺伝子変異は,がんのみならず常染色体優性遺伝性疾患である先天性Ras-MAPK症候群(RASopathy)の原因となることも明らかにされている72).RASopathyは,Costello症候群,Noonan症候群,Cardio-facio-cutaneous(CFC)症候群,LEOPARD症候群,神経線維腫症1型(NF1)など,多くの類似した臨床所見(頭蓋顔面異形,神経認知障害,肥大型心筋症,皮膚・筋骨格系異常など)を示す先天性疾患の総称であり,どの疾患においてもERK経路構成因子(SOS1, Ras, Raf, MEKなど)のいずれかに生殖細胞変異が検出される73).これらの知見は,ERK経路を中心とした生体内情報伝達が,組織や人体の正常な発生にもきわめて重要であることを示している.しかしながら,RASopathyの病態形成機構にはいまだ不明な点が多い.たとえば,MEK1遺伝子の点変異はCFC症候群患者の約25%に認められ,ERK活性を亢進させることが報告されているが,その一方で,CFC症候群患者に特に易発がん性は認められない.すなわち,がんおよびRASopathyにおいては,共通の遺伝子(RafやMEKなど)に点変異が見いだされるにもかかわらず,発がんおよび発生異常という異なる臨床像が形成されている.同一の遺伝子に変異がありながら,この表現型の違いがどのようにして生み出されているのか,その分子機構の詳細な解明はRASopathyの病態のみならず,発がん機構を理解する上でもきわめて重要であると思われる.

筆者らは最近,疾患由来MEK1点変異体の詳細な解析から,この問題の解明につながる知見を得ることに成功した74).我々はまず,がんとRASopathyの両疾患で,MEK1遺伝子の変異部位やアミノ酸変化の種類が異なることに着目し(図6a),これらのMEK1変異体に何らかの疾患特異的な性質の違いが認められるか検証を行った.MEK1は通常,増殖因子などの刺激に応じて上流のRafによってリン酸化されることで活性化するが,我々の解析から疾患由来MEK1変異体は,そのすべてが無刺激の状態でも高い酵素活性を示す恒常的活性化型となっていることが確認された.さらに興味深いことに我々は,各変異体の活性強度や性質が,原疾患に依存して大きく異なっていることを見いだした(図6b, c).すなわち,がん由来のMEK1変異体は,異常な自己リン酸化能(自分自身をリン酸化して活性化する能力)を獲得しており,きわめて強い酵素活性と細胞がん化能(悪性形質転換能)を有するのに対し,RASopathy由来の変異体は自己リン酸化能を有しておらず,リン酸化非依存的に活性化して中程度の酵素活性を示し,発がん能にも乏しいことを発見した.そこでさらにMEK1変異体の異常な活性化機構を解明するため結晶構造解析を実施した結果,RASopathy由来MEK1変異体では,活性化ループが分子の外側に向かって大きく開いており,これにより,野生型MEK1では同ループで隠されていた基質結合領域や酵素活性中心が解放されて,非リン酸化状態でも基質(ERK)をリン酸化しやすい状態になっていることがわかった(図7a).またこの変化に加えて,がん由来のMEK1変異体では,野生型MEK1で認められる近接した三つのアミノ酸残基(K57/H119/F129)間の相互作用(水素結合)が完全に消失しており,このことが異常な自己リン酸化能を獲得する主因であることを発見した.すなわち,この分子内水素結合の破壊によって,キナーゼ活性を抑制する作用を持つヘリックスA領域と酵素ドメイン間の相互作用が解除され,自己リン酸化能を獲得していることがわかった.実際に,これら三つのアミノ酸残基やその周辺領域の点変異は,がん患者において高頻度に認められることから,K57/H119/F129間の水素結合を破壊する変異を持つMEK1変異体のみが,自己リン酸化能を獲得して強力なキナーゼ活性を示し,最終的に発がんを導いていることが明らかとなった.

Journal of Japanese Biochemical Society 95(5): 579-593 (2023)

図6 疾患由来MEK1変異体によるERKシグナル異常

(a)孤発性がん(赤)およびRASopathy(青)で認められるMEK1変異.(b) MEK1変異体のキナーゼ活性と発がん活性.がん由来MEK1(K57N)変異体は,異常な自己リン酸化能を獲得して,強い酵素活性と細胞がん化能を有するのに対し,RASopathy由来MEK1(F53S)変異体は自己リン酸化能を有しておらず,中程度の酵素活性を示し,発がん能にも乏しい.(c)がんおよびRASopathy由来のMEK1変異体は,活性化機構や性質が原疾患に依存して異なっている.その結果,ERKシグナルの時空間動態と遺伝子発現プロファイルに異なるタイプの異常が引き起こされて,がんと発生異常という別個の臨床像が導かれる.

Journal of Japanese Biochemical Society 95(5): 579-593 (2023)

図7 野生型およびがん由来MEK1変異体の立体構造と抗がん剤抵抗性獲得機構

(a)野生型(PDB:3EQI)およびMEK1(C121S)変異体(PDB:7F2X)の立体構造.野生型と比べて,MEK1(C121S)変異体では,活性化ループ(橙色部分)が開いた構造となっており,酵素活性中心と基質(ERK)結合領域が露出して,酵素反応が起こりやすい活性化状態となっている.(b) MEK1変異体がMEK阻害剤に対する抵抗性を獲得する仕組み.MEK阻害剤はMEK1分子内のアロステリック・ポケットにはまり込み,キナーゼ活性を抑制する.一方,C121S変異体では同ポケットが変形して,阻害剤が結合不能となっている(文献74を改変).(c) PHLDA1/2を介したがん細胞特異的なERK-AKT間クロストーク.(左)がん遺伝子によって恒常的に活性化したERKは,PHLDA1/2の発現を誘導してAKT経路(生存シグナル)を抑制する.(中)分子標的抗がん剤の投与によりERK経路が遮断されると,PHLDA1/2の発現が消失してAKTが活性化し,がん細胞の生存と抗がん剤抵抗性が惹起される.(右)ボルテゾミブはERK活性非依存的にPHLDA1/2の発現を増強する.したがって,分子標的抗がん剤(ERK経路阻害剤)とボルテミゾブを併用することにより,ERKが不活性化してもPHLDA1/2の発現が維持されてAKTが阻害されたままとなり,より強力な抗腫瘍効果が発揮される.

次に我々は,これら性質の異なる2種類のMEK1変異体が,細胞内でERKシグナルと遺伝子発現にどのような影響を与えるのか解析を行った.その結果,RASopathy由来の変異体を発現する細胞では,野生型細胞と比べて,無刺激時におけるERK活性の亢進は軽度であるものの,増殖因子刺激後に起こるERKの活性化と核移行が有意に増強し,その持続時間も延長することがわかった.またそれに伴って,細胞内のグローバルな遺伝子発現プロファイルが変化し,心筋症や精神遅滞などRASopathyの臨床症状に関連する遺伝子群の発現が選択的に亢進することを見いだした(図6c).一方,がん由来の変異体を発現する細胞では,無刺激の状態でもERKが強く活性化して核内に集積しており,その結果,特定の転写因子が常に活性化された状態となって発がんおよびがんの進展に関わる遺伝子が多数発現誘導されることを見いだした.これらの結果から,がんおよびRASopathyで認められるMEK1変異体の疾患特異的な性質の違いが,ERKシグナルの時空間制御と,細胞内の転写プログラムおよび遺伝子発現プロファイルに異なるタイプの異常を引き起こし,発がんと発生異常という別個の臨床像を導いていることが明らかとなった.

3)疾患由来MEK1変異体の解析から見いだされた新たな抗がん剤抵抗性獲得機構

各種がん遺伝子の機能を選択的に阻害し,ERK経路の異常な活性化を抑制する薬剤は,分子標的抗がん剤として活用されている.実際これまでに,EGFR阻害剤(erlotinib, gefitinib),KRas阻害剤(adagrasib, sotorasib),BRaf阻害剤(vemurafenib, dabrafenib),MEK阻害剤(trametinib, binimetinib)などが開発され,広く臨床の現場で使用されている2).これらの薬剤は一定の治療効果を示すものの,薬剤耐性の出現が大きな問題となっており,そのメカニズムの理解と克服は,より有効ながん治療の実現にきわめて重要である75, 76).上述の分子標的薬のうち,MEK阻害剤はMEK分子のみが持つアロステリック・ポケットと呼ばれる構造に結合する薬剤であることから,MEKに対する選択性がきわめて高く,現在,悪性黒色腫,非小細胞性肺がん,および結腸・直腸がんなどに対する治療薬として活用されているが,MEK遺伝子自体に変異を持つがんに対しては無効であることが知られている.その薬剤耐性機構の詳細はこれまで不明であったが,我々が実施したMEK変異体の構造解析から,点変異によってアロステリック・ポケットの形状が大きく変化して,阻害剤が結合不能となっていることが見いだされ,これが薬剤耐性獲得の原因であることが明らかとなった74)図7b).その一方で,MEKの酵素活性中心であるATP結合ポケットの形状は,変異体においても変形せずに保たれていたことから,MEKに対する既存のATP競合阻害剤(hymenialdisine)を用いてその効果を検証したところ,変異体に対しても野生型と変わらず高い阻害活性を示すことが確認された.今後,変異型MEKを有するがんに対しては,ATP競合阻害剤の活用や,変形したアロステリック・ポケットの形状にも適合しうる新たな薬剤の開発が望まれる.

また筆者らは,上述の疾患由来MEK変異体を用いた遺伝子発現解析から,さまざまな分子標的抗がん剤(ERK経路阻害剤)に共通する,がんの新たな耐性獲得機構を見いだすことに成功した74).まず我々は,RASopathy由来のMEK1変異体(中程度のERK活性)では発現量が変化せず,がん由来のMEK1変異体(強力かつ恒常的なERK活性)を持つ細胞においてのみ,発現誘導される遺伝子が一定数存在することを見いだした.このような遺伝子はがん細胞特異的に発現しており,がんの病態に深く関与する可能性が想定される.興味深いことに,これらの遺伝子の中には,AKT阻害分子であるpleckstrin homology like domain family, member 1(PHLDA1)およびPHLDA2が含まれていた.そこでまず,実際のヒトがん組織におけるPHLDA1/2の発現を検証したところ,各種がん遺伝子(EGFR, Ras, Raf, MEK1等)に変異を有し,ERK活性の高いさまざまながん(肺・大腸・膵がん,悪性黒色腫など)で,PHLDA1/2がともに高発現していることが確認された.さらに,これらの分子の機能について解析を進めた結果,がん細胞におけるPHLDA1/2の高発現が,発がん過程とがん治療において「諸刃の剣」として機能していることがわかった.すなわち,PHLDA1/2は,元来,細胞の生存シグナル(AKT経路)を阻害する作用を持つ分子であり,ERK活性の高いがんで高発現することで,がん細胞の生存を抑制して腫瘍の増大を一定程度抑えているが(図7c),その一方で,がん治療の際に分子標的抗がん剤(ERK経路阻害剤)を患者に投与すると,がん細胞内のERK活性が低下してPHLDA1/2の発現が急速に消失してしまうため,これらの分子による抑制が解除されてAKT(生存)経路が強く活性化し,がん細胞が細胞死を回避して抗がん剤の効果が減弱してしまうことがわかった.実際に,がん細胞内にPHLDA1/2を強制的に導入してその発現を維持してやると,分子標的薬投与後もAKT活性が抑制されたままとなり,薬剤の抗腫瘍効果が著しく高まることが動物実験で確認された.この結果は,PHLDA1/2の発現を人工的に制御することができれば,分子標的抗がん剤の効果を飛躍的に高めることが可能であることを示している.そこでさらに,PHLDA1/2の発現を,ERK活性非依存的に亢進させる薬剤が存在するか探索を行った結果,既存薬ボルテゾミブが,転写および転写後調節の両レベルでPHLDA1/2の発現を増強する作用を持つことを見いだした.また実際に,分子標的抗がん剤(ERK経路阻害剤)とボルテゾミブをがん細胞に同時に投与すると,ERK活性が低下してもPHLDA1/2の発現が維持されて生存(AKT)シグナルが抑制されたままとなり,抗がん作用(がん細胞の細胞死)が有意に高まることが確認された(図7c).

5. おわりに

以上,ERK経路の制御機構と機能,およびその異常がもたらす疾患に関する最近の知見を紹介した.ERKの発見以来,数十年にわたる継続的な研究から,その多彩な活性制御システムが解明されつつあるものの,本経路を中心とした生体内情報伝達ネットワークの全体像はいまだ不明である.特にERKによってリン酸化される基質分子や,さらにその下流で発現量が変化する遺伝子の網羅的同定は,生命現象の本質的理解のみならず,がんや感染症など,社会的要請の高い難治性疾患を克服する上でもきわめて重要であると思われる.ERK経路の構成因子をターゲットとする分子標的薬(キナーゼ阻害剤や抗体製剤など)の登場によって,がんや感染症の治療は目覚ましい進歩を遂げており,現在もさまざまな新薬が開発され続けている.また最近,先天性疾患であるRASopathyに対しても,これらの分子標的薬が活用され始めており,わが国においても,神経線維腫症1型患者で認められる叢状神経線維腫の治療薬としてMEK阻害剤selumetinibが承認されている76, 77).その一方で,がん治療における分子標的薬の効果は,多くの場合一時的であり,がん細胞の薬剤耐性獲得や予期せぬ副作用の出現などの問題点も指摘されている.生命現象の制御メカニズムを理解し,疾病に対する真に有効な診断・治療法を開発するには,シグナル伝達の基礎研究とその成果に基づくトランスレーショナル・リサーチのさらなる発展が望まれる.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した研究は,東京大学医科学研究所・分子シグナル制御分野に所属する多くのスタッフや大学院生,ならびに学内外の多くの共同研究者の協力の下で行われたものであり,この場を借りて深く感謝申し上げます.

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著者紹介Author Profile

武川 睦寛(たけかわ むつひろ)

東京大学医科学研究所分子シグナル制御分野 教授.博士(医学).

略歴

1994年大学院医学研究科修了,同年米国Harvard Medical School研究員,2000年東京大学医科学研究所助教,03年同准教授.09年名古屋大学環境医学研究所教授を経て12年より現職.

研究テーマと抱負

癌や自己免疫疾患などの病因・病態に関与する細胞内シグナル伝達ネットワーク,特にMAPK経路やストレス顆粒の制御機構を分子レベルで解き明かし,疾患の診断や治療に役立てることを目標に研究を推進しています.

ウェブサイト

https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/dcsmm/DCSMM/Top.html

趣味

音楽鑑賞,読書.

久保田 裕二(くぼた ゆうじ)

東京大学医科学研究所 分子シグナル制御分野 講師.博士(理学).

略歴

2004年静岡大学理学部卒業.11年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了.名古屋大学環境医学研究所分子シグナル制御分野研究員,11年同助教,12年東京大学医科学研究所分子シグナル制御分野助教を経て,22年より現職.

研究テーマと抱負

MAPKカスケードの制御機構とシグナル異常による疾患発症メカニズムの解明,および研究成果の臨床応用を目標に日々研究を進めています.

ウェブサイト

https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/dcsmm/DCSMM/Top.html

趣味

散策.

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