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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 95(5): 604-608 (2023)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2023.950604

みにれびゅうMini Review

概日時計タンパク質CRY1とCRY2をアイソフォーム選択的に制御する化合物Isoform-selective compounds against mammalian circadian clock proteins CRY1 and CRY2

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所Institute of Transformative Bio-Molecules, Nagoya University ◇ 〒464–8601 愛知県名古屋市千種区不老町 ◇ Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya, Aichi 464–8601, Japan

発行日:2023年10月25日Published: October 25, 2023
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1. はじめに

概日時計は地球上のほぼすべての生物において睡眠覚醒,ホルモン分泌,体温,代謝などさまざまな生理機能にみられる一日周期のリズムを生み出す.全身の個々の細胞においては,時計遺伝子が形成する負のフィードバックループ(図1A)が一日に一周している1).すなわち,転写因子のCLOCKとBMAL1がヘテロ二量体を形成し,E-box配列に結合してPeriodPer1Per2)およびCryptochromeCry1Cry2)遺伝子の転写を活性化する.翻訳されたPERとCRYは複合体を形成して核内に移行し,CLOCK-BMAL1を抑制する.PERとCRYがプロテアソームを介して分解されると,CLOCK-BMAL1の抑制が解除されて次のサイクルが回り始める.CLOCK-BMAL1はPerCryだけでなく,代謝やその他の出力に関わる遺伝子の転写調節を介して多様な生理機能の概日リズムを制御している.シフトワークや遺伝子変異などによって概日リズムが乱れると,睡眠リズム障害や代謝疾患,がんなど,現代社会におけるさまざまな疾患につながることがヒトの疫学研究やモデルマウスの研究から明らかになっている.概日時計がどのように一日周期のリズムを生むのか,いかに生理機能を制御するのか,その機能不全がどのように疾患につながるのか,といった重要な課題に取り組むための有用なツールとして,概日時計の機能調節を可能にする化合物が注目されている.

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図1 哺乳類の概日時計機構

(A)時計遺伝子のフィードバックループ.(B)時計タンパク質であるCRY1とCRY2の一次構造.

概日時計を調節する化合物の探索には,標的タンパク質に基づくアプローチと表現型に基づくアプローチがある.標的タンパク質に基づく手法では,対象となるタンパク質を絞り込み,組換えタンパク質を用いてin vitroで活性を測定する系を構築し,候補化合物を探索する.この手法により,タンパク質キナーゼのCKIや核内受容体のREV-ERBに対する新規化合物が開発されてきた2, 3).一方,表現型に基づく手法では,時計遺伝子レポーターのBmal1-dLucPer2-dLucを用いることで細胞の概日リズムを測定する.リズムの周期,位相,振幅に対する化合物の効果を評価するが,レポーターの強度は評価しないため,ハイスループットスクリーニングで問題となる偽陽性を大幅に減らすことができる4).標的タンパク質が未同定で,かつ,構造多様性に富む化合物ライブラリーを用いることで,さまざまな種類のタンパク質を標的とすることができるが,候補化合物を見いだした後に標的タンパク質を同定する必要がある.たとえば,候補化合物を誘導体化してアフィニティープローブを開発し,相互作用するタンパク質を精製した後,質量分析によって同定する.筆者らは表現型スクリーニングを用いて,タンパク質キナーゼのCKIやCK2に対する新規化合物だけでなく,時計タンパク質のCRYを標的とする世界初の化合物を発見してきた2–7).本稿ではCRYに対する化合物について,作用機序と疾患治療への応用の可能性を紹介する.

2. CRYを標的とする化合物

CRYは光回復酵素/クリプトクロムファミリーに属し,フラビンアデニンジヌクレオチド(flavin adenine dinucleotide:FAD)と結合する保存性の高い光回復酵素ホモロジー領域(photolyase homology region:PHR)と,多様なC末端ドメイン(CRY C-terminal domain:CCT)から構成される(図1B).植物や昆虫においてはCRYがFADを補酵素として青色光の光受容体として働く一方,哺乳類においてはFADへの親和性が弱く,光に依存しない転写抑制因子として概日時計のフィードバックループにおいて中心的な役割を果たす(図1A).概日リズムの周期を延長する化合物として筆者らが表現型スクリーニングから見いだした化合物KL001(図2)は,アフィニティー精製の結果からCRYと相互作用することが判明した5).KL001はCRYのFADポケットに結合し,ユビキチンリガーゼのFBXL3(図1A)によるCRYの認識を阻害することによってCRYの分解を抑制する.その結果,CRYの機能が活性化し,Per遺伝子の転写を抑制して概日リズムの周期を延長する.KL001は非常によく似たホモログであるCRY1とCRY2の両者に作用し,KL001のPer抑制効果はCry1/Cry2ダブルノックアウト細胞において消失することから,この化合物はCRY1とCRY2に特異的である.KL001の発見により,CRY機能の化合物による制御が可能となった.

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図2 CRYを標的とする化合物

CRY1とCRY2はリダンダントに働くと考えられてきたが,それぞれのアイソフォームに特有の機能も明らかになりつつある.そのため,CRY1とCRY2の両者に作用する化合物に加え,アイソフォーム選択的に作用する化合物の発見が概日時計システムにおけるCRY1とCRY2の機能解明を促進すると考えられる.しかし,FADポケットの配列はCRY1とCRY2の間で相同性が非常に高く,アイソフォーム選択的な化合物の設計・開発の妨げとなっていた.一方,筆者らは表現型スクリーニングから同定した概日時計調節化合物の中から,CRY1に選択的に作用する化合物としてKL101, KL201, TH303(図2)を,CRY2に選択的な化合物としてTH301(図2)を見いだすことに成功した6–8).これらの化合物もFADポケットに結合してCRYの分解を抑制し,CRY機能を活性化する.この発見により,CRY1とCRY2の個別の機能制御が可能となった.なお,同様のアプローチにより,CRY1とCRY2の両者を活性化する新規化合物TH401(図2)も見いだしている9)

3. CRY1とCRY2のアイソフォーム選択性の分子機構

化合物の選択性を生み出す分子機構として一般的なのは,相互作用するアミノ酸の配列の違いである.一方,CRYに作用する化合物とCRY1またはCRY2との複合体のX線結晶構造解析から,化合物と相互作用するアミノ酸の配列はアイソフォーム間で同一であることが判明した(図3A6–10).同一のアミノ酸からなる化合物結合部位がどのようにアイソフォーム選択性を生み出すのかについて,筆者らは以下の二つの分子機構を見いだした.

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図3 CRY1とCRY2の化合物結合部位

(A)化合物との複合体の構造.(B)apo型の構造.文献10より改変.

一つ目はアミノ酸側鎖の向きの違いである.CRYと化合物の複合体の結晶構造を詳細に解析した結果,CRY1のW399とそれに相当するCRY2のW417の側鎖が,CRY1に選択的な化合物と相互作用しているときには外側(out)に,CRY2に選択的な化合物と相互作用しているときには内側(in)に向いていることを見いだした(図3A).一方,化合物と結合していないapo型について新たに構造を決定したところ,CRY1 W399はout, CRY2 W417はinであることが判明した(図3B).結晶構造はスナップショットであるのに対し,分子動力学シミュレーションにおいてもCRY1 W399 outとCRY2 W417 inの状態が保たれたことから,この向きの違いはCRYアイソフォームに内在的であると考えられた.内在的な向きと化合物の選択性が一致したことから,このトリプトファンをゲートキーパーと名づけた.さらに,ゲートキーパーの向きを決める機構として,近傍のlid loopと呼ばれる領域とのユニークな相互作用を見いだした.すなわち,CRY1 W399 outはQ407と相互作用していたのに対し,CRY2 W417 inはF424と相互作用してした(図3B).興味深いことに,lid loopのアミノ酸配列もCRY1とCRY2の間で同一であり,異なるのは向きだけであった.これらのlid loopのアミノ酸をアラニンに置換した変異体ではKL101とTH301の選択性が逆転したことから,lid loopとのアイソフォーム特異的な相互作用によるゲートキーパーの方向が化合物の選択性を決定すると考えられた10)

二つ目はアイソフォーム間で配列が異なるC末端領域CCT(図1B)の寄与である.CCTを削る,またはアイソフォーム間でCCTを入れ替えたところ,KL101とTH301の選択性が消失または低下した.さらにCCTを細分化して入れ替えた結果,エクソン10に相当する領域が重要であることが判明した6).興味深いことにゼブラフィッシュCRYのエクソン10領域の配列は哺乳類と大きく異なっており,KL101やTH301はゼブラフィッシュCRYに作用しなかった11).この結果もエクソン10領域の重要性を支持している.以上の結果から,アイソフォーム選択性の決定にはゲートキーパーとlid loopだけでは十分でなく,CCTによるサポートが必要であると考えられる.CCTは一定の構造をとらない天然変性領域として知られており,ゲートキーパーとlid loopに対する作用の構造基盤の解明が今後の課題である.

4. 疾患治療への応用の可能性

ヒトにおいてCRY1とCRY2それぞれの遺伝子の変異が家族性の睡眠相後退と前進の原因として見いだされただけでなく,CRY1とCRY2のダブルノックアウトマウスが高血糖などの代謝疾患症状を示すなど,CRYは概日時計関連疾患の有力な創薬ターゲットになりうると考えられる2, 3).以下にCRYを標的とする化合物を用いた応用例を紹介する.

空腹時に分泌されるホルモンであるグルカゴンは肝臓における糖新生を活性化し,糖尿病においてはグルカゴン分泌の亢進が高血糖の一因となる.CRYは糖新生のグルカゴン応答を抑制する機能を持つ.筆者らはマウス肝細胞の初代培養系を用いて,KL001によるCRYの活性化が糖新生のグルカゴン応答を抑制することを見いだし,新たな糖尿病治療薬としての可能性を示した5).その後,Humphriesらによって経口投与可能なKL001の誘導体compound 50(SHP656)(図2)が開発され,遺伝性の糖尿病モデルマウスにおいて血糖値を低下させることが示された12)

グリオブラストーマは致死性が非常に高い悪性の脳腫瘍であり,抗がん剤や放射線治療に抵抗性を示すグリオブラストーマ幹細胞の存在が治療を困難にしている.正常な神経幹細胞とは異なり,グリオブラストーマ幹細胞の代謝関連遺伝子の発現はCLOCK-BMAL1に依存しており,患者由来のグリオブラストーマ幹細胞を移植したマウスの生存期間をSHP656が延長することがKay, Richらによって報告された13).このようにin vivoで効果を示す創薬候補化合物SHP656について,筆者らは機能・構造解析からこの化合物がCRY2に選択性を示すこと,その選択性にゲートキーパーが関与することを見いだした.さらに,SHP656よりも強い効果を持つSHP1703(図2)を見いだすことに成功した.SHP656のアイソフォーム選択性の解明から,高血糖やグリオブラストーマの治療においてCRY2が有力な分子標的であると考えられた14)

褐色脂肪はエネルギーを熱として消費する性質を持つことから,肥満対策のターゲットとして注目されている.筆者らはCry1/Cry2ダブルノックアウトマウスにおいて,褐色脂肪細胞の分化が阻害されていることを見いだした.さらに,野生型マウスの脂肪前駆細胞を培養してKL101やTH301を投与したところ,糖尿病治療薬のロシグリタゾンと協調して褐色脂肪細胞への分化を促進することを発見した6).抗肥満薬候補としての応用に向け,マウス個体において褐色脂肪に与える効果の解明が待たれている.

5. おわりに

CRYを標的とする化合物はこれまで,概日リズムの表現型スクリーニングから発見されてきた.一方,最近ではCRYの結晶構造情報を用いたin silicoスクリーニングから,CRY1の分解を促進する化合物M47(図2)がKavakliらによって見いだされている15).このような計算科学的なアプローチは今後さらに進展すると考えられる.また,概日時計の時間・空間的な精密制御に向けた試みも進んでいる.筆者らは光薬理学を応用してCRY1選択的な化合物TH129に光スイッチであるアゾベンゼンを導入したGO1423(図2)を開発し,CRYの機能と細胞レベルの概日リズムを光によって可逆的に制御することに成功した8).将来的には個々の細胞での光制御が望まれる.CRYの創薬研究はまだ始まったばかりである.今後,CRY1やCRY2に作用してin vivoで効果を示す化合物がさらに見いだされ,さまざまな生理機能や疾患における各アイソフォームの役割の理解が深まり,概日時計関連疾患の治療薬としての開発が進展していくことを期待したい.

引用文献References

1) Takahashi, J.S. (2017) Transcriptional architecture of the mammalian circadian clock. Nat. Rev. Genet., 18, 164–179.

2) Miller, S. & Hirota, T. (2020) Pharmacological interventions to circadian clocks and their molecular bases. J. Mol. Biol., 432, 3498–3514.

3) Rasmussen, E.S., Takahashi, J.S., & Green, C.B. (2022) Time to target the circadian clock for drug discovery. Trends Biochem. Sci., 47, 745–758.

4) Hatori, M. & Hirota, T. (2022) Cell-based phenotypic screens to discover circadian clock-modulating compounds. Methods Mol. Biol., 2482, 95–104.

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10) Miller, S., Srivastava, A., Nagai, Y., Aikawa, Y., Tama, F., & Hirota, T. (2021) Structural differences in the FAD-binding pockets and lid loops of mammalian CRY1 and CRY2 for isoform-selective regulation. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 118, e2026191118.

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14) Miller, S., Kesherwani, M., Chan, P., Nagai, Y., Yagi, M., Cope, J., Tama, F., Kay, S.A., & Hirota, T. (2022) CRY2 isoform selectivity of a circadian clock modulator with antiglioblastoma efficacy. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 119, e2203936119.

15) Gul, S., Akyel, Y.K., Gul, Z.M., Isin, S., Ozcan, O., Korkmaz, T., Selvi, S., Danis, I., Ipek, O.S., Aygenli, F., et al. (2022) Discovery of a small molecule that selectively destabilizes Cryptochrome 1 and enhances life span in p53 knockout mice. Nat. Commun., 13, 6742.

著者紹介Author Profile

廣田 毅(ひろた つよし)

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 特任准教授.博士(理学).

略歴

1998年東京大学理学部卒業.2003年同大学院理学系研究科修了.同年より同特任助手,07年より米国留学(スクリプス研究所,カリフォルニア大学サンディエゴ校,南カリフォルニア大学),14年より現職.

研究テーマと抱負

概日時計のケミカルバイオロジー研究.機能制御を可能にする独自の化合物の発見を起点に概日時計のしくみを探り,これまでになかった画期的な疾患治療法の開発へと結びつけたい.

ウェブサイト

http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/ja/kay-hirota_group/

羽鳥 恵(はとり めぐみ)

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 特任准教授.博士(理学).

略歴

2002年東京大学理学部卒業.07年同大学院理学系研究科修了.同年より米国ソーク研究所,14年より慶應義塾大学医学部,20年より現職.

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