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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 95(5): 636-639 (2023)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2023.950636

みにれびゅうMini Review

修飾RNAによる免疫制御リガンドとしての作用Modified RNA catabolites act as immunoregulatory ligands

東北大学加齢医学研究所モドミクス医学分野Department of Modomics Biology and Medicine, Institute of Development, Aging and Cancer (IDAC), Tohoku University ◇ 〒980–8575 宮城県仙台市青葉区星陵町4–1 ◇ 4–1 Seiryo-Machi, Aoba-Ku, Sendai, Miyagi 980–8575, Japan

発行日:2023年10月25日Published: October 25, 2023
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1. はじめに

RNAはアデニン(A),ウラシル(U),グアニン(G),シチジン(C)の4種類の塩基,糖とリン酸から構成される核酸であり,DNAが持つ遺伝情報を仲介し,セントラルドグマの根幹的な役割を担う分子である.RNAにはDNAやタンパク質と同様に化学修飾が存在するが,決定的に異なるのはその種類の多さである.最初のRNA修飾であるpseudouridineが酵母から同定されたのは1957年と比較的古く,それ以来,1995年には931),そしてさらに技術が発展して複雑な修飾が次々と見つかり,2021年には172の修飾が同定されている2).RNA修飾は遺伝子発現やタンパク質翻訳効率を精密に制御し高次生命を調節する重要な分子機構であり,RNA修飾異常・破綻は糖尿病,ミトコンドリア病,悪性腫瘍,神経疾患など,common diseaseからrare diseaseに至るまでさまざまな疾患の発症原因となり,RNA修飾病(RNA modopathy)という概念も新たに提唱されている3)

高次生命を調節する重要な分子機構として細胞内RNA修飾の機能解析が進んでいる一方で,RNAが分解・代謝後どのような運命をたどるかについての報告は少ない.RNA分解で生じる未修飾のヌクレオシドは,一般的に核酸合成へ再利用されるサルベージ経路や尿酸やβ-アミノイソ酪酸/β-アラニンへの分解経路をたどる.一方,RNA分解で生じる化学修飾を含むヌクレオシドは基本的には脱修飾されずに「修飾ヌクレオシド」として,細胞外である血清や尿中へ排出されるが4),その生理活性意義については不明であった.

最近,筆者らは修飾RNAが代謝後に修飾ヌクレオシドとなり細胞外へ分泌され,受容体を活性化しアレルギーや免疫応答を惹起する新規免疫制御リガンドとして機能することを明らかにした5).すなわち修飾RNAは細胞内だけでなく細胞外でも受容体へ作動するリガンドとして生理作用・病態に影響する.そこで本稿では現在までに明らかになった代謝後のRNA修飾の意義について概説する.

2. アデノシンの生理作用について

体液中に存在するヌクレオシドは,主にアデノシン,ウリジン,グアノシン,シチジンが知られている.そのうち最もよく調べられているアデノシンは,ATPの加水分解や双方向性ヌクレオシドトランスポーター,複数の酵素を介して細胞外における濃度が複雑かつ厳密に調整されている.

細胞外アデノシンは細胞膜上の受容体に結合してシグナル伝達を介し,さまざまな生理作用や病的作用を担う.受容体のサブタイプはA1, A2A, A2B,およびA3の4種類に分類され,すべてが7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体(GPCR)である.A1およびA3受容体の活性化よりアデニル酸シクラーゼが抑制されcAMP産生が低下し,A2AおよびA2B受容体の活性化によりアデニル酸シクラーゼが活性化されcAMP産生が亢進する.これらの受容体はさまざまな生理作用に関わっている.たとえば,A1受容体は心拍数制御,シナプス小胞放出抑制,気管収縮や腎輸入細動脈の収縮,A2A受容体は冠動脈拡張,ドーパミン神経活動減弱,中枢神経活動制御,A2B受容体は気管収縮,A3受容体は心筋弛緩,平滑筋収縮,心虚血時の心筋保護,アレルギーなどに関与する6)

3. RNA修飾由来の細胞外ヌクレオシドは豊富に体液中に存在する

RNA修飾の分解・代謝によって生じた修飾ヌクレオシドは古くからがんや感染症などの病態により量が変動するバイオマーカーとして知られていたが,その作用については未解明であった.筆者らのグループは質量分析を用いて,わずか5 µL程度という微量の血液や尿,眼房水といった生体細胞外液からRNA修飾を網羅的に安定して検出する手法を確立し,これを用いてさまざまな哺乳動物における修飾・未修飾ヌクレオシド分布を調べた7).するとヒトやマウス,家兎などの血清,尿,あるいは眼房水中に豊富に修飾ヌクレオシドが存在していることがわかった5)

未修飾のアデノシンはGPCRに結合してさまざまな生理作用・病的作用を持つためRNA修飾由来の修飾ヌクレオシドも受容体活性化能を持つ可能性を考え,血清中で存在量の多い20種類の修飾ヌクレオシドのアデノシン受容体への活性化能をshedding assay法8)により調べた(図1上).すると,修飾ヌクレオシドのうちN6-methyladenosine(m6A:アデノシンの6位の窒素原子がメチル化された修飾アデノシン)がA3受容体に対する特異的な活性を有していることがわかり,その活性化能は未修飾のアデノシンの約10倍以上も強力であった(図1下).

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図1 修飾ヌクレオシドのアデノシン受容体活性化能スクリーニング(文献5より一部改変)

4. m6Aのダイナミクス

既知の液性因子の多くは刺激に応じて量が変動し,未修飾のアデノシンは外的刺激により細胞外液中の濃度が上昇することが知られているが,これは主にATPの加水分解や双方向性トランスポーターを介したものであり,一過性に上昇した後に短時間で定常状態まで戻る.一方でA3受容体リガンドであるm6Aも,体液中に恒常的に分泌されているだけでなく,細胞障害などの外的刺激が加わった際に濃度が上昇するが,その由来はrRNAを中心とする選択的なRNA分解であり,リソソームにより制御される.m6Aの上昇も一過性であるが,その低下は未修飾のアデノシンより緩徐であり長時間持続する(図2左).すなわちm6Aと未修飾アデノシンではその由来や制御,分泌のパターンが大きく異なるため,m6Aはアデノシンと独立したシグナル応答を惹起する新規液性因子である可能性が示唆された.

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図2 修飾ヌクレオシド動態と生理作用

(左)m6Aとアデノシンは細胞障害時に異なる分泌パターンを示す.(右)m6Aはアレルギーを惹起する(文献5より一部改変).

5. m6Aは新規免疫制御リガンドである

m6Aが活性を有するアデノシンA3受容体は免疫細胞に発現が多く,アレルギー反応や炎症に寄与することが知られている.そこでm6Aの作用を調べたところ,m6AはA3受容体を介して肥満細胞による脱顆粒反応を起こし,1型アレルギーを惹起し,さらに炎症性サイトカインの産生を誘導していた(図2右).最後になぜm6Aが特異的な活性化能を有するのかをホモロジーモデリングによる予測構造から調べたところ,m6Aのメチル基がアデノシンA3受容体に存在する疎水性アミノ酸残基と強く分子間力で作用していることを見いだした(図3).さらにこのアミノ酸残基は生物の進化の過程で大きく変動し,配列の相違とm6A活性化能が強く相関しており,大型の哺乳動物で特に強い活性を持つことがわかった.すなわちm6AのアデノシンA3受容体活性化能は進化的なアミノ酸配列の変化により獲得されたものである可能性が高い.

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図3 予測されたm6AとアデノシンA3受容体の結合様式

水色は炭素原子,紺色は窒素原子,赤色は酸素原子を表す.三つのアミノ酸(L264, I253, V169)と相互作用しているのがm6Aのメチル基である.

6. 将来の展望

医学におけるRNAの重要性はかつてないほど高まっている.COVID-19パンデミックにおいて治療や予防の中核を担ったのは核酸医薬である.発症と重症化予防のためのワクチンが前例にないピッチで進み,世界中で接種されている.COVID-19ワクチンは史上初めて臨床応用された修飾mRNAワクチンであり,従来のmRNAワクチンの開発において実用化が困難であった安定性と宿主の自然免疫惹起という障壁を克服可能にしたブレイクスルーの一つがRNA修飾であり,実際のCOVID-19 mRNAワクチンのmRNA中のウリジンはすべてそのメチル基修飾体のm1Ψ(N1-methylpseudouridine)へ変更されている.すなわち,修飾RNA医薬は今や身近なものとなり,今後加速度的に応用が進んでいくと期待される.さらに抗COVID-19薬として最も広く使用される核酸アナログ製剤はレムデシビルであるが,最近その心血管系リスクが報告され使用に警鐘が鳴らされた9).筆者は最近,レムデシビルが心臓に強発現するウロテンシン受容体を活性化する想定外の機能を突き止め,ヒトiPS細胞由来心筋細胞あるいは動物モデルにおいて,ウロテンシン受容体の拮抗薬を用いてレムデシビルの心臓への副作用を改善できる可能性を示した10).ポスト・コロナ時代においても新たな感染症はいつ起こっても不思議ではなく,副作用の少ない新たな治療薬開発へつながるよう,今後も精力的に研究を続けていきたいと思っている.また,治療薬に加え,今後は加齢や発がん,生活習慣などの内的・外的環境要因を含めた視点からRNA修飾が生体の生理・病態にどのように関わるのかを明らかにする必要がある.

引用文献References

1) Grosjean, H. (2015) RNA modification: The Golden Period 1995–2015. RNA, 21, 625–626.

2) Boccaletto, P., Stefaniak, F., Ray, A., Cappannini, A., Mukherjee, S., Purta, E., Kurkowska, M., Shirvanizadeh, N., Destefanis, E., Groza, P., et al. (2022) MODOMICS: A database of RNA modification pathways. 2021 update. Nucleic Acids Res., 50(D1), D231–D235.

3) Suzuki, T. (2021) The expanding world of tRNA modifications and their disease relevance. Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 22, 375–392.

4) Borek, E., Baliga, B.S., Gehrke, C.W., Kuo, C.W., Belman, S., Troll, W., & Waalkes, T.P. (1977) High turnover rate of transfer RNA in tumor tissue. Cancer Res., 37, 3362–3366.

5) Ogawa, A., Nagiri, C., Shihoya, W., Inoue, A., Kawakami, K., Hiratsuka, S., Aoki, J., Ito, Y., Suzuki, T., Suzuki, T., et al. (2021) N6-methyladenosine (m6A) is an endogenous A3 adenosine receptor ligand. Mol. Cell, 81, 659–674.e657.

6) Borea, P.A., Gessi, S., Merighi, S., Vincenzi, F., & Varani, K. (2018) Pharmacology of adenosine receptors: The state of the art. Physiol. Rev., 98, 1591–1625.

7) Ogawa, A. & Wei, F.Y. (2021) Protocol for preparation and measurement of intracellular and extracellular modified RNA using liquid chromatography-mass spectrometry. STAR Protoc., 2, 100848.

8) Inoue, A., Ishiguro, J., Kitamura, H., Arima, N., Okutani, M., Shuto, A., Higashiyama, S., Ohwada, T., Arai, H., Makide, K., et al. (2012) TGFα shedding assay: An accurate and versatile method for detecting GPCR activation. Nat. Methods, 9, 1021–1029.

9) Jung, S.Y., Kim, M.S., Li, H., Lee, K.H., Koyanagi, A., Solmi, M., Kronbichler, A., Dragioti, E., Tizaoui, K., Cargnin, S., et al. (2022) Cardiovascular events and safety outcomes associated with remdesivir using a World Health Organization international pharmacovigilance database. Clin. Transl. Sci., 15, 501–513.

10) Ogawa, A., Ohira, S., Kato, Y., Ikuta, T., Yanagida, S., Mi, X., Ishii, Y., Kanda, Y., Nishida, M., Inoue, A., et al. (2023) Activation of the urotensin-II receptor by remdesivir induces cardiomyocyte dysfunction. Commun. Biol., 6, 511.

著者紹介Author Profile

小川 亜希子(おがわ あきこ)

東北大学加齢医学研究所モドミクス医学分野 助教.博士(医学).

略歴

神奈川県出身.2012年東京大学医学部医学科卒業,眼科医.19年熊本大学大学院博士課程修了(医学専攻,眼科学),博士(医学).19年より現職.熊本大学眼科客員講師兼任.

研究テーマと抱負

十分な治療法がない疾患に対して,新しい高次生命機能を解明することで根本からの治療法を編み出すこと.

ウェブサイト

https://www.modomics-medicine.com

趣味

グルメと旅行

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