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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 95(5): 645-649 (2023)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2023.950645

みにれびゅうMini Review

抗原提示細胞表層のC型レクチン受容体を標的とする糖鎖を用いたドラッグデリバリーシステムSugar chain based drug delivery system for targeting C-type lectin receptors on antigen presenting cells

1鹿児島大学大学院理工学研究科工学専攻化学生命工学プログラムDepartment of Engineering, Chemistry and Biotechnology Program, Graduate School of Science and Engineering, Kagoshima University ◇ 〒890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元1–21–40 ◇ Korimoto 1–21–40, Kagoshima, Kagoshima 890–0065, Japan

2鹿児島大学大学院理工学研究科糖鎖ナノテクノロジー共同研究講座Collaborative Research Laboratory on Glyco-nanotechnology, Graduate School of Science and Engineering, Kagoshima University ◇ 〒890–0065 鹿児島県鹿児島市郡元1–21–40 ◇ Korimoto 1–21–40, Kagoshima, Kagoshima 890–0065, Japan

発行日:2023年10月25日Published: October 25, 2023
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1. はじめに

樹状細胞(dendritic cells:DCs)やマクロファージをはじめとする抗原提示細胞(antigen presenting cells:APCs)は,自然免疫および獲得免疫の誘導と制御に中心的な役割を果たす免疫担当細胞である.近年,有効性の高いワクチンやがん免疫療法を開発するために,APCsを標的とした抗原分子やアジュバント分子(免疫賦活化剤)の選択的な輸送システムが活発に研究されている.その中でも,糖鎖認識受容体であるC型レクチン受容体(C-type lectin receptors:CLRs)を標的とする戦略は,効率的に獲得免疫を誘導するための有望な戦略である.本稿では,CLRsを標的とした選択的輸送を実現するための糖鎖を利用した輸送システムについて,著者らの報告も含めて概説する.

2. C型レクチン受容体(CLRs)

CLRsは,細胞外領域に糖鎖認識ドメインを有するカルシウム(Ca2+)依存性の膜貫通型タンパク質である1).Dectin-1(CD205)やマンノース受容体(mannose receptor:MR/CD206),Langerin(CD207),DC-SIGN(CD209),マクロファージガラクトースレクチン(macrophage galactose lectin:MGL/CD301)などがあり,糖鎖を介して受容体に結合した分子をエンドサイトーシスによって細胞内に輸送する働きを持っている(表1).これらのCLRsは,APCsに多く発現し,細胞種ごとに発現が異なる2).それぞれのCLRsが認識する糖鎖構造も異なっており,たとえばMRは,細菌や酵母などの細胞壁上に存在するマンノースやフコース,N-アセチルグルコサミンなどの糖分子を認識する.一方,DC-SIGNは,ウイルスや酵母などに存在する分岐した高マンノース型糖鎖やルイス型糖鎖,フコース含有糖鎖を認識する.MGLは,MRやDC-SIGNとは異なり,非還元末端にガラクトースやN-アセチルガラクトサミンを含有する糖鎖構造を認識する.CLRsは,外来微生物の捕捉だけでなく,獲得免疫の誘導にも深く関与し,APCsの活性化や抗原分子のプロセシング,MHCクラスIおよびクラスII分子への抗原提示を促進する.そのため,抗原分子やアジュバント分子をAPCs選択的に輸送し,効率的に免疫応答を誘導するための有望な標的として考えられている.

表1 免疫細胞表層に発現するCLRsとそれらが認識する糖鎖の構造(Geijtenbeekらの文献2)を参考に著者が一部改変)
CLRs発現細胞結合糖鎖
Dectin-1 (CD205)DCs, 単球,マクロファージ,B細胞β-1,3-グルカン
MR (CD206)DCs, M2マクロファージマンノース,フコース,N-アセチルグルコサミン含有糖鎖
Langerin (CD207)ランゲルハンス細胞,Dermal DCs高マンノース型糖鎖,ルイスY糖鎖,ルイスB糖鎖,N-アセチルグルコサミン
DC-SIGN (CD209)DCs, マクロファージ分岐高マンノース型糖鎖,フコース含有糖鎖,ルイス型糖鎖
MGL (CD301)DCs, マクロファージ末端N-アセチルガラクトサミン,Tn抗原
Mincle (CLEC4E)DCs, マクロファージ,好中球,単球トレハロースジミコール酸,β-グルコシルセラミド(糖脂質)
Dectin-2 (CLEC6A)DCs, マクロファージ,好中球,単球α-1,2-マンノース,リポアラビノマンナン

3. CLRsを標的とした糖鎖による抗原分子・アジュバント分子の選択的輸送

CLRsを標的とした抗原分子・アジュバント分子の選択的輸送を行うために,糖鎖が高密度に修飾されたキャリア分子や,抗原分子・アジュバント分子に糖鎖を高密度に修飾する設計が考えられている3).糖鎖1分子と糖鎖認識受容体との結合親和性は,抗体などのタンパク質どうしの結合親和性に比べて一般的に弱い(Kd値:mM~µM).多くのCLRsはオリゴマーとして存在しており,生体内に存在する糖鎖が相互作用する場合,密集して相互作用することで多価効果(クラスター効果)が発揮され,見かけの親和性が向上する4).そのため,抗原分子やアジュバント分子のCLRs選択的な輸送では,糖鎖を高密度に修飾したデンドリマー5),リポソーム6, 7),ナノ粒子8, 9)などのナノ材料がキャリアとして利用されている(図1).García-Vallejoら5)は,Lewis B修飾デンドリマーを用いたDC-SIGN選択的なペプチド抗原の選択的輸送システムを構築している.これによって,ペプチド抗原に特異的なCD4陽性およびCD8陽性T細胞の誘導活性が向上し,ペプチドワクチンを開発するための優れたプラットフォームになることを報告している.また,Moignicら6)は,腫瘍抗原をコードする合成mRNAをマンノース含有糖脂質で修飾した脂質ナノ粒子に内包し,DCsに発現するDC-SIGNおよびLangerinを標的とした輸送システムを構築している.腫瘍抗原を内包したマンノース修飾脂質ナノ粒子は,マンノースの修飾密度が高いほどDC-SIGN発現およびLangerin発現細胞への細胞内移行性が高く,抗原特異的細胞傷害性T細胞の誘導活性および腫瘍増大抑制効果も向上することを実証している.一方,抗原分子やアジュバント分子にポリマーや多糖類を用いて高密度に糖鎖を修飾する方法も有効である.Wilsonら10)は,マンノースおよびアジュバントとなる合成低分子TLR7リガンドを担持したランダム共重合ポリマーをタンパク質抗原に修飾し,DCsに発現するMRを標的とする輸送システムを構築している.これによって,DCsへのタンパク質抗原およびアジュバント分子のMR依存的な取り込みが促進され,効率的に抗原特異的な液性免疫および細胞性免疫が誘導される.タンパク質抗原やアジュバント分子に短い糖鎖を直接修飾する場合,修飾部位が限られるためCLRsへの十分な結合親和性を得ることが難しいが,ポリマーや多糖類を用いることでより高密度に糖鎖を修飾できるため,CLRsへの結合親和性を飛躍的に高めることができると考えられる.

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図1 抗原提示細胞表層のCLRsを標的とした糖鎖によるドラッグデリバリーシステムの概要

抗原分子やアジュバント分子のCLRs選択的な輸送では,糖鎖を高密度に修飾したデンドリマー,リポソーム,ナノ粒子などのナノ材料がキャリアとして利用されている.また,抗原分子・アジュバント分子に糖鎖担持ポリマー等を修飾する設計も検討されている.

4. 糖鎖固定化金ナノ粒子をキャリアに用いた合成低分子TLR7リガンドの選択的輸送

著者らは,糖鎖を固定化した金ナノ粒子(sugar chain-immobilized gold nanoparticles:SGNPs)をキャリアに用いた合成低分子Toll様受容体(Toll-like receptor:TLR)7リガンドの輸送システムを構築した11–13)

TLRsは,ウイルスや細菌などの病原体関連分子パターンを認識し,病原体の感染を察知するセンサーとして働く.APCsをはじめとする免疫担当細胞に多く発現し,ヒトでは10種類が同定されている.TLRsに特定の病原体関連分子が結合すると,炎症性サイトカインやI型インターフェロン(interferon:IFN)などが産生され,自然免疫が誘導される.自然免疫の活性化は,獲得免疫の誘導にも寄与するため,TLRは宿主防御の最前線としてきわめて重要な役割を担う.近年,TLRを活性化するリガンド分子を,感染症やがんに対するワクチンや免疫療法のアジュバントに利用することが検討されている14).その中でも,細胞内のエンドソームに局在するTLR7を活性化するリガンド分子が,抗ウイルス免疫や抗腫瘍免疫に重要なI型IFNの産生を促進することから特に有望視されており,多くの合成低分子リガンドが開発されている.しかし,合成低分子TLR7リガンドは,全身投与すると血中で拡散してサイトカイン放出症候群のような致命的な副反応を誘発する恐れがある.したがって,その利用は皮膚への局所投与に限定されている.APCs選択的にTLR7を活性化すれば,副反応を回避し,TLR7リガンドの薬効を最大限利用できると考えられる.そこで我々は,合成低分子TLR7リガンドのキャリアにSGNPsを用いて,APCsのCLRsを標的とした選択的輸送を検討した.

SGNPsのコアである金ナノ粒子(gold nanoparticles:GNPs)は,毒性がきわめて低く,生体安定性が高い.GNPsの表面は,チオール基と強く結合する性質があり,チオール基を有するリンカー分子を用いれば,簡便かつ高密度に生体分子を固定化できる.また,複数の生体分子を共固定化することもでき,ドラッグデリバリーシステムのキャリアとしての臨床研究が行われている15).著者らは,APCsの中でもDCsに豊富に発現するMRを標的として,α-マンノースを固定化したGNPsをキャリアに用いた合成低分子リガンドの選択的輸送を検討した.合成低分子TLR7リガンドには,1V209を用い,ポリエチレングリコール鎖からなるスペーサーを介してチオクト酸を修飾した11, 13).1V209誘導体は,チオクト酸を修飾したα-マンノース(Manα1-6Glc-mono)とともに1:9の混合モル比でGNPs表面に固定化し,リン酸生理緩衝液中で単一粒子として安定に分散するナノ粒子(1V209-αMan-GNPs)を合成した(図2A).

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図2 1V209-αMan-GNPsのデザインと生物活性

(A)1V209誘導体およびManα1–6Glc-monoを1:9の混合モル比で調製した1V209-αMan-GNPsのデザイン.(B)1V209-αMan-GNPsの存在下でマウス骨髄由来DCsを18時間培養後に培養上清に産生されたIL-6.IL-6の産生量はELISAで定量した.(C)(B)と同様の方法でマウス骨髄由来DCsを培養後に培養上清に産生されたI型IFN.I型IFNの産生量は,ISRE-L929細胞を用いたレポーターアッセイで評価した.(D)OVA(20 µg)と1V209-αMan-GNPs(1V209 0.05 nmol, 1V209誘導体には1V209-PEG23-TAを用いた)を,0, 14日目にC57BL/6マウスの尾部皮内に共投与し,免疫開始35日後に回収した血清中のOVA特異的なIgG2c抗体の抗体価.OVA特異的な抗体価はELISAで評価した(n=4匹).

細胞レベルでの1V209-αMan-GNPsの免疫賦活活性を,マウス骨髄由来DCsを用いて評価したところ,IL-6およびI型IFNの誘導活性は,1V209誘導体単体と比べて10~100倍向上した(図2B, C).一方,MRを発現しないマクロファージ細胞株のJ774A.1細胞では,IL-6の誘導活性は1V209誘導体単体と比べて大きく低下した11).したがって,免疫賦活活性の向上には,1V209-αMan-GNPsがMRを介して細胞内に輸送されることが必要であることが示唆された.次に,ナノ粒子がMRを介したエンドサイトーシスによって細胞内移行することを確かめるために,GNPsと同程度の粒径の蛍光性ナノ粒子を用いて1V209およびα-マンノースを共固定化した蛍光性ナノ粒子(fluorescent nanoparticles:FNPs, 1V209-αMan-FNPs)を合成し,フローサイトメトリー解析を行った12).MRの競合リガンドであるマンナン,またはエンドサイトーシス阻害剤であるサイトカラシンDの存在下でマウス骨髄由来DCsをそれぞれ培養すると,1V209-αMan-FNPsの細胞内移行が著しく阻害された.これらの結果から,1V209およびα-マンノースを共固定化したナノ粒子が,MRを介したエンドサイトーシスによって選択的に細胞内に輸送されることを実証した.

次に,in vivoでの1V209-αMan-GNPsのアジュバント活性を,モデルタンパク質抗原にニワトリ卵白由来オボアルブミン(ovalbumin:OVA)を用いて評価した11, 13)図2D).1V209-αMan-GNPsは,低分子の1V209に比べてOVA特異的なIgG2c抗体の誘導活性が10,000倍以上高く,マウスの体重減少や致命的な副反応は生じなかった.また,免疫後のマウスから脾臓細胞を回収し,OVAのMHCクラスIまたはクラスIIエピトープで再刺激後,それに伴ってIFN-γを産生した細胞を定量するELISpotアッセイを行った.その結果,いずれの抗原で再刺激した場合でも,低分子の1V209に比べてIFN-γ産生T細胞(CD4陽性およびCD8陽性T細胞)の誘導活性が有意に向上した.以上のことから,1V209-αMan-GNPsのMRを介した輸送によって,1V209の薬物活性および安全性が大幅に改善され,全身投与可能な優れたアジュバントになることが示された.現在,1V209-αMan-GNPsを感染症ワクチン等のアジュバントに利用する応用研究を展開している.

5. おわりに

CLRsは,抗原分子やアジュバント分子をAPCs選択的に輸送するための魅力的な標的である.特定の受容体タンパク質を標的とする場合,一般に抗体が用いられるが,抗体を用いると製造コストが高くなることや抗体に対する免疫応答が誘導されることなどが問題となる.一方,糖鎖は,抗体に比べて安定性が高く,抗原性も低い.また,CLRsに結合する糖鎖は,化学合成によって比較的容易に入手できる.CLRsに対する親和性の問題は,糖鎖のクラスター化で解決でき,高密度に糖鎖を修飾したキャリア分子を用いる手法,抗原分子やアジュバント分子に高密度に糖鎖を修飾する手法は有用な戦略である.今後,修飾する糖鎖構造や密度,アジュバント分子のデザインなどのさらなる最適化が進めば,次世代ワクチン・アジュバントの開発につながると期待できる.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

新地 浩之(しんち ひろゆき)

鹿児島大学大学院理工学研究科助教(研究准教授).博士(工学).

略歴

2010年鹿児島大学工学部卒業.12年同大学院理工学研究科博士前期課程修了.15年同大学院理工学研究科博士後期課程修了.14年カリフォルニア大学サンディエゴ校博士研究員.15年より現職.

研究テーマと抱負

糖鎖の分子レベルでの機能解析や相互作用解析,糖鎖を利用したドラッグデリバリーシステムの開発について研究している.糖鎖が関与する生命現象や疾患の理解を深め,新たな治療薬・ワクチンの開発に繋げたい.

ウェブサイト

http://www.cb.kagoshima-u.ac.jp/lab/biochem-lab/

趣味

写真・ガーデニング.

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