上皮細胞の細胞間接着におけるリゾホスファチジン酸の機能と作用機構
1 徳島大学大学院医学研究科生化学分野 ◇ 〒770–8503 徳島市蔵本町3丁目18–15
2 神戸大学大学院医学研究科病態シグナル学部門 ◇ 〒650–0047 神戸市中央区港島南町1丁目5–6
3 徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所医光融合研究部門 ◇ 〒770–8506 徳島県徳島市南常三島町2丁目1
4 徳島大学先端酵素学研究所病態シグナル学分野 ◇ 〒770–8503 徳島市蔵本町3丁目18–15
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さまざまな種類の細胞は互いに接着して組織や器官を形成する.中でも細胞極性を発達させた上皮細胞は,隣り合う細胞どうしで密着帯(tight junction:TJ)と接着帯(adherens junction:AJ)からなる頂端結合複合体(apical junctional complex:AJC)と呼ばれている細胞間接着装置を細胞の頂端側に形成して接着し,生体の内外を隔てる上皮シートを形成している1)(図1).AJCは,上皮シートの機械的強度の維持やリモデリングおよびバリア機能を担うことにより,①臓器と組織の区画化,②臓器と組織の形態形成,③シグナル伝達経路の調節による細胞の生存,増殖,分化,移動,および極性の形成などを制御する.一方,AJCの破綻は,これらの機能に障害をもたらし,がんや炎症性腸疾患,神経変性疾患など種々の疾患の発症と進行を促進する2).
AJCのAJは,上皮シートの機械的強度の維持やリモデリングを担うとともに,TJの形成と維持を制御している3).TJは,可溶性分子の上皮シートでの拡散を防ぐ上皮バリアとして機能するとともに,細胞の頭頂膜ドメインと側底膜ドメインの境界として機能している4).AJの主要な細胞接着分子(CAM)はカドヘリンとネクチンであり,TJの主要なCAMはクローディンとjunctional adhesion molecule(JAM)である3–5)
(図1).AJC,特にAJは2種類のF-アクチン骨格,すなわち細胞膜直下のメッシュ状のF-アクチン骨格と,細胞膜からやや離れた位置にある円周状のF-アクチン骨格によって裏打ちされている.どちらのF-アクチン骨格もミオシンIIと結合してアクトミオシン束(AM束)を形成し,上皮シートの機械的強度の維持やリモデリングを制御している.カドヘリンはαE/β-カテニン複合体を介して,ネクチンはアファディンを介してメッシュ状のF-アクチン骨格に連結している3, 4, 6)
(図1).
筆者らは最近,AJCの形成におけるネクチン–アファディン複合体の機能と作用機構を解析する過程で7, 8)
,胎仔ウシ血清(FBS)に含まれるリゾホスファチジン酸(LPA)がLPA受容体(LPAR)1/5の下流でジアシルグリセロール(DAG)–新型プロテインキナーゼC(nPKC)経路とRho–ROCK経路の活性化を介して,ネクチン–アファディン複合体と相補的に機能し,AJCの形成を促進することを見いだした9).
ネクチンは,細胞外領域に三つの免疫グロブリン様ドメインを持つ免疫グロブリンスーパーファミリーに属するCAMである5).ネクチンファミリーにはネクチン-1,-2,-3,-4があり,ホモフィリックまたはヘテロフィリック(ネクチン-1と-3,-2と-3,-1と-4)に結合する.アファディンはPDZドメインを介してネクチンの細胞内領域のC末端に結合する.上皮細胞におけるAJCの形成においては,まずネクチンがトランス結合して細胞間接着の形成を開始する(図2A).このネクチンのトランス結合は,インテグリンαvβ3と協働してシグナル伝達経路を活性化し,F-アクチン細胞骨格を再編成する5, 10)
(図2B).このF-アクチン細胞骨格の再編成と,アファディンとαE-カテニンとの結合が,ネクチンを介した細胞間接着部位にE-カドヘリンをリクルートし,そのトランス結合を促進してAJを形成する.さらに,AJの形成の間あるいはその後に,トランス結合したネクチンが,アファディンとZO-1との結合を介して,まずJAMを,次にクローディンを,AJの頭頂側にリクルートしてTJを形成し,AJCを完成させる5).一方,頂端基底極性の形成には,これらのCAMとともに多くの細胞極性因子が関与している11)(図2A).まず,Scribble–DLG–Lgl複合体が,次にPar3–Par6–aPKC複合体が,最後にCrb3–Pals1–PATJ複合体が機能して頂端基底極性を形成する.しかし,AJがその頭頂側にTJを配置する機構はいまだ不明である.
(A)CAMと細胞極性因子との相互作用,JAMとAM束は省略.(B)CAMとインテングリンとの相互作用によるシグナル伝達経路の活性化.
なお,上皮シートでは同種の上皮細胞どうしが接着するが,たとえば,精巣では精子細胞とセルトリ細胞のように,異種の細胞どうしが接着している.ネクチンは,ホモフィリックにもヘテロフィリックにも結合し,この異種細胞間接着にも関与している12).一方,カドヘリンには,E-カドヘリン以外にN-カドヘリンやVE-カドヘリン,P-カドヘリンなどが知られており,これらのカドヘリンはホモフィリックに結合するが,ヘテロフィリックには結合しない.したがって,カドヘリンは主として同種細胞間接着に関与している12).
これまでAJCの形成の機構の解析では,Ca2+スイッチアッセイが主として用いられてきた7).この解析法では,培養上皮細胞を数µM程度の低Ca2+濃度で前培養し,その後,生理的な数mM程度のCa2+濃度で再培養する.しかし,FBSの存在下で再培養することが多いため,AJCの形成がCa2+単独,FBS単独,あるいはCa2+とFBSの両方に依存しているか不明であった.そこで筆者らは,AJCの形成におけるFBSの機能と作用機構をマウス乳腺細胞由来のEpH4細胞を用いて解析したところ,FBSがCa2+スイッチアッセイにおけるAJCの形成を促進する活性を示すことを明らかにした9).E-カドヘリン,αE-カテニン,あるいはアファディンを欠損させたEpH4細胞は,生理的な数mM程度のCa2+濃度の存在下で,FBSの非存在下ではAJCを形成せず,FBSの存在下ではAJCを形成した9).これらの結果から,FBSに含まれる活性因子がAJC構成因子と相補的に作用してAJCの形成を促進すると考えられた.
そこで筆者らは,アファディン欠損EpH4細胞を用いて,AJCの形成を促進するFBSの機能と作用機構の解析を進めた.まず,AJCの形成を促進するFBSに含まれる活性因子を同定することを試みた9).血清を脂質抽出法であるBligh and Dyer法に供したところ13)
,活性は水相ではなく有機相に検出されたことから,この活性因子は脂溶性であることが判明した.この有機相を固相C18カートリッジによって,中性脂質分画,脂肪酸分画,リン脂質/リゾリン脂質/糖脂質分画の3画分に分画した.その結果,活性はリン脂質/リゾリン脂質/糖脂質分画に検出された.さらに,ホスファチジン酸(PA),LPA,スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)などのリン酸モノエステルを加水分解してリン酸基を除去する,仔ウシ腸アルカリホスファターゼでFBSを処理すると,活性が失われたことから,活性因子はリン酸基を有する化合物であることが明らかになった.市販品のPA, LPAあるいはS1Pの中では,LPAのみにAJCの形成を促進する活性が認められた.LPAは,FBSの非存在下で培養したアファディン欠損EpH4細胞だけでなく,Ca2+スイッチアッセイにおいて,FBSの非存在下で再培養した野生型EpH4細胞でのAJCの形成を促進した.またLPAは,FBSの非存在下で培養したE-カドヘリンあるいはαE-カテニンを欠損したEpH4細胞においても,AJCの形成を促進した.以上の結果から,LPAは,血清に含まれるAJCの形成を促進する活性因子であることが明らかになった.さらに,LPAのこの作用は,LPAR1/5とその下流のDAG-nPKC経路とRho-ROCK経路の活性化を介してなされていることも明らかになった9)(図3).
しかし,AJCの形成におけるFBSの有効濃度は2%(v/v)であるのに対して,市販品のLPAの有効濃度は2.5 µMであった.FBS中のLPA濃度は約5~10 µMであることから,血清にはLPAの活性を10倍以上増強する補因子が含まれていることが推定された.そこで筆者らは,FBSからこのLPAの補因子の精製を試みた.この補因子は,2%(v/v)のFBS中のLPA濃度である,200 nM LPAの存在下でのAJCの形成を促進すると考えられるため,この活性を測定することで補因子を検出した.この条件下では,200 nM LPA単独ではこの活性は示さなかった.まず,LPAの補因子がタンパク質であるか否かを検討するために,FBSをプロテイナーゼKや熱で処理すると,補因子の活性は消失したことから,LPAの補因子がタンパク質であることが示唆された.複数のカラムクロマトグラフィーを行い,FBSからLPAの補因子を,銀染色で数本のバンドが認められるまでに精製した.現在,質量分析法を用いて,このLPAの補因子の同定を試みている(未発表データ).
ネクチンファミリーのメンバーではその構造と機能に共通点がある一方,異なる生化学的性質を有している.ネクチン-1と-3はPar3,インテグリン,およびウィリンに結合するが,ネクチン-2と-4はこれらの分子と結合しない5).また,ネクチン-1と-3はCdc42の活性化を介したフィロポディアの形成を,ネクチン-2よりも強く誘導する5).これらの特性から,AJCの形成におけるネクチン-1と-3の作用機構がネクチン-2と-4のそれとは異なることが考えられる.EpH4細胞はネクチン-1と-2を発現するため,本実験系を用いてAJCの形成におけるネクチン-1と-2の作用機構を解析した.その結果,ネクチン-2はアファディンと協働してLPAと相補的にAJCの形成を促進したが,ネクチン−1はフィロポディアの形成を介してAJCを破壊した.アファディンはネクチン−1と結合してこの作用を阻害してAJCの形成を促進した(未発表データ).現在,AJCの形成におけるLPAとネクチン-1と-2との相互作用機構の解析を進めている.
LPARはLPAR1-6が知られており,LPAはこれらの受容体を介して創傷治癒,増殖,生存,移動,分化などさまざまな細胞機能に関与している14).血清中のLPA濃度は,炎症やさまざまながんの発症・進行過程において頻繁に上昇する15).これまでにLPAはAJCを破壊すること,そして,がん細胞の浸潤と転移を促進することが示唆されていた.しかし,LPAがAJCの形成を促進する活性を有するという,今回の筆者らの知見から,LPAはがん細胞の浸潤と転移を抑制する可能性がある.また,血清中のLPA補因子は,LPAがAJCの形成を促進するか,あるいはAJCを破壊するかの決定に関与している可能性や,LPAによりがん細胞の浸潤と転移を促進されるか,あるいは抑制されるかの決定に関与する可能性がある.一方,筆者らは,AJCの形成過程におけるネクチン-1と-2,アファディンおよびLPAの作用機構と細胞極性因子との相互作用を解析することによって,長年未解決の頂端基底極性の形成機構を解明することができると考えている.AJCと頂端基底極性の形成・維持・破綻機構の全貌を解明することは,AJCの機能と作用機構の理解のみならず,がんを含めたさまざまな疾患の発症と進展の機構の理解や,これらの疾患の新たな診断・治療・予防法の開発に貢献すると期待される.
本稿で紹介した研究は,徳島大学大学院医学研究科の佐々木卓也教授と神戸大学大学院医学研究科の高井義美特命教授の研究室の多くの方々のご支援によって行われた.また,共同研究者である神戸大学大学院医学研究科の篠原正和准教授と北里大学大学院医療系研究科の丸尾知彦講師には多大なるご尽力をいただいた.これらの皆様に深く感謝申し上げます.
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