薬剤依存的にプロテアソームにより分解されるタンパク質のための新技術New technology for analysis of drug-dependently degraded proteins by proteasome
愛媛大学プロテオサイエンスセンターProteo-Science Center, Ehime University ◇ 〒790–8577 愛媛県松山市文京町3 ◇ 3 Bunkyo-cho, Matsuyama, Ehime 790–8577, Japan
愛媛大学プロテオサイエンスセンターProteo-Science Center, Ehime University ◇ 〒790–8577 愛媛県松山市文京町3 ◇ 3 Bunkyo-cho, Matsuyama, Ehime 790–8577, Japan
プロテアソームはユビキチン化されたタンパク質を分解する細胞内の機能構造体である.サリドマイドやその誘導体は,多発性骨髄腫などの血液がんにおけるキラードラッグとして利用されている.2014年,サリドマイドはイカロスやアイオロスといった血球分化を制御する転写因子を特異的に分解誘導する“分子のり”として機能することが報告された.さらに,サリドマイド誘導体のようなE3ユビキチンリガーゼバインダーと標的タンパク質に結合する標的バインダーを化学的に結合したPROTAC(proteolysis targeting chimera)が開発された.現在,分子のりやPROTACはタンパク質分解誘導剤と呼ばれ,ユビキチン-プロテアソーム系を利用した新たな薬剤デザインコンセプトとして注目されている.本稿では,サリドマイドの副作用機構を例とした分子のり機構の概要と,我々が開発したタンパク質分解誘導剤の新たな解析技術を紹介する.
© 2023 公益社団法人日本生化学会© 2023 The Japanese Biochemical Society
プロテアソームは,ユビキチン化タンパク質の分解をつかさどる,リボソームに匹敵するサイズからなる細胞内の機能構造体である1).そのため,真核生物に普遍的に存在し,特定の形態や機能を持つ構造物を細胞小器官とする広義の解釈では,プロテアソームも細胞小器官的構造物と捉えることができる.細胞内のユビキチン-プロテアソーム系は恒常的にタンパク質を分解しており,その破綻は細胞死を誘導する.特に,がん細胞におけるプロテアソームの役割は大きく,ボルテゾミブ(商品名:ベルケイド)のようなプロテアソームを標的とした新たな抗がん剤開発が進められ,非常に有効な効果を示している.
タンパク質のユビキチン化は,E1によるユビキチン分子の活性化と,E3ユビキチンリガーゼによる基質認識と,E2によるタンパク質へのユビキチン付加が主要な機構と考えられている.このように,ユビキチン化の基質特異性はE3ユビキチンリガーゼの基質認識能が担っているため,目的タンパク質をE3ユビキチンリガーゼに認識させることができれば目的タンパク質を分解することができると考えられる.実際,サリドマイドやその誘導体(図1A参照)は“分子のり”のように機能し,本来の基質タンパク質ではない基質タンパク質(ネオ基質)とE3ユビキチンリガーゼであるセレブロン(CRBN)との相互作用を惹起し,その結果,ネオ基質をユビキチン化し分解誘導する2, 3).タンパク質分解誘導剤は,従来のチロシンキナーゼ阻害剤のような酵素阻害とは異なり,触媒的に機能し,細胞内から目的のタンパク質を分解除去できることから,遺伝子欠損に匹敵するほどの劇的な薬効が期待されている.現在,このような特定タンパク質の分解を誘導できる薬剤は,タンパク質分解誘導剤と呼ばれ盛んに研究・開発されている.まさに,ユビキチン-プロテアソーム機構の新たな活用である.実際,イカロス(IKZF1)やアイオロス(IKZF3)といった細胞分化のマスターレギュレーターとして機能する転写因子は,ネオ基質としてサリドマイドやその誘導体により分解誘導される.これらの薬剤は,多発性骨髄腫など血液がんに対する非常に有効な効果をもたらしている2, 3).しかし,その劇的な薬効機構は,世界規模の薬害となった妊婦のサリドマイド服用による胎児への催奇性誘導という負の側面も同時にもたらした.さらに,新たな薬剤デザインコンセプトとして,PROTAC(proteolysis targeting chimera)が世に出てきた.名前のとおり,E3ユビキチンリガーゼバインダーと標的タンパク質に結合する標的バインダーをポリエチレングリコール(PEG)のようなケミカルアームでつなげたキメラ分子である.たとえば,CRBNに結合するサリドマイド誘導体に,さまざまながん種において治療標的と考えられているBET(bromodomain and extraterminal domain)タンパク質ファミリー(BRD2, BRD3, BRD4, BRDT)に結合するバインダー(JQ1)をケミカルに融合したARV-825(図1B参照)は,BETタンパク質を強力に分解誘導する4).このように,PROTACは新たなコンセプトの薬剤として,これまでより劇的に標的タンパク質の種類を広げる可能性を示した.特に標的バインダーさえ取得できれば,いわゆる創薬不可能(undruggable)な疾患標的タンパク質に対する創薬の扉を開く可能性を示した.本稿では,狙ったタンパク質を細胞小器官(オルガネラ)様構造物プロテアソームを介したタンパク質分解へと導く,新たな薬剤の現状と機能,研究手法を紹介する.
(A)サリドマイドとその誘導体の化学構造.複合体型E3ユビキチンリガーゼCRL4CRBNへ結合し,ネオ基質を分解誘導する分子のり型のタンパク質分解誘導剤.(B) BETタンパク質ファミリーに対するPROTACの化学構造.BETタンパク質ファミリーへ結合するJQ1とポマリドミドを結合したキメラ化合物であり,BETタンパク質ファミリーを分解誘導するタンパク質分解誘導剤.(C)オーキシン,アブシジン酸およびジベレリンA1の化学構造.植物細胞内で生成され,分子のりとして機能することで植物生理学的にきわめて重要な役割を果たす主要植物ホルモン.(D)分子のり型のタンパク質分解誘導剤として機能するスルホンアミド化合物indisulamの化学構造.複合体型E3ユビキチンリガーゼCRL4DCAF15へ結合し,ネオ基質RBM39を分解誘導する分子のり型のタンパク質分解誘導剤.
2014年,サリドマイドやその誘導体は,ヒトへの投与が認められている薬剤としては世界で初めて,タンパク質分解誘導剤として機能していることが報告された2, 3).そのため“分子のり(molecular glue)”型のタンパク質分解誘導剤の代表分子として有名である.しかし,“分子のり”の概念自体は,2007年,主要植物ホルモンのオーキシンとその受容体の構造解析から提唱された5).オーキシンは,受容体であるTIR1とAUX/IAAタンパク質の相互作用をのり(糊)のように助ける分子として機能していたことから,分子のりと呼ばれた.ここで,植物ホルモンのシグナル伝達機構に目を向けてみることにする.動物と同様に,植物にも非常に多様な植物ホルモンが存在している.その中で,発芽や茎の伸長,花芽形成など劇的な形態変化を誘導する9種類が主要植物ホルモンと呼ばれている.驚いたことに,植物での唯一のタンパク質ホルモンであるフロリゲンを除いた,8種類の主要低分子植物ホルモンのうち,オーキシンをはじめ,ジベレリン(GA),アブシジン酸(ABA),ジャスモン酸(JA),サリチル酸(SA)の5種類が,タンパク質–タンパク質間相互作用を誘導する分子である(図1C).さらにABAを除いた4分子は,E3ユビキチンリガーゼの相互作用を惹起し,標的タンパク質の分解誘導が植物ホルモンシグナル伝達のスイッチとなっている.ABAは,ABA受容体に結合後,ホスファターゼとの相互作用を誘導し,その結果ホスファターゼの活性は完全に抑制される6).植物において,これらの主要植物ホルモンは細胞内で合成および代謝されることから,細胞内で合成・代謝される低分子量の有機分子により惹起されるタンパク質分解誘導やタンパク質相互作用誘導は,主要なシグナル伝達制御機構であるといえる.2023年現在,動物細胞に作用する分子のり型のタンパク質分解誘導剤は,サリドマイドやindisulam(E7070)(図1D),およびその誘導体など,ほんのわずかしか知られていない7).さらに不思議なことに,報告されているすべての分子が人工合成された化合物であり,動物細胞内で合成・代謝される生体内有機分子のものは知られていない.動物のシグナル伝達経路においても,分子のりとして機能しタンパク質を分解誘導する生体内タンパク質分解誘導分子が発見されることが期待されている.
我々は,長年,水洗浄により翻訳阻害因子を除去したコムギ胚芽の抽出液を用いたコムギ無細胞タンパク質合成系を構築してきた8, 9).植物種子内に存在する胚芽は,種子が吸水すると一斉にさまざまな遺伝子の転写を行い,タンパク質を合成するための準備をしている.そのため,すでに多くのタンパク質を発現している状況の細胞を用いる,大腸菌系や動物細胞発現系など他のタンパク質合成・発現系と比べ,コムギ無細胞系の特徴は,内在タンパク質の種類や量が少なく,かつ機能解析には十分量の目的タンパク質を合成できる点にある.また,目的タンパク質にビオチン標識用タグ(ビオチンリガーゼ配列またはAviタグ)を組み込み,合成反応液に大腸菌由来ビオチンリガーゼ(BirA)とビオチンを添加することにより,1分子ビオチン標識が可能であり(図2A),AlphaScreen技術を用いた相互作用解析に用いることができる.AlphaScreen技術は2種類のビーズが200 nmの範囲にあると化学発光する手法で,ビオチン標識タンパク質と抗体認識タグを融合したタンパク質間相互作用が検出できる(図2B).広く用いられているELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)と大きく異なる点は,タンパク質のプレートへの固定が必要なく,またプレートの洗浄工程を必要としないことであり,2~3回の溶液混合行程から簡便な手順のみで,タンパク質–タンパク質間やタンパク質–抗体などの相互作用を検出できる.さらに,コムギ無細胞系で合成した目的タンパク質を精製することなく,合成反応液を直接反応系に1 µL程度加えるのみで,機能解析や薬剤スクリーニングが可能である.我々は,コムギ無細胞系とAlphaScreen技術を用いることにより,薬剤依存的なタンパク質–タンパク質間相互作用検出技術の構築を進めてきた(図2C).開発当初は,上記の植物ホルモンであるABAを対象に技術開発を進め,ABAと同等機能を有するABAアゴニスト10)や,最近では別の主要植物ホルモンであるGAのアゴニスト11)の単離に成功している.さらに,最近では,セルフリーサイエンス社と共同でコムギ無細胞系を基盤とした384穴プレート上でタンパク質を合成する技術の開発を進め,日本で整備されたヒト完全長cDNAリソース[一般社団法人バイオ産業情報化コンソーシアム(JBIC)]を活用し2万種以上の組換えヒトタンパク質を合成することに成功した12).それらをAlphaScreen技術で解析可能な自動分注機器の整備も行ってきた.さらに独自製作した1536穴マグネットプレート上で固定したヒトプロテインアレイを構築し,薬剤依存的な相互作用タンパク質の検出や,2万種ヒトタンパク質を対象とした網羅的な相互作用タンパク質探索技術の開発を行ってきた13).現在,薬剤依存的タンパク質相互作用は,ほぼすべてのヒトタンパク質を対象に行える時代となった.
(A) 1分子ビオチン標識法の模式図.目的タンパク質のN末端もしくはC末端にビオチンリガーゼ配列(bls)を付加する.大腸菌由来ビオチンリガーゼ(BirA)とビオチン,ATPの添加により,赤字のリシン残基のアミノ基にビオチン1分子の共有結合が起こる.(B)分子のり依存的タンパク質間相互作用検出のAlphaScreen技術の模式図.分子のり依存的なタンパク質間相互作用が,2種類のビーズ(ドナービーズとアクセプタービーズ)の近接を誘導する.そのとき,励起光照射により化学発光シグナルが産生される.(C) AlphaScreen技術によるポマリドミド添加によるタンパク質間相互作用解析.ビオチン化されたCRBNとネオ基質の混合液にポマリドミドを添加すると,CRBN–ポマリドミド–ネオ基質による複合体が形成され,ポマリドミドの濃度依存的に高い化学発光シグナルが得られる.
薬剤はタンパク質に作用し,薬効を示す.一部の例外を除き,服用や点滴により我々の体内に取り込まれた薬は,体内のタンパク質に結合し作用する.そのため,期待されるタンパク質への作用のみでなく,想定外のタンパク質への作用が起こることも想像できる.つまり,想定外のタンパク質への作用が,副作用を惹起する可能性が考えられる.そこで,我々が開発してきた薬剤依存的タンパク質相互作用技術とヒトプロテインアレイ技術を,薬の副作用の解析に利用することを考えた.サリドマイドは,上述のように,妊婦が服用すると胎児への催奇性を誘導するという重篤な副作用が知られている.本稿筆者の1人の澤崎は中学生時代,道徳の時間に『典子は,今』というサリドマイド病患者が主演し,その半生を描いた映画を体育館で観て衝撃を受けた.我々が技術開発した当時,薬害が報告されてから50年以上経過しているにもかかわらず,サリドマイドによる催奇性誘導の分子機構は不明なままであった.そこで,サリドマイドを対象とした薬剤依存的相互作用タンパク質同定による催奇性機構の解明を目指すこととした.サリドマイド研究の分子基盤は,2010年に半田らが発見した,サリドマイドがE3ユビキチンリガーゼであるセレブロン(CRBN)に結合するという研究が始まりである14).そして,2014年,ボストンの二つの研究室が同時に,サリドマイドがCRBNに結合後,基質認識が変化し,イカロスやアイオロスとの相互作用が起こり,CRL4複合体によってユビキチン化し分解誘導することが,多発性骨髄腫の薬効分子機構であることを見いだした2, 3).イカロスやアイオロスは転写因子であったことから,このとき,多くの研究者はサリドマイドの催奇性も同様の機構で,手足の発生分化に関わるマスターレギュレーターとして機能する転写因子の分解誘導で起こると予想したと思われる.ただし,イカロスなどのネオ基質同定は,定量プロテオミクスの手法が用いられたが,それには解析のために多くの細胞数が必要である.実験動物の代表であるマウスには,サリドマイド投与による催奇性は誘導されない.さらに,サリドマイドの催奇形性モデル動物として知られるゼブラフィッシュやニワトリの発生時期の手足分化原基である肢芽の領域は非常に小さく,肢芽分化のどのステージで関与するのかなどの情報も不足しており,到底,定量プロテオミクスの実験系が成立しないことは容易に想像できた.そのため,サリドマイドによる催奇性機構に関する研究は進まない状況であった.
我々は当時,1118種類のヒト転写因子を組換えタンパク質として保有しており,薬剤依存的タンパク質相互作用解析技術も開発していたことから,ヒト転写因子プロテインアレイとAlphaScreen技術を活用することで生化学的にサリドマイド催奇性に関与するネオ基質の同定を試みた.このように書くと,研究が順調に進んでいるようにみえるかもしれないが,実は,本稿筆者の山中はビオチン標識サリドマイドの有機合成を進め,2万種のヒトプロテインアレイの中から,AlphaScreen技術を用いてCRBN以外にサリドマイドに結合するタンパク質の同定を試みていた.1年と半年かけた実験の結果,CRBN以外にサリドマイドに結合するタンパク質を見いだすことはできなかった.研究プロジェクト的には完全に敗北である.そのため,残された手段として,サリドマイド依存的にCRBNに結合するヒト転写因子の探索を進めた,というのが本当のストーリーである.やはり,現実は厳しいのである.AlphaScreen技術を基盤としたサリドマイド添加条件下でのCRBNと相互作用するヒト転写因子スクリーニングと細胞生物学的解析の結果,SALL4(sal-like protein 4)とPLZF(promyelocytic leukemia zinc finger protein)がサリドマイド依存的に細胞内で分解誘導される新たなネオ基質であることを見いだした.どちらもノックアウトマウスにおいて,肢芽分化が抑制され,手足が短い表現型を示す原因遺伝子であった15, 16).我々は,この時点でこの二つの転写因子の分解誘導が,サリドマイドの催奇形性という副作用の原因である可能性を考えた.生化学的にサリドマイドとの結合に必要な領域を同定したところ,SALL4のサリドマイド結合領域は,イカロスで報告されたZnフィンガーと配列がかなり似ていた.上記のマウスの表現型とサリドマイド結合領域の配列が酷似していた結果は,SALL4がサリドマイド副作用に関与するネオ基質である可能性を強く示唆していたことから,我々はSALL4の解析を続けた.しかし,その半年後,SALL4はサリドマイドのネオ基質である,との報告が二つのグループから報告された17, 18).つまり我々は,SALL4の勝負に負けたのである.2人でどっぷり落ち込んだが,次の日にはもう一方のPLZFの解析を開始した.実は,SALL4のサリドマイド結合領域はサリドマイドでの催奇形性が報告されているゼブラフィッシュとニワトリでは保存されておらず17, 19),我々は実験的に,それらの生物種のSALL4は分解されないことをこの時点で知っていた19).逆に,PLZFのサリドマイド結合領域は生物種間で保存性が高く,実際,それらの生物種のPLZFはサリドマイド添加により分解されることを明らかにしていた19).そして解析を進め,最終的にニワトリの肢芽を用いて,PLZFのノックダウンが手足の分化を抑制し,PLZFタンパク質がサリドマイド処理により分解され,分解される以上にPLZFを過剰発現すると表現型はレスキューされることを明らかにした19).これらの結果,生物種を超えてサリドマイドの催奇性を誘導するネオ基質はPLZFである可能性を強く示した.
現実はさらに複雑で,サリドマイドはチトクロームP450により水酸基が一つ付与される.サリドマイドの催奇形性機構を複雑にしているのは,5位が水酸化されたサリドマイド(5位水酸化サリドマイド)が催奇性誘導に関与している可能性があることである19).実際,鳥取大学の香月らのグループは,ヒトのP450をコードする染色体を導入したマウスがサリドマイドにより催奇性を示すことを報告している20).そこで我々は,名古屋工業大学の柴田らが有機合成した5位水酸化サリドマイドを用いて解析を進めた結果,5位水酸化サリドマイドは強力にSALL4を分解したのである19).しかも驚いたことに,5位水酸化サリドマイドはイカロスとの相互作用や分解は誘導できなかった19).たった一つの水酸基による基質認識の違いを理解するためには,高解像度の構造解析が必要と考えた.そこで,ABA依存的複合体の構造解析の実績21)を有している東京大学の宮川先生(現在,京都大学)に構造解析をお願いすることになった.宮川らのグループは,解像度を高めるためにCRBNとSALL4をサリドマイド結合領域に絞り込み,高解像度(~1.9 Å)でのCRBN-サリドマイド-SALL4とCRBN-5位水酸化サリドマイド-SALL4の構造解析に成功し,その結果,5位水酸化サリドマイドがイカロスの相互作用を誘導できない理由は,そのZnフィンガーのQ146およびS153のアミノ酸側鎖が邪魔しているためであることを明らかとした(図3A)22).サリドマイドは,光学異性による生物活性作用が異なることが明らかとなった化合物として広く知られている.我々は,上記のAlphaScreenによる薬剤依存的タンパク質相互作用解析法を用いて,生化学的にS体のみがSALL4やイカロスの相互作用を誘導することを示した22).今回の構造解析により,サリドマイドが複合体で分子のりとして機能する際に,サリドマイドのフタルイミド環とグルタルイミド環の間が少し曲がっていた(図3B).R体の場合は,この二つの環の間の炭素鎖が逆方向であり立体障害を生じる(図3B).そのため,R体ではなく,S体のみが既存ネオ基質の分子のりとして機能できることを示した22).長年の謎であった光学異性体の作用機序の違いが高解像度の構造解析により解かれたのである.以上を踏まえ我々は,サリドマイドの催奇形性に関わるモデルを提唱した19).現在,ヒトCRBNを組み込んだ形質転換マウスを作製し,サリドマイド催奇性を評価できるマウス実験系の作製を試みている.
(A) C2H2 ZF型転写因子に対する5位水酸化サリドマイド(5HT)の選択的な作用の鍵となる構造.左上図はサリドマイド(Thal)と5HTの作用により形成されたSALL4のZF2ドメイン(SALL4 ZF2)とCRBNの複合体構造を重ね合わせている.サリドマイドと5HTは同じ位置と配向でSALL4 ZF2とCRBNの両方に接触することで複合体を安定化している.右上図のサリドマイドと5HTの構造を取り囲む網は,X線結晶構造解析法で観測された電子密度で,複合体構造中の化合物の位置と配向が正確に決定できていることを示している.5HTの水酸基に隣接するSALL4 ZF2の二つのアミノ酸残基はバリン(V411)とアルギニン(R418)で,βヘアピン上のP2およびP9のアミノ酸残基にそれぞれ対応している.一方,IKZF1はそのZF2ドメイン(IKZ1 ZF2)のP2とP9にグルタミン(Q)とセリン(S)があるため,5HTの水酸基に対して立体障害になっている.(B) CRBN-サリドマイド-SALL4複合体の構造解析結果(左図).右図の黄色は,複合体内部のサリドマイドを取り出した構造.緑色は,CRBN上の構造を示す.SALL4との複合体内では,右側に曲がっている.構造解析からS体が組み込まれていることが明らかとなった(文献22より一部改変の上,転載).
細胞や生体内で,目的タンパク質を低分子化合物依存的に分解できる手法はデグロンシステムと呼ばれ,新たな研究ツールとして期待されている.デグロンシステムは,低分子化合物を添加することで迅速に目的タンパク質を分解することが可能であり,洗浄操作などで低分子化合物を取り除くことで目的タンパク質の発現量が回復される可逆的なノックダウンシステムである.現在,広く使われているデグロンシステムは,国立遺伝研の鐘巻らが開発した上述の植物ホルモンのオーキシンとその受容体であるTIR1 E3ユビキチンリガーゼを用いたオーキシンデグロン(AID)システムであり,AIDタグを目的タンパク質に付加することで,オーキシン依存的に目的タンパク質をノックダウンできる技術である23).現在では,オーキシン依存的な標的タンパク質の分解速度や特異性などが改良されたAIDシステムが確立されている24).しかしいくつかの改善点もあり,動物の場合,植物TIR1というE3ユビキチンリガーゼを導入する必要があることや,植物ではオーキシン依存的にネオ基質の分解が引き起こされ生理的影響が大きいため,目的タンパク質のノックダウンによる影響と区別することが困難な点などがある.我々は,SALL4の競争では負けたが,そのときに得られた実験データの活用として,SALL4のサリドマイド結合領域(S4D:SALL4 degron)を用いたデグロンシステムの開発に着手した(図4A, B).SALL4は,サリドマイドやその誘導体が存在しない場合,CRBNへの相互作用はまったく起こらない.つまり,薬剤添加時の分解のキレがよいことを期待した.実験の結果,薬剤添加がない状況でのバックグランド分解はほぼなく,サリドマイド誘導体(ポマリドミド)添加により1時間で約70%,3~6時間で90%程度の分解誘導が起こった25)(図4C).核局在のp53や小胞体局在STING,細胞膜上のドーパミン受容体(DRD1),ミトコンドリア外膜局在のMAVSのC末端にS4Dを付与することにより,期待どおり薬剤添加による分解誘導ができた.さらに,RelAのC末端側にゲノム編集によりS4Dタグをノックインしたヒト培養細胞(HEK293T)を用いた結果,NF-κBシグナル応答解析においてもS4Dシステムが機能することが明らかとなった.これらの結果から,S4Dシステムは標的タンパク質をサリドマイド誘導体依存的にノックダウンし,標的タンパク質の機能解析に利用可能であることが示された25).S4Dシステムの利用はまだ広がっていないが,理化学研究所の谷内らのグループは,マウス個体内での標的タンパク質分解にS4Dシステムを利用している.マウス個体を用いた報告例がほとんどないデグロンシステムであるが,近い将来,マウス個体内でのS4DシステムとAIDシステムの利用に関する違いなどが明らかとなると期待している.
(A)目的タンパク質のN末端やC末端S4Dタグを付加し,ヒト培養細胞に導入する.その細胞にサリドマイドやサリドマイド誘導体を添加することにより,目的タンパク質分解誘導できる.Ub:ユビキチン.(B) CRBNをノックアウトしたHEK293T細胞にFLAG-CRBNとAGIA-Venus-S4D発現プラスミドをトランスフェクションし,DMSO(ジメチルスルホキシド),NEDD8阻害剤(MLN4924)またはプロテアソーム阻害剤(MG132)の存在下においてDMSOまたはサリドマイド処理した細胞抽出液を用いたイムノブロッティング.サリドマイド処理によりS4D付加Venusは分解された.しかし,NEDD8阻害剤(MLN4924),プロテアソーム阻害剤(MG132)により,それらの分解が完全に抑制された.このことから,S4Dシステム分解はCullin複合体を介したユビキチン-プロテアソーム系で分解されていることを示している.(C) HEK293T細胞にルシフェラーゼ-S4D-AGIA発現プラスミドをトランスフェクションし,DMSOまたは10 μMポマリドミドで標記時間処理した細胞抽出液中のルシフェラーゼ活性.ポマリドミド添加後,1時間で約70%,3~6時間で約90%が分解されている(文献25より一部改変の上,転載).
細胞内や生体内におけるタンパク質相互作用の解析に,近位依存性ビオチン標識を利用したBioID法が用いられている26).細胞内の相互作用タンパク質同定技術として,これまで免疫沈降法が広く用いられてきた.免疫沈降法は,細胞抽出液中に抗体を添加後,プロテインGなどでプルダウンし,回収されたタンパク質を質量分析することにより相互作用タンパク質を同定する技術である.抗体の特異性の問題だけではなく,細胞をすり潰した抽出液内の相互作用解析であるため,アーティファクトな相互作用の可能性を否定できないことから,新たな方法論が求められてきた.そのため,BioID法が広く普及することとなった.最初に開発された大腸菌由来のビオチンリガーゼBirAのシングル変異体BirA*(R118G)26)は,活性が低いため核膜孔など安定な細胞内構造物の複合体解析には適していたが,数時間で複合体形成が変化するシグナル応答の解析には利用できない.そこで,我々も含め,いくつかのグループが新たな近位依存性ビオチン標識酵素の開発を進めた.我々は,静岡県立大学の中野・伊藤らが開発したアルゴリズムを利用したAIデザインによって,ビオチン化活性が高く相互作用タンパク質を同定するのに適した新しい近位依存性ビオチン標識酵素AirIDの開発に成功した27).近位依存性ビオチン標識やその酵素の開発史に関しては他の総説などに譲りたい28, 29).
AirIDは細胞内や生体内でのタンパク質相互作用の検出に適していたことから,細胞内の薬剤依存的な相互作用解析への応用を進めた.要は,細胞内で分子のりやPROTACが惹起するタンパク質–タンパク質相互作用を検出できれば,薬剤開発や新たなネオ基質解析に有用な研究ツールになると考えたのである(図5A).常法に従い,CRBNのN末端にAirIDを融合した遺伝子をゲノムに組み込んだ安定発現株を作製した.細胞にサリドマイドとその誘導体であるレナリドミド,ポマリドミド,5位水酸化サリドマイドをそれぞれ添加し,ネオ基質のビオチン化を調べた.サリドマイドやレナリドミド,ポマリドミドを処理した細胞において,AirID-CRBNによるイカロスやアイオロスのビオチン化が確認され(図5B),イカロスやアイオロスを分解誘導しない5位水酸化サリドマイドを添加した細胞においては確認されなかった(図5B).次に,サリドマイドやサリドマイド誘導体を同様に処理した細胞抽出液を用いて,徳島大学の小迫らのグループによる質量分析を行った.小迫らの手法では,アビジン様タンパク質であるTamavidin2-REVを用いて,ビオチン化ペプチドの濃縮を行っている.この手法の利点は,高濃度ビオチンによるビオチン化ペプチドの競合溶出が可能であることから,ビオチン化されたペプチドのみを検出することができ,偽陽性を減らせることにある30, 31).また同時に,ビオチン標識部位の同定ができるため,タンパク質のどの部位がビオチン化されたか確認することができる.AirID-CRBNを用いた質量分析の解析により,ポマリドミド依存的にネオ基質であるIKZF1やIKZF3のビオチン化が期待どおり起こっていた(図5C).サリドマイドやその誘導体の種類とネオ基質分解能の間には,それぞれの薬剤の傾向があり,ネオ基質の種類によるが,一般的にサリドマイドのネオ基質相互作用誘導能は相対的に弱く,ポマリドミドが強い場合が多い.我々が驚いたのは,それらの薬剤がこれまで示していた分解能やネオ基質の特異性が,ビオチン化ペプチドのアバンダンス値として評価できたことである32)(図5B, D).TMT(tandem mass tag)などの定量プロテオミクスを行ったわけではないため,あくまでラフな定性的数値であるが,それでもある程度の薬剤特性を細胞内での相互作用タンパク質へのビオチン標識として評価できる点は大きなアドバンテージだと感じた.次に,サリドマイド以外の分子のりへの解析を試みた.抗がん活性を示すスルホンアミド化合物であるindisulamはCRBNと同じDCAF(DDB1 and Cullin 4-associated factor)ファミリーに属し,CUL4ユビキチンリガーゼ複合体の基質認識タンパク質として機能するDCAF15と結合し,スプライシング因子の一つであるCAPERα(別名:RBM39)を選択的に分解誘導する33, 34).AirIDを融合したDCAF15(AirID-DCAF15)を発現する細胞(HCT116)を作製し,indisulamを添加したところ,見事に細胞内でAirID-DCAF15はRBM39をビオチン標識した(図6A, B).
(A) AirID融合CRBN(AirID-CRBN)による分子のり依存的ビオチン標識の模式図.AirID-CRBN融合はサリドマイドやサリドマイド誘導体依存的にネオ基質をビオチン化する.(B)ストレプトアビジンブルダウン後のイムノブロッティングの結果.AirID-CRBNを安定発現するMM1.S細胞へMG132およびビオチン存在下において,DMSO, サリドマイドまたはサリドマイド誘導体で処理した細胞抽出液を用いてストレプトアビジンビーズによるプルダウンを行った後に,イムノブロッティングにて解析した.サリドマイドやサリドマイド誘導体の種類により,ネオ基質のビオチン標識能が異なり,サリドマイドやサリドマイド誘導体によってネオ基質特異性が異なることがわかる.ポマリドミドがイカロス(IKZF1)やアイオロス(IKZF3)へのビオチン標識が最も高く,水酸化サリドマイド(5HT)のビオチン標識能は低い.(C)ビオチン化ペプチドを対象とした質量分析結果のvolcano plot. 白血病急性単球のTHP-1細胞を用いた場合,ポマリドミド処理によってイカロス(IKZF1)やアイオロス(IKZF3)のビオチン化ペプチドが増加している.(D)多発性骨髄腫のMM1.Sを用いた質量分析結果.サリドマイドやサリドマイド誘導体の種類により,ネオ基質のビオチン標識能やネオ基質特異性の違いがペプチドレベルでも検出できる(文献32より一部改変の上,転載).
(A) AirID融合DCAF15(AirID-DCAF15)によるindisulam依存的RBM39ビオチン標識の模式図.AirID-DCAF15はindisulam依存的にネオ基質RBM39をビオチン化する.(B)ビオチン化ペプチドを対象とした質量分析結果のvolcano plot. AirID-DCAF15を発現する安定発現細胞株(HCT116)へDMSOまたはindisulamを添加し,質量分析によってビオチン化ペプチドを解析した.indisulam添加依存的にネオ基質であるRBM39のビオチン化ペプチドが増加している(文献32より一部改変の上,転載).
さらに,PROTACへの解析を試みるため,BETタンパク質を分解するPROTACとして広く利用されているARV-825(ポマリドミド-JQ1)を用いた.AirID-CRBN発現細胞にARV-825を添加したところ,CRBNバインダーのポマリドミドではBETタンパク質はビオチン標識されないが,ARV-825ではBETタンパク質がビオチン標識されていた32)(図7A, B).以上,AirID融合E3ユビキチンリガーゼは,分子のりやPROTACといったタンパク質分解誘導剤における細胞内での相互作用をビオチン標識として検出することができる.現在は,マウス個体内にCRBN-AirIDを組み込んだトランスジェニックマウスを作製済みで,いくつかの組織において,期待どおりのネオ基質のビオチン化が検出できている.分子のりやPROTACの相互作用解析がマウス個体内で簡単にできるようになることは間違いない.それにより今後の分子のりやPROTAC開発の精度向上が期待でき,ますます,タンパク質分解誘導剤の開発がヒートアップするものと思われる.
(A) AirID-CRBNによるPROTAC(例としてARV-825)依存的なネオ基質と標的タンパク質(BRD4)ビオチン標識の模式図.AirID-CRBNはPROTAC依存的にネオ基質IKZF1やIKZF3および標的タンパク質BETタンパク質をビオチン化する.(B)ビオチン化ペプチドを対象とした質量分析結果のvolcano plot. AirID-CRBNを発現する安定発現細胞株(MM1.S)にポマリドミドまたはARV-825を添加し,質量分析によってビオチン化ペプチドを解析した.ARV-825添加依存的に標的タンパク質バインダー(JQ1)に結合するBETタンパク質(BRD2, BRD3, BRD4)と,ネオ基質のイカロス(IKZF1)やアイオロス(IKZF3)のビオチン化ペプチドが増加している.ポマリドミド(Po)添加では,BETタンパク質のビオチン化ペプチドは増加していない(文献32より一部改変の上,転載).
PROTACの基本コンセプトは,バインダーを介して標的タンパク質を特定E3ユビキチンリガーゼにリクルートすることにより,標的タンパク質を分解誘導する分子と考えられている.国立医薬品食品衛生研究所時代の内藤らが開発したSNIPER(specific and nongenetic IAP-dependent protein eraser)35)もコンセプトは同じである.ただ,SNIPERはE3ユビキチンリガーゼをIAPに限定したネーミングであったため,E3ユビキチンリガーゼを限定せず薬剤デザインのコンセプトをネーミングに直接用いたPROTACの方が広く用いられている.PROTACは,バインダーさえあれば,原理的にどのようなタンパク質も標的にできると考えられている.従来の分子標的薬の開発では,酵素のようなある程度しっかりした構造的ポケットを有するタンパク質が薬剤開発の対象となっていた.ポケットに入る薬剤がデザインでき,構造解析によりその空間情報が取得できれば,耐性機構への対応など分子標的薬剤開発の王道がある.逆に,転写因子やRasのような特徴的なポケットを持たないタンパク質を対象とした分子標的薬の開発は進んでいなかった.しかし,酵素はがん細胞内における薬剤耐性獲得能が高く,プロテインキナーゼはじめ,変異酵素に対抗するために第2世代,第3世代の薬剤開発が必須となる.そこで,従来の薬剤デザインを大幅に拡張できる可能性を持ったPROTACが注目された.しかし,PROTACにもまだまだ解決すべき課題は多い.バインダー取得に関しては,化合物ライブラリーから結合する化合物を同定できる質量分析技術やDEL(DNA-encoded library)の活用などさまざまなバインダー取得技術が整備され,比較的ハードルは下がりつつある.そのため現在,PROTACの最も大きな課題はよいバインダーを取得しPROTAC化しても分解誘導が起こらないことにある.おそらく対象とするE3ユビキチンリガーゼバインダーとリンカーと標的タンパク質バインダー間の距離などの薬剤デザインのどこかに問題があると考えられるが,現在,汎用的なPROTACデザイン法は存在しない.何がPROTACの分解を妨げているのか,今後の研究成果が待ち望まれる.
PROTACのもう一つの課題は,E3ユビキチンリガーゼバインダーがネオ基質分解活性を有している点にある.現在,最も広く対象となっているE3ユビキチンリガーゼバインダーは,ポマリドミドのようなサリドマイド誘導体である.それは,CRBNがほぼ全身の組織で発現しており,またその発現量が高く,そのためPROTACの分解活性が高いためである.しかし,PROTAC内のポマリドミドは標的タンパク質のCRBNへのリクルートと分解誘導だけでなく,ネオ基質も分解する(図7).例をあげると,ARV-825は,BETタンパク質の分解と同時にイカロスやSALL4などのネオ基質の分解も行う28).この課題に関しては,つい最近,我々はサリドマイドの新たな誘導体をデザインすることにより,ネオ基質分解を誘導せずに標的タンパク質を分解できる化合物の合成に成功した36).今後の新たなサリドマイド型PROTACのデザインの方向性が示せたように思う.
PROTACデザインが想定していたより難しいこともあり,分子のりへの回帰が始まっている.サリドマイドやindisulam,ジベレリン処理が示す劇的な分解誘導能を体現すると,分子のりはやはり大きな可能性を秘めていると思える.ただし,新たな分子のりの探索となると,E3ユビキチンリガーゼ,薬剤,標的タンパク質の3種類の役者が関与するため組合わせは無限大である.何を基準に分子のりスクリーニングをすればよいのか,この基本的な問いにすら,現在,誰も指針を提示できていない.人類が持つ生化学や細胞生物学的アプローチは,1種類の酵素やベイトを対象とした薬剤探索や相互作用タンパク質探索の技術開発には成功してきた.それはそれで非常に画期的であり,多くの有用な薬剤を生み出した.しかし,3種類を同時に対象とする分子のりスクリーニングは,まさにお手上げ,暗中模索である.植物ホルモンのオーキシンは1946年に発見され,分子のりとしての機能がわかるまで約60年の時を要した.動物における天然の分子のりですら不明な現在,分子のりを合理的に見いだす手法を誰がいつ開発するのか楽しみでしょうがない.若い研究者による,生化学と情報科学などの他分野を深い観点から融合した柔軟な発想の研究アプローチを期待している.
本稿記載の研究成果は,これまで20年以上の間の100名を超える研究室メンバーらのたゆまない頑張りと,本稿に名前を記載できた先生や,記載できなかった多くの先生と研究者の方々が,懲りずに力強く支えていただいたことにより達成できました.ここに深く感謝いたします.また,京都大学の宮川拓也先生には,快く本稿への図の利用をお許しいただき感謝いたします.本稿記載の技術開発および研究成果は,国立研究開発法人日本医療研究開発機構創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業),国立研究開発法人日本医療研究開発機構(次世代がん医療創生研究事業,次世代がん医療加速化研究事業),日本学術振興会(若手研究),日本学術振興会(新学術領域研究,ケモユビキチン)の支援により実施されました.
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