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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 95(6): 757-764 (2023)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2023.950757

特集Special Review

細胞膜に障害を及ぼすレンサ球菌由来溶血毒素の構造的および機能的な多様性The structural- and functional-variety of streptococcal hemolysins inducing the dysfunction of cytoplasmic membrane

徳島大学大学院社会産業理工学研究部生物資源産業学域Department of Bioengineering, Division of Bioscience and Bioindustry, Graduate School of Technology, Industrial and Social Sciences, Tokushima University Graduate School ◇ 〒770–8513 徳島県徳島市南常三島町2丁目1番地 ◇ 2–1 Minamijousanjima-cho, Tokushima, Tokushima 770–8513, Japan

発行日:2023年12月25日Published: December 25, 2023
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ヒト日和見病原性の口腔レンサ球菌には,細胞膜に膜孔を形成する毒素を産生する株が存在する.その毒素の代表分子であるコレステロール依存性細胞溶解毒素(CDC)には構造的および機能的な多様性が確認され,細胞膜コレステロールを受容体とする典型CDCに加えて,ヒトCD59を受容体とする非典型CDCの存在も確認されている.これらCDCの受容体である細胞膜コレステロールやヒトCD59は,細胞膜に形成される脂質ラフト集積性の分子でもあり,ヒトCD59を受容体とするCDCは,細胞膜に対する膜孔形成のみならず,脂質ラフトを足場とした細胞内シグナル伝達にも影響を及ぼしている可能性が示唆される.本稿では,in silicoでの解析結果も含め,細胞膜に障害を及ぼすレンサ球菌由来CDCの構造的および機能的な多様性について紹介する.

1. はじめに

生体を構成しているさまざまな細胞はリン脂質二分子膜からなる細胞膜を最外層に有し,細胞内外との境界を形成している.そして,細胞膜に存在するさまざまな受容体タンパク質やチャネルタンパク質の機能により,外界との情報伝達や物質交換を行っている.このように,細胞膜は,細胞を保護する物理的なバリアとしての機能だけでなく,外界環境との物質の受け渡しを担い,さらにさまざまな刺激を受容するセンサー器官としての機能も兼ね備えた多機能性の重要な構造である.

一方,この細胞膜の構成成分を標的として作用し,細胞膜の機能にさまざまな障害を引き起こす分子が数多く確認されている.その分子の構造や機能は多岐にわたり,低分子の化合物から高分子のタンパク質やその複合体までさまざまである.我々「ヒト」を対象とした場合,「毒」として古くから認識されてきた因子,たとえば,ハチ毒1)やヘビ毒2)などの身近な生物毒に加え,海洋生物のイソギンチャクの毒3)など,さまざまな生物種由来の多様な「毒」が知られている.このような「毒」は細胞膜傷害能を示すものが多く,具体的な作用としては,細胞膜に孔を形成する分子やリン脂質分解活性を示す酵素,さらに細胞膜に存在する酵素に作用する因子など,それぞれの「毒」に特徴的な種々の機能や作用により細胞膜を傷害することによって,細胞膜の機能障害を引き起こす.

我々にとって身近な感染症(特に細菌感染症)においても,病原体が産生する細胞膜傷害性の「毒」がその発症や病態の主たる要因となることがある.筆者らは,ヒト口腔内に常在している日和見病原性のレンサ球菌,具体的にはミティス群レンサ球菌やアンギノーサス群レンサ球菌を対象とし,それらレンサ球菌群に属する株が産生する溶血毒素について研究を展開している4).これらのヒト口腔常在性日和見レンサ球菌群が産生する溶血毒素としては,タンパク質性の膜孔形成毒素であるコレステロール依存性細胞溶解毒素(cholesterol-dependent cytolysin:CDC)と,ペプチド性の膜傷害性毒素であるStreptolysin S(SLS)のホモログ5, 6)があげられる.これらの中で本稿ではCDCを対象として,宿主細胞の細胞膜に対する作用特性や障害性について,その構造的および機能的な特徴と多様性に注目しながら,これまでの筆者らの研究により得られた結果に加え,国内外の研究グループからの研究成果も含めて紹介する.

2. GPIアンカー型膜タンパク質であるヒトCD59を受容体とする細菌毒素の発見

ヒトは,外界からの異物(感染症の場合は病原体や毒素)に対する防御機構を備えている.その代表的な機構である補体活性化では,抗原抗体反応を起点とする古典経路などによるC3およびC5の分解反応過程を経て,C5bからC9により構成される膜侵襲複合体(membrane attack complex:MAC)を感染細胞の細胞膜上に形成して感染細胞を破壊することにより,宿主の感染防御を担っている.この際,細胞膜に存在するグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型の糖タンパク質であるCD59[別名:membrane inhibitor of reactive lysis(MIRL),MAC-inhibitory protein(MAC-IP),Protectin, HRF20等]は,C5bからC8の各補体分子の集合により形成される複合体と結合してC9の構造変化と会合を阻害し,結果的にMACの形成を阻害する7).このメカニズムは,補体活性化に対して自らの細胞を保護するための重要な生体応答メカニズムである.

一方,この補体活性化反応に対する自己防御分子であるCD59を受容体とする細菌毒素の存在が明らかとなった8).この細菌毒素は,アンギノーサス群レンサ球菌の一構成菌種であるStreptococcus intermediusが産生するCDCのIntermedilysin(ILY)であり,ヒト特異的な作用特性を示すことで注目されているタンパク質性の膜孔形成毒素である9).このILYを含むCDCの膜孔形成はC9による膜孔形成と構造的および機能的な類似点が確認されることから,これらのタンパク質群は「MACPF/CDC(membrane attack complex/perforin and cholesterol-dependent cytolysins)superfamily」10)とも称される.ILYがヒトCD59を受容体として作用するという発見8)は,ILYが示すヒト細胞特異的な作用特性の要因を説明するための明確な答えを与えるだけでなく,補体活性化反応に対する自己防御に機能するヒトCD59を細菌毒素が逆に利用しているということで,大きなインパクトをもって受け入れられた.

3. レンサ球菌由来のCDCとその多様性

ところで,ILYの発見とほぼ同時期に,川崎病患児から分離されたStreptococcus mitis株であるNm-65株が産生する菌体外分泌因子であり,ヒト血小板凝集活性を有すS. mitis-derived human platelet aggregation factor(Sm-hPAF)が報告された11).このSm-hPAFについては,アミノ酸配列に基づいた相同性の検討結果などに基づいてCDCファミリーに属することが予想され,CDCに共通の特性である溶血活性を示すことも明らかとなった12).興味深いことに,Sm-hPAFが示す溶血活性はヒト赤血球に対する活性が最も高く,ヒト以外の動物種に対しては種依存的な溶血活性を示すことが明らかとなった.この要因として,Sm-hPAFは細胞膜コレステロールに加えて,ヒトCD59も受容体として認識することがあげられる.このような作用特性を示すSm-hPAFの存在が確認されたことによって,細胞膜コレステロールを受容体として膜孔形成活性を示す典型CDCに加えて,細胞膜コレステロールとヒトCD59の双方を受容体として認識する非典型CDCが存在していることを筆者らは示した.そして,この結果に基づいて,筆者らはCDCの受容体認識特性を指標としたグループ分けを提唱している(図113).まず,「Group I」に属するCDCは,細胞膜コレステロールのみを受容体として作用することによりさまざまな動物種の赤血球に対して溶血活性を示す典型CDCであり,レンサ球菌を含むグラム陽性の病原性細菌が産生する多くのCDCがこのグループに該当する.次に,「Group II」に属するCDCは,GPIアンカー型膜タンパク質であるヒトCD59を受容体として作用することによりヒト赤血球特異的な溶血活性を示すCDCであり,現時点ではILYのみがこのグループに該当する.さらに,「Group III」に属するCDCは,細胞膜コレステロールとヒトCD59の双方を受容体とし,細胞膜との相互作用ドメインであるドメイン4(D4)内にILYと同じくヒトCD59との相互作用に携わる特徴的なアミノ酸配列14)を有すものの,コレステロールを含む細胞膜との相互作用に関わる11 merアミノ酸保存領域(undecapeptide motif)の配列がILYとは異なり,作用特性においてヒト指向的な動物種依存性の溶血活性を示すCDCである13)

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図1 CDCの受容体認識特性に基づいたグループ分類

CDCの受容体認識特性に基づいて分類したGroup I, Group II, Group IIIの各CDCの受容体および作用特性と構造的な特徴を示す.D1~D4:ドメイン1~ドメイン4, D0:ドメイン0, DD:Discoidin domain.

細胞膜上でのCDCの膜孔形成過程について,図2に模式的に示した.肺炎球菌が産生するPneumolysin(PLY)や一部のS. mitis株が産生するMitilysin(MLY)を例外として,CDCはN末端に分泌シグナル配列を有しており,菌体内で生産されたCDCは可溶型タンパク質として菌体外に分泌される.分泌されたCDCは,Group Iに属するCDCでは標的細胞膜中のコレステロールに直接結合する.一方,Group IIのCDCでは,まず標的細胞表面のヒトCD59と結合し,続いて細胞膜コレステロールと結合すると考えられる(図2).細胞膜コレステロールとヒトCD59の双方を受容体とするGroup IIIのCDCについても,ヒトCD59とコレステロールの細胞膜における物理的な位置関係によりヒトCD59と優先的に相互作用(図2)し,これによりヒト指向性の動物種依存的な作用特性を発揮すると考えられる.なお,CDCの細胞膜上での膜孔形成に際して,ヒトCD59のみを受容体とするGroup IIに属するILYであっても,最終的な膜孔の形成には細胞膜コレステロールとの相互作用が必要であると報告されている15, 16).CDCの受容体認識ドメイン(D4)と細胞膜コレステロールとの相互作用は,CDCの膜孔形成に必須の構造変化を誘導していると考えられており17),標的細胞膜上で複数のCDC単量体が横方向に会合して複合体を形成するとともに,ドメイン3(D3)の構造変化により細胞膜貫通構造が形成される.そして最終的には,数十分子のCDCが会合して樽状の複合体を形成することによって,標的細胞膜上に直径20ナノメートル程度の膜孔を形成する(図2).

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図2 ヒトCD59を受容体とするCDC(Group IIおよびGroup IIIのCDC)による細胞膜上での膜孔形成過程の模式図

詳細な膜孔形成過程については本文参照.

ところで,CDCの構造は基本的に4ドメインから構成されており,その基本構造はCDCの産生菌種にかかわらず高度に保存されている.一方,上記で紹介したSm-hPAFの構造は少し異なり,典型的な4ドメイン構造のCDCのN末端に追加のドメイン(ドメイン0:D0)を有する特徴的な5ドメイン構造をとる12).さらに,近年我々は,S. mitisおよびその類縁菌であるStreptococcus pseudopneumoniaeに属する株の中に,Sm-hPAFとは分子系統的に異なる新たな5ドメイン型構造のCDCを産生する株が存在することを明らかにした.この新たな5ドメイン型構造のCDCはN末端追加ドメイン内に“Discoidin domain(DD)”を有することに注目し,我々は“Discoidinolysin(DLY)”と命名した18).このような5ドメイン構造を有す非典型CDCのSm-hPAFとDLYは,ともにGroup IIIに属してヒトCD59と細胞膜コレステロールの双方を受容体とする(図1).Group IIIに属する4ドメイン型のCDCとしては,Gardnerella vaginalisが産生するCDCであるVaginolysin(VLY)がこれまでに報告されている13, 19)が,筆者らはさらに,ヒト口腔レンサ球菌においても4ドメイン構造を有すGroup IIIに属する新たなCDCの産生株を近年確認し,そのCDCの特性についても現在検討を行っている.これらの結果を踏まえて考えると,ヒト口腔レンサ球菌由来のCDCについては,その構造的および機能的な多様性について今後もさらに広がりを見せる可能性が考えられる.

図3には,レンサ球菌が産生するCDCのアミノ酸配列情報に基づいた系統解析の結果を示す.この系統樹より,ヒトに対して明確な病原性を示す化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)が産生するStreptolysin O(SLO)などのCDCと比較して,ヒト口腔由来の日和見病原性レンサ球菌群が産生するCDCは系統的に明らかに異なるクレードに分類される(図3).さらに,ヒトCD59と相互作用を示すGroup IIおよびGroup IIIに属するCDCも,そのすべてがこのヒト口腔由来の日和見病原性レンサ球菌が産生するCDCのクレード内にマップされた(図3).ところで,ヒト口腔レンサ球菌の代表的なグループであるミティス群やアンギノーサス群に属するレンサ球菌には,受容能促進ペプチド(competence stimulating peptides:CSPs)の産生と感知による形質転換特性を有する菌種や菌株が存在する20).さらに,ミティス群レンサ球菌の代表的な構成菌種であるS. mitisの臨床株の中には,肺炎球菌と同様に自己溶菌を示す株が確認されており21),これらの株は溶菌に伴って自己の染色体DNAなどの遺伝因子を生育環境中に放出していることが考えられる.以上より,ヒト口腔レンサ球菌は,CDCの構造的および機能的な多様化を誘発して促進させる生育環境におかれていることに加え,菌体自らも多様なCDCを生み出す一環境となっている可能性が示唆される.筆者らは,日和見病原性のヒト口腔レンサ球菌が産生するCDCについて,毒素型感染症の発症や宿主の応答反応との関連についても注目し,引き続き検討を行っている.

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図3 レンサ球菌が産生するCDCの系統解析

各CDCの全長アミノ酸配列情報に基づく系統樹を,MEGA722)を用いて作成した.各CDCのアミノ酸配列についてClustalWを用いてアラインメント後,Neighbor-Joining法により系統樹を作成し,PFOを外群(outgroup)として表示した.DLY:Discoidinolysin, Sm-hPAF:S. mitis-derived human platelet aggregation factor, CDC:cholesterol-dependent cytolysin, LLY:Lectinolysin, ILY:Intermedilysin, PLY:Pneumolysin, MLY:Mitilysin, PPLY:Pseudopneumolysin, SLY:Suilysin, SLO:Streptolysin O, PFO:Perfringolysin O.

4. ヒト口腔レンサ球菌が産生する多様なCDCとその特性

図3で示した系統解析の結果に基づいて,Group IのCDCとしてS. mitisが産生するMLY, Group IIのCDCとしてS. intermediusが産生するILY,そしてGroup IIIのCDCとしてS. mitisが産生するDLYの3種のCDC(図3において太文字で表記しているCDC)を対象とし,ヒト口腔レンサ球菌が産生するCDCの機能的な多様性について,赤血球に対する溶血特性を指標として検討した.検討対象の各CDCは,N末端Hisタグ化組換え体として大腸菌を用いて誘導発現後,Ni親和性クロマトグラフィーにより精製し,リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に対して透析した標品を準備して使用した.また,検討対象の赤血球として,ヒト赤血球とウマ赤血球を用いた.なお,ヒト赤血球は,徳島大学病院生命科学・医学系研究倫理委員会にて承認された実験計画に基づいて採血した血液より調製し,ウマ赤血球は試薬として購入したウマ無菌保存血より調製して,それぞれ実験に用いた.検討の結果より,ヒト赤血球に対する溶血活性測定では,細胞膜コレステロールのみを受容体とするGroup IのMLY(図4A,●)と比較して,ヒトCD59を受容体とするGroup IIのILY(図4A,▲)およびGroup IIIのDLY(図4A,■)では1桁以上高い溶血活性を示した.この結果は,細胞膜コレステロールとヒトCD59の両者が存在する条件下では,ヒトCD59を優先的に認識して標的細胞膜に作用を示すという特徴を示しており,このことは細胞膜におけるコレステロールとCD59の存在状況(図2)から考えても妥当な結果である.一方,ウマ赤血球に対する溶血活性測定では,ともに細胞膜コレステロールを受容体とするGroup IのMLY(図4B,●)とGroup IIIのDLY(図4B,■)では溶血活性が確認されたが,ヒトCD59のみを受容体とするGroup IIのILYでは,検討濃度範囲において顕著な溶血は確認されなかった(図4B,▲).この結果は,ウマ赤血球にはILYの受容体となる分子(ヒトCD59)が存在しないことから妥当な結果である.以上の結果は,これまでに説明してきたヒト口腔由来の日和見病原性レンサ球菌が産生するさまざまなCDCの多様な作用特性を示す結果であり,筆者らのこれまでの報告13)ともよい一致を示している.

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図4 日和見病原性のヒト口腔レンサ球菌が産生するCDCの溶血特性

(A)ヒト赤血球に対する溶血活性,(B)ウマ赤血球に対する溶血活性.各CDC組換え体を所定の濃度となるように滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液として調製後,終濃度0.5%(v/v)となるように赤血球を添加して37°Cで1時間反応させた.反応液の遠心上清の540 nmにおける吸光度を測定し,滅菌精製水で調製したサンプルを100%溶血コントロールとして各サンプルの溶血率をパーセンテージで算出した.なお,各サンプルの測定はn=3で実施し,その平均値を算出してグラフ化した(エラーバーは標準偏差を示す).●:His-MLY (Group I CDC), ▲:His-ILY (Group II CDC), ■:His-DLY (Group III CDC).

次に,近年,深層学習システムとして設計され,信頼性の高いタンパク質の推定立体構造モデルの作成が可能となったことで大きな話題となっているAlphaFold2を利用することにより,CDCとCD59の相互作用モデルを作成して,日和見病原性のヒト口腔レンサ球菌が産生するさまざまなCDCの多様な作用特性について検討を行った.Alphafold2-multimer23)による解析結果としてアウトプットされた五つの推定相互作用モデルを,それぞれの検討結果についてまとめて図5に示す.結果より,Group IIのILYとその受容体であるヒトCD59との相互作用解析では,ILYのD4に対するヒトCD59の配向や相互作用部位が各モデルでほぼ一致しており,溶血活性測定の結果(図4A)と同様にILYとヒトCD59の安定的な相互作用を示唆する解析結果が得られた.一方,ILYとウマCD59との相互作用モデルでは,ウマCD59のILYに対する配向や相互作用部位が各モデルで一致しておらず,ILYとウマCD59との相互作用は弱い(もしくは相互作用しない)ことが解析結果より推測され,溶血活性測定の結果(図4B)を反映する結果が得られた.Group IのMLYに対するヒトCD59およびウマCD59の相互作用モデルでも,各CDCのMLYに対する配向や相互作用部位は一定しておらず,MLYは各CD59との相互作用が弱い(もしくは相互作用しない)ことがこの結果からも予想できた.Group IIIのDLYについては,CDCの基本構造である4ドメイン構造に加えてN末端に追加ドメイン(DD)を有すことから,各CD59との特徴的な相互作用様式が推測された.具体的には,DLYとヒトCD59との相互作用モデルでは,DLYのD4を介したヒトCD59の配向やDLYとの相互作用に一致がみられた(Rank 1およびRank 2)が,DLYのN末追加ドメインであるDDとヒトCD59との相互作用を示唆する解析結果(Rank 3およびRank 4)も得られている.このDLYのDDを介したCD59との相互作用の可能性はウマCD59に対しても推測されている.DLYにおけるこのようなN末端追加ドメインとCD59との相互作用の可能性は,DLYと同様に5ドメイン型構造のCDCが示す標的細胞膜に対する新たな作用特性として注目される.

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図5 Alphafold2-multimerによるCDCとCD59の相互作用モデル

検討対象のCDCとして,Group IのMLY (GenBank ID:BCJ09904.1), Group IIのILY (GenBank ID:BAA89790.1), Group IIIのDLY(GenBank ID:BCT97347.1)を,相互作用を検討するCD59として,ヒトCD59(PDB ID:4BIK)とウマCD59(GenBank ID:XP_023509600.1)を用いた.Alphafold2-multimerでの解析により得られた結果のpdbファイルをSwiss-PdbViewer version 4.0.1を用いて可視化し,Rank 1からRank 5の結果を並べて表示した.

5. ヒトCD59を受容体とするCDCによる「細胞膜傷害」以外の細胞への作用

ところで,Group IIおよびGroup IIIに分類されるCDCの受容体であるヒトCD59はGPIアンカー型膜タンパク質であり,細胞膜上に形成されるマイクロドメインである脂質ラフトに集積性を示す分子である.さらに,CDCの受容体である細胞膜コレステロールも,脂質ラフトへの集積性を示す.つまり,CDCの受容体として機能する各分子は脂質ラフトに集積することより,CDC,特にヒト口腔レンサ球菌が産生するヒトCD59認識性のGroup IIおよびGroup IIIに分類されるCDCは,その特徴的な作用である「膜孔形成活性」に加え,脂質ラフトにおける「細胞内シグナル伝達」にも携わっていることが考えられる.ヒトCD59を介した細胞内シグナル伝達に関しては,好中球における抗ヒトCD59抗体を利用したクロスリンクにより,タンパク質チロシンキナーゼを介した細胞内シグナル伝達の活性化などが実験的に示されている24, 25).また,ヒト赤血球を対象としたprogrammed necrosis(necroptosis)に関する検討もなされており,赤血球における非受容体型チロシンキナーゼであるSyk依存的なBand3のリン酸化やFasリガンド依存的なRIP1キナーゼのリン酸化とRIP3キナーゼのリン酸化などについての報告がある26, 27).さらに,脂質ラフトにおけるヒトCD59の動態とシグナル伝達に関しても,1分子レベルでの詳細な検討結果が報告されている28, 29).このように,ヒトCD59は,細胞膜上において細胞へのシグナル伝達に重要な役割を果たしているセンサー分子である.このヒトCD59と相互作用を示し,さらに膜孔形成過程で複合体を形成するという分子特性を示すGroup IIおよびGroup IIIのCDCは,標的細胞膜に作用することにより,脂質ラフトにおいてヒトCD59をクロスリンクさせてその状態を維持し,その結果として,脂質ラフトの直下に存在するシグナル伝達分子を活性化(状況によっては過剰に活性化)して細胞内へのシグナル伝達を亢進(状況によっては過剰に亢進)させている可能性が示唆される(図6).

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図6 脂質ラフトにおけるCDCの作用とヒトCD59のクロスリンクを介した細胞内シグナル伝達の活性化(模式図)

CDCの受容体認識特性に基づいて分類したGroup I, Group II, Group IIIの各CDCの細胞膜との相互作用について,特に脂質ラフトの構成因子との相互作用に注目して模式的に示した.脂質ラフトに集積性を示すヒトCD59にGroup IIやGroup IIIのCDCが相互作用して,CDC分子どうしの会合によりヒトCD59のクロスリンクが生じ,さらにその状態が維持され,脂質ラフト直下に存在するシグナル伝達分子を介した細胞内へのシグナル伝達が亢進されると推測される.

ところで,これまでに,Group IIIのCDCであるVLYをHeLa細胞に作用させると,p38 MAPKのリン酸化が亢進することが報告されている19).p38 MAPKのリン酸化亢進は,A549細胞に対するPLYやSLO(ともにGroup IのCDC),さらにその他の細菌由来膜孔形成毒素の作用によっても確認されている30).よって,このp38 MAPKのリン酸化亢進は,膜孔形成毒素の標的細胞への作用による膜孔の形成に依存した一般的な応答反応であると考えられる.一方,Group IIおよびGroup IIIに属するヒトCD59認識性のCDCによるヒトCD59のクロスリンクは,完全形の膜孔の形成には至らないような比較的低濃度(準細胞致死濃度)のCDC存在条件下でも確認される可能性が考えられる.よって,日和見病原性のヒト口腔レンサ球菌が産生するGroup IIおよびGroup IIIのCDCの作用特性は,これらのCDCを産生する口腔レンサ球菌のヒトに対する潜在的な病原性を検討する上で重要な要因となると筆者らは考えている.現在,Group IIおよびGroup IIIに属するCDCを対象とした準細胞致死濃度のCDCの作用に対する細胞応答反応について,さらに検討を進めている.

6. おわりに

本稿で紹介したように,グラム陽性細菌が産生する代表的な病原因子の一つであるCDCに関しては,興味深いことに日和見病原性のヒト口腔レンサ球菌由来のCDCについて機能的および構造的な多様性が確認され,このことはヒト口腔レンサ球菌が潜在的に有するCDCに依存的なヒトに対する病原性との関連で重要な情報である.特に,ヒト口腔レンサ球菌の代表的なグループであるアンギノーサス群レンサ球菌やミティス群レンサ球菌において産生が確認されるGroup IIやGroup IIIのCDCは,ヒトCD59を受容体として作用するという特性を示す.この作用特性はヒトに対する病原性を検討する上で重要であり,いまだ不明な点が多い日和見病原性のヒト口腔レンサ球菌におけるCDCに依存的なヒト病原性やそのメカニズムの解明に資する重要な知見となることが期待される.一方で,ヒトCD59認識性のCDCの特性を利用することにより,脂質ラフトマーカーとしての利用や,細胞膜機能や細胞応答反応の検討用ツールとしての応用利用の可能性も考えられる.なお,本稿では紙面の都合により記載できなかったが,筆者らはレンサ球菌が産生するペプチド溶血毒素であるSLSに関する研究も展開している.よって,CDCやSLSなど日和見病原性のヒト口腔レンサ球菌が産生する溶血毒素の構造および機能に関して詳細な検討を行い,これら菌群のヒトに対する真の病原性を評価するための知見や,本菌群に対する感染防御に資するような知見を提供できるよう,引き続き研究を進めていきたいと考えている.

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著者紹介Author Profile

田端 厚之(たばた あつし)

徳島大学大学院社会産業理工学研究部生物資源産業学域 准教授.博士(工学).

略歴

1998年徳島大学工学部卒業.2003年同大学院工学研究科修了.大阪大学大学院工学研究科産学官連携研究員,財団法人ヒューマンサイエンス振興財団リサーチレジデントを経て,06年に母校徳島大学に着任し,同年同大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部助教,16年同大学院生物資源産業学研究部講師を経て,21年10月より現職.

研究テーマと抱負

ヒト口腔常在性の日和見病原性レンサ球菌群が産生する溶血毒素とその多様性に興味を持って,本菌群の真の病原性を溶血毒素に注目して明らかにすべく,日々研究に邁進しています.

趣味

ドライブなど.

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