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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 95(6): 792-796 (2023)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2023.950792

みにれびゅうMini Review

がん細胞のシスチン代謝に対する細胞外環境の影響Effects of the extracellular environment on cystine metabolism in cancer cells

1京都大学大学院生命科学研究科生体システム学分野Laboratory of Molecular Neurobiology, Graduate School of Biostudies, Kyoto University ◇ 〒606–8501 京都市左京区吉田近衛町 ◇ Yoshidakonoe-cho, Sakyo-ku, Kyoto 606–8501, Japan

2大阪公立大学大学院理学研究科生物化学専攻Department of Biological Chemistry, Graduate School of Science, Osaka Metropolitan University ◇ 〒599–8531 大阪府堺市中区学園町1–1 ◇ 1–1 Gakuen-cho, Naka-ku, Sakai, Osaka 599–8531, Japan

発行日:2023年12月25日Published: December 25, 2023
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1. はじめに

がん細胞は,正常な細胞と比べて細胞内の活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)のレベルが高い.そのため,細胞内の過度な酸化ストレスを回避するべく,抗酸化システムを増強させている.本稿では,がん細胞における重要な抗酸化システムの一つであるグルタチオンの産生と,それに寄与するSLC7A11/xCTを介した細胞外からのシスチンの取り込みが,がん細胞の細胞外環境により大きく影響を受けることについて,その分子メカニズムも含めて紹介する.

2. シスチン–グルタミン酸交換輸送体SLC7A11とグルタチオンの生合成

がん細胞は,生存性や増殖能向上のために正常細胞とは異なる特性を獲得する.そのうちの一つとして,細胞内のROSレベルが高いことがあげられる.がん細胞における高いレベルのROSは,細胞内におけるシグナル伝達や遺伝子突然変異を引き起こし,がんの発症や悪性化,さらには化学療法に対する耐性の獲得に寄与していることが知られている.一方で,細胞内の過剰なROSの産生は,DNAやタンパク質,脂質に損傷を与え,最終的には細胞死を引き起こす.そのため,がん細胞は細胞内ROSレベルを一定に調整するための抗酸化システムを増強させている.その一つが,還元型グルタチオン(GSH)による抗酸化システムである.GSHは,グリシン,グルタミン酸,システインの三つのアミノ酸から合成され,システイン由来のチオール基が還元作用を有する.GSHは,自ら酸化型グルタチオン(GSSG)に変換される代わりに,ROSを還元することで,酸化ストレスを抑制する.

シスチンは,2個のシステイン分子がチオール基の酸化によるジスルフィド結合によって連結したアミノ酸で,がん細胞においては細胞外から取り込まれたシスチンが,グルタチオンを構成するシステインの主な供給源となっている.がん細胞におけるシスチンの取り込みは,主に細胞膜上に存在するアミノ酸交換輸送体タンパク質,SLC7A11により行われる.SLC7A11は,SLC3A2(別名4F2hc/CD98)と二量体を形成し,細胞外のシスチンと細胞内のグルタミン酸との交換輸送を行う.SLC7A11を介して取り込まれたシスチンは,細胞内でシステインへと還元され,GSHの産生に利用される.そのため,SLC7A11はがん細胞において重要な抗酸化システムの役割を担っており,神経膠芽腫を含む多くのがん細胞において高レベルで発現している.また近年,SLC7A11を阻害することによりフェロトーシス(鉄依存性細胞死)が誘導されることが明らかになり1),SLC7A11は創薬標的としていっそうの研究がなされている.

3. シスチン代謝と鉄依存性細胞死フェロトーシス

フェロトーシスは,二価の鉄イオン依存的に過度に酸化された脂質が蓄積することによって引き起こされる細胞死で,2012年に同定・命名された1).フェロトーシスの制御には,GSH依存的に働くグルタチオンペルオキシダーゼ4(glutathione peroxidase 4:GPX4)が深く関わっている.SLC7A11によって細胞内に取り込まれたシスチンからGSHが産生され,そのGSHを利用してGPX4が過酸化脂質を直接還元することによって,フェロトーシスが抑制される.そのため,SLC7A11によるシスチンの輸送やGPX4の酵素活性を阻害することによってフェロトーシスが誘導されることが報告されており,がん治療の新たな標的として注目を集めている2, 3).一方で,フェロトーシスは鉄キレート剤によって抑制されることから,フェロトーシスを誘導するためには鉄イオンが必要であり,鉄輸送タンパク質のトランスフェリンや鉄貯蔵タンパク質のフェリチンなど,鉄代謝に関わるタンパク質がフェロトーシスに関与していることが報告されている4–6)

これまでの報告では,シスチン欠乏によって引き起こされるフェロトーシスは,細胞内GSHの枯渇が要因であると考えられていた3).我々は複数の神経膠芽腫細胞株を用いて,グルタチオン合成阻害剤によるGSHの枯渇のみではフェロトーシスが誘導されないことを見いだした.一方,リソソームにおけるフェリチンの分解(フェリチノファジー)が,シスチン欠乏により誘導されることを我々は確認した.さらに,フェリチンのリソソームへの輸送に必要なタンパク質であるNCOA4を欠損した神経膠芽腫細胞では,フェリチノファジーが引き起こされず,シスチン欠乏によるフェロトーシスも抑制された.そこで,グルタチオン合成阻害剤に加えて鉄誘導剤である硫酸アンモニウム鉄,あるいはヘミンを同時に加えたところ,フェロトーシスが誘導された.以上の結果から,神経膠芽腫細胞においてシスチン欠乏によりフェロトーシスが誘導されるためには,GSHの枯渇に加えてフェリチノファジーによる鉄イオンの放出が必要であることが示唆された7)

4. グルタチオン分解酵素GGT1によるフェロトーシスの抑制

我々は,神経膠芽腫細胞が高密度で存在する際に,シスチン欠乏によるフェロトーシス誘導に細胞株間で差異があることを見いだした.細胞が低密度で存在する場合は,すべての細胞株でシスチン欠乏によりフェロトーシスが誘導されたのに対し,高密度状態ではシスチン欠乏条件下でもフェロトーシスが誘導されない細胞株が存在した.高密度状態でフェロトーシスが誘導されない細胞株では,低密度状態ではシスチン欠乏により細胞内GSH量の枯渇が認められたが,高密度状態ではシスチン欠乏により細胞内GSH量の低下は認められるものの,枯渇は起こらず一定量存在していることが確認された.そこで,我々はグルタチオン代謝経路に着目し,高密度状態でフェロトーシスが誘導されない細胞株では,細胞外グルタチオンの分解に関わる細胞膜上の酵素,γ-グルタミルトランスフェラーゼ1(γ-glutamyltransferase 1:GGT1)の発現量が高いことを見いだした.GSHは,抗酸化物質として利用された際に自らはGSSGへと変換され,細胞外に放出される.細胞外に放出されたGSSGは,GGT1によってシステイニルグリシン(Cys-Gly)とグルタミン酸に分解され,さらにジペプチダーゼの働きでシステインとグリシンに分解される.システインは細胞外では酸化を受けてシスチンに変換され,SLC7A11を介して細胞内に取り込まれる.我々は,GGT1の発現が高く,高密度状態ではシスチン欠乏によりフェロトーシスが誘導されない細胞株において,GGT1の薬理学的阻害,あるいはGGT1遺伝子の欠損により高密度状態でもフェロトーシスが誘導されること,さらにその状態でシステイニルグリシンを加えることで再びフェロトーシスが抑制されることを明らかにした.加えたシステイニルグリシンに濃度依存性がみられたことから,GGT1を介したフェロトーシスの抑制作用が高密度状態のときにのみみられる理由として,細胞外に放出されたGSSG,およびその分解産物であるシステイニルグリシンの培地中の濃度がある一定以上必要であることが考えられる.一方,GGT1の発現が確認できず,高密度状態でもシスチン欠乏によりフェロトーシスが引き起こされる細胞株において,GGT1の過剰発現により高密度状態でフェロトーシスが抑制されることも確認できた.以上の結果から,細胞外からシスチンが得られない環境下では,神経膠芽腫細胞は細胞外においてGGT1の働きによりGSSGを分解し,得られたシスチンを細胞内に取り込むことによって,細胞内でGSHの再合成が行われ,細胞内GSH量を維持していることが示唆された.このように,シスチン欠乏下においてがん細胞がグルタチオンのリサイクルを行うシステムが存在し,がん細胞がフェロトーシスの誘導を回避していることが考えられる8)図1).

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図1 GGT1によるフェロトーシスの抑制機構

5. シスチン代謝に対する細胞外グルコースの影響

神経膠芽腫を含む多くのがん細胞においては,グルコース輸送体や代謝酵素の発現量の増加がみられ,グルコースを多く取り込むことによってがん細胞の増殖や生存に必要なエネルギーと生合成中間体が供給される.さらに,ペントースリン酸経路を介して産生されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate:NADPH)は,グルタチオンなどの抗酸化システムにおける重要な電子供与体としての働きを持つ9).そのため,多くのがん細胞はグルコースが欠乏した環境下では急速に酸化ストレスによる細胞死を引き起こすことが知られている.

我々は以前に,SLC7A11の発現量が神経膠芽腫細胞のグルコース依存性を決定していることを報告した10).神経膠芽腫細胞において,グルコースの欠乏下により急速な細胞死がみられるが,同時にアミノ酸が存在しない条件下では,グルコースが欠乏しているにもかかわらず細胞死が誘導されないことを我々は見いだした.一方で,グルコースおよびアミノ酸の欠乏下においてシスチンを添加すると急速に細胞死が誘導されることが明らかになった.そこで,我々はSLC7A11に着目し,SLC7A11の薬理学的阻害,あるいは遺伝子の欠損によりグルコース欠乏による細胞死が抑制されることを確認した.さらに我々は,グルコース欠乏下ではSLC7A11を介して取り込まれたシスチンが,細胞内NADPHの急速な枯渇を引き起こし,ROS蓄積を伴った細胞死を引き起こすことを明らかにした10).グルコース存在下では,ペントースリン酸経路を介してグルコースが代謝されるとNADPHが供給されるため,SLC7A11を介してシスチンが取り込まれても細胞内のNADPHの枯渇は起こらない.ところが,グルコース欠乏下ではNADPHが供給されず,取り込まれたシスチンがシステインに還元される際にNADPHが利用され,最終的にNADPHの枯渇が起こると考えられる.最新の報告では,グルコース欠乏下でシスチンの取り込みによって誘導される細胞死が,アクチン細胞骨格タンパク質に異常なジスルフィド結合が誘導され,それに伴うアクチンフィラメントの崩壊が要因とされる細胞死として“disulfidptosis”と名づけて報告された11).この細胞死については不明な点が多く,さらなる研究の進展が注目される.一方,前述したシスチン欠乏によるフェロトーシスが,細胞外グルコースの欠乏により抑制されることも報告されている12).以上のことから,がん細胞ではシスチン代謝とグルコース代謝が密接に関係しており,がん細胞の生存性にはグルコース代謝とシスチン代謝のバランスが重要であることが考えられる.

6. 細胞密度によるSLC7A11のリソソームにおける分解制御

細胞密度ががん細胞の細胞特性や生存に影響を与えることが知られており,たとえば高密度状態ではがん細胞の抗がん剤に対する感受性が低下する報告もされている13, 14).我々は,神経膠芽腫細胞が高密度で存在すると,グルコース欠乏による細胞死が抑えられることを明らかにした.細胞が高密度で存在する条件では,mTOR(nammalian/mechanistic target of rapamycin)の活性低下に伴ってリソソームにおけるSLC7A11タンパク質の分解が促進される.そのような状況下では,グルコース欠乏下でもシスチンの取り込みが抑えられているために細胞死が誘導されないことが,複数の神経膠芽腫細胞株において示された.さらに,低密度状態でもmTORの阻害剤の添加によりリソソームにおけるSLC7A11の分解が促進され,グルコース欠乏による細胞死が抑制されることも確認した15)図2).これらのことから,がん細胞には,細胞密度の変化に応じてSLC7A11のタンパク質レベルでの発現を制御する機構が存在し,がん細胞の生存性獲得に寄与する重要な代謝リプログラミングの一つとして働いている可能性が考えられる.

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図2 細胞密度で制御されるSLC7A11/xCTの発現とグルコース依存性

7. おわりに

がん細胞は,自らの生存に有利になるように糖やアミノ酸など代謝経路を変化・亢進させることが知られている.我々は,神経膠芽腫細胞におけるSLC7A11を介したシスチン代謝に着目し,がん細胞の細胞密度や細胞外グルコースの有無などの細胞外環境と,シスチンやグルタチオン代謝に関わるタンパク質の発現量といった複数の要因が相互に関与することで,がん細胞の生存性が制御されている可能性を明らかにしてきた.がん細胞が高密度で存在する状態では,グルコース欠乏が起きやすいものの,SLC7A11の発現が低下することで細胞死(disulfidptosis)を免れている.一方,SLC7A11の発現低下により細胞内シスチン濃度が下がりすぎると,フェロトーシスに脆弱になってしまうため,GGTの発現上昇によりそれを回避しているがん種が存在し,がんの悪性化に寄与している可能性がある.また,グルコース欠乏が別の機構でフェロトーシスを抑制しているという知見もあり,グルコース欠乏状態でも巧みに生存を維持する戦略をがん細胞が獲得していることが考えられる.今後,さらに研究が進むことによって,がんの進行状態や周りの環境に応じた,シスチン代謝を標的にする新たな治療法確立につながることが期待される.

引用文献References

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14) Gujral, T.S. & Kirschner, M.W. (2017) Hippo pathway mediates resistance to cytotoxic drugs. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, E3729–E3738.

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著者紹介Author Profile

山口 一樹(やまぐち いつき)

京都大学大学院生命科学研究科高次生命科学専攻博士課程3年.大阪公立大学大学院理学研究科生物化学専攻特別研究生.日本学術振興会特別研究員DC2.学士(薬科学),修士(生命科学)

略歴

2019年近畿大学薬学部卒業.同年~現在京都大学生命科学研究科博士課程.23年~現在大阪公立大学大学院理学研究科特別研究生.22年~現在日本学術振興会特別研究員DC2.

研究テーマ

がん細胞の生存性を制御するアミノ酸輸送体の発現制御メカニズムについて.

抱負

がん難治性の要因となる外部環境・薬剤への耐性獲得メカニズムの一端を解明し,がんで亡くなる患者様を無くしたい.

趣味

筋トレ.

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