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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 96(2): 170-174 (2024)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2024.960170

特集Special Review

O-GlcNAc修飾されたタンパク質の特性難病に関わるタンパク質を中心にProperties of O-GlcNAc-modified proteins: Focus on proteins involved in intractable diseases

長浜バイオ大学大学院バイオサイエンス研究科Graduate School of Bioscience, Nagahama Institute of Bio-Science & Technology ◇ 〒526–0829 滋賀県長浜市田村町1266 ◇ 1266 Tamura, Nagahama, Shiga 526–0829, Japan

発行日:2024年4月25日Published: April 25, 2024
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O-GlcNAc修飾は,核,細胞質およびミトコンドリアにおいてタンパク質のセリン/トレオニン残基にN-アセチルグルコサミンが付加される動的な修飾である.これまでに,ヒトにおいては5000を超える基質タンパク質が同定されている.基質タンパク質には,O-GlcNAc修飾によっておそらくは親水性が高められ,液–液相分離現象を起こしにくい流動性が付与される.そして,O-GlcNAc修飾によって付与される物理化学的特性を基盤として,修飾されたタンパク質の生理活性が発揮されると考えられる.本稿では,我々が行ってきたO-GlcNAc修飾タンパク質の解析例を中心に,個々の基質タンパク質におけるO-GlcNAc修飾の不均質性の実態,およびO-GlcNAc修飾されたタンパク質の特性について述べる.

1. はじめに

細胞内タンパク質にN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)が付加される翻訳後修飾(O-GlcNAc修飾,図1)が発見されてから約40年が経つ1).この間に,O-GlcNAc修飾に関わる酵素反応の解析や基質タンパク質の同定,および修飾の生理・病理的意義に関する研究が精力的に展開されてきた2)O-GlcNAc修飾は,UDP-GlcNAcを供与糖ヌクレオチドとして,核,細胞質およびミトコンドリアにおいて基質タンパク質のセリン/トレオニン残基の側鎖水酸基を介してGlcNAcが付加される修飾であり,糖鎖として伸長することはない2).本修飾の半減期は基質タンパク質よりも短く,基質タンパク質へのGlcNAc残基の付加と遊離が可逆的に行われる動的な修飾である2).本修飾の付加と遊離は,それぞれO-GlcNAc転移酵素(OGT, EC 2.4.1.255)とO-GlcNAcase(EC 3.2.1.169)という一組の酵素によって行われる2).両酵素は多細胞真核生物において普遍的に存在すると考えられ,ogt遺伝子をノックアウトしたマウスES細胞は生存できないことなどから,O-GlcNAc修飾は多細胞真核生物の発生や生存に不可欠な生理機能を有すると考えられている2)

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図1 真核細胞の核,細胞質およびミトコンドリアタンパク質に起こるO-GlcNAc修飾

核,細胞質,およびミトコンドリアの多くのタンパク質には,セリンあるいはトレオニン残基側鎖水酸基を介して1分子のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)がグリコシド結合するO-GlcNAc修飾が起こる.O-GlcNAc修飾は,動的な修飾であることが大きな特徴であり,ヘキソサミン生合成経路の最終産物,UDP-GlcNAcをドナーとしてO-GlcNAc転移酵素(OGT)により付加され,O-GlcNAcaseにより加水分解される.

本修飾の標識技術と同定法が飛躍的に発展した2000年代以降,特にプロテオミクス解析法の進歩により,ヒトにおいては5000を超えるO-GlcNAc修飾タンパク質が続々とリストアップされてきた.近年,同定済みの基質タンパク質を検索できるデータベースが複数構築され,そのなかにはO-GlcNAc修飾サイトに関する情報も収載されている基質タンパク質が数多く含まれている3, 4).これまでのO-GlcNAc修飾の生理機能に関する研究から,本修飾は転写,翻訳,シグナル伝達カスケード,栄養センシング,細胞周期や分化などの多岐にわたる細胞プロセスの制御機構に関与することが示唆されてきた2).それを裏づけるように,O-GlcNAc修飾タンパク質のリストには機能的に多種多様なタンパク質が含まれている3, 4).なかにはEwing sarcoma protein(EWS)やfused in sarcoma(FUS)などの原がん遺伝子産物,tauやα-synucleinなどの神経変性疾患関連タンパク質も多数含まれており,このような難病に関わるタンパク質の性質や働きにO-GlcNAc修飾がどのような作用をもたらしているのか,といった病理的観点について追究することは特に重要である.

本稿では,我々が行ってきたO-GlcNAc修飾タンパク質の解析例を中心に,個々の基質タンパク質におけるO-GlcNAc修飾の不均質性と,それを生ずる主要因であるOGTのあいまいな基質認識,およびO-GlcNAc修飾によってタンパク質に付与される物理化学的特性について述べる.なお,個々の基質タンパク質におけるO-GlcNAc修飾の不均質性とは,同じタンパク質であっても分子あたりのO-GlcNAc修飾数が異なる“分子種”が多数生成されることに加え,分子あたりのO-GlcNAc修飾数は同じであっても修飾サイトが異なる“分子種”も多数生成されることを指している.

2. 個々の基質タンパク質におけるO-GlcNAc修飾の不均質性

先に述べたように,O-GlcNAc修飾は多細胞真核生物の発生や生存に必須であることをふまえ,我々は分化研究モデルとして汎用されているマウス間葉系細胞株を用い,分化過程におけるO-GlcNAc修飾の特徴を解析した5–7).脂肪成熟分化,骨格筋分化,および骨芽細胞分化に伴うO-GlcNAc修飾タンパク質の変動を抗O-GlcNAc抗体によるウエスタンブロッティングで解析したところ,各々の分化に特有のO-GlcNAc修飾タンパク質の変動が起こることが示唆された5–7).すなわち,C2C12細胞の骨格筋分化においては,細胞あたりのO-GlcNAc修飾タンパク質数,および基質タンパク質あたりのO-GlcNAc修飾量が分化依存的に顕著に減少する6).それに対し,3T3-L1細胞の脂肪成熟分化およびMC3T3-E1細胞の骨芽細胞分化においては,細胞あたりのO-GlcNAc修飾タンパク質数,および基質タンパク質あたりのO-GlcNAc修飾量が分化依存的に大幅に増加する5, 7).当然のことながら,このような分化に伴うO-GlcNAc修飾タンパク質の変動は,分化前後の遺伝子発現プログラムの変化によりO-GlcNAc修飾の基質となるタンパク質の種類およびそれらの発現量が変化することを反映していると考えられる.しかしながら,解析を進めたところ,分化前後でタンパク質の発現量に変化はないにもかかわらず,O-GlcNAc修飾量が変化する基質タンパク質が複数存在していた5).その典型例がEWSである.EWSはFETタンパク質ファミリー[FUS, EWS, TATA-box binding protein associated factor 15(TAF15)]の一員とされ,生涯を通して組織普遍的に発現し,転写やRNAのプロセシングと輸送などを担う遺伝子の発現制御に関わる核酸結合性タンパク質であるため,多岐にわたる細胞機能の制御に関わる8).コムギ胚芽アグルチニンへの親和性をもとに,3T3-L1細胞の脂肪成熟分化前後におけるEWSのO-GlcNAc修飾量を解析したところ,分化に伴って約5.4倍に増加していた5).このことから,分化などの細胞プロセスに応じて個々の基質タンパク質に起こるO-GlcNAc修飾が制御されていると考えられる.そこで,EWSを例としてO-GlcNAc修飾の不均質性に関する解析を進めた.なお,EWSを含むFETタンパク質ファミリーは,神経変性疾患に関与するタンパク質であることが知られているので8),マウスP19胚性幹細胞のレチノイン酸刺激による神経細胞初期分化過程におけるEWSのO-GlcNAc修飾量をポリエチレングリコールタグ標識法により解析することにした9).その結果,EWSタンパク質の発現レベルは分化前後で一定であったが,そのO-GlcNAc修飾量は分化に伴って増加していた9).この増加について分子あたりのO-GlcNAc修飾数が異なる分子種の割合から解釈すると,分化前のEWSは非修飾分子種71.6%,モノグリコシル化(1分子あたり一つのO-GlcNAc残基を有する)分子種26.5%,およびジグリコシル化分子種1.9%であったが,分化誘導後1日目から3日目にかけて非修飾分子種は40~45%に減少し,モノグリコシル化分子種は39~42%,ジグリコシル化分子種は12~17%に増加したことに加え,新たにトリグリコシル化分子種1~3%が生成されていた9).続いて,マウスおよびヒトの神経系細胞株を中心にEWSのO-GlcNAc修飾量を解析したところ,総じていずれの細胞株においても90%前後はグリコシル化分子種であり,1分子あたり1~4個のO-GlcNAc残基を有する分子種が含まれていた10).健常CD-1マウス(8週齢)脳抽出液中のEWSのグリコシル化分子種についても同様の結果であった10).我々の報告を端緒として,Nosellaらはin vitroにおいてEWSに起こるO-GlcNAc修飾量を解析しており,不均質性の観点から我々の結果を支持している11).なお,複数の先行研究においてO-GlcNAc修飾タンパク質のプロテオミクス解析が行われた結果,EWSのおよそ50ものセリン/トレオニン残基がO-GlcNAc修飾サイトとして同定されている3, 4).これをふまえてEWSのO-GlcNAc修飾の不均質性を考えると,必ずしも特定のセリン/トレオニン残基がO-GlcNAc修飾された分子種ばかりではなく,分子あたりの修飾数は同じであっても修飾サイトが異なる多様な分子種が生成されているといえる(図2).そして,このようなO-GlcNAc修飾の不均質性が他の基質タンパク質にも生じていることは想像にかたくないであろう.

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図2 ヒトEWSのドメイン構造およびO-GlcNAc修飾状態の異なる多様なEWS分子種のイメージ

EWSは656アミノ酸残基からなり,N末端側のlow-complexity domainは転写活性化能を持つと推定されており,一方のC末端側はDNA/RNA結合能を持つ.細胞において,O-GlcNAc修飾数および修飾サイトの異なる無数のEWS分子種が生成されており,それらの割合は細胞の状態に応じて変動している.RGG:Arg-Gly-Glyリピート領域,RRM:RNA認識モチーフ,ZF:ジンクフィンガー,PY:Pro-Tyr核局在シグナル配列.

3. O-GlcNAc転移酵素のあいまいな基質認識

ヒトにおいては5000を超える基質タンパク質へのGlcNAc残基の付加は,唯一OGTによって行われる.ogt遺伝子は線虫からヒトまで数多くの多細胞真核生物で高度に保存されており,種間で60~80%以上のアミノ酸配列相同性を示す2).OGTはGT-Bスーパーファミリーの糖転移酵素に属し,構造はテトラトリコペプチドリピート配列(TPR)を含むN末端領域,触媒ドメインを有するC末端領域,スペーサー領域,および核局在シグナルの四つのドメインからなる2).OGTには三つのスプライスバリアントがあり,それぞれのバリアントはTPRの長さが異なる2).nucleocytoplasmic OGTとshort OGTはそれぞれ13.5と2.5リピートのTPRを持ち,どちらも細胞質と核に存在する2).9リピートのTPRを持つmitochondrial OGTは,ミトコンドリア内膜に局在する2).これまでに,プロテオミクス解析により同定されたO-GlcNAc修飾サイトの配列情報や,ペプチドあるいはタンパク質マイクロアレイを用いたハイスループットOGTアッセイなどを利用して,OGTの基質配列特異性の解析が試みられてきたが,特定のコンセンサス配列は存在しないというのが大方の見解である2).そして,OGTの基質特異性と触媒反応の効率は,供与糖ヌクレオチドであるUDP-GlcNAcの濃度,基質へOGTをリクルートする働きを持つアダプタータンパク質との会合,基質タンパク質中の二次構造などの複合的な要因によって調節されていると考えられている2).加えて,TPRがOGTの基質認識に関与していることから,スプライスバリアントによって基質特異性と触媒反応の効率が異なる2)

我々は,先に述べたEWSのO-GlcNAc修飾量解析の際,他のFETタンパク質のO-GlcNAc修飾量についてもEWSと同条件で解析している10).その結果,EWSとは対照的に,FUSとTAF15についてはグリコシル化分子種が検出されなかった10).FETタンパク質は高いドメイン構造相同性を有することが特徴であり8),プロテオミクス解析においてTAF15のO-GlcNAc修飾は同定されていない一方で,FUSは10か所のセリン/トレオニン残基がO-GlcNAc修飾サイトとして同定されているにもかかわらず3, 4),FUSのグリコシル化分子種が検出されなかったことは意外であった.このことから,O-GlcNAc修飾には同一タンパク質における不均質性があることに加え,タンパク質の種類によって修飾量の隔たりが相当大きいと考えられる(図3).最近,Chongらは我々の報告にヒントを得て,FETタンパク質間でO-GlcNAc修飾量あるいは修飾の有無に大きな差異があることに着目し,OGTの基質認識メカニズムに迫っている12).そして,概して基質タンパク質には,OGTの触媒ドメインによって直接認識されるものと,OGTのTPRとの相互作用を介して触媒ドメインによる認識が達成されるものがあると考えられているが,後者の基質タンパク質は実際にTPRとの相互作用を経てO-GlcNAc修飾されることが示されている12).加えて,後者の基質タンパク質のほとんどはintrinsically disordered region(IDR)を有しており,IDRでOGTのTPRと相互作用すること,および個々の基質タンパク質のIDRとTPRとの相互作用の強弱によってO-GlcNAc修飾量および不均質性が左右されることが示唆されている12)O-GlcNAc修飾サイトを予測するプログラムの開発に多大な努力が払われてきたにもかかわらず,今なお修飾サイトを精度高く予測することが不可能な理由は,OGTがこのような基質認識の仕組みを有するからである.多細胞真核生物の発生や生存にO-GlcNAc修飾が必須であることの主たる理由は今なお判然としないが,このように一見あいまいなOGTの基質認識の仕組みとO-GlcNAc修飾の不均質性に解明の糸口があるのかもしれない.

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図3 基質タンパク質ごとに大きく異なるO-GlcNAc修飾分子種の割合

基質タンパク質間のO-GlcNAc修飾分子種割合をイメージ図で示す.O-GlcNAc修飾は,基質タンパク質によって修飾分子種の割合が格段に異なる.Sp1は多くの細胞においてほぼ100%(文献3のデータベースを参照されたい),EWSは90%以上が修飾分子種であるのに対し,FUSの修飾分子種はごく一部である.図中,タンパク質XおよびYは仮の基質タンパク質を指し,修飾分子種はO-GlcNAc修飾数が1以上であることを指す.

4. O-GlcNAc修飾によってタンパク質に付与される特性

一般に,真核細胞のタンパク質の局在,複合体形成,生理活性,代謝などは,同一タンパク質に起こるさまざまな翻訳後修飾の相互関係によって協調的,あるいは排他的に調節されている.特に,O-GlcNAc修飾はセリン/トレオニン残基に起こるので,同じくセリン/トレオニン残基に起こるリン酸化をはじめとして他の翻訳後修飾との相互関係が解析されてきた2)O-GlcNAc修飾と同様,セリン/トレオニンリン酸化も可逆的に行われる動的な修飾であることから,同一タンパク質の同一のセリン/トレオニン残基が競合的にどちらか一方によって修飾される可能性や,近接している複数のセリン/トレオニン残基に起こるO-GlcNAc修飾とリン酸化の間に相互関係が存在する可能性などが考えられる.実際に,修飾サイトマッピングにおいて,多くのO-GlcNAc修飾サイトがリン酸化サイトでもあることが示されている2).そして,細胞のO-GlcNAc修飾レベルを一過性に増加させた際のリン酸化変動に関するプロテオミクス解析によると,O-GlcNAc修飾レベル増加と連動して数百のサイトでリン酸化レベルが増加,または減少する2).これらの知見から,すべてではないけれども少なくとも一部のタンパク質に起こるO-GlcNAc修飾とリン酸化の間には相互関係がみられることがわかる.加えて,リジン残基のメチル化をはじめとして,セリン/トレオニン残基のリン酸化以外の翻訳後修飾についてもO-GlcNAc修飾との相互関係があることを示唆する知見も報告されている2).よって,O-GlcNAc修飾は,他の翻訳後修飾と相互関係を発揮しつつ,細胞が個々のタンパク質の処遇を決める上で判断材料の一つとなる性質をタンパク質に付与していると考えられる.

それでは,O-GlcNAc修飾によって個々のタンパク質にどのような特性が付与されるのか,FETタンパク質の会合体形成に関する解析例を取り上げて考察する.前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration:FTLD)の1サブタイプであるFTLD-FUSは,神経細胞の細胞質においてFETタンパク質が異常封入体を形成することが特徴とされている8).一般に,異常封入体は神経変性疾患の発症,あるいは増悪と密接に関わっていると考えられている.FTLD-FUS患者においてFETタンパク質をコードする遺伝子に変異はみられないので,野生型FETタンパク質が異常封入体を形成しており,異常封入体形成には翻訳後の何らかの制御異常が関与しているようである8).興味深いことに,FTLD-FUSの分子病態として,FETタンパク質のうち,FUSとTAF15は一貫して異常封入体に相当量含まれているのに対し,EWSは微量しか異常封入体に含まれていないケースがほとんどで,なかにはほぼ含まれていないケースもある8).この状況証拠から,FETタンパク質の中でEWSだけが異常封入体に取り込まれにくい性質を有していると考えられ,この性質にO-GlcNAc修飾が密接に関与しているのではないかと推測される.一般に,細胞ストレス依存的に形成される一過性会合体(ストレス顆粒)が,その可逆性を失い病的に変化して異常封入体になると考えられている.ストレス顆粒は,特定の細胞ストレス刺激下で液–液相分離現象を介して形成される一過性の細胞質内構造体であり,その本体はmRNAおよびRNA結合タンパク質等からなる複合体である.そこで,培養細胞におけるストレス顆粒へのFETタンパク質の蓄積を比較解析したところ,FUSとTAF15に比べ,EWSは明らかに蓄積しにくいことがわかった13).したがって,EWSはストレス顆粒に移行しにくい性質を有しており,O-GlcNAc修飾によってその性質が付与されている可能性が考えられた.これと関連してNosellaらは,in vitroにおけるEWSの液–液相分離現象を解析し,O-GlcNAc修飾にはEWSの流動性を高め,液–液相分離傾向を低下させる作用があることを示した11).そして,我々は大半のO-GlcNAc修飾サイトを変異させたEWSの解析から,EWSがストレス顆粒へ移行しにくい性質はO-GlcNAc修飾によってもたらされていることを細胞レベルで示した13).このように,グリコシル化分子種の割合が相当高いEWSのようなタンパク質には,O-GlcNAc修飾によっておそらくは親水性が高められることにより,液-液相分離現象を起こしにくい流動性が付与されるのだろう(図4).

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図4 O-GlcNAc修飾による基質タンパク質への流動性の付与と生理活性

EWSを例に,O-GlcNAc修飾によって基質タンパク質の流動性が高められるモデルを示す.図中,液滴は,ストレス顆粒のような一過性の分子会合体を表している.O-GlcNAc修飾分子種は液滴に取り込まれることなく,固有の生理活性を発揮できると考えられる.

それに加え,O-GlcNAc修飾によって付与されるこのような物理化学的特性を基盤として,修飾されたタンパク質の生理活性が発揮されると考えられる.例として,我々は以前,3T3-L1細胞が成熟脂肪細胞に分化する過程でEWSのO-GlcNAc修飾量が増加し,これに相関してEWSの局在が細胞質から核へ変化することを報告している14).おそらく,O-GlcNAc修飾量の調節によりEWSの細胞内局在,および成熟脂肪細胞への分化に関わる転写が制御されると考えられる.また,ユーイング肉腫においてEWS遺伝子は染色体相互転座によりETS遺伝子ファミリーに属するFLI1ERGなどと部分融合し,代表的ながん遺伝子産物EWS-FLI1やEWS-ERGを生じる.これらの融合遺伝子産物は異常な転写因子として働くことでがん化を引き起こしていると考えられ,EWS-FLI1の転写活性調節にはEWS由来のlow-complexity領域に起こるO-GlcNAc修飾が密接に関与することが示唆されている15).我々は最近,培養細胞で発現させたEWS-FLI1に加えEWS-ERGについても,野生型EWSと同様にグリコシル化分子種の割合が相当高いことを見いだしている(Hamaguchi, R. & Kamemura, K. unpublished results).今後,EWS-FLI1やEWS-ERGの局在や転写活性などに注目し,O-GlcNAc修飾によってこれらのがん遺伝子産物に付与される細胞レベルの特性に迫りたいと考えている.

5. おわりに

O-GlcNAc修飾は全組織の細胞にみられ,多種多様なタンパク質が基質になることから,がん,2型糖尿病,および神経変性疾患などのさまざまな疾患発症との関係が検証されてきた2).そして,O-GlcNAc修飾を制御することによる新たな治療法の開発が試みられている2).それらの試みのほとんどは,OGTあるいはO-GlcNAcaseを標的とした方法であるので,ある特定の基質タンパク質に起こるO-GlcNAc修飾のみならず,すべての基質タンパク質に作用を及ぼしてしまうことから起こりうる予期せぬ副作用が懸念される.本稿で述べたように,O-GlcNAc修飾は可逆的に起こる動的な修飾であることから,個々の基質タンパク質にどの程度のレベルで,また,どの程度の半減期や頻度でO-GlcNAc修飾が起こっているかについて,統一的に解釈することは現時点では難しい.ゆえに,今後は治療法の開発とともに,これらの点に留意して個々の基質タンパク質に起こるO-GlcNAc修飾の特性を分類するデータを蓄積してデータベースを拡充していくことが肝要であろう.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

亀村 和生(かめむら かずお)

長浜バイオ大学バイオサイエンス学部 教授.博士(学術).

略歴

1991年滋賀大教育学部卒業.96年三重大大学院生物資源学研究科博士課程修了.ERATO(相模中研),ジョンズホプキンス大,理研の研究員を経て,2005年長浜バイオ大講師,12年同准教授,21年より現職.

研究テーマと抱負

糖修飾をはじめ,翻訳後修飾の働きと修飾反応の調節メカニズムに注目して,難治疾患発症に関与するタンパク質の生理・病理的機能変化の仕組みを追究することをテーマにしています.

ウェブサイト

https://www.nagahama-i-bio.ac.jp

趣味

ミステリー読書.

濱口 竜摩(はまぐち りゅうま)

長浜バイオ大学大学院バイオサイエンス研究科博士前期課程2年.学士(バイオサイエンス).

略歴

2000年三重県に生る.2023年長浜バイオ大学バイオサイエンス学部卒業,現在に至る.

研究テーマと抱負

ユーイング肉腫の原因タンパク質と考えられるEWS-FLI1およびEWS-ERGの細胞生物学的研究.EWS-FLI1およびEWS-ERGに起こるO-GlcNAc修飾の機能を追究しています.

ウェブサイト

https://www.nagahama-i-bio.ac.jp

趣味

音楽・YouTube鑑賞,バスケットボール.

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