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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 96(2): 215-221 (2024)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2024.960215

特集Special Review

臓器移植における糖鎖抗原に対するB細胞応答B cell responses to carbohydrate antigens in organ transplantation

広島大学大学院医系科学研究科消化器・移植外科学Department of Gastroenterological and Transplant Surgery, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University ◇ 〒734–8551 広島市南区霞1–2–3 ◇ 1–2–3 Kasumi, Minami-ku, Hiroshima 734–8551, Japan

発行日:2024年4月25日Published: April 25, 2024
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臓器移植は,臓器不全に対する唯一の根治療法であるが,ドナー不足が常態化している.その緩和手段としてABO血液型不適合移植が行われている.また,ドナー不足の根本的解決の手段として,動物の臓器を用いた異種移植の実用化に向けて,研究が進められてきた.これらの手段に共通した障壁となるのが,糖鎖抗原に対する抗体関連拒絶反応である.我々は,血液型糖鎖が難治性拒絶反応の標的となるメカニズムや,異種糖鎖抗原に対する抗体性拒絶反応に既存の免疫抑制薬が効かないメカニズムを解明した.さらに,BTK阻害薬やHDAC阻害薬が,きわめて効果的に糖鎖を標的とする難治性拒絶反応を回避しうることを見いだした.これらは,本来,抗がん剤として開発された薬剤に新たな薬効を見いだしたもので,すでにヒトでの安全性や体内動態が確認されており,ドラッグリポジショニングとして臨床応用に高い期待が持たれる.

1. はじめに

ABO血液型糖鎖抗原は,血液だけでなく臓器の脈管内皮細胞にも発現している.そのため,血液型の異なるドナーの臓器を移植すると強い抗体性拒絶反応を高率に惹起する.欧米に比べて脳死ドナーからの臓器移植が極端に少なく,生体ドナーからの臓器移植に比重がかかるわが国において,ABO不適合移植が余儀なくされる場合が少なくなかった.臨床的ニーズから発せられた応用免疫学研究を経て,血液型糖鎖抗原を標的とする免疫反応機構が解明され,現在では,血液型不適合での腎臓移植や肝臓移植成績は,適合移植に匹敵するまでに改善した.

また,臓器移植ドナー不足の究極的解決策としてブタを用いた異種移植に期待がかかる.ブタ–ヒト間の異種移植ではGalα1,3Galβ1,4GlcNAc(α-Gal抗原)が標的となり抗原抗体反応により移植臓器が廃絶される.A, B血液型抗原とα-Gal抗原は,いずれも三糖抗原を標的にする抗原・抗体反応が惹起され(図1),移植された臓器の傷害が生じるが,そのメカニズムには似て非なる部分も含まれる.

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図1 血液型糖鎖およびα-Gal糖鎖構造

血液型の違いは,赤血球表面などから出ている糖鎖の構造の違いで分類される.A型,B型の人には,特有の糖転移酵素(glycosyltransferase)が作用してさらなる糖が付加され,末端のtrisaccharideが抗体の標的になる.ブタ臓器を用いた異種移植の際に問題になるα-Gal抗原も同様に三糖が抗体の標的になることが知られている.これらの糖鎖抗原に抗体が結合した後の組織障害のメカニズムはよく解明されているが,抗体そのものが作られるメカニズムに関しては,未解明な部分が多かった.

本稿では,血液型糖鎖および異種糖鎖抗原に反応するB細胞の同定と糖鎖抗原に対する拒絶反応の特異的な制御法の確立を目指した我々の研究を紹介する.

2. B-1細胞とB-2細胞の分化機構

抗体性応答を担うB細胞は,B-1細胞とB-2細胞の2亜群が存在し,それぞれの細胞は分化様式も機能も異なる.一般に,B-1細胞は自然免疫応答の一部としての抗体産生を,B-2細胞は獲得免疫応答としての抗体産生をつかさどると考えられている.B-2細胞は,骨髄の血液前駆細胞から分化し,成熟した末梢中のB-2細胞は抗原に曝露し,ヘルパーT細胞からのシグナルを受けて濾胞(follicular)B細胞へと分化し,形質細胞への分化を来す.臓器移植における,組織適合性抗原由来のペプチド抗体関連拒絶反応を担うのが,このタイプのB細胞応答である.このようなB-2細胞の分化は出生後に発生するが,B-1細胞の分化は胎生期より起こる.出生後のB-1細胞の分化機構には,二つのモデルが提唱されている1).Lineageモデルでは,B-1細胞の前駆細胞はB-2細胞の前駆細胞とは異なり,胎生期より存在する前駆細胞から生後も分化し続けるというものである.もう一つはSelectionモデルで,曝露する抗原種の違いによって,共通の骨髄由来前駆細胞からB-1細胞に分化するかB-2細胞に分化するか,分化の方向性が決定されるというものである.どちらのモデルにせよ,B-1細胞は,自然免疫様に迅速な応答を示し,T細胞非依存性の抗原応答をつかさどると考えられている.B-1細胞は,B-1a細胞(IgMhigh CD11bCD5)とB-1b細胞(IgMhigh CD11bCD5)に細分されるが,両者のB細胞受容体のレパートリーの違いが報告されている2)

3. 同種異系(アロ)臓器移植後の抗体産生機構

アロ臓器移植におけるB細胞性免疫応答にはT細胞依存性と非依存性に分類できる(図2).移植臓器(グラフト)を構築する細胞に表出するタンパク質抗原に対してはT細胞依存性のB細胞応答が,糖鎖抗原に対してはT細胞非依存性のB細胞応答が作動すると考えられている.

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図2 T細胞依存性・非依存性抗体関連拒絶機構

(A) CD4 T細胞は抗原提示細胞(APC)に表出したドナー由来のペプチド抗原を認識し,活性化する.一方でB細胞も,APCに表出したドナー由来のペプチド抗原を認識する.抗原提示細胞とT細胞,B細胞間での副刺激分子(CD40-40L)およびサイトカイン(IL-4, 5,6)を介したコミュニュケーションにより,B細胞は抗体産生細胞へと分化する.(B)血液型抗原などの糖鎖に反応するB細胞はT細胞非依存性に活性化する.連続する糖鎖抗原がB細胞受容体を架橋すると,iNKT細胞からのIL-5の刺激を得て,活発な抗体産生が誘導される.

アロ臓器移植後にグラフトからこぼれ出た組織適合性抗原由来のタンパク質抗原は,二次リンパ組織(secondary lymphoid organ)に到達する.HLA抗原などのタンパク質抗原は二次リンパ組織で,樹状細胞などの抗原提示細胞に貪食される.そしてナイーブT細胞,B細胞が,濾胞(follicular)領域で抗原提示を受けて活性化する(図2A).速やかにB細胞は分裂し,short-lived plasma cellへと分化し,末梢へ遊離してIgMと限定されたサブクラスのIgGが産生される.あるいは,活性化したB細胞が胚中心(germinal center:GC)に移行し,T細胞と密接なシグナル交換を重ね,体細胞高頻度突然変異とイムノグロブリンクラススイッチを起こし,一部はメモリーB細胞となる(GC依存性B細胞).その際,より親和性の高い抗体を産生する細胞へと分化する能力を獲得する(affinity maturation).そして,末梢へ流れ出たメモリーB細胞は,グラフト(移植肝)にたどり着き,ここで再び抗原曝露を受け,異所性のGCを形成して速やかに形質細胞へと分化する.すなわち,肝グラフトは三次リンパ組織としての役割を担うことになる(intra-graft tertiary lymphoid organ).この過程で,長寿命を獲得したメモリーB細胞と形質細胞は骨髄ニッチにホーミングして,長期間にわたって抗体を産出し続けると考えられている.

一方,細胞表面に隣接して発現する同一の糖鎖抗原がB細胞受容体(BCR)を架橋すると,T細胞からの刺激を要せず,活発な抗体産生が誘導されると考えられている(図2B).糖鎖抗原に応答して抗体産生を担うのがB-1細胞であり,B-1細胞は通常のB細胞(B-2細胞)と異なる起源,特異性,組織局在を持つユニークな細胞集団である.B-1細胞は,自己抗体産生細胞として自己免疫疾患に関与することも知られ,B-2細胞に比べ強い細胞走化活性や抗原提示能などの特徴を有する.我々は,B-1細胞の亜群であるCD11bCD5 B-1a細胞が血液型A糖鎖抗原(GalNAcα1–3(Fucα1–2)Gal-R)に応答することを報告した3, 4).BCR刺激によるB-1a細胞への分化は,カルシニューリン抑制薬(CNI,シクロスポリンとタクロリムス)により著明に抑制されるが,すでに活性化したB-1a細胞や抗体産生細胞はCNIに抵抗性を示す.すなわち,成熟B-1a細胞と抗体産生細胞を一時的に排除できれば,以後はCNIの投与によって血液型不適合移植における抗体性拒絶反応を制御しうると考えられる.B-1a細胞もB-2細胞もともにCD20分子を発現する.一方,抗体産生形質細胞はCD20分子の表出を欠く.したがって,抗CD20抗体(リツキシマブ)は,成熟B-1a細胞を一時的に除去するが,抗体産生細胞には無効であると考えられる.さらに,抗体産生はミコフェノール酸モフェチル(mycophenolate mofetil:MMF)の投与で抑制されることが知られている.現在,CNI,リツキシマブ,MMFの三剤併用によりABO血液型不適合腎移植の成績は非常に良好であるが,以上の知見はこの臨床病態を説明しうる.すなわち,CNIによるB-1a細胞への分化抑制,リツキシマブによる成熟B-1a細胞の除去,MMFによる抗体産生細胞の抗体産生抑制,これら三つの免疫抑制作用で糖鎖抗原に対するB-1a細胞の応答を効果的に阻害したことがABO血液型不適合腎移植の成功率上昇につながったと推察される.

また,B-1a細胞の活性化にはBCR刺激に加えて,iNKT(インバリアントナチュラルキラーT)細胞が関与する.iNKT細胞に発現するTCRは,CD1dに提示された糖鎖抗原を認識する特徴がある.B-1a細胞はCD1d-invariant T細胞受容体(iTCR)を介してiNKT細胞を活性化し,iNKT細胞由来のIL-5の刺激を受け活性化することを証明した(図2B5, 6).抗CD1d抗体は,iNKT-B-1a細胞間コミュニケーションを遮断することで抗体産生を完全に抑制できるため,血液型抗体産生制御の新規の免疫抑制薬としての可能性がある.

4. 血液型不適合肝移植後は糖鎖抗原を認識するB細胞が寛容化される

肝臓は免疫寛容獲得に関わる臓器として知られる.我々はマウスを用い,肝臓の構築細胞を分離精製してそれぞれの免疫原性を解析した.その結果,非実質細胞群から抽出した類洞内皮細胞が寛容誘導特性を有することが明らかとなった7, 8).類洞内皮細胞の表現型を解析すると,MHCクラスII,共刺激分子(CB80とCD86),細胞死誘導分子(FasL, PDL-1)を発現していた.ドナーマウス(BALB/c)の肝臓構築細胞をスティミュレーターに,レシピエントマウス(B6)の脾リンパ球をレスポンダーに用いたリンパ球混合試験によって,アロ反応性T細胞の増殖指数と存在比率を解析したところ,類洞内皮細胞がT細胞性アロ応答を抑制していることが判明した.

また,幼少期にA-to-O血液型不適合肝移植を受け経過良好な患者では,A抗原に対するB細胞性免疫寛容が成立していることを我々は報告した9).肝臓内では,類洞内皮細胞に血液型抗原が高発現することを確認したが,類洞内皮細胞に発現した抗原を認識したB細胞も,T細胞と類似のメカニズムによって寛容化する可能性を解析した.マウスの肝臓内では,血液型糖鎖抗原と構造が類似したα-Gal抗原が類洞内皮細胞に高表出する.Gal抗原が欠落したα1,3-ガラクトース転移酵素遺伝子欠損マウス(Galノックアウトマウス)の門脈内に,α-Gal抗原を表出する野生型マウスの類洞内皮細胞を移入すると,抗α-Gal抗原反応性B細胞が寛容化した.すなわち,糖鎖応答B細胞は,類洞内皮細胞に表出する抗原に慢性曝露すると寛容化する可能性が示唆され,肝移植後維持期ではB細胞性の免疫寛容が誘導される10)図3).このことから,移植後の初期には,上記の三剤でB細胞の免疫応答をブロックし拒絶反応を抑えておけば,時間経過に伴って免疫寛容が成立していくため,免疫抑制薬の減量が可能であり,中には中止できる場合もある.

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図3 肝類洞内皮細胞は,糖鎖抗原B細胞を抑制する

血液型糖鎖抗原に類似したα-Gal抗原を欠くマウスを使用し,ABO不適合肝移植後の血液型抗原反応性B細胞の寛容誘導における肝類洞内皮細胞の役割を解明した.(A)野生型B6マウスからα1,3-ガラクトース転移酵素遺伝子ノックアウト(GalT−/−)B6マウス(α-Gal抗原が欠落)へ類洞内皮細胞を養子移入し,GalT+/+→GalT−/−類洞内皮キメラマウスを作製した.キメラマウス肝臓の免疫染色像(緑色:α-Gal抗原特異的に結合するIB4, 赤色:類洞内皮細胞と特異的に結合する抗CD105抗体).(B)キメラマウスは抗α-Gal抗原に対する抗体を産生する能力を失った.抗α-Gal抗原に対する抗体産生細胞をELISPOT assayを用いて検出した.(C)この結果は,肝類洞内皮細胞が類洞を循環する未成熟なB細胞の寛容化に関与していることを示唆している(文献10より引用).

5. 異種臓器移植後の抗体産生機構

前出のα1,3-ガラクトース転移酵素遺伝子は,霊長類では進化過程において不活性化されている.そのため,α-Galエピトープ(Galα1-3Galβ1-4GlcNAc-R)はブタおよびその他の哺乳類では発現しているが,ヒトでは発現していない.ヒトに存在する抗α-Gal抗体(自然抗体)とブタ移植片細胞表面に大量に発現しているα-Gal抗原とが認識/反応することが異種移植片生着の大きな障壁になる.この問題は,Galノックアウトブタ(α1,3-ガラクトース転移酵素遺伝子ノックアウトブタ)の誕生により解決されたが,non-Gal糖鎖抗原(α-Gal以外の糖鎖抗原)により依然として難治性の抗体関連拒絶反応は起こる.non-Gal糖鎖には,N-グリコリルノイラミン酸(NeuGc)を含む糖鎖などが含まれる.N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)とNeuGcは,哺乳類に存在する二つの主要なシアル酸である.ヒトは活性のあるCMP-NeuAc水酸化酵素を持たないため,正常組織ではNeuGcは検出されない.そのためヒトはNeuGcを異質なものと認識し,ブタなどからの異種移植などの抗体関連拒絶反応の一因となる4, 5).我々は,GalノックアウトマウスやCMP-NeuAc水酸化酵素ノックアウトマウスを用い,α-GalやNeuGcに応答するB細胞の活性化機構を解析した.その結果,これらの主要異種糖鎖抗原に応答するのはCD11bCD5- B-1b細胞であり,CD11bCD5 B-1a細胞とは異なる活性化・分化機構を持つことが明らかとなった11–13).すなわち,α-GalやNeuGcがB細胞上のトル様受容体(Toll-like receptor:TLR)を介してシグナルを入力すると,B-1b細胞への分化が促進され,CNIによる分化抑制効果(B細胞活性化抑制効果)が消失することを発見した14).TLRとBCRのクロストークが異種糖鎖応答B細胞に及ぼす意義を探るため,MyD88およびTRIF欠損マウスを用いて,異種糖鎖抗原曝露時のB細胞の表現型と機能特性を解析したところ,BCR刺激のみではCD5high B-1a細胞への分化が誘導され,CNIに高い感受性を示したが,TLRとBCRの共刺激では,MyD88依存的にCD5dim B-1b細胞(dim:弱陽性)への分化を誘導し,CNI抵抗性であった.B-1b細胞におけるMyD88依存的なTLR刺激は,活性化T細胞核因子(NFATc1)を含むBCR-カルシニューリン経路の下流因子を増強させた.すなわち,アロ移植では抗体産生抑制に有効であるCNIの効果が,異種移植では得られないことが明らかとなった(図4).そこでTLR阻害薬とCNIを併用すると,B-1b細胞からの抗体産生が抑制された.そして,本来,抗がん剤として開発されたBTK阻害薬(ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬)やHDAC阻害薬(ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬)が,B細胞受容体とTLRからの細胞刺激を同時に抑制し,異種移植の抗体関連拒絶反応を予防できる可能性を証明した(図5).

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図4 B細胞受容体とトル様受容体の両方を遮断すると,異種糖鎖抗原に対するB細胞免疫応答が抑制される機序

異種ドナーの細胞上の抗原(α-Gal)がB細胞受容体(BCR)と接触するのと同時に異種抗原がトル様受容体(TLR)に接触すると,MyD88シグナルが伝達されてB細胞が活性化し,抗α-Gal抗体が産生されて拒絶反応が起こる.MyD88シグナルは,カルシニューリン活性の下流で機能する因子であるNFATc1を活性化するため,カルシニューリン阻害薬が効かないことが解明された.BTK阻害薬(ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬)とHDAC阻害薬(ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬)が,BCRとTLRからの細胞刺激を同時に抑制し,異種移植の拒絶反応を完全に予防できる(文献14より引用).

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図5 Enzyme-Linked Immunospot(ELISpot)法による抗α-Gal抗体産生B細胞の可視化

一つの黒い点は,抗体を産生している1個のB細胞を示す.BTK阻害薬とHDAC阻害薬によるBCR経路とTLR-MyD88経路の複合阻害は,難治性の抗Gal抗体産生を消失させた.Galノックアウトマウスに,ウサギ赤血球を1週間間隔で2回免疫した.各薬剤は,最初の免疫の1週間前から最後の免疫の1週間後まで,3週間連続で毎日腹腔内投与した[CsA(シクロスポリンA):10 mg/[kg-day], BTK阻害薬(イブルチニブ):20 mg/[kg-day], HDAC阻害薬(パノビノスタット):1 mg/[kg-day];n=4/群]. 最後の免疫から7日後のマウス脾細胞における抗α-Gal抗体産生細胞をELISpotアッセイで検出した(文献14より引用).

6. 肝細胞がん患者におけるバイオマーカーとしての異好糖鎖抗原NeuGc

最近,異好糖鎖NeuGc抗原が肺がん,乳がん,結腸がん,黒色腫,網膜芽細胞腫,肝細胞がんの患者に発現していることが発見された.我々は,肝細胞がん(hepatocellular carcinoma:HCC)の予後を予測するためのNeuGc発現および抗NeuGc抗体の腫瘍学的意義を解析した.すなわち,肝切除組織におけるNeuGc抗原の発現と血清中の抗NeuGc抗体力価がHCCの予後に影響を及ぼすかどうかを,肝切除初回患者と再発患者に分けて解析した.その結果,HCC組織におけるNeuGc抗原の陽性発現および術前の血清抗NeuGc抗体の高力価が,早期再発および予後の予測因子となりうることが示された15).また,血清中の抗NeuGc IgGサブクラス解析から,興味深い結果を得た.ヒトIgGは四つのサブクラスに分類される.IgG1とIgG3は,ともにFcγRに高親和性で結合し,高いオプソニン活性[antibody-dependent cellular cytotoxicity(ADCC),complement-dependent cytotoxicity(CDC)]を示す.IgG4はFcγRに対して高親和性であるが,Fcを介したエフェクター機能の誘導には乏しい.IgG2はすべてのFcγRに対して低親和性である.健常ボランティアの血清抗NeuGc IgGのサブクラスは主にIgG2であったが,HCC患者ではIgG1が有意に増加していた.再発HCC患者では,再発のない症例よりもIgG2サブクラスに有意に偏重していた.抗NeuGc抗体のサブクラスとHCC再発との関連の解明には,さらなる研究を要する.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

大段 秀樹(おおだん ひでき)

広島大学大学院医系科学研究科消化器・移植外科学 教授.博士(医学).

略歴

1962年広島県生まれ.88年広島大学医学部卒業後,広島大学第2外科学(現,消化器・移植外科学)に入局.97年に広島大学大学院を卒業後,2000年までハーバード大学に留学.08年より広島大学医学部消化器・移植外科学の教授(現職).19年より広島大学副学長.

研究テーマと抱負

臓器移植(肝移植と腎移植)医療成績の向上を目指した基礎的研究と臨床研究に取り組んでいます.また,消化器癌に対する抗腫瘍免疫応答の回避機構の解明と制御法の開発研究を行っています.

ウェブサイト

https://home2ge.hiroshima-u.ac.jp/

趣味

広島東洋カープの戦績に一喜一憂すること.たまにするテニス.

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