Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 96(2): 273-276 (2024)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2024.960273

みにれびゅうMini Review

血管内皮細胞の起源と多様性The origin and diversity of vascular endothelial cells

国立循環器病研究センター研究所細胞生物学部Department of Cell Biology, National Cerebral and Cardiovascular Center, Research Institute ◇ 〒564–8565 大阪府吹田市岸部新町6–1 ◇ 6–1 Kishibe-Shimmachi, Suita, Osaka 564–8565, Japan

発行日:2024年4月25日Published: April 25, 2024
HTMLPDFEPUB3

1. はじめに

1)中胚葉から発生する循環器

個体発生時の臓器形成では,細胞増殖と分化に必要なエネルギーとしての栄養分や酸素は,開放系による拡散,あるいは閉鎖循環系による循環によって輸送される.後者では,循環を成立させるための臓器として,心臓・血管・血球がある.ポンプとしての心臓,導管としての血管,酸素を運搬する赤血球に加え,免疫系細胞である白血球がそれぞれ機能する.これらの臓器が,他の臓器形成に先行して形成されないと,臓器の実質細胞の増殖や分化に必要なエネルギーが供給されないことになる.したがって,循環臓器である心臓・血管・血球が共調的に発生していくことが個体発生にとって不可欠な現象となる.

心臓(心筋細胞,心内膜内皮細胞,冠血管内皮細胞,冠血管平滑筋細胞)は,神経堤由来の平滑筋細胞を除いて,いずれも中胚葉から発生すると考えられている(図1).また,血管(血管内皮細胞,血管平滑筋細胞,周細胞)も中胚葉由来であり,造血幹細胞も中胚葉由来である.血管内皮細胞と造血幹細胞がhemogenic endotheliumに由来することからも,血管内皮細胞と血球が同一起源であることがモデル生物で確認されている1, 2).血管内皮細胞と血球の起源が同一であるという考え方は,両方の細胞に分化するhemangioblastの存在によっても裏づけられてきた3).ゼブラフィッシュでは前側側板中胚葉の前方に心筋細胞前駆細胞が存在し,後方にhemangioblastが配置される4).このように,循環器に分化する細胞群が共通して中胚葉から発生することは,空間的な配置やその機能を果たす上でも合目的である.

Journal of Japanese Biochemical Society 96(2): 273-276 (2024)

図1 循環臓器の起源

循環臓器が中胚葉由来であることがこれまでの定説であるが,今回内胚葉細胞が血管内皮細胞に分化すること(赤点線矢印)を見いだした.三胚葉間の調節(双方向性点線矢印)と中胚葉から心臓,血管,血球への分化経路を示す.側板中胚葉の一部が血管内皮細胞と血球に分化するもととなるhemangioblast, さらにhemogenic endotheliumとなる.Tg(プロモーター:蛍光タンパク質)は,それぞれ心筋,内皮細胞,造血幹細胞を可視化するトランスジェニックフィッシュである.fli1fli-1 proto-oncogenemyl7myosin light chain 7cmybv-myb avian myeloblastosis viral oncogene homolog

2)胚葉間の調節による循環器発生調節

臓器形成前の三胚葉形成においても,それぞれの胚葉間で調節因子が相互作用している(図1).体軸(頭尾軸,背腹軸)形成過程にはbone morphogenetic protein(BMP),Wnt, fibroblast growth factor(FGF)シグナルが作用することで胚葉を形成する細胞が決定される5).これらのシグナルが胚葉間で作用することにより,循環臓器の共調的な発生が調節される.たとえば,Wnt抑制分子のDicckkopf-1は,内胚葉において転写因子Hexを誘導して,内胚葉からの分泌因子を介して心臓形成を促進する6).また,転写因子GATA-6は心臓と内胚葉臓器である肝臓で発現しており,心臓ではBMPシグナルとNkx2.5の発現を調節する一方で,肝臓でも心臓形成誘導因子の発現を調節することが報告されている7).外胚葉のGATA-2の増減により古典的Wntシグナルと非古典的Wntシグナルの強弱がコントロールされることで,血球系の分化が規定されることも明らかにされている8).このような胚葉間の相互調節は,胚葉間のシグナル調節によるものだけではなく,各胚葉由来の細胞が共調することによって,循環臓器構築細胞を生み出す機構があることも明らかになってきた.

2. ゼブラフィッシュの血管と血球系の共調的発生

マウスでは,卵黄嚢の血島hemangioblastから内皮細胞の形成と原始造血が始まり,続いてaorta-gonad-mesonephros(AGM)領域のhemogenic endotheliumから内皮細胞と造血幹細胞が発生する.その後,造血の主体は肝臓,胸腺に移動し,最終的には骨髄のニッチ(血管性を含む)で造血幹細胞が維持されながら,酸素運搬,止血,免疫を維持するために持続的に分化した血球を供給する9).ゼブラフィッシュでも同様に,発生初期に尾側のintermediate cell massからAGMに造血の主たる部位が移動し,さらに発生期特有の造血幹細胞ニッチであるcaudal hematopoietic tissue(CHT)を形成した後に,胸腺,腎臓で造血が維持される.ゼブラフィッシュのcloche変異体は血管と血球が形成されない変異体であり,その原因遺伝子が転写因子neuronal PAS-domain protein 4 likenpas4l)であることが同定され,起源の同一性について矛盾しないことが示されている10)

ゼブラフィッシュでは,体幹の主たる血管として背側大動脈と後主静脈が形成され,これらが分枝し結合することで,血球系の循環が心臓の拍動とともに始まる.さらに,心臓の流入部と流出部の血管の結合が循環システムの形成にとって不可欠である.生体で血管内皮細胞,心筋細胞,造血幹細胞の特異的プロモーターを用いたトランスジェニック個体Tgfli1:FP),Tgmyl7:FP),Tgcmyb:FP)(FPはfluorescent protein)を用いて血管形成,心臓形成,血球形成を同時に可視化し,さらに側板中胚葉細胞を可視化できるdraculindrl)のレポーターTgdrl:FP)を異なるFPでラベルすることで,細胞の系譜を発生初期からイメージングし,それぞれの前駆細胞が中胚葉由来であることが確認可能である.実際に,中胚葉のマーカーと心臓,血管,血球細胞レポーターマーカーが,共通して発現した.

3. 内胚葉由来の静脈血管内皮細胞による造血幹細胞ニッチ(CHT)の形成

我々は,心臓血管発生を研究する過程で,心臓の流入路心筋細胞を検出するIslet-1(Isl-1)陽性細胞が造血幹細胞ニッチであるCHTに集積することを偶然に見つけた11).CHTは,尾側において後主静脈の背側に位置する静脈内皮細胞の集合であり,この静脈系の内皮細胞の最腹側のWnt陽性静脈内皮細胞が腹側静脈(将来の後主静脈)を形成する細胞群であることを見いだしていた12).血管内皮細胞と同時にIsl-1陽性細胞の系譜追跡を行ったところ,背側大動脈と後主静脈に挟まれる部位の静脈内皮細胞の多くがIsl-1陽性静脈内皮細胞であることがわかった(図213).Isl-1陽性細胞はdraculin陽性細胞とは排他的であることから,Isl-1陽性細胞が側板中胚葉由来でないことがわかった.

Journal of Japanese Biochemical Society 96(2): 273-276 (2024)

図2 内胚葉由来Isl-1陽性細胞によるcaudal hematopoietic tissue(CHT)内の静脈ニッチ形成

ゼブラフィッシュの尾側ではCaudal artery(背側大動脈)とCaudal vein(後主静脈)に挟まれる部位に発生の一時期だけ造血幹細胞を認めるCHTが形成される.造血幹細胞ニッチ形成静脈内皮細胞が,内胚葉由来Isl-1陽性となった原内皮細胞に由来することを示す(赤矢印と赤字).原内皮細胞はNpas4lとEtv2陽性の内皮細胞前駆細胞に分化し,さらに成熟静脈内皮細胞となり,ニッチを形成する.

Isl-1陽性細胞が,内胚葉由来である可能性を検討するために,内胚葉誘導因子であるSox32をモルフォリノアンチセンスオリゴでノックダウンした胚を用いてIsl-1陽性細胞とCHTの静脈内皮細胞を調べたところ,内胚葉の欠失に伴って両者ともほとんど検出されなかったことから,Isl-1陽性細胞とそれに由来する静脈内皮細胞が内胚葉由来であることが強く示唆された.さらに生体イメージングによる系譜解析から,内胚葉由来のIsl-1陽性細胞はNpas4l陽性となり,さらにE-twenty six(ETS)factor Ets variant 2(Etv2)陽性の血管内皮前駆細胞となってから,最終的にCHTを形成する静脈内皮細胞へと分化することも確認した.マウスでは肝臓の内皮細胞が一部内胚葉由来である可能性も報告されているが,論文で使用されているFOXA2が内胚葉マーカーとは限らないことから,これらの内皮細胞の由来が内胚葉であることは確定的ではない.我々の系譜追跡イメージング結果は,CHTでは,Isl-1陽性となった静脈内皮細胞がcMyb陽性の造血幹細胞の血管性ニッチとして機能することを解剖学的な位置関係からも示唆している.

4. 内胚葉由来の静脈血管内皮細胞のニッチとしての役割

ゼブラフィッシュ胚の尾側では,大動脈のすぐ腹側の静脈内皮細胞集団が網状に出現し,最終的に管腔構造を持つ後主静脈と明確な管を持たないCHTニッチを形成する.この過程でIsl-1由来の静脈内皮細胞が,CHTにおける造血幹細胞のニッチとして実際に機能するのかを検討した.Isl-1陽性となった血管内皮細胞をニトロレダクターゼの発現により除去するとcMyb陽性の造血幹細胞数が激減したことから,ニッチとしてこの細胞集団が重要であることがわかった.また,タイムラプスイメージングでは,cMyb陽性細胞がIsl-1陽性の静脈内皮細胞の間を行き来することが観察できたことから,両細胞間での接触依存性の情報交換の場,つまりニッチとしてCHTを形成していることが示唆された.また,このCHTを形成するIsl-1陽性細胞のほとんどは,CHTが消失するとともに細胞死を起こし,血管内皮細胞として血管にはほとんど残らないことも明らかとなった.

CHTの静脈内皮細胞の遺伝子発現をsingle cell RNA sequence(scRNA-seq)で調べたところ,静脈内皮細胞が複数のクラスターには分けられたものの,Isl-1陽性(内胚葉由来)静脈内皮細胞集団とIsl-1陽性ではない(中胚葉由来)CHTの静脈内皮細胞集団は,異なるクラスターとして分離されることはなかった.つまり,両者は収束的分化によってCHTの内皮細胞として特定の機能を果たすための内皮細胞となっていた.ただ,起源の相違により起源由来の転写プロファイルが反映されることもあることが判明した.つまり,同じCHTでも内皮細胞が単一の静脈内皮というくくりになるのではなく,解剖学的な位置と機能,さらには由来の違いにより,多様性がある細胞集団となっていた.

5. おわりに

本稿では,従来考えられてきた血管内皮細胞の由来が中胚葉だけではなく,内胚葉由来でもあることを示すとともに,この細胞群が,造血幹細胞ニッチとして発生の一時期に特殊な血管内皮細胞を構成し,静脈内皮細胞の多様性を生み出す要因となることを報告した.一方で,時期的な多様性のみならず,臓器ごとの血管内皮細胞の特異性が異なるという血管内皮細胞の多様性も報告されており,細胞のグループ化による多様性はscRNA-seq解析によりさらに顕著となるであろう14).しかし,本来の血管内皮細胞としての機能は,血管内腔と実質細胞の間で分子・物質の交換を果たすことであり,この点では最大限の機能化として多様性が生じるのは納得できる.

謝辞Acknowledgments

本稿は,国立循環器病研究センター研究所細胞生物学部の研究員の意見と過去の論文の結果と直接の意見をいただいてまとめたものであり,関係各位に深く感謝申し上げます.

引用文献References

1) Bertrand, J.Y., Chi, N.C., Santoso, B., Teng, S., Stainier, D.Y., & Traver, D. (2010) Haematopoietic stem cells derive directly from aortic endothelium during development. Nature, 464, 108–111.

2) Boisset, J.C., van Cappellen, W., Andrieu-Soler, C., Galjart, N., Dzierzak, E., & Robin, C. (2010) In vivo imaging of haematopoietic cells emerging from the mouse aortic endothelium. Nature, 464, 116–120.

3) Ema, M. & Rossant, J. (2003) Cell fate decisions in early blood vessel formation. Trends Cardiovasc. Med., 13, 254–259.

4) Peterkin, T., Gibson, A., & Patient, R. (2009) Common genetic control of haemangioblast and cardiac development in zebrafish. Development, 136, 1465–1474.

5) Schier, A.F. & Talbot, W.S. (2005) Molecular genetics of axis formation in zebrafish. Annu. Rev. Genet., 39, 561–613.

6) Foley, A.C. & Mercola, M. (2005) Heart induction by Wnt antagonists depends on the homeodomain transcription factor Hex. Genes Dev., 19, 387–396.

7) Peterkin, T., Gibson, A., & Patient, R. (2003) GATA-6 maintains BMP-4 and Nkx2 expression during cardiomyocyte precursor maturation. EMBO J., 22, 4260–4273.

8) Mimoto, M.S., Kwon, S., Green, Y.S., Goldman, D., & Christian, J.L. (2015) GATA2 regulates Wnt signaling to promote primitive red blood cell fate. Dev. Biol., 407, 1–11.

9) Orkin, S.H. & Zon, L.I. (2008) Hematopoiesis: An evolving paradigm for stem cell biology. Cell, 132, 631–644.

10) Reischauer, S., Stone, O.A., Villasenor, A., Chi, N., Jin, S.W., Martin, M., Lee, M.T., Fukuda, N., Marass, M., Witty, A., et al. (2016) Cloche is a bHLH-PAS transcription factor that drives haemato-vascular specification. Nature, 535, 294–298.

11) Fukui, H., Miyazaki, T., Chow, R.W., Ishikawa, H., Nakajima, H., Vermot, J., & Mochizuki, N. (2018) Hippo signaling determines the number of venous pole cells that originate from the anterior lateral plate mesoderm in zebrafish. eLife, 7, e29106.

12) Kashiwada, T., Fukuhara, S., Terai, K., Tanaka, T., Wakayama, Y., Ando, K., Nakajima, H., Fukui, H., Yuge, S., Saito, Y., et al. (2015) beta-Catenin-dependent transcription is central to Bmp-mediated formation of venous vessels. Development, 142, 497–509.

13) Nakajima, H., Ishikawa, H., Yamamoto, T., Chiba, A., Fukui, H., Sako, K., Fukumoto, M., Mattonet, K., Kwon, H.B., Hui, S.P., et al. (2023) Endoderm-derived islet1-expressing cells differentiate into endothelial cells to function as the vascular HSPC niche in zebrafish. Dev. Cell, 58, 224–238.e7.

14) Kalucka, J., de Rooij, L., Goveia, J., Rohlenova, K., Dumas, S.J., Meta, E., Conchinha, N.V., Taverna, F., Teuwen, L.A., Veys, K., et al. (2020) Single-cell transcriptome atlas of murine endothelial cells. Cell, 180, 764–779.e20.

著者紹介Author Profile

中嶋 洋行(なかじま ひろゆき)

国立循環器病研究センター研究所細胞生物学部 室長.博士(生命科学).

略歴

1978年兵庫県尼崎市生まれ.2001年京都大学理学部卒業.06年同大学院生命科学研究科修了.12年より国立循環器病研究センターに所属し,17年より現職.

研究テーマと抱負

ゼブラフィッシュなどの小型魚類を用いて,生体イメージングをベースにした血管研究を行っています.百聞は一見に如かず,をモットーにまだ誰も見たことのない面白い発見ができればと思っています.

ウェブサイト

https://researchmap.jp/hiroyuki-nakajima

趣味

スポーツ観戦(主に甲子園).

望月 直樹(もちづき なおき)

国立循環器病研究センター研究所細胞生物学部 部長.博士(医学).

略歴

1959年山梨県甲府市出身.84年北海道大学医学部卒業.88年同大学院医学研究科博士課程卒業.2001年から国立循環器病研究センター部長に着任.

研究テーマと抱負

循環臓器の発生期における形態変化と細胞の機能・情報伝達の可視化により臓器・組織形成の分子メカニズムを明らかにしたい.今後は透明魚の成体を用いた生体恒常性を理解したい.

ウェブサイト

https://www.z-cv.jp/renewal/

趣味

読書,テニスとワークアウト.

This page was created on 2024-03-22T10:29:59.255+09:00
This page was last modified on 2024-04-17T08:58:49.000+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。