腸内細菌による硫酸化ムチン糖鎖の新規分解経路の発見と解析
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近年,腸内細菌の多様な糖質資化能が相次いで報告されており,このことは細菌がさまざまな糖質関連酵素を獲得することで消化管の環境に適応してきたことを示唆している1).腸管上皮は粘液層に覆われており,その主成分はMUC2と呼ばれる巨大な糖タンパク質ムチンである.ヒト大腸における粘液層は約1 mmとされており,糖鎖構造の異常な変化等によってムチン粘液層の構造が崩れると,微生物の上皮細胞への接着や侵入を許し,このことが炎症性腸疾患や大腸がんなどの発症に関連するとされている2).一方で,ムチン糖鎖の一部は腸内細菌によって分解利用され,その結果として産生される短鎖脂肪酸等が杯細胞からのムチン産生を促すなど,腸内細菌の存在は粘膜恒常性にとって重要な役割も果たしている3).すなわち,ムチンはヒトと腸内細菌の共生を支える因子の一つであり,腸内細菌によるムチン分解機序の解明と,その知見を基にした腸内環境の制御は,我々の健康維持において重要な課題である.本稿では,腸内細菌によるムチン分解に関する理解の現状と,我々が見いだした硫酸化糖鎖分解に関わるビフィズス菌由来の新規酵素およびその解析結果から推定されたムチン分解様式について概説する.
ムチン分解活性を示す腸内細菌(mucin degrader)は門レベルで広く分布しており,Akkermansia属細菌(Verrucomicrobiota門),Bacteroides属細菌(Bacteroidota門),Clostridium属細菌やRuminococcus属細菌(Bacillota門),さらに本稿で述べるBifidobacterium bifidum(Actinomycetota門)などが知られている.これらmucin degraderは,ムチンに作用可能な糖質加水分解酵素(glycoside hydrolase:GH),プロテアーゼ,およびスルファターゼなどを有しており(図1),中でもAkkermansia muciniphilaはムチン分解に特化した菌(specialist)として知られ,多種類の酵素を用いてムチンを分解利用する4).しかし一般には,ムチン分解酵素のレパートリーは菌種ごとに大きく異なり,mucin degraderが示すムチン分解の程度はさまざまである.ムチンを標的とするGHは,ムチンのO結合型糖鎖(O-glycan)が有する複雑な構造に対応して多数存在し,少なくとも19のGHファミリーにその存在が知られている.最近,ムチン関連GHのホモログが上記のmucin degrader以外にも存在することが報告され5),腸内細菌によるムチン糖鎖分解はこれまで考えられていた以上に腸内エコシステムにおいて重要であると推察される.また,大腸菌O-157株由来ペプチダーゼファミリーM66亜鉛含有メタロプロテアーゼ(StcE)で知られるような,1~6糖程度の比較的短いO-glycanが付加したポリペプチドを特異的に認識して切断するムチン糖タンパク質特異的プロテアーゼも次々と報告されている6).
ムチン分解性腸内細菌が有する糖質加水分解酵素(CAZy GH, http://www.cazy.org/),スルファターゼ(SulfAtlas, https://sulfatlas.sb-roscoff.fr/),およびO-グリコプロテアーゼ(MEROPS, https://www.ebi.ac.uk/merops/)の各ファミリーとその作用部位を示した.図中に示した以外にも,GH98, 109, および110など血液型抗原に作用する酵素もムチン分解に関与する.またコア2構造部分を緑で示した.
ムチン糖鎖はさまざまな修飾を受けるが,特に大腸においては硫酸化が頻繁にみられる.硫酸化ムチン糖鎖の分解にはスルファターゼが関与していることが以前より知られていたが,近年Bacteroides thetaiotaomicron由来酵素の詳細な解析結果が報告された7, 8)
.それによると3位硫酸化ガラクトース(Gal-3S)に作用するスルファターゼファミリーS1_20や6位硫酸化N-アセチルグルコサミン(GlcNAc-6S)に作用するスルファターゼファミリーS1_11が硫酸化糖鎖の分解に関与し,中でもGal-3S特異的酵素がB. thetaiotaomicronの腸管定着に重要とされた.スルファターゼのホモログはmucin degraderに広く保存されており,この事実は硫酸化糖鎖がスルファターゼ依存的に分解されるという従来の考えと合致する.一方,我々はB. bifidumのムチン関連GHについて研究する中で9),本菌がスルファターゼ非依存的に硫酸化糖鎖を分解していることを見いだした.その経路において鍵となるのがスルホグリコシダーゼ(BbhII)である10).以下に本酵素について紹介する.
B. bifidum JCM 1254由来BbhIIは,1060アミノ酸からなる細胞壁アンカー型分泌酵素で,carbohydrate-binding module 32(CBM32)を含むN末端ドメイン,GH20に分類される触媒ドメイン,および機能未知領域を含むC末端ドメインを有する.本酵素は以前にβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼとして報告されていたが11),p-ニトロフェニル-β-N-アセチルグルコサミン(GlcNAc-β-pNP)と比べ,その6位硫酸化体であるGlcNAc-6S-β-pNPに400倍高い触媒効率(kcat/Km:4.6×102 s−1/mM)を示すこと,またブタ胃ムチンからGlcNAc-6Sのみを遊離することから,6-sulfo-β-N-acetylhexosaminidase(スルホグリコシダーゼ)として再定義された12).また,BbhII処理したブタ結腸ムチンのO-glycan解析の結果から,本酵素はムチンコア2構造(図1)中にみられる硫酸化GlcNAc残基[Galβ1-3(6-SO3-GlcNAcβ1-6)GalNAcα-O-Ser/Thr]に作用することが明らかとなった.なお,最近になって新しいファミリーとして報告されたGH185の酵素も同様の活性を示すようである13).
BbhIIはスルホグリコシダーゼとして2例目の報告であったが,当該酵素の生理機能については報告例がなかった.そこで,通常飼育マウスあるいは無菌マウスにB. bifidum野生株を投与したところ,盲腸内容物における遊離GlcNAc-6S量の増加が観察された.B. bifidum bbhII破壊株の単独定着マウスにおいては,遊離GlcNAc-6S量が無菌マウスと同等にまで低下した.次に糞便ムチンのO-glycan解析を行ったところ,bbhII破壊株定着マウス群においては野生型定着マウス群と比べて,硫酸化GlcNAc残基を有するコア2構造の蓄積が観察された.遊離GlcNAc-6Sはヒト乳児糞便や成人糞便中にも検出され,乳児糞便においてはbbhIIコピー数と有意な正相関が観察されたが,成人サンプル中では相関がみられなかった.成人の腸内細菌叢には一般にBacteroides属細菌が多く,それらの細菌は上述したとおりスルファターゼ活性を有する.B. bifidumはスルファターゼ活性を有さないため,おそらく成人腸管内ではB. bifidumとBacteroides属細菌間のムチン分解糖のクロスフィーディングが起きていると推察される.
N末端のシグナル配列とC末端側の一部の領域を除いたBbhIIの結晶構造を1.65 Å分解能で決定した10)(図2A).BbhIIの全体構造はN末端側のβ-サンドイッチフォールドからなるCBM32, (β/α)8バレルフォールドからなるGH20触媒ドメイン,C末端側の機能未知β-サンドイッチドメインの三つの部分で構成されていた.CBM32にはCa2+イオンが結合していた.結晶化時に添加したGlcNAc-6SはGH20触媒ドメインとCBM32の両方に結合していた.活性部位におけるGlcNAc-6Sの認識には多くの水素結合が関わっていたが,意外なことに硫酸基の周囲には塩基性残基は存在せず,Q640, W651,およびE687がその認識に関わっていた(図2B).触媒残基は同じくGH20に属するβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼと同様であり,酸/塩基触媒E553がGlcNAc-6SのO1原子と,反応中間体を安定化させる残基D552がGlcNAc-6SのN-アセチル基の窒素原子とそれぞれ水素結合していた.また,N-アセチル基は糖の下側に折れ曲がっており,そのカルボニル酸素はGlcNAc-6SのC1原子の背面から求核攻撃が可能な位置にあった.なお,N-アセチル基はaromatic cageと呼ばれる三つのトリプトファン残基(W588, W607,およびW685)によって安定化されていた.以上のことは,他のGH20酵素と同様にBbhIIも基質補助型の反応機構に従うことを意味しており,実際に,この機構における反応中間体アナログと推定されるGlcNAc-6Sチアゾリン誘導体はBbhIIを競争阻害した.
(A) BbhII(39-861 aa)の全体構造.(B) GH20活性部位に結合したGlcNAc-6S.(C) CBM32に結合したGlcNAc-6S.図は文献10より引用・改変した.
CBM32に結合したGlcNAc-6Sは,W183によるスタッキング相互作用と多数の水素結合によって認識されていた(図2C).ここでも硫酸基の認識には塩基性残基は直接関わっておらず,N89, N126,およびT127といった残基と水素結合していた.等温滴定カロリメトリーにより測定したGlcNAc-6SのKd値は25 μMであり,他のCBM32に比べると強い結合であった.CBM32としては,これまでキトサンやβ-ガラクトシドへの結合が報告されていたが,硫酸化糖に結合することが示されたのはBbhIIが初めてである.
CBM32変異型BbhII(点変異もしくは欠失変異)を作出してスルホグリコシダーゼ活性に及ぼす影響を調べた10).その結果,本CBMが糖鎖上のGlcNAc-6S残基を捕捉することで巨大タンパク質であるムチンに対する活性を大幅に向上させていることが明らかとなった.なお,CBMの変異はGlcNAc-6S-β-pNPに対する活性にはまったく影響を及ぼさなかった.B. bifidumが有する多くのムチン関連GHはBbhIIと同様にエキソ型で作用する細胞壁アンカー型分泌酵素であり,かつ同じポリペプチド鎖内にCBMを有している.したがって,これらのCBMが協調的に働くことで,B. bifidumによる効率的なムチン糖鎖分解を可能にしていることが推察された.一方,A. muciniphila由来のムチン関連GHではCBM保有率が低い傾向がみられた.そこで,mucin degrader計8種199株のゲノム上におけるムチン関連CBMファミリーとGHファミリーの分布について統計解析を行った.その結果,エンド-β-ガラクトシダーゼをコードするGH16_3酵素の有無がCBM保有率と関連する要因である可能性が示唆された.すなわち,CBMを多く有するB. bifidumにはGH16_3が存在しない一方で,CBMの少ないA. muciniphilaやBacteroides属細菌などはGH16_3を有していた.Clostridium perfringensにおいては,GH16_3保有株でCBM保有率が低く,GH16_3非保有株でCBM保有率が高いという結果が得られた.以上のことから,mucin degraderはCBM依存的分解あるいはCBM非依存的(GH16_3依存的)分解という異なるムチン糖鎖利用戦略を獲得した可能性が示唆された(図3).Ruminococcus gnavusはCBM保有率も低くGH16_3も持たないために,別の経路を有する可能性がある.
B. bifidumは細胞表層に多くのムチン関連CBMを提示して「動かない」ムチンを捕捉し,同ポリペプチド内に存在するGHで効率的にムチン糖鎖から単糖・二糖を遊離する.今回の我々の解析は,プロバイオティクスとして知られるB. bifidumがムチンのポリペプチドを露出させる可能性を示しているが,本菌による糖鎖分解と疾患との関係は寡聞にして聞かない.ムチン分解と疾病との関連性には,糖鎖分解以外の要因が絡むことが推察される.腸内における宿主と細菌の複雑な相互作用を解明するためには,各mucin degraderの持つムチン分解機序についてさらに研究を進めることが必要である.
本研究は多くの共同研究者のご協力のもとに遂行されました.この場をお借りして厚く御礼申し上げます.
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